2021年09月03日

●「村井純氏こそデジタル監の適任者」(第5565号)

 デジタル庁発足に当たって、東洋大学教授、竹中平蔵氏が次の
コメントを寄せています。
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◎デジタル格差を生み出すな
 2000年に慶応義塾大学の村井純教授と一緒に当時の森喜朗
首相にインターネットに関する国家戦略を提言した。その時の目
標は、日本のインターネットインフラを世界最高のものにすると
いうものだった。
 これは達成できたが、その利活用が進まなかった。その結果と
して新型コロナ対策では、遠隔教育や遠隔診療が進まないなどと
して、顕在化している。
 利活用が最も遅れている部門が政府だ。そこを変えていく象徴
として、デジタル庁はまずは国民にとって分かりやすいところか
ら着手してはどうか。例えば引っ越し時に、住民票や運転免許証
銀行、水道などに関わる変更を全て一括でできるようにする。こ
うした縦割りの行政組織に横串を通すのが、実はデジタル化の本
質だ。デジタル庁の重要な役割はまずマイナンバー制度をきっち
り整備することだ。「国が個人を管理する」と言われるが、そう
ではなくて、マイナンバーはデジタル社会における重要な個人認
証制度で、最も重要なインフラだからだ。
            ──日経コンピュータ編/日経BP刊
          『なぜデジタル政府は失敗し続けるのか』
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 竹中平蔵氏というと、毀誉褒貶相半ばする人物ですが、こと日
本のインターネットインフラの構築とITの普及に関しては、功
績のある人物です。竹中平蔵氏は、森喜朗内閣のときに設置され
たIT戦略会議の委員を務め、続く小泉純一郎内閣でも内閣府担
当大臣として、経済財政政策担当大臣とIT担当大臣を務め、日
本のIT普及に貢献しています。
 企業のPCをはじめとするIT機器導入についての優遇税制や
全国レベルでの無料のPC講座の展展開などいろいろあります。
 ところで、竹中氏のいう「日本のインターネットインフラを世
界最高のものにする」という目標については、実際に実現してい
ます。これについては意外に多くの人が知らないでいます。IT
関連のフリージャーナリストである佐々木俊尚氏は、2009年
に次のように述べています。
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 日本のITはアメリカと比べて遅れているのか、それとも進ん
でいるのか。これはIT業界では以前からホットな議論となって
いて、意見はさまざまに分かれている。進んでいる部分は、明確
だ。まず第1に、ブロードバンドの普及率。国内のブロードバン
ド回線契約数は、平成19年末で2830万に達し、このうち、
FTTHの割合は40%を越えている。これは他のOECD諸国
と比べても圧倒的で、インフラ面ではまさにブロードバンド大国
の名にふさわしい。
 携帯電話経由でのインターネット利用も同様だ。日本で販売さ
れている携帯電話機の大半はインターネットのデータ通信が可能
で、データ通信の定額料金制度も普及している。アメリカでは、
アイフォーンのようなスマートフォンが出てくるまでは携帯電話
によるネット利用はあまり一般的ではなく、ビジネスパースンの
間にブラックベリー端末が普及していた程度だった。多くの携帯
電話機でのデータ通信といえばSMSが主流で、ウェブサイトを
携帯電話で見るという文化自体がこれまではあまり普及していな
かったのである。          https://bit.ly/3yu4L9h
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 当時のネットインフラを世界一にする目標の達成に、竹中平蔵
氏に協力したのが、慶應義塾大学名誉教授の村井純氏です。村井
教授は、現在菅内閣の内閣官房参与を務めています。
 インターネットの利用者は、2000年にはわずか4708万
人(人口普及率37・1%)だったものが、その15年後の20
15年には1億46万人(同83・0%)へと驚異的な伸びを示
しています。
 どうして、ネット普及率がこれだけの伸びを示したのかという
と、村井純氏が1980年代から日本国内におけるインターネッ
トの先駆けとなった大学間ネットワーク「JUNET」設立を主
導するなど、インターネットの技術基盤づくりに携わったことに
あるといえます。これに竹中平蔵氏も関わっているのです。この
インターネットに関する貢献度から、「日本のインターネットの
父」といわれるのです。
 私自身もインターネットのことを知るのに、一番役に立った本
は、村井純氏の著作です。とくに2014年に上梓された次の本
は、他の人では書けない興味ある内容を含んでいます。そもそも
のいきさつをすべて知っているからこそ書ける内容です。
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                 村井純著/角川学芸出版
 『インターネットの基礎/情報革命を支えるインフラストラ
 クチャー』         2014年10月25日初版
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 これほどの人物が、内閣官房参与のポストにいるのに、なぜ、
村井純氏をデジタル庁の「デジタル監」に任命しないのでしょう
か。村井純氏が断ったのであろうか。
 関係者によると、デジタル監は「お飾り的ポスト」という人も
います。それは、発足時には「空席でもかまわない」という意見
もあったといわれるからです。また、当初は、デジタル監に提言
する非常勤職として石倉洋子氏を位置づけていたのですが、急遽
デジタル監にスライドさせた経緯もあるのです。
 しかし、今までも重要職務をそういうお飾り的ポストにして失
敗してきたことを考えると、デジタル監には実務に詳しい専門家
が必要であり、それはおそらく村井純氏しかいないのではないで
しょうか。        ──[デジタル社会論V/019]

≪画像および関連情報≫
 ●「インターネット文明」の夜明けに向けて/村井純氏
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  ――2018年、WIDEプロジェクトを始められて30年
  という節目を迎えられました。この節目となる年にあたって
  どのような感想をお持ちですか?
   研究者としての私の活動が約40年ですから、そのほとん
  どをささげてきたわけなんですが、いま振り返れば、あっと
  いう間に過ぎ去った30年でしたね。
  ――これだけの長い期間にわたる研究プロジェクトというの
  は、他に類をみないほど珍しいのではないでしょうか。
   「プロジェクト」をこれだけ長く続けられることはまずな
  いでしょうね。たいていのプロジェクトは、あらかじめ短い
  期間が設定されるものなんです。なぜかというと、一般的な
  「研究プロジェクト」というのは、政府などの公的資金援助
  をいただいて進めるのですが、そうすると予算というのは1
  年間からせいぜい長くて3年間まで、まれに5年間という期
  限が定められているんです。私の知る限り、最も長いもので
  3年目と5年目でのチェックを受けたうえで、最長10年間
  というのがあります。それと比較しても、こうして20年、
  30年と続けられることはありえないでしょうね。なぜ、こ
  れだけ長く続けられたのかというと、WIDEプロジェクト
  はすべて民間の資金でやってきたからなんです。
                  https://bit.ly/3sY8z1u
   WIDEプロジェクトとは、広域にわたる大規模な分散コ
  ンピューティング環境を構築する技術の確立を目指す、オペ
  レーティングシステム技術と通信技術を基盤とした研究プロ
  ジェクトの名称である。村井純氏(現・慶應義塾大学教授)
  らが1988年に創設した。全国の大学や研究機関、企業な
  ど、100を超える団体が参加している。
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村井慶應義塾大学教授.jpg
村井慶應義塾大学教授
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論V | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする