2021年07月01日

●「なぜ、SBは『ペイペイ』なのか」(第5522号)

 2019年5月8日のことです。事業会社ソフトバンクによる
2018年度の決算説明会の席上、孫正義ソフトバンクグループ
会長兼社長は、「ヤフー株式会社の連結子会社化」を突如発表し
ています。そのとき、ヤフーの代表取締役社長を務める川邊健太
郎氏も一緒に登壇しています。子会社化の目的としては、次の3
つが示されています。
─────────────────────────────
    1.        新領域(非通信)の強化
    2.    戦略・サービス・リソースの統合
    3.ヤフーへの成長を加速。シナジーを最大化
─────────────────────────────
 今にして思えば、同じ年の11月18日付のヤフー株式会社と
LINEの経営統合の基本合意の布石が着々と打たれていたので
す。ヤフーは、4月25日、10月1日付で持ち株会社体制に移
行し、社名を「Zホールディングス(ZHD)」に変更すると発
表しています。つまり、持ち株会社ZHDの下に100%子会社
として、ヤフー事業を担うヤフー株式会社を設置したのです。こ
れは、その同じZHDの下にLINEを置くための布石と考えら
れます。
 もうひとつ注目すべきことがあります。それは、2018年6
月15日にソフトバンクとヤフーの合弁会社であった「PayPay/
ペイペイ」に対して、ソフトバンクグループが50%、ソフトバ
ンクとヤフーがそれぞれ25%ずつ出資すると発表していること
です。これは、孫社長自身が決済サービスのペイペイをソフトバ
ンクグループのなかでいかに重視しているかのあらわれです。
 いわゆる○○ペイにおいて、一番名前を知っているのは何かと
問われたとしたら、おそらく「ペイペイ」と答える人が多いと思
います。名前も面白いし、「100億円キャンペーン」で話題に
なっているからです。自分にもチャンスがあると考えて、アプリ
をダウンロードした人もきっと多いと思います。
 ソフトバンクグループが、なぜ、「100億円キャンペーン」
のような思い切ったキャンペーンを打ったかというと、「ペイペ
イ」が、○○ペイの後発組であるからです。そのため、キャンペ
ーンで名前を覚えてもらい、先行するLINEと経営統合するこ
とで、一挙にトップに踊り出る戦略だったのです。ICTの世界
は勝者総取りであり、トップにならないとダメなのです。
 ヤフーという会社は、次の5つのユーザーアクションに対して
ゆうに100を超えるサービスを提供するところに特徴がありま
す。これについては、添付ファイルをご覧ください。データを中
心に5つの円がサイクルを形成しています。
─────────────────────────────
 @ 「出会う」:メディア、広告
 A 「調べる」:検索、コンバージョンメディア、コマース
 B  「買う」:カート
 C 「支払う」:ウォレット
 D「利用する」:サービス、コンテンツ
                      ──田中道昭著
         『アマゾン銀行が誕生する日/2025年の
              次世代金融シナリオ』/日経BP
─────────────────────────────
 上記で注目すべきは、ヤフーショッピングなどで使える「ヤフ
ーウォレット」です。これはネットにおける決済手段です。これ
に加えて、「ヤフーカード」によって実店舗における決済サービ
スも押さえていますが、これだけでは、決済によるデータ収集力
が弱いのです。そこで、その強力な手段として「ペイペイ」が出
現したのです。これについて、ペイペイの伊東史博マーケティン
グ部長は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 ヤフーは、インターネット上でビジネスを展開する事業者にヤ
フーウォレットという決済ソリューションを展開してきた。これ
により、ネットを通じた商取引を拡大し、ネット上において、だ
れがどんな商品を探し、何を購入したかといったデータを補足で
きるシーンを拡大し、ネット広告などのデータビジネスを展開す
る基盤を築いてきた。だが、商取引の市場規模を考えると、オン
ラインよりオフラインの市場のほうがはるかに大きい。
 ヤフーがオンラインでも使える決済サービスに取り組んできた
のは、まさにオフラインの領域でもデータを収集するチャネルを
築き、データの利活用を他の事業の成長に結びつけられるように
するためだ。QRコード決済という新しい決済サービスの可能性
が高まっているという環境変化を踏まえればソフトバンクグルー
プの経営資源を生かしてQRコード決済市場の主たるプレーヤー
となり、オフライン領域でできるだけ幅広くデータを補足できる
よぅにする必要があると考えたからだ。
           ──田中道昭著/日経BPの前掲書より
─────────────────────────────
 以上のことで理解できることは、最近の決済をめぐる激しい競
合では、ネット上での決済のデータ収集に加えて、オフラインで
のデータ収集の競合に移っていることです。ネット上では、クレ
ジットカードがあれば簡単に決済でき、そこからデータを取るこ
とができますが、オフラインの実店舗で現金を使われると、オフ
ラインでの買い物のデータは取れないことになります。そこで、
○○ペイが登場したのです。そのシェアは、LINEペイがトッ
プで先行しているのです。
 そこで、ソフトバンググループは、ペイペイによって、借りる
(ローン)、増やす(投資)、備える(保険)といった金融サー
ビス全般をシームレスにつなげるべく、LINEと経営統合する
ことによって、シェアのトップを取ろうとしているのです。その
ため、ソフトバンクグループは、数年内に1万7000人の従業
員のうち、9000人をペイペイなどの新規事業に投入しようと
しています。       ──[デジタル社会論U/050]

≪画像および関連情報≫
 ●ソフトバンク、ペイペイを22年度以降に子会社化へ
  ー─優先株を転換
  ───────────────────────────
   国内通信大手のソフトバンクの宮川潤一社長兼最高経営責
  任者(CEО)は2021年5月11日の決算会見で、傘下
  の電子決済サービス企業ペイペイを2022年度以降に連結
  子会社化する方針を明らかにした。
   ソフトバンクでは現在、ペイペイを持分法適用会社として
  おり、25%出資している。その他の出資比率は親会社のソ
  フトバンクグループが50%、子会社のZホールディングが
  25%。宮川社長によると、保有する優先株を転換する形で
  ペイペイを子会社化する。
   また、宮川社長は会見で会社の見える化を進めるとし、セ
  グメント別の営業利益計画とペイペイなど注力企業の重要業
  績評価指標(KPI)の公表を開始すると説明。前期(21
  年3月期)のペイペイの決済取扱高(GMV)が、3兆20
  00億円と前の期に比べて、2・6倍だったことも明らかに
  した。ソフトバンクでは、国内モバイル事業で料金の値下げ
  競争が激しさを増す中、金融ビジネスなど新領域のほか、海
  外や法人向け業務を拡大していく方針だ。ペイペイの子会社
  化でより多くの収益を取り込んでいくと同時に、将来の株式
  上場にも備えることができる。
   宮川社長はペイペイの成長戦略について、同事業がインド
  から技術を持ち寄り進化したように、「違う国で活躍してく
  れないかという思いある」と述べ、海外で独自展開するのか
  パートナーとやるのかを考えていきたいと語った。
                  https://bit.ly/3w6KqG3
  ───────────────────────────
ヤフーの決済金融事業の位置づけ.jpg
ヤフーの決済金融事業の位置づけ
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2021年07月02日

●「ペイパルマフィアが活躍している」(第5523号)

 GAFAを代表とする巨大IT企業によるフィンテック攻勢に
対して、既存金融機関はどのように対応しているのでしょうか。
この問題についても考えてみることにします。既存金融機関とテ
クノロジー企業との攻防です。
 すべては、リーマンショック後に起きているのです。リーマン
ショックとは、米国の投資銀行であるリーマン・ブラザーズ・ホ
ールディングスが、2008年9月15日に経営破綻したことに
端を発して、連鎖的に世界規模の金融危機が発生した事象のこと
をいいます。そのとき、何が起きたでしょうか。
 そのとき、米国政府は70兆円もの公的資金を投入し、金融機
関の救済を図っています。このとき、国の資金が投入されなかっ
た大手金融機関は絶無です。そうしないと、金融システム危機が
発生し、米国の経済が壊滅してしまうからです。さらに世界を牽
引している米国経済が破綻すると、世界経済にも深刻な打撃を与
えることになるからです。
 しかし、この国家を挙げての金融機関への救済措置は、市民に
とって不条理なものに感じられたのです。「従来は顧客を無視し
て好き放題に荒稼ぎし、それによってバブルがはじけると、国の
お金で救済されるとは納得がいかない。なぜなら、そのお金は市
民が収めた税金なのだから」という批判です。
 この市民の批判の高まりは、次第に金融機関に対する怒りとい
うか、嫌悪感に変わり、それが新しいテクノロジー企業による金
融サービスを求める雰囲気を高めたといわれています。そのとき
登場した企業が「ペイパル」です。
 ペイパルは、1998年12月にピーター・ティール氏とイー
ロン・マスク氏によって設立されています。2002年にイーベ
イに買収され、その子会社になっていましたが、2015年7月
に「ペイパル・ホールディングス」の社名で独立し、現在も高成
長を続けています。今や2億5000万人が利用する世界最大級
の決済サービスになっています。
 ペイパルがイーベイに買収されたとき、ペイパルから多くの人
材が流出しましたが、その人材のことを「ペイパル・マフィア」
と呼んでいます。シリコンバレーで影響力を持つ人材をそう呼ん
でいるのです。
 電気自動車メーカーの「テスラ」を経営し、ロケット開発会社
「スペースX」も手掛けるイーロン・マスク氏、世界で7億人以
上が登録するSNS「リンクトイン」を創業したリード・ホフマ
ン氏、ユーチューブの創業者の一人であるチャド・ハーリー氏な
どもペイパル・マフィアです。
 これらのペイパル・マフィアが創業したスタートアップ企業の
7社が、ユニコーン企業に成長しているのです。ユニコーン企業
とは、企業としての評価額が10億ドル(約1250億円)以上で
非上場のベンチャー企業のことです。
 注目すべきは、「グル」と呼ばれているピーター・ティール氏
です。彼は、2004年8月にフェイスブックに50万ドルを出
資し、フェイスブックの役員となっています。そして上場後に売
却し、10億ドルを手にしています。彼は、フェイスブックの先
進性をちゃんと見抜いていたのです。
 ティール氏は、とくにペイパル出身者には必ず出資しています
が、これによって、米国のテクノロジー企業によってグルと呼ば
れているのです。単なる投資家というより、ティール氏は思想的
なリーダーであるといえます。ティール氏は、その代表的著書で
次のように述べています。
─────────────────────────────
 もちろん、新しい何かを作るより、在るものをコピーする方が
簡単だ。おなじみのやり方を繰り返せば見慣れたものが増える。
つまり1がnになる。だけど、僕たちが新しい何かを生み出すた
びに、ゼロは1になる。何かを創造する行為は、それが生まれる
瞬間と同じく一度きりしかないし、その結果、まったく新しい、
誰も見たことがないものが生まれる。
 この、新しい何かを生み出すという難事業に投資しなければ、
アメリカ企業に未来はない。現在どれほど大きな利益を上げてい
ても、だ。従来の古いビジネスを今の時代に合わせることで収益
を確保し続ける先には、何が待っているだろう。それは意外にも
2008年の金融危機よりもはるかに悲惨な結末だ。今日の「ベ
スト・プラクティス」はそのうちに行き詰まる。新しいこと、試
されていないことこそ、「ベスト」なやり方なのだ。
      ──ピーター・ティール著/関美和訳/NHK出版
    『ゼロ・トゥ・ワン/君はゼロから何を生み出せるか』
                      ──田中道昭著
         『アマゾン銀行が誕生する日/2025年の
              次世代金融シナリオ』/日経BP
─────────────────────────────
 「競争を避け、独占を目指す」──田中道昭氏は、これがピー
ター・ティール氏の哲学であるといっています。アマゾンのジェ
フ・ベゾス氏が、ビジョンこそ「オンライン小売市場全体を支配
する」というものであったものの、最初は非常に小さな市場であ
る書籍からはじめ、その後少しずつカテゴリーを拡大し、遂に世
界一のデパートを作り上げていることを上げています。
 これまでにない何か新しいものを生み出せば、その市場は競合
はなく、独占でき、先進的ビジネスモデルを確立できます。現在
世界中で起きつつある、デジタル決済革命についても、その開発
元であるペイパル自身が、いわゆる「ゼロ・トゥ・ワン」を生み
出し続け、さらに積極的なM&Aを実行し、フィンテック分野に
おいて、イノベーションを続けています。
 しかし、現行の金融機関は「ゼロ・トゥ・ワン」を生み出して
おらず、従来の古いビジネスに今の時代を合わせることによって
収益を上げようとしています。これでは人材が流出するばかりで
す。来週は、既存金融機関がフィンテック攻勢にどう対応してい
るかについて考えます。  ──[デジタル社会論U/051]

≪画像および関連情報≫
 ●ゼロ・トゥ・ワン―君はゼロから何を生み出せるか
  タブーへの挑戦・逆張り【誰も賛成しない本質】
  ───────────────────────────
  ◎久しぶりに、ガツン!ってくる本でした。
   この本ベストセラーになるのがうなずける内容でした。ま
  ず、逆張りをする投資家として有名なのだそうですが、この
  本を読むと、逆張りということではなく、現在のアメリカ・
  シリコンバレーの危機感に対する、ピーターティールの答え
  なのでしょう。日本にも全く同じ宗教にもにた競争主義教・
  未来はわからない教などがはびこっています。
   官僚主義・競争主義・ヘッジ・・・これらは、何も社会を
  変えていないこと、頑張っても利益があがらない社会を作っ
  てしまっていることを指摘しています。社会システムを変え
  ることに対して、もっと真摯に、一人に対して一つずつ、多
  くのことをやらずに、楽しいと思える仲間と真剣にやろう!
  ってことが書いてあるように思いました。
   また、ロースクール出身なのに、テクノロジー信者である
  こと、指数関数教の信者でもありそうです(笑)
  ◎未来をつくる一歩は、自分の頭で考えること
   未来は勝手に起こるわけではない。宝くじでもなく・・・
  ある成功したスタートアップも、その時に起こったので、成
  功したわけで、同じことをもう一度やっても成功しない。企
  業は実験でないので、統計的に成功する確率を言ったところ
  でまったくもってナンセンスであると。
                  https://bit.ly/3jsu5c1
  ───────────────────────────
ピーター・ティール氏.jpg
ピーター・ティール氏
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2021年07月05日

●「JPモルガンによるデジタル戦略」(第5524号)

 2015年春のことです。米国の金融ビジネス界では、次の言
葉が話題になっていました。
─────────────────────────────
  Silicon Valley is coming./シリコンバレーがやってくる
            ──JPモルガン/ダイモンCEO
─────────────────────────────
 これは米国の大手金融機関JPモルガン・チェースが、ジェー
ムズ・ダイモンCEO(最高経営責任者)名義で公開した「株主
への手紙」の中にある一節です。シリコンバレーのスタートアッ
プが、JPモルガン・チェースのような巨大金融機関の脅威にな
り始めていることを率直に表現したものです。
 ここでJPモルガン・チェースとは、ニューヨーク州に本社を
置く銀行の持ち株会社のことであり、その傘下にJPモルガン・
チェース銀行や、投資銀行JPモルガンが子会社として配置され
ています。
 実際にダイモンCEOは、フィンテックに1兆円を投資する方
針を打ち出しており、テクノロジー企業との連携も積極的に実施
しています。その一つに2016年からはじめた「イン・レジデ
ンス」プログラムというのがあります。
 「イン・レジデンス」とは、「ある一定期間居住する」という
意味ですが、スタートアップ企業を選抜して、JPモルガンの居
住人として、ブロックチェーンやロボティクス、ビッグデータ分
析などのプロジェクトを実施させるプログラムです。
 このレジデンツに選ばれると、そのスタートアップ企業は、J
Pモルガンのオフィスで、必要に応じて社内のリソースにアクセ
スでき、実践で働く金融マンたちと一緒に実用的なフィンテック
の開発を行うことができます。
 2017年6月の時点で、475のスタートアップ企業が、イ
ン・レジデンス・プログラムに応募しています。そのうち60社
が最終選考に残り、わずか6社がレジデンツに選ばれています。
 そのような過程で開発されたのが、モバイルバンギングアプリ
「Finn」です。
 「Finn」とは、どのようなアプリでしょうか。
 これは、実店舗を嫌い、オンラインを好むミレニアル世代を前
提にして、すべてのサービスがスマホでできるアプリです。口座
開設もオンラインで5分でできます。また、当座預金と普通預金
を結び付けておいて、ユーザーがいつ預金を当座口座から普通口
座に移すかルールを決めて置くというものです。
 例えば、「Work Hard, Save Smarter (一生懸命働き、賢く節
約する)」を選択すると、給料日に決まった金額を分けておいて
くれるし、「The Limit Does Not Exist(限界なし)」 を選択
しておくと、一定の金額以上を使うたびに、あらかじめ決めてお
いた金額が自動的に貯蓄へ回されるのです。
 このJPモルガン・チェースのFinnについて、田中道昭氏
は次のように述べています。
─────────────────────────────
 これまで日本や米国では、中国のアリペイやウィーチャットペ
イのように、アプリを入り口として金融サービス全域の覇権を握
ろうとする既存金融機関側のプレイヤーはいませんでした。日米
のフィンテックはその周辺領域のみにとどまっています。
 しかしここにきて、JPモルガンはAPIを通じてオープンプ
ラットフォームを構築しつつ、自社でも新たな金融商品の開発を
進めています。
 既存金融機関にとって、顧客に合わせて魅力的な金融商品を創
造するのは、得意とするところです。JPモルガンはFinnを
起点に、いずれは株式や投資信託にも手を広げることになると予
想されます。アリパパは、アリペイユーザー向けに新しい投資商
品を開発しましたが、JPモルガンにも同じことができるはずで
す。                    ──田中道昭著
         『アマゾン銀行が誕生する日/2025年の
              次世代金融シナリオ』/日経BP
─────────────────────────────
 JPモルガン・チェースついては、もうひとつふれておくべき
ことがあります。それは、独自の仮想通貨「JPMコイン」の発
行計画です。計画発表は、2019年2月でしたが、2020年
10月に正式にスタートしたようです。
 JPMコインについて、JPモルガンの子会社オニキスで、一
連のアプリケーションの責任者を務めるウマル・ファルーク氏は
次のように述べています。
─────────────────────────────
 JPMコインは、今のところ、JPモルガンの企業顧客が、米
ドル預金口座をブロックチェーン上に持っているようなものであ
る。企業顧客間のお金の移動は24時間365日、いつでも可能
となる。最近では暗号資産の強気市場にかすんでいるが、JPM
コインは、400の銀行が参加する決済ネットワークである「リ
ンク」と連動し、JPモルガンの顧客ベース全体で(レポ取引に
おける)証券決済などを支えている。
 これは始まりに過ぎない。ドルにペッグされたステーブルコイ
ン、ひいては暗号資産全般を真似て、それらと競い合うことは、
最初からJPMコインの狙いではなかった(ちなみにJPMコイ
ンは、個人投資家には利用できず、暗号資産取引所での取引もで
きない)              https://bit.ly/3qQ0BX5
─────────────────────────────
 このコメントからわかることは、ビットコインのデメリットで
あるボラティリティ(価格変動)の高さを米ドルとリンクさせる
ことで緩和させ、新しい決済手段として、確固たる地位を確保す
るのが、狙いであるということです。
 「ブランド力・プラス・テクノロジー」──JPモルガン・
チェースの一大戦略であるといえます。
             ──[デジタル社会論U/052]

≪画像および関連情報≫
 ●JPモルガンのキーマンを直撃、成功する銀行・しない銀行
  の「決定的な違い」
  ───────────────────────────
   オープンバンキングは、2つの次元から見ることが重要で
  す。1つ目の次元は「信頼に関わるフレームワーク」です。
  このフレームワークは規制を作る人々が現在注力しているも
  のです。彼らは適切なビジネスの運用を目指しています。
   2つ目の次元は、顧客にとっての「バリュープロポジショ
  ン」、つまり「顧客に提供する価値」です。信頼に関わるフ
  レームワークはムラがあります。よりアグレッシブに規制を
  進めようとする国もあれば、そうではない国もあります。規
  制のグローバルスタンダードが生まれるまでにまだ時間がか
  かるでしょう。
   アグレッシブな例は、ヨーロッパ、イギリス、カナダや一
  部のアジアの国々です。こうした国々では、どのような規制
  が適切かを探っている段階です。米国の状況は非常に複雑で
  す。このように規制の進み方はムラがあります。オーストラ
  リアも規制を探り探りで進めています。
   バリュープロポジションの観点では、すでにいろんなとこ
  ろでイノベーションが起きています。米国ではオープンバン
  キングが始まって15年あるいは20年ぐらい経ちます。こ
  の間に銀行口座を全体的に見渡すためのアプリも作られ、ピ
  アツーピアの送金を実現するためのアプリもできました。ア
  ジアではB2Cのイノベーションがたくさん起きています。
                  https://bit.ly/3ymlrQf
  ───────────────────────────
ジェームズ・ダイモンCEO.jpg
ジェームズ・ダイモンCEO
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2021年07月06日

●「ゴールドマンサックスを分析する」(第5525号)

 少しゴールドマン・サックスの話をします。ゴールドマン・サ
ックスといえば、リーマン・ショックと深く関係しているからで
す。2006年5月、ジョージ・W・ブッシュ大統領は、ジョン
・スノー財務長官を事実上更迭し、ヘンリー・ポールソン財務長
官を任命します。ポールマン氏は、1999年から、ゴールドマ
ン・サックスの会長兼最高経営責任者だった人物です。問題は、
スノー財務長官がなぜ更迭されたかです。
 スノー長官は、大型減税や年金・医療改革などに関する国民へ
の説明能力が問題視され、1年以上前から辞任の憶測が流れてい
たのです。ところが代わったポールソン財務長官も、2008年
のリーマンショック前後の公的資金投入に対するチグハグな対応
に強い批判が集まったのです。その間の事情について、ウィキペ
ディアは、次のように紹介しています。
─────────────────────────────
 (ポールソン財務長官は)2008年3月のベア・スターンズ
危機の時は救済に動いたが、9月のリーマンブラザーズの危機に
おいては、「公的資金を投入しようと考えたことは一度もない」
とリーマンの救済を拒否。このリーマン破綻をきっかけに世界金
融危機(リーマン・ショック)は起きた。あわてて方針を一転し
金融機関安定化法案を成立させたが、この一貫しない態度が市場
の不信を招き、法案成立も全く効果がなく世界的な株式の大暴落
を招いた。公的資金の投入拒否については、選挙の2ヶ月前とい
う時期で公的資金投入を嫌がる国民を意識した可能性が言われて
いる。フランスのラガルド経済財務雇用相は「何が恐ろしかった
かと言えば、リーマン・ブラザーズを破綻させるというヘンリー
・ポールソンの決断だ」と批判した。
 また、景気対策でアメリカ国債増発の必要に迫られ、ポールソ
ンとともに米中戦略経済対話の共同議長を務めていた1990年
代からの旧友の王岐山に大量の引き受けを要請して、中華人民共
和国が日本を上回る世界最大のアメリカ国債保有国となった。
        ──ウィキペディア https://bit.ly/3hBdzDI
─────────────────────────────
 上記のいきさつでもわかるように、ゴールドマン・サックスは
リーマンショックにおいて、評判が損なわれた面があるのですが
現在、同社はJPモルガンと同様に既存金融機関でありながら、
いち早くDXに取り組み、フィンテックの分野で大きな成果を上
げている企業として知られています。
 このような出来事があったことを前提に、現在のゴールドマン
・サックスを分析します。マーケティング戦略を考える際のフレ
ームワークに「3C分析」というのがあります。顧客ニーズや自
社の強みや弱み、競合の動きを分析することによって、最適な意
思決定につなげるためのものです。3Cとは次の3つです。
─────────────────────────────
        @   自社:Company
        A顧客・市場:Customer
        B   競合:Competitor
─────────────────────────────
 第1のC──カンパニー(自社)の実績や評判などについて考
えてみます。
 リーマン・ショックのマイナス面はあるものの、同社は現在で
も金融の世界では、随一のレピュテーション(評判)と、圧倒的
なブランド力を持っています。人材は、優秀な人材しか採らない
方針を貫いており、ディーリング業務がメインであるため、理数
系、テクノロジー系の優秀な人材が揃っています。
 第2のC──カスタマー・マーケット(顧客・市場)について
考えてみます。
 いわゆる証券会社には「ディーリング業務」というものがあり
ます。ディーリング業務とは、自社の資金を使って株式、債券、
為替などの取引を行い、リターンを追求する業務のことです。ゴ
ールドマン・サックスの場合、2006年の段階で、純収入にお
けるトレーディング業務の割合は68%を占めていたのです。
 しかし、2017年では、それが37%までに落ちています。
それは、当局による相次ぐ規制の強化です。この規制強化によっ
て、それまで企業の屋台骨であったトレーディング業務の収益は
大きく落ちているのです。
 しかし、投資銀行部門、すなわち、株式や債券の引き受けや、
M&Aなどのアドバイス業務は拡大しています。ゴールドマン・
サックスでは、これまではトレーディング部門の出身者が経営を
担うのが伝統だったのですが、2018年には、投資銀行部門出
身のデービット・ソロモン氏がCEOに就任しています。
 第3のC──コンペティター(競合)についてはどうかについ
て考えてみます。
 ゴールドマン・サックスの本来の競合相手はJPモルガンです
が、DXを推進している金融機関の経営者は、これからの真の競
合相手はGAFAであるといいます。ここに、2019年11月
14日付けの日本経済新聞の記事があります。
─────────────────────────────
【ニューヨーク=宮本岳則】米巨大ハイテク企業「GAFA」と
米金融大手の協業が相次いでいる。13日に明らかになったアル
ファベット傘下のグーグルによる消費者向け銀行口座サービス参
入計画では、米シティグループが管理業務を担う。アップルのク
レジットカード事業もゴールドマン・サックスが裏で支える。
 アップルが8月に米国で始めたクレジットカード事業「アップ
ルカード」も同様だ。同社は「サービスをつくり上げたのはアッ
プルで、銀行ではありません」とアピールしているが、カード利
用者の審査や顧客からの問い合わせ対応などは、ゴールドマンが
担う。     ──2019年11月14日付、日本経済新聞
               https://s.nikkei.com/3dJ2rDN
─────────────────────────────
             ──[デジタル社会論U/053]

≪画像および関連情報≫
 ●ゴールドマン躍進支えるCEO「超非常識」な素顔
  ───────────────────────────
   2020年が始まった頃、デービッド・ソロモンは守勢に
  立たされていた。ウォール街で最も話題になり、そして最も
  多くの批判を集める投資銀行、ゴールドマン・サックスの最
  高経営責任者(CEO)に就任して、ちょうど1年が経過し
  た頃だった。ソロモンは前任者たちが長らく避けてきた領域
  へと進出し、ビジネスの幅を広げようとしていた。
   ところが、消費者に接近を図るソロモンの戦略は株主には
  響かなかった。ソロモンの下でゴールドマンはアップルと提
  携してクレジットカードを立ち上げたりした。が、1月の投
  資家向けイベント後に銀行アナリストのマイク・マヨはこれ
  らの試みを「気晴らしとムーンショット(壮大な計画)を足
  して割ったようなもの」と呼び、こういった動きを好感して
  ゴールドマンの株を買った投資家は1人も知らない、と語っ
  た。ソロモンが率いるゴールドマンの方向性に困惑する株主
  と同じく従業員にとってもソロモンは謎のリーダーだった。
  前任のロイド・ブランクファインは、2008年のリーマン
  危機を乗り切った冷静な戦略家と見られていた。一方、余暇
  にDJとしてプレイするソロモンは、率直で現実的な反面、
  直感的で柔軟な人物という評価が入り乱れていた。そして、
  ソロモンがCEOとしての立場を確立しようとしているさな
  かに、新型コロナウイルスのパンデミックが発生した。トッ
  プに着任して間もなく、自らのリーダーシップが試される最
  大の難局に直面したわけだが、これは自らの能力を示す最大
  のチャンスでもあった。     https://bit.ly/36aYFyT
  ───────────────────────────
デービッド・ソロモンCEO.jpg
デービッド・ソロモンCEO
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2021年07月07日

●「スタートアップと組む日本の銀行」(第5526号)

 JPモルガン・チェースやゴールドマン・サックスという米国
の代表的な金融機関の変貌について調べてきましたが、日本の銀
行はどう対応しているのでしょうか。日本の銀行についても少し
調べてみることにします。
 日本の銀行も頑張っています。まず、取り上げるべきは、20
15年からはじまったMUFG(三菱UFJフィナンシャル・グ
ループ)の次の取り組みです。
─────────────────────────────
    MUFGデジタル・アクセラレータ・プログラム
─────────────────────────────
 これは、邦銀初のスタートアップアクセラレータ・プログラム
のことです。
 このプログラムは、決済、融資、資産運用などのフィンテック
領域や、AI、ブロックチェーン、IоTなどの先端技術を活用
した事業領域を主な対象として、MUFGが総力をあげて事業プ
ランのブラッシュアップ、プロトタイプの構築支援、事業プラン
の方向性に合わせたパートナー選定、アライアンスなど、事業化
に向けたステップを全面的に支援する約4ヶ月間のアクセラレー
タプログラムです。
 MUFGでは、2016年までの10年間で、銀行窓口を訪れ
る顧客が約4割減少する一方で、ネットバンキンクの利用者は、
この5年間で約4割増えています。つまり、明らかなデジタルシ
フトが起きているのです。
 そういうわけで、MUFGは、2023年までに窓口で店員が
接客する支店を半減させ、自動化の進んだ次世代店舗を増加させ
る計画をかなりのスピードで実行しています。私がよく行く池袋
の東口駅前には、三菱UFJ銀行が2店舗あったのですが、今年
から駅に近い店舗はATMだけになり、遠い方が窓口業務を行う
次世代店舗に変貌しつつあります。こういう銀行店舗改革が日本
の各地で起こりつつあります。
 JPモルガンの「イン・レジデンス」やMUFGデジタル・ア
クセラレータ・プログラムのような試みは、本来自らをディスラ
プスト(破壊)しかねない新興フィンテック企業と組む戦略です
が、実は双方にメリットがある妙手なのです。この提携によって
新興フィンテック企業側と、既存金融機関側の双方が得られるメ
リットについて、田中道昭氏の本から引用します。
─────────────────────────────
◎フィンテック企業側のメリット
 @既存金融機関の顧客にリーチできる
 A知名度や消費者からの信用が増す
 B複雑な金融規制やコンプライアンスへの理解が向上する
 Cリスク管理ノウハウを獲得できる
 D資金調達力がアップする
 Eグローバル決済システムにアクセスできる
 F独自に銀行免許を取得しなくてよい
◎既存金融機関が受けるメリット
 @レガシーシステムの制約を受けることなく、新しいアイデア
  を試すことができる。
 Aビッグデータや人工知能など先端技術を活用したサービスを
  顧客に提供できる
 B融資などのサービスを、従来より低コストで素早く顧客に提
  供できる
 C今までは手が回らなかった、ややニッチな領域のサービスも
  提供できるようになる
 Dカスタマーエクスペリエンスを改善し、ミレニアル世代など
  新規の顧客層の開拓が期待できる。    ──田中道昭著
         『アマゾン銀行が誕生する日/2025年の
              次世代金融シナリオ』/日経BP
─────────────────────────────
 MUFGは、日本の銀行のなかでは、DX(デジタルトランス
フォーメーション)の取り組みでは一番進んでいるといえます。
MUFGは2017年9月に「デジタルトランスフォーメーショ
ン戦略」を発表していますが、そのなかで、「伝統的な銀行業務
からの脱却」を宣言しています。
 その本気度は、CDTO(チーフデジタルトランスフォーメー
ション)という役職を設け、取締役専務執行役員の亀澤宏規氏を
就任させています。さらに「デジタル企画部」を設置し、外部の
知見も活用する体制を整えています。このCDTOという役職と
デジタル企画部という組織について、MUFGのCDO(チーフ
・デジタル・オフィサー)である安田裕司氏は、次のようにコメ
ントしています。
─────────────────────────────
 銀行は今デジタル化の洗礼を受けて、ディスラプターの挑戦を
受ける立場にあります。これまでのビジネスモデルが変わってい
く中で、どうしていくのかは大きな課題です。金融機関が長年培
ってきた“信頼”や“品質”といったものに解を求めていくこと
になるのではないかと思います。
 仮想通貨(暗号資産)による送金なども話題になっていますが
銀行は送金のインフラをすでに多大なコストをかけて作っていま
すし、マネーロンダリング対策には膨大な労力をかけています。
 それを生かした新しいビジネスモデルなどは、スタートアップ
企業とうまく組み合わせることによって、いろいろと提供できる
のではないでしょうか。そのようなデジタルトランスフォーメー
ションに関しては、CDTOという役職とデジタル企画部という
部署が別にあります。われわれは、そういう動きの役に立つよう
に、正しいデータを使いやすいように提供することによって、デ
ジタルトランスフォーメーションに貢献するということです。縁
の下の力持ちのような存在ですね。  https://bit.ly/3ykJNKk
─────────────────────────────
             ──[デジタル社会論U/054]

≪画像および関連情報≫
 ●国内企業でも急増しはじめた「CDO」とは?
  ───────────────────────────
   「CDO」という役職をご存じだろうか。
   CDOは、チーフ・デジタル・オフィサー(最高デジタル
  責任者)、またはチーフ・データ・オフィサー(最高データ
  責任者)の略だ。CEO(最高経営責任者)やCOO(最高
  執行責任者)が組織の業務執行を統括するように、CDOは
  組織のデジタル変革を経営の視点で推進する役割を担う。
   欧米では、CDOという役職が4〜5年前から使われ始め
  すでに多くの組織(企業だけでなく、行政や公共機関なども
  含む)が、CDOを設置している。主にCDOを対象とした
  コミュニティであるCDOクラブが把握している範囲でCD
  Oという役割を担う人材はすでに6000人を超えている。
  このことからも、世界的には一般化した役職であることがわ
  かると思う。一方、国内ではこれまで実際に「CDO」とい
  う肩書きを持つ人がほとんどいなかった。ところが2018
  年に入り、まさに「CDO元年」と言えそうな動きが出てき
  ている。筆者が所属しているCDOクラブジャパンの調べに
  よると、2018年に入ってから、国内企業でCDOまたは
  それに類する肩書きを任命された人が少なくとも40人に増
  えたと見られる。
   必ずしも肩書きが、その人のミッションを適切に表すもの
  とは限らないが、国内でCDOという肩書きが増えていると
  いうことは、それだけデジタル変革の必要性を痛感している
  組織が多くなっている、ということを示している。
                  https://bit.ly/36c00W2
  ───────────────────────────
三菱UFJ銀行本社ビル.jpg
三菱UFJ銀行本社ビル
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2021年07月08日

●「『会社の芯まで変える』MUFG」(第5527号)

 MUFGは、DX(デジタルトランスフォーメーション)を目
指し、いろいろなことをやっています。MUFGの幹部は「会社
の芯まで変える」といっており、同行がDXの本質を正しく掴ん
でいることがわかります。実際にどのようなことをやっているの
かについて、5つの点をピックアップしてみます。
─────────────────────────────
       @       チャネルの強化
       A  AIとビッグデータの活用
       BRPAによる業務プロセス改革
       C   ブロックチェーンの活用
       D   オープンイノベーション
─────────────────────────────
 第1は「チャネルの強化」です。
 具体的には、非対面チャネルの拡充です。米アカマイ・テクノ
ロジーと組んで、「GO−NET」によるネット決済の充実を図
るとともに、キャッシュカードや通帳の再発行、住所変更などは
無人店舗を拡充し、わざわざ実店舗を訪れる必要はなく、対応で
きるようにしています。
 その一方で、有人チャネルも改革しています。次世代店舗「M
UFG−NEXT」です。国内に500店舗ある有人店舗のうち
70〜100店舗を新型店舗に切り替えます。税金や公共料金の
支払いを機械化し、テレビ電話でオペレーターと相談できる窓口
を設けています。顧客がいつでも、どこからでもアクセスできる
ロケーションフリーなチャネルを構築できるとしています。
 第2は「AIとビッグデータの活用」です。
 ヘルプデスクや帳票処理、検索、営業支援、審査などの5つの
項目について、業務をAIで代替します。MUFGによると、今
後10年間で業務の40%はAIに代替できるとしています。
 第3は「RPAによる業務プロセス改革」です。
 RPAとは、ロボティック・プロセス・オートメーションのこ
とで、簡単にいうと、ソフトウェアによるロボット化で、仕事を
効率化するツールです。人間に代わって複数のアプリケーション
を操作したり、画面の内容を自動で判断し、必要事項を入力した
りするといったことができます。
 MUFGのRPAの適用業務は、住宅ローンの書類点検、外国
送金関連業務、株主総会議案の通知、決済データなどの分析、イ
ンターバンク決済関連業務などです。
 第4は「ブロックチェーンの活用」です。
 ブロックチェーンの活用としては「MUFGコイン」の試験導
入があります。仮想通貨の導入です。MUFGコインについては
以前から話題になっていますが、2020年7月14日付、朝日
新聞デジタルに次の記事があります。
─────────────────────────────
 三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)はデジタル通貨
「コイン」の提供を今年度後半にも始める。まずは共同運営先の
リクルートのサイトなどで利用可能にする。
 4月に社長に就いた亀沢宏規社長が10日、朝日新聞のインタ
ビューで時期を示した。亀沢氏は「少し遅れたが、新型コロナウ
イルス(で外出が減ったこと)もあり、いいタイミングかもしれ
ない。リクルートが持つ若年層との接点と、我々の金融ノウハウ
とを合わせてサービスを提供したい」と述べた。
 コインを運営する共同出資会社設立をリクルートとの間で昨年
10月に合意。サービスが始まれば旅行予約サイト「じゃらん」
や飲食店の予約サイト「ホットペッパーグルメ」などで使えるよ
うになる見通しだ。利用者は「1コイン=1円」として、支払い
に使ったり、換金して銀行口座へ戻したりできる。個人間送金な
ども実現するとみられる。      https://bit.ly/3hjo4gk
       ──2020年7月14日付、朝日新聞デジタル
─────────────────────────────
 この記事によると、「2020年度後半」とありますが、私の
知る限り、2021年7月8日時点でスタートしているという情
報はありません。もうひとつ不可解なことは、上記の記事でもわ
かるように「MUFGコイン」の名称を「コイン」に変更してい
ます。なぜ、名称を変更したのでしょうか。
 第5は「オープンイノベーション」です。
 オープンイノベーションについては、昨日のEJでご紹介した
「MUFGデジタル・アクセラレータ・プログラム」などによっ
て、積極的にスタートアップ企業との連携を進めています。MU
FGのオープンイノベーションについて、田中道昭氏は次のよう
に述べています。
─────────────────────────────
 金融サービスの機能を「MUFG/APIポータル」を通じて
外部に公開し、外部企業と提携しながら新しい金融サービスをス
ピーディーに展開する基盤を用意しました。海外にはグローバル
イノベーションチームを創設し、現地のフィンテックベンチャー
との提携を加速させながら、実証実験を行っているといいます。
現在までに、シリコンバレー、ニューヨーク、シンガポール、ロ
ンドンに拠点を構えています。
 また2017年10月に設立したジャパン・デジタル・デザイ
ン社は、これまで内部組織として拡大してきた「イノベーション
・ラボ」を独立させたものです。外部エンジニアや地域金融機関
34社との協働などによって、革新的なカスタマーエクスペリエ
ンスの開発や社会的コストの低減に向けた取り組みを推進すると
しています。                ──田中道昭著
         『アマゾン銀行が誕生する日/2025年の
              次世代金融シナリオ』/日経BP
─────────────────────────────
 MUFGは、いま大きく変わろうとしています。それは生き残
りの壮絶な戦いでもあります。
             ──[デジタル社会論U/055]

≪画像および関連情報≫
 ●「MUFGコイン」の名称から「MUFG」が消えた?
  その真相は
  ───────────────────────────
   三菱UFJ銀行が、開発中の独自デジタル通貨「MUFG
  コイン」の名称を「コイン」に変更したと、日本経済新聞電
  子版が2018年10月17日に伝えた。だが、「シーテッ
  ク・ジャパン/2018」(千葉・幕張メッセ、10月16
  〜19日)の会場で、アイティメディア・ニュースが三菱U
  FJ銀行に取材したところ、名称は未定で、現在検討中だ」
  という。
   MUFGコインは、三菱UFJ銀行が実用化に向けて開発
  を進めているデジタル通貨。ブロックチェーンを活用し、1
  コイン=1円の価値を持つのが特徴。実用化の時期は未定だ
  が、少額のキャッシュレス決済やスマホアプリを使った送金
  などでの活用を想定している。
   報道では、コイン名称からMUFGの冠を外すことで、他
  業種との協業を含む幅広い活用を促す狙いがあるとみられる
  ――などと伝えられていた。ただ、三菱UFJ銀行の木村遥
  香さん(デジタル企画部)によると「シーテック」の展示で
  は、(来場者に)気軽に使ってもらえるよう「コイン」とし
  たが、冠を外したわけではなく、正式名称には“MUFG”
  が付く可能性もある」という。「信頼性やMUFGのブラン
  ドを考えると、MUFGがあった方がいい可能性もある。今
  後のリリース内容に応じて名称は検討する」(木村さん)
                  https://bit.ly/3xow315
  ───────────────────────────
MUFG.jpg
MUFG
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2021年07月09日

●「カニバリゼーションすることせよ」(第5528号)

 株式会社三菱UFJ銀行社内では、DXに関して、よく使われ
る次の言葉があります。
─────────────────────────────
      カニバリゼーションすることをせよ!
─────────────────────────────
 これは、三菱UFJ銀行元代表取締役会長の平野信行氏が、新
規事業を行うとき、よく口にした言葉といわれています。カニバ
リゼーションとは、直訳すると「共食い」という意味ですが、ビ
ジネスの文脈においては、顧客への提供価値が類似する自社製品
同士でそれぞれの売上を奪い合ってしまう現象を指します。平野
元会長は「共食いを恐れてはならない。むしろ、積極的に共食い
をするくらいでやれ!」といっているのです。
 アマゾンの創業者ジェフ・ペゾス氏が、7月5日付で予告通り
CEOを退任しましたが、ベゾス氏もカニバリゼーションに言及
しています。それは、アマゾンが電子書籍を読む「キンドル」を
導入したときの話です。アマゾンは紙の書籍のネット通販からは
じまった会社なので、書籍の通販と電子書籍とが、カニバリゼー
ションを起こす可能性があったのです。
 しかし、ペゾス氏は、わざわざ書籍部門を任せてきた幹部をキ
ンドルを含むデジタル部門に異動させたうえで、次のようにいっ
たというのです。
─────────────────────────────
 君の仕事は、いままでしてきた事業をぶちこわすことだ。物理
的な本を売る人間全員から職を奪うぐらいのつもりで取り組んで
ほしい。   ──ジェフ・ペゾス氏/井口耕三訳/日経PP刊
 ──ブラッド・ストーン著『ジェフ・ベゾス果てしなき野望』
                      ──田中道昭著
         『アマゾン銀行が誕生する日/2025年の
              次世代金融シナリオ』/日経BP
─────────────────────────────
 この話は、「イノベーションのジレンマ」に関係があります。
イノベーションのジレンマとは、1997年に米国の実業家で、
経営学者であるクレイトン・クリステンセン氏が初の著作である
『イノベーションのジレンマ』で提唱した企業経営の理論です。
これによってクリステンセン氏は、破壊的イノベーションの理論
を確立させたことで有名になり、企業におけるイノベーションの
研究における第一人者といわれています。
 日本の銀行に突き付けられているDXの本質について、田中道
昭氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 そもそも銀行がテクノロジー企業に生まれ変わらないと生き残
れないことが明白である中において、次代のリーダー像がこれま
でと大きく変化するのは当然のことなのです。そしてメガバンク
に求められているデジタルトランスフォーメーションとは、単な
るシステム化ではなく、テクノロジー戦略でもなく、経営戦略で
すらありません。自らをデジタルトランスフォーメーションによ
って破壊することが求められています。だからこそ、邦銀全体の
試金石として、MUFGのカニバリゼーションからは目が離せな
いのです。      ──田中道昭著/日経BPの前掲書より
─────────────────────────────
 MUFGに続いて、みずほフィナンシャルグループ(みずほF
G)のDXの取り組みについて考えることにします。
 みずほFGは、2019年度に発表した5カ年経営計画で「次
世代金融への転換」を掲げています。このなかでデジタライゼー
ションへの取り組みや外部との協働を強化するとし、みずほFG
では次の強い危機感が高まっているのです。
─────────────────────────────
 非金融を含めた金融を巡る新たな価値創造をしていかなければ
みずほ銀行は金融機関として勝ち残れない。
─────────────────────────────
 この考え方を先取りしたものとして、みずほ銀行は2017年
6月にフィンテック新会社「ブルーラボ」を設立しています。こ
の組織について、2018年10月18日付の毎日新聞は次のよ
うに報道しています。
─────────────────────────────
◎異業種と拠点、共同開発広がる
 メガバンクが異業種や同業他社と集まる拠点を開設し、共同で
商品・サービスを開発する試みが軌道に乗ってきた。これまで閉
鎖的とされてきた銀行業界だが、金融とIT(情報技術)が融合
した「フィンテック」分野の競争が激しくなる中、他社の人材や
技術を活用し、生き残りを図ろうとしている。
 「他行やシステム会社から来た人と一緒に取り組むことで、行
内だけでは出なかった発想が生まれている」。2016年、素材
メーカーを辞め、みずほ銀行に転職した白河龍弥さん(34)は
手応えを語る。みずほ銀は昨年6月、ITを活用して銀行業務を
効率化させることを主な目的に新会社「ブルーラボ」(東京都港
区)を設立。みずほの他、ITベンチャーや地銀など約30社か
ら集まった約80人が働いている。  https://bit.ly/3xi4Ixz
            2018年10月18日付、毎日新聞
─────────────────────────────
 基本的には、JPモルガンの「イン・レジデンス」とよく似て
います。かつての銀行システムを破壊するディスラプラーのIT
企業と組むことによって、会社を芯から変えようとしています。
DXの一環です。
 2018年からみずほFGは、職員の採用方針にあたって、次
のキャッチフレーズを打ち出しています。
─────────────────────────────
        みずほらしくない人に会いたい
─────────────────────────────
             ──[デジタル社会論U/056]

≪画像および関連情報≫
 ●3年目の覚悟、実体なきイノベーションからの脱却――
  みずほフィナンシャルグループ 大久保光伸氏
  ───────────────────────────
   みずほフィナンシャルグループは、2019年からの「5
  カ年経営計画」の中で、1万9千人の人員削減と、130拠
  点の統廃合を発表した。経営資源配分のミスマッチを解消し
  新たな顧客ニーズに対応することで「次世代金融への転換」
  を図るとしている。フィンテックの進展により、顧客が銀行
  に求めるサービスは急速に変化している。休み時間に窓口や
  ATMへ行くよりも、必要なときすぐにスマホで使える方が
  いい。他のフィンテックアプリと連携してより便利に使いた
  い、といった具合だ。
   みずほフィナンシャルグループは、金融APIを公開して
  スタートアップや異業種とつながり、新たな価値を創出する
  オープンイノベーションに力を入れてきた。渦中で指揮を執
  るのが、デジタルイノベーション部シニアデジタルストラテ
  ジストの大久保光伸氏だ。
   大久保氏は2016年にみずほに入社し、翌年、シリコン
  バレーのベンチャーキャピタルWiL(ワールド・インフォ
  メーション・ラボ)と設立したイノベーションの拠点、ブル
  ーラボのCTOにも就任した。このような戦略をとったのは
  銀行本体であれば必要とされる複雑な段取りを排し、既存事
  業とのカニバリズムをいとわず、新たなビジネス・プラット
  フォームを創出するためだ。ブルーラボでの2年を、大久保
  氏自身はどう評価しているのだろうか。
                  https://bit.ly/3yp7QI2
  ───────────────────────────
平野信行元三菱UFJ銀行代表取締役会長.jpg
平野信行元三菱UFJ銀行代表取締役会長
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2021年07月12日

●「みずほFGの3フィンテック事業」(第5529号)

 みずほFGは、いわゆるフィンテック事業として、2016年
〜2018年にかけて、以下のように次々と手を打っています。
─────────────────────────────
      2016年:株式会社ジェイスコア
      2017年:株式会社ブルー・ラボ
      2018年:    LINE銀行
─────────────────────────────
 みずほFGは、オープンイノベーションのひとつとして、AI
による信用スコアの構築に取り組んでいます。そのために、20
16年11月、みずほ銀行はソフトバンクと株式会社ジェイスコ
アを立ち上げて、同銀行の連結子会社化しています。
 みずほ銀行の有する顧客データ分析やローン審査のノウハウと
ソフトバンクのAIを用いたデータ分析を融合し、顧客データを
スコア化して融資に活用しようとしているのです。このスコア・
レンディングを用いることで、従来では融資できなかった低与信
層を融資可能にしようとしています。
 具体的にいうと、融資を受けたい顧客がスマホで質問に答える
ことで、データを提供し、これを基にしてAIが信用スコアを算
出して、融資を決定するというものです。すべての手続きは、ス
マホで完結します。事業開始から半年で貸付残高が約35億円に
達し、滑り出しは好調のようです。
 2017年6月、ベンチャー投資の「ウイルグループ/WiL
グループ」と共同で、フィンテックを担う「ブルー・ラボ」を立
ち上げています。ここでは決済プラットフォームの構築やAI、
ビッグデータの活用によるソフトウェアの開発を行っています。
 出資比率は、ウィルグループが過半数で、傘下のみずほ銀行の
出資は14・9%に抑えています。その一方、代表取締役社長の
山田大介氏はみずほ銀行の常務執行役員で、取締役の阿部展久氏
もみずほFGのデジタルイノベーション部・部長であり、ブルー
・ラボは「みずほのデジタル部隊」といえます。
 阿部展久取締役は、ブルー・ラボについて、次のように述べて
います。
─────────────────────────────
 (ブルー・ラボは)みずほ銀の出資比率を抑え、通常の銀行の
意思決定の枠外で動けるように、工夫されています。いわば「出
島」です。みずほのデジタルイノベーション部のメンバーは、ブ
ルー・ラボを兼務していますが、約半分は中途採用されたテクノ
ロジー、ビジネス開発などの専門家です。出資企業等、外部から
多くのスペシャリストを受け入れており、トップもみずほでフィ
ンテックを専門に担当する常務です。社長のOKが出れば、みず
ほでの採用如何に拘らず、素早く意思決定できる仕組みです。
                  https://bit.ly/2UxfdP1
─────────────────────────────
 2018年11月、みずほFGは、LINEとタッグを組み、
LINE銀行を設立することを発表しています。LINE傘下の
中間持ち株会社であるLINEフィナンシャルと、みずほ銀行の
共同出資により、LINEバンク設立準備株式会社を設立してい
ます。出資比率は、LINEフィナンシャル51%、みずほ銀行
が49%です。
 当初の予定では、2020年中に設立される予定でしたが、コ
ロナ禍などの要因により、設立が2022年度中に延期されてい
ます。なお、LINEは、Zホールディングと経営統合しますが
LINEバンクは予定通りに設立されることになっています。
 それでは、LINEバンクは、どのような銀行になるのでしょ
うか。企業立ち上げに関与したLINEのスタッフの一人は、次
のように述べています。
─────────────────────────────
 銀行はまだまだ敷居が高く、面倒で複雑、特に若い世代にとっ
ては、身近な存在とは言えないのではないでしょうか。私個人と
しても、日本の銀行サービスは海外で使用していた銀行のサービ
スに比べ、ユーザーにとってはまだまだ不便な点が多く、顧客体
験において改善の余地があると感じています。
 そのため、LINEが目指す銀行は、今までの常識に囚われな
い「簡単・便利・わかりやすい」「若い世代にも楽しく・身近」
「ユーザーにとっておトク」、そして安心安全なスマホ銀行を目
指します。
 既存の銀行のシステムをネット上に反映させているネット銀行
とは異なり、ユーザーが本当に求める商品・サービスを一から作
り上げることができる点も強みだと思います。実現していくのは
簡単ではないですが、LINEの戦略事業である金融事業の中で
も、特に銀行事業はコアビジネスと位置付けられているため、会
社一丸となって事業立ち上げを行っています。
                  https://bit.ly/3xGxjg0
─────────────────────────────
 ヤフーとLINEの経営統合で生まれた新生Zホールディング
スの傘下には「ペイペイ銀行」があります。この銀行は、今年の
4月5日に、ジャパンネット銀行を改称する形で誕生した銀行で
す。このペイペイ銀行もスマホやインターネットでの利用に特化
した銀行です。そして、2022年には、LINE銀行がZHD
の傘下に入ることになっています。
 ペイペイ銀行も、LINE銀行も、スマホやインターネットに
特化した銀行であり、いずれ時期が来れば統合される可能性もあ
ります。なお、LINEペイは、2022年にはペイペイに統合
されることになっています。
 ところで、みずほFGは、ここ20年の間に3度の大きなシス
テム障害を起こしており、ことシステムに関しては、世間の信頼
を失墜させています。みずほFG、みずほ銀行に、いったい何が
あったのでしょうか。そのガバナンスはどうなっているのでしょ
うか。これについては、明日のEJで取り上げて検討することに
します。         ──[デジタル社会論U/057]

≪画像および関連情報≫
 ●みずほ/ブルー・ラボのDX人材育成道場なら、知識ゼロか
  らAIモデル開発?その秘密とは
  ───────────────────────────
   2017年6月にみずほフィナンシャルグループが出資し
  次世代ビジネスモデルの創造のために設立されたのがブルー
  ・ラボです。カリフォルニアの青い空と新たなビジネスモデ
  ルを作るブルーオーシャンのブルーにちなんで、その社名が
  つけられた。ブルー・ラボの特徴は金融関連のみならずあら
  ゆる産業・業種を視野に入れていることと、開発実務を行い
  ながら人材育成を進めていること。ブルー・ラボで、人工知
  能(AI)を使ったシステムの開発を行っているのが、AI
  チームだ。このチームを率いる、みずほフィナンシャルグル
  ープ/ブルー・ラボのデジタルストラテジストの田村吉章氏
  に、DX人材育成の事例と実践方法を聞いた。
   最初に、ブルー・ラボが誕生した背景を説明しましょう。
  設立の要因となったのは、金融機関を取り巻く厳しい状況で
  す。人口の減少、少子高齢化の加速、継続するマイナス金利
  などにより、金融機関の収益低下傾向が続いています。そう
  した現状への危機感がDXの取り組みを加速させ、ブルー・
  ラボ誕生ににつながりました。
  みずほはDXを推進する部署としてデジタルイノベーション
  部という部署を設立しました。あくまでみずほ内部の組織で
  すから「銀行法」の縛りや種々の厳格な手続の下でしか活動
  できません。そこで、WiLグループがメインで出資し、ブ
  ルー・ラボという独立した会社を作りました。メンバーには
  みずほのプロパー社員が兼務しているほか、キャリア採用の
  社員、地方銀行やベンダーからのトレーニーがいます。
                  https://bit.ly/3k1en7K
  ───────────────────────────
ブルー・ラボ/田村吉章氏.jpg
ブルー・ラボ/田村吉章氏
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2021年07月13日

●「みずほ銀行のシステム障害の原因」(第5530号)

 みずほフィナンシャルグループ(みずほFG)というのは、第
一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行の3行が合併してできた銀
行であり、現在は、三菱UFJFG、三井住友FGとともに3メ
ガバンクの一角を占める存在です。その発足は、2002年4月
1日、その発足初日に大規模なシステム障害が発生したのです。
 ときのみずほホールディング(現みずほFG)の社長は、前田
晃伸氏、現在NHK会長を務めています。その前田社長は、国会
に呼ばれたとき、次の発言をして顰蹙を買っています。
─────────────────────────────
       苦情はあるが、実害は出ていない
    ──前田晃伸みずほホールディング社長
─────────────────────────────
 大企業のトップは、システムは専門家の仕事であると考えてい
て、自社のシステムに障害が起きても、トップはシステムの知識
はなくても恥ずかしくないと考えているのか、その原因を正確に
理解しようと努力しないものです。そういうトップの怠慢からか
みずほFGは、次のように、ほぼ10年毎にシステムの大障害を
繰り返し起こしているのです。
─────────────────────────────
      第1回目システム障害/2002年4月
      第2回目システム障害/2011年3月
      第3回目システム障害/2021年2月
─────────────────────────────
 「実害は出ていない」とはよくいったものです。みずほ銀行の
ユーザーには、とんでもない実害が起きていたのです。ATMが
使えなくなっただけでなく、口座振替の遅れが250万件も発生
し、遅れるだけでなく二重引き落としが3万件も発生するなど、
ユーザーに対して、散々な迷惑をかけたのです。
 第2回目のシステム障害は、東日本大震災が発生した2011
年3月に起きています。勘定系システムの老朽化リスクが、震災
義援金の振り込みをきっかけに露呈したのです。
 そのとき、テレビ局がみずほ銀行に設けていた義援金口座に振
り込みが殺到し、その口座で記録できる取引件数の上限値をオー
バーし、まずはその口座の取引内容を照会できなくなってしまっ
たのです。
 本格的なシステム障害はその日、3月14日の夜に発生してい
ます。義援金口座への振り込み依頼を夜間バッチによって処理し
ようとしたところ、今度はバッチ処理で1つの口座につき処理で
きる件数の上限値をオーバーし、夜間バッチ全体が異常終了して
しまったのです。
 「夜間バッチ」というのは、データ処理を決まった時間やデー
タ量ごとにまとめて実行する処理(バッチ処理)の一種で、通常
業務が行われていない夜間を利用して処理を行うので、そう呼ば
れているのです。
 このため、3月15日の朝までに38万件の振り込みが未処理
となり、夜間バッチとオンラインシステムは、同じメインフレー
ム(ホストコンピュータ)で稼働していたため、夜間バッチの未
完了によってオンラインシステムの稼働に遅れが生じ、15日朝
からATMを使った振り込みができなくなるなど、目に見える障
害が発生し始めたのです。これが原因で翌15日朝までに約38
万件の振り込みが未処理になっています。
 3月17日朝からは全国の約440店での窓口業務と、約16
00カ所のATMがすべて停止するという大規模生涯に発展し、
急遽西堀利頭取による記者会見が行われ、システムの障害の詳細
について、説明が行われています。これだけの大問題になってい
るのに、トップによる記者会見が遅れたのは、原因究明の把握に
時間がかかったものと思われます。
 実はこのとき、今回と同様にATM(現金自動預払機)に通帳
やカードが取り込まれる障害があったのですが、未公表だったの
です。これを踏まえてシステムの仕様を見直しておけば、今年2
月28日に通帳などが取り込まれた5244件のうち9割以上は
防げたといわれます。
 そして、またしてもみずほ銀行は、今年の2月28日、3月3
日、3月7日、3月12日の4回、それぞれ異なるシステム障害
を起こしているのです。それぞれ異なるシステム障害を次に整理
しておきます。
─────────────────────────────
       2月28日:顧客への影響が甚大
       3月 3日:ハードウェアの障害
       3月 7日:プログラム設計ミス
       3月12日:ハードウェアの障害
─────────────────────────────
 このように4回もシステム障害が起きているのですが、顧客に
一番影響があったのは2月28日のATM障害です。この日は日
曜日であったことが顧客の迷惑を拡大したのです。この日、みず
ほ銀行のATMの70%以上に当たる4318台が停止し、AT
Mが通帳やキャッシュカードを取り込むトラブルが5244回も
発生したのです。しかし、当日が日曜日であったことから、係員
となかなか連絡がとれず、しかも通帳とカードがATMに取り込
まれているので、ATMの前を離れることができず、顧客は散々
な目にあっているのです。
 みずほFGは、6月15日、2月以降、みずほ銀行のATMで
立て続けに発生したシステム障害について、外部調査の報告書を
発表しています。
 調査委員会では、障害発生時と発生後のシステムの復旧状況や
顧客対応などについて原因を調査し、複数回発生した障害に共通
する原因に、組織間での情報共有が機能しなかった点を指摘して
います。この調査委員会の報告については、明日のEJでも引き
続き、取り上げることにします。
             ──[デジタル社会論U/058]

≪画像および関連情報≫
 ●みずほ銀行、相次いだシステム障害/脆弱性を直視しない
  体質が課題
  ───────────────────────────
   みずほ銀行で相次いだシステム障害について、親会社のみ
  ずほフィナンシャルグループ(FG)の坂井辰史社長は定時
  株主総会で「私の責任のもとに一致団結して対応する」と約
  束した。ただ、過去にもATMでキャッシュカードが取り込
  まれる同様の障害を起こしながら、抜本的対策を取らなかっ
  た経緯が今回明らかになっている。顧客目線の弱さは深刻で
  信頼回復への道のりは平坦(へいたん)ではない。
   株主総会では、昨年も質問に立ちシステム面の弱さを指摘
  したという男性株主が「1年経ってみると、人的手配が不足
  していたように報道されている」と、対策が講じられなかっ
  たことに不満をあらわにした。坂井氏は「指摘をたまわった
  にもかかわらず、障害を起こしたことをおわびしたい」と陳
  謝。今後は現場、本部を問わず組織全体で障害対応力の向上
  を図る姿勢を強調した。
   みずほの第三者委員会が今月まとめた報告書には、システ
  ム障害による通帳やカードの取り込みが、2018年6月に
  1821件、19年12月に187件あったにも関わらず、
  「公表基準に達していない」として発表しなかった事実が盛
  り込まれた。報告書はトラブルをATMの仕様変更につなげ
  られなかった組織について、「顧客への影響に対する感度の
  低さが見て取れる」と指摘。再発防止策を講じていれば、今
  年2月28日の障害で起きた5000件超の取り込みのうち
  9割は防げたと推定する。    https://bit.ly/36pzYyO
  ───────────────────────────
記者会見するみずほフィナンシャル/前田晃伸社長(当時).jpg
記者会見するみずほフィナンシャル/前田晃伸社長(当時)
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2021年07月14日

●「システム障害は人的な要因で発生」(第5531号)

 今年の事故当時のみずほ銀行の頭取は藤原弘治氏です。そして
現在も頭取の地位にあります。その藤原頭取は、3月1日に今回
の一連のシステム障害に関して、記者会見を行っています。日本
経済新聞は次のようにそのことを伝えています。
─────────────────────────────
 みずほ銀行の藤原弘治頭取は3月1日、2月28日に発生した
システム障害で一部のATMが正常に稼働しなかった問題で記者
会見し「ご不便をおかけしたお客様、社会に深くおわびを申し上
げる」と陳謝した。その上で「二度と起こさないという強い決意
のもと、再発防止の徹底に全力を尽くす」と述べた。(中略)
 28日に定期預金の取引に関連するデータ移行作業が45万件
そのほかの取引が25万件あった。取引がたまったことでシステ
ムの一部に負担が生じ、一部のATMが正常に稼動しない事態が
生じた。(システムの)キャパシティーが不十分だったことが今
回のトラブルを引き起こした。   ──2021年3月1日付
        日本経済新聞 https://s.nikkei.com/3yK3sDQ
─────────────────────────────
 今回のシステム障害を受けて、みずほFGでは、外部メンバー
による「システム障害特別調査委員会」を発足させ、6月15日
に調査報告書を出しているのですが、この報告書提出の数日前、
みずほFGは今回のシステム障害のけじめとしての役員人事を内
定していたのです。それは、みずほ銀行頭取の藤原弘治氏の辞任
と、みずほFG社長の坂井辰史氏の報酬カットというものだった
といわれています。
 しかし、報告書を受けて開かれた記者会見で公表された役員処
分は、まるで違うものになっていたのです。それは、次のような
内容だったといえます。
─────────────────────────────
 みずほFG社長/坂井辰史 役員報酬月額半額6ヵ月カット
 みずほ銀行頭取/藤原弘治 役員報酬月額半額4ヵ月カット
─────────────────────────────
 そこに何があったのでしょうか。当初の役員処分案は、すべて
の責任を藤原頭取に押し付けて、この不祥事の幕引きを図ろうと
する魂胆がまる見えの人事だったからです。このような姿勢が何
回もシステム障害を起こす要因になっています。この間の事情に
ついて『選択』/2021年7月号は次のように書いています。
─────────────────────────────
 なぜ、処分内容が変わったのか、みずほ関係者が打ち明ける。
「当初の人事の報告を受けた金融庁が激怒した」子銀行で起こっ
た事案とはいえ、メガバンクグループなどにかねて「完全親会社
による責任ある経営体制の確立」を求めてきた金融庁からすれば
持株会社トップの責任が銀行トップの責任より軽いという処分の
あり方は「企業統治の観点から言ってあり得ない話」(前出みず
ほ関係者)。仮に藤原が辞めるのならFGトップの坂井も共に辞
任して、責任の所在を明確にすべし、というわけだ。
 事情通によれば、背景には坂井に対する金融庁側の不信感もあ
るという。障害が発生した当初、なかなか記者会見を開こうとせ
ず、藤原に任せ切りにして説明責任を果たそうとしなかったから
だ。坂井は大企業との取引が主力だった旧日本興業銀行出身。同
庁内部では「グループ内で旧興銀勢が幅を利かせる中、リテール
顧客を軽んじた挙句のシステム障害だったのでは」の見方さえ浮
上している。      ──『選択』/2021年7月号より
─────────────────────────────
 『選択』が掲載する「みずほFG『統治不全』の極限」の記事
をよく読むと、合併してからほとんど20年になるのに、いまだ
に勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行の人事の暗闘が続いている
ことがわかります。
 システム障害特別調査委員会の報告書によると、度重なる障害
発生の原因として「人為的な側面に障害発生の要因があった」と
断定し、そのうえで「組織的な動きに欠けていた」「経営陣への
情報共有も遅れた」、「想像力や感度の不足」と厳しく断罪した
うえで、「容易に改善されない体質ないし企業風土」と明記して
いるのです。
 『選択』の記事によると、みずほ銀行頭取の藤原弘治氏は、第
一勧業銀行出身で、みずほFGの中で一定の存在感を示す存在と
して知られています。藤原頭取は、3月1日に今回の障害につい
て記者会見を開いていますが、ITの専門誌「日経クロストレン
ド」の評価によると、藤原氏の記者会見に対して、次のように高
い評価を与えています。
─────────────────────────────
 システム障害に伴う当事者である企業の記者会見としては、周
到に準備され、記者の質問すべてに回答する時間を確保したこと
は高く評価できる。システムトラブルや不正事件で経営トップが
会見した事例は多いが、かえってイメージダウンとなったケース
も多い。みずほ銀行の場合には、今後システムトラブルによって
会見に臨む経営者には非常に参考になるものと考える。
                  https://bit.ly/3xxhmZC
─────────────────────────────
 みずほFG社長の坂井辰史氏は、藤原頭取と折り合いが悪く、
システム障害が発生する2週間ほど前の2月19日、みずほFG
は、4月1日付で藤原頭取を交代させる人事を決めていたといわ
れます。そこで障害が起きたので、藤原頭取を引責辞任させよう
として、金融庁からストップがかかったのです。
 なお、みずほFGはグループ会社ごとの縦軸によるガバナンス
のほかに、グループ会社を貫く横軸のガバナンスである「カンパ
ニー制度」を敷いています。そのひとつに「ITシステムグルー
プ」がありますが、そのトップがIT・システム分野に関しては
スブの素人の人事畑の役員が務めています。これではシステム障
害が連続して起きても当然であり、メガバンクとしての責任が大
きく問われます。     ──[デジタル社会論U/059]

≪画像および関連情報≫
 ●みずほ銀行 システム障害で処分発表 藤原頭取は当面続投へ
  ───────────────────────────
   みずほ銀行がATMなどのシステム障害を短期間に4回起
  こした問題で、親会社の「みずほフィナンシャルグループ」
  は、責任を明確にするため、坂井辰史社長の役員報酬の月額
  50%を6か月減額するなど、グループの役員11人の社内
  処分を発表しました。
   みずほ銀行がことし2月末から2週間足らずの間にATM
  などのシステム障害を4回起こした問題で、外部の弁護士な
  どで作る第三者委員会は、一連の障害の原因として危機に対
  応する組織力や顧客目線の弱さなどがあるとする調査報告書
  6月15日、公表しました。
   これを受けて親会社の「みずほフィナンシャルグループ」
  は、15日、責任を明確にするためとして、役員の処分を発
  表しました。
   坂井辰史社長の役員報酬の月額50%を6か月減額するの
  をはじめ、銀行の藤原弘治頭取は、役員報酬の月額50%を
  4か月減額するなど、グループの役員11人を減俸にすると
  しています。
   一方、みずほは、藤原頭取について、当初月内にも辞任す
  る方向で調整していましたが、再発防止策の徹底にはなお時
  間を要するなどとして、当面職務に当たらせることにしまし
  た。この問題で親会社の「みずほフィナンシャルグループ」
  の坂井辰史社長が、15日記者会見し、みずからを含む役員
  11人を報酬減額の処分にしたことを受けて、「たび重なる
  システム障害でお客さま、関係者の皆さまに大変なご迷惑と
  ご心配をおかけした。改めて深くおわびしたい」と陳謝しま
  した。             https://bit.ly/36rmhzx
  ───────────────────────────
みずほ銀行藤原弘治頭取.jpg
みずほ銀行藤原弘治頭取
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2021年07月15日

●「SMBCグループのDX化を知る」(第5532号)

 MUFG、みずほFGと並ぶメガバンクである三井住友フィナ
ンシャルグループ(SMBCグループ)のDXについてもご紹介
することにします。
 SMBCのデジタル化政策を年代別に整理すると、次のように
なります。
─────────────────────────────
     2015年:    決済代行ビジネス
     2017年:生体認証プラットフォーム
     2019年: SMBCクラウドサイン
─────────────────────────────
 2015年のことですが、GMOインターネット株式会社と三
井住友銀行は決済代行ビジネスをスタートさせています。GMO
はインターネット関連事業を行う東証1部上場企業です。
 三井住友銀行は、コロナ禍を機とした店舗対面、非対面の双方
シーンでキャッシュレスを利用したいというニーズへ一元的に対
応するため、SMBC/GMOペイメントという会社を設立し、
決済代行ビジネスをスタートさせています。
 具体的には、次世代決済プラットフォーム「stera」 とオール
インワン端末「ステラターミナル」を活用し、新たなサービスを
提供しようとしています。これを通じて、三井住友銀行の顧客基
盤、三井住友カードの決済ノウハウ・加盟店層、GMOの最新の
決済技術という各社の強みを最大限活用できる体制を構築して、
キャッシュレス化の促進に、スピード感をもって取り組んでいる
のです。
 2017年にNTTデータなどと共同で、生体認証サービスア
プリ「ポラリファイ」を提供をはじめています。ポラリファイは
顔や指、声などの生体情報を使った認証アプリであり、次の3つ
の特色があります。
─────────────────────────────
       @どんなスマホでも生体認証できる
       Aスマホ以外の本人確認シーン対応
       Bアップデートされるセキュリティ
─────────────────────────────
 続いて「SMBCクラウドサイン」です。
 新型コロナウイルス感染症を契機に、「脱ハンコ」の流れが急
速に加速しつつあります。電子契約が普及する兆しが見え始めた
2019年10月、「契約のデジタル化」を目指し、SMBCと
弁護士ドットコムの合弁会社として「SMBCクラウドサイン」
は設立されています。
 グループ外でこのサービスを導入している企業にイオン銀行が
あります。イオン銀行は2007年開業の銀行ですが、窓口で一
切現金を扱わず、紙の通帳も発行しないなどのコストを削減して
顧客に還元する「常識破りの銀行」としてスタートしています。
 イオン銀行取締役兼執行役員の黒田隆氏は、SMBCからの提
案に関して、次のように述べています。
─────────────────────────────
 われわれは「いつでもどこでもつながる銀行」の実現に向け、
新たな非対面サービスの提供など、DX推進に積極的に取り組ん
でいました。電子契約に関しては、住宅ローン領域では進んでい
たものの、法人契約では活用しておらず、範囲を広げていくこと
を考えていたところでした。
 一方、オンラインでの本人確認に関しては、収益に直接つなが
るものではないですが、お客様の利便性を考えれば標準装備とし
て必要だと捉えました。スマホアプリが不要でブラウザから利用
できるのはかなり便利ですね。20年10月に導入しましたが、
対象サービスの口座開設で7割のお客様が「ポラリファイ」を活
用されており、予想以上に浸透スピードが速いです。
         ──イオン銀行取締役兼執行役員の黒田隆氏
                  https://bit.ly/2VoCjaW
─────────────────────────────
 SMBCは、オープンイノベーションにも力を入れています。
 海外においては、シリコンバレーにスタッフを派遣し、先進的
なベンチャー企業やITベンダーとの提携を進めています。加え
て、革新的な技術やアイディアを持つスタートアップを大手企業
とともに支援するグローバル・ベンチャーキャピタル、プラグア
ンドプレイとの連携を通じて、優良なベンチャー企業との提携を
進めています。
 国内においては、ベンチャーとの連携を強化するため金融AP
Iを活用した「ミライハッカソン」などを開催しています。ハッ
カソン(hackathon) とは、ソフトウェア開発分野のプログラマ
やグラフィックデザイナー、ユーザインタフェース設計者、プロ
ジェクトマネージャらが集中的に作業をするソフトウェア関連プ
ロジェクトのイベントのことです。
 2017年9月には、SMBCグループは、オープンイノベー
ションの拠点として、「hoops link tokyo」を東京渋谷区に開設
しています。このオープンイノベーション拠点のコンセプトは次
の通りです。
─────────────────────────────
 オープンイノベーション拠点 hoops link tokyo。 ここはいつ
の時代も、新しいエネルギーにあふれる、渋谷の街にあり、スタ
ートアップ・自治体・大学・大企業など、異なる世界の人々が、
出会い、語らい、ともに挑戦するための交差点です。そして、S
MBCグループの知見・ネットワークを基盤に、挑戦するすべて
の人々とともに、社会的な価値を創出する場です。
 "hoops" は、「輪」を意味します。この「輪」の中で、多様な
「知」と「情熱」がつながり、この「輪」をくぐった先に、世界
を動かす「イノベーション」が生まれる。そんな未来を、一緒に
つくりましょう。          https://bit.ly/3wx9eqU
─────────────────────────────
             ──[デジタル社会論U/059]

≪画像および関連情報≫
 ●モダナイゼーションを軸に金融変革に挑むSMBCの
  DX戦略とは
  ───────────────────────────
   三井住友銀行を中核としてさまざまな金融事業を展開する
  三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)。そ
  のコンサルティング・IT戦略を担うのが、日本総合研究所
  (以下、JRI)だ。SMBCグループの既存のIT環境を
  活かしたモダナイゼーションを実現し、これを軸にデジタル
  トランスフォーメーション(DX)を牽引する。その成功の
  秘訣は何か――。そしてその先に見据えているものとは。J
  RIでDXを牽引する井上宗武氏に、NECのデジタル戦略
  リーダーである吉崎敏文が話を聞いた。
  吉崎:金融業界はフィンテックに象徴されるように、DXの
  ニーズが非常に高まっています。SMBCグループではビジ
  ネス戦略の中で、DXをどのように位置付けていますか。
  井上氏:デジタル時代の金融サービスは安定性・信頼性を担
  保しつつ、顧客体験を高めるプラスアルファの価値提供が求
  められます。DXはそのための有力な手段と捉えています。
  三井住友銀行では、2017年4月にオープンした銀座支店
  を皮切りに、個人のお客様向け店舗を「次世代型店舗」に移
  行する店舗改革を推進しています。備え付けのタブレット端
  末を利用することで、窓口に並ぶことなく、ペーパーレス・
  印鑑レスで各種の手続きをスムーズに行うことができます。
  三井住友銀行とJRIが、共同で開発した「三井住友銀行ア
  プリ」と「三井住友カード Vpass アプリ」は、 キャッシュ
  レス生活に必要な銀行サービスやクレジットカードの機能を
  スマホアプリで利用できるサービス。ユーザ視点による徹底
  した操作性の改善により、主要機能をより少ないタップ数で
  利用できるデザインを実現し、2019年度のグッドデザイ
  ン賞を受賞しました。      https://bit.ly/36tXpHd
  ───────────────────────────
SMBCグループ.jpg
SMBCグループ
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2021年07月16日

●「ワクチン接種に何が起きているか」(第5533号)

 ここまで日本の3大メガバンク、MUFG、みずほFJ、SM
BCグループのDX(デジタルトランスフォーメイション)への
取り組みを見てきましたが、それぞれにおいて、真剣にデジタル
化へ取り組んでいます。
 しかし、銀行が大きく変化しなければならないなかで、みずほ
銀行のように、大規模システム障害が発生しています。障害が起
きた原因は、特別調査委員会の報告によると、「人為的な側面に
障害発生の要因ある」と指摘しています。
 コロナ禍がまだ収まらず、4度目の緊急事態宣言が発出されて
いる日本にとっては、ワクチン接種がコロナ収束への大きなかぎ
を握っていますが、そのワクチン接種にもいま大きな問題が起き
ているのです。その原因は、ワクチン接種システム「VRS」に
あります。VRSとは次の言葉の略です。
─────────────────────────────
      VRS/ワクチン接種記録システム
          Vaccination Record System
─────────────────────────────
 コロナ禍に関して、日本政府が開発したシステムに、「COC
OA」があります。それに続くのが「VRS」ですが、発注側の
政府とシステム開発側の意図が必ずしも一致しないのです。これ
は、発注元(厚生労働省)の担当者が、システムのことがよくわ
かっておらず、明確で具体的な完成システムのイメージを示すこ
とができないのが原因と考えられます。COCOAの場合は、発
注元の厚労省だけでなく、開発と納品を任されたパーソルP&T
も、よくわかっていないケースだったのです。みずほ銀行の場合
も似たようなことがあったと思います。
 COCOAに関しては、今回のテーマの冒頭でも取り上げてい
ますが、現在にいたっても一向に機能しておらず、使う人はほと
んどいなくなっています。この件に関して『日経コンピュータ』
は、次のように問題を指摘しています。
─────────────────────────────
 政府が普及に力を注ぐ接触確認アプリ「COCOA」は、濃厚
接触の判定精度の問題やアプリのバグに悩まされた。一部の保健
所では、アプリから濃厚接触の可能性ありと通知を受けた人から
問い合わせが急増しているのに感染者の発見にあまり効果を上げ
ていない。判定精度の改善は一筋縄ではいかない。スマートフォ
ン同士のブルーツゥース通信だけで、接触距離を推定する動作原
理上の難しさに加え、米アップルと米グーグルが開発したAPI
(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)の内
部機能はブラックボックスのままだ。様々な要因が絡む。
                  ──日経コンピュータ編
          『なぜデジタル政府は失敗し続けるのか/
              消えた年金からコロナ対策まで』
─────────────────────────────
 それでは「VRS」の問題点とは何でしょうか。これに関して
7月14日付、日本経済新聞は、VRSについて次のように報道
しています。
─────────────────────────────
 政府はワクチン接種記録システム「VRS」で自治体の接種実
績を管理する。国から自治体には6月末までに約9000万回分
のワクチンを配布済みで、7月前半の2週間でさらに約1300
万回を配布する。7月13日時点の一般接種の実績は約5000
万回となっており、政府は配布実績との差分を未接種の「在庫」
とみなす。
 大阪市は医療機関などによる接種を優先し、VRS入力は市が
代行している。そのため接種と入力に時間差が生じ、8日時点で
183日分の「在庫」があるとされた。松井一郎市長は12日の
記者会見で「土日返上で入力作業する」と不服そうに語った。
         ──2021年7月14日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 ワクチンの接種のやり方に関しては、政府は各自治体に任せて
いたのです。ところが菅首相は「ワクチンこそコロナ禍収束の鍵
であり、東京五輪もあるので、もっと接種速度を上げよ」と関係
閣僚にハッパをかけたのです。
 そこで出てきたのは、東京と大阪の大規模接種センターの設置
です。この場合、ワクチンは、自治体はファイザーを使い、大規
模接種センターではモデルナを使うことにしたのです。どちらも
接種券がないと、接種できません。つまり、そのときは、自治体
は高齢者にしか接種券を送っていなかったので、大規模接種セン
ターでは、高齢者が接種を受けたことになります。しかし、ある
高齢者が大規模接種センターで接種を受けたとすると、自治体に
はその分ワクチンが余ることになります。そのことが速やかに自
治体に伝えられる必要がありますが、時間差が生まれ、それがう
まくいっていないのです。もちろん、1回目の接種のときに2回
目を打つ日が決まるので、自治体の医療機関としては、2回目の
分のワクチンも確保しておく必要があります。これは、在庫では
ないのです。
 このさい、接種を行う自治体の医療機関は接種記録を付ける必
要がありますが、そのために国はタブレット端末を自治体や医療
機関に配付し、このタブレット端末を使って18桁のバーコード
(接種記録番号)を入力するのですが、うまく読み取れない不具
合が発生し、加えて、システムが複雑で入力に手間がかかるので
市が医療機関に代わってやるなど混乱が起きています。何度やっ
ても読み取れないので、独自に専用の読み取り装置を購入した自
治体もあるほどで、このようなマシンを十分チェックもしないで
導入した政府に責任があります。
 これに接種券を持たなくても接種ができる職域接種がはじまっ
ていますが、これによると、自治体ではそれが把握できないので
一層の混乱をきたすことになります。そもそもシステムの設計に
問題があるのです。    ──[デジタル社会論U/060]

≪画像および関連情報≫
 ●「バーコード読み取れず」「役立たずのタブレット」・・・
  ワクチンシステムに自治体職員の怒り
  ───────────────────────────
   VRSは今年1月に官邸主導で急遽、開発が始まったシス
  テムである。厚労省が昨年より開発してきたV−SYSは、
  国から自治体にワクチンを配布する単なる物流システムで、
  “円滑化システム”と呼ぶには、あまりにお粗末だったから
  だ。厚労省の担当者は官邸に、「誰にいつワクチンを接種し
  たかを集計するには2ヵ月かかる」と説明し、これに官邸が
  激怒したことがVRS開発の発端だった。
   現在、接種が行われている米ファイザー製のワクチンは2
  度の接種が必要で、1度目と2度目の間には3週間あける必
  要がある。その間に転居などで自治体をまたぐ移動があれば
  追跡が困難になるため、自治体ではなく政府が横断的に国民
  の接種状況を管理する必要があった。また全国的な接種状況
  を迅速に把握できなければ、政府としても対策に遅れが生じ
  る可能性もある。役割が細分化され、職務限定的な縦割り意
  識が機能不足のV−SYSを生み出し、その補完措置として
  VRSは開発されたのだ。
   しかし、急遽開発されたVRSでは、システムに不備があ
  るばかりか、実地訓練が不足するのは当然のことだった。先
  の自治体職員も悲痛の声を上げる。「VRSがワクチン接種
  券に記載された情報をうまく読み取れないので、接種した際
  にVRSに入力する時間が取れず、持ち帰って入力作業を強
  いられています」。       https://bit.ly/2VwTc3i
  ───────────────────────────
松井一郎大阪市長.jpg
松井一郎大阪市長
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2021年07月19日

●「官邸は接種実態を把握していない」(第5534号)

 パンデミックに至った新型コロナウイルス禍は、日本の行政が
デジタル化できていない現実を次々と見せつけています。現在は
ワクチン接種をめぐり混乱が起きています。これにも政府のデジ
タル対応のまずさが目立っています。この問題について16日の
EJの続きとして述べることにします。
 政府は、ワクチン接種について、次の2つのシステムで現在対
応しています。
─────────────────────────────
  V−SYS ・・ ワクチンの流通管理/厚労省が管轄
    VRS ・・ ワクチン接種の記録/官 邸が管轄
─────────────────────────────
 V−SYSとVRSの関係については、図として、添付ファイ
ルにしているので、それを参照していただきたいと思います。図
に「接種会場」とあるのは自治体と考えるべきです。接種は、自
治体内の医院や接種センターで行われますが、医院の場合、コロ
ナ以外の患者の来院があるので、接種は昼休みとか診療終了後に
行われることになります。そのため接種速度を上げるために、接
種センターを設ける自治体が多くなっています。
 自治体は、傘下の医院や接種センターから予約状況に応じ、必
要とするワクチンを2回分まで含めて、供給希望数としてV−S
YSを通じて、申し込みます。厚労省はこのV−SYSのデータ
に基づいて、自治体にワクチンを供給することになります。
 さて、自治体は、自治体個々の独自の計画に基づいて、高齢者
から接種券を送付し、予約システムを通じて接種の予約を取らせ
ようとしましたが、ここで1つ目の問題が発生します。ほとんど
の高齢者はネットでの予約を敬遠して電話で予約を取ろうとした
ので、コールセンターはパンクに近い状態でなかなかつながらな
くなったことです。これは、日本の高齢者のITリテラシーの低
さが図らずも露呈してしまったことになります。
 ここで、既に2つ目の問題が発生していたのですが、それはす
ぐには表面化せず、自治体と官邸の間で、不満がくすぶっていた
のです。それは、次の3つの問題です。
─────────────────────────────
@接種記録の入力は、接種場所(医院など)において、VRSと
 V−SYSの両方に行う必要があるが、入力が複雑であり、時
 間がかかるので、自治体が代行することになったこと。
Aこの作業のため官邸は、入力端末としてタブレットを配付し、
 18桁のバーコード(接種記録番号)を読み取らせようとした
 が、タブレットの精度が悪く、読み取れなかったこと。
B接種記録の入力に時間がかかるため、接種日と入力日に時間差
 が生じ、VRSで接種状況を見ている官邸から見ると、自治体
 には相当量のワクチンの在庫があるように見えること。
─────────────────────────────
 ワクチン接種がコロナ禍解決のカギと考えた菅首相は、東京五
輪も迫っているので、何とか接種速度を上げようとし、7月末ま
でに高齢者の接種を終わらせるようハッパをかけます。これには
西村コロナ担当相、河野ワクチン担当相ともに不可能であると反
対したのですが、菅首相は「何としてもやれ!」と両大臣に厳命
したのです。この達成には一日100万回以上の接種が必要にな
りますが、この菅首相の命令を受けて、自衛隊による東京と大阪
に大規模接種センターが設けられ、そこではモデルナのワクチン
が使われることになったのです。
 今から考えると、菅首相による「1日100万回のワクチン接
種」の命令は、首相の正しい決断だったといえます。この命令に
よって自治体は本気になり、あらゆる手段を駆使して接種に取り
組むようになったからです。しかし、このことは、現在起きてい
るワクチンの量をめぐる官邸と自治体の認識の違いを起こす原因
になったのです。これについて、7月16日付、朝日新聞の朝刊
は次のように報道しています。
─────────────────────────────
 問題となっているのは、自治体の接種で使われる米ファイザー
製の供給だ。加藤勝信官房長官は、12日の記者会見で「約4千
万回分は未接種の状況で、各自治体、あるいは医療機関がお持ち
になっている」と述べ、供給は足りているとの認識を示した。6
月末までに約8800万回分を自治体に配送し、接種状況を国が
一元的に把握する接種記録システム(VRS)によると、接種実
績は約4800万回だったという。
      ──2021年7月16日日付、朝日新聞朝刊より
─────────────────────────────
 驚くべきことは、これと同様のことを河野ワクチン接種担当相
もいっていっていることです。加藤官房長官も河野担当相も、と
もに現場の実態を正しく把握できておらず、間違った認識を持っ
ていることです。担当大臣として最低です。
 2つの認識のズレがあります。1つは、VRSの入力はリアル
タイムではなく、相当の時間差があることです。それは、入力が
複雑であることと、タブレットのバーコード読み取りの不具合に
よるものです。官邸の責任です。つまり、接種は済んでいるのに
VRS上は未接種になっているように見えることです。
 2つは、自治体は2回目分のワクチンを確保したうえで、1回
目の接種を実施しており、余っているのは2回目用であって、在
庫ではないということです。なぜ、この程度のことが官邸はわか
らないのでしょうか。
 そういう間違った認識に立って、VRS上で在庫が多いと官邸
がみなした自治体には、8月前半から配分量を減らす仕組みが導
入されることになっており、自治体からは、物凄い反発の声が上
がっています。
 大阪市は計画より1割減らされることになっていますが、接種
は済んだのにVRSの登録が終わっていない件数が24万件にの
ぼるといいます。読み取りの不具合の多いタブレットを配付した
責任は官邸にあります。  ──[デジタル社会論U/061]

≪画像および関連情報≫
 ●ワクチン供給の混乱「お許しを」/河野行革相自治体向けで
  ───────────────────────────
   河野太郎行政改革担当相は、13日の記者会見で、新型コ
  ロナウイルスワクチンの自治体への供給をめぐる混乱につい
  て「大変申し訳ない。お許しをいただきたい」と陳謝した。
  「ワクチン接種がかなり加速し、予約の受け付け停止やキャ
  ンセルが生じている」と説明し、「ペースが速いところに関
  してはブレーキを踏まざるを得ない」と述べた。
   政府が自治体に配布しているファイザー社製ワクチンは、
  7〜9月の供給量が6月末までの1億回から7000万回分
  へ減少。ワクチン確保を不安視する自治体が、予約受け付け
  の一時停止などの対応を取るケースが全国で相次いでいる。
   河野氏は「もう少し早めに、最低限の割当量はこうなる、
  ということを自治体に示すべきだった。予約を少し落として
  もらう必要があった」と反省の弁を述べた。
   同日に出演したTBS番組でも「供給が追い付かなくなり
  本当に申し訳ない」と謝罪した。自身がワクチン普及の課題
  として掲げてきた「三つの山」(ワクチン確保、接種の加速
  若い世代の接種率向上)を念頭に、「二つ目の山を下りると
  ころで転げ落ちた」と述べ、自治体の接種ペースが想定外の
  速さだったと強調した。河野氏は「我々がとにかく高齢者に
  早く打ってくれと言って後押ししたから、そのペースで(自
  治体は)現役世代も予約をとった」と指摘。「(その結果)
  ワクチンが来ないぞとなった。すみません」と語った。
  【堀和彦】           https://bit.ly/3BbLUT9
  ───────────────────────────
新型コロナ接種システム.jpg
新型コロナ接種システム
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2021年07月20日

●「世界一のデジタルバンク/DBS」(第5535号)

 日本のコロナ対策の話から、金融機関のDX(デジタルトラン
スフォーメーション)の話に戻すことにします。本テーマ「デジ
タル社会論/1」で少し触れたシンガポールの銀行「DBS」の
話です。DBSには次の2つの名前があります。
─────────────────────────────
     ◎本来の名前
      The Development Bank of Singapore
     ◎現在の名前
      Digital Bank 0f Singapore
─────────────────────────────
 DBS銀行を世界的に有名にしたのは、2016年度と201
8年度の2回にわたって、金融専門雑誌『ユーロマネー』による
「ワールズ・ベスト・ディジタル・バンク」の称号を取得してい
ることです。
 このようにいわれても、DBS銀行が、なぜベストバンクなの
かピンとこないと思います。持ち株会社であるDBSグループ・
ホールディングスの2018年3月期の数字を基にして、日本の
3メガバンクと比較してみることにします。
 まず、「従業員数」「総資産」「純利益」の3つについて、比
較します。
─────────────────────────────
    ●従業員数
     三菱UFJFG ・・・・ 11・7万人
     三 井住友FG ・・・・  7・3万人
       みずほFG ・・・・  6・0万人
         DBS ・・・・  2・6万人
    ●総資産
    三菱UFJFG ・・・・ 306・9億円
     三井住友FG ・・・・ 199・0億円
      みずほFG ・・・・ 205・0億円
        DBS ・・・・  42・5億円
    ●純利益
     三菱UFJFG ・・・・ 9896億円
      三井住友FG ・・・・ 7343億円
       みずほFG ・・・・ 5765億円
         DBS ・・・・ 3693億円
   ──『週刊ダイヤモンド』/2018年12月8日号より
─────────────────────────────
 「従業員数」については、DBSは、日本の3メガバンクに比
べると非常に少ない数です。従業員の内訳はわかりませんが、エ
ンジニア比率は非常に高いようです。DBS銀行のピユシュ・グ
プタCEOは次のように述べています。
─────────────────────────────
 私たちは従来型の銀行というよりは、金融サービスを提供する
テクノロジー企業と自らを捉えるようになっている。銀行業務を
行うスタッフの2倍のエンジニアを抱えているという事実が、私
たちの会社の性質におけるシフトを物語っているだろう。
    ──ピユシュ・グプタCEO https://bit.ly/3epCE44
─────────────────────────────
 DBSの「純利益」は、3693億円とみずほFGに迫る水準
であり、これは小ぶりの従業員と資産を効率よく使って稼いでい
ることをあらわしています。さらに、「ROE」と「時価総額」
について、比較すると、次のようになります。
─────────────────────────────
    ●ROE
         DBS ・・・・    9・7%
      三井住友FG ・・・・    8・8%
       みずほFG ・・・・    7・7%
     三菱UFJFG ・・・・    7・5%
    ●時価総額
     三菱UFJFG ・・・・   8・8兆円
      三井住友FG ・・・・   5・8兆円
         DBS ・・・・   4・8兆円
       みずほFG ・・・・   4・8兆円
   ──『週刊ダイヤモンド』/2018年12月8日号より
─────────────────────────────
 これによると、驚くなかれ、ROEではDBSは、9・7%と
日本3メガバンクを押さえてトップなのです。しかも、時価総額
では、約4・8兆円とみずほFGに匹敵するのです。
 ところで「ROE」とは何でしょうか。ROEは、次の言葉の
省略したものです。
─────────────────────────────
    ROE=自己資本利益率(株主資本利益率)
                Return on Equity
─────────────────────────────
 ROEは、その企業が独自に持つ資本で、どれだけ効率的に儲
けを出しているかを示す指標です。例えば、総資産が100億円
で当期純利益が1億円というA社とB社があったとします。しか
し、A社は自己資本は10億円、B社は50億円だったとした場
合、A社の方が、少ない自己資本でB社と同等の利益を出してい
るとして評価が高くなります。つまり、自己資本を有効に活用で
きているとみなされるのです。
 時価総額というのは、ある上場企業の株価に発行済株式数を掛
けたものであり、企業価値を評価する際の指標です。時価総額が
大きいということは、業績だけでなく、その企業の将来の成長期
待が大きいことを意味します。DBSは、その時価総額において
みずほFGと4・8兆円で並んでおり、将来の成長期待の大きい
銀行であるということができます。つまり、DBSは市場評価が
それだけ高いことを意味しているのです。
             ──[デジタル社会論U/062]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜDBSは世界一の「デジタル銀行」に選ばれたのか?
  ───────────────────────────
   銀行のデジタル化が進むと顧客が銀行に来なくなるどころ
  か、ビジネスの表層から銀行はなくなってしまいます。なぜ
  なら銀行が行なう金融ビジネスはデータのやり取りで完結で
  きてしまうからです。融資をする場合は銀行が持つ金銭残高
  のデータから貸す分だけを借り手の口座に移動すればよく、
  送金をする場合は、送金元から送金先の口座に送金額のデー
  タを送付すればよくなります。そうなると銀行に行く必要が
  出てくるのは実物の現金が必要な時だけになりますが、キャ
  ッシュレスが進めばそれすら不要になってしまいます。
   しかし、支店に直接足を運ぶ顧客よりデジタル化した環境
  で取引を行なう顧客のほうが利益をもたらすことにDBSは
  気づきました。また「デジタル」を実際の店舗とは異なる窓
  口と捉えるのではなく、店舗の窓口そのものをデジタル化し
  ていくという考え方でデジタル化を推進しました。
   DBSではこれを「破壊」と表現しつつ、顧客が銀行の店
  舗に来なくなりビジネスの表面からDBSが消えてしまうこ
  とを恐れずに、自己破壊を推し進めることにしました。ちょ
  うど日本のメガバンクがインターネット専業銀行に転換する
  ようなイメージです。      https://bit.ly/3rgODWK
  ───────────────────────────
DBS銀行/2.jpg
DBS銀行/2
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2021年07月21日

●「GANDALFとしてデジタル化」(第5536号)

 「ROE」(株主資本利益率)について、さらに補足します。
「R」は利益であり、「E」は株主資本をあらわします。企業の
利益には、営業利益、経常利益、当期純利益(最終利益)などの
段階がありますが、ここでいう利益は当期純利益です。
 株主資本は「自己資本」とも呼ばれ、主に株主から集めた資金
と利益の蓄積で構成される企業の総資本の一部です。つまり、株
主資本は、借入金などの他人資本と違い、自己資本ですから、返
済の必要がないのです。
 ROEは、企業が独自の資本でどれだけ利益を上げているかと
いう経営や資本の効率性を示す指標なのです。したがって、RO
Eが高い企業は、株主資本が有効活用され、株主の満足度が高ま
るといえます。DBSのROEは、2018年度は9・7%と、
日本の3メガバンクより高いのです。
 DBSグループホールディングスのCEOは、ピユシュ・グプ
タという人物ですが、彼はここ20年ほどのテクノロジーの進化
で、消費者の購買行動に大変化が起きているといい、次のように
実に味わい深いことをいっています。
─────────────────────────────
 ゲームチェンジャーとなった重要なテクノロジーを挙げれば、
まずはスマートフォン。これまでバンキング(銀行業務)は、一
般的な購買物などとは全く別物とみなされていたのが、今やあな
たのポケットに入っているといってもいいような状態です。
 例えば、消費者は家を買いたいのであって、住宅ローンを買い
たいわけではない。スマホの到来によって、バンキングは生活の
コンテクスト(文脈)と一体化し、顧客が望むサービスの背後に
隠れた存在へと変貌を遂げました。自動車と車のローンの関係な
ども同じです。   ──ピユシュ・グプタDBS−HDCEO
   ──『週刊ダイヤモンド』/2018年12月8日号より
─────────────────────────────
 「Live more,Bank less」 ──人生をより楽しみ、銀行の付き
合いは少なく──これがDBSのうたい文句です。また、グプタ
CEOは、次のようにもいっています。
─────────────────────────────
 スマートフォン(スマホ)の普及で消費者は24時間365日
休みなく、様々なサービスを享受できるようになった。現代人は
すぐに欲求が満たされることに慣れた。米グーグルの検索サービ
スを朝に使い、答えが夕方に返ってくればよいと考える消費者は
いない。銀行業務も同じだ。消費者はすぐに口座が開設でき、資
金も引き出せる利便性を求めている。そうした消費者の期待に応
えて初めて、顧客との取引を拡大できる。
          ──ピユシュ・グプタDBS−HDCEO
─────────────────────────────
 このピユシュ・グプタCEOにGAFAについてどう考えるか
と聞いたところ、DBSでは、GAFAではなく「ガンダルフ」
と呼んでいるといっています。「ガンダルフ/GANDALF」
とは、J・R・R・トールキンのファンタジー小説『指輪物語』
に出てくる魔法使いの名前です。GANDALFは、次のことを
意味しています。
─────────────────────────────
       G ・・ グーグル
       A ・・ アマゾン
       N ・・ ネットフリックス
       D ・・ DBS
       A ・・ アップル
       L ・・ リンクトイン
       F ・・ フェイスブック
─────────────────────────────
 GAFAにない「N」はネットフリックス、定額制の動画配信
サービスとして日本でも有名ですし、「L」は、世界最大級のビ
ジネス特化型のSNSです。そして、何といっても自身のDBS
の「D」を真ん中に入れているのは自信のあらわれです。日本の
企業、とくに金融企業としては、このGANDALFを相手にし
て、競合していく必要があるということになります。
 グプタCEOは、何かコトを起こすとき、「ジェフ・ベゾスな
ら、どう考えるだろうか」と自問するといっています。アマゾン
のジェフ・ペゾス氏を経営者として尊敬しているのです。そして
具体的にGAFAに対して次のようにいっています。
─────────────────────────────
 巨大テック企業は銀行業と全く違うやり方をします。われわれ
のような銀行は、従来支店や「リレーションシップマネジャー」
などを通じ、顧客を獲得してきましたが、彼らは電子上でそれを
成し遂げてしまいます。また、われわれは「同日中の取引処理完
了」を「年中無休でやる」というスピード感ですが、彼らは即時
に処理できるうえ、大量のデータも持っています。我々が変わる
ときは、そんな彼らのように考えなくてはいけないのです。
   ──『週刊ダイヤモンド』/2018年12月8日号より
─────────────────────────────
 DBSグループ・ホールディングスが、なぜデジタル化を目指
すのかについて、2017年度の数値で示すと、2017年度の
総収入は119・2億シンガポールドル(約9800億円)、こ
のうち、デジタル化の進む香港とシンガポールの各ビジネスの比
率は44%(約4300億円)です。
 このうち、「デジタル」顧客からの売り上げは63%で年平均
成長率は27%、ROE27%と、「伝統的」顧客からの売り上
げの年平均成長率−4%、ROE18%と比べると、はるかに上
を行くのです。要するに、銀行の店舗を訪れる顧客よりも、デジ
タル取引を行う顧客の方からの売り上げが圧倒的に大きいし、彼
らはより多いローンと預金も保有するのです。顧客をデジタル顧
客化する方がはるかに銀行としては儲かるのです。
             ──[デジタル社会論U/063]

≪画像および関連情報≫
 ●世界一のデジタル銀行は日本と何が違うのか/シンガポール
  DBS銀行CIOに聞く
  ───────────────────────────
   具体的には、テクノロジー・インフラを再構築するととも
  に、ビッグデータや生体認証、人工知能などを活用すること
  によって、顧客に提供するサービスのすべてをデジタル化し
  ました。その結果、2016年にはユーロマネー誌が主催す
  るアワード・フォー・エクセレンスで、「ワールド・ベスト
  ・デジタル・バンク」に選ばれました。
   われわれがデジタル化を志向する前、DBS銀行は売り上
  げも利益も伸びており、ビジネス環境は決して悪くありませ
  んでした。しかし水面下では成長余力が徐々に狭まっていた
  のです。拠点とするシンガポール、香港には出店余地がなく
  次の展開として、人口が非常に多い中国やインドネシアで現
  地銀行を買収することでの進出を検討しましたが、外資の出
  資規制が厳しく、たとえばインドネシアでは、ダナモン銀行
  の買収を断念せざるをえませんでした。
   そこで発想を切り替え、買収などによって商圏を広げるの
  ではなく、DBS銀行そのものをデジタル化しようと考えた
  のです。デジタル世界であれば、国境も規制も超えて拡張で
  きる可能性があるからです。デジタル化を推し進めるにあた
  っては、私たちは「もし、アマゾンドットコムのジェフ・ベ
  ゾスが銀行業を行うとしたら、何をするだろうか」という観
  点から、徹底的に考えました。そこで出てきた答えのひとつ
  は、私たちが「芯までデジタル企業になる」ことでした。
                  https://bit.ly/3wTql6w
  ───────────────────────────
ピユシュ・グプタDBSグループホールディングスCEO.jpg
ピユシュ・グプタDBSグループホールディングスCEO
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2021年07月26日

●「DBS銀行のDX3つのポリシー」(第5537号)

 DBS銀行の創立は1968年です。シンガポール政府系の開
発銀行──シンガポール開発銀行として設立されています。現在
は、シンガポール、インドネシアの東南アジア、中国、香港、台
湾のグレーター・チャイナ、そして、南アジアのインドなど18
の国・地域に280以上の拠点を有し、約2万4000人の従業
員を抱える東南アジア最大の銀行になっています。
 DBS銀行の変革をリードしたのは、ピユシュ・グプタCEO
とデビッド・グレッドCIOであるといわれます。CIOとは、
チーフ・インフォメーション・オフィサー(最高情報責任者)の
ことです。
 これらのDBS銀行のトップは、DXに関して、次の3つのポ
リシーを掲げています。
─────────────────────────────
  1.会社の芯までデジタルに
    Become digital to the core.
  2.自らをカスタマージャーニーへ組み入れる
    Embed ourselves in the customer journey.
  3.従業員2万2000人をスタートアップに変革する
    Create a 22,000 start-up.
─────────────────────────────
 第1は「会社の芯までデジタルに」です。
 デジタル化というと、オンラインサービスやモバイルサービス
を提供するといったフロントエンドの表面的なデジタル化は進む
ものの、既にレガシーになっているアナログ的部分と必ず抵触す
るものです。これに関連して、グプタCEOは記者から「既存の
銀行ビジネスとカニバリゼーション(共食い)や、コンフリクト
(衝突)は起きないか」と問われて次のように述べています。
─────────────────────────────
 顧客をフィジカル(身体的)なバンキング経験からデジタルな
経験に移すと、実はビジネスは増えます。当社の調査によれば、
リテール(個人向け)でも中小企業向けのビジネスでもデジタル
化が進むほど取引は活性化しました。
 一方で、2種類の緊張状態を生む可能性がありました。1つ目
は、従来のバンキングと別部門でデジタル部門を立ち上げてしま
うと、デジタルと従来の部門の間で、コンフリクトが生ずること
です。われわれはこれを解決するために、別部門は立ち上げませ
んでした。代わりにメーンのバンキング部門において、デジタル
化を進める方策を取りました。別部門ができなかったため、緊張
状態が生まれることはなかったです。
 2つ目は、デジタル化で従業員の仕事が失われるという緊張で
す。当社でもテラー(窓口業務)や、コールセンターのオペレー
ターなど1500人ほどの仕事が必要なくなる可能性に行き着き
ました。そこでそうした人材には再訓練や再度スキルを磨く計画
を事前に作り、機会を提供して新たな仕事の担当となってもらい
ました。      ──ピユシュ・グプタDBS−HDCEO
   ──『週刊ダイヤモンド』/2018年12月8日号より
─────────────────────────────
 要するに、オンラインサービスやモバイルサービスを提供する
というフロントエンドの表面的なデジタル化にとどまらず、バッ
クエンドの業務アプリケーション、ソフトウエア、ミドルウェア
ハードウェアやインフラのレベルにいたるまで、さらには経営陣
・従業員のマインドセットや企業文化まで、組織のすべてを例外
なく見直すというのです。従来の業務との、カニバリゼーション
(共食い)やコンフリクト(衝突)があっても、会社の芯までデ
ジタル化を貫くということです。
 第2は「自らをカスタマージャーニーへ組み入れる」です。
 まず、「カスタマージャーニー」とは何かを明らかにすること
です。顧客が企業との関わり合いを持ち、コミュニケーションを
重ねていく過程で、顧客の感情は変化していきます。この時系列
に沿った顧客の動きを、企業視点から見たものが、「カスタマー
ジャーニー」と呼ばれます。企業は顧客との良好な関係を築き、
維持するために、こうした一人ひとりの辿る「旅」をより良いも
のにすべく、何らかの働きかけを行うことになります。
 つまり、銀行として、自身の存在意義を問い直すなかで、次世
代金融産業において、どのようなプレーヤーになるかといったビ
ジョンを示す必要があるということです。これについて、田中道
昭氏は、次のようにいっています。
─────────────────────────────
 端的にいえば、それは預金・貸出・為替といった銀行目線のト
ランザクションジャーニーから、ユーザー1人ひとりのライフス
タイル、生活パターン、ニーズに寄り添う顧客目線のカスタマー
ジャーニーへの転換を意味します。DBS銀行はまた、「簡単、
シームレス、目に見えない」というコンセプトも提示しました。
カスタマージャーニーの中で、顧客はシンプルにしてシームレス
なサービスを享受する。そこにおいてDBS銀行は顧客の「目に
見えない」存在になろうというのです。    ──田中道昭著
         『アマゾン銀行が誕生する日/2025年の
              次世代金融シナリオ』/日経BP
─────────────────────────────
 この説明では、「目に見えない銀行」が具体的に何を意味する
のかいまひとつはっきりしません。グプタCEOは、「銀行自ら
がネット上で商品販売の場を提供する『マーケットプレイス』を
始める」としています。銀行がそこで住宅を販売する──そうす
れば、そこに住宅ローンビジネスが隠されたかたちで付いてくる
といっています。つまり、「住宅ローン」を売ろうとするのでは
なく、銀行が住宅そのものを売ればよいというのです。これが、
「隠されている銀行」という意味ではないでしょうか。実に面白
い発想だと思います。明日のEJでは、第3のポリシー「従業員
のスタートアップ化」について説明をすることにします。
             ──[デジタル社会論U/064]

≪画像および関連情報≫
 ●カスタマージャーニーとは?誰でもできるカスタマージャー
  ニーマップの作り方!
  ───────────────────────────
   カスタマージャーニーとは、ずばり顧客の購買に至るまで
  のプロセスを指します。日本語に直訳すると「顧客の旅」と
  なり、顧客がどのように行動して購買に至るのかという道の
  りを旅に例えて表現しています。また、その行動や心理を時
  系列に並べて見える化したものを、「カスタマージャーニー
  マップ」といいます。
   では、なぜ今カスタマージャーニーが注目されているので
  しょうか?テクノロジーの普及により生じた2つの変化が主
  な要因となっています。
  顧客側:顧客の購買行動が複雑化したため
   従来、顧客と企業のタッチポイントと言うと、主要なメデ
  ィアのテレビ・新聞・雑誌等くらいしか考えられなかったの
  で、企業が自らの商品やサービスを認知してもらい、顧客の
  購買意欲を高めるためには、それらのタッチポイントを想定
  するだけで十分でした。
   しかし現代において、顧客は複数のチャネルを横断的に使
  用して、情報収集を行うことができます。顧客の購買行動は
  複雑になり、企業とのタッチポイントも増えました。
  企業側:
   一人ひとりに合わせたマーケティング施策を打ち出せるよ
  うになったため一方で、テクノロジーの普及は企業にも変化
  をもたらしました。従来に比べ、企業が得られる情報の量と
  質が向上したため、より精度の高いマーケティング施策を打
  ち出せるようになったのです。さらに、そのテクノロジーの
  進歩は、企業が一人ひとりの顧客に対してアプローチするこ
  とを可能にしました。      https://bit.ly/3i7aqgN
  ───────────────────────────
目に見えない銀行/DBS.jpg
目に見えない銀行/DBS
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2021年07月27日

●「DBS銀行のマーケットプレイス」(第5538号)

 DBSグループホールディングスのピユシュ・グプタCEOは
アマゾンの創業者のジェフ・ベソス氏を尊敬し、DBS銀行の経
営に関して、ことあるごとに次のように考えたといわれます。
─────────────────────────────
  もし、ジェフ・ベソスが銀行をやるとしたら、何をするか
               ──ピユシュ・グプタCEO
─────────────────────────────
 このグプタCEOの考え方から、DBS銀行の3つのポリシー
が出てきています。3つのポリシーを再現します。
─────────────────────────────
  1.会社の芯までデジタルに
    Become digital to the core.
  2.自らをカスタマージャーニーへ組み入れる
    Embed ourselves in the customer journey.
 →3.従業員2万2000人をスタートアップに変革する
    Create a 22,000 start-up.
─────────────────────────────
 このうち、1と2については、昨日のEJで説明は終わってい
ますが、「2」に関しては、もう少し説明を追加します。
 2のポリシー「自らをカスタマージャーニーへ組み入れる」に
ついては、確かにジェフ・ペゾス氏が創業時にあるレストランで
紙ナプキンにメモしたアマゾンのビジネスモデルに通じるものが
あります。DBS銀行の「マーケットプレイス」は、まさにアマ
ゾンと名前まで一緒です。マーケットプレイスについては、5月
18日のEJ第5490号で次のように解説しています。
─────────────────────────────
 ここで、アマゾンの「マーケットプレイス」について説明する
必要があります。「マーケットプレイス」とは、アマゾン以外の
外部業者が出品できるサービスのことです。つまり、アマゾンの
サイトに出ている商品は、すべてアマゾンの商品ではなく、他の
出店者の商品も入っているのです。もちろん、出店に際しては、
アマゾンの出店基準をパスした商品であり、お客としては、売っ
ている商品がアマゾンなのか、他の業者なのかに関係なく、全部
同じフォーマットで商品を買えるのです。
                  https://bit.ly/3i0xygz
─────────────────────────────
 DBS銀行が「マーケットプレイス」を取り入れるということ
は、銀行自身が住宅を売ったり、車を売ったりできることになり
ます。もちろん、この実現には法改正が必要になりますが、20
17年6月に、シンガポールの金融管理庁は銀行に対して、それ
が実現できる規制緩和措置を行っています。
 2017年8月11日付のNNAアジア経済ニュースにそれに
関する記事が出ているので、次に示します。
─────────────────────────────
 シンガポールの金融最大手DBSグループ・ホールディングス
傘下のDBS銀行は、10日、自動車のオンライン販売仲介を手
掛ける地場SGカーマート、カーロの2社と提携し、自動車のマ
ーケットプレース「DBSカー・マーケットプレース」の運用を
開始した。シンガポールの銀行が消費者向けのマーケットプレー
スを運営するのは初めて。金融管理庁(MAS)は6月、銀行に
対し、金融サービス以外の分野で売り手と買い手をオンライン上
でつなぐプラットフォームの運用を認める規制緩和を実施してい
た。DBSカー・マーケットプレースは当初、約3500台の自
動車を取り扱う。DBSカー・マーケットプレースの出品者は、
手数料なしでSGカーマート、カーロにも出品できる。買い手は
マーケットプレース上で自動車ローンのシミュレーションや試乗
の予約が行える。加えて、売買取引が成立した際の所有権移転に
伴う書類手続きに関する支援を、売り手も買い手も無料で受けら
れるという。            https://bit.ly/2WmJIbz
─────────────────────────────
 第3のポリシーは、「従業員2万2000人をスタートアップ
に変革する」です。
 これは、経営者を含めてDBS銀行の全社員をITエンジニア
に変革するという意味です。これについて、田中道昭氏は、自著
で次のように述べています。
─────────────────────────────
 「従業員2万2000人をスタートアップに変革する」との標
語の通り、イノベーティブなマインドセットを根底から持つべく
経営陣・従業員に対して様々な取り組みが行われています。「徹
底した顧客第1主義」「データ・ドリブン」「リスクを取って、
実験に挑む」「アジャイル型」「学ぶ組織になる」の5つの指針
が設定され、具体的な施策が次々と展開されています。
 例えば、学びのスペース「DBSアカデミー」や、スタートア
ップ企業などとのコラボスペース「DBSアジアX」が設置され
ました。「デジタル・マインドセット・ハッカソン」「APIハ
ッカソン」「ストラテジー・ワークショップ」「カスタマージャ
ーニー」「デイリー・イノベーション・ブリーフィング」など、
多くのイノベーション施策が、実行・運営されています。スター
トアップ企業などとの協業機会や、「ガンダルフ・スカラーズ」
「DBSラーン」「ホライズン・クラス」「テック・ブートキャ
ンプ」などといった学びの機会も存分に提供されています。
                      ──田中道昭著
         『アマゾン銀行が誕生する日/2025年の
              次世代金融シナリオ』/日経BP
─────────────────────────────
 これを見ると、「DBSアカデミー」の教育から始まり、テク
ノロジー関連の各種イベントやワークショップ、各種ラボの設置
など、IT企業ではないかと見まがうものであり、とても銀行と
は思えないほどの変革の取り組みであるといえます。
             ──[デジタル社会論U/065]

≪画像および関連情報≫
 ●♯21アイデアをカタチにするイノベーション手法
  「ハッカソン」とは?
  ───────────────────────────
   デジタル化が進み、技術革新のスピードが急速に高まって
  いる現代。商品やサービスのライフサイクルが短縮化するな
  か、生まれたアイデアをいかにスピーディーにカタチにでき
  るかが、新規事業開発の成功を左右すると言われています。
  今回は、そんな“ものづくり”の可能性や速度を高めるのに
  効果的な「ハッカソン」について解説します。
  ◎技術者がチームでものづくりに没頭
   ハッカソンとは、プログラマーやデザイナーなどの専門技
  術者が集まって、一つの目的を実現するために集中して作業
  するプロジェクトのことです。プログラミングやエンジニア
  リングを行うことを意味する「ハック」と「マラソン」から
  成る造語で、1日〜1週間ほどの決められた時間内で、文字
  通りマラソンをするようにひたすら作業に没頭します。
  ◎ハッカソンとアイデアソンの違いとは
   ハッカソンとよく似た言葉に、「アイデアソン」がありま
  す。これは「アイデア」と「マラソン」を掛け合わせた造語
  で、ハッカソンが具体的な“ものづくり”の作業であるのに
  対し、アイデアソンは発想を広げたりブラッシュアップした
  りするために行われます。
   最初にテーマに関するアイデアソンを行い、そこで出てき
  たアイデアをハッカソンで具現化するといったように、ハッ
  カソンの下準備としてアイデアソンが使われることも一般的
  です。             https://bit.ly/3eUxsFr
  ───────────────────────────
グプタCEO.jpg
グプタCEO
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2021年07月28日

●「グーグルによるプリン買収の狙い」(第5539号)

 7月28日付の日本経済新聞朝刊の第1面「キャッシュレス/
新世紀」に次の記事が掲載されています。デジタル金融のニュー
スなので、今朝はこの問題について、考えてみることにします。
─────────────────────────────
 米グーグルが、スマートフォンの決済アプリを運営するpring
(プリン、東京・港)の買収を決めた。2022年春にも送金・
決済サービスを本格展開するとみられる。大手銀行は「ユーザ層
の厚みを考えると脅威」(メガバンク幹部)と警戒する。キャッ
シュレス後進国の日本。決済サービス乱立は、勝者なき消耗戦を
長引かせることになる。
       ──2021年7月28日付の日本経済新聞朝刊
─────────────────────────────
 ところで「プリン」という企業──社員わずか12人、年間売
上高が1億円程度のスタートアップですが、ご存じでしょうか。
 実は、この小さな企業の買収をめぐり、グーグルとペイパル・
ホールディングスが争ったのです。ペイパルといえば、米国の個
人間送金で9割超の利用率を誇るガリバーですが、プリンは「送
金機能と掛け合わせたサービスの広がり」を考慮して、グーグル
を選んだといわれています。
 そもそも「プリン」という決済アプリは、どういう機能を持っ
ているのでしょうか。
 「プリン」の特色は、現金のやり取りが全てスマホひとつで完
結する点です。アプリは、アップストアやグーグルプレイから、
スマホにダウンロードできます。注目するべき点は、現金のやり
取りが全てスマホ一つで完結する点です。アプリは、銀行口座と
紐づけておく必要があります。
 送受金はもちろん、銀行口座へ現金を戻せることに加えて、セ
ブン銀行ATMへの出金までが無料(1日1回のみ)ででき、送
金は1円単位でできます。
 このアプリでやれることは次の3つで、いたってシンプルその
ものです。
─────────────────────────────
          1. お金を送る
          2.お金をもらう
          3. お金を払う
─────────────────────────────
 「お金を送る」場合を考えます。この場合、お金を送る相手も
プリンのアプリをダウンロードしておくと便利です。「お金を送
る」をタップし、送る相手を選びます。そうすると、チャット画
面に移動しますが、そのまま金額を入力し、「お金を送る」ボタ
ンをタップすれば、それで送金完了です。
 送金されたお金を受け取ることは簡単です。「お金をもらう」
ボタンをタップし、受け取りの申請一覧の金額の部分をタップす
れば、受け取り完了です。
 面白いのは、送金する相手が「プリン」をダウンロードしてい
なくても、次の3つの方法で送ることができます。詳細は省略し
ますが、アプリをダウンロードしておく方が便利です。
─────────────────────────────
           @  SNS
           A LINE
           BQRコード
─────────────────────────────
 「お金を払う」ことは簡単です。スマホ決済アプリと同じよう
に、QRコードで支払います。「お店ではらう」をタップすると
QRコード読み取り画面が表示されるので、お店のスタッフから
提示されたQRコードを読み取って支払います。
 注目すべきは、グーグルがどうして「プリン」に目をつけたか
です。これについて、日本経済新聞は、「プリン」と組むメリッ
トについて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 プリンは、17年5月、決済代行事業などを手掛けるメタップ
スとベンチャーキャピタルのWiL(ウイル)に加え、みずほ銀
行も参画した。グーグルが「幅広い事業者向けに展開するプリン
の独自路線を評価した」(関係者)ように、当初から独立系とし
て展開した。日本瓦斯(ニチガス)、伊藤忠商事などが株主に加
わった。連携する銀行口座はメガバンク3行を含む50行以上。
最大手のペイペイも三菱UFJ銀行の口座には対応していない。
 プリンは法人サービスも展開しており、こちらが収益の大半を
占める。ニチガスなど約400社が社員の経費精算や個人事業主
への支払いなどに導入している。銀行振込などで報酬や経費を支
払っていた企業は送信手数料を削減できるほか、「月2回」「週
1回」といった柔軟な支払い方法を取りやすくするのが利点だ。
 グーグルは検索エンジン、電子メール、地図サービスなどを無
料で提供してきた。プリンとは「お金のやり取りにかかるコスト
をゼロに近づけ、多くの人の暮らしを便利にしたいという思いが
合致した」(関係者)
       ──2021年7月28日付の日本経済新聞朝刊
─────────────────────────────
 2018年のことですが、みずほ銀行は、一度プリン買収に動
いています。しかし、このときは、金額面で折り合えず、断念し
ています。その後、みずほ銀行は、「Jコインペイ」を立ち上げ
ていますが、メガバンクや有力地銀は参加を見送っています。
 日本の伝統的金融機関は、自己の収益基盤を守ろうとするため
どうしても自前主義にこだわり、フィンテック企業との協業がう
まくいっていないのです。
 グーグルは、2018年頃から提携先として50社ほど候補を
上げて、綿密に調査したすえに、プリンとの提携に踏み切ってい
ます。グーグルがはじめるスマホ決済の全容は明らかになってい
ませんが、事業の本格展開は2022年春といわれています。
             ──[デジタル社会論U/066]

≪画像および関連情報≫
 ●グーグルが「プリン(pring)を買収した理由とは?
  ───────────────────────────
   7月13日、グーグルはモバイル金融サービスを提供する
  「pring (プリン)」の全株式を取得するための契約に合意
  したことを発表した。同社には親会社のメタップスをはじめ
  ミロク情報サービス、日本瓦斯(ニチガス)、伊藤忠商事、
  ファミマデジタルワン、SBIインベストメント、みずほ銀
  行、SMBCベンチャーキャピタルなどメガバンクを含む複
  数の資本が入っており、株式譲渡が完了するとみられる8月
  中には実質的にグーグル傘下の企業となる。
   プリンでは買収後も既存のサービスに変更はないと説明し
  ているが、同件の最初に報じた日本経済新聞では「グーグル
  日本で金融本格参入へ/国内スマホ決済買収」のタイトルで
  グーグルがプリンをベースに日本国内における送金・決済サ
  ービスの分野に本格参入することを伝えており、いわゆる、
  「GAFA」などの名称で呼ばれる米IT大手の金融分野で
  の日本進出が本格化しつつあることを予感させる流れになっ
  ている。
   プリンの会社設立は2017年、サービス開始はiOS版
  アプリの登場した2018年3月と、「○○ペイ」などが多
  数リリースされた時期に登場した金融スタートアップの1社
  となる。プリンに関してよく誤解されている1点を挙げれば
  同社が志向しているのは「○○ペイ」が提供しているような
  「QRコード(バーコード)決済サービス」ではなく、「送
  金」を中心とした「シンプルなお金の移動サービス」だ。
                  https://tcrn.ch/3zGGWfk
  ───────────────────────────
プリンで送金する.jpg
プリンで送金する
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2021年07月29日

●「DBS銀行ビジネスモデルを知る」(第5540号)

 今回のテーマ「デジタル社会論/2」も70回に近づいてきま
した。今回は67回です。現在の予定ではこのテーマは、8月6
日まで続けて、8月10日からは「デジタル社会論/3」として
日本のデジタル化を取り上げます。デジタル庁の創設が9月だか
らです。EJには、夏休みもお盆休みもありません。
 日本のメディアは、あまり取り上げませんが、中国では「デジ
タル人民元」が当たり前のように使われています。これは、中央
銀行が発行するCBDCです。世界がコロナで騒いでいる間に中
国では、デジタル人民元の民間の実証実験を着実に積み上げてき
ています。西側世界は遅れています。
 DBS銀行のビジネスモデルの話に戻ります。添付ファイルに
詳しい図が付けてあります。これは、田中道昭氏の本に出ている
ものと一緒です。それは、DBS銀行の一連の業務プロセスをあ
らわしています。
─────────────────────────────
「顧客を獲得する」→         獲得コストを下げる
「顧客と取引する」→         取引コストを下げる
「顧客との関係を強化する」→ 顧客当たりの売上高を上げる
─────────────────────────────
 このDBS銀行の業務プロセスは、DBS銀行が保有する顧客
データと、それを基にしたDBS銀行内外のプロダクトサービス
の「エコシステム」によって成り立っています。
 さて、この「エコシステム」とは何でしょうか。説明が必要で
あると思います。
─────────────────────────────
 エコシステムとは、複数の企業が商品開発や事業活動などで、
パートナーシップを組み、互いの技術や資本を生かしながら、開
発業者・代理店・販売店・宣伝媒体、さらには消費者や社会を巻
き込み、業界の枠や国境を超えて広く共存共栄していく仕組み。
本来は、生物とその環境の構成要素を1つのシステムとしてとら
える「生態系」を意味する科学用語。 https://bit.ly/2UT5XoQ
─────────────────────────────
 IT業界では、マイクロソフトのOS「ウインドウズ」を中心
にして、デベロッパー(開発者)、ベンダー、サードパーティー
ユーザーが有機的に結びついて、ともに成長する収益モデルが提
唱されてきています。これもひとつの「エコシステム」ですが、
これはウインドウズを頂点とする垂直的な関係によるエコシステ
ムといえます。
 しかし、最近では、高速通信網の拡充、無料OSであるリナッ
クスやグーグルの各種無料サービスの普及に伴い、ベンチャーや
一般ユーザーも含めた水平的な協力関係を重視する方向へとシフ
トしつつあります。
 「エコシステム」というと、「楽天エコシステム」ということ
がよくいわれます。楽天という企業は、ECサイトのイメージが
強いですが、その実態を見ると、楽天銀行、楽天証券、楽天生命
楽天損保と金融のフルラインナップのサービスを提供しており、
金融グループそのものです。
 楽天は、GAFAと同様にプラットフォーマーであり、4大金
融ディスラプター──楽天、LINE、ヤフー・ソフトバング、
SBIの一角を占めています。このうち、LINEとヤフーは経
営統合し、強大な勢力を形成していることは既に述べています。
 「楽天エコシステム」について、「楽天コーポレートレポート
/2017年」は、次のように記述しています。
─────────────────────────────
 楽天は、国内外においてインターネットサービス、フィンテッ
クサービスの分野で多岐にわたるサービスを提供しています。こ
れらの軸であり、当社の重要な非財務資産であるのが、楽天会員
を中心としたメンバーシップ、ブランド、データです。会員が共
通IDを用い、多様なサービスを回遊的に利用することで、「楽
天エコシステム(経済圏)」を形成しています。これにより会員
のライフタイムバリュー(生涯価値)の最大化や顧客獲得コスト
の低下を可能にし、流通総額を増大させ、企業価値を高めていま
す。                    ──田中道昭著
         『アマゾン銀行が誕生する日/2025年の
              次世代金融シナリオ』/日経BP
─────────────────────────────
 添付ファイルをご覧ください。ここにDBS銀行におけるエコ
システムが図解されています。DBS銀行の一連の業務プロセス
に話を戻します。この業務プロセスは、DBS銀行が保有する顧
客データと、それを基にして展開されるDBS銀行内外のプロダ
クトサービスのエコシステムによって成り立っています。この顧
客データとエコシステムが拡大すればするほど、顧客を獲得する
コストを下げ、さらに顧客と取引するコストを下げ、そして、顧
客当たりの売り上げを向上させることができます。
 田中道昭氏は、このDBS銀行のエコシステムについて、次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 DBS銀行のエコシステムは、顧客データを蓄積・管理・処理
するクラウド上の銀行システム、銀行内部向けAPIと銀行外部
向けAPI(オープンAPI)を通したプロダクトサービスから
なるものです。    ──田中道昭著/日経BPの前掲書より
─────────────────────────────
 つまり、エコシステムは、ここでいうオープンAPIによって
構築されることになります。企業がAPIを公開することによっ
て、他社のサービスとつながり、それが積み重なることによって
拡大する経済圏のことを「APIエコノミー」と呼んでいます。
APIはエコノミーを形成する潜在力をもっているからです。A
PIをもっと理解する必要があります。明日のEJでAPIにつ
いて、もう一度詳しく説明することにします。
             ──[デジタル社会論U/067]

≪画像および関連情報≫
 ●最強と言われる「楽天経済圏」とは何か?
  ───────────────────────────
   楽天と聞くと、まず何が浮かぶでしょうか。楽天市場、楽
  天ゴールデンイーグルス、楽天銀行、楽天モバイル・・・。
  ここで挙げただけでもショッピングモールから球団経営、銀
  行などと幅広いですが、楽天グループはもっともっとありま
  す。楽天トラベル、楽天ブックス、楽天ペイ、ラクマ、楽天
  でんきといったところを利用している人もいるでしょう。あ
  らゆる分野で知名度がありますが、これらの楽天グループで
  は「楽天ポイント」を媒介してユーザーを囲い込んでおり、
  ここで生じる「楽天経済圏」は、かなり強いようです。
   楽天マーケティング・プラットフォーム・ナビによると、
  楽天エコシステム(経済圏)は、Eコマース、フィンテック
  デジタルコンテンツ、通信など、70を超えるサービスを展
  開しているとのこと。世界での楽天会員数は1億以上、楽天
  市場出店店舗数47940店舗、連結売上高は1・1兆円と
  なっています。         https://bit.ly/371lO7s
  ───────────────────────────
 ●図の出展 https://bit.ly/2Wy2NaR
DBS銀行のビジネスモデル.jpg
DBS銀行のビジネスモデル
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2021年07月30日

●「APIとは何か/その正体を探る」(第5541号)

 昨日のEJで予告したように、今日のEJでは、APIについ
て、少し別な角度から考えます。
 百貨店などのサイトで、顧客から住所を入力してもらうとき、
まず郵便番号を入力してもらい、その郵便番号に基づいて、住所
のほとんどが入力できるようになっています。これは、どのよう
な仕組みになっているのでしょうか。
 郵便番号のデータはダウンロードできるので、自前のデータベ
ースを持つことは可能ですが、データを自前で抱え込むと、メン
テナンスもやらなければならないので、大ごとになります。意外
に思うかもしれませんが、郵便番号の更新の頻度はかなり高いの
です。毎月のように、日本のどこかで、住所の変更が行われてい
るらしいのです。
 しかし、これは郵便番号データをダウンロードせずに、API
を使うことによって簡単に処理ができます。次のURLをコピー
し、グーグルの検索窓に貼り付け、「zipcode=」の後にご自宅の
郵便番号7桁を入力し、検索してみてください。
─────────────────────────────
   https://zipcloud.ibsnet.co.jp/api/search?zipcode=
─────────────────────────────
 ひとつ例を上げて説明します。といっても住所は重要な個人情
報であるので、公共機関の郵便番号を使うことにします。埼玉県
朝霞警察署の郵便番号と住所です。
─────────────────────────────
        〒351−0015
        朝霞市栄町5丁目9番5号
            埼玉県朝霞警察署
─────────────────────────────
 上記のURLをコピーし、グーグルの検察窓に入力し、=の後
に「3510015」(ハイフンは除く)の7桁の郵便番号を入
力し、検索すると、次の表示が出ます。
─────────────────────────────
"message": null,
"results": [
{
"address1": "埼玉県",
"address2": "朝霞市",
"address3": "幸町",
"kana1": "サイタマケン",
"kana2": "アサカシ",
"kana3": "サイワイチョウ",
"prefcode": "11",
"zipcode": "3510015"
}
],
"status": 200
}
─────────────────────────────
 このやり取りにはAPIが使われています。上記のURLに、
「api」 という文字が入っていることを確認してください。AP
Iを使うと、ある企業や団体が保有しているシステムのデータを
郵便番号の例でわかるように、簡単に受け取ることができます。
 APIの「I」はインターフェースという意味ですが、インタ
ーフェイスは、何かと何かをつなぐものという意味があります。
この「何か」は、ソフトウェア(アプリ)とプログラムをつなぐ
ものです。
 APIの基本的なプロセスは、「リクエスト(要求)」と「レ
スポンス(応答)」で構成されます。リクエストが利用者で、レ
スポンスするのがAPIの提供者ということになります。リクエ
ストとレスポンスに関するルールに関しては、APIの提供者が
決めることになります。提供者が設計段階で考えて、実装し、利
用可能な状態にするものです。
 APIは、もっと身近なところにあります。レストランなどの
飲食店のサイトを見ると、所在地のところに必ずといってよいほ
どグーグルマップが付いているのを見たことがあると思います。
それは、そのサイトが利用者として、グーグルが提供する「グー
グルマップAPI」を利用しているからできるのです。グーグル
は、ウェブサイトで、グーグルマップやストリートビューを表示
できるAPIを公開しています。
 ネットショップで買い物をするとき、はじめての場合は、アカ
ウントを作成するなど、面倒を強いられます。しかし、多くの場
合、「アマゾンペイで支払う」のボタンが付いていることがあり
ます。一度でもアマゾンで買い物をしたことのある人は、アマゾ
ンに登録している配送先や支払い方法をそのまま使用できるため
それを選択すれば、アカウントの作成など面倒なことをしないで
済みます。それは、ユーザーの利便性を考慮してアマゾンが、そ
のショップに「アマゾンペイAPI」を提供しているからできる
ことです。
 あなたがフェイスブックのユーザーの場合、あるウェブサイト
を見ようとすると、登録が必要になる場合があります。このよう
な場合、「フェイスブックログインAPI」を使えば、そのサイ
トでのユーザー登録の代わりに、保有しているフェイスブックの
アカウントでログインできます。
 これに対して、金融機関がフィンテックとして実施しつつある
「オープンAPI」は、APIには違いないが、分けて考える必
要があります。そもそもオープンAPIとは、APIを公開して
システムの接続仕様を明らかにすることによって、提携企業先か
らのアクセスを認めることで、新たなサービスを生み出すための
概念であり、とくに金融分野で広がりを見せています。オープン
APIとDBS銀行のビジネスモデルについては、来週のEJで
解説します。       ──[デジタル社会論U/068]

≪画像および関連情報≫
 ●いまさら聞けないAPIエコノミー
  ───────────────────────────
   APIエコノミーとはなにか。それを理解してもらうには
  実例を挙げたほうが早いだろう。おそらく、現在最も利用者
  の多いAPIエコノミーの1つは、グーグル・マップスだろ
  う。例えば、企業のコーポレートサイトを開いて、「企業情
  報」の「アクセス」ページを開く。すると、会社の所在地周
  辺の地図がグーグルマップスを使って表示される。何も驚く
  ことはない。多くの会社がしていることだ。
   このように、グーグルマップスの地図情報は、自分のウェ
  ブページに自由に組み込むことができる。これができるのは
  グーグルマップスがAPIを公開しているからだ。
   APIとは、プログラムから他のプログラムの機能を呼び
  出すための仕組みである。あまり意識することはないが、ウ
  ェブページもHTML、CSS、ジャバスクリプトといった
  言語で書かれたプログラムであり、グーグルマップスをペー
  ジに埋め込む際には、ジャバスクリプト用のAPIを利用す
  る。このほか、グーグルマップスのAPIは、アンドロイド
  やiOSといったスマホアプリ向けのものや、ウェブサービ
  ス向けのものなど、様々な種類が提供されている。
   今ではマップ機能を備えたスマホアプリは珍しくないが、
  アプリ開発者が自前でその機能を実装するのは非現実的であ
  る。そのため、グーグルマップスやそれに類するサービスを
  利用して組み込むのが一般的である。
                  https://bit.ly/3yeOLIV
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API
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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