2021年08月02日

●「金融機関オープンAPIとは何か」(第5542号)

 金融機関のオープンAPIとは、金融機関と外部の事業者が安
全にデータを連携できるようにする仕組みです。金融機関がシス
テムへの接続仕様を公開し、契約を結んだうえでアクセスを認め
るものです。別な表現を使うと、オープンAPIとは、あるアプ
リケーションの機能や管理するデータを他のアプリケーションか
ら呼び出して利用するための仕組みのことです。オープンAPI
といってもいろいろあります。
─────────────────────────────
    @誰にでもオープンであり自由に使えるAPI
    A一定の規約や約款のもとで提供されるAPI
    B限定されたコミュニティに提供されるAPI
    C個別契約を締結した対象に提供されるAPI
─────────────────────────────
 @はグーグルマップに代表されるAPIであり、AからCは何
らかの条件の下に提供が受けられるAPIです。金融機関に関わ
るオープンAPIは、Cの個別契約を締結した対象に提供される
APIということになります。金融機関のオープンAPIには、
次の2つがあります。
─────────────────────────────
           @照会型API
           A実行型API
─────────────────────────────
 「照会型API」とは、外部の第三者や事業者が、内部の銀行
の顧客口座情報などを照会するものであり、「実行型API」と
は、外部の第三者や事業者が、銀行の顧客に対して、サービスを
直接提供することをいいます。
 金融機関にとって重要なのは「実行型API」です。第三者で
ある事業者が銀行の顧客口座データにアクセスすることによって
銀行の顧客データを利活用し、銀行では提供できない多様なサー
ビスを銀行の顧客に対して直接提供できるからです。
 これは、事業者、銀行のユーザー顧客、銀行の3者にメリット
をもたらします。事業者にとってはそれだけビジネスチャンスが
広がるし、銀行の顧客にとっては、利便性を享受でき、利用でき
るサービスが増えることになるからです。
 これによる銀行にとって何よりのメリットは、銀行では取得す
ることができない顧客に関する行動や位置情報を入手できること
です。これらの情報にとって、顧客ニーズに合致した銀行サービ
スを提供できるようになります。
 DBS銀行で、連携している第三事業者としては会計ソフトの
「ゼロ(Xero)」が代表的です。「ゼロ」は、オーストラリアを
はじめ、欧米諸国でシェアを拡大する次世代クラウド型会計ソフ
トです。ブラウザーベースのアクセスで、世界のどこにいても、
ネット環境があれば入力やチェックが可能で、多くの中小企業に
採用されています。入力項目や表示情報も最小限にとどめられな
がら、給与計算や在庫管理、固定資産の減価償却まで管理が可能
です。ゼロ社は、世界で158万社もの中小企業にサービスを提
供しています。
 DBS銀行は、これ以外にも多くの実行型APIを提供してい
ます。これについて、田中道昭氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 DBS銀行のコーポレートサイトには、他にもオープンAPI
の事例が紹介されています。DBS銀行のクレジットカードの使
用で貯まったポイントを第3者・事業者での購買に充当できるポ
イント還元API。住宅購入能力の事前審査やDBS銀行への住
宅ローン申し込みなど住宅購入支援API。第3者・事業者のA
TMを通してDBS銀行の口座からお金を引き出すことができる
送金API。モバイル決済システム「PayLah!」 をはじめ決済デ
ビッド、取引分析、使用金額上限の設定などペイメントAPI。
外国為替レートやDBS銀行の一般情報など情報提供API。こ
うしたAPIは現在200以上もあり、マクドナルド、グラブ、
フードパンダ、soCashなど60社以上が、パートナーとなってい
ます。                   ──田中道昭著
         『アマゾン銀行が誕生する日/2025年の
              次世代金融シナリオ』/日経BP
─────────────────────────────
 DBS銀行は、このように、実行型APIを数多く実施するこ
とによって、カスタマーエクスペリエンスの高度化を図ろうとし
ています。このカスタマーエクスペリエンスとは、顧客体験のこ
とです。カスタマーエクスペリエンスとは、しばしば「CX」と
呼ばれ、次のように説明されています。
─────────────────────────────
◎カスタマーエクスペリエンス/Customer Experience
 CXとは、「ある商品やサービスの利用における顧客視点での
体験」のことである。あくまでも顧客視点でとらえるべきであり
企業視点でとらえてはならない。
─────────────────────────────
 CXは、顧客が商品を購入する際の体験にとどまらず、購入前
の段階から購入後のサポートやサービスまでを通した、購買プロ
セスをとりまく顧客視点からの体験全体を対象としています。ま
た、CXは、その商品やサービス自体が直接的に顧客に提供する
体験だけではなく、その購入により顧客に非直接的にもたらされ
た体験も含みます。例えば、商品を提供する企業の雰囲気という
ものが良かったり、商品購入後に丁寧なサポートがあると、商品
を買ったことによる満足感を顧客に与えることができます。
 GAFA、とくにアマゾンはこのCXをとくに重視しているの
ですが、アマゾンの創業者ジェフ・ペゾス氏を崇拝するDBS銀
行のCEOは、実行型APIによる数多くのサービスの積み上げ
によってCXの高度化を図ろうとしています。これはこれからの
新しい金融機関のあり方を目指しているといえます。
             ──[デジタル社会論U/069]

≪画像および関連情報≫
 ●カスタマーエクスペリエンス(CX)とは?
  “体験への価値”を高めるために知っておきたいこと
  ───────────────────────────
   現代の日本では「買えないものはない」と言っても過言で
  はないほど、たくさんのモノやサービスにあふれています。
  そのため、商品やサービスなどの「物質的な価値」の提供に
  注力することは当然ですが、ここばかりに目を向けていては
  競合他社と差別化することは難しいのが現状です。
   例えば、「A社の企業・ブランドの商品やサービスを利用
  したい」という選び方ではなく「こういう商品やサービスを
  利用したいから探してみたらA社が1番やすかったから選ん
  だ」というユーザー行動が発生しやすくなります。
   そこで重要となってくるのが「カスタマーエクスペリエン
  ス(CX)」です。物質的な価値に加えて、ユーザーに対し
  てどのような「体験」を提供できるのか、にも注力すること
  で、「A社だから選んだ」というユーザーを増やすことがで
  きます。今回は、そもそもカスタマーエクスペリエンスとは
  なにか、についてご紹介します。あわせて意識するメリット
  3つや向上のために最低限知っておきたいポイント3つ、よ
  り考えやすくするための5つの分類についてもご紹介してい
  ます。なかなか自社の売上が伸びない、他社との差別化の方
  法に悩んでいる、などの場合は、カスタマーエクスペリエン
  スの見直しを検討してみてはいかがでしょうか。
                  https://bit.ly/3BXeCY9
  ───────────────────────────
CX/カスタマーエクスペリエンス.jpg
CX/カスタマーエクスペリエンス
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2021年08月03日

●「CXについてもう一度考えてみる」(第5543号)

 ここにきて、カスタマーエクスペリエンスとか、カスタマージ
ャーニーとか、カスタマーに関する言葉が多く出てきます。今日
のEJは、この問題について考えます。
 いつの頃からか、金融機関においても「顧客第一主義」という
ことが強くいわれるようになってきています。それは、2008
年9月のリーマンショックに端を発しているのではないかと思い
ます。なぜなら、リーマンショック以前の米国の金融機関のビジ
ネスモデルは、一言でいうと「投資家に金融商品を販売するため
に金融資産を創造する戦略」(Originate to Distribute 戦略)
に尽きるといえるからです。
 金融商品をオリジネート(創造)し、その組成された株式や債
券やローンを投資家にディストリビュート、すなわち販売し、そ
して、自社の資金で株や債券を売り買いするトレーディング──
このオリジネーション、ディストリビューション、トレーディン
グの3つは、米国金融機関の3大業務といわれていたのです
 『アマゾン銀行が誕生する日』の著者、田中道昭氏は、この当
時の米国の金融機関について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 「オリジネート・トウー・デイストリビュート戦略」は、残念
ながら、投資家の利益に大きく傾いていました。同時に、どこま
でいっても「銀行の論理」に貫かれていました。それは自身の財
務諸表を潤し、経営指標を改善し、株主を満足させるための戦略
であって、預金者や融資先の企業といったそのほかのステークホ
ルダーをなんら潤すものではなかったのです。
 そこには顧客志向という視点が決定的に不足していました。お
そらく当時の金融機関にはその自覚すらなかったことでしょう。
私自身も錯覚していたと反省しています。本来果たすべき金融の
役割を軽んじ、金儲けに走るばかりの金融機関に対して、批判の
声は高まり続けました。           ──田中道昭著
         『アマゾン銀行が誕生する日/2025年の
              次世代金融シナリオ』/日経BP
─────────────────────────────
 つまり、当時の金融機関には「顧客主義」という視点が決定的
に不足しており、金儲けばかりに走っていたといえます。しかし
このリーマンショックをひとつの契機として、いわゆる顧客主義
というものが強く前面に出てきたのです。そして、金融機関にそ
のヒントを与えてくれたのは、GAFA、なかでもアマゾンのビ
ジネスモデルです。
 ジェフベソス氏は、ネット市場において、どうすればものが売
れるか、そのカギを握るのはセレクション(品揃え)にあると見
抜いたのです。アマゾン市場には何でも商品があり、しかも品質
がよく、安いということになると、顧客満足度が上がり、それに
伴い、カスタマー・エクスペリエンスが向上します。これによっ
て多くの顧客がアマゾン市場を訪れるようになり、トラフィック
が増加し、当然その結果として売り上げが向上します。そうする
と、アマゾン市場に出品したいという業者が増加し、さらに品揃
えが豊富になるというサイクルです。ここで重要な意味を持つの
が「カスタマー・エクスペリエンス」です。
 改めて「カスタマー・エクスペリエンス」とは何でしょうか。
カスタマー・エクスペリエンス(Customer Experience) 、CX
とは、「顧客体験」あるいは「顧客体験価値」と定義されていま
す。それでは、CXと顧客満足度とは、どこが違うのかというと
言葉で明確に説明するのは困難ですが、顧客満足度は、顧客の製
品・サービスへの満足度に限定されるのに対してCXは製品やサ
ービスの合理的満足度だけでなく、製品やサービスを「知人や周
囲へ推薦したいか否か」といった支持レベルの感情的満足度を目
標としている点が違うとしています。
 カスタマー・エクスペリエンスについていくつもの記事を読ん
でみましたが、いまひとつはっきりしません。言葉で説明するに
は困難というか限界があるのです。UX(ユーザーエクスペリエ
ンス)という言葉もありますし、言葉で説明しようとすると、訳
が分からなくなってしまうのです。
 現在、CXは多くの企業で採用されていますが、その身近な企
業の一つとして「ソニー損保」があります。緊急事態宣言の巣ご
もりで家にいると、テレビをよく見る機会が多くなっていますが
そのとき、よく「ソニー損保」のCMを見るのです。
 ソニー損保では、顧客と直接コミュニケーションが図れるダイ
レクト保険会社です。ネット損保であり、顧客と保険会社の間に
代理店などが入らないので、代理店などにかかる中間コストを圧
縮することで、普通であればできない「濃いサービス」を実現す
ることができるのです。
 そこで、ソニー損保では、直接お客とコミュニケーションを図
るため次の3つの顧客接点を設けています。
─────────────────────────────
        1.  カスタマーセンター
        2.     お客様相談室
        3.   サービスセンター
        4.ロードサービス・デスク
─────────────────────────────
 何よりも驚くべきことは、この4つの顧客接点は、2を除いて
すべて「365日24時間対応」であることです。自動車事故は
いつ発生するかわからないし、多くの場合、顧客が初体験である
ことが多く、緊急的に対応がとれないと困るからです。
 つまり、自動車事故に遭うさいの顧客の不安はなにかというこ
とを徹底的に考えて、ソニー損保は対応しているのです。緊急事
故時には、無料のロードサービスにも対応しており、状況によっ
ては、セコムが現場に駆け付けるシステムにもなってします。そ
ういう同社の事故対応体験を一回でも受けると、カスタマー・エ
クスペリエンスが確実に向上することはよくわかります。
             ──[デジタル社会論U/070]

≪画像および関連情報≫
 ●カスタマー・エクスペリエンス(CX)とは?
  ───────────────────────────
   UI(ユーザーインターフェイス)は、ボタンやメニュー
  など、ユーザーとの接点です。スムーズかつ快適に目的達成
  できるよう、ユーザーが目にするもの・操作するものに工夫
  をするのがUIデザインです。迷わず、安心して利用できる
  環境を整えるために、どのようなボタンをどこに設置すべき
  か、どんな手順を設計すべきかといった点に頭をひねるわけ
  ですね。
   UIの良し悪しの指標として、ユーザービリティ・アクセ
  シビリティといった言葉が使われることもあります。ユーザ
  ービリティは「使いやすさ」の指標、アクセシビリティは何
  らかの障がいを持つ人や高齢者など、幅広い層が「使えるか
  どうか」を表す指標です。
   一方、UX(ユーザーエクスペリエンス)は、サイトやサ
  ービスを使うことによってユーザーが得る感情や経験のすべ
  てを示します。UIと似ていますが、異なるものです。たと
  えば「サービスは使いにくいけどユーザーが多くて楽しい」
  「サイトはわかりやすいが、コンテンツが少なく特に魅力を
  感じない」というように感じたことはありませんか。UIと
  UXは一体ではないため、UIはいいがUXは良くない(ま
  たはその逆)といった状態になることもあります。
   UIがわかりやすくUXも最高!というように両者が連動
  するケースも当然ありますが、UIとUXは別のものである
  ということを意識し、それぞれを明確に区別することが、問
  題点や改善手段の発見につながります。
                  https://bit.ly/3lhKAsc
  ───────────────────────────
ソニー損保のCM.jpg
ソニー損保のCM
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2021年08月04日

●「ソニー損保の顧客対応の凄さ探る」(第5544号)

 カスタマーエクスペリエンスに関連して、ソニー損保の話を続
けます。ソニーの金融関連企業には、生保、損保、銀行などがあ
りますが、いずれも既存企業よりも後発であるので、いわゆる過
去の業界の慣例にとらわれることなく、いずれも新機軸を打ち出
して成功を収めています。
 ソニー損保は、1999年に営業を開始し、2004年にソニ
ーフィナンシャルホールディングス株式会社が設立され、現在は
その傘下に入っています。そのソニー損保は、1999年のスタ
ートと同時に、「保険料は走る分だけ」の自動車保険を発売して
います。
 この保険は業界としては画期的ですが、「毎日運転する人と、
たまに運転する人の保険料が同じなのは不公平である」というユ
ーザーの声に応えたところに大きな意義があります。まさに顧客
視点に基づいてそれに応えた自動車保険といえます。
 しかし、他の損保会社は、個々の人の走行距離に関係なく一律
に保険料を集める方が営業効率が良いので、とくに大手の損保会
社はなかなか追随しようとしなかったのです。
 しかし、乗用車を仕事に使う人は別として、ほとんどの車のド
ライバーは、休日にしか乗らない人々です。したがって、この保
険は、そういう人がトクをする保険であり、ソニー損保としては
そういう保険があることが該当ユーザーに分かれば、必ず売れる
と確信したのです。
 「保険料は走る分だけ」──ソニー損保はCMやネットで徹底
的にこのメッセージを流し、ソニー損保といえばこのメッセージ
が頭に浮かぶほど浸透を図ったのです。その効果もあって、ソニ
ー損保の自動車保険は売れ始めたのです。しかし、大手損保はし
ばらく静観していたものの、2013年になって、東京海上保険
日動の子会社であるイーデザイン損保は、「保険料は走った分だ
け」の保険を発売しています。
 現在は、走行距離に応じて保険料の決まる自動車保険は数社が
発売していますが、その多くは「過去1年間の走行距離」に基づ
いて、保険料が決まります。しかし、ソニー損保の場合は予想年
間走行距離に応じて保険料を算出しているのです。ソニー損保は
「走った分だけ」ではなく、「走る分だけ」です。ここにソニー
損保のこだわりがあります。
 ソニー損保は、つねに顧客の声を聴くことに徹しています。そ
の一端が、ソニー損保のウェブサイト「お客様とソニー損保のコ
ミュニケーションサイト」に見ることできます。
─────────────────────────────
  ◎「お客様とソニー損保のコミュニケーションサイト」
    @コエキク改善レポート
    A   コエキク質問箱
    B   みんなの満足度
    C 保険なるほど知恵袋
                  https://bit.ly/2WAXF5y
─────────────────────────────
 Aの「コエキク質問箱」は、顧客からの質問や意見を受け付け
ています。「あなたの声を投稿する」という赤いボタンをクリッ
クすると、質問や意見を自由に投稿できます。
 それらの質問や意見に対するソニー損保としての対応として際
立っていることは、担当者が顔写真付きで答えていることです。
これは、顧客の質問や意見に対する企業として責任のある対応を
とっていることを示しており、評価できます。
 このように寄せられた顧客の質問と意見に対して、@の「コエ
キク改善レポート」において、ソニー損保としての改善への取り
組みや改善度を「@改善しました!」「A検討します!」「B申
訳ございません」の3つに分けて、それぞれに担当者が顔写真付
きで答えています。サイト上でここまでやっている企業は少ない
と思います。
 Bの「みんなの満足度」は、ソニー損保が実施する顧客満足度
アンケート調査の結果を公開しています。なかでもソニー損保の
「ロードサービス」は極めて充実しており、次の範囲に及んでい
ます。代理店を介さないダイレクト保険会社の特性です。
─────────────────────────────
     @事故車を修理工場に運ぶレッカーサポート
     A事故現場から帰宅までの費用の負担
     B修理後の車の自宅配送
     Cレンタカーの費用の負担
     Dその他
─────────────────────────────
 ソニー損保の自動車保険では、@〜Cの費用を無料でやってく
れるのです。事故が起きたとき、24時間対応でソニー損保と連
絡ができ、しかも、相手との全交渉を含め、事故車を修理工場に
運ぶレッカー費用の負担、しかも修理車を自宅まで無料で配送し
てくれるなど、至れり尽くせりです。ソニー損保の自動車保険の
契約者は、事故を起こしてないときも安心して運転ができるので
まさにカスタマーエクスペリエンスを体験できます。
 ソニー損保のロードサービスの満足度は次の通りです。
─────────────────────────────
      とても満足 ・・・・・ 88・3%
         満足 ・・・・・  9・9%
       やや満足 ・・・・・  0・5%
         不満 ・・・・・  0・9%
      とても不満 ・・・・・  0・4%
                  https://bit.ly/3fkFW9g
─────────────────────────────
 顧客にカスタマーエクスペリエンスを体験させる──これは、
ソニー損保のレベルの顧客対応をしなければ、なかなか難しいと
いうことがよくわかると思います。
             ──[デジタル社会論U/071]

≪画像および関連情報≫
 ●ソニー損保の自動車保険に優良ドライバーが年々溜まって
  いく仕組み/テレマティス保険
  ───────────────────────────
   テレマティクス保険は説明が難しい保険なので、ソニー損
  保ではウェブ専用とし、消費者からのプルを中心とすること
  に決めた。コールセンターは、あくまでも販売のサポートと
  位置づけた。ウェブでは動画を使って、当保険の契約から、
  キャッシュバックまでの流れを説明し、それを理解してくれ
  た消費者が契約まで進んでくれる。
   通常の自動車保険に割高感を感じる若年の優良ドライバー
  をターゲットとして発売したが、実際の加入者は若者も獲得
  できているものの、通常の自動車保険と同様、ボリュームゾ
  ーンの中年層が多数となっている。
   やさしい運転キャッシュバックのリピートに関しては、点
  数が高くキャッシュバックを受けた人のリピート率が高く、
  それに比べてキャッシュバックがなかった人のリピート率は
  低い傾向がある。すなわち年を経るに連れ、ソニー損保には
  優良ドライバーだけが溜まっていく仕組みと言える。
   テレマティクス保険の宿命としては、市場規模には限界が
  あり、全自動車保険の中でシェアを限りなく大きくすること
  はできない。それは、全ドライバーに占める優良ドライバー
  比率は大体決まっており、シェア10%程度なら優良ドライ
  バーだけが加入することはあり得るが、シェア30%となる
  と優良でないドライバーまでも獲得しなくてはならないから
  だ。彼らは保険料が割高になり、この保険にはもともと加入
  しないため、それは現実的ではない。
                  https://bit.ly/3xjjvr9
  ───────────────────────────
ソニー損保のCM2.jpg
ソニー損保のCM2
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2021年08月05日

●「CXが不可欠になった背景を探る」(第5545号)

 CX(カスタマーエクスペリエンス)が不可欠になった背景に
は次の3つがあります。
─────────────────────────────
      1.タッチポイントの増加・多様化
      2.カスタマーの価値観の大幅変化
      3.購買サイクルの長期化・複雑化
─────────────────────────────
 第1は「タッチポイントの増加・多様化」です。
 かつて企業と顧客のタッチポイントというと、対面か電話に限
られていたといえます。それがインターネットの出現・普及によ
り、ウェブサイトやメール、SNSなど、一挙に増加・多様化す
るようになっています。
 とくにスマホによるSNSの普及は、顧客自身が簡単に情報発
信する側に立てるようになり、企業と顧客の双方向の情報交換、
コミュニケーションがとれるようになってきています。これによ
り、顧客はモノを購入するとき、デジタルとリアルの店舗を回遊
して、意思決定をするようになっています。これを「カスタマー
ジャーニー」と呼ぶことがあります。これをもう少し、正確にい
うと、カスタマージャーニーとは、顧客が商品やサービスを知り
購入・利用意向をもって実際に購入・利用するまで、また利用後
に廃棄するまでに、顧客が辿る一連の体験を「旅」に例えてその
ように呼ぶのです。
 第2は「カスタマーの価値観の大幅変化」です。
 「モノ消費」から「コト消費」という、顧客の価値観の変化で
す。商品の所有に価値を見出す消費傾向を「モノ消費」、商品や
サービスを購入したことで得られる体験に価値を見出す消費傾向
を「コト消費」といいます。
 もうひとつ「商品のコモディティ化」ということがよくいわれ
ます。コモディティ化というのは、競合の結果として製品やサー
ビスについてあまり差がなくなり、顧客からみて「どの会社の製
品やサービスも似たようなもの」に映る状況をいいます。
 例えば、ソニー損保のようなサービスが普及し、どこの損保も
それが当たり前になる状況が「コモディティ化」です。そうする
と、顧客は製品やサービスを機能的な価値だけで判断することが
難しくなり、その他の価値観を比較・検討することが重要になっ
てきます。それがカスタマーエクスペリエンスが重視されるよう
になった背景になっています。
 第3は「購買サイクルの長期化・複雑化」です。
 企業は、製品やサービスを提供することだけを目指すのではな
く、購入前の認知、比較検討段階、購入後のサポートまでの長期
にわたる顧客の全体プロセスにおいて、顧客の維持、紹介の獲得
のため、それぞれのタッチポイントにおける戦略に気を配る必要
が必要になってきています。
 最近では、新たなテクノロジーを使った製品やサービス導入が
増加してきており、製品の購入には、製品・サービスの理解や、
導入後の実益や導入プロセスなどを検討する必要があるなど、従
来の購買サイクルよりも複雑化・長期化しています。
 なぜ、CX(カスタマーエクスペリエンス)がいま必要になっ
てきているのかについて、書いてきています。しかし、わかりに
くい、書きにくいテーマであることも確かです。しかし、CXを
実践している企業は多いのです。
 そこで、もうひとつわかりやすい例を上げることにします。米
大手コーヒーチェーン、スターバックスについて書かれた文章を
ご紹介することにします。
─────────────────────────────
 コーヒーチェーンの大手スターバックスは、店舗に訪れた顧客
へ「こんにちは」とあいさつしている。顧客一人ひとりの心を豊
かにし、一つのコミュニティーとして活動することを指標にして
いるのだ。
 心地のよい接客スタイル、店内の雰囲気やBGMにも顧客満足
度へのこだわりが見られる。デザイン性が高く評価されている商
品パッケージや季節限定商品なども、スターバックスならではで
あり、他店舗と差別化したサービスだ。顧客がそのサービスに感
動・共感し、「また訪れたい」とリピーターになることで、常に
店舗が盛況なのである。       https://bit.ly/3frdS3P
─────────────────────────────
 コーヒー店でおいしいコーヒーを出すのは当たり前です。そう
いう店はたくさんあります。しかし、人がコーヒー店に行くのは
単にコーヒーを飲むためだけではなく、そこでゆったりとした時
間を過ごしたいからです。スターバックスでは、何よりもリピー
ターを大切にし、顧客に次の体験を味わってもらうためのCXを
提供しています。
─────────────────────────────
 ◎スターバックスのミッション
 スターバックスの店舗をコーヒーをテイクアウトする場所か
 ら一日中快適に過ごせる場所にする。
─────────────────────────────
 そのための施策として、2002年にスターバックスは、無料
WiFiサービスを開始しています。まして昨今では、コロナ禍
のために在宅ワークが増えており、在宅ワークのためにも、店舗
でゆったりとした時間が過ごせることが条件になります。そのた
めに、コーヒー店としてはCXが不可欠なのです。
 私は、よく行く池袋の「伯爵」というレトロな喫茶店によく行
きます。場所が丸善ジュンク堂に近いこともあり、全体としてス
ペースにゆとりがあり、ゆったりとして過ごせます。簡単な食事
もできますし、味はレストラン並みです。しかも、コーヒーは2
杯目からは半額であり、ゆっくりと過ごしてもらおうという店の
配慮が感じられます。明らかにこの店がCXを意識していると思
われます。そういうカスタマーエクスペリエンスが今求められて
いるのです。       ──[デジタル社会論U/072]

≪画像および関連情報≫
 ●スタバの販促ゲーム/緑色のエプロン
  ───────────────────────────
   スタバがいろいろ仕掛けてきます。日本でも消費者の心を
  くすぐるような仕立てが、いろいろあるかと思いますが、こ
  ちら北米では今「スターバックス・フォア・ライフ」と称し
  まして、ビンゴゲーム仕立ての販促をしています。
   ローカルネタで申し訳ないのですが、見てやって下さいま
  し。それはよくあるお店のポイントを集めて何かが貰えると
  か、お買い上げに応じて×××とかって言うようなゲーム感
  覚のもので、こんな表になってウェブ上(私のアカウント)
  に現れてきます。
   一回のオーダーにつき、一つのコマが開きます。各列3つ
  揃えばビンゴ。賞品は、上から、スタバの一生分の珈琲チケ
  ット、1年分、1ヶ月分、1週間分、そして、ボーナススタ
  ーは単なるポイントです。
   このゲーム販促(販売促進)、確か冬にもあったんですけれ
  ど、なかなか揃いませんでした。最初は良いのですが、その
  うち同じ駒ばかり開いて重なるんですよ。いつも違うのが来
  るとは限らないんです。あと、ちょっと。あと一つ。
   だから今日ももう一杯。と、消費者を煽るんですね〜。今
  回も、まさにそのパターン。だって、あと一つで一生涯スタ
  バが無料なんて、嬉しいですから。と買いに行って、もう数
  回は同じ駒でした。それに実際、私の周りで当たった人って
  聞いたことはありません。    https://bit.ly/37eiOVg
  ───────────────────────────
スターバックス.jpg
スターバックス
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2021年08月06日

●「バーゼル委員会5つの近未来予測」(第5546号)

 バーゼル銀行監督委員会(BCBS)という機関があります。
この機関は、金融機関を対象とした国際的なルールを協議・決定
し、継続的な協力を行うためにG10(主要10カ国)諸国の中
央銀行総裁会議での合意によって創設された銀行を監督する最高
機関です。
 2017年10月31日のことですが、このバーゼル銀行監督
委員会が次のレポートを発行したのです。URLをクリックする
と、英文ですが、原文が読めます。
─────────────────────────────
  ◎健全な慣行とは何か:
  フィンテックの発展が銀行と銀行監督者にもたらす意味
                バーゼル銀行監督委員会
          https://www.bis.org/bcbs/publ/d415.pdf
─────────────────────────────
 このレポートでは、近未来の銀行について、5つのシナリオが
提示されています。以下、ひとつずつ説明します。
─────────────────────────────
        1.Better Bank
        2.New Bank
        3.Distributed Bank
        4.Relegated Bank
        5.Disintermediated Bank
─────────────────────────────
 第1は「Better Bank」です。
 これは、既存の銀行がデジタル化やフィンテック化に取り組み
より高度な金融サービスを低廉なコストで提供していく姿を想定
しています。そして、既存の銀行が依然として業界内において覇
権を握り続けるというシナリオです。現在、日本の各銀行はこの
シナリオの実現を目指して努力を続けています。しかし、どうし
てもレガシーなものが残るシナリオといえます。
 第2は「New Bank」です。
 これは、フィンテック企業が自ら銀行を設立し、フィンテック
の強みを生かして、既存の銀行に代わって、フルラインで高度な
金融サービスを提供するシナリオです。既存の店舗はデジタル店
舗に置き替えられ、その戦いのなかでレガシーの銀行は、新しい
銀行に敗れ去るというシナリオです。
 第3は「Distributed Bank」です。
 これは、第1のシナリオのベター・バンクと、第2のシナリオ
のニュー・バンクの中間的な位置づけになります。既存銀行とフ
ィンテック企業が相互に分業するシナリオです。
 このシナリオでは、APIの連携などにより、金融サービスの
提供や顧客チャネルの設置や運営を既存の銀行とフィンテック企
業が手分けして担っていくスタイルとなります。その結果、顧客
は、これまでのように、限定された銀行を繰り返し使うという慣
行から複数の金融機関を利用するようになります。
 第4は「Relegated Bank」です。
 このシナリオは、いわゆるビッグテックに代表されるプラット
フォーマーが顧客チャネルを掌握し、既存の銀行やその他のフィ
ンテック企業がその配下に組み込まれるというシナリオです。既
存の銀行にとって、最も避けたいシナリオであるといえます。
 自動車産業に譬えると、完成車組立メーカーとしての自らの地
位をブラットフォーマーに明け渡し、顧客チャネルから分断され
るかたちで、その配下に組み込まれた部品サプライヤーとしてモ
ジュール化された金融サービスを提供する姿が想定されます。
 ちなみに「Relegated 」とは、「左遷される」とか「格下げさ
れる」とか「退けられる」という意味です。
 第5は「Disintermediated Bank」です。
 5つのシナリオのなかで最も過激なシナリオといえます。既存
銀行は退けられ、フィンテック企業とメガテック企業に取って代
わられるシナリオです。いわゆる「銀行が破壊されるシナリオ」
であるといえます。ちなみに、「Disintermediated」とは「中抜
きされる」というような意味です。
 これらのバーゼル銀行監督委員会の分析のポイントは、顧客に
商品・サービスを提供するブレーヤーを次の2つに分類して分析
していることです。これは、添付ファイルの図を参照していただ
きたいと思います。とくに顧客接点は重要です。
─────────────────────────────
          @サービス提供者
          A   顧客接点
─────────────────────────────
 『アマゾン銀行が誕生する日』の著者の田中道昭氏は、バーゼ
ル銀行監督委員会の分析をふまえて、日本の金融機関に対して次
の3つの提言を行っています。
─────────────────────────────
@デジタル化がさらに進捗していくことが確実であるため、デジ
 タル化への対応を早期に実現すべき分野と、レガシーとして残
 ると判断される分野とを明確に峻別すること
Aデジタル化への対応を早期に実現すると意思決定した分野につ
 いては、重要な経営戦略として取り組むこと
Bレガシーとして残ると判断した分野については、人がやるべき
 ことをさらに先鋭化させ、専門性や信頼性をさらに高める努力
 が必要                  ──田中道昭著
         『アマゾン銀行が誕生する日/2025年の
              次世代金融シナリオ』/日経BP
─────────────────────────────
 2021年は、一貫して「デジタル社会論」について書いてい
ます。デジタル元年の今年は、今後もこのテーマを続けていきま
すが、「デジタル社会論/U」は、本日で終了します。10日か
らは、日本のデジタル化について「デジタル社会論/V」をお届
けします。    ──[デジタル社会論U/073/最終回]

≪画像および関連情報≫
 ●金融のデジタル化から考える、デジタルトランスフォーメー
  ション
  ───────────────────────────
   デジタルテクノロジーは凄まじい勢いで進化を続け、社会
  ・経済を大きく変えようとしている。私たちは、今、どうい
  った変化の潮目にいるのか。その中でデジタルテクノロジー
  とどう向き合うべきなのか。あらゆる産業に大きな影響を及
  ぼす金融のデジタル化をテーマに、世界の先進的な取り組み
  を考察するとともに、顕在化しだしたデータ活用の影の側面
  を整理し、デジタル社会の「信用の構築」に向けて留意すべ
  きポイントを考えていく。    https://bit.ly/3jl4rUL
 ●図の出典:田中道昭著/日経BPの前掲書より
  ───────────────────────────
銀行5つの近未来シナリオ.jpg
銀行5つの近未来シナリオ
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2021年08月10日

●「デジタル庁創設の真の目的は何か」(第5547号)

 2020年6月26日の記者会見で、麻生財務相は次の発言を
しています。
─────────────────────────────
  一番ひでぇのが首相官邸だな。しょっちゅう音が切れる
                  ──麻生太郎財務相
─────────────────────────────
 何の話かというと、テレビ会議の話です。中央官庁ではテレビ
会議のできるように必要な設備は一応整っています。しかし、そ
れがすぐ「音が切れたり、つながりにくくなる」というのです。
いつの話をしているのかというと、2020年の各省庁がそうい
う状態だといっているのです。どうしてこんな状態に、なってし
まっているのでしょうか。
 これについて、一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏は、近著にお
いて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 中央省庁は、オンライン会議システムについて、各省庁が個別
に日鉄ソリューションズ、NTTコミュニケーションズ、富士通
などと契約して通信網を構築した。そしてマイクロソフトの「ス
カイプ・フォー・ビジネス」やシスコの「ウェブエックス」など
をバラバラに採用してきた。
 同じ省庁内のオンライン会議は専用LAN(構内情報通信網)
を使うため支障はないが、他省庁や外部との会議では、システム
に接続ができず、わざわざ他省庁に出向いたり、会議に参加でき
なかったりする職員が出た。こうした記事を読んでいると、さら
に疑問が膨らむ。同じ省庁内でテレビ会議ができても、あまり意
味がない。せいぜい在宅勤務に使えるくらいだろう。実際には、
在宅勤務にも使えなかった。2020年5月には、テレワークの
申請を断られる職員が相次いだそうだ。容量の制限で回線に限り
があるからだ。     ──野口悠紀雄著/日本経済新聞出版
            『良いデジタル化/悪いデジタル化/
         生産性を上げ、プライバシーを守る改革を』
─────────────────────────────
 何のことはない。各省庁でIT予算をバラバラに取得し、大手
ITベンダーに丸投げして、それぞれ勝手なシステムを構築して
いたことになります。タテ割の弊害がモロで出ているということ
になります。
 要するに、2021年9月1日発足のデジタル庁の真の目的は
「IT調達予算の一元化」にあるのです。対象となる政府IT予
算は毎年およそ7000億円ですが、これまで各省庁が個別に要
求していたものを内閣官房に一本化することで、各省庁で同じよ
うなシステムをつくる無駄を省き、真に必要なデジタル投資を増
やすことに目的があるのです。
 しかし、デジタル庁を創設することで、それが本当にできるか
ということになると、これまでの日本のIT化の経緯を振り返る
と大きな疑問が生じます。これまでも同じようなことを繰り返し
てきているからです。
 日本は、2001年に「IT基本法」を制定しています。この
法律の正式名称は次の通りです。
─────────────────────────────
     高度情報通信ネットワーク社会形成基本法
    2000年11月制定/2001年1月施行
─────────────────────────────
 この法律は、インターネットの利便性を享受できる環境整備を
整え、同時に打ち出した「イー・ジャパン戦略」によってその実
現を図ろうとしたのです。「イー・ジャパン戦略」の政府文書に
は、次の記述があります。
─────────────────────────────
 我が国のIT革命への取り組みは大きな遅れをとっている。変
化の速度が極めて速い中で、現在の遅れが将来取り返しのつかな
い競争力格差を生み出すことにつながることを我々は認識する必
要がある。       ──政府「イー・ジャパン戦略」より
─────────────────────────────
 2001年というと、平成13年、森喜朗内閣のときです。森
首相はITを「イット」と呼んで話題となり、顰蹙を買ったもの
の、今から考えると、ITに関するいろいろな施策を展開して内
閣でもあったのです。森内閣は、企業へのPC導入を加速させる
ため、税制優遇措置を設けたり、全国レベルで無料のPC教室を
開いてITリテラシーをマスターさせるなどの施策が展開されて
いるのです。これは正しい対応といえます。
 さて、「イー・ジャパン戦略」では、必要なインフラ整備やそ
の用途である行政デジタル化目標を掲げていましたが、インフラ
整備の方は早急に達成できたものの、行政のデジタル化──電子
行政「国の全行政手続きのオンライン化」の方は、20年が経過
した2021年の現在でも完全に未達になっています。
 2006年の安部第1次内閣でも「IT新改革戦略」を掲げて
「世界一便利で効率的な電子行政」という目標を掲げているもの
の進んでいるとはいえないのです。しかし、全行政手続きをオン
ライン化する目標では、2018年には86%まで達成したもの
の、その利用件数は46%にとどまっており、2006年目標の
50%に届いていないのです。
 ここまでEJは、「デジタル社会論T」「デジタル社会論U」
として、主としてデジタル社会への変貌が金融機関にどのような
影響を与えるかの視点に立って書いてきましたが、今度は日本の
デジタル化の問題を中心に、次のタイトルにしたがって、書いて
いくことにします。
─────────────────────────────
  デジタル庁の創設で日本のデジタル化は本当に進むのか
   ── 日本のデジタル化政策の問題点を探る ──
─────────────────────────────
             ──[デジタル社会論V/001]

≪画像および関連情報≫
 ●デジタル庁を創設するという政府が、コロナ対策でデジタル
  を活用できないわけ
  ───────────────────────────
   政府は新型コロナに関する様々なデータを持っているはず
  です。それなのに、何故それらを公表しないのでしょうか。
   ・感染が拡大時および減少時に、人々の行動はどうだった
    のか。
   ・どのような行動を取れば、感染する可能性が高まるのか
    低くなるのか。
   ・旅行が原因の感染者は何人で行ったのか、何泊したのか
    移動手段は何だったのか。
   ・飲食が原因の感染者は何人で行ったのか、時間帯はいつ
    か、お酒を飲んだのか。
   政府がこれらのデータを具体的な数字で示せば、国民全体
  で避けなければならない行動を認識・共有することができま
  す。しかしそれができないのは、これらのデータを公表する
  と、これまでの政府が意固地になって続けてきた経済振興策
  「GоTо」事業や感染抑止の指針がおおよそ誤りだったと
  ばれてしまうからなのかもしれません。
   政府筋によれば、たとえば会食の参加者が4人や3人の場
  合でも感染者が増えているといいます。政府のいう「会食は
  4人以下で」という基準が、実は感染を拡大させていたとい
  うわけです。中世のヨーロッパで大流行したペストにしても
  第1次大戦中に世界中に拡大したスペイン風邪にしても、過
  去の歴史が私たちに教えてくれるのは、人々の移動の増加が
  感染症拡大の主たる原因になっているということです。
                  https://bit.ly/3jCNJ3i
  ───────────────────────────
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政府のIT戦略会議での森総理(当時)
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2021年08月11日

●「日本のデジタル改革目標は全未達」(第5548号)

 1990年代前期から2000年代初期にかけて、米国で「イ
ンターネット・バブル」という現象が起きています。具体的にい
うと、バブルは、ウインドウズ95が発売された1995年頃か
ら異常に膨らみはじめていたのです。投資家による新興のインタ
ーネット企業に対する実需投資や株式投資が、実態を伴わない異
常な高値になっていたからです。
 2000年を超えると、バブルが崩壊し、米国を中心にIT不
況に突入します。異常な熱狂を見せていた市場は急激に冷え込み
株価が暴落します。2000年4月だけで1割下落し、その後3
年間にわたって株価は下落を続けたのです。これにより、米国で
のIT関連失業者は56万人を超える規模に達しています。
 日本でも、光通信やソフトバンク、ヤフーといった著名IT関
連企業の株も大暴落しています。そして、2001年9月には、
米国で同時多発テロが発生し、米国はさらに深刻な不況に突入し
ていくことになったのです。
 実は日本では、1990年代後半にはネットビジネスが盛んに
なっていたのです。1999年にはECモールとして楽天(起業
当時は株式会社エム・ディー・エム)が起業していますし、JA
Lが世界に先駆けて、航空券のチケットレス販売をはじめるなど
ITの風が日本でも吹き始めていたといえます。
 日本の「イー・ジャパン戦略」はそのタイミングで発表された
のですが、米国発のITバブル崩壊による不況で、すべてが暗転
してしまいます。これによって日本政府のITに対する考え方が
一変したといえます。このときの状況を日経コンピュータ編集委
員の木村岳史氏は、「日経クロステック」誌(日経XTECH)
上で、次のように記述しています。
─────────────────────────────
 今思い出しても涙、涙である。楽天など一部は生き残ったが、
多くの新興IT企業がバタバタと倒れた。既存企業の間でも「ネ
ットビジネスは所詮虚業だ」などと言って、EC(電子商取引)
などから手を引く既存企業が続出した。ちなみに日本政府の取り
組みはどうだったか。イー・ジャパン戦略では「2003年まで
に、国が提供する実質的にすべての行政手続きをインターネット
経由で可能とする」とあるから、こちらもやはり笑うしかない。
                  https://bit.ly/3lHwVuM
─────────────────────────────
 しかし、このIT不況を乗り越えた米国企業があります。それ
がGAFAです。アマゾンやグーグルは、クラウドサービスを生
み出し、アップルはアイフォーンを世に送り出し、携帯電話のイ
メージを変貌させています。そして、フェイスブックは、SNS
を世界中に普及させています。さらに、このGAFAに続く新興
IT企業が続々と米国で誕生しています。
 そして現在、この大きく成長したGAFAが仕掛けるデジタル
ディスラプション(デジタルによる破壊)が日本において猛威を
振るうようになり、日本の脅威になりつつあります。日本は、自
ら掲げた「イー・ジャパン戦略」の目標が未達のまま、ずるずる
と現在まできてしまった大きなツケをこれから払わざるを得なく
なるといえます。
 この「イー・ジャパン戦略」の未達による日本の「デジタル敗
戦」について、平井卓也デジタル改革相は、インタビューで、次
のように述べています。
─────────────────────────────
 政府は2001年にIT基本法を施行しました。2001年の
「イー・ジャパン戦略」や2013年の「世界最先端IT国家創
造宣言」などのIT戦略も打ち出しました。どの公約も全く実現
できていません。しかも誰も責められていません。国民の期待も
あまり大きくなかったからでしょう。だからデジタル政策は他の
政策より優先順位が低かった。
 光ファイバー網や携帯電話のカバレッジといった通信インフラ
だけ見たら、日本はどの国にも負けていません。せっかく良質な
インフラがあるのに、新型コロナという事態でうまく使い切れな
かった。日本ほどの通信インフラを持たない国がITで成果を上
げたのに、日本は過去のインフラ投資やIT戦略が全く役に立た
なかった。「敗戦」以外の何物でもありません。
 結局、供給側が発想したデジタル化であり、国民起点でデジタ
ル化を考えていなかった。今進めている「縦割り打破」はまだ管
理者の発想です。国民からすれば受けたい行政サービスをどの省
庁が提供しているかは関係ない。「何省だ」と意識することこそ
が行政サービスのUI(ユーザーインターフェース)やUX(利
用者体験)を悪くしているのです。今までスマートシティにしろ
デジタル・ガバメントにしろ、上(中央政府)から下(国民)に
下ろす構造になつていました。反省すべき点です。
            ──日経コンピュータ編/日経BP刊
          『なぜデジタル政府は失敗し続けるのか』
─────────────────────────────
 なぜ、「イー・ジャパン戦略」や「世界最先端IT国家創造宣
言」の公約を日本が達成できなかったかについては、国民の期待
もそんなに大きくなかったとする平井デジタル改革相の意見はわ
かるような気がします。結局のところ日本人には、ITのなんた
るかがわかっていないと思うのです。
 IT革命、デジタル化、DX(デジタルトランスフォーメーシ
ョン)と、まるでバズワードのようにいろいろいわれますが、こ
れらはすべてデジタル化そのものです。これまで本気でこのデジ
タル化に取り組んでこなかったことが、昨今のコロナ禍を契機に
白日の下に露呈してしまったといえます。
 つまり、日本の行政がデジタル化できていない現実を国民にま
ざまざと見せつけてしまったのです。それでは、何をどのように
進めていけばよいのか、デジタル化に伴う日本社会のさまざまな
問題について考えていくことにします。
             ──[デジタル社会論V/002]

≪画像および関連情報≫
 ●日本のデジタル敗戦の挽回に必要な3つの視点
  ───────────────────────────
   「デジタル庁は、強力な司令塔機能を有し、官民を問わず
  能力の高い人材が集まり、社会全体のデジタル化をリードす
  る強力な組織とする必要があります」
   菅首相は2020年9月23日のデジタル改革関連閣僚会
  議でこう語った。今まさに政府のデジタル庁準備室で法整備
  が進んでおり、アイデアボックスで国民の意見を募るなど今
  までにない試みも行われている。しかし、デジタル庁が成功
  するかどうかは、この「強力な司令塔機能」を発揮できるか
  否かに尽きる。そのためにはどうしたらいいか。私見ながら
  以下の3点を指摘・提案したい。
   @司令塔機能の目的を日本社会全体のDXとする
   Aデジタル庁を各省より高い位置づけにする
   B最先端グローバル人材を確保するためデジタル庁を公務
    員の特区にする
   第1に、国家サイバー・パワーの中核を担うデジタル庁の
  創設目的は、日本社会全体のデジタル・トランスフォーメー
  ション(DX)を果たすのが望ましく、決して、省庁の行政
  システムの調達の一元化だけにとどまってはならないという
  点だ。先進国各国においてデジタル庁同様の組織は多くある
  が、その目的や権限はさまざまだ。https://bit.ly/3iyw79o
  ───────────────────────────
平井卓也デジタル改革相.jpg
平井卓也デジタル改革相
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2021年08月12日

●「オンラインよりも郵送の方が早い」(第5549号)

 日本のデジタルシステムがいかに不十分なものであるかを示す
格好の事例があります。コロナ禍の政府支援のひとつ、定額給付
金申請に使われたマイナンバーカードです。
 このときの安部首相の記者会見を毎日新聞の報道で以下に示し
ておきます。
─────────────────────────────
 安倍晋三首相は2020年4月17日、首相官邸で記者会見し
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、改正新型インフルエンザ
等対策特別措置法に基づく「緊急事態宣言」の対象地域を全国に
拡大したことを踏まえ、全国民に1人当たり10万円を一律給付
すると正式に表明した。現金給付の総額は、事業者向けも含め、
当初予定した6兆円から14兆円を上回る規模に拡大するとの見
通しを示した。(一部略)
 給付方法に関しては、郵送やオンライン申請を活用する考えを
示した。リーマン・ショック後の2009年に実施した「定額給
付金」では申請の確認などに時間を要し、予算成立から給付まで
3カ月かかったと指摘し「申請手続きの簡素化など工夫をしてで
きる限り早く国民にお渡しできるようにしたい」と述べた。だが
具体的な時期には触れず、「もっと判断を早くしておけば良かっ
た」と重ねて謝罪した。       https://bit.ly/3jIjibY
─────────────────────────────
 「給付方法に関しては郵送や『オンライン申請を活用する』」
──安倍首相がこういったのは、ここでマイナンバーカードを使
い、少しでも給付の速度を上げ、2009年の「定額給付金」の
給付の遅れと差をつけたかったことは確かです。それに加えて、
これを機にマイナンバーカードを一挙に普及させようと考えたの
です。しかし、それは無残な結果に終わっています。
 大きな問題点は2つあったのです。2つとも信じられないほど
あってはならない問題です。
─────────────────────────────
   @多くの市区町村が「マイナポータル」に未接続状態
   Aオンライン申請は市区町村の住民基本台帳と未連携
─────────────────────────────
 第1の問題点は、「多くの市区町村が「マイナポータル」に未
接続状態」だったことです。
 マイナポータルとは、政府が運営するオンラインサービスであ
り、子育てや介護をはじめとする行政手続がワンストップででき
たり、行政機関からのお知らせを確認できたりします。マイナン
バーカードの専用サイトになっています。
 このマイナポータルの行政サービスを市区町村が受けるには、
この内閣府のマイナポータルと市区町村がセキュリティレベルの
高い「LGWAN」というネットワークとつながっていることが
条件になります。
 しかし、安倍首相が1人当たり10万円の定額給付金を配ると
宣言した時点では、全国1741市区町村の半数近い806市町
村がマイナポータルと未接続の状態にあったのです。しかし、突
貫工事で、そのうち、679市区町村が5月1日のオンライン申
請開始に間に合ったといいます。
 第2の問題点は、「オンライン申請は市区町村の住民基本台帳
と未連携」であったことです。
 そもそも「LGWAN」に接続していないのは論外としても、
現金を配る以上、二重振り込みは絶対に防ぐ必要があり、そのた
めの本人確認は不可欠です。ところがオンライン申請のシステム
は、市区町村の住民基本台帳と連携していなかったのです。
 そのため自治体の職員には、オンラインで申請を受け付けた後
面倒くさくて、間違えやすく、しかも膨大な事務作業が待ってい
たのです。自治体の職員はオンライン申請された情報をダウンロ
ードすると、世帯員の住民票コードを手入力し、住民基本台帳と
照合し、申請者の氏名や生年月日などに誤りがないかを目で確認
しなければなりません。
 そして、振込口座情報と添付書類の画像とを照合し、銀行名が
旧名であったり、文字間のスペースがなかったりすることが多い
ので、一つひとつを確認して修正します。したがって、処理でき
るのは、週に1000件程度です。
 これに加えて、マイナンバーは、住所変更があったり、パスワ
ードを忘れた場合、カードは失効するので、再発行手続きが必要
になるのです。そのためのカード更新を求める住民も多く、これ
に対応するにもマンパワーが必要なので、現場は大混乱に陥って
しまったのです。
 東京の杉並区では、給付金以外の目的も含め、マイナンバー関
連の窓口に1日あたり約300人が押しかけ、4時間待ちになる
こともあったといいます。その結果、多くの自治体は「オンライ
ンよりも郵送の方が早く処理できる」と判断して、オンライン申
請の受付を停止し、郵送に切り替えています。「オンラインより
郵送の方が早い」とはまるでブラックジョークそのもの、ありえ
ない話です。同じようなことがワクチン接種の予約でも起きてい
ることは、記憶に新しいところです。
 これが特別給付金のさいにおきた騒ぎですが、これについて、
野口悠紀雄氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 私が不思議に思うのは、こうした実情にありながら、なぜ「ス
ピードを重視してオンラインにする」と、見栄を切ったのかであ
る。日本政府のトップは、マイナンバーカードの実情をまったく
知らなかったとしか考えようがない。自分の実力を知らずに見栄
を切るとは、随分乱暴なことをしたものだ。
            ──野口悠紀雄著/日本経済新聞出版
            『良いデジタル化/悪いデジタル化/
         生産性を上げ、プライバシーを守る改革を』
─────────────────────────────
             ──[デジタル社会論V/003]

≪画像および関連情報≫
 ●混乱する世帯単位給付金、マイナンバーが向かない理由
  ───────────────────────────
   国民1人当たりに10万円を支給する「特別定額給付金」
  のオンライン申請をめぐり、申請の受付や支払いを担う市区
  町村の現場が混乱している。誤入力や重複申請などの不備が
  相次ぎ、照合作業や確認に追われる職員からは、悲鳴が上が
  る。オンライン申請の受け付けを中止し、郵送申請に絞る自
  治体も現れた。
   オンライン申請中止の皮切りとなったのは、高松市。5月
  25日に取りやめ、郵送申請に一本化する。高知市や東京都
  八王子市なども追随している。当初はオンライン申請に必要
  なマイナンバーカードの普及が進んでいないことが、速やか
  な給付の妨げになるとも予想されたが、蓋を開けてみれば、
  カードがむしろ足かせになるような事態になっている。どう
  してこんなことになったのか。
   「そもそも今回の給付金に、マイナンバーカードがそぐわ
  ない」――。こう指摘するのはある県庁所在市の担当者だ。
  これまでに約6000件のオンライン申請が寄せられている
  が、振込先の口座番号の欄に氏名が記入されていたり、金融
  機関名が空欄だったりといった不備が、2割近くで見つかっ
  た。また、二重申請どころか15回も重複申請しているケー
  スもあるという。今回のオンライン申請は原則として、世帯
  主が家族分も申請する仕組みだ。しかし、マイナンバーカー
  ドには世帯主の情報しか記録されていない。そのため、世帯
  から抜けた子どもの氏名が誤って記入されているといったミ
  スが多発。役所側で住民基本台帳と突き合わせる必要が生じ
  作業が大幅に遅れている。 https://s.nikkei.com/3jJ3CVU
  ───────────────────────────
マイポータルと地方公共団体との関係.jpg
マイポータルと地方公共団体との関係
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2021年08月13日

●「テレワークも満足にできぬ官公庁」(第5550号)

 今回のテーマの第1回で、中央官庁のテレビ会議が機能してい
ないことを述べましたが、それを裏づける日本経済新聞の記事を
見つけたので、次に示しておきます。
─────────────────────────────
◎ちぐはぐ通信網、テレビ会議さえできず
 役所のデジタル化の遅れは著しい。2020年4月に緊急事態
宣言が出ると綻びは隠せなくなった。ある官庁では企業からコロ
ナ禍の影響を聞くテレビ会議の途中で音声が切れた。コロナ対策
の打ち合わせなど重要な会議は結局、対面での開催が続いた。国
土交通省では、5月、テレワークの申請を断られる職員が相次い
だ。容量の制約で回線に限りがあり、早い者勝ちだった。
 政府は、2020年度補正予算で霞が関の計700課に米シス
コシステムズのテレビ会議システム「Webex」 のIDを配ってい
る。WiFiルーターも配り、急場しのぎで私用端末と外部回線
によるテレビ会議を開けるようにした。サイバー攻撃への対処な
ど、セキュリティーの不安は拭えない。
 そもそも今の中央省庁のLANは動画などの大容量データのや
りとりに向かない仕様になっている。隣の官庁との間でも安全基
準の違いなどからテレビ会議をつなげないことがある。2つの省
庁を兼務する官僚は双方のLANで業務をするため2台のパソコ
ンを使うケースもある。ちぐはぐなシステムが無駄を生む。
      ──2020年6月23日付、日本経済新聞電子版
               https://s.nikkei.com/37Aoitz
─────────────────────────────
 ここで述べられていることは、第1回の緊急事態宣言が発出さ
れた時期に起きています。このときは、新型コロナウイルスとい
う得体のしれないウイルスに対して、国民は強い警戒感を持って
いましたし、あのシブチン政府が全国民に10万円もの大金を配
るという非日常的なことも起きていたからこそ、国民は、外出自
粛も本気で守ったし、中央官庁においても通常では絶対にやらな
いことを許可しています。
 1つは、ZOOMなどと同様に、ごく一般的な米シスコシステ
ムズのテレビ会議システム 「Webex」を導入し、私用端末(スマ
ホ)の使用を認めています。つねに専用回線にこだわる官庁とし
ては珍しいことです。
 「BYOD(ビーワイオーディー)」という言葉があります。
これは、従業員が個人保有の携帯用機器を職場に持ち込み、それ
を業務に使用することをいいます。BYODは、次の言葉を省略
したものです。
─────────────────────────────
       BYOD/Bring Your Own Device
─────────────────────────────
 民間であまねく使われるテレビ会議システムを採用し、BYO
Dまで認めるというのは、官庁としては画期的なことですが、こ
れはあくまで緊急対応であり、次があるといいます。2020年
度予算の第2次補正予算に数億円を計上し、各省庁のLANを統
合する通信網を作り、各省庁の業務端末によるテレビ会議システ
ムを目下進めているというのです。
 確かに官庁の場合、セキュリティの問題がありますが、なぜ、
巨額のお金をかけて、屋上屋にシステムを積み重ねる愚を犯すの
か理解に苦しみます。警察や防衛関係などの特殊な部局は別とし
て、世間に一般に幅広く使われている会議システムを採用し、そ
の分セキュリティは厳重にすればよいと思います。
 なお、コロナ禍によって、テレワークの普及が強く求められて
いますが、日本の場合、否定的な意見が少なくないのです。「テ
レワークの最新動向と総務省の政策展開」によると、テレワーク
しない理由について、次のようになっています。
─────────────────────────────
 テレワークに適した仕事がない ・・・・・・・ 74・2%
 情報漏洩が心配なため ・・・・・・・・・・・ 22・6%
 導入するメリットがよくわからない ・・・・・ 18・4%
 社内のコミュニケーションに支障があるため ・ 11・3%
 社員の評価が難しいため ・・・・・・・・・・  8・8%
 ──「テレワークの最新動向と総務省の政策展開」/2019
─────────────────────────────
 この調査で示されている回答は、テレワークをやってみて無理
であると判断したというよりも、やってみないでできないと決め
ている感じがします。確かに営業など、テレワークが困難な業務
は多くありますが、営業であっても、テレワークを利用してコン
タクトレス営業の展開を試みるなど、業務の内容を考え直すこと
によって、テレワークができる余地は大きいのです。
 なぜ、いまテレワークが必要なのかというと、労働生産性を高
める必要があるからです。なぜなら、日本の労働生産性は他国に
比べて低いのです。2018年のデータによると、日本は米国の
58・5%でしかなく、韓国、トルコ、スロヴェニアなどに抜か
れてしまっています。ちなみに世界トップはアイルランドですが
日本はそのわずか40%しかないのです。野口悠紀雄氏は、労働
生産性について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 「テレワークの最新動向と総務省の政策展開」は、テレワーク
を導入していない企業の労働生産性は599万円であり、テレワ
ークを導入している企業の労働生産性957万円の1・6分の1
でしかないことを指摘しています。
   テレワークを導入していない企業の生産性=
     (営業利益+人件費+減価償却費)÷従業員数
            ──野口悠紀雄著/日本経済新聞出版
            『良いデジタル化/悪いデジタル化/
         生産性を上げ、プライバシーを守る改革を』
─────────────────────────────
             ──[デジタル社会論V/004]

≪画像および関連情報≫
 ●日本の「1人当たり労働生産性」は世界37位
  1位はどこ?
  ───────────────────────────
   世界の「今」と「未来」が数字でわかる。印象に騙されな
  いための「データと視点」人口問題、SDGs、資源戦争、
  貧困、教育――。膨大な統計データから「経済の真実」に迫
  る!データを解きほぐし、「なぜ?」を突き詰め、世界のあ
  り方を理解する。
   著者は、「東大地理」を教える代ゼミのカリスマ講師、宮
  路秀作氏。日本地理学会の企画専門委員としても活動してい
  る。『経済学は統計から学べ』を出版し(6月30日刊行)
  「人口・資源・貿易・工業・農林水産業・環境」という6つ
  の視点から、世界の「今」と「未来」をつかむ「土台として
  の統計データ」をわかりやすく解説している。
   日本の労働生産性は低いと言われています。本当でしょう
  か。数字で詳しく見ていきましょう。
   「1人当たり労働生産性」という指標があります。これは
  実質GDP総額を総就業者数で割って算出した値で、ILO
  (国際労働機関)による統計です。「労働の成果」を「労働
  の量」で割ったものであり、労働者1人が生み出す労働の成
  果を指します。日本でも「働き方改革」と称して、長時間労
  働の是正、業務の効率化による労働生産性の向上などの意識
  が高まっています。実際に、「日本は労働生産性が低い」と
  いわれることが多く、解決は急務です。
                  https://bit.ly/3jK6BgX
  ───────────────────────────
テレワーク.jpg
テレワーク
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2021年08月16日

●「コロナは自宅療養に向いていない」(第5551号)

 緊急事態宣言が発令されているのに、新型コロナウイルスの感
染拡大に歯止めがかからない状態が続いています。13日の新規
感染者数は、2万366人で、東京都は5773人で過去最多を
更新しています。重傷者は8月14日正午現在、1521人で、
これも過去最多の更新です。まさに現在日本は、本物の「緊急事
態」に陥っています。
 コロナの問題とデジタル化の問題は密接に関係しており、今朝
はこの問題について書きます。現在、「自宅療養者」と称する入
院待機者は、計3万人を超えています。
 この時期に政府は、突然「コロナによる入院は重症者に限る」
という方針を出しています。目的は、感染者が急拡大し、軽症者
を自宅に戻し、重症者のために、ベットを空けざるを得なくなっ
たことにあります。これは、医療体制の崩壊そのものですが、こ
のことを発表するさいの菅首相や田村厚労相の話しぶりをみると
深刻ぶりはなく、平然と話しているように見えたのです。
 しかも既にそのときに入院を待機している自宅療養者が約1万
7000人(本稿執筆時の8月14日現在、約3万人)もいたの
です。これらの自宅にいる感染者は全員が軽症者ではなく、入院
が必要であるのにベットが空かないので、やむを得ず自宅にいる
患者の数です。政府はこれらの患者の存在を知っているのに入院
制限をアナウンスしたのです。
 政府の入院制限に対しては、野党はもちろんのこと、与党のな
かからも強い批判が出て、政府は修正を余儀なくされたのです。
どのように修正したかというと、中等症を次の2つに分け、中等
症Uに関しては「入院が必要」と認めたのです。
─────────────────────────────
 中等症T ・・・ 酸素の吸入は必要がない → 自宅療養
 中等症U ・・・ 酸素の吸入が必要である → 入院必要
─────────────────────────────
 しかし、その時点で自宅で入院を待機している感染者のなかに
は中等症Uの患者が多くおり、これらの人が入院できるわけでは
ないのです。現在、この入院待機者が約3万人に膨れ上がってい
ます。今回の入院基準の修正によっても、これらの待機者が減る
状況にはなく、積み上がる一方です。
 コロナ感染症は、重度の肺炎を引き起こす恐ろしい病気です。
しかも軽症から重症化するスピードが早い。しかし、多くの日本
人に肺炎は主として高齢者がなる病気のひとつとして認知されて
いますが、世界では若年者がかかりやすい病気として知られてお
り、とらえ方が異なります。
 「肺炎」の専門サイトによると、肺炎の死亡率について、次の
ように説明しています。
─────────────────────────────
 厚生労働省によると、肺炎にかかって亡くなる人の割合は、主
な死亡原因で亡くなる方全体の9・4%を占め、悪性新生物(が
ん)の28・7%、心疾患の15・2%の次に、多くなっていま
す。肺炎は世界的に見ても、死亡率の高い病気なのです。
 驚くべきことに、海外の肺炎で亡くなる年代はおもに児童や乳
幼児と若年者に多く、2015年には肺炎が5歳未満の子供の死
因理由として15%を占めています。また、世界中で見ても92
万人の子供が肺炎で死亡しているのです。
                  https://bit.ly/3xLztdy
─────────────────────────────
 政府は、自宅療養者に対して、保健所ないし医師から、電話や
LINEなどによって、病状を聞き、それによって適切に対応し
ているとしていますが、実際には保健所のマンパワーが絶対的に
不足しており、当時1万人以上もいる自宅療養者のすべてに、適
切な対応がとれるはずがないのです。
 ところで、医師が、肺炎という病気をどのようにして診断する
かご存知でしょうか。
 医師は、患者に対して息を吸ったり吐いたりさせ、その呼吸音
を聴診器で聞き取ります。続いて、パルスオキシメーターを指に
挟んで、血中の酸素濃度の数値を調べます。その数値が96%以
上あれば、肺炎ではないと診断できます。
 呼吸音の異常や、パルスオキシメーターの数値が低いなど、肺
炎が疑わしい場合は、CTを撮って、肺炎の有無を確認するので
す。CTを撮ってはじめて肺炎が確認できます。医師は「息苦し
くないですか」とよく聞きますが、息苦しさは本人は意外に気が
付かないものです。実際問題として、本人が、気づくようになっ
たときは遅いのです。
 自宅療養者に対しては、保健所からパルスオキシメーターが貸
与される決まりになっていますが、これも自宅療養者が激増して
いるので、行き届いていないようです。既に述べているように、
自宅への聞き取り連絡もほとんどできない状況です。このことか
ら医師によるオンライン診療の実施も検討されているようです。
 しかし、肺炎の場合、医師による聴診器による呼吸音の聞き取
りも、CT撮影もオンライン診療では不可能です。息苦しいかど
うかの聞き取りも本人に強い自覚症状がないので、十分ではあり
ません。やれるのは、パルスオキシメーターの数値のみです。そ
ういう意味において、肺炎は遠隔診療に最も不向きで、困難な病
気であるといえます。
 8月13日、菅首相は「酸素ステーションを作る」といってい
ますが、そのようなものがすぐに作れるのでしょうか。肺炎とい
う病気の性格がわかっていれば、十分時間があったのですから、
なぜもっと早く作ることはできなかったのでしょうか。すべてが
後手に回っています。
 もうひとつ問題なのは、野党が首相出席による国会の閉会中審
査を求めているのに、菅首相は一度も出てこないことです。これ
は怠慢といわれても仕方がないと思います。首相に聞いたらきっ
と「それは国会がお決めになることです」と答えるでしょう。
             ──[デジタル社会論V/005]

≪画像および関連情報≫
 ●菅首相、感染激増で「再選どころではない」窮地に
  ───────────────────────────
   (入院制限に対する)こうした政府の迷走に、8月4日の
  閉会中審査で公明党の高木美智代氏が「撤回を含め、検討し
  直してほしい」と要求。立憲民主党の長妻昭副代表(元厚労
  相)は「人災だ」と口を極めて批判した。これを受けて立憲
  民主、共産、国民民主の主要野党3党の国対委員長は同日の
  会談で、政府に方針撤回と臨時国会の早期召集を求めること
  で一致した。菅首相や政府への批判が渦巻く中、自民党の二
  階幹事長が3日、菅首相の任期満了(9月30日)に伴う自
  民総裁選について、「再選が当たり前」と発言したことも批
  判を増幅させた。二階氏は「現職が再選される可能性が極め
  て高い。菅首相に「続投してほしい」との声が国民の間にも
  強い」と菅首相続投支持を明言した。
   二階氏はさらに、「総裁選は総裁たりうる人が手を挙げる
  そういう人が複数あった場合に選挙になる。今のところ複数
  の候補になる見通しはない」として、現状では菅首相の無投
  票再選が当然との見方を示した。
   この二階氏発言もネット上で大炎上。「二階氏はボケてい
  る」「真夏の怪談で失笑の嵐」「(菅首相と)2人でどこか
  違う国へ行って永遠にやっていれば良い」などと過激で辛辣
  なコメントがあふれた。緊急事態宣言発令以降も東京を中心
  に新規感染者は増え続け、一向にピークもみえてこない。
                  https://bit.ly/3jS2RtY
  ───────────────────────────
入院基準について話す菅首相.jpg
入院基準について話す菅首相
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2021年08月17日

●「厚労省による屋上屋システム構築」(第5552号)

 2020年6月頃の話ですが、病院ではマスクや防護服などの
必須の医療部品が不足してコロナ医療に支障をきたすという事態
が発生したのです。
 厚労省は、こういうときに備えて「EMIS」というシステム
を用意し、2006年から運用を開始しています。阪神淡路大震
災が発生したさいに医療機関同士で情報をうまく共有することが
できず、特定の病院に患者が集中するなど効率的な災害対応がで
きなかったことを教訓として構築されたシステムです。EMIS
は、次の言葉の省略したものです。
─────────────────────────────
    ◎EMIS
     Emergency Medical Information System
─────────────────────────────
 したがって、もしEMISがちゃんと機能していれば、必要な
医療物資が病院で不足するはずがなかったはずなのです。ところ
が、肝心な医療物資の項目は「医薬品・衛生資器材」とあるだけ
で、必要な物質ごとの必要数を入力できなかったのです。愕然と
した厚労省は、EMISの開発やメンテナンスを担当していたN
TTデータに対応を指示しましたが、担当者から戻ってきた返答
は、次のようなものだったのです。
─────────────────────────────
 もし、システムを改修するとなると、大改修になり、関係者の
同意や改良後の動作検証などが必要となるので、月単位の時間が
かかる。
 ──NTTデータ三嶋大二郎救急医療ソリューション担当部長
        2020年6月25日付、日本経済新聞電子版
               https://s.nikkei.com/3CQD0eo
─────────────────────────────
 「月単位」と聞いて厚労省は、このシステムの改修をあきらめ
急遽臨時のシステムを作って対応したと思われます。明らかな二
重投資です。厚労省の地域医療計画課は、「EMISは自然災害
に特化していたため」と釈明していますが、2018年春の救急
・災害医療提供体制に関する有識者会議で、専門官は「感染症流
行時でも使える」と明言しているのです。
 それでは、EMISは自然災害時には本当に役に立っていたの
でしょうか。実は2018年と2019年の地震時にEMISは
接続不良に陥っています。このとき、さすがの厚労省も肝心の有
事に使えないシステムに見切りをつけ、神奈川県で使っているク
ラウド型医療情報システム(サイボウズのサービスを利用)を採
用し、乗り切っています。EMISがなぜ肝心なときに、役に立
たないのかについて、日本経済新聞は次のように書いています。
─────────────────────────────
 厚労省はシステム所有者のNTTデータに任せっきりだった。
古い技術に機能が次々と加わり、肥大化。国と自治体が支払う年
間利用料は計3億円以上となり、国の負担は10年前の2倍を超
えた。厚労省は技術に疎く、NTTデータは維持管理で稼ぐこと
に執着する。自前の専用サーバーを持たずにネット上で設計を柔
軟に変えられるクラウド技術を敬遠してきた。
        2020年6月25日付、日本経済新聞電子版
               https://s.nikkei.com/3CQD0eo
─────────────────────────────
 いざというためのシステムが、いざというとき役に立たない。
まるでマンガです。システムがあまりにも複雑で、硬直的であり
後からの追加や修正に時間や手間がかかり、使い勝手がよくない
システムになっていたのです。
 それでは、クラウド型医療情報システムを導入したのだから、
EMISは廃止するのかというと、残すというのです。医師派遣
や搬送患者の情報登録など、新システムにない機能があるからだ
というのが理由です。これでは、システムが屋上屋になり、コス
トも何倍もかかることになります。
 厚労省ひとつとっても、ロコナ禍のような非常時になると、大
金を使って、いくつものシステムを屋上屋に開発し、積み上げて
しまうのです。それらが全体としてどのように関連しているのか
全体層が不明確になっています。新型コロナウイルス関連に絞っ
ても、以下のようにたくさんのシステムがあるのです。
─────────────────────────────
▼ワクチン関係
 V−SYS:ワクチン接種円滑化システム
 VRS:ワクチン接種記録システム
▼災害時医療情報共有
 EMIS:広域災害緊急医療情報システム
 GMIS:
 新型コロナウイルス感染症医療機関等情報支援システム
▼感染症の発生状況の把握
 HER−SYS:
 新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム
 MESID:感染症発症動向調査
 COCOA:新型コロナウイルス接触確認アプリ
▼検疫
 空港検疫業務システム
 統合型入国者健康情報等管理システム
▼人材配置
 Key−Net:医師・看護師・医療人材の求人情報サイト
─────────────────────────────
 一番問題なのは、システムの発注側である厚労省の担当者が、
システムのことをまるでわかっていないことです。したがって、
システムの開発目的、何ができて何ができないか、既存システム
との関連性や機能、使い勝手にいたるまで、システムベンダーに
すべて設計を丸投げしてしまうのです。
             ──[デジタル社会論V/006]

≪画像および関連情報≫
 ●『倉持仁院長 菅首相に「僭越ながら申し上げます」酸素
  ステーションについて』へのユーザーの意見まとめ
  ───────────────────────────
   菅義偉首相 宇都宮市「インターパーク倉持呼吸器内科」
  の倉持仁院長が14日までにツイッターに投稿し、菅義偉首
  相が新型コロナウイルス対策として「酸素ステーションを」
  と述べたことに、「今どこかわからない国から空爆を受けて
  いるような日本。血だらけで手当が必要な人がたくさんいる
  のに酸素ステーションってなんだよ」と疑問を呈した。
   倉持院長は、菅首相が「酸素ステーション」について13
  日に発言したことを報じる記事を引用し、「こういった指示
  はオリンピック中に出しておくべき事。僭越ながら申し上げ
  ますが、酸素投与しなくて済むように投薬が必要です。コロ
  ナに対する酸素投与はあくまでも対症療法です。数もそんな
  にありません。ワクチンワクチンいうのはワクチンがきてか
  らお願いします!」と投稿した。
   さらに別の投稿で倉持院長は「コロナを見る医療体制を整
  えるには診療報酬制度で明確に決めなければ無理。医師会が
  勝手に病床作れっていってやったら罰せられます。きちんと
  国会で法整備し政治判断で早急に行うべき事。エビデンスな
  いね。これできないよねーって、安易に素人関係閣僚で票を
  考え、現状でできる事で対応が無能無責任」とも記した。
   倉持院長はまた、「今どこかわからない国から空爆を受け
  ているような日本。血だらけで手当が必要な人がたくさんい
  るのに酸素ステーションってなんだよ。空爆を止めさせるの
  が国の仕事!今すぐこんばんはガースーです、空爆をやめて
  くださいっていってください」と皮肉をまじえて要請した。
                  https://bit.ly/3jYXcSI
  ───────────────────────────
新型コロナに関係する情報システムの全体像.jpg
新型コロナに関係する情報システムの全体像
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2021年08月18日

●「日本の世界政府/第14位の評価」(第5553号)

 「電子政府」という概念があります。国民にICTが利用でき
る環境を提供し、各省庁間の事務および対国民との各種手続にI
CTを用いることにより、費用および人員削減、効率化、国民の
利便性の向上および満足度を高めることを目ざすものです。
 「電子政府世界ランキング」というものがあります。国連の経
済社会局(UNDESA)が発表しているもので、その2018
年度と2020年度の順位を以下に示します。日本は、2018
年度は10位ですが、2020年は14位に転落しています。
─────────────────────────────
          ◎2018         ◎2020
  @デンマーク    0.9150 @デンマーク    0.9758
  Aオーストラリア  0.9053 A韓国       0.9560
  B韓国       0.9010 Bエストニア    0.9473
  C英国       0.8999 Cフィンランド   0.9452
  Dスウェーデン   0.8882 Dオーストラリア  0.9432
  Eフィンランド   0.8815 Eスウェーデン   0.9365
  Fシンガポール   0.8812 F英国       0.9358
  Gニュージーランド 0.8806 Gニュージーランド 0.9339
  Hフランス     0.8790 H米国       0.9297
  I日本       0.8783 Iオランダ     0.9228
  Jドイツ      0.8765 Jシンガポール   0.9150
  Kオランダ     0.8757 Kアイスランド   0.9101
  Lノルウェー    0.8557 Lノルウェー    0.9064
  Mスイス      0.8520 M日本       0.8989
                  https://bit.ly/3jUByiB
─────────────────────────────
 順位を決めている数値は、EGDIといいますが、2020年
の日本の数値は「0.8989」、この数値を2018年にあて
はめると、2018年なら第5位になります。デジタル化の競争
は厳しいのです。
 「EGDI」とは何でしょうか。簡単に説明できる数値ではあ
りませんが、何によってEGDIが決まっているかについて、少
し詳しく説明することにします。
 EGDIは「電子政府発展度指標」といい、国連の経済社会局
が各国のデジタル進捗効果をまとめたものです。なおEGDIは
次の言葉を省略したものです。
─────────────────────────────
    ◎「電子政府発展度指標」
    EGDI/e-government development index
─────────────────────────────
 EGDIは、OSI、HCI、TIIという3つの指標の平均
に基づいて算出されます。これらの3つの指標について、次にま
とめます。
─────────────────────────────
    ◎OSI:オンラインサービス指標
     Online Services Index
    ◎HCI:人材指標
     Human Capital Index
    ◎TII:通信基盤指標
     Telecommunications Infrastructure Index
─────────────────────────────
 第1の指標は「OSI/オンラインサービス指標」です。
 婚姻届、出生届といった、さまざまな申請や手続きのオンライ
ン化など、行政サービスのオンラインカバレージによって算出さ
れます。サービスだけでなく、ウェブによる国の情報公開や、情
報に対してのアクセスの容易性なども、評価の対象になっていま
す。データソースは、国連事務局の独自調査と、各国に対するオ
ンラインサーベイの回答です。
 第2の指標は「HCI/人材指標」です。
 成人(15歳以上)の識字率、初等・中等および中等教育に在
籍する就学率、一定の年齢に達した児童が、将来受けることが期
待できる学校教育の年数、その国の成人人口(25歳以上)が就
学した平均教育年数の4つから出される総合指標。UNESCO
(国際連合教育科学文化機関)がデータソースになっています。
 第3の指標は「TII/通信基盤指標」です。
 100人当たりのインターネットユーザー数、100人当たり
のモバイルユーザー数(電話のみを含む)、アクティブなモバイ
ルブロードバンドユーザー数、100人当たりの固定ブロードバ
ンドユーザー数という4指標の平均に基づく複合指標。WB(世
界銀行)とITU(国際電気通信連合)がデータソースです。
 指標の範囲は、0.0〜1.0で、2020年の世界全体の平
均値は0.60です。平均値は、2016年の0.49、201
8年の0.55から堅調に伸びています。
 このEGDI指標で、0.75を超えればトップグループとい
われますが、そのトップグループは、2016年は29か国、2
018年は40か国、2020年は57か国であり、着実に伸び
ています。
 この基準で2020年の日本のEGDI指標、0.8989は
決して悪い方ではありませんが、それでも世界14位。3つの指
標のそれぞれは次のようになっています。
─────────────────────────────
 ◎2020年世界14位/日本
  OSI:オンラインサービス指標/世界11位
  HCI:人材指標世界/世界14位
  TII:通信基盤指標/世界 6位
─────────────────────────────
 日本の世界14位に大きく貢献しているのは、通信インフラの
高度化にあります。インフラは優れているのに、その利用に関し
ては日本は世界に大きく後れをとっています。
             ──[デジタル社会論V/007]

≪画像および関連情報≫
 ●日本の電子政府が「評価外」? “デジタル化先進国”デン
  マークや韓国、英国との違いとは
  ───────────────────────────
   ハンコ廃止やデジタル庁の発足を契機に、政府のデジタル
  化への取り組みが加速している。しかし、国連が発表してい
  る電子政府ランキングでは、デンマークや韓国、エストニア
  などの先進国に大きく水をあけられているのが実態だ。そも
  そも、日本政府がデジタル化に取り組んだのは、これが初め
  てではない。にもかかわらず、なぜこれほど差が付いたのは
  なぜか。先進国との違いを分析し、日本の課題と取り組むべ
  き対策を整理する。
   新型コロナウイルスの感染が拡大する中、河野行政改革相
  による押印廃止、デジタル庁の発足など、行政のデジタル化
  への取り組みに注目が集まっている。
   一方で、日本政府のデジタル化の取り組みに対する世界的
  な評価は低い。国連が2020年7月に発表したデジタル政
  府の開発状況を示したEGDIで、日本は14位と2018
  年の前回調査(10位)から順位を4つも落としている。
   20年以上も前から、日本はデジタル構想を打ち出してい
  るものの、その取り組みは一向に進まない。その原因を特定
  し、問題を解決しないまま菅政権が行政デジタル化を進めれ
  ば、その莫大な投資がムダになる可能性も否定できない。
                  https://bit.ly/37LmePF
  ───────────────────────────
電子政府への期待と課題.jpg
電子政府への期待と課題
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2021年08月19日

●「IMD世界競争力順位日本34位」(第5554号)

 スイスのビジネススクールであるIMDの世界競争力センター
によると、2020年6月に発表した「IMD世界競争力ランキ
ング/2020」でのベスト20は、次のようになっています。
ちなみに、IMDとは次の言葉の省略です。
─────────────────────────────
       ◎IMD
        World Competitiveness Centre
─────────────────────────────
 2020年の20位までを示します。残念ながら、日本はその
なかに入っておらず、34位です。
─────────────────────────────
   @シンガポール         J台湾
   Aデンマーク          Kアイルランド
   Bスイス            Lフィンランド
   Cオランダ           Mカタール
   D香港             Nルクセンブルグ
   Eスウェーデン         Oオーストリア
   Fノルウェー         ★Pドイツ
  ★Gカナダ            Qオーストラリア
   Hアラブ首長国連邦/UAE  ★R英国
  ★I米国             S中国
              ★G7 https://bit.ly/3m8lHQ5
─────────────────────────────
 このランキングは、255の指標を使って算出しています。こ
れらの指標の64%は雇用統計や貿易統計といった公式定量デー
タを使っており、残りの34%は「マネジメント慣行」「ビジネ
ス規制」「ビジネス規制」「労働規制」「姿勢・価値観」などに
加えて、IMDが実施する「経営幹部意見調査」の結果も参考に
して順位を算出しています。
 今回のIMDの調査で34位の日本について、今回のIMDの
ランキングを掲載しているサイトの株式会社ニューラルサステナ
ビリティ研究所は、次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 日本の項目別ランキングは、政府効率とビジネス効率が大きく
足を引っ張っている。ビジネス効率ではマネジメント慣行が63
カ国中62位と下から2番目。生産性&効率も55位と下から9
番目でかなり深刻な状況。政府系金融61位と物価59位も極め
て低い。企業の競争力にとって非常に需要な「姿勢&価値感」で
も56位で非常に悪かった。日本の凋落が止まらない。
                  https://bit.ly/3m8lHQ5
─────────────────────────────
 この調査は、ICTの進捗をランキングしたものではありませ
んが、それらは「政府効率」や「ビジネス効率」に深くかかわっ
ています。事実上デジタル技術をあらわす「ビジネス効率」では
日本は63の国と地域中実に62位です。ビリから2番目の低さ
です。あまりにも無残なので、日本では、このIMDの調査結果
をあまり報道していないようです。
 日本政府は、2001年の「イー・ジャパン戦略」で、「5年
以内に日本を世界最先端のIT国家にする」と宣言しているので
す。5年以内といえば2006年ですが、20年経過した日本は
世界最先端どころか、ビリから2番目です。
 これに関連する日本の統計データにも大きな問題があります。
とくに厚労省がひどいのです。年金のデータからはじまって、つ
い最近でもこの役所では不正集計が明らかになっています。野口
悠紀雄名誉教授は、政府の統計データの整備に関して、次のよう
に不満を述べています。
─────────────────────────────
 日本は統計データがよく整備されている国だと言われてきた。
確かに、昔はそうだった。しかし、いまでは、大分怪しくなって
いる。2018年の12月から19年の1月にかけて、厚生労働
省が作成する毎月勤労統計の不正集計が問題となった。その結果
データの連続性が失われた。一部には修正がなされたのだが、長
期時系列データの1952〜2012年分は修正ができず、いま
だに空欄だ。
 だから、日本では、過去の賃金・就業データを用いて分析する
ことができない。厚生労働省は基礎的データの提供義務を果たし
ていない状態なのだ。こんな状態が許されていいものだろうか?
毎月勤労統計問題はわずか2年少し前のことなのに、もう忘れら
れてしまって、いまや誰も問題にしない。(中略)
 日本の生産性は、OECD諸国の中で最下位のグループだ。こ
の原因がどこにあるのか、はっきりわかった。日本ではデータが
利用できないのだ。「データの時代」に信じられないようなこと
だ。          ──野口悠紀雄著/日本経済新聞出版
            『良いデジタル化/悪いデジタル化/
         生産性を上げ、プライバシーを守る改革を』
─────────────────────────────
 このようなデジタルをめぐる日本の惨状を明らかにしたのは、
今回のコロナ禍です。これに対応するため政府、とくに厚労省は
感染者情報管理システム「HER−SYS」、接触確認アプリの
「COCOA」、雇用調整助成金オンライン申請システム、医療
機関と行政の情報共有システム「G−MIS」など、次々と開発
しましたが、そのいずれも多くの問題が発生し、トラブルの原因
になっています。
 もともと厚労省関連のシステムは多いのです。2017年度の
政府IT予算の省庁別シェアによると、厚労省は37・6%を占
め、他省庁を圧倒しています。そもそも日本の省庁の役人は、I
CTに弱いですが、とくに厚労省の役人は、ICTがほとんどわ
かっていないといわれています。それは、コロナのためのシステ
ムが次々とトラブルを起こしているのを見ればよくわかります。
             ──[デジタル社会論V/008]

≪画像および関連情報≫
 ●世界競争力、「日本34位」の衝撃と真因/高津 尚志氏
  ───────────────────────────
   2019年5月末、「日本の競争力は世界30位、199
  7年以降で最低」という見出しが各種メディアで踊った。ニ
  ュースに触れた日本人の多くが衝撃的に受け止め、ブログや
  SNSを通じて様々なコメントが飛び出した。麻生太郎副総
  理兼財務大臣が「日本の競争力が低いと考えたことはない」
  と反論する場面も報道された。
   ことき耳目を集めたのは、スイスに本拠を構える世界トッ
  プクラスのビジネススクールIMDが発表した「IMD世界
  競争力ランキング2019」である。IMDは研究部門「世
  界競争力センター」が中心となって1989年から毎年、ラ
  ンキングを発表している。
   日本は開始当初の1989年から1992年まで1位を堅
  持したが、その後、徐々に降下。ついに2019年、調査対
  象63か国中30位となった。そして、2020年は34位
  である。
   しかし反応は、個人的な意見・感想・持論に終始した、あ
  るいは感情的なものが目立っていた。「競争力とは何か」、
  「なぜ低下したのか」「日本の課題と機会は何か」といった
  冷静で事実に基づく議論は極めて少なかった。同ランキング
  を発表するIMDの一員として、また、ひとりの日本人とし
  て、この状況はもったいないと感じた。世界63か国・地域
  を対象に、合理的手法を設計し、比較可能な指標を設定し、
  信頼性の高いデータを集めることで算出されるこのランキン
  グは、内容を丹念に精査すれば様々な示唆を与えてくれる。
  それを活用せず、素通りするほどの余裕は、日本にない。
                  https://bit.ly/3AKruPW
  ───────────────────────────
IMD/スイス.jpg
IMD/スイス
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2021年08月20日

●「省庁デジタル化が成功しない理由」(第5555号)

 「デジタルファースト法」という法律があります。行政手続き
をデジタル化し、電子行政を進めるための法律であり、安倍政権
で、2019年5月24日に参議院本会議で可決・成立していま
す。この法律に基づいて2024年度中に、行政手続きの90%
を電子化するための工程表「デジタルカバメント実行計画」が決
められています。
 このとき、一元化を主張したのは、当時の平井卓也IT担当相
(現デジタル改革相)であり、菅官房長官(当時)は平井IT担
当相に具体案の作成を命じた経緯があります。
 これを受けて内閣官房は、2020年度からIT調達の一元化
をやっとスタートさせ、2021年度予算では、約3000億円
を一括計上しています。これが来月のデジタル庁創設につながる
のです。
 しかし、日本政府はこれまで大金を投じて何回もデジタル化に
取り組み失敗を繰り返しています。ここまで述べてきたように、
日本政府は、20年以上かけて、「イー・ジャパン戦略」を含む
「電子政府」に比較的早い時期から取り組んでいるにもかかわら
ず、2020年度の電子政府世界ランキングにおいて14位とい
う振るわない結果に終わっていることは既に述べた通りです。
 どうしてうまくいかないのでしょうか。その原因を探るために
壮大な失敗に終わった2004年の「特許庁の基幹システム刷新
プロジェクト」の失敗の顛末を振り返ってみることにします。
 作り直す特許庁の基幹システムというレガシーシステムについ
て、「日経コンピュータ」は次のように説明しています。
─────────────────────────────
 特許庁の基幹系システムは、特許、実用新案、意匠、商標の知
財四権について、出願の受付、審査、登録といった基本業務を支
える。アプリケーションの開発規模は二千数百万ステップ。メガ
バンクの勘定系システム並みだ。当時のシステムは、NTTデー
タが開発したもの。特許庁はNTTデータと「データ通信サービ
ス契約」を交わし、1990年12月から利用してきた。データ
通信サービス契約とは、顧客向け業務システムを開発したITベ
ンダーがソフト/ハードの資産を所有し、機能だけを顧客に提供
する契約形態のこと。初期コストを抑えられる一方、開発・運用
コストの透明性を確保しにくい課題がある。
 特許庁がシステム刷新に踏み切ったきっかけは、政府が200
3年に発表した電子政府構築計画が示した、レガシーシステム刷
新の指針である。メインフレーム中心のシステムの開発や運用保
守を、特定のベンダーに長年にわたって任せてきたことがコスト
の高止まりにつながっているとし、システムのオープン化を求め
た。NTTデータとデータ通信サービス契約を結んでいた特許庁
も例外ではなかった。  ──日経コンピュータ編/日経BP刊
          『なぜデジタル政府は失敗し続けるのか』
─────────────────────────────
 特許庁は、現行システム刷新の効果について、IBMビジネス
コンサルティングサービスに委託し、刷新の費用対効果は高いと
のコンサルティング評価を得ます。そんなことも実際にシステム
を使う立場の特許庁ができないのです。
 そのうえで、特許庁は、2004年4月にデータ通信サービス
契約の未払い分約250億円をNTTデータに支払っています。
そして、2006年1月にNTTデータとの契約を解除し、特許
庁は刷新準備を整えています。
 続いて調達仕様書を作成する必要があります。そのため、シス
テムに詳しい情報システム部門のAという職員とIBMビジネス
コンサルティングサービスに、調達仕様書の作成を委託したので
す。Aは開発要員ではなく、あくまで調達仕様書作成のスタッフ
としてIBMビジネスコンサルティングと組ませたのです。肝心
の特許庁のスタッフは、システムのことはわからないとしてこの
仕様書作りには参加していないのです。
 Aは従来の業務プロセスを全面的に見直し、通常2年かかる特
許審査の期間を1年に短縮することを目標にして、システム全体
に大幅な改定を行っています。システム設計としては当然のこと
です。しかし、すべての情報をXMLで管理するなど、技術的難
度の高い試みをあえて行っています。XMLは、文章の見た目や
構造を記述するためのマークアップ言語の一種で、主にデータの
やりとりや管理を簡単にする目的で使われ、記述形式がわかりや
すいという特徴があります。
 このようにして仕様書の骨子が固まると、Aは異動でプロジェ
クトを離れます。特許庁は、この調達仕様書に基づいて2006
年7月に入札を実施し、基本設計から詳細設計までを落札したの
は東芝ソリューション(現東芝デジタルソリューション)だった
のです。技術点としてはよくなかったが、入札価格が予定価格の
6割以下の99億2500万円であったので、それが決め手とな
ったのです。プロジェクトマネジメントの支援を請け負ったのは
総合コンサルティング会社アクセンチュアです。
 さて、システム刷新プロジェクトは、2006年12月から開
始されたのですが、最初からカベにぶつかったのです。刷新シス
テムは、従来の業務プロセスを全面的に見直すという前提になっ
ているのに対し、特許庁のスタッフは、それでは使いにくいとし
現行業務をそのまま踏襲するかたちで、新しいシステムを作って
欲しいという要求を出したのです。
 AとIBMビジネスコンサルティングの役割は、あくまで調達
仕様書の作成であり、会計課を通すものと考えており、実際のシ
ステムはわれわれ(特許庁)の意見を聞いてもらうという考え方
です。システムを構築する前から、実に無駄なことを積み重ねて
きているわけです。
 そのため、東芝ソリューションは、現行の業務フローを文書化
するため、2007年5月までに、スタッフを450人体制に増
強し、作業を行うことになったのです。その後の話は来週のEJ
で述べることにします。  ──[デジタル社会論V/009]

≪画像および関連情報≫
 ●政府の情報システム、全く使われず廃止/開発費18億円
  ───────────────────────────
   サイバー攻撃などによる情報流出を防ぐため、2017年
  度に運用開始された政府の情報システムが、使い勝手が悪い
  ため実際の業務に全く使われていなかったことが会計検査院
  の調べでわかった。今年3月に廃止され、システム開発費な
  ど計約18億円が無駄になったという。
   関係者によると、システムは「セキュアゾーン」と呼ばれ
  省庁が持つ企業情報などを管理する目的で、総務省が開発し
  た。インターネットから遮断された環境で情報を管理するの
  が特徴で、職員による情報の改ざんや外部への持ち出しも防
  ぐため、各省庁は専用回線からそれぞれの情報を閲覧する仕
  組みだった。
   開発のきっかけは15年、日本年金機構がサイバー攻撃を
  受け、約125万件の個人情報が流出した問題だ。公的機関
  へのサイバー攻撃の対策強化が急務となり、総務省は同年度
  システム開発費などを補正予算で計上。開発段階では厚生労
  働省や農林水産省が利用を希望していた。
   しかし、16年度に開発したシステムはセキュリティーを
  重視するあまり、データの閲覧はできるがダウンロードがで
  きない仕様だった。このため、実際の業務で資料作成などを
  する際は、職員がシステムのデータを再入力する必要があっ
  た。他の情報システムと連携できないなどの問題もあり、厚
  労、農水両省は導入を断念。17年度に運用開始された後、
  一度も実際の業務に使われず、検査院の指摘を受け、総務省
  が18年度末に廃止した。    https://bit.ly/3yUfhaJ
  ───────────────────────────
特許庁.jpg
特許庁
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2021年08月23日

●「特許庁基幹システム刷新の大失敗」(第5556号)

 「特許庁の基幹システム刷新プロジェクト」の失敗の顛末の続
きです。官庁の情報システムを刷新する場合、開発業者が入札し
た場合、その入札価格などについて、会計検査院の審査を通す必
要があります。
 そのため、特許庁はまずIBMビジネスコンサルティング(現
日本IBM)に委託して、基幹システムを刷新することが妥当で
あり、費用対効果が高いかどうかチェックさせ、調達仕様書づく
りに着手したのです。
 調達仕様書の作成についても特許庁は、システムに詳しくない
として、情報状システム部門のシステム設計に詳しいAという職
員を担当者として、これもIBMビジネスコンサルティングに委
託して、基本設計から詳細設計までを作成させています。そして
入札を実施し、東芝ソリューションが落札、会計検査院の審査を
クリアしています。なお、システム設計に関わったA職員は調達
仕様書が終了した時点で人事異動になっています。ここまでが先
週までのEJで述べたことです。
 プロジェクトは、2006年12月からスタートしましたが、
最初からつまずいたのです。システム設計に関わったAは、2年
かかっている特許審査を1年で完了させることを目標にして、業
務プロセスを大幅に変更する設計をしたのですが、特許庁のプロ
ジェクト関係者はこれを嫌い、現行業務の延長でシステムを開発
してほしいという要求を出してきたのです。設計とまるで異なる
特許庁からの要請です。
 東芝ソリューションとしては、まず現行業務の把握からはじめ
ることになり、大幅な人員増強を図ったのです。これについて、
日経コンピュータは次のように書いています。
─────────────────────────────
 東芝ソリューションは、遅れを取り戻すため、2008年には
1100〜1300人体制にまで増員した。人材派遣会社や協力
会社を通じて、大量の人材を集めたという。これが、さらなる混
乱をもたらした。「東芝ソリューションには、協力会社を含め多
数の開発要員を統率する経験がなかった」(関係者)。
 設計チームが入居していたビルは一気に手狭になり、机の1人
当たりのスペースは「ノートPCが1台置けるくらい」(同)に
縮小した。あるチームは現行の業務フローを反映した文書をひた
すら作成した。あるチームは特許に関わる法律をひも解き、業務
やデータベースの項目を洗い出した。成果物の基礎となる規約も
なく、成果物の質に大きなばらっきが生じるのは必然だった。工
数をかけずに低品質の文書を量産し、労せず利益を得る協力会社
もいた。「1日でフェラーリ1台に相当するカネが無駄に飛んで
いる」。プロジェクトに参加していた技術者の間ではこんな皮肉
が交わされていたという。
            ──日経コンピュータ編/日経BP刊
          『なぜデジタル政府は失敗し続けるのか』
─────────────────────────────
 こういう状況が2年以上続いた2009年4月のことですが、
一向に進まないシステム開発の作業に対して特許庁はある決断を
します。調達仕様書を作成したA職員をプロジェクトに復帰させ
当初の設計に基づいて東芝ソリューションとシステムの開発をは
じめたのです。「現行業務の延長でシステムを開発せよ」という
ゴリ押しのために2年以上をムダにしましたが、これで、やっと
プロジェクトが回りはじめたと誰もが思ったのです。
 ただ元のシステムを構築し、そのシステムを熟知しているNT
Tデータをプロジェクトに加える必要が出てきたのです。そこで
アプリケーション開発をNTTデータに担当させることにすれば
問題を解決できると見込んだのです。
 ところが、2010年6月のことですが、とんでもないことが
起こったのです。2010年6月22日付、日本経済新聞の記事
を次に掲げます。
─────────────────────────────
◎特許庁技官を逮捕/NTTデータ部長から収賄容疑
 特許庁の業務システム計画を巡る内部情報を提供する見返りに
NTTデータ(東京・江東)部長から二百数十万円分のタクシー
運賃の支払いを受けたとして、警視庁捜査2課は22日、同庁技
官で先任審判官の志摩兆一郎容疑者(45)を収賄容疑で逮捕し
た。また、同社第1システム統括部統括部長兼営業担当部長、沖
良太郎容疑者(45)を贈賄容疑で逮捕した。
 同課によると、志摩審判官は「間違いない」と容疑を認め、沖
部長は「弁護士と相談して話す」と供述しているという。志摩審
判官の逮捕容疑は2005年8月〜09年11月、特許庁が導入
するコンピューターシステムに関する情報を漏らす見返りに、謝
礼として約70回にわたり沖部長からタクシーチケット約二百数
十万円相当を受け取った疑い。志摩審判官は沖部長側から飲食接
待を繰り返し受け、タクシーチケットは帰宅時に沖部長から受け
取り使用していた。──2010年6月22日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 ちょうどNTTデータをプロジェクトに参加させるかどうかの
検討をしていたときであり、そのことと関係があるかもしれない
事件です。なお、プロジェクトに戻されたA職員も入札前の情報
を東芝ソリューションに提供していた事実があったとして、プロ
ジェクトから再び外されたのです。
 そのため、プロジェクトは開店休業になり、先に進むことは困
難になったのです。2010年6月に発足した調査委員会の調査
を受けて、技術検証委員会は2012年1月に「開発終了時期が
見通せない」とする報告書を公開し、枝野幸男経済産業大臣(当
時)がプロジェクトの中止を表明しています。
 プロジェクト開始から5年が経過し、会計検査院は、54億5
100万円の資金を無駄な支出である「不当事項」と認定し、特
許庁の基幹システム刷新は大失敗に終わったのです。
             ──[デジタル社会論V/010]

≪画像および関連情報≫
 ●NTTデータ、贈賄社員の逮捕について社内調査結果を公表
  ───────────────────────────
   NTTデータは2010年9月6日、特許庁の職員に対す
  る贈賄の疑いにより社員が逮捕・起訴を受けた事案について
  社内調査した結果を公表した。
   6月22日に同社社員が逮捕されたことで、翌6月23日
  に社長を委員長とする「社内調査委員会」を設置し、社内調
  査を実施したとのこと。調査結果の公表とともに、この調査
  の妥当性等について「社外有識者検証委員会」が第三者の立
  場から検証を行った検証結果についても、合わせて公表され
  た。社内調査委員会では、本件事案に関する事実関係の社内
  調査および確認を行うとともに、他プロジェクトを含めた法
  令・企業倫理、社内規程・実施要領の遵守状況、内部牽制の
  有効性の検証、および再発防止策の策定が行われた。文書は
  18ページからなり、「概要および経緯」「調査体制」「事
  実」「原因および問題点」「類似事案の有無」「再発防止」
  の6項目で構成されている。これによると、特許庁職員は、
  2005年8月10日ころから2009年11月27日ころ
  まで、66回にわたり、タクシー乗車の利益(約256万円
  相当)の供与を受けていた。NTTデータ社員(元第一シス
  テム統括部長兼営業担当部長)は、2007年8月29日こ
  ろから2009年11月27日ころまで、37回にわたり、
  (うち10回は別社員と共謀して)、タクシー乗車の利益、
  約148万円相当)を供与していた。
                  https://bit.ly/2XEdiKa
  ───────────────────────────
特許庁基幹システム刷新開発プロセス.jpg
特許庁基幹システム刷新開発プロセス
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2021年08月24日

●「システムを業者に丸投げする仕組」(第5557号)

 8月21日のことです。朝日新聞の第1面に次のタイトルの記
事が掲載されたのです。
─────────────────────────────
      ◎五輪アブリ
      内閣官房調査/職員、見積もり漏らす
           ──2021年8月21日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 ちょうどEJは、テーマとして日本政府のデジタル化の問題を
取り上げています。特許庁の基幹システム計画については、5年
という年月と54億5100万円という巨額の資金を無駄にして
結局開発中止に追い込まれています。しかも、特許庁技官の3名
が収賄容疑で逮捕されるという深刻なおまけ付きです。
 この五輪アプリの事件について検討する前に、前提条件として
知っておくべきことから述べることにします。
 日本がデジタル化に遅れていることは、誰でも知っていること
ですが、1970年代から80年代にかけては、日本はデジタル
化において世界のトップにいたのです。このようにいうと、ウソ
だと思う人もいると思いますが、本当のことです。日本が世界を
リードしていたデジタルイノベーションの例を以下に上げてみる
ことにします。年代はおおよそです。
─────────────────────────────
     @液晶ディスプレイ     1968年
     Aリチウムイオン電池    1979年
     Bスーパーコンピュータ   1970年
     C光媒体          1972年
     DQRコード        1992年
     Eデジタルカメラ      1970年
     FDVD          1990年
     G非接触ICカード技術   1995年
     H太陽電池セル       1955年
     I多機能携帯電話      1996年
                  https://bit.ly/3D2NmYO
─────────────────────────────
 1900年代は、これほど日本初のデジタル技術があるのに、
なぜ日本のデジタル化(情報技術)は遅れているのでしょうか。
 情報技術は、1980年代を境に大きく変貌したのです。それ
以前のデジタルシステムは、メインフレームコンピュータを中心
とするシステムのことです。メインフレームコンピュータとは、
大組織の基幹業務用などに使用される、いわゆる大型コンピュー
タのことです。
 ところが1990年代以降に米国を中心にIT革命が進展し、
コンピュータの仕組みが大きく変化することになります。PCが
導入され、オープンな仕組みが採用されることになったのです。
オープンな仕組みとは、公開(オープン)されている仕様に準拠
したソフトウェアやハードウェアを利用することで、異なるベン
ダーを組合せて構築されたシステムのことです。
 ちなみに、ベンダーとは「売り手」を指す言葉です。売り手で
あるベンダーがソフトウェアなどを作っている場合は製造者(メ
ーカー)ともいいます。一方で、自分で製造せず、どこか別のと
ころから仕入れている場合もありますが、これもベンダーと呼ば
れるのです。
 メインフレームの場合は、1社のみのハードウェアおよびソフ
トウェアで構成されることが多かったのですが、オープンシステ
ムになると、マルチベンダーになることが多くなります。
 このようなオープンシステムを組織化する役割を担う業者のこ
とを「SIer/エスアイヤー」と呼んでいます。日本の有力な
SIerとしては、富士通、日立製作所、NTTデーター、NT
Tコミュニケーションズ、NEC、IBM、日鉄ソリューション
ズなどがあります。
 SIerの「SI」とは、システムインテグレーションの略で
あり、コンピュータやソフトウェア、ネットワークなどを組み合
わせて利便性の高いシステムを作ることです。顧客のシステムイ
ンテグレーションを一括で受託する専門事業者をシステムインテ
グレーターと呼びます。
 しかし、日本の場合の問題点として、野口悠紀雄名誉教授は次
のように述べています。
─────────────────────────────
 問題は、日本の場合には組織とSIerが固定的な関係になっ
てしまうことだ。こうなる大きな理由は、組織のトップにITの
知識を持った人が少なく、SIerに丸投げしてしまう場合が多
いことだ。SIerとしては、より効率的な仕組みを作るよりは
従来の仕組みを維持し、それを更新し続けることによって利益を
得ることに関心が向く。このようにして、組織別のバラバラな仕
組みが温存され、全体としての最適化が達成されない事態が生じ
たのである。      ──野口悠紀雄著/日本経済新聞出版
            『良いデジタル化/悪いデジタル化/
         生産性を上げ、プライバシーを守る改革を』
─────────────────────────────
 最大の問題は、省庁やユーザー企業の情報部門にITエンジニ
アが少なく、どうしてもSIerに丸投げしてしまうことです。
諸外国の場合は、ユーザー企業に多くのITエンジニアを抱えて
おり、開発を主導しているので、社内へのノウハウの伝播が容易
であり、社内にノウハウが蓄積されるのです。
 これに対して日本の場合は、ITエンジニアがSIerやベン
ダーに所属しているので、開発に当たってはどうしてもSIer
やベンダー主導になってしまう。もちろんユーザー企業では、I
Tエンジニアは育たないし、システム開発のノウハウもユーザー
企業に残らないのです。こういうやり方なので、ユーザー企業と
SIerが癒着してしまうのです。
             ──[デジタル社会論V/011]

≪画像および関連情報≫
 ●「日本のシステム業界は丸投げ文化である」
  ───────────────────────────
   開発の実態として丸投げが横行していることは多くの関係
  者が認めるところである。それにもかかわらず、本当の当事
  者はそれを認めたがらないため、状況は改善されない。
   ユーザ企業側で、丸投げにより恩恵にあずかれるのは発注
  担当者だけである。実質的に何も仕事をしなくてもSIベン
  ダからお殿様扱いされ、システムができあがっているのだか
  ら、こんな楽なことはない。
   仕事の流れは単純だ。ユーザ企業の発注担当者は発注権限
  に基づき発注を行うが、要件定義書ひとつ作成するわけでは
  ない。せいぜい、数枚程度のメモ書きのようなものがあるだ
  けである。お抱えの元請けベンダの営業マンも慣れたもので
  ある。仕様もあいまいなままに「なんとかしましょう、お任
  せください」を通用させてプロジェクトをスタートさせてい
  く。スタートのいいかげんさが後に尾を引くことは誰もが経
  験していることであろう。度重なる仕様の追加要求を「ご無
  理、ごもっとも」とばかりに受け入れ、際限なくプロジェク
  トのスコープは膨張していく。それでも、なんとか、とにも
  かくにも納品までこぎ着け、営業マンは次の仕事を頂戴しに
  行くわけである。
   その結果、割を食うことになるのは、SIベンダの技術者
  とシステムのエンドユーザ、そしてユーザ企業の経営者であ
  る。開発メンバには無理が、ユーザ企業にはさまざまな意味
  で損害が襲いかかってくる。   https://bit.ly/2XQhw1v
  ───────────────────────────
野口悠紀雄名誉教授.jpg
野口悠紀雄名誉教授
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2021年08月25日

●「五輪アプリはどのようなアプリか」(第5558号)

 「五輪アプリ/内閣官房調査」/職員、見積もり漏らす」につ
いて書くことにします。情報については、ネット上から入念に集
めたものです。2021年2月21日付の京都新聞が、はじめて
次の記事を掲載しています。
─────────────────────────────
 衆議院の集中審議で気になる質疑があった。「政府は東京五輪
・パラリンピックの観客向けにアプリを開発しているというが、
費用はいくらなのか」
 立憲民主党議員の質問に対する政府の答えは、「約73億円」
だった。内閣官房審議官の説明では、外国からの観客の健康管理
が目的で、訪日前から出国後まで持たせるという。国内向けの接
触確認アプリCOCOAの開発費は約3億9千万円だった。
 なぜこんなにかかるのか。菅義偉首相の答弁は「正確な数字は
知らなかった」。まるで人ごとだ。
           ──2021年2月21日付の京都新聞
                  https://bit.ly/3mop6KW
─────────────────────────────
 この「五輪アプリ」の発注元は内閣官房IT総合戦略室です。
一体どのようなアプリを作ろうとしていたのかについて、以下に
まとめることにします。
 五輪アプリの目的は、海外からの五輪観戦の健康管理です。入
国希望者は、ビザ申請時に同アプリをインストールしてもらい、
来日前の14日間、アプリ上で体温を記録します。ビザ申請時に
記入したパスポートナンバーや滞在中の移動計画、名前、住所、
国籍などもアプリにひも付けます。
 日本に入国後、日々の体温を入力してもらい、高熱が続いた場
合は、アプリ側で警告するとともに、関係機関への連絡とPCR
検査を促します。この検査で陽性反応が出た場合は、厚生労働省
の「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム」
(HER−SYS/ハーシス)にアプリの情報を引き継ぎます。
 ユーザーの位置情報はGPSを使ってスマホ内部にストックし
ておき、これはPCR検査が陽性になったときの調査に使われる
ことになっています。
 五輪アプリは、出入国管理や五輪の競技会場への入退場などに
も活用されます。具体的には、外務省のビザ発給システムと連携
し、アプリ内からビザの申請を受け付けるようにします。また、
空港の検疫や税関、入国管理で本人情報をQRコードを使って表
示する機能や、競技会場の入退場に活用する顔認証システムと連
携させ、現地スタッフがユーザーの健康確認を「○」「×」など
で分かりやすく表示する機能も付いています。
 ユーザーの多くが海外からの訪日外国人であると想定されるこ
とから、多言語サポートも充実させます。英語、中国語、韓国語
フランス語、スペイン語への対応を必須としています。五輪アプ
リの機能の概要は以上の通りです。
 五輪アプリの予算が73億円という巨額になったことについて
平井卓也デジタル改革担当相は、2月24日の会見において、次
のように答えています。なお、この時点では、海外からの観戦客
の受け入れ断念の決定は出されていないのです。
─────────────────────────────
 高いか安いかは簡単に申し上げられないが、必要な経費を合計
した金額だ。サポートセンターの構築などの多言語対応、GDP
R(EU一般データ保護規則)への対応に費用がかかるため、C
OCOAとは比較できない。 ──平井卓也デジタル改革担当相
─────────────────────────────
 それでは、どこが受注したのかです。一般競争入札を経て、内
閣官房IT総合戦略室は、2021年1月14日に契約を締結し
ています。受注社は次の通りです。この契約締結の仕方が後で問
題になります。
─────────────────────────────
NTTコミュニケーションズと数社で構成するコンソーシアム
─────────────────────────────
 しかし、3月20日になって、海外からの観戦客の受け入れが
断念されます。これについて、国民民主党の伊藤孝恵参院議員は
五輪アプリの今後の運用について、質問主意書を提出。これにつ
いて政府は、次のようにゼロ回答を出しています。開発をやめる
気はないようです。
─────────────────────────────
 現在、運用方針などの見直しを検討中であり、現時点でお答え
することは困難である。          ──政府の答弁書
─────────────────────────────
 この五輪アプリの入札は、競争入札といっていますが、応札し
たのは1社です。問題になったのは、入札の公示が12月28日
で、技術提案書の締め切りは1月8日だったことです。これにつ
いて、立件民主党の川内博史衆院議員が、3月31日の衆院内閣
委員会でそのことを正すと、平井卓也デジタル改革担当相は、次
のように答弁しています。
─────────────────────────────
 スケジュール的には、異例中の異例で、確かにタイトでありま
すが、関係法令に基づいたという意味では適法です。
              ──平井卓也デジタル改革担当相
─────────────────────────────
 五輪アプリの受注事業体は「NTTコミュニケーションズと数
社で構成するコンソーシアム」となっていますが、このなかにN
ECも入っているのです。これが、後で出てくる平井デジタル改
革担当相のNECへの恫喝発言につながってくるのです。
 なお、これらの元受の共同事業体から37社への再委託が行わ
れており、依然として、ここまで述べてきた通りの政府システム
構築手法がとられていることには注目すべきです。案の定この入
札方式が後で大いに問題になってくるのです。
             ──[デジタル社会論V/012]

≪画像および関連情報≫
 ●オリパラアプリ73億円!?
  ───────────────────────────
   1月に発注してすでにほぼ開発は終了しているそうですが
  ということは2月から開発開始したとすると4ヶ月程度の期
  間で出来たことになり、月あたり約18億円、1日あたり約
  9000万円の計算になります。アプリ開発は大半が人件費
  のはずですが、仮に100人で開発したとしても単純計算で
  一人あたり日給90万円になります。
   最近はめっきり話題にもならないあのCOCOAは開発費
  4億円弱だったそうですが、それでもべらぼーに高いと思っ
  ていました。73億円という金額について政府担当者は高く
  ないと言っているようですが、私の個人的な予想ではオリン
  ピック開催間際にリリースしても「ぶっつけ本番」のような
  もので、運用後に発生した不具合を対策しているうちにオリ
  ンピックは終了しているような気がします。いったい国民の
  税金を何だと思っているのでしょうか。
                  https://bit.ly/3B3mPbW
  ───────────────────────────
五輪アプリの全体図.jpg
五輪アプリの全体図
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2021年08月26日

●「IT総合戦略室民間メンバー疑惑」(第5559号)

 オードリー・タン氏といえば、台湾のIT担当大臣(デジタル
担当政務委員)です。1981年生まれの40歳という若さ。大
臣に就任したのは5年前なので、35歳で大臣になったことにな
ります。IQ180以上の天才プログラマーとして知られ、米シ
リコンバレーでの起業経験もあるITの申し子です。若いけれど
も、ITのプロフェッショナルです。
 これに対して、日本のIT担当相はどうでしょうか。
 現在の担当は、平井卓也デジタル改革担当相ですが、初代は、
サイバーセキュリティ担当大臣として桜田義孝氏が70歳で初入
閣しています。国務大臣として「東京オリパラ競技大会担当」な
どとの兼務としてです。ITは全くの素人で、PCを使ったこと
がない人物です。
 続いて竹本直一氏がIT政策担当相として就任しています。こ
の人は79歳で、ITはズブの素人。それにしても、日本政府は
どうして、ITに詳しくない、明らかにITに向いていない人ば
かりをIT担当大臣に任命するのでしょうか。
 それは、IT担当相というポストは、長年議員をやっていても
大臣になれない議員に対して就任させるポストの1つだったから
です。つまり、それほど、IT担当相というポストが軽いポスト
だったことを意味しています。この経緯を見ても、日本にとって
ICTというものが、現在はともかくとして、いかに低い位置づ
けであったかがわかります。
 これに比べると、現在のデジタル改革担当相の平井卓也氏は電
通出身ですが、ITの世界に通じている人物です。そのため、自
民党内ではITにもっとも詳しく、2009年には自民党広報戦
略局長・IT戦略特命委員長に就任しています。
 2018年10月にIT担当相に就任しましたが、国の行政手
続きを原則電子化する「デジタルファースト法」と、この法律に
基づき、2024年中に9割を電子化する工程表「デジタル・ガ
バメント実行計画」が2019年5月に成立したとき、その前提
になるIT調達予算の一元化を主張した平井氏に対し、当時の菅
官房長官はその具体策の策定を命令した経緯があります。そして
菅内閣発足時に、平井卓也氏はデジタル改革改革相として入閣し
ています。デジタル庁の創設が前提の人事です。
 しかし、いわゆる担当大臣というのは、大きな仕事をやるには
やりにくいポストであるといえます。平井氏のポストの正式名称
は「内閣府特命担当大臣」であり、その担当名が「情報通信技術
(IT)政策担当」なのです。厚労相や総務相のように直接的な
手足(組織)があるわけではなく、内閣官房IT総合戦略室(以
下、IT総合戦略室)という組織を使って仕事をすることになり
ます。直接の部下ではないものの、担当職務に関して、責任は大
臣にあります。
 しかし、五輪アプリの発注が問題になったとき、平井デジタル
改革担当相は、その詳細を聞かされていなかったようです。この
ことについて、ネットの情報誌「デイリー新潮」は、次のように
書いています。
─────────────────────────────
 平井さんは担当大臣なのに、実は質問されるまで発注の事実を
まったく知らなかったんです。首相補佐官の和泉洋人さんがIT
室の一部のメンバーと、業者選定や金額の割り振りまで決めてい
ました。しかも、観戦客を含めて海外から来る120万人が使用
するという触れ込みだったのに、海外からの観戦客はゼロになり
ましたから、アプリは無用の長物と化していたのです。
       ──「デイリー新潮」 https://bit.ly/3gr7jyH
─────────────────────────────
 どうしてこのようなことが起きるのでしょうか。官邸には新任
大臣なんかよりもはるかに力を持った役人が勝手なことをやって
いるのです。ましてIT担当相がITがよくわかっていない場合
は、事実上、IT総合戦略室がすべてをやらざるを得なくなるの
です。だが今回の五輪アプリの発注、入札のやり方などに疑惑が
出てきたのです。一体何があったのでしょうか。2021年6月
23日付の「デイリー新潮」の記事を参照にして要約します。
 IT総合戦略室に室長代理を務める神成淳司慶應義塾大学教授
がいます。神成教授は、7年前にIT総合戦略室に入り、今では
幹部のなかでは、唯一の民間メンバーです。五輪アプリについて
は、全体を管理する担当者です。
 2021年1月末のことです。五輪アプリについて、事業者選
定のプロセスについて、国会で、野党による追及が行われたので
す。事業自体が73億円と高額であることと、入札公示から提案
書提出期限まで実質10日ほどしかなかったことから、「出来レ
ースではないか」と突っ込まれたのです。
 これを受けて、平井デジタル改革担当相サイドが内々に調査を
行ったところ、今回落札した事業体(NTTコミュニケーション
ズと数社で構成するコンソーシアム)に、神成教授と密接な関係
の業者が含まれていたことがわかったのです。
 密接な関係の業者の1社はNECです。神成教授は、NECの
子会社であるNECソリューションイノベータ社と研究を共にし
共同で特許技術を開発する関係にあったのです。そして、もう1
社がアプリの連携基盤サービスを担当するJBS(日本ビジネス
システムズ株式会社)です。このJBSと神成教授との関係につ
いて「デイリー新潮」は次のように書いています。
─────────────────────────────
 JBSは、実務を「ネクストスケープ」なる会社に委託。この
ネクスト社は神成教授が代表を務める別の事業におけるビジネス
パートナーに当たり、教授と同社の社長はメディアで対談まです
る仲なのだ。つまり、このプロジェクトの指揮を執った神成教授
と非常に親しい業者が複数、事業体に含まれていることになる。
                  https://bit.ly/3j8RBdw
─────────────────────────────
             ──[デジタル社会論V/013]

≪画像および関連情報≫
 ●海外客断念なのに73億円「五輪アプリ」の見直し迷走中
  ───────────────────────────
   東京五輪・パラリンピックの新型コロナウイルス対策とし
  て、訪日観戦客の健康管理を行うアプリの開発が迷走してい
  る。3月に海外からの観戦受け入れを断念した後、政府が利
  用の仕方を決めかねているためだ。この「オリパラアプリ」
  は、開発する民間企業への委託費約73億円に対して当初か
  ら「高額だ」との批判が上がっていたが、政府は現時点で事
  業の凍結に向かわず継続する方針だ。(坂田奈央)
   3月20日に海外からの観戦受け入れ断念が正式決定した
  のを受け、国民民主党の伊藤孝恵参院議員はオリパラアプリ
  の今後の運用について質問主意書を提出した。これに対し政
  府が今月2日に閣議決定した答弁書は「運用方針などの見直
  しを検討中で、現時点でお答えすることは困難だ」と実質ゼ
  ロ回答だった。
   新たなアプリの利用方法が定まらないのに、政府は事業を
  継続する方針を崩していない。平井卓也デジタル改革担当相
  は「大枠については変更ない」と強調している。
   当初想定していたアプリは、訪日観戦客の健康状態の管理
  や記録のほか、感染が疑われる場合は警告するなどの機能が
  備わっていた。利用者は海外からの観戦客約80万人、大会
  関係者約40万人の計120万人を想定していたが、海外か
  らの受け入れ断念で計画は頓挫している。
                  https://bit.ly/3kmIuoK
  ───────────────────────────
オードリー・タン氏(台湾).jpg
オードリー・タン氏(台湾)
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2021年08月27日

●「平井大臣がNECを恫喝した理由」(第5560号)

 昨日のEJの内容を少しまとめます。五輪アプリ(オリパラア
プリ)の発注元は、内閣官房IT総合戦略室(以下、IT総合戦
略室)ですが、この組織の室長代理を務める民間出身の慶應義塾
大学教授の親密企業が、受注事業体のなかに入っていたことが問
題になっています。この情報を伝えたのが『週刊新潮』2021
年7月1日号です。
 教授の氏名は、神成淳司氏です。今回落札した事業体は(NT
Tコミュニケーションズと数社で構成するコンソーシアム)です
が、神成教授は、受注事業体のNECの子会社であるNECソリ
ューションイノベータ社と研究を共にし、共同で特許技術を開発
する関係にあり、もう1社のアプリの連携基盤サービスを担当す
るJBSの委託先のネクスト社は、神成教授が代表を務める別の
事業におけるビジネスパートナーであることもわかっています。
 まだ、疑惑があります。上記の『週刊新潮』は、次のように書
いています。
─────────────────────────────
 更には、アプリ事業で2億円が支払われる見積もりが出されて
いたライセンスの一つが、教授が関わったものであることも、わ
かった。これでは落札過程に疑念を抱かれても仕方ありませんし
万が一、受注したことで何らかの利益が教授に入ることになれば
利益相反すら疑われてしまう。
          ──『週刊新潮』/2021年7月1日号
─────────────────────────────
 このような疑惑が公表されたことにより、IT総合戦略室は、
平井デジタル改革相の指示により、弁護士4人を交えた調査チー
ムを7月に設置し、調査をしてきたのです。そして、8月20日
に五輪アプリに関する調査結果を公表しています。
 これによると、2021年8月21日付の朝日新聞は、次の記
事を配信しています。
─────────────────────────────
 ◎報告書「国民の疑念を招く
  五輪アプリ「不適切」再発防止求める
 東京五輪・パラリンピック向けアプリ(通称オリパラアプリ)
の発注プロセスを検証した報告書が8月20日に公表された。内
閣官房IT総合戦略室幹部らが、公正な入札を装うような対応を
していた。デジタル庁の9月発足に向け、検証と再発防止が重い
課題となる。     ──2021年8月21日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 契約は3社による競争入札になっているのですが、実は発注先
はあらかじめ決めておき、かたちだけ競争入札のかたちをとった
ことが、この報告書で明らかになっています。IT総合戦略室は
3社と連絡をとり、おおよその金額も示して見積書を送るよう要
請しています。そのさい既に提出されている他社の見積書をLI
NEで送付し、3社分の見積書を揃えて、3社の競争入札のかた
ちを整えています。の間の事情について朝日新聞は、次のように
報道しています。
─────────────────────────────
 「この見積もり項目そのままで大丈夫です。これぐらいの荒さ
です。税込み70にまとめていただけると助かります」。報告書
によると、IT室の担当者は、別の会社の参考見積書をLINE
で送り、他社に70億円での見積書の提出を依頼していた。(一
部略)IT室の担当者は、見積もりの提出を拒んだ企業に「押印
もいらないし、担当者の名前もいらない」などと、しつこく頼ん
でいた。報告書は、「入札方式による調達手続きに関わる者とし
ての意識を欠いたものといわざるを得ない」と批判した。
           ──2021年8月21日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 ここで考えるべきことがあります。それは、この五輪アプリの
開発と、6月11日付の朝日新聞朝刊がスクープして話題となっ
ている平井卓也デジタル改革担当大臣の会議でのNECに対する
恫喝発言との関連です。
─────────────────────────────
 デジタル庁はNECには死んでも発注しないんで。場合によっ
ちゃ出入り禁止にしなきゃな。このオリンピック(アプリ)であ
まりぐちぐち言ったら完全干すからね。一発遠藤のおっちゃんあ
たりを脅しておいた方がいいよ。どっかさ、象徴的に干すところ
を作らないとなめられちゃうからね。運が悪かったってことにな
るね。やるよ本気で、やる時は。払わないよNECには基本的に
は。         ──2021年6月11日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 この恫喝発言は、平井デジタル改革担当相がIT総合戦略室の
メンバーとのオンライン会議で飛び出したものです。ここでいう
「遠藤のおっちゃん」とは、遠藤信博NEC会長のことです。
 平井大臣は、なぜNECに怒っているのでしょうか。
 そもそもこの契約のメインは、NETコミュニケーションズで
あって、NECはわき役に過ぎません。「デイリー新潮」による
と、73億円中、NTTコミュニケーションズの取り分は45億
7600万円で、NECの取り分はわずか4億9500万円でし
かないのです。
 それが海外の観戦客受け入れが中止になって、NECのAIに
よる顔認証システムが不要になり、全体の予算が38億円に減額
され、NECの取り分がさらに減り、NECとIT総合戦略室の
間で何らかのトラブルがあったものと考えられます。平井大臣の
恫喝発言は、それに原因しているのではないかと考えられます。
 しかし、平井大臣は、IT総合戦略室の幹部とともに、NTT
の接待を受けており、NTTに相当肩入れしていることが考えら
れます。それにしても「デジタル庁は死んでもNECに発注しな
いし、完全に干してやる」という発言は、国務大臣の発言として
はきわめて不適切であると考えます。
             ──[デジタル社会論V/014]

≪画像および関連情報≫
 ●平井デジタル相の「恫喝」発言を、このまま個人の問題で
  終わらせてはいけない
  ───────────────────────────
   平井卓也デジタル改革担当相が、東京五輪向けのアプリ発
  注に関して、受注企業への恫喝を示唆する発言を行ったこと
  が問題視されている。平井氏への批判が高まっているが、少
  し視点を変えるとさまざまなことが分かってくる。
   発言は4月に行われた内閣官房IT総合戦略室における幹
  部会議のもので、本来は非公開だが音声が外部に流出した。
  平井氏は、「NECには死んでも発注しない」「象徴的に干
  すところを作らないとなめられる」「脅しておいたほうがい
  い」などと発言しており、相手を恫喝するよう職員に指示し
  たとも受け取れる。
   直接、事業者を脅したわけではないが、大臣として不適切
  であることは言うまでもない。だが、この発言を少し角度を
  変えて眺めてみると、さまざまな解釈ができる。「事業者か
  らなめられる」「脅しておいたほうがよい」といった言葉は
  裏を返せば、官庁側がIT事業者をうまくコントロールでき
  ていない現状をうかがわせる。実際、官庁側がIT事業者を
  制御できず、一部で法外な支出を強いられているというのは
  長年、問題視されてきたことである。2001年には公正取
  引委員会が「1円入札」問題について調査し「注意」を行っ
  たこともある。「注意」は独占禁止法に基づく公式な処罰で
  はないが、それに準じる重みを持つ。
                  https://bit.ly/3koFGaU
  ───────────────────────────
朝日新聞/週刊新潮.jpg
朝日新聞/週刊新潮
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2021年08月30日

●「平井大臣へのNTT接待のねらい」(第5561号)

 今年の3月のことですが、衆院予算委員会にNTTと東北新社
の経営トップが参考人招致され、集中審議が行われたことを覚え
ている人は多いと思います。メインは東北新社の外資規則違反問
題です。この問題を総務省が意図的に見逃したのではないかとの
疑惑が膨らんだからです。この事案には、東北新社に菅首相の長
男が勤務しており、接待の関係者であったことから、大きな話題
になったのです。この接待問題がNTTによる平井卓也デジタル
担当相に対する接待問題に飛び火します。これに関し2021年
6月25日付の朝日新聞デジタルは次のように報道しています。
─────────────────────────────
 平井卓也デジタル改革担当相は25日の閣議会見で、NTT幹
部と8回の会食をしたと明らかにした。このうち2回は昨年9月
の大臣就任後だったが、会費は割り勘で支払ったとし、「大臣規
範にのっとった対応をしており、国民から疑念を招くようなこと
をしていない」と主張した。
 24日発売の週刊文春は、平井氏がNTT会長の篠原弘道氏や
社長の澤田純氏から高額な接待を受けていたと報じた。平井氏は
会見で、会食した事実は事実を認めたうえで、「私と出席した事
務方の分は(費用を)きっちり払っている」と述べた。会食の理
由は「最先端の技術と今後のデジタル改革の方向性についての意
見交換」と説明した。双方の参加者名は明らかにしなかった。
 国家公務員倫理規程は、利害関係者からの接待を禁じ、割り勘
でも1回1万円超の会食は事前に届ける必要がある。文春が同席
した可能性があると報じた官僚について、内閣官房IT総合戦略
室は「担当者が不在」として、取材に応じていない。
       ──2021年6月25日付、朝日新聞デジタル
                  https://bit.ly/3mEzVZv
─────────────────────────────
 先週のEJでも述べたように、五輪アプリの構築についてのN
ECとNTTコミュニケーションのいわゆる”取り分”は、NE
Cが4億9500億円であるのに対して、NTTコミュニケーシ
ョンは45億7600億円と大きな差があります。
 「デジタル新潮」によると、内閣官房IT総合戦略室の関係者
の言として、次のように伝えています。
─────────────────────────────
 むしろNTTコム(NTTコミュニケーション)の方が問題で
す。再委託先に仕事の大半を投げていて、その金額は13億円あ
まり。そのほか、プロジェクトの管理だけで、別途10億円の予
算をつけています。「管理」とは名ばかりで、幹部連中が集まっ
て、進行状況を会議で話しているだけなのですが・・・。それで
満足したのか、NTTコムの方が減額要求にはすぐに応じたと聞
いています。  ──2021年6月15日付「デイリー新潮」
─────────────────────────────
 平井卓也デジタル改革相がNECに怒りをぶつけている理由と
思われるのは、厚労省がNECに発注したワクチン接種円滑化シ
ステム(V−SYS)の不具合にあるのではないかといわれてい
ます。平井デジタル改革相がNECへ「恫喝発言」を行ったのは
今年の4月上旬のことであり、ワクチン配付がV−SYSのトラ
ブルで停止した時期とほぼ一致しているからです。ちなみにこの
システムは随意契約で20億5876億円です。
 ところで、平井デジタル改革担当相がNTTに接待を受けたこ
とについて、「私と出席した事務方の分は、(費用を)きっちり
払っている」といっていますが、ここで平井氏が、「事務方」と
いっている人物について情報があります。これは、「週刊文春」
が入手したNTTの内部資料によって判明したものです。
 それは、内閣官房IT総合戦略室の向井治紀室長代理です。な
ぜ、この情報が重要なのは、2020年10月から平井大臣と一
緒に3か月連続で接待を受けているからです。2020年10月
といえば、菅内閣発足直後です。既にこのとき、菅首相はデジタ
ル庁の創設を決め、平井デジタル改革担当相に準備を指示してい
ます。NTTからの接待はこの時期に行われており、そのとき平
井大臣と同行した人物は、実質的に国のデジタル政策を策定する
キーマンであるといえるからです。
 向井治紀氏は、東京大学法学部卒業後、旧大蔵省に1981年
に入省し、太田充前財務次官はその2年後輩に当たります。内閣
府関係者は、向井治紀氏について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 向井氏は理財局次長などを経て、2010年から内閣官房でマ
イナンバー制度の立ち上げなどに携わってきました。霞が関では
「ミスター・マイナンバー」の異名を持つ人物です。現在は今年
9月に発足予定のデジタル庁の設置準備を担う内閣官房IT総合
戦略室の室長代理と、内閣府番号制度担当室長を兼務している。
マイナンバーはデジタル庁に一元化されることもあり、平井卓也
デジタル相は向井氏を側近として重用しています。
      ──2021年6月30日付、「文春オンライン」
─────────────────────────────
 朝日新聞の伊藤裕香子朝日新聞社編集委員は、2020年11
月4日に開催された向井治紀氏の「デジタル庁とマイナンバー」
と題する講演について次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 デジタル庁は「これまでと全く違う、現場第一主義の社会に実
装する謙虚な組織」とし、マイナンバーは、セキュリティー、利
便性、コスト安の3つを同時に進めると話す。使命は、コストの
かからない社会をつくること。新組織の形態や、マイナンバーカ
ードで広がるサービス内容など、具体的な制度設計への言及も、
盛りだくさんにあった。便利はリスクと裏表の関係にあり、暮ら
しに身近な話題だけに、多くの質問が寄せられた。
                  https://bit.ly/3kozShG
─────────────────────────────
             ──[デジタル社会論V/015]

≪画像および関連情報≫
 ●デジタル庁で、日本の「デジタルの未来」は本当に良い
  方向へ変わるのか?
  ───────────────────────────
   さて、デジタル庁について考える前に、この6月に噴出し
  た平井卓也デジタル改革担当相の醜聞について触れないわけ
  にはいきません。ごく簡単にまとめさせていただきます。
   まず、NEC恫喝(どうかつ)問題です。オリパラ向けに
  政府が発注したアプリの事業費削減をめぐる内閣官房IT総
  合戦略室の会議で、平井大臣が「NECには死んでも発注し
  ない」「どこか象徴的に干すところをつくらないとなめられ
  る」と発言し、さらに幹部職員にNECを「脅しておいて」
  と求めたことを示す平井大臣の音声が流出しました。
   背景としては、オリパラに向けて海外から来る120万人
  が使用する予定だったアプリの開発費73億円が、海外から
  の観戦客がゼロになったことで急きょ、IT事業費の削減に
  ついて話し合われたもようで、恫喝があったのかどうかはう
  やむやですが、結果として政府はその後38億円に費用を減
  額したと発表しています。
   このニュースを見ると、発注した費用を後から値切る、象
  徴的に干す相手を作って他社の価格も抑えるというのがデジ
  タル大臣の手法に見え、不安を感じます。続いて平井大臣と
  内閣官房IT総合戦略室の幹部がNTTから何度も接待を受
  けていたことが判明し、巨額の発注も行われていたことが報
  道されます。さらには平井大臣が親密なITベンチャー企業
  をごり押しする音声が判明し、のちに大臣規範に抵触する形
  でそのITベンチャーの株を平井大臣が購入していたことま
  で表に出ます。         https://bit.ly/3BdJPVN
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向井治紀氏.jpg
向井治紀氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論V | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年08月31日

●「デジタル庁創設をめぐるゴタゴタ」(第5562号)

 8月28日付、朝日新聞に内閣官房IT総合戦略室幹部の処分
の記事が出ているので、ご紹介します。この記事は他紙にも出て
いると思いますが、日本経済新聞は完全スルーです。9月1日の
デジタル庁創設の直前であり、重要ニュースのはずですが、無視
です。この新聞は、政権に都合の悪いことは重用ニュースであっ
ても書かない方針のようです。
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◎IT室幹部ら6人処分/五輪アプリ不適切入札で
 東京五輪・パラリンピック向けアプリ(通称オリパラアプリ)
の発注を巡る問題で、内閣官房IT総合戦略室は27日、発注に
関わった幹部職員らの処分を明らかにした。調達の公平性に、国
民の疑念を生じさせかねないとして、訓告などの処分にした。
         ──2021年8月28日付、朝日新聞朝刊
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 「3社からの競争入札」のかたちを整えるために、事前に金額
を指示し、他社の見積書も参考に送付するなど、きわめて不適切
な発注をしておきながら「訓告」というきわめて軽い処分にとど
めています。
 公務員の処分というと、国家公務員法82条が定めている4段
階の「懲戒処分」があります。重い順に並べると次の通りです。
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         1.免職   3.減給
         2.停職   4.戒告
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 このなかに「訓告」はなく、「訓告」は法律上の処罰にならな
い比較的軽い実務上の処分の1つに過ぎないのです。訓告は、業
務違反の際に口頭又は文書で注意をする処分であり、給与や昇格
に影響はないきわめて軽い処分です。
 発注チーム管理者は、神成淳司室長代理ですが、この人には重
要な疑惑があります。そのことについて、朝日新聞は次のように
書いています。これだけのことをして訓告です。大甘な処分とい
われても仕方がないでしょう。
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 守秘義務を負わない民間企業の社長が仕様書作成に深く関与し
その企業が再受託者となった。社長と神成氏が共同開発者のシス
テムが、アプリに採用された。神成氏は利益を得る予定だったが
週刊誌による報道後に権利を放棄した。神成氏は、2017年〜
18年、社長から頻繁に高額な飲食接待を受けていたという。
         ──2021年8月28日付、朝日新聞朝刊
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 この神成淳司慶應義塾大学環境情報学部教授を高く評価してい
たのが和泉用人首相補佐官です。このことについて、8月26日
付の「デイリー新潮」は次のように書いています。
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 デジタル庁の母体になるIT室をこれまで事実上仕切ってきた
和泉洋人首相補佐官が、神成氏をデジタル監に推したというので
す。しかも和泉補佐官が根回ししたのか、官僚トップの杉田和博
・官房副長官も賛成に回ったそうです。
 一方、デジタル政策を担当する内閣官房参与である村井純・慶
應大学教授は反対したと言われています。結局、神成氏自身がデ
ジタル監のポストを辞退したのですが、和泉補佐官はまだ、8人
置くことになっている業務の最高責任者のどこかに神成氏を使う
つもりでいるようです。       https://bit.ly/3ypvALU
       ──2021年8月26日付、「デイリー新潮」
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 ところで「デジタル監」とは何でしょうか。
 このポストは民間人から登用することが決まっています。組織
のトップではありませんが、担当大臣の補佐から組織や実務の監
督まで幅広い業務を受け持ちます。政府全体でみても、民間登用
としては、省庁の事務次官を超える最上級の権限を持つポストと
いわれています。その専門能力を生かせるかどうかがデジタル改
革の成否にも影響します。
 2021年2月9日に閣議決定された「デジタル庁設置法案」
によると、デジタル庁のトップは首相が務め、首相を補佐するか
たちで、デジタル庁担当の「デジタル大臣」(仮称)を置くこと
になっています。このデジタル大臣を、民間で培った専門性を生
かして補佐するポストがデジタル監です。
 これでわかったことがあります。菅内閣が発足したとき、菅首
相が多くの民間人と会ったのですが、そのなかに、村井純慶応義
塾大学名誉教授がいたのです。このときは、なぜ、村井氏と会っ
たのかわからなかったのですが、デジタル庁についていろいろと
アドバイスを受けるためだったものと思われます。
 和泉補佐官は、このデジタル監について、神成敦司教授を推薦
しましたが、これには、村井内閣官房参与が反対したといわれて
います。村井教授が推薦したのが伊藤穣一氏です。伊藤穣一氏は
投資家やIT実業家などとして知られ、2011年にデジタル技
術の研究所であるメディアラボの所長に就任しましたが、少女ら
への性的虐待などの罪で起訴された米国の富豪ジェフリー・エプ
スタイン元被告(勾留中に死亡)から、資金援助を受けていたこ
とが明らかになり、19年に辞任した経緯があります。
 確かに、伊藤穣一氏は、インターネットおよびテクノロジー企
業に焦点を当てた起業家としての役割が評価され、PSIネット
ジャパン、デジタルガレージ、インフォシークなどを設立してい
ますし、ソニー株式会社の戦略アドバイザーも務めており、デジ
タル監としては適任者です。
 そして、8月28日現在、政府は、そのデジタル監に一橋大学
名誉教授の石倉洋子氏を起用する方向で調整していますが、これ
は決まりと考えられます。しかし、石倉洋子氏は経営学者として
は超一流ですが、デジタル監が勤まるかどうかは疑問です。
             ──[デジタル社会論V/016]

≪画像および関連情報≫
 ●伊藤穰一氏起用を検討したデジタル庁トップ人事で露わに
  なったもの
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   結果的に撤回されたものの、8月初旬に「政府は、9月に
  発足するデジタル庁の事務方トップとなるデジタル監にマサ
  チューセッツ工科大学(MIT)メディア・ラボの所長を務
  めた伊藤穰一氏を起用する方向で最終調整」というニュース
  を見た時には目を疑った。伊藤氏といえば、「エプスタイン
  ・スキャンダル」で、MITメディア・ラボの所長職辞任に
  追い込まれた人物だ。
   エプスタイン・スキャンダルとは、過去に未成年の売春斡
  旋で有罪となり、2019年にも性的虐待、人身売買などの
  容疑で再度起訴されたアメリカの実業家・ジェフリー・エプ
  スタインから、多くの名門大学や研究者が資金提供を受けて
  いたという事件だ。伊藤氏は問題ある人物だと知りつつも資
  金提供を受けていたと報じられたことで、MITの職だけで
  なく、その他の役職も辞任することになった。
   エプスタインの人脈が著名政治家、財界人、学者、テクノ
  ロジー業界の有力者、ハリウッド、英国王室にまで広がって
  いたこと、彼が獄中死したという展開もあって、この事件は
  アメリカ社会を大きく揺るがせた。2020年にはネットフ
  リックスが、彼の被害者たちにインタビューしたドキュメン
  タリーも制作している。伊藤氏の起用が検討されていた「デ
  ジタル監」は事務次官級の特別職で、平井卓也デジタル改革
  担当相は民間からの起用を明らかにしていた。伊藤氏は長年
  テクノロジー企業の経営や投資に携わり、MITの名門機関
  を率いた経験もあるので、名前が浮上したところまでは分か
  らなくもない。実際、力量や実績、国際的人脈に関しては、
  彼のように条件の揃った人は稀有だろう。
                  https://bit.ly/3gF2lys
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伊藤穣一氏.jpg
伊藤穣一氏
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