2021年05月21日

●「CCCがマイナスになるアマゾン」(第5493号)

 アマゾンの上場は1997年ですが、上場以来、株主に配当を
一度も支払っていないのです。なぜ、配当を払わないのかという
と、配当に回すほど利益を出していないからです。しかし、株価
はなぜか高いのです。
 ここに2010年〜2017年までのアマゾンの経営データが
あります。このデータを分析すると、アマゾンという企業の特徴
を知ることができます。
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 ◎アマゾンのキャッシュフロー     単位:100万ドル
          純利益   営業CF  フリーCF
  2010年  1152   3495   2516
  2011年   631   3903   2092
  2012年   −39   4180    395
  2013年   274   5475   2031
  2014年  −241   6842   1949
  2015年   596  12039   7450
  2016年  2371  17272  10535
  2017年  3033  18434   8376
               ──成毛眞著/ダイヤモンド社
           『amazon/世界の戦略がわかる』
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 純利益とは、企業がすべての経費・税金などの支払いを済ませ
たあとに残る利益のことです。この純利益から株主に配当が支払
われます。アマゾンの場合、2017年度は約30億ドルですが
これはトヨタ自動車の8分の1程度でしかないのです。しかも、
2014年度にいたっては、2億4000万ドルの赤字です。と
ても配当どころではないのですが、株価は上昇しています。
 営業キャッシュフローというのは、単純にいえば、売上高から
仕入れを引いた値のことです。この数値を見ると、本業が生み出
す現金がどのくらいあるかわかります。この数値を見ると、アマ
ゾンは右肩上がりに成長しており、本業がきちんと現金を生み出
していることがわかります。
 フリーキャッシュフローとは、営業キャッシュフローから、事
業拡大に必要な設備投資などの投資を引いた数値のことです。こ
の数値は、借金の返済、社債の償還、株主への配当など、支払わ
なければならないものを引いたあとの金額であり、企業が自由に
使えるお金のことです。そのため、フリーキャッシュフローとい
うのです。
 営業キャッシュフローとフリーキャッシュフローの数値を比較
すると、営業キャッシュフローは順調に伸びているのに、フリー
キャッシュフローは、2010年から2014年までは激減して
います。この時期にアマゾンは、本業で稼いだ営業キャッシュフ
ローのほとんどを投資に回していたのです。その金額は日本円で
数千億円規模であり、小売業としては、想像を絶する巨額の投資
になります。
 アマゾンは、どうしてこれだけの投資ができるのでしょうか。
ひたすら、未来の投資に賭けています。アマゾンの創業者、ジェ
フ・ベソス氏は、キャッシュフロー経営を重視し、それがアマゾ
ンを支えているのです。その点を探ってみることにします。
 CCC──キャッシュ・コンバージョン・サイクルという数値
があります。CCCの定義は次の通りです。
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 企業が商品や原材料を仕入れ、仕入代金を購入先に支払って、
その後その商品や原材料を加工してできた製品を販売して、その
販売代金を回収するまでにかかる日数を示す経理的な指標がキャ
ッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)です。
                  https://bit.ly/3yq469Z
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 要するに、CCCとは、仕入れた商品を売って、何日間で現金
化されるかを示したものです。CCCは、「○○日」というかた
ちで示されます。小売店でいうと、ウォルマート・ストアズの場
合、CCCは12日です。つまり、商品を仕入れて、代金を回収
するまで、約12日かかるという意味です。
 この間の運転資金は、普通は銀行からの借り入れで用意するこ
とになります。しかし、ウォルマートのように、売上高が大きく
なると、1日に必要な運転資金も巨額になります。ウォルマート
の売上高は、日本円で年間60兆円であり、その12日分は2兆
円になります。ウォルマートは、この2兆円を自己資金か借入金
で捻出しなければならなくなります。
 規模の小さいラーメン店のような現金商売の飲食店などは、C
CCはマイナスになります。なぜなら、売り上げは現金で入り、
材料費や人件費などの支払いは後になるからです。仮にCCCが
10日であるとすると、10日の間、販売代金を自由に使えるこ
とになります。
 成毛真氏は、自著で、日本の出版社とネットメディアをCCC
で比較し、次のように論じています。
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 日本の出版社のCCCは、一般的にプラス180日だ。日本の
出版社では、卸を通して、だいたい出版から6カ月後に入金され
るのが慣例だ。しかし、ネットメディアはCCCがマイナス、も
しくはプラスでもかなり短い。まず、会員サイトの場合、会員費
は前払いなので、その分マイナスになる。また、事前に、広告を
取ってくるとこれもマイナスだ。あるいは、ウェブ広告がクリッ
クされたらその瞬間(遅くても平均15日後くらい)に入金され
る。広告自体も、クライアントが作ってくれるから、こちらの費
用はゼロである。 ──成毛眞著/ダイヤモンド社の前掲書より
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 実は、アマゾンのCCCは、マイナスなのです。モノが売れる
前から入金されているからです。
             ──[デジタル社会論U/021]

≪画像および関連情報≫
 ●お金を生む力。アマゾンとZARAは「CCC」がすごい
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   ユニクロがしまむらに負けている経営指標がある──。そ
  れは企業がキャッシュ(お金)を生み出す力を示す「キャッ
  シュ・コンバージョン・サイクル(CCC)」である。
   企業経営では、実際の現金の出入りをより重視する「キャ
  ッシュフロー経営」が叫ばれて久しい。そうした中、いま注
  目が集まっているのがCCCである。その注目のCCCにつ
  いて、身近なアパレル業界の例を中心に、財務戦略アドバイ
  ザーでインテグリティ代表取締役の田中慎一氏が解説する。
   日本の資本市場では、2000年くらいから「キャッシュ
  フロー経営」が注目されて、投資家は企業に出入りするキャ
  ッシュ(現金)をより重視するようになっています。その背
  景には、日本の資本市場では、1990年代の後半から、日
  本の会計制度をグローバル化させようとする「会計ビッグバ
  ン」という動きがありました。銀行と事業会社の株の持ち合
  い解消や金融のグローバル化の流れも相まって、外国人株主
  が日本の市場にもかなり入ってきていました。
  そういう大きな流れの中で最近にわかに注目を浴びてきたの
  が「キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)」と
  いう指標です。今もそうですが、日本にはそれぞれの業界に
  商習慣があります。売上代金の回収や仕入れ代金の支払いな
  ど「月末締め・翌月末払い」というような慣習がなんとなく
  あります。その中で、なかなかコントロールが利かなかった
  商習慣の世界を、CCCという指標で見て、企業のキャッシ
  ュフロー経営の「実力」を測るというのがCCCです。
                  https://bit.ly/3hx45v4
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アマゾン/2.jpg
アマゾン/2
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする