2021年07月29日

●「DBS銀行ビジネスモデルを知る」(第5540号)

 今回のテーマ「デジタル社会論/2」も70回に近づいてきま
した。今回は67回です。現在の予定ではこのテーマは、8月6
日まで続けて、8月10日からは「デジタル社会論/3」として
日本のデジタル化を取り上げます。デジタル庁の創設が9月だか
らです。EJには、夏休みもお盆休みもありません。
 日本のメディアは、あまり取り上げませんが、中国では「デジ
タル人民元」が当たり前のように使われています。これは、中央
銀行が発行するCBDCです。世界がコロナで騒いでいる間に中
国では、デジタル人民元の民間の実証実験を着実に積み上げてき
ています。西側世界は遅れています。
 DBS銀行のビジネスモデルの話に戻ります。添付ファイルに
詳しい図が付けてあります。これは、田中道昭氏の本に出ている
ものと一緒です。それは、DBS銀行の一連の業務プロセスをあ
らわしています。
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「顧客を獲得する」→         獲得コストを下げる
「顧客と取引する」→         取引コストを下げる
「顧客との関係を強化する」→ 顧客当たりの売上高を上げる
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 このDBS銀行の業務プロセスは、DBS銀行が保有する顧客
データと、それを基にしたDBS銀行内外のプロダクトサービス
の「エコシステム」によって成り立っています。
 さて、この「エコシステム」とは何でしょうか。説明が必要で
あると思います。
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 エコシステムとは、複数の企業が商品開発や事業活動などで、
パートナーシップを組み、互いの技術や資本を生かしながら、開
発業者・代理店・販売店・宣伝媒体、さらには消費者や社会を巻
き込み、業界の枠や国境を超えて広く共存共栄していく仕組み。
本来は、生物とその環境の構成要素を1つのシステムとしてとら
える「生態系」を意味する科学用語。 https://bit.ly/2UT5XoQ
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 IT業界では、マイクロソフトのOS「ウインドウズ」を中心
にして、デベロッパー(開発者)、ベンダー、サードパーティー
ユーザーが有機的に結びついて、ともに成長する収益モデルが提
唱されてきています。これもひとつの「エコシステム」ですが、
これはウインドウズを頂点とする垂直的な関係によるエコシステ
ムといえます。
 しかし、最近では、高速通信網の拡充、無料OSであるリナッ
クスやグーグルの各種無料サービスの普及に伴い、ベンチャーや
一般ユーザーも含めた水平的な協力関係を重視する方向へとシフ
トしつつあります。
 「エコシステム」というと、「楽天エコシステム」ということ
がよくいわれます。楽天という企業は、ECサイトのイメージが
強いですが、その実態を見ると、楽天銀行、楽天証券、楽天生命
楽天損保と金融のフルラインナップのサービスを提供しており、
金融グループそのものです。
 楽天は、GAFAと同様にプラットフォーマーであり、4大金
融ディスラプター──楽天、LINE、ヤフー・ソフトバング、
SBIの一角を占めています。このうち、LINEとヤフーは経
営統合し、強大な勢力を形成していることは既に述べています。
 「楽天エコシステム」について、「楽天コーポレートレポート
/2017年」は、次のように記述しています。
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 楽天は、国内外においてインターネットサービス、フィンテッ
クサービスの分野で多岐にわたるサービスを提供しています。こ
れらの軸であり、当社の重要な非財務資産であるのが、楽天会員
を中心としたメンバーシップ、ブランド、データです。会員が共
通IDを用い、多様なサービスを回遊的に利用することで、「楽
天エコシステム(経済圏)」を形成しています。これにより会員
のライフタイムバリュー(生涯価値)の最大化や顧客獲得コスト
の低下を可能にし、流通総額を増大させ、企業価値を高めていま
す。                    ──田中道昭著
         『アマゾン銀行が誕生する日/2025年の
              次世代金融シナリオ』/日経BP
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 添付ファイルをご覧ください。ここにDBS銀行におけるエコ
システムが図解されています。DBS銀行の一連の業務プロセス
に話を戻します。この業務プロセスは、DBS銀行が保有する顧
客データと、それを基にして展開されるDBS銀行内外のプロダ
クトサービスのエコシステムによって成り立っています。この顧
客データとエコシステムが拡大すればするほど、顧客を獲得する
コストを下げ、さらに顧客と取引するコストを下げ、そして、顧
客当たりの売り上げを向上させることができます。
 田中道昭氏は、このDBS銀行のエコシステムについて、次の
ように述べています。
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 DBS銀行のエコシステムは、顧客データを蓄積・管理・処理
するクラウド上の銀行システム、銀行内部向けAPIと銀行外部
向けAPI(オープンAPI)を通したプロダクトサービスから
なるものです。    ──田中道昭著/日経BPの前掲書より
─────────────────────────────
 つまり、エコシステムは、ここでいうオープンAPIによって
構築されることになります。企業がAPIを公開することによっ
て、他社のサービスとつながり、それが積み重なることによって
拡大する経済圏のことを「APIエコノミー」と呼んでいます。
APIはエコノミーを形成する潜在力をもっているからです。A
PIをもっと理解する必要があります。明日のEJでAPIにつ
いて、もう一度詳しく説明することにします。
             ──[デジタル社会論U/067]

≪画像および関連情報≫
 ●最強と言われる「楽天経済圏」とは何か?
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   楽天と聞くと、まず何が浮かぶでしょうか。楽天市場、楽
  天ゴールデンイーグルス、楽天銀行、楽天モバイル・・・。
  ここで挙げただけでもショッピングモールから球団経営、銀
  行などと幅広いですが、楽天グループはもっともっとありま
  す。楽天トラベル、楽天ブックス、楽天ペイ、ラクマ、楽天
  でんきといったところを利用している人もいるでしょう。あ
  らゆる分野で知名度がありますが、これらの楽天グループで
  は「楽天ポイント」を媒介してユーザーを囲い込んでおり、
  ここで生じる「楽天経済圏」は、かなり強いようです。
   楽天マーケティング・プラットフォーム・ナビによると、
  楽天エコシステム(経済圏)は、Eコマース、フィンテック
  デジタルコンテンツ、通信など、70を超えるサービスを展
  開しているとのこと。世界での楽天会員数は1億以上、楽天
  市場出店店舗数47940店舗、連結売上高は1・1兆円と
  なっています。         https://bit.ly/371lO7s
  ───────────────────────────
 ●図の出展 https://bit.ly/2Wy2NaR
DBS銀行のビジネスモデル.jpg
DBS銀行のビジネスモデル
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする