2021年08月11日

●「日本のデジタル改革目標は全未達」(第5548号)

 1990年代前期から2000年代初期にかけて、米国で「イ
ンターネット・バブル」という現象が起きています。具体的にい
うと、バブルは、ウインドウズ95が発売された1995年頃か
ら異常に膨らみはじめていたのです。投資家による新興のインタ
ーネット企業に対する実需投資や株式投資が、実態を伴わない異
常な高値になっていたからです。
 2000年を超えると、バブルが崩壊し、米国を中心にIT不
況に突入します。異常な熱狂を見せていた市場は急激に冷え込み
株価が暴落します。2000年4月だけで1割下落し、その後3
年間にわたって株価は下落を続けたのです。これにより、米国で
のIT関連失業者は56万人を超える規模に達しています。
 日本でも、光通信やソフトバンク、ヤフーといった著名IT関
連企業の株も大暴落しています。そして、2001年9月には、
米国で同時多発テロが発生し、米国はさらに深刻な不況に突入し
ていくことになったのです。
 実は日本では、1990年代後半にはネットビジネスが盛んに
なっていたのです。1999年にはECモールとして楽天(起業
当時は株式会社エム・ディー・エム)が起業していますし、JA
Lが世界に先駆けて、航空券のチケットレス販売をはじめるなど
ITの風が日本でも吹き始めていたといえます。
 日本の「イー・ジャパン戦略」はそのタイミングで発表された
のですが、米国発のITバブル崩壊による不況で、すべてが暗転
してしまいます。これによって日本政府のITに対する考え方が
一変したといえます。このときの状況を日経コンピュータ編集委
員の木村岳史氏は、「日経クロステック」誌(日経XTECH)
上で、次のように記述しています。
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 今思い出しても涙、涙である。楽天など一部は生き残ったが、
多くの新興IT企業がバタバタと倒れた。既存企業の間でも「ネ
ットビジネスは所詮虚業だ」などと言って、EC(電子商取引)
などから手を引く既存企業が続出した。ちなみに日本政府の取り
組みはどうだったか。イー・ジャパン戦略では「2003年まで
に、国が提供する実質的にすべての行政手続きをインターネット
経由で可能とする」とあるから、こちらもやはり笑うしかない。
                  https://bit.ly/3lHwVuM
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 しかし、このIT不況を乗り越えた米国企業があります。それ
がGAFAです。アマゾンやグーグルは、クラウドサービスを生
み出し、アップルはアイフォーンを世に送り出し、携帯電話のイ
メージを変貌させています。そして、フェイスブックは、SNS
を世界中に普及させています。さらに、このGAFAに続く新興
IT企業が続々と米国で誕生しています。
 そして現在、この大きく成長したGAFAが仕掛けるデジタル
ディスラプション(デジタルによる破壊)が日本において猛威を
振るうようになり、日本の脅威になりつつあります。日本は、自
ら掲げた「イー・ジャパン戦略」の目標が未達のまま、ずるずる
と現在まできてしまった大きなツケをこれから払わざるを得なく
なるといえます。
 この「イー・ジャパン戦略」の未達による日本の「デジタル敗
戦」について、平井卓也デジタル改革相は、インタビューで、次
のように述べています。
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 政府は2001年にIT基本法を施行しました。2001年の
「イー・ジャパン戦略」や2013年の「世界最先端IT国家創
造宣言」などのIT戦略も打ち出しました。どの公約も全く実現
できていません。しかも誰も責められていません。国民の期待も
あまり大きくなかったからでしょう。だからデジタル政策は他の
政策より優先順位が低かった。
 光ファイバー網や携帯電話のカバレッジといった通信インフラ
だけ見たら、日本はどの国にも負けていません。せっかく良質な
インフラがあるのに、新型コロナという事態でうまく使い切れな
かった。日本ほどの通信インフラを持たない国がITで成果を上
げたのに、日本は過去のインフラ投資やIT戦略が全く役に立た
なかった。「敗戦」以外の何物でもありません。
 結局、供給側が発想したデジタル化であり、国民起点でデジタ
ル化を考えていなかった。今進めている「縦割り打破」はまだ管
理者の発想です。国民からすれば受けたい行政サービスをどの省
庁が提供しているかは関係ない。「何省だ」と意識することこそ
が行政サービスのUI(ユーザーインターフェース)やUX(利
用者体験)を悪くしているのです。今までスマートシティにしろ
デジタル・ガバメントにしろ、上(中央政府)から下(国民)に
下ろす構造になつていました。反省すべき点です。
            ──日経コンピュータ編/日経BP刊
          『なぜデジタル政府は失敗し続けるのか』
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 なぜ、「イー・ジャパン戦略」や「世界最先端IT国家創造宣
言」の公約を日本が達成できなかったかについては、国民の期待
もそんなに大きくなかったとする平井デジタル改革相の意見はわ
かるような気がします。結局のところ日本人には、ITのなんた
るかがわかっていないと思うのです。
 IT革命、デジタル化、DX(デジタルトランスフォーメーシ
ョン)と、まるでバズワードのようにいろいろいわれますが、こ
れらはすべてデジタル化そのものです。これまで本気でこのデジ
タル化に取り組んでこなかったことが、昨今のコロナ禍を契機に
白日の下に露呈してしまったといえます。
 つまり、日本の行政がデジタル化できていない現実を国民にま
ざまざと見せつけてしまったのです。それでは、何をどのように
進めていけばよいのか、デジタル化に伴う日本社会のさまざまな
問題について考えていくことにします。
             ──[デジタル社会論V/002]

≪画像および関連情報≫
 ●日本のデジタル敗戦の挽回に必要な3つの視点
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   「デジタル庁は、強力な司令塔機能を有し、官民を問わず
  能力の高い人材が集まり、社会全体のデジタル化をリードす
  る強力な組織とする必要があります」
   菅首相は2020年9月23日のデジタル改革関連閣僚会
  議でこう語った。今まさに政府のデジタル庁準備室で法整備
  が進んでおり、アイデアボックスで国民の意見を募るなど今
  までにない試みも行われている。しかし、デジタル庁が成功
  するかどうかは、この「強力な司令塔機能」を発揮できるか
  否かに尽きる。そのためにはどうしたらいいか。私見ながら
  以下の3点を指摘・提案したい。
   @司令塔機能の目的を日本社会全体のDXとする
   Aデジタル庁を各省より高い位置づけにする
   B最先端グローバル人材を確保するためデジタル庁を公務
    員の特区にする
   第1に、国家サイバー・パワーの中核を担うデジタル庁の
  創設目的は、日本社会全体のデジタル・トランスフォーメー
  ション(DX)を果たすのが望ましく、決して、省庁の行政
  システムの調達の一元化だけにとどまってはならないという
  点だ。先進国各国においてデジタル庁同様の組織は多くある
  が、その目的や権限はさまざまだ。https://bit.ly/3iyw79o
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平井卓也デジタル改革相.jpg
平井卓也デジタル改革相
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論V | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする