2021年08月02日

●「金融機関オープンAPIとは何か」(第5542号)

 金融機関のオープンAPIとは、金融機関と外部の事業者が安
全にデータを連携できるようにする仕組みです。金融機関がシス
テムへの接続仕様を公開し、契約を結んだうえでアクセスを認め
るものです。別な表現を使うと、オープンAPIとは、あるアプ
リケーションの機能や管理するデータを他のアプリケーションか
ら呼び出して利用するための仕組みのことです。オープンAPI
といってもいろいろあります。
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    @誰にでもオープンであり自由に使えるAPI
    A一定の規約や約款のもとで提供されるAPI
    B限定されたコミュニティに提供されるAPI
    C個別契約を締結した対象に提供されるAPI
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 @はグーグルマップに代表されるAPIであり、AからCは何
らかの条件の下に提供が受けられるAPIです。金融機関に関わ
るオープンAPIは、Cの個別契約を締結した対象に提供される
APIということになります。金融機関のオープンAPIには、
次の2つがあります。
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           @照会型API
           A実行型API
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 「照会型API」とは、外部の第三者や事業者が、内部の銀行
の顧客口座情報などを照会するものであり、「実行型API」と
は、外部の第三者や事業者が、銀行の顧客に対して、サービスを
直接提供することをいいます。
 金融機関にとって重要なのは「実行型API」です。第三者で
ある事業者が銀行の顧客口座データにアクセスすることによって
銀行の顧客データを利活用し、銀行では提供できない多様なサー
ビスを銀行の顧客に対して直接提供できるからです。
 これは、事業者、銀行のユーザー顧客、銀行の3者にメリット
をもたらします。事業者にとってはそれだけビジネスチャンスが
広がるし、銀行の顧客にとっては、利便性を享受でき、利用でき
るサービスが増えることになるからです。
 これによる銀行にとって何よりのメリットは、銀行では取得す
ることができない顧客に関する行動や位置情報を入手できること
です。これらの情報にとって、顧客ニーズに合致した銀行サービ
スを提供できるようになります。
 DBS銀行で、連携している第三事業者としては会計ソフトの
「ゼロ(Xero)」が代表的です。「ゼロ」は、オーストラリアを
はじめ、欧米諸国でシェアを拡大する次世代クラウド型会計ソフ
トです。ブラウザーベースのアクセスで、世界のどこにいても、
ネット環境があれば入力やチェックが可能で、多くの中小企業に
採用されています。入力項目や表示情報も最小限にとどめられな
がら、給与計算や在庫管理、固定資産の減価償却まで管理が可能
です。ゼロ社は、世界で158万社もの中小企業にサービスを提
供しています。
 DBS銀行は、これ以外にも多くの実行型APIを提供してい
ます。これについて、田中道昭氏は次のように述べています。
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 DBS銀行のコーポレートサイトには、他にもオープンAPI
の事例が紹介されています。DBS銀行のクレジットカードの使
用で貯まったポイントを第3者・事業者での購買に充当できるポ
イント還元API。住宅購入能力の事前審査やDBS銀行への住
宅ローン申し込みなど住宅購入支援API。第3者・事業者のA
TMを通してDBS銀行の口座からお金を引き出すことができる
送金API。モバイル決済システム「PayLah!」 をはじめ決済デ
ビッド、取引分析、使用金額上限の設定などペイメントAPI。
外国為替レートやDBS銀行の一般情報など情報提供API。こ
うしたAPIは現在200以上もあり、マクドナルド、グラブ、
フードパンダ、soCashなど60社以上が、パートナーとなってい
ます。                   ──田中道昭著
         『アマゾン銀行が誕生する日/2025年の
              次世代金融シナリオ』/日経BP
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 DBS銀行は、このように、実行型APIを数多く実施するこ
とによって、カスタマーエクスペリエンスの高度化を図ろうとし
ています。このカスタマーエクスペリエンスとは、顧客体験のこ
とです。カスタマーエクスペリエンスとは、しばしば「CX」と
呼ばれ、次のように説明されています。
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◎カスタマーエクスペリエンス/Customer Experience
 CXとは、「ある商品やサービスの利用における顧客視点での
体験」のことである。あくまでも顧客視点でとらえるべきであり
企業視点でとらえてはならない。
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 CXは、顧客が商品を購入する際の体験にとどまらず、購入前
の段階から購入後のサポートやサービスまでを通した、購買プロ
セスをとりまく顧客視点からの体験全体を対象としています。ま
た、CXは、その商品やサービス自体が直接的に顧客に提供する
体験だけではなく、その購入により顧客に非直接的にもたらされ
た体験も含みます。例えば、商品を提供する企業の雰囲気という
ものが良かったり、商品購入後に丁寧なサポートがあると、商品
を買ったことによる満足感を顧客に与えることができます。
 GAFA、とくにアマゾンはこのCXをとくに重視しているの
ですが、アマゾンの創業者ジェフ・ペゾス氏を崇拝するDBS銀
行のCEOは、実行型APIによる数多くのサービスの積み上げ
によってCXの高度化を図ろうとしています。これはこれからの
新しい金融機関のあり方を目指しているといえます。
             ──[デジタル社会論U/069]

≪画像および関連情報≫
 ●カスタマーエクスペリエンス(CX)とは?
  “体験への価値”を高めるために知っておきたいこと
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   現代の日本では「買えないものはない」と言っても過言で
  はないほど、たくさんのモノやサービスにあふれています。
  そのため、商品やサービスなどの「物質的な価値」の提供に
  注力することは当然ですが、ここばかりに目を向けていては
  競合他社と差別化することは難しいのが現状です。
   例えば、「A社の企業・ブランドの商品やサービスを利用
  したい」という選び方ではなく「こういう商品やサービスを
  利用したいから探してみたらA社が1番やすかったから選ん
  だ」というユーザー行動が発生しやすくなります。
   そこで重要となってくるのが「カスタマーエクスペリエン
  ス(CX)」です。物質的な価値に加えて、ユーザーに対し
  てどのような「体験」を提供できるのか、にも注力すること
  で、「A社だから選んだ」というユーザーを増やすことがで
  きます。今回は、そもそもカスタマーエクスペリエンスとは
  なにか、についてご紹介します。あわせて意識するメリット
  3つや向上のために最低限知っておきたいポイント3つ、よ
  り考えやすくするための5つの分類についてもご紹介してい
  ます。なかなか自社の売上が伸びない、他社との差別化の方
  法に悩んでいる、などの場合は、カスタマーエクスペリエン
  スの見直しを検討してみてはいかがでしょうか。
                  https://bit.ly/3BXeCY9
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CX/カスタマーエクスペリエンス.jpg
CX/カスタマーエクスペリエンス
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(1) | デジタル社会論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする