2021年08月03日

●「CXについてもう一度考えてみる」(第5543号)

 ここにきて、カスタマーエクスペリエンスとか、カスタマージ
ャーニーとか、カスタマーに関する言葉が多く出てきます。今日
のEJは、この問題について考えます。
 いつの頃からか、金融機関においても「顧客第一主義」という
ことが強くいわれるようになってきています。それは、2008
年9月のリーマンショックに端を発しているのではないかと思い
ます。なぜなら、リーマンショック以前の米国の金融機関のビジ
ネスモデルは、一言でいうと「投資家に金融商品を販売するため
に金融資産を創造する戦略」(Originate to Distribute 戦略)
に尽きるといえるからです。
 金融商品をオリジネート(創造)し、その組成された株式や債
券やローンを投資家にディストリビュート、すなわち販売し、そ
して、自社の資金で株や債券を売り買いするトレーディング──
このオリジネーション、ディストリビューション、トレーディン
グの3つは、米国金融機関の3大業務といわれていたのです
 『アマゾン銀行が誕生する日』の著者、田中道昭氏は、この当
時の米国の金融機関について、次のように述べています。
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 「オリジネート・トウー・デイストリビュート戦略」は、残念
ながら、投資家の利益に大きく傾いていました。同時に、どこま
でいっても「銀行の論理」に貫かれていました。それは自身の財
務諸表を潤し、経営指標を改善し、株主を満足させるための戦略
であって、預金者や融資先の企業といったそのほかのステークホ
ルダーをなんら潤すものではなかったのです。
 そこには顧客志向という視点が決定的に不足していました。お
そらく当時の金融機関にはその自覚すらなかったことでしょう。
私自身も錯覚していたと反省しています。本来果たすべき金融の
役割を軽んじ、金儲けに走るばかりの金融機関に対して、批判の
声は高まり続けました。           ──田中道昭著
         『アマゾン銀行が誕生する日/2025年の
              次世代金融シナリオ』/日経BP
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 つまり、当時の金融機関には「顧客主義」という視点が決定的
に不足しており、金儲けばかりに走っていたといえます。しかし
このリーマンショックをひとつの契機として、いわゆる顧客主義
というものが強く前面に出てきたのです。そして、金融機関にそ
のヒントを与えてくれたのは、GAFA、なかでもアマゾンのビ
ジネスモデルです。
 ジェフベソス氏は、ネット市場において、どうすればものが売
れるか、そのカギを握るのはセレクション(品揃え)にあると見
抜いたのです。アマゾン市場には何でも商品があり、しかも品質
がよく、安いということになると、顧客満足度が上がり、それに
伴い、カスタマー・エクスペリエンスが向上します。これによっ
て多くの顧客がアマゾン市場を訪れるようになり、トラフィック
が増加し、当然その結果として売り上げが向上します。そうする
と、アマゾン市場に出品したいという業者が増加し、さらに品揃
えが豊富になるというサイクルです。ここで重要な意味を持つの
が「カスタマー・エクスペリエンス」です。
 改めて「カスタマー・エクスペリエンス」とは何でしょうか。
カスタマー・エクスペリエンス(Customer Experience) 、CX
とは、「顧客体験」あるいは「顧客体験価値」と定義されていま
す。それでは、CXと顧客満足度とは、どこが違うのかというと
言葉で明確に説明するのは困難ですが、顧客満足度は、顧客の製
品・サービスへの満足度に限定されるのに対してCXは製品やサ
ービスの合理的満足度だけでなく、製品やサービスを「知人や周
囲へ推薦したいか否か」といった支持レベルの感情的満足度を目
標としている点が違うとしています。
 カスタマー・エクスペリエンスについていくつもの記事を読ん
でみましたが、いまひとつはっきりしません。言葉で説明するに
は困難というか限界があるのです。UX(ユーザーエクスペリエ
ンス)という言葉もありますし、言葉で説明しようとすると、訳
が分からなくなってしまうのです。
 現在、CXは多くの企業で採用されていますが、その身近な企
業の一つとして「ソニー損保」があります。緊急事態宣言の巣ご
もりで家にいると、テレビをよく見る機会が多くなっていますが
そのとき、よく「ソニー損保」のCMを見るのです。
 ソニー損保では、顧客と直接コミュニケーションが図れるダイ
レクト保険会社です。ネット損保であり、顧客と保険会社の間に
代理店などが入らないので、代理店などにかかる中間コストを圧
縮することで、普通であればできない「濃いサービス」を実現す
ることができるのです。
 そこで、ソニー損保では、直接お客とコミュニケーションを図
るため次の3つの顧客接点を設けています。
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        1.  カスタマーセンター
        2.     お客様相談室
        3.   サービスセンター
        4.ロードサービス・デスク
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 何よりも驚くべきことは、この4つの顧客接点は、2を除いて
すべて「365日24時間対応」であることです。自動車事故は
いつ発生するかわからないし、多くの場合、顧客が初体験である
ことが多く、緊急的に対応がとれないと困るからです。
 つまり、自動車事故に遭うさいの顧客の不安はなにかというこ
とを徹底的に考えて、ソニー損保は対応しているのです。緊急事
故時には、無料のロードサービスにも対応しており、状況によっ
ては、セコムが現場に駆け付けるシステムにもなってします。そ
ういう同社の事故対応体験を一回でも受けると、カスタマー・エ
クスペリエンスが確実に向上することはよくわかります。
             ──[デジタル社会論U/070]

≪画像および関連情報≫
 ●カスタマー・エクスペリエンス(CX)とは?
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   UI(ユーザーインターフェイス)は、ボタンやメニュー
  など、ユーザーとの接点です。スムーズかつ快適に目的達成
  できるよう、ユーザーが目にするもの・操作するものに工夫
  をするのがUIデザインです。迷わず、安心して利用できる
  環境を整えるために、どのようなボタンをどこに設置すべき
  か、どんな手順を設計すべきかといった点に頭をひねるわけ
  ですね。
   UIの良し悪しの指標として、ユーザービリティ・アクセ
  シビリティといった言葉が使われることもあります。ユーザ
  ービリティは「使いやすさ」の指標、アクセシビリティは何
  らかの障がいを持つ人や高齢者など、幅広い層が「使えるか
  どうか」を表す指標です。
   一方、UX(ユーザーエクスペリエンス)は、サイトやサ
  ービスを使うことによってユーザーが得る感情や経験のすべ
  てを示します。UIと似ていますが、異なるものです。たと
  えば「サービスは使いにくいけどユーザーが多くて楽しい」
  「サイトはわかりやすいが、コンテンツが少なく特に魅力を
  感じない」というように感じたことはありませんか。UIと
  UXは一体ではないため、UIはいいがUXは良くない(ま
  たはその逆)といった状態になることもあります。
   UIがわかりやすくUXも最高!というように両者が連動
  するケースも当然ありますが、UIとUXは別のものである
  ということを意識し、それぞれを明確に区別することが、問
  題点や改善手段の発見につながります。
                  https://bit.ly/3lhKAsc
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ソニー損保のCM.jpg
ソニー損保のCM
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする