2021年05月13日

●「GAFA相互に事業領域を侵食中」(第5487号)

 GAFAの一角を占める米アップルが、2021年1〜3月期
決算で、売上高が前年同期比1・5倍の895億8400万ドル
(約9兆7000億円)、純利益も2・1倍の236億3000
万ドル(約2兆5700億円)に膨らみ、1〜3月期として過去
最高を記録しています。この傾向は、マイクロソフトを加えたG
AFAMも同様で、いずれも好業績を達成しています。
 好業績の理由は、なんとコロナ禍。コロナの感染拡大によって
デジタル技術の導入が加速しているからです。リモートワークの
定着で、自宅用PCの買い換えが増加し、関連器具の売り上げが
増加しているというのです。
 これと対照的だったのは、コロナ前の2019年1〜3月期の
決算です。このときの決算について、日本経済新聞は次のように
報道しています。
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【シリコンバレ=中西豊紀】グーグルやアップルなど、「GAF
A」と呼ばれる米IT(情報技術)大手4社の2019年1〜3
月期決算が出そろった。広告やスマートフォン(スマホ)などそ
れぞれの中核事業で稼ぐ力が弱まり、4社ともに売上高の伸び率
が鈍化している。各社は互いの得意分野に踏み込まざるを得なく
なっている。    ──2019年5月3日付、日本経済新聞
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 GAFAのこういう状況を変えたのは2020年から感染が拡
大したコロナです。しかし、これはコロナが収まると、元の状態
に戻ってしまうことになります。元の状態とは、どういう状況の
ことでしょうか。
 それは、「GAFA」がそれぞれ互いの事業を侵食し合う状況
のことです。それが一目でわかる表があります。
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          FB グーグル アマゾン アップル
 データよる広告  *◎   *◎    ○
  ネット小売り   ○    ○   *◎    ○
     スマホ        ○        *◎
    クラウド        ○    ◎
 AIスピーカー   △    ◎    ◎    ○
    動画配信   ○    ○    ○    △
   自動運転車        ◎         △
   AI半導体   ○    ○    ○    ○
   <記号解説>
          ◎市場で圧倒的な地位 *◎コア事業
    ○一定のユーザー獲得 △ 開発中か今後本格参入
               https://s.nikkei.com/3bijviS
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 この表を見ると、グーグルがいかに多くの分野に力を伸ばして
いるかがわかります。しかし、GAFAは、これまでは、それぞ
れ絶妙のバランスで事業領域の住み分けしてきたものの、今後の
成長の鈍化を補う戦略として、互いの中核事業に触手を伸ばす構
図が強まっています。
 フェイスブックやグーグル、アップルはいずれもアマゾンの主
力のネット小売りへ進出しつつあります。その一方で、グーグル
とフェイスブックの牙城だった広告分野は、アマゾンがシェアを
伸ばし、侵食しています。
 スマホでは、アップルが高価格帯で苦戦を強いられているなか
グーグルが自社開発のスマホ「ピクセル」で攻勢を強めていると
いう状況です。動画の配信については、GAFAすべてが参入し
激戦になっています。
 人工知能(AI)スピーカーについても、参入検討まで含めれ
ば、4社が市場を取り合う構図になっています。一方で、グーグ
ルが先行する自動運転では、アップルが水面下で開発を進めてい
るといわれます。
 GAFAのなかの対立で最もはげしさを増しているのが、個人
情報をめぐるアップルとフェイスブックです。これについて、日
本経済新聞は、次のように報道しています。
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【シリコンバレー=白石武志】プライバシーを巡って、米フェイ
スブックと米アップルの対立が先鋭化している。自社製品上での
個人情報の収集を制限するアップルに対し、広告収入の減少につ
ながるフェイスブックは、中小企業の利益を損なうと批判を強め
る。両社が互いの急所を攻める異例の展開となっている。「我々
はあらゆる場所で、中小企業のためにアップルに立ち向かってい
る」。フェイスブックは、2020年12月16日付の米主要紙
にアップルを名指しで批判する意見広告を掲載した。消費者の関
心に沿ったターゲティング広告を制限するアップルの動きを「中
小企業が消費者に効果的に接触するのを制限するものだ」と指摘
し、新型コロナウイルスの影響でオンライン販売に活路を求める
企業に負担を強いる行為だと批判した。アップルはプライバシー
を「基本的人権」と位置づける。https://s.nikkei.com/2QcEbBC
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 これらの関係は、添付ファイル「米IT大手は相互に事業領域
を侵食している」として図としてまとめられています。
 4月26日、アップルは、アイフォーンなどの新OSの配信を
はじめています。新OSは「iOS14・5」です。このOSで
は、プライバシー保護の観点から、アプリを立ち上げるごとに、
デジタル広告市場に個人データを提供するか否かを消費者が事前
に選べるようになっています。これは、ネット広告市場をけん引
している「ターゲッティング(追跡型)広告」に大きな打撃を与
えることになります。これに承認する人は、30〜40%といわ
れています。
 アップルのこの措置は、世界的な個人情報保護の流れを受けた
もので、このアップルの政策にはグーグルも賛成しています。
             ──[デジタル社会論U/015]

≪画像および関連情報≫
 ●アップルとフェイスブック、初代iPadアプリから関係が
  険悪だったと判明
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   現在アップルとエピック・ゲームズとの訴訟が再開され、
  それに伴い様々な機密資料が証拠として法廷に提出されてい
  ます。その中にあったアップル幹部らのメールから、アップ
  ルとフェイスブックが初代アイパッド用アプリをめぐって揉
  めていたことが明らかとなりました。
   2020年8月、フェイスブックは、アップストアポリシ
  ーによりiOS版「フェイスブック・ゲーミング」アプリ内
  からゲーム削除を余儀なくされたとして、アップルを批判し
  ていました。そうした両社の対立は、はるか昔にまで遡るよ
  うです。
   米CNBCは、2011年にスティーブ・ジョブズを含む
  3人の元アップル幹部らが交わした電子メールを裁判資料か
  ら発見したとのこと。それに基づき、10年以上前のアイパ
  ッド用フェイスブックアプリ配信が遅れた理由の1つとして
  アップルとフェイスブックの間に同じような対立があった可
  能性が高いと報じています。
   初代アイパッドは、2010年に発売されましたが、アイ
  パッド用フェイスブックアプリのリリースは、翌2011年
  10月のことです。この間、フェイスブックのエンジニアは
  「アップルとの関係がぎくしゃくしていた」ことを理由に、
  アプリのリリースが遅れたことをブログで公表してから退社
  していたとのことです。     https://engt.co/3f9HphB
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米IT大手は相互に事業領域を侵食している.jpg
米IT大手は相互に事業領域を侵食している
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする