発銀行──シンガポール開発銀行として設立されています。現在
は、シンガポール、インドネシアの東南アジア、中国、香港、台
湾のグレーター・チャイナ、そして、南アジアのインドなど18
の国・地域に280以上の拠点を有し、約2万4000人の従業
員を抱える東南アジア最大の銀行になっています。
DBS銀行の変革をリードしたのは、ピユシュ・グプタCEO
とデビッド・グレッドCIOであるといわれます。CIOとは、
チーフ・インフォメーション・オフィサー(最高情報責任者)の
ことです。
これらのDBS銀行のトップは、DXに関して、次の3つのポ
リシーを掲げています。
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1.会社の芯までデジタルに
Become digital to the core.
2.自らをカスタマージャーニーへ組み入れる
Embed ourselves in the customer journey.
3.従業員2万2000人をスタートアップに変革する
Create a 22,000 start-up.
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第1は「会社の芯までデジタルに」です。
デジタル化というと、オンラインサービスやモバイルサービス
を提供するといったフロントエンドの表面的なデジタル化は進む
ものの、既にレガシーになっているアナログ的部分と必ず抵触す
るものです。これに関連して、グプタCEOは記者から「既存の
銀行ビジネスとカニバリゼーション(共食い)や、コンフリクト
(衝突)は起きないか」と問われて次のように述べています。
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顧客をフィジカル(身体的)なバンキング経験からデジタルな
経験に移すと、実はビジネスは増えます。当社の調査によれば、
リテール(個人向け)でも中小企業向けのビジネスでもデジタル
化が進むほど取引は活性化しました。
一方で、2種類の緊張状態を生む可能性がありました。1つ目
は、従来のバンキングと別部門でデジタル部門を立ち上げてしま
うと、デジタルと従来の部門の間で、コンフリクトが生ずること
です。われわれはこれを解決するために、別部門は立ち上げませ
んでした。代わりにメーンのバンキング部門において、デジタル
化を進める方策を取りました。別部門ができなかったため、緊張
状態が生まれることはなかったです。
2つ目は、デジタル化で従業員の仕事が失われるという緊張で
す。当社でもテラー(窓口業務)や、コールセンターのオペレー
ターなど1500人ほどの仕事が必要なくなる可能性に行き着き
ました。そこでそうした人材には再訓練や再度スキルを磨く計画
を事前に作り、機会を提供して新たな仕事の担当となってもらい
ました。 ──ピユシュ・グプタDBS−HDCEO
──『週刊ダイヤモンド』/2018年12月8日号より
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要するに、オンラインサービスやモバイルサービスを提供する
というフロントエンドの表面的なデジタル化にとどまらず、バッ
クエンドの業務アプリケーション、ソフトウエア、ミドルウェア
ハードウェアやインフラのレベルにいたるまで、さらには経営陣
・従業員のマインドセットや企業文化まで、組織のすべてを例外
なく見直すというのです。従来の業務との、カニバリゼーション
(共食い)やコンフリクト(衝突)があっても、会社の芯までデ
ジタル化を貫くということです。
第2は「自らをカスタマージャーニーへ組み入れる」です。
まず、「カスタマージャーニー」とは何かを明らかにすること
です。顧客が企業との関わり合いを持ち、コミュニケーションを
重ねていく過程で、顧客の感情は変化していきます。この時系列
に沿った顧客の動きを、企業視点から見たものが、「カスタマー
ジャーニー」と呼ばれます。企業は顧客との良好な関係を築き、
維持するために、こうした一人ひとりの辿る「旅」をより良いも
のにすべく、何らかの働きかけを行うことになります。
つまり、銀行として、自身の存在意義を問い直すなかで、次世
代金融産業において、どのようなプレーヤーになるかといったビ
ジョンを示す必要があるということです。これについて、田中道
昭氏は、次のようにいっています。
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端的にいえば、それは預金・貸出・為替といった銀行目線のト
ランザクションジャーニーから、ユーザー1人ひとりのライフス
タイル、生活パターン、ニーズに寄り添う顧客目線のカスタマー
ジャーニーへの転換を意味します。DBS銀行はまた、「簡単、
シームレス、目に見えない」というコンセプトも提示しました。
カスタマージャーニーの中で、顧客はシンプルにしてシームレス
なサービスを享受する。そこにおいてDBS銀行は顧客の「目に
見えない」存在になろうというのです。 ──田中道昭著
『アマゾン銀行が誕生する日/2025年の
次世代金融シナリオ』/日経BP
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この説明では、「目に見えない銀行」が具体的に何を意味する
のかいまひとつはっきりしません。グプタCEOは、「銀行自ら
がネット上で商品販売の場を提供する『マーケットプレイス』を
始める」としています。銀行がそこで住宅を販売する──そうす
れば、そこに住宅ローンビジネスが隠されたかたちで付いてくる
といっています。つまり、「住宅ローン」を売ろうとするのでは
なく、銀行が住宅そのものを売ればよいというのです。これが、
「隠されている銀行」という意味ではないでしょうか。実に面白
い発想だと思います。明日のEJでは、第3のポリシー「従業員
のスタートアップ化」について説明をすることにします。
──[デジタル社会論U/064]
≪画像および関連情報≫
●カスタマージャーニーとは?誰でもできるカスタマージャー
ニーマップの作り方!
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カスタマージャーニーとは、ずばり顧客の購買に至るまで
のプロセスを指します。日本語に直訳すると「顧客の旅」と
なり、顧客がどのように行動して購買に至るのかという道の
りを旅に例えて表現しています。また、その行動や心理を時
系列に並べて見える化したものを、「カスタマージャーニー
マップ」といいます。
では、なぜ今カスタマージャーニーが注目されているので
しょうか?テクノロジーの普及により生じた2つの変化が主
な要因となっています。
顧客側:顧客の購買行動が複雑化したため
従来、顧客と企業のタッチポイントと言うと、主要なメデ
ィアのテレビ・新聞・雑誌等くらいしか考えられなかったの
で、企業が自らの商品やサービスを認知してもらい、顧客の
購買意欲を高めるためには、それらのタッチポイントを想定
するだけで十分でした。
しかし現代において、顧客は複数のチャネルを横断的に使
用して、情報収集を行うことができます。顧客の購買行動は
複雑になり、企業とのタッチポイントも増えました。
企業側:
一人ひとりに合わせたマーケティング施策を打ち出せるよ
うになったため一方で、テクノロジーの普及は企業にも変化
をもたらしました。従来に比べ、企業が得られる情報の量と
質が向上したため、より精度の高いマーケティング施策を打
ち出せるようになったのです。さらに、そのテクノロジーの
進歩は、企業が一人ひとりの顧客に対してアプローチするこ
とを可能にしました。 https://bit.ly/3i7aqgN
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目に見えない銀行/DBS