2021年09月08日

●「住基ネットの失敗を知っているか」(第5568号)

 9月1日のデジタル庁発足式のインタービューで、事務方トッ
プに就任した石倉和子氏のコメントが入ってきています。デジタ
ル庁を実際に動かすトップの発言であるので、少し長いですが、
その発言をいくつかひろってみることにします。
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──今回のデジタル監の話を受けた時にどんな感想を抱いたか。
行政組織で働いた経験がないが、どのように官僚機構と向き合っ
ていくのか。
石倉デジタル監:私は基本的には新しい機会をもらったらみんな
 するというスタンス。機会は一度逃したら二度と帰ってこない
 ことが結構ある。あの時、ああすればよかったという後悔は絶
 対にしたくない。やった上での後悔のほうが全然いい。
  行政組織での経験に関しては、大学にはいたが、プロフェッ
 ショナルな組織にいた時間が長い。デジタル監になるまで、学
 生にはこれからは個人で勝負する時代と言っていた。でも、自
 分がやらないと申し訳ないなと思い、じゃ、やろうかと。行政
 組織にフルタイムで参画した経験がないので、何とかしようと
 思っている。
──平井大臣はデジタル監の資質に「デジタルへの深い理解」と
いうことを挙げていた。これまでデジタルと、どう向き合ってき
たのか。
石倉デジタル監:私はデジタルの専門家でも、エンジニアでもな
 い。そういう意味ではデジタルの知識がある人間ではない。新
 しいことは一応やってみたいスタイルなので、初めてのプログ
 ラミングというオンライン講座の受講や、ワードプレスもやっ
 た。パイソンにもチャレンジしたが、今のところ挫折している
 状況。やってみると、ここが難しい、凄いなということが分か
 る。プログラミングを学んだ時に、8週間から12週間学んだ
 が、死にそうだった。全然課題が終わらなかったが、学んだこ
 ともある。
  日本企業は全部完璧にしてから、やるスタイルが多いが、プ
 ログラミングの世界ではそれでは全然だめだと分かった。プロ
 トタイピングを作ってしまって、どこが間違っているかを探す
 のは至難の業だからだ。作る度に少しずつ試して、動いたら次
 に行くことが重要と分かった。こういうことをやりたいができ
 るかと(デジタル庁の周囲の人に)聞くと、テクノロジーの力
 でほとんどできてしまう。自分ではできないが、やりたいこと
 はたくさんあるので、どうやればできるかを教えてほしい。そ
 の辺がデジタルの重要な原則かなと思っている。
                  https://bit.ly/3kSENaJ
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 石倉デジタル監のインタビューを見て、いろいろわかったこと
があります。それは、石倉氏が、現在挫折状態にあるとはしなが
らも、ワードプレス(サイトやブログソフトウェア)やパイソン
(プログラミング言語)にチャレンジしている姿勢です。これは
評価できると思います。なぜなら、システム技術を理解するには
プログラミングをマスターするのが一番早いからです。しかし、
これは高齢になると、なかなかできないことです。
 また、上記インタビューの後半では、専門用語は使っていない
ものの、明らかに「アジャイル開発」の重要性について話してお
り、デジタル監候補に上がってからの短い期間において、よくこ
こまで、システム開発についても、よく勉強されていると感じて
います。
 「アジャイル開発」とは、システムやソフトウェア開発におけ
るプロジェクト開発手法のひとつで、大きな単位でシステムを区
切ることなく、小単位で実装とテストを繰り返して開発を進めて
いく開発手法です。従来の開発手法に比べて開発期間が短縮され
るため、アジャイル(素早い)と呼ばれているのです。現在、ス
タートアップがよく使う開発手法です。これに対して、従来の手
法は、「ウォーターフォール」と呼ばれています。
 さて、デジタル庁においては、何よりも先にマイナンバーカー
ドの整備に着手すると思われますが、マイナンバーカードの何が
問題であるかについて考えていくことにします。
 マイナンバーカードについて考える前に、「住基ネット」の失
敗について検証する必要があります。住基ネットとは、住民基本
台帳ネットワークのことです。住基ネットについては、次の説明
があります。
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 従来から各市区町村が住民情報を記録し、管理していた住民基
本台帳を結んだネットワークを、「住民基本台帳ネットワークシ
ステム(住基ネット)」と呼んでいます。
 住基ネットによって、住民票の写しがいらなくなったり、イン
ターネット申請が可能になります。電子政府・電子自治体の基盤
になるのです。住基ネットは、行政機関がパスポートの申請など
の書類を受け付けるときに、書類の記載事項が間違っていないか
を確認したり、年金の支給機関が年金受給者の異動がないかを確
認するために使います。このような利用方法は法律で具体的に決
まっていますし、1人1人の情報が間違いがないかを確認するこ
としかできないシステムになっています。
                  https://bit.ly/3jKsaPL
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 この住基ネットには、2002年から毎年130億円が使われ
13年間で2100億円、自治体の初期費用・メンテナンス費用
を合わせると、1兆円近い税金が使われています。
 これだけの費用をかけたにもかかわらず、住基カードは普及せ
ず、カードの交付枚数はたったの710万枚(2015年3月)
その普及率は5・5%の惨敗に終わっています。
 そして、2015年末に更新手続きが終了し、住基ネットは無
残な失敗に終わっています。しかし、これほどの大失敗にもかか
わらず、反省なしです。  ──[デジタル社会論V/022]

≪画像および関連情報≫
 ●デジタル庁の創設をムダに終わらせないための
  3つの「ない」/経済評論家・加谷珪一氏
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   菅政権の打ち出したデジタル庁の創設が大きな注目を集め
  ている。日本の労働生産性は主要先進国中、最下位という状
  況だが、産業のIT化で出遅れたことが原因の1つになって
  いる。政府が率先してIT化を進めることは民間への波及効
  果も大きく、本格的なデジタル化に成功すれば日本経済には
  プラスとなるだろう。
   だが、ハードウエアを中心とした従来型技術とソフトウェ
  アを中心としたデジタル技術には文化的に大きな違いがあり
  この壁を乗り越えなければデジタル化はうまくいかない。本
  稿では、本当の意味でデジタル化を成功させるために必要と
  なる3つの「ない」について解説したい。
   デジタル庁はこれまで各省でバラバラに構築・運用されて
  いた情報システムを一元管理する組織である。菅政権の目玉
  政策の1つとなっており、年内に具体策をまとめ、来年度の
  創設を目指すとしている。
   今回のコロナ危機では、政府のシステムがうまく機能せず
  給付金の支払いが滞るといった事態が頻発した。世界の電子
  政府ランキングで日本は14位にとどまっており、政府のデ
  ジタル対応力の低さが混乱に拍車をかけたのは間違いない。
   デジタル庁の創設はあくまで行政の効率化を目指すための
  ものだが、政府が率先してデジタル化に対応することは民間
  への波及効果も大きい。電子政府の成功例としてよく引き合
  いに出されるのはエストニアだが、同国は先ほどの電子政府
  ランキングでは3位となっている。 https://bit.ly/3zPAUti
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デジタル庁オフィス.jpg
デジタル庁オフィス
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論V | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする