2021年07月19日

●「官邸は接種実態を把握していない」(第5534号)

 パンデミックに至った新型コロナウイルス禍は、日本の行政が
デジタル化できていない現実を次々と見せつけています。現在は
ワクチン接種をめぐり混乱が起きています。これにも政府のデジ
タル対応のまずさが目立っています。この問題について16日の
EJの続きとして述べることにします。
 政府は、ワクチン接種について、次の2つのシステムで現在対
応しています。
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  V−SYS ・・ ワクチンの流通管理/厚労省が管轄
    VRS ・・ ワクチン接種の記録/官 邸が管轄
─────────────────────────────
 V−SYSとVRSの関係については、図として、添付ファイ
ルにしているので、それを参照していただきたいと思います。図
に「接種会場」とあるのは自治体と考えるべきです。接種は、自
治体内の医院や接種センターで行われますが、医院の場合、コロ
ナ以外の患者の来院があるので、接種は昼休みとか診療終了後に
行われることになります。そのため接種速度を上げるために、接
種センターを設ける自治体が多くなっています。
 自治体は、傘下の医院や接種センターから予約状況に応じ、必
要とするワクチンを2回分まで含めて、供給希望数としてV−S
YSを通じて、申し込みます。厚労省はこのV−SYSのデータ
に基づいて、自治体にワクチンを供給することになります。
 さて、自治体は、自治体個々の独自の計画に基づいて、高齢者
から接種券を送付し、予約システムを通じて接種の予約を取らせ
ようとしましたが、ここで1つ目の問題が発生します。ほとんど
の高齢者はネットでの予約を敬遠して電話で予約を取ろうとした
ので、コールセンターはパンクに近い状態でなかなかつながらな
くなったことです。これは、日本の高齢者のITリテラシーの低
さが図らずも露呈してしまったことになります。
 ここで、既に2つ目の問題が発生していたのですが、それはす
ぐには表面化せず、自治体と官邸の間で、不満がくすぶっていた
のです。それは、次の3つの問題です。
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@接種記録の入力は、接種場所(医院など)において、VRSと
 V−SYSの両方に行う必要があるが、入力が複雑であり、時
 間がかかるので、自治体が代行することになったこと。
Aこの作業のため官邸は、入力端末としてタブレットを配付し、
 18桁のバーコード(接種記録番号)を読み取らせようとした
 が、タブレットの精度が悪く、読み取れなかったこと。
B接種記録の入力に時間がかかるため、接種日と入力日に時間差
 が生じ、VRSで接種状況を見ている官邸から見ると、自治体
 には相当量のワクチンの在庫があるように見えること。
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 ワクチン接種がコロナ禍解決のカギと考えた菅首相は、東京五
輪も迫っているので、何とか接種速度を上げようとし、7月末ま
でに高齢者の接種を終わらせるようハッパをかけます。これには
西村コロナ担当相、河野ワクチン担当相ともに不可能であると反
対したのですが、菅首相は「何としてもやれ!」と両大臣に厳命
したのです。この達成には一日100万回以上の接種が必要にな
りますが、この菅首相の命令を受けて、自衛隊による東京と大阪
に大規模接種センターが設けられ、そこではモデルナのワクチン
が使われることになったのです。
 今から考えると、菅首相による「1日100万回のワクチン接
種」の命令は、首相の正しい決断だったといえます。この命令に
よって自治体は本気になり、あらゆる手段を駆使して接種に取り
組むようになったからです。しかし、このことは、現在起きてい
るワクチンの量をめぐる官邸と自治体の認識の違いを起こす原因
になったのです。これについて、7月16日付、朝日新聞の朝刊
は次のように報道しています。
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 問題となっているのは、自治体の接種で使われる米ファイザー
製の供給だ。加藤勝信官房長官は、12日の記者会見で「約4千
万回分は未接種の状況で、各自治体、あるいは医療機関がお持ち
になっている」と述べ、供給は足りているとの認識を示した。6
月末までに約8800万回分を自治体に配送し、接種状況を国が
一元的に把握する接種記録システム(VRS)によると、接種実
績は約4800万回だったという。
      ──2021年7月16日日付、朝日新聞朝刊より
─────────────────────────────
 驚くべきことは、これと同様のことを河野ワクチン接種担当相
もいっていっていることです。加藤官房長官も河野担当相も、と
もに現場の実態を正しく把握できておらず、間違った認識を持っ
ていることです。担当大臣として最低です。
 2つの認識のズレがあります。1つは、VRSの入力はリアル
タイムではなく、相当の時間差があることです。それは、入力が
複雑であることと、タブレットのバーコード読み取りの不具合に
よるものです。官邸の責任です。つまり、接種は済んでいるのに
VRS上は未接種になっているように見えることです。
 2つは、自治体は2回目分のワクチンを確保したうえで、1回
目の接種を実施しており、余っているのは2回目用であって、在
庫ではないということです。なぜ、この程度のことが官邸はわか
らないのでしょうか。
 そういう間違った認識に立って、VRS上で在庫が多いと官邸
がみなした自治体には、8月前半から配分量を減らす仕組みが導
入されることになっており、自治体からは、物凄い反発の声が上
がっています。
 大阪市は計画より1割減らされることになっていますが、接種
は済んだのにVRSの登録が終わっていない件数が24万件にの
ぼるといいます。読み取りの不具合の多いタブレットを配付した
責任は官邸にあります。  ──[デジタル社会論U/061]

≪画像および関連情報≫
 ●ワクチン供給の混乱「お許しを」/河野行革相自治体向けで
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   河野太郎行政改革担当相は、13日の記者会見で、新型コ
  ロナウイルスワクチンの自治体への供給をめぐる混乱につい
  て「大変申し訳ない。お許しをいただきたい」と陳謝した。
  「ワクチン接種がかなり加速し、予約の受け付け停止やキャ
  ンセルが生じている」と説明し、「ペースが速いところに関
  してはブレーキを踏まざるを得ない」と述べた。
   政府が自治体に配布しているファイザー社製ワクチンは、
  7〜9月の供給量が6月末までの1億回から7000万回分
  へ減少。ワクチン確保を不安視する自治体が、予約受け付け
  の一時停止などの対応を取るケースが全国で相次いでいる。
   河野氏は「もう少し早めに、最低限の割当量はこうなる、
  ということを自治体に示すべきだった。予約を少し落として
  もらう必要があった」と反省の弁を述べた。
   同日に出演したTBS番組でも「供給が追い付かなくなり
  本当に申し訳ない」と謝罪した。自身がワクチン普及の課題
  として掲げてきた「三つの山」(ワクチン確保、接種の加速
  若い世代の接種率向上)を念頭に、「二つ目の山を下りると
  ころで転げ落ちた」と述べ、自治体の接種ペースが想定外の
  速さだったと強調した。河野氏は「我々がとにかく高齢者に
  早く打ってくれと言って後押ししたから、そのペースで(自
  治体は)現役世代も予約をとった」と指摘。「(その結果)
  ワクチンが来ないぞとなった。すみません」と語った。
  【堀和彦】           https://bit.ly/3BbLUT9
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新型コロナ接種システム.jpg
新型コロナ接種システム
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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