プリ)の発注元は、内閣官房IT総合戦略室(以下、IT総合戦
略室)ですが、この組織の室長代理を務める民間出身の慶應義塾
大学教授の親密企業が、受注事業体のなかに入っていたことが問
題になっています。この情報を伝えたのが『週刊新潮』2021
年7月1日号です。
教授の氏名は、神成淳司氏です。今回落札した事業体は(NT
Tコミュニケーションズと数社で構成するコンソーシアム)です
が、神成教授は、受注事業体のNECの子会社であるNECソリ
ューションイノベータ社と研究を共にし、共同で特許技術を開発
する関係にあり、もう1社のアプリの連携基盤サービスを担当す
るJBSの委託先のネクスト社は、神成教授が代表を務める別の
事業におけるビジネスパートナーであることもわかっています。
まだ、疑惑があります。上記の『週刊新潮』は、次のように書
いています。
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更には、アプリ事業で2億円が支払われる見積もりが出されて
いたライセンスの一つが、教授が関わったものであることも、わ
かった。これでは落札過程に疑念を抱かれても仕方ありませんし
万が一、受注したことで何らかの利益が教授に入ることになれば
利益相反すら疑われてしまう。
──『週刊新潮』/2021年7月1日号
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このような疑惑が公表されたことにより、IT総合戦略室は、
平井デジタル改革相の指示により、弁護士4人を交えた調査チー
ムを7月に設置し、調査をしてきたのです。そして、8月20日
に五輪アプリに関する調査結果を公表しています。
これによると、2021年8月21日付の朝日新聞は、次の記
事を配信しています。
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◎報告書「国民の疑念を招く
五輪アプリ「不適切」再発防止求める
東京五輪・パラリンピック向けアプリ(通称オリパラアプリ)
の発注プロセスを検証した報告書が8月20日に公表された。内
閣官房IT総合戦略室幹部らが、公正な入札を装うような対応を
していた。デジタル庁の9月発足に向け、検証と再発防止が重い
課題となる。 ──2021年8月21日付、朝日新聞
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契約は3社による競争入札になっているのですが、実は発注先
はあらかじめ決めておき、かたちだけ競争入札のかたちをとった
ことが、この報告書で明らかになっています。IT総合戦略室は
3社と連絡をとり、おおよその金額も示して見積書を送るよう要
請しています。そのさい既に提出されている他社の見積書をLI
NEで送付し、3社分の見積書を揃えて、3社の競争入札のかた
ちを整えています。の間の事情について朝日新聞は、次のように
報道しています。
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「この見積もり項目そのままで大丈夫です。これぐらいの荒さ
です。税込み70にまとめていただけると助かります」。報告書
によると、IT室の担当者は、別の会社の参考見積書をLINE
で送り、他社に70億円での見積書の提出を依頼していた。(一
部略)IT室の担当者は、見積もりの提出を拒んだ企業に「押印
もいらないし、担当者の名前もいらない」などと、しつこく頼ん
でいた。報告書は、「入札方式による調達手続きに関わる者とし
ての意識を欠いたものといわざるを得ない」と批判した。
──2021年8月21日付、朝日新聞
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ここで考えるべきことがあります。それは、この五輪アプリの
開発と、6月11日付の朝日新聞朝刊がスクープして話題となっ
ている平井卓也デジタル改革担当大臣の会議でのNECに対する
恫喝発言との関連です。
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デジタル庁はNECには死んでも発注しないんで。場合によっ
ちゃ出入り禁止にしなきゃな。このオリンピック(アプリ)であ
まりぐちぐち言ったら完全干すからね。一発遠藤のおっちゃんあ
たりを脅しておいた方がいいよ。どっかさ、象徴的に干すところ
を作らないとなめられちゃうからね。運が悪かったってことにな
るね。やるよ本気で、やる時は。払わないよNECには基本的に
は。 ──2021年6月11日付、朝日新聞
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この恫喝発言は、平井デジタル改革担当相がIT総合戦略室の
メンバーとのオンライン会議で飛び出したものです。ここでいう
「遠藤のおっちゃん」とは、遠藤信博NEC会長のことです。
平井大臣は、なぜNECに怒っているのでしょうか。
そもそもこの契約のメインは、NETコミュニケーションズで
あって、NECはわき役に過ぎません。「デイリー新潮」による
と、73億円中、NTTコミュニケーションズの取り分は45億
7600万円で、NECの取り分はわずか4億9500万円でし
かないのです。
それが海外の観戦客受け入れが中止になって、NECのAIに
よる顔認証システムが不要になり、全体の予算が38億円に減額
され、NECの取り分がさらに減り、NECとIT総合戦略室の
間で何らかのトラブルがあったものと考えられます。平井大臣の
恫喝発言は、それに原因しているのではないかと考えられます。
しかし、平井大臣は、IT総合戦略室の幹部とともに、NTT
の接待を受けており、NTTに相当肩入れしていることが考えら
れます。それにしても「デジタル庁は死んでもNECに発注しな
いし、完全に干してやる」という発言は、国務大臣の発言として
はきわめて不適切であると考えます。
──[デジタル社会論V/014]
≪画像および関連情報≫
●平井デジタル相の「恫喝」発言を、このまま個人の問題で
終わらせてはいけない
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平井卓也デジタル改革担当相が、東京五輪向けのアプリ発
注に関して、受注企業への恫喝を示唆する発言を行ったこと
が問題視されている。平井氏への批判が高まっているが、少
し視点を変えるとさまざまなことが分かってくる。
発言は4月に行われた内閣官房IT総合戦略室における幹
部会議のもので、本来は非公開だが音声が外部に流出した。
平井氏は、「NECには死んでも発注しない」「象徴的に干
すところを作らないとなめられる」「脅しておいたほうがい
い」などと発言しており、相手を恫喝するよう職員に指示し
たとも受け取れる。
直接、事業者を脅したわけではないが、大臣として不適切
であることは言うまでもない。だが、この発言を少し角度を
変えて眺めてみると、さまざまな解釈ができる。「事業者か
らなめられる」「脅しておいたほうがよい」といった言葉は
裏を返せば、官庁側がIT事業者をうまくコントロールでき
ていない現状をうかがわせる。実際、官庁側がIT事業者を
制御できず、一部で法外な支出を強いられているというのは
長年、問題視されてきたことである。2001年には公正取
引委員会が「1円入札」問題について調査し「注意」を行っ
たこともある。「注意」は独占禁止法に基づく公式な処罰で
はないが、それに準じる重みを持つ。
https://bit.ly/3koFGaU
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朝日新聞/週刊新潮