2021年06月18日

●「フィンテックへの中国の積極進出」(第5513号)

 3回にわたって、アリババがどのような企業であるかについて
説明してきましたが、今日は金曜日なので、テンセントの説明に
入る前に中国のITの特殊性について述べることにします。
 アリババという中国の企業がどれほど巨大な企業であるかを示
すデータがあります。2019年7月の時価総額で、アリババと
日本最大の企業であるトヨタ自動車を比較したデータです。時価
とはその日の市場での株価のことをいい、総額とはその時価に発
行済みの株式数を掛けた数字を意味します。
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            2019年7月  世界順位
      アリババ  4384億ドル    7位
    トヨタ自動車  1759億ドル   46位
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 アリババはトヨタ自動車の実に2・5倍です。これでアリババ
がいかに巨大な企業かわかるはずです。中国のITを牽引してい
るのは次の3社であり、「BAT」と呼ばれています。
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      @ バイドウ ・・ B/検索とAI
      A アリババ ・・ A/Eコマース
      Bテンセント ・・ T/  SNS
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 これらBATのうち、「A」のアリババと、「T」のテンセン
トは、いわゆるフィンテック(ITの金融への応用)分野で、驚
異的な進歩を成し遂げています。電子マネーの2大サービスは、
アントフィナンシャルの「アリペイ」と、テンセントが提供する
「ウィーチャットペイ」です。
 ほとんどゼロコストで送金できるし、誰でも、どんな店舗でも
特別な装置や審査なしで利用できるので、利用者は急速に拡大し
アリペイとウィーチャットペイの利用者は、それぞれ約10億人
に達しています。電子マネーの取引額は約150兆円です。これ
に対して日本のそれは約5兆円であり、日本は中国に実に30倍
以上の差をつけられているのです。
 このように、中国のハイテク企業が急成長したのは、中国政府
が米国のIT企業を中国から締め出したことと関係があるといわ
れます。中国政府は、国民に対して情報を制限しているので、G
AFAが中国に進出すると何かと都合がわるいのです。
 例えば、グーグルは、2006年に中国市場に参入し、中国市
場でバイドウに次ぐ2位となったのですが、2010年1月に中
国側のあまりに厳しい検閲に反対し、同年3月に中国本土での検
索サービスから撤退しています。それでいて、アリババはアマゾ
ンの、テンセントはフェイスブックの、バイドウはグーグルを模
倣していることは歴然としています。
 この中国の科学技術の発展について、一橋大学名誉教授の野口
悠紀雄氏は、次のように述べています。
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 模倣とばかりは言えない。最近では人材が成長し、巨額の開発
資金が投入されている。その結果、基礎的科学技術力が高まって
いる。論文数やコンピュータサイエンス大学院で世界一になって
いることが、それを示している。中国の成長は「本物」であり、
それがゆえに、アメリカは重大な関心を持たざるをえないのであ
る。中国経済発展の背景には、中国が基礎的な開発力を向上させ
ていること、とくに科学技術が世界で最先端のものになりつつあ
ることがある。(中略)
 その結果はさまざまなところに現れている。全米科学財団が、
世界の科学技術の動向をまとめた報告書によると、2016年の
論文数世界ランキングで、第1位は中国だ。以下、アメリカ、イ
ンド、ドイツ、イギリス、日本の順になっている。
             ──野口悠紀雄著/東洋経済新報社
  『中国が世界を攪乱する/AI・コロナ・デジタル人民元』
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 野口悠紀雄氏が中国の科学技術は本物であるということを証明
するデータがあります。「フィンテック100」というリストで
す。これは、国際会計事務所大手のKPMGと、ベンチャーキャ
ピタルのH2ベンチャーズが作成するフィンテック関連企業リス
トです。以下は、2019年11月27日に発表されたものです
が、そのときの1位は、中国のアントフィナンシャルであり、中
国企業はベスト10に3社入っています。米国は2社です。
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   1位:アントフィナンシャル        中国
   2位:グラブ           シンガポール
   3位:JDディジッツ           中国
   4位:ゴジェック         インドネシア
   5位:ペイテイーム           インド
   6位:ドウ・シャオマン・フィナンシャル  中国
   7位:コンバス              米国
   8位:オラ               インド
   9位:オープンドア            米国
  10位:オークノース銀行          英国
                  https://bit.ly/3gnqF8r
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 2018年のフィンテック・ベンチャー企業への投資額は、全
世界で553億ドル、前年比2倍以上になっています。そのうち
中国における投資額は、前年比で約9倍の255億ドル。つまり
世界のフィンテック投資総額のうち、46%を中国が占めたこと
になるのです。これは驚くべきことです。
 しかし、中国の最大のネックは、中国共産党が一党独裁する専
制主義体制であることです。しかも戦狼外交によって、世界の顰
蹙を買い、世界中を敵に回そうとしています。これは、中国の大
きな足枷になることは必至です。
             ──[デジタル社会論U/041]

≪画像および関連情報≫
 ●中国フィンテック2強が描く5つの成長戦略
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   アント・フィナンシャルの企業価値は1500億ドルに上
  る。一方、テンセントのフィンテック事業も価値が1000
  億ドルを超えているとみられる。英金融大手バークレイズは
  2019年5月、テンセントのフィンテック事業の価値を推
  定1230億ドルとしたリポートを発表した。これはテンセ
  ントの時価総額の3分の1近くに及ぶ。
   日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資する
  ベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBイ
  ンサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発
  行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポート
  を日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。
   テンセントはフィンテックと法人サービス事業(クラウド
  やB2Bサービス)の業績をひとくくりにしているが、フィ
  ンテックは今やソーシャルメディア・ゲーム大手の同社の成
  長をけん引している。19年4〜6月期のテンセントのフィ
  ンテック・法人サービス部門の売上高は前年同期比37増だ
  った。一方、オンライン広告部門の売上高の伸びは16%で
  前の四半期の25%から鈍化した。アントとテンセントはと
  もにデジタル決済を利用する大勢の顧客を融資や資産運用、
  保険、信用スコアなどの金融サービスに誘導する成長戦略を
  とっている。       https://s.nikkei.com/3iIWlXA
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野口悠紀雄名誉教授.jpg
野口悠紀雄名誉教授
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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