2021年08月12日

●「オンラインよりも郵送の方が早い」(第5549号)

 日本のデジタルシステムがいかに不十分なものであるかを示す
格好の事例があります。コロナ禍の政府支援のひとつ、定額給付
金申請に使われたマイナンバーカードです。
 このときの安部首相の記者会見を毎日新聞の報道で以下に示し
ておきます。
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 安倍晋三首相は2020年4月17日、首相官邸で記者会見し
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、改正新型インフルエンザ
等対策特別措置法に基づく「緊急事態宣言」の対象地域を全国に
拡大したことを踏まえ、全国民に1人当たり10万円を一律給付
すると正式に表明した。現金給付の総額は、事業者向けも含め、
当初予定した6兆円から14兆円を上回る規模に拡大するとの見
通しを示した。(一部略)
 給付方法に関しては、郵送やオンライン申請を活用する考えを
示した。リーマン・ショック後の2009年に実施した「定額給
付金」では申請の確認などに時間を要し、予算成立から給付まで
3カ月かかったと指摘し「申請手続きの簡素化など工夫をしてで
きる限り早く国民にお渡しできるようにしたい」と述べた。だが
具体的な時期には触れず、「もっと判断を早くしておけば良かっ
た」と重ねて謝罪した。       https://bit.ly/3jIjibY
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 「給付方法に関しては郵送や『オンライン申請を活用する』」
──安倍首相がこういったのは、ここでマイナンバーカードを使
い、少しでも給付の速度を上げ、2009年の「定額給付金」の
給付の遅れと差をつけたかったことは確かです。それに加えて、
これを機にマイナンバーカードを一挙に普及させようと考えたの
です。しかし、それは無残な結果に終わっています。
 大きな問題点は2つあったのです。2つとも信じられないほど
あってはならない問題です。
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   @多くの市区町村が「マイナポータル」に未接続状態
   Aオンライン申請は市区町村の住民基本台帳と未連携
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 第1の問題点は、「多くの市区町村が「マイナポータル」に未
接続状態」だったことです。
 マイナポータルとは、政府が運営するオンラインサービスであ
り、子育てや介護をはじめとする行政手続がワンストップででき
たり、行政機関からのお知らせを確認できたりします。マイナン
バーカードの専用サイトになっています。
 このマイナポータルの行政サービスを市区町村が受けるには、
この内閣府のマイナポータルと市区町村がセキュリティレベルの
高い「LGWAN」というネットワークとつながっていることが
条件になります。
 しかし、安倍首相が1人当たり10万円の定額給付金を配ると
宣言した時点では、全国1741市区町村の半数近い806市町
村がマイナポータルと未接続の状態にあったのです。しかし、突
貫工事で、そのうち、679市区町村が5月1日のオンライン申
請開始に間に合ったといいます。
 第2の問題点は、「オンライン申請は市区町村の住民基本台帳
と未連携」であったことです。
 そもそも「LGWAN」に接続していないのは論外としても、
現金を配る以上、二重振り込みは絶対に防ぐ必要があり、そのた
めの本人確認は不可欠です。ところがオンライン申請のシステム
は、市区町村の住民基本台帳と連携していなかったのです。
 そのため自治体の職員には、オンラインで申請を受け付けた後
面倒くさくて、間違えやすく、しかも膨大な事務作業が待ってい
たのです。自治体の職員はオンライン申請された情報をダウンロ
ードすると、世帯員の住民票コードを手入力し、住民基本台帳と
照合し、申請者の氏名や生年月日などに誤りがないかを目で確認
しなければなりません。
 そして、振込口座情報と添付書類の画像とを照合し、銀行名が
旧名であったり、文字間のスペースがなかったりすることが多い
ので、一つひとつを確認して修正します。したがって、処理でき
るのは、週に1000件程度です。
 これに加えて、マイナンバーは、住所変更があったり、パスワ
ードを忘れた場合、カードは失効するので、再発行手続きが必要
になるのです。そのためのカード更新を求める住民も多く、これ
に対応するにもマンパワーが必要なので、現場は大混乱に陥って
しまったのです。
 東京の杉並区では、給付金以外の目的も含め、マイナンバー関
連の窓口に1日あたり約300人が押しかけ、4時間待ちになる
こともあったといいます。その結果、多くの自治体は「オンライ
ンよりも郵送の方が早く処理できる」と判断して、オンライン申
請の受付を停止し、郵送に切り替えています。「オンラインより
郵送の方が早い」とはまるでブラックジョークそのもの、ありえ
ない話です。同じようなことがワクチン接種の予約でも起きてい
ることは、記憶に新しいところです。
 これが特別給付金のさいにおきた騒ぎですが、これについて、
野口悠紀雄氏は次のように述べています。
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 私が不思議に思うのは、こうした実情にありながら、なぜ「ス
ピードを重視してオンラインにする」と、見栄を切ったのかであ
る。日本政府のトップは、マイナンバーカードの実情をまったく
知らなかったとしか考えようがない。自分の実力を知らずに見栄
を切るとは、随分乱暴なことをしたものだ。
            ──野口悠紀雄著/日本経済新聞出版
            『良いデジタル化/悪いデジタル化/
         生産性を上げ、プライバシーを守る改革を』
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             ──[デジタル社会論V/003]

≪画像および関連情報≫
 ●混乱する世帯単位給付金、マイナンバーが向かない理由
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   国民1人当たりに10万円を支給する「特別定額給付金」
  のオンライン申請をめぐり、申請の受付や支払いを担う市区
  町村の現場が混乱している。誤入力や重複申請などの不備が
  相次ぎ、照合作業や確認に追われる職員からは、悲鳴が上が
  る。オンライン申請の受け付けを中止し、郵送申請に絞る自
  治体も現れた。
   オンライン申請中止の皮切りとなったのは、高松市。5月
  25日に取りやめ、郵送申請に一本化する。高知市や東京都
  八王子市なども追随している。当初はオンライン申請に必要
  なマイナンバーカードの普及が進んでいないことが、速やか
  な給付の妨げになるとも予想されたが、蓋を開けてみれば、
  カードがむしろ足かせになるような事態になっている。どう
  してこんなことになったのか。
   「そもそも今回の給付金に、マイナンバーカードがそぐわ
  ない」――。こう指摘するのはある県庁所在市の担当者だ。
  これまでに約6000件のオンライン申請が寄せられている
  が、振込先の口座番号の欄に氏名が記入されていたり、金融
  機関名が空欄だったりといった不備が、2割近くで見つかっ
  た。また、二重申請どころか15回も重複申請しているケー
  スもあるという。今回のオンライン申請は原則として、世帯
  主が家族分も申請する仕組みだ。しかし、マイナンバーカー
  ドには世帯主の情報しか記録されていない。そのため、世帯
  から抜けた子どもの氏名が誤って記入されているといったミ
  スが多発。役所側で住民基本台帳と突き合わせる必要が生じ
  作業が大幅に遅れている。 https://s.nikkei.com/3jJ3CVU
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マイポータルと地方公共団体との関係.jpg
マイポータルと地方公共団体との関係
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論V | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする