2021年07月16日

●「ワクチン接種に何が起きているか」(第5533号)

 ここまで日本の3大メガバンク、MUFG、みずほFJ、SM
BCグループのDX(デジタルトランスフォーメイション)への
取り組みを見てきましたが、それぞれにおいて、真剣にデジタル
化へ取り組んでいます。
 しかし、銀行が大きく変化しなければならないなかで、みずほ
銀行のように、大規模システム障害が発生しています。障害が起
きた原因は、特別調査委員会の報告によると、「人為的な側面に
障害発生の要因ある」と指摘しています。
 コロナ禍がまだ収まらず、4度目の緊急事態宣言が発出されて
いる日本にとっては、ワクチン接種がコロナ収束への大きなかぎ
を握っていますが、そのワクチン接種にもいま大きな問題が起き
ているのです。その原因は、ワクチン接種システム「VRS」に
あります。VRSとは次の言葉の略です。
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      VRS/ワクチン接種記録システム
          Vaccination Record System
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 コロナ禍に関して、日本政府が開発したシステムに、「COC
OA」があります。それに続くのが「VRS」ですが、発注側の
政府とシステム開発側の意図が必ずしも一致しないのです。これ
は、発注元(厚生労働省)の担当者が、システムのことがよくわ
かっておらず、明確で具体的な完成システムのイメージを示すこ
とができないのが原因と考えられます。COCOAの場合は、発
注元の厚労省だけでなく、開発と納品を任されたパーソルP&T
も、よくわかっていないケースだったのです。みずほ銀行の場合
も似たようなことがあったと思います。
 COCOAに関しては、今回のテーマの冒頭でも取り上げてい
ますが、現在にいたっても一向に機能しておらず、使う人はほと
んどいなくなっています。この件に関して『日経コンピュータ』
は、次のように問題を指摘しています。
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 政府が普及に力を注ぐ接触確認アプリ「COCOA」は、濃厚
接触の判定精度の問題やアプリのバグに悩まされた。一部の保健
所では、アプリから濃厚接触の可能性ありと通知を受けた人から
問い合わせが急増しているのに感染者の発見にあまり効果を上げ
ていない。判定精度の改善は一筋縄ではいかない。スマートフォ
ン同士のブルーツゥース通信だけで、接触距離を推定する動作原
理上の難しさに加え、米アップルと米グーグルが開発したAPI
(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)の内
部機能はブラックボックスのままだ。様々な要因が絡む。
                  ──日経コンピュータ編
          『なぜデジタル政府は失敗し続けるのか/
              消えた年金からコロナ対策まで』
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 それでは「VRS」の問題点とは何でしょうか。これに関して
7月14日付、日本経済新聞は、VRSについて次のように報道
しています。
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 政府はワクチン接種記録システム「VRS」で自治体の接種実
績を管理する。国から自治体には6月末までに約9000万回分
のワクチンを配布済みで、7月前半の2週間でさらに約1300
万回を配布する。7月13日時点の一般接種の実績は約5000
万回となっており、政府は配布実績との差分を未接種の「在庫」
とみなす。
 大阪市は医療機関などによる接種を優先し、VRS入力は市が
代行している。そのため接種と入力に時間差が生じ、8日時点で
183日分の「在庫」があるとされた。松井一郎市長は12日の
記者会見で「土日返上で入力作業する」と不服そうに語った。
         ──2021年7月14日付、日本経済新聞
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 ワクチンの接種のやり方に関しては、政府は各自治体に任せて
いたのです。ところが菅首相は「ワクチンこそコロナ禍収束の鍵
であり、東京五輪もあるので、もっと接種速度を上げよ」と関係
閣僚にハッパをかけたのです。
 そこで出てきたのは、東京と大阪の大規模接種センターの設置
です。この場合、ワクチンは、自治体はファイザーを使い、大規
模接種センターではモデルナを使うことにしたのです。どちらも
接種券がないと、接種できません。つまり、そのときは、自治体
は高齢者にしか接種券を送っていなかったので、大規模接種セン
ターでは、高齢者が接種を受けたことになります。しかし、ある
高齢者が大規模接種センターで接種を受けたとすると、自治体に
はその分ワクチンが余ることになります。そのことが速やかに自
治体に伝えられる必要がありますが、時間差が生まれ、それがう
まくいっていないのです。もちろん、1回目の接種のときに2回
目を打つ日が決まるので、自治体の医療機関としては、2回目の
分のワクチンも確保しておく必要があります。これは、在庫では
ないのです。
 このさい、接種を行う自治体の医療機関は接種記録を付ける必
要がありますが、そのために国はタブレット端末を自治体や医療
機関に配付し、このタブレット端末を使って18桁のバーコード
(接種記録番号)を入力するのですが、うまく読み取れない不具
合が発生し、加えて、システムが複雑で入力に手間がかかるので
市が医療機関に代わってやるなど混乱が起きています。何度やっ
ても読み取れないので、独自に専用の読み取り装置を購入した自
治体もあるほどで、このようなマシンを十分チェックもしないで
導入した政府に責任があります。
 これに接種券を持たなくても接種ができる職域接種がはじまっ
ていますが、これによると、自治体ではそれが把握できないので
一層の混乱をきたすことになります。そもそもシステムの設計に
問題があるのです。    ──[デジタル社会論U/060]

≪画像および関連情報≫
 ●「バーコード読み取れず」「役立たずのタブレット」・・・
  ワクチンシステムに自治体職員の怒り
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   VRSは今年1月に官邸主導で急遽、開発が始まったシス
  テムである。厚労省が昨年より開発してきたV−SYSは、
  国から自治体にワクチンを配布する単なる物流システムで、
  “円滑化システム”と呼ぶには、あまりにお粗末だったから
  だ。厚労省の担当者は官邸に、「誰にいつワクチンを接種し
  たかを集計するには2ヵ月かかる」と説明し、これに官邸が
  激怒したことがVRS開発の発端だった。
   現在、接種が行われている米ファイザー製のワクチンは2
  度の接種が必要で、1度目と2度目の間には3週間あける必
  要がある。その間に転居などで自治体をまたぐ移動があれば
  追跡が困難になるため、自治体ではなく政府が横断的に国民
  の接種状況を管理する必要があった。また全国的な接種状況
  を迅速に把握できなければ、政府としても対策に遅れが生じ
  る可能性もある。役割が細分化され、職務限定的な縦割り意
  識が機能不足のV−SYSを生み出し、その補完措置として
  VRSは開発されたのだ。
   しかし、急遽開発されたVRSでは、システムに不備があ
  るばかりか、実地訓練が不足するのは当然のことだった。先
  の自治体職員も悲痛の声を上げる。「VRSがワクチン接種
  券に記載された情報をうまく読み取れないので、接種した際
  にVRSに入力する時間が取れず、持ち帰って入力作業を強
  いられています」。       https://bit.ly/2VwTc3i
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松井一郎大阪市長.jpg
松井一郎大阪市長
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする