2021年06月25日

●「テンセントの金融事業を俯瞰する」(第5518号)

 テンセントは、アリババの投資信託商品「ユエバオ」に対して
投資信託商品「零銭通」を用意し、ウィーチャットのウォレット
に滞留する資金を効率的に投資できるようになっています。滞留
資金に利子をつけるというのが本来の趣旨です。
 アリババのオンライン銀行に該当するものとして、テンセント
には「ウィーバンク」があります。ウィーバンクがターゲットと
する顧客層は、普通であれば銀行から融資を受けるのが困難であ
る個人や中小企業・零細企業です。これは、アントフィナンシャ
ルの「マイバンク」が対象とする顧客層と同じです。ウィーバン
クの商品としては、次の2つがあります。
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  @  個人向け商品 ・・・ 消費者ローン「微粒貸」
              500〜30万人民元の範囲
                自動車ローン「微車貸」
  A中小企業向け商品 ・・・ 最大300万人民元限度
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 個人向け商品としての消費者ローンについては、500〜30
万人民元(約8500円〜約510万円)の範囲、中小企業向け
商品については、最大300万人民元(約5100万円)の範囲
で融資が行われます。テンセントのアプリやウィーバンクのアプ
リから手軽に融資を申し込むことができます。審査にかかる時間
は5秒、融資までは1分とされています。
 田中道昭氏によると、テンセントは、2018年にべルリンに
本拠を置くモバイル銀行「N26」へも戦略的に出資しました。
N26は欧州ではすでに230万人以上の顧客を持ち、2019
年中には、米国市場への参入を計画しているとされています。
 金融の話をしているので、保険についても触れておきます。ア
ントフィナンシャルには、「相互保(シャン・フー・バオ)」と
名付けられた重大疾病保険があります。
 保険に加入すると、常識的には保険料を支払う必要があります
が、この保険は、加入時には保険料を支払う必要がないのです。
保険事故が起きた時点で、該当者には保険金が支払われますが、
この保険金をそのときの加入者全員で保険料として均等に負担す
る仕組みになっています。
 仮に500万人が相互保に加入し、100人が重大疾病(がん
や心筋梗塞などの生活習慣病を始め100ほどある疾患)を患い
全員に30万元が支払われた場合、3000万元に管理費10%
を加えた3300万元を加入者全員で割賦して負担することにな
るので、一人あたりの負担額は6・6元(約112円)になりま
す。この保険は、最近日本でも話題になっています。
 アリババのジーマクレジットに対して、テンセントはテンセン
トクレジットを有しています。しかし、テンセントクレジットは
2018年1月の試験的なローンチで、現在は停止しているそう
です。当局の規制が強化されたのではないか、という情報があり
ます。現在、どうなっているのか、ネットで探してみたところ、
次の報道が出ていたので、示しておきます。
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 【2018年2月9日:東方新報】個人信用力を測る「テンセ
ント信用」公式アカウント内のサービスが、公開テストを実施し
を開始した直後に、停止したままになっている。テンセント信用
のライセンスに問題があったかもしれないという情報もある。
(一部略)テンセント信用は1月30日、公開テストを全国的に
開始。翌31日には各種コンテンツがすべて表示されなくなって
おり、公式アカウント内にある自身の信用スコアや関連サービス
が閲覧できないなどと、ユーザーからの指摘が相次いだ。公式ア
カウントでは、「全国向けの限定テスト期間は終了しました。現
在アップグレード中です。どうぞご期待下さい」とするメッセー
ジだけが表示されている。      https://bit.ly/3gMz2dH
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 テンセントの金融事業について検討してきていますが、ほとん
どはアリババのそれをトレースしていることがわかります。しか
し、ひとつだけアリババのやっていないことで、アリペイを急追
したといわれるものがあります。それが「紅包(レッド・ポケッ
ト)」といわれるものです。「紅包」とは何でしょうか。
 中国には、家族や友人、上司や部下などの間で、春節の時期な
どに、お祝いのためのお年玉やご祝儀のやりとりが行われる慣習
があります。日本人が一番ピンとくるのが、お正月に子供に配ら
れるの「お年玉」だろうと思います。ウィーチャットペイでは、
その機能の一つとして、電子的に紅包を送ることができます。
 仲間とチャットをしていて、何かおめでたいことがあったとき
そのタイミングで「紅包」として一定のお金を送金できます。人
に金銭を送るのは場合によっては失礼に当たりますが、中国では
紅包としてならば慣習として受け入れられています。
 紅包は、特定の人か、特定グループの全員にお金を送金するこ
とができます。とくにグループの場合、仮に5人のグループに1
千人民元(1万7000円)を送る場合、5人均等に3400円
ずつ送ることはもちろん、受け取る金額をバラバラにして送るこ
ともできます。この場合、総額は1万7000円なのですが、運
のいい人はたくさんもらえるし、運の悪い人は少ししかもらえな
いことになります。
 紅包は、マーケティングにも利用されています。ウェブサイト
で、ある特定商品をクリックした場合だけ、スマホを上下に振る
と、金一封として紅包が届いたりします。これには、多くの人は
何かあるとスマホを振るようになったともいわれます。いずれに
せよ、テンセントの紅包は、先行しているアリペイを猛追するの
に大きく貢献したといわれます。
 テンセントは、その中心がウィーチャットのSNSであるとい
う点において、LINEに近いといわれます。来週はLINEに
ついて、少し掘り下げることにします。
             ──[デジタル社会論U/046]

≪画像および関連情報≫
 ●テンセント・リスクだけじゃない 楽天巡り強まる監視
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   楽天グループを巡る「監視」が強まっている。共同通信は
  2021年4月20日、楽天が中国のネットサービス大手、
  騰訊控股(テンセント)子会社から出資を受けた点について
  日米両政府が共同で監視していく方針を固めたと報じた。こ
  の一報を受け、21日の東京株式市場では楽天株が一時前日
  比約6%下落した。
   通信事業を営み、莫大な個人情報を持つ楽天に対してテン
  セント子会社が出資する問題点について、日経ビジネスはこ
  れまでに細川昌彦・明星大学経営学部教授のコラムの記事、
  「政府も身構える『テンセント・リスク』楽天への出資案が
  飛び火」や本連載の記事「テンセント出資で『三木谷氏に個
  人情報守る責任』 自民・甘利氏」などでたびたび指摘して
  きた。
   日本政府はこうした問題提起に対して、きちんと対応する
  姿勢を見せるべく、共同監視の方針を打ち出したのだろう。
  ただ、監視といっても日本側が「聞き取り」をして、それを
  米国と共有するスキームだという。
   米国では対米外国投資委員会(CFIUS)に、米国企業
  の買収や株式取得が安全保障に与える影響を調査する権限が
  与えられている。だが、日本政府がそれをチェックする手段
  を持っていない点はこれまでにも書いてきた通りだ。企業が
  必ず真実を語る性善説のうえに成り立つもので、プレッシャ
  ーにはなるものの、本質的な監視になるのか疑問符がつく。
                  https://bit.ly/2SZoOOf
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「微信紅包」.jpg
「微信紅包」
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(2) | デジタル社会論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする