「R」は利益であり、「E」は株主資本をあらわします。企業の
利益には、営業利益、経常利益、当期純利益(最終利益)などの
段階がありますが、ここでいう利益は当期純利益です。
株主資本は「自己資本」とも呼ばれ、主に株主から集めた資金
と利益の蓄積で構成される企業の総資本の一部です。つまり、株
主資本は、借入金などの他人資本と違い、自己資本ですから、返
済の必要がないのです。
ROEは、企業が独自の資本でどれだけ利益を上げているかと
いう経営や資本の効率性を示す指標なのです。したがって、RO
Eが高い企業は、株主資本が有効活用され、株主の満足度が高ま
るといえます。DBSのROEは、2018年度は9・7%と、
日本の3メガバンクより高いのです。
DBSグループホールディングスのCEOは、ピユシュ・グプ
タという人物ですが、彼はここ20年ほどのテクノロジーの進化
で、消費者の購買行動に大変化が起きているといい、次のように
実に味わい深いことをいっています。
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ゲームチェンジャーとなった重要なテクノロジーを挙げれば、
まずはスマートフォン。これまでバンキング(銀行業務)は、一
般的な購買物などとは全く別物とみなされていたのが、今やあな
たのポケットに入っているといってもいいような状態です。
例えば、消費者は家を買いたいのであって、住宅ローンを買い
たいわけではない。スマホの到来によって、バンキングは生活の
コンテクスト(文脈)と一体化し、顧客が望むサービスの背後に
隠れた存在へと変貌を遂げました。自動車と車のローンの関係な
ども同じです。 ──ピユシュ・グプタDBS−HDCEO
──『週刊ダイヤモンド』/2018年12月8日号より
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「Live more,Bank less」 ──人生をより楽しみ、銀行の付き
合いは少なく──これがDBSのうたい文句です。また、グプタ
CEOは、次のようにもいっています。
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スマートフォン(スマホ)の普及で消費者は24時間365日
休みなく、様々なサービスを享受できるようになった。現代人は
すぐに欲求が満たされることに慣れた。米グーグルの検索サービ
スを朝に使い、答えが夕方に返ってくればよいと考える消費者は
いない。銀行業務も同じだ。消費者はすぐに口座が開設でき、資
金も引き出せる利便性を求めている。そうした消費者の期待に応
えて初めて、顧客との取引を拡大できる。
──ピユシュ・グプタDBS−HDCEO
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このピユシュ・グプタCEOにGAFAについてどう考えるか
と聞いたところ、DBSでは、GAFAではなく「ガンダルフ」
と呼んでいるといっています。「ガンダルフ/GANDALF」
とは、J・R・R・トールキンのファンタジー小説『指輪物語』
に出てくる魔法使いの名前です。GANDALFは、次のことを
意味しています。
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G ・・ グーグル
A ・・ アマゾン
N ・・ ネットフリックス
D ・・ DBS
A ・・ アップル
L ・・ リンクトイン
F ・・ フェイスブック
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GAFAにない「N」はネットフリックス、定額制の動画配信
サービスとして日本でも有名ですし、「L」は、世界最大級のビ
ジネス特化型のSNSです。そして、何といっても自身のDBS
の「D」を真ん中に入れているのは自信のあらわれです。日本の
企業、とくに金融企業としては、このGANDALFを相手にし
て、競合していく必要があるということになります。
グプタCEOは、何かコトを起こすとき、「ジェフ・ベゾスな
ら、どう考えるだろうか」と自問するといっています。アマゾン
のジェフ・ペゾス氏を経営者として尊敬しているのです。そして
具体的にGAFAに対して次のようにいっています。
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巨大テック企業は銀行業と全く違うやり方をします。われわれ
のような銀行は、従来支店や「リレーションシップマネジャー」
などを通じ、顧客を獲得してきましたが、彼らは電子上でそれを
成し遂げてしまいます。また、われわれは「同日中の取引処理完
了」を「年中無休でやる」というスピード感ですが、彼らは即時
に処理できるうえ、大量のデータも持っています。我々が変わる
ときは、そんな彼らのように考えなくてはいけないのです。
──『週刊ダイヤモンド』/2018年12月8日号より
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DBSグループ・ホールディングスが、なぜデジタル化を目指
すのかについて、2017年度の数値で示すと、2017年度の
総収入は119・2億シンガポールドル(約9800億円)、こ
のうち、デジタル化の進む香港とシンガポールの各ビジネスの比
率は44%(約4300億円)です。
このうち、「デジタル」顧客からの売り上げは63%で年平均
成長率は27%、ROE27%と、「伝統的」顧客からの売り上
げの年平均成長率−4%、ROE18%と比べると、はるかに上
を行くのです。要するに、銀行の店舗を訪れる顧客よりも、デジ
タル取引を行う顧客の方からの売り上げが圧倒的に大きいし、彼
らはより多いローンと預金も保有するのです。顧客をデジタル顧
客化する方がはるかに銀行としては儲かるのです。
──[デジタル社会論U/063]
≪画像および関連情報≫
●世界一のデジタル銀行は日本と何が違うのか/シンガポール
DBS銀行CIOに聞く
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具体的には、テクノロジー・インフラを再構築するととも
に、ビッグデータや生体認証、人工知能などを活用すること
によって、顧客に提供するサービスのすべてをデジタル化し
ました。その結果、2016年にはユーロマネー誌が主催す
るアワード・フォー・エクセレンスで、「ワールド・ベスト
・デジタル・バンク」に選ばれました。
われわれがデジタル化を志向する前、DBS銀行は売り上
げも利益も伸びており、ビジネス環境は決して悪くありませ
んでした。しかし水面下では成長余力が徐々に狭まっていた
のです。拠点とするシンガポール、香港には出店余地がなく
次の展開として、人口が非常に多い中国やインドネシアで現
地銀行を買収することでの進出を検討しましたが、外資の出
資規制が厳しく、たとえばインドネシアでは、ダナモン銀行
の買収を断念せざるをえませんでした。
そこで発想を切り替え、買収などによって商圏を広げるの
ではなく、DBS銀行そのものをデジタル化しようと考えた
のです。デジタル世界であれば、国境も規制も超えて拡張で
きる可能性があるからです。デジタル化を推し進めるにあた
っては、私たちは「もし、アマゾンドットコムのジェフ・ベ
ゾスが銀行業を行うとしたら、何をするだろうか」という観
点から、徹底的に考えました。そこで出てきた答えのひとつ
は、私たちが「芯までデジタル企業になる」ことでした。
https://bit.ly/3wTql6w
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ピユシュ・グプタDBSグループホールディングスCEO