2021年05月20日

●「アマゾンダッシュボタンとは何か」(第5492号)

 話を整理します。アマゾンはEC(エレクトロニック・コマー
ス/電子商取引)業者として発足し、ポリシーとして「地球上で
最も豊富な品揃え」を掲げています。つまり、「アマゾンに行け
ば何でも手に入る」を目指しているのです。品揃えがどこよりも
豊富で、しかも、安く、どこよりも早く、顧客に商品を届けるこ
とを実現しようとしています。
 問題は、「地球上で最も豊富な品揃え」を実現するためにアマ
ゾンが何をやったかですが、次の2つのことをやっています。
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  1.マーケットブレイスという仕組みを構築したこと
  2.外部業者が活用したくなるFBAを用意したこと
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 「1」のマーケットプレイスとは、オンラインの場を提供する
ことです。場所貸しであり、楽天と同じです。しかし、ほとんど
の出品業者は、「2」のFBAを利用するので、アマゾンの顧客
は、売っているのがアマゾンなのか、他の業者なのかを気にする
ことなく、商品を購入できるのです。なぜなら、FBAを利用す
ると、注文処理、出荷、決済、配送、返品対応まですべてアマゾ
ンが代行してくれるので、出品業者としては手間が省けるし、顧
客としては「アマゾンで買った」ということになります。
 確かに、マーケットプレイスとFBAを、組み合わせることに
よって、「地球上で最も豊富な品揃え」は実現します。注文処理
出荷、決済、配送などのサービスを売り物にして、他業者の商品
も多く取り込むことによって、豊富な品揃えの実現を可能にして
いるからです。
 しかし、アマゾンの商品は他の通販業者より安いのです。これ
はどのようにして実現しているのでしょうか。価格ドットコムで
何か商品を検索してみると、ほとんどの商品でアマゾンが上位を
占めています。スーパーなどよりもアマゾンは安いのです。どう
してこんなに安くできるのでしょうか。
 それは、多くの商品がアマゾンを通して売られることによって
売れ筋情報をアマゾンが握ることになるからです。これに関して
成毛真氏は、次のように解説しています。
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 たとえば、ある出店企業がマーケットプレイスを利用して、ア
マゾンが自ら取り扱っていない商品を売り、それがヒットしたと
しよう。当然、支払いを管理しているアマゾンには販売履歴が筒
抜けなので、アマゾンは売れ筋商品と判断する。アマゾンはその
商品を仕入れ、直販で取り扱いを始めるだろう。こうやって、ア
マゾンはどこよりも低価格で商品を提供できる。しかも、システ
ムで機械的に判断できるから、アマゾンの仕入れ担当者はほぼ自
動で手配を始めるだろう。
 こうなってしまうと、中小企業は採算度外視の価格設定にせざ
るをえない。利益を確保するために、アマゾンから撤退したいと
思っても、売上は落ち込む。「まさかアマゾンのような大企業が
そこまでやるか」と考える方もいるかもしれないが、アマゾンは
米国で、こうした徹底した値下げ攻勢で結果的にライバルを潰し
てきた歴史がある。      ──成毛眞著/ダイヤモンド社
           『amazon/世界の戦略がわかる』
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 アマゾンは、商品を売るために、さまざまな奇抜なアイデアを
実施しています。「アマゾンダッシュボタン」というものをご存
知ですか。
 添付ファイルに写真を付けていますが、「アマゾンダッシュボ
タン」とは、商品名が印刷された小箱にボタンが付いている端末
のことです。「システマ」と印刷されているので、歯周病予防の
ハミガキ、デンタルリンスなどの商品専用の「アマゾンダッシュ
ボタン」です。商品の選択は、ブルーツゥースを通じてスマホで
設定することができます。
 何ができるのかというと、ボタンを押すだけで、指定した商品
がアマゾンから届く仕組みです。間違って複数回ボタンを押して
も商品が届くまでは、重複注文がないようになっています。ハミ
ガキだけでなく、洗剤やトイレットペーパーなどの生活必需品ご
とにアマゾンダッシュボタンが用意されています。
 なぜ、このようものが必要なのでしょうか。
 これは「低関与商品」の囲い込みに関係があります。「低関与
商品」とは、消費者の思考が購買にあまり関与しない商品のこと
をいいます。洗剤やトイレットペーパーといった生活消費財、ス
ナック菓子や飲料水、ジュースといった食品など、性能や品質に
大差がないものがこれに該当します。
 例えば、いつも「お〜いお茶」を買っていた人が、たまたま自
販機にいつもの「お〜いお茶」がなかった場合、他の自販機を探
してまで「お〜いお茶」を求めることはなく、他のお茶のボトル
で我慢するはずです。製品にあまり大きな差がないからです。こ
ういう商品を「低関与商品」というのです。
 問題は、代替商品として何を選ぶかです。このとき商品を決め
るのは、CMであるといいます。そこでメーカーとしては、低関
与商品には莫大な広告費を投じるのです。そこで、消費者が気に
入って使っている商品は、以後も同じものを購入してもらうツー
ルが、アマゾンダッシュボタンというわけです。
 つまり、アマゾンダッシュボタンを購入させることによって、
メーカーの乗り換えリスクを抑制しようというものです。ボタン
は500円ですが、注文すると500円引きになるので、実質無
料です。アマゾンは、この低関与商品には強いこだわりを持って
います。最近は乗用車ですら、あまりブランドにこだわらず、単
なる移動手段と考える人が多くなっており、商品の低関与化が進
んでいます。
 ちなみに、アマゾンダッシュボタンは2018年に運用を終了
し、バーチャルボタンに変更になっています。
             ──[デジタル社会論U/020]

≪画像および関連情報≫
 ●アマゾン、「ダッシュ」ボタンの販売を終了へ
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   アマゾンは、全世界で「ダッシュ」ボタンの販売を終了す
  ることを決めたと米国時間2019年2月28日に明らかに
  した。人々が使用を続ける限り、同社は既存のダッシュボタ
  ン経由での新規注文をサポートし続ける予定だ。
   それでは、ダッシュボタンはなぜ廃止されるのだろうか。
  アマゾンによると、このデバイスは、コネクテッドホームの
  概念を今日のものに近づけるのに貢献したため、自らの成功
  の犠牲になってしまったという。
   当初からダッシュプログラムの拡大に尽力したアマゾンの
  バイスプレジデントのダニエル・ラウシュ氏によると、ダッ
  シュボタンが最初に発売された2015年の時点では、コネ
  クテッドホームガジェットの選択肢は今よりもはるかに少な
  かったという。アマゾンの従業員は、ペーパータオルやプリ
  ンタのインクなどの食料雑貨類、わざわざ外出して購入する
  ことを面倒くさく感じるほかのあらゆる商品について、「購
  入の手間を不要にする」方法を考え出そうとしていた、とラ
  ウシュ氏は述べた。従業員らは従来の家電製品にちょっとし
  たインターネット接続機能を一瞬で追加(例えば、洗濯洗剤
  用のダッシュボタンを洗濯機に設置)できる即席の方策とし
  て、ダッシュボタンを採用した。この4年間で、アマゾンは
  何十種類もの商品のダッシュボタンを開発し、何百万個もの
  ダッシュボタンを出荷した。   https://bit.ly/3hzVIyD
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アマゾンダッシュボタン.jpg
アマゾンダッシュボタン
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする