2018年度の決算説明会の席上、孫正義ソフトバンクグループ
会長兼社長は、「ヤフー株式会社の連結子会社化」を突如発表し
ています。そのとき、ヤフーの代表取締役社長を務める川邊健太
郎氏も一緒に登壇しています。子会社化の目的としては、次の3
つが示されています。
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1. 新領域(非通信)の強化
2. 戦略・サービス・リソースの統合
3.ヤフーへの成長を加速。シナジーを最大化
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今にして思えば、同じ年の11月18日付のヤフー株式会社と
LINEの経営統合の基本合意の布石が着々と打たれていたので
す。ヤフーは、4月25日、10月1日付で持ち株会社体制に移
行し、社名を「Zホールディングス(ZHD)」に変更すると発
表しています。つまり、持ち株会社ZHDの下に100%子会社
として、ヤフー事業を担うヤフー株式会社を設置したのです。こ
れは、その同じZHDの下にLINEを置くための布石と考えら
れます。
もうひとつ注目すべきことがあります。それは、2018年6
月15日にソフトバンクとヤフーの合弁会社であった「PayPay/
ペイペイ」に対して、ソフトバンクグループが50%、ソフトバ
ンクとヤフーがそれぞれ25%ずつ出資すると発表していること
です。これは、孫社長自身が決済サービスのペイペイをソフトバ
ンクグループのなかでいかに重視しているかのあらわれです。
いわゆる○○ペイにおいて、一番名前を知っているのは何かと
問われたとしたら、おそらく「ペイペイ」と答える人が多いと思
います。名前も面白いし、「100億円キャンペーン」で話題に
なっているからです。自分にもチャンスがあると考えて、アプリ
をダウンロードした人もきっと多いと思います。
ソフトバンクグループが、なぜ、「100億円キャンペーン」
のような思い切ったキャンペーンを打ったかというと、「ペイペ
イ」が、○○ペイの後発組であるからです。そのため、キャンペ
ーンで名前を覚えてもらい、先行するLINEと経営統合するこ
とで、一挙にトップに踊り出る戦略だったのです。ICTの世界
は勝者総取りであり、トップにならないとダメなのです。
ヤフーという会社は、次の5つのユーザーアクションに対して
ゆうに100を超えるサービスを提供するところに特徴がありま
す。これについては、添付ファイルをご覧ください。データを中
心に5つの円がサイクルを形成しています。
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@ 「出会う」:メディア、広告
A 「調べる」:検索、コンバージョンメディア、コマース
B 「買う」:カート
C 「支払う」:ウォレット
D「利用する」:サービス、コンテンツ
──田中道昭著
『アマゾン銀行が誕生する日/2025年の
次世代金融シナリオ』/日経BP
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上記で注目すべきは、ヤフーショッピングなどで使える「ヤフ
ーウォレット」です。これはネットにおける決済手段です。これ
に加えて、「ヤフーカード」によって実店舗における決済サービ
スも押さえていますが、これだけでは、決済によるデータ収集力
が弱いのです。そこで、その強力な手段として「ペイペイ」が出
現したのです。これについて、ペイペイの伊東史博マーケティン
グ部長は、次のように述べています。
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ヤフーは、インターネット上でビジネスを展開する事業者にヤ
フーウォレットという決済ソリューションを展開してきた。これ
により、ネットを通じた商取引を拡大し、ネット上において、だ
れがどんな商品を探し、何を購入したかといったデータを補足で
きるシーンを拡大し、ネット広告などのデータビジネスを展開す
る基盤を築いてきた。だが、商取引の市場規模を考えると、オン
ラインよりオフラインの市場のほうがはるかに大きい。
ヤフーがオンラインでも使える決済サービスに取り組んできた
のは、まさにオフラインの領域でもデータを収集するチャネルを
築き、データの利活用を他の事業の成長に結びつけられるように
するためだ。QRコード決済という新しい決済サービスの可能性
が高まっているという環境変化を踏まえればソフトバンクグルー
プの経営資源を生かしてQRコード決済市場の主たるプレーヤー
となり、オフライン領域でできるだけ幅広くデータを補足できる
よぅにする必要があると考えたからだ。
──田中道昭著/日経BPの前掲書より
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以上のことで理解できることは、最近の決済をめぐる激しい競
合では、ネット上での決済のデータ収集に加えて、オフラインで
のデータ収集の競合に移っていることです。ネット上では、クレ
ジットカードがあれば簡単に決済でき、そこからデータを取るこ
とができますが、オフラインの実店舗で現金を使われると、オフ
ラインでの買い物のデータは取れないことになります。そこで、
○○ペイが登場したのです。そのシェアは、LINEペイがトッ
プで先行しているのです。
そこで、ソフトバンググループは、ペイペイによって、借りる
(ローン)、増やす(投資)、備える(保険)といった金融サー
ビス全般をシームレスにつなげるべく、LINEと経営統合する
ことによって、シェアのトップを取ろうとしているのです。その
ため、ソフトバンクグループは、数年内に1万7000人の従業
員のうち、9000人をペイペイなどの新規事業に投入しようと
しています。 ──[デジタル社会論U/050]
≪画像および関連情報≫
●ソフトバンク、ペイペイを22年度以降に子会社化へ
ー─優先株を転換
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国内通信大手のソフトバンクの宮川潤一社長兼最高経営責
任者(CEО)は2021年5月11日の決算会見で、傘下
の電子決済サービス企業ペイペイを2022年度以降に連結
子会社化する方針を明らかにした。
ソフトバンクでは現在、ペイペイを持分法適用会社として
おり、25%出資している。その他の出資比率は親会社のソ
フトバンクグループが50%、子会社のZホールディングが
25%。宮川社長によると、保有する優先株を転換する形で
ペイペイを子会社化する。
また、宮川社長は会見で会社の見える化を進めるとし、セ
グメント別の営業利益計画とペイペイなど注力企業の重要業
績評価指標(KPI)の公表を開始すると説明。前期(21
年3月期)のペイペイの決済取扱高(GMV)が、3兆20
00億円と前の期に比べて、2・6倍だったことも明らかに
した。ソフトバンクでは、国内モバイル事業で料金の値下げ
競争が激しさを増す中、金融ビジネスなど新領域のほか、海
外や法人向け業務を拡大していく方針だ。ペイペイの子会社
化でより多くの収益を取り込んでいくと同時に、将来の株式
上場にも備えることができる。
宮川社長はペイペイの成長戦略について、同事業がインド
から技術を持ち寄り進化したように、「違う国で活躍してく
れないかという思いある」と述べ、海外で独自展開するのか
パートナーとやるのかを考えていきたいと語った。
https://bit.ly/3w6KqG3
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ヤフーの決済金融事業の位置づけ