2021年09月30日

●「中国系を入れるとPISAは変化」(第5582号)

 少し補足しておきたいことがあります。昨日のEJで、世界中
の10代の若者たちの学習到達度を測るテスト「PISA」のベ
スト10をご紹介しました。しかし、そこには、中国や中国に近
い国は入っていません。
 そもそもOECDは「先進国クラブ」といい、欧州諸国、米国
日本などを含む38カ国で構成されています。2020年4月に
コロンビア、2021年5月にコスタリカが加盟していますが、
昨日のEJのデータは37カ国のデータに基づいています。なお
加盟国は毎年少しずつ増えています。
 どうして中国はOECDに入っていないのでしょうか。中国の
GDPが日本を抜いたのは2010年であり、今は日本の3倍近
い規模です。建国当初と比べると、経済規模は実に膨大になって
います。国民の可処分所得は建国時の実に567倍になり、1億
元(約15億円)以上の資産を持つ世帯がおよそ11万に上がり
ます。このように経済は巨大ですが、中国は発展途上国です。先
進国クラブといわれる経済協力開発機構(OECD)の分類では
先進国の一歩手前である「上位中所得国」で、政府開発援助(O
DA)を受け取れます。14億人の人口で割ると1人あたりの経
済規模は1万ドル弱と、日本の4分の1程度だからです。
 それに中国は、OECD、すなわち、先進国になろうとしてい
ないのです。中国共産党政権は「先進国入りを目指す」とは絶対
にいわないのです。むしろ「世界最大の発展途上国」だと強調し
ています。
 しかし、教育の面では、中国をはじめとするOECD未加盟国
も含めて調べないと、本当のところは見えてきません。そこで国
の範囲を拡大させ、79カ国の地域にまで拡大して、昨日のPI
SAのベスト10を出してみました。「北京・上海など」とある
のは「北京・上海・江蘇・浙江」です。
 79カ国まで広げてみると、「北京・上海・江蘇・浙江」、シ
ンガポール、香港などの中国勢が上位を独占してしまい、昨日の
ベスト10とは大きく違ってきています。そのなかにあって、2
018年の調査では、日本は「読解力」では劣るものの、「数学
的リテラシー」では6位、「科学的リテラシー」では5位と健闘
していますが、アジアの先進国としてこの順位は満足すべきもの
とはいえないのです。その証拠に、社会のデジタル化においては
大きく遅れているからです。
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 ◎読解力
  ★2018度        ★2015年度
   1位:北京・上海など    1位:シンガポール
   2位:シンガポール     2位:香港
   3位:マカオ        3位:カナダ
   4位:香港         4位:フィンランド
   5位:エストニア      5位:アイルランド
   6位:カナダ        6位:エストニア
   7位:フィンランド     7位:韓国
   8位:アイルランド     8位:日本
   9位:韓国         9位:ノルウェー
  10位:ポーランド     10位:ニュージーランド
 ◎数学的リテラシー
  ★2018度        ★2015年度
   1位:北京・上海など    1位:シンガポール
   2位:シンガポール     2位:香港
   3位:マカオ        3位:マカオ
   4位:香港         4位:台湾
   5位:台湾         5位:日本
   6位:日本         6位:北京・上海など
   7位:韓国         7位:韓国
   8位:エストニア      8位:スイス
   9位:オランダ       9位:エストニア
  10位:ポーランド     10位:カナダ
 ◎科学的リテラシー
  ★2018度        ★2015年度
   1位:北京・上海など    1位:シンガポール
   2位:シンガポール     2位:日本
   3位:マカオ        3位:エストニア
   4位:エストニア      4位:台湾
   5位:日本         5位:フィンランド
   6位:フィンランド     6位:マカオ
   7位:韓国         7位:カナダ
   8位:カナダ        8位:ベトナム
   9位:香港         9位:香港
  10位:台湾        10位:北京・上海など
     https://bit.ly/3o9Ic8u  https://bit.ly/3zBPbZS
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 電子政府を機能させているエストニアについても見る必要があ
ります。2018年の調査では、「読解力」ではエストニアは第
5位、「数学的リテラシー」では第8位、「科学的リテラシー」
では第4位としっかりとした地位を占めています。改めて注目す
べき国であるといえます。
 2020年3月12日、エストニアは、新型コロナウイルスの
感染拡大を阻止するため、非常事態宣言を発出して、国境を閉鎖
し、エストニアは完全なロックダウン体制に入っています。しか
し、エストニアの場合、ロックダウンをしている間も、政府サー
ビスの99%がオンラインで提供されています。もちろん、給付
金も難なく、素早く支給されています。日本と大きく違っていま
す。つまり、エストニアでは、「デジタル」は、まさに救世主に
なっています。エストニアは、ロシアの侵攻を想定し、そういう
ときでも政府が機能するよう備えていたのです。その敵がコロナ
になっただけです。    ──[デジタル社会論V/036]

≪画像および関連情報≫
 ●エストニアは本当に「電子国家」なのか--現地に移住した
  日本の若者がみた実情
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   近年、デジタル化政策を次々と推し進め、世界の中でも最
  前線を行く「電子国家」として日本でも有名になっている、
  人口わずか130万人の小国がある。それがエストニアであ
  る。「e-government」と呼ばれる国民データベースにより、
  国民はICチップ付きIDカードによって全ての行政サービ
  スを受けることができる。また国民の96%がインターネッ
  ト上で所得税申告を行うなど、行政インフラのIT化が進ん
  でいる。現在では「eResidency」という制度によって世界中
  の人々に「バーチャル国籍」を発行するというユニークな政
  策も行なっている国である。まるで国全体がスタートアップ
  組織のようだ。
   しかし、国が打ち出す電子国家としてのイメージとは裏腹
  に、実際には多くの人がいまだに現金を使っていたり、ネッ
  ト投票を利用していなかったりと、後進的な部分もまだまだ
  残っている。だからこそ、この先エストニアという小国がど
  のような世界を見せてくれるのか期待できるのである。
   4年前から同国に移住し、現地のタリン工科大学を卒業し
  た筆者(26歳)が日々の暮らしの中で感じた、エストニア
  という国の実情をご紹介する。ただし、あくまでも筆者の実
  体験に基づく内容であり、すべての国民には当てはまらない
  ことをご理解いただきたい。エストニアの電子サービスとし
  て紹介されることが多いのは、「e-Residency」 という電子
  国民IDやインターネット投票、電子裁判などである。電子
  国家と呼ばれているが、国民が未来的な生活をしているわけ
  ではなく、行政サービスが非常に整った国ということだ。
                  https://bit.ly/3ASyOcM
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エストニアの国民IDカード.jpg
エストニアの国民IDカード
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論V | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする