2021年05月06日

●「入り口を押さえた者が勝者になる」(第5482号)

 スケールフリーネットワークの説明で「リンクを貼る」という
言葉が何回も出てきていますが、どういう意味かわかるでしょう
か。ICTの世界では、ごく普通に使う言葉です。しかし、その
本当の意味は、意外に知られていないのです。「リンクを貼る」
とは、次のことを意味しています。
─────────────────────────────
 「リンクを貼る」の「リンク」とは、「インターネットに公開
されているページにジャンプ(移動)するために、テキスト(文
字)内にURLを組み込むこと」をいう。
─────────────────────────────
 EJは、多くのサイトとリンクを貼っています。つまり、EJ
のコンテンツ(文字=テキスト)のなかに、URLをいくつも組
み込んでおり、多くのサイトにジャンプできます。
 いわゆるGAFAは、スケールフリーネットワークを巧妙に利
用して事業を拡大していますが、そのなかでグーグルとフェイス
ブックは、事業をスタートさせると同時にネットワークそのもの
を育て、それから事業の黒字化に取り組んでいます。
 「マネタイズ」という言葉があります。2007年頃から使わ
れるようになった言葉で、その意味は、ネットの無料サービスか
ら収益を得ることを意味しています。
 グーグルがマネタイズしたのは、創業から4年後であり、具体
的には、検索連動型広告をはじめたことです。フェイスブックが
マネタイズに動き出したのは、創業から3年後にマイクロソフト
と組んでからであり、黒字化のメドが立ったのは、上場後にモバ
イル化の波にうまく乗れたことです。
 ところで、現在、検索エンジンの王者といえばグーグルですが
実は検索の世界でグーグルは後発中の後発であり、そのグーグル
がこの分野で検索の王者になるとは、とても考えられないような
状況でした。かつては、検索といえば、ダントツでヤフー!だっ
たからです。
 決定的なことがあります。それは、ヤフー!とグーグルの創業
の違いです。
─────────────────────────────
       ヤフー! ・・ 1995年3月
       グーグル ・・ 1998年9月
─────────────────────────────
 既に米国のヤフー!は廃業していますが、1996年1月設立
のヤフー!ジャパンは、現在でも、さまざまな事業を展開してい
ます。このことは、前回のテーマでも述べていますが、そもそも
ヤフー!は、ポータルサイトという発想で、ネットの入り口を押
さえようとしたのです。「入り口を押さえたものがネットビジネ
スを制する」ことができるからです。
 ウェブサイトには、URLというサイトの住所がありますが、
それをつなぐことをハイパーリンクといいます。この仕組みでは
クリックするだけで一瞬にその指定のサイトに飛ぶことができま
す。ヤフー!は、ポータルサイトへの人力でユーザーが役に立つ
と思われる「お役立ちリンク集」を作ることによって、大勢のユ
ーザーを集めようとしたのです。ユーザーが多く集まれば、当然
広告効果も上がることになるからです。
 ここで大事なことがあります。インターネットを利用するとい
うことは、どこに何があるが、探す必要があります。しかし、そ
の探すべきものがないときでも、何となく漠然とインターネット
を見るときがあります。そういうとき、まるで新聞のように、い
ろいろな情報が掲載されているサイトがあれば、何はともあれ、
そこにアクセスします。そこに興味のある情報があれば、さらに
詳しい情報を求めて、アクセスすることになります。
 現代の若者は新聞を購読しません。月に何千円も支払って新聞
を購読しなくても、「ネットで無料で読める」というのです。こ
れは、一見合理的な考え方のように思えますが、この考え方は完
全に間違っています。
 確かにネットには多くの情報サイトがあり、ほとんど無料で記
事を読むことができます。しかし、新聞社との関係で記事のサイ
ズは限られており、何が起こっているかはわかりますが、そこか
ら詳しく何かを学び取るには情報が不十分です。
 それに、そもそもネットは、探すべき何かが先にあって利用す
るメディアであり、自分の関心のないニュースなどは無視するこ
とが多いはずです。とくに現在の若者は、自分の興味のあるもの
にしか関心を示さないのです。
 お金を支払って新聞をとる場合、それが電子版であっても、お
金を支払った以上、すべての記事にざっと目を通すはずです。そ
こからは、自分が予想していない貴重な情報を発見することが、
多々あります。そういうニュースを「開いた回路の情報」という
のです。新聞をとらず、ネットだけで済まそうとする現代の若者
は、日々この「開いた回路の情報」が得られず、本人はそう思っ
ていませんが、現在、深刻な情報不足に陥っています。デジタル
社会の現在は、幅広い情報入手が不可欠ですが、そういう情報は
新聞やテレビのようなメディアからしか得られないのです。現代
の20〜30代の新聞の購読率は10%を大きく切っています。
 ヤフー!は、ネットでそういう新聞型のメディアを目指して、
ポータルサイトで勝負しようとしたのですが、米国のヤフー!は
既に消滅し、ソフトバンク系のヤフー!ジャパンは、2010年
からは、グーグルの検索技術を取り入れています。まさに「勝負
あり」です。現在では、ネット上の情報が爆発的に増加し、人力
で情報を集めようとしても、情報の増加スピードに追いつくこと
が不可能になったからです。
 グーグルは、「スパイダー」というロボット(プログラム)を
使って、ネット上のすべてのページの情報を取集し、ロボット型
検索を取り入れ、インターネットの入り口をほぼ押さえることに
成功しています。今や検索エンジンの王者です。
             ──[デジタル社会論U/010]

≪画像および関連情報≫
 ●ポータルサイトを徹底解説
  ───────────────────────────
   そもそも「ポータルサイト」の「ポータル」には「玄関」
  や「入口」という意味があります。そのため、ポータルサイ
  トとはインターネット上にあるさまざまなページの玄関口と
  なる巨大なウェブサイトのことを言うのです。
   では、ポータルサイトのメリットにはどんなことが挙げら
  れるのでしょうか?
   ポータルサイトの利用者のメリットは、インターネット上
  に散らばっている多くの情報から必要としている情報を検索
  で探し出せるという点です。また、検索機能の他にも、天気
  やテレビ番組表、占い、株価など生活に役立つ情報を閲覧で
  きるという点も大きな魅力です。
   企業視点からのメリットを考えると、ポータルサイトを運
  用することによって、コーポレートサイトでは接触が難しい
  ユーザーに接触する機会が得られて集客効果が見込めます。
  利用者・企業ともにメリットがあるので、数多くのポータル
  サイトが作成されているのです。
   検索サービスを提供していたサイトが、ジャンルごとに、
  ウェブサイトへのリンクをまとめたことから、ポータルサイ
  トが誕生しました。その後、コンテンツ(天気予報、株価、
  占い、翻訳、地図など)が追加されていき、インターネット
  の総合サービスの形態を取り出したのです。
                  https://bit.ly/2QQArFZ
  ───────────────────────────
ポータルサイト.jpg
ポータルサイト
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月07日

●「どうスケールフリー性を高めたか」(第5483号)

 グーグルの検索エンジンの世界的シェアは、次のようになって
います。2019年8月現在です。ビングはマイクロソフト、ヤ
ンデックスはロシア、バイドーは中国です。
─────────────────────────────
        グーグル ・・ 88・6%
         ビング ・・  5・1%
        ヤフー! ・・  2・7%
      ヤンデックス ・・  0・8%
        バイドー ・・  0・7%
         その他 ・・  2・1%
                  https://bit.ly/3ePXvNb
─────────────────────────────
 このように、グーグルが圧倒的ですが、グーグルは「ページラ
ンク理論」に基づいて、スケールフリーネットワークの成長を促
進する仕組みが導入されています。ページランク理論については
ネット上に解説がたくさんありますが、数学の理論なので、いさ
さか難解です。
 簡単にいうと、ページランク理論とはウェブページの重要度を
決定するためのアルゴリズムであり、「信頼性の高いページから
リンクされているページほど信頼性が高い」という考え方です。
グーグルの創業者であるラリー・ページと、セルゲイ・ブリンに
よって、1998年に発明されています。
 学術論文でも同じことがいえます。基本的には、論文の引用数
の考え方と同じです。優れた論文は、多くの論文に引用されるも
のであり、そういう引用数の多い論文は優れているという考え方
です。これに関して、日本国内の「高被引用論文数ランキング」
というものがあり、研究機関ごとに公表されています。2017
年度のインパクトの高い論文数分析による日本の研究機関ランキ
ングのベスト5は次の通りです。
─────────────────────────────
         高被引用論文数  高被引用論文の割合
  東京大学      1326       1・6%
  京都大学       764       1・2%
  理化学研究所     623       2・4%
  大阪大学       540       1・1%
  東北大学       497       1・0%
                  https://bit.ly/3eho8eS
─────────────────────────────
 考えてみると、グーグルの検索精度の向上により、どのような
ニッチでマイナーなサイト(情報)であっても、キーワードによ
る検索結果によって、現在では表示されるようになっています。
まさに、ロングテールの法則が働いているのです。
 このグーグルのページランク理論とスケールフリーネットワー
クの関係について、尾原和啓/島田太郎両氏は、次のように述べ
ています。
─────────────────────────────
 重要なべージからリンクを集めるほどページの評価が上がる、
というページランク理論そのものもスケールフリーネットワーク
化の要因となりました。重要なべージの管理人同士が連絡を取り
合い、お互いにリンクを貼り合うようになったのです。こうして
一部のハブが膨大なリンクを集めるようになり、もともとスケー
ルフリーネットワークであったウェブのスケールフリー性がさら
に強化されました。
 すべてのウェブページをリンク数によって評価し、スケールフ
リーネットワークとして構造化することで、グーグルは検索エン
ジンとして圧倒的な地位を築きます。そして検索エンジンを利用
する膨大なユーザーを基盤にして莫大な収益を上げるようになり
ました。        ──島田太郎/尾原和啓著/日経BP
              『スケールフリーネットワーク/
             ものづくり日本だからできるDX』
─────────────────────────────
 ここまでは、グーグルの話です。続いて、フェイスブックにつ
いて考えてみることにします。
 フェイスブックの創業者、ザッカーバーグ氏は、ハーバード大
学の学生が交流を図るための「ザ・フェイスブック」というサー
ビスを開始したのですが、その数日後にスタンフォード大学やコ
ロンビア大学、イエール大学などの学生からの「同じようなサイ
トが欲しい」との要望に応え、いわゆるアイビー・リーグの学生
にも開放されたのです。つまり、学生同士がつながるためのSN
Sがフェイスブックとして発足したのです。
 はじめは、プロフィールの交換のようなものだったのです。そ
れが「ウォール」というツイッターのタイムラインに当たるもの
ができたことで、人と人がつながる機能が強化されといえます。
しかも、フェイスブックは、実名での登録が入会の条件であるこ
とが、匿名が許されているツイッターとは異なります。
 それに加えて、フェイスブックは、人と人のつながりを作り、
緩やかなつながり「ウィークタイ」を含めて、可視化したことが
スケールフリーネットワーク化の拡大に貢献したのです。それに
加えて、フェイスブックの場合、ちょうどスマホが普及するタイ
ミングに間に合い、普及の加速が促進されたことです。これは、
フェイスブックにとって幸運であったといえます。
 フェイスブックは、2012年に7億1500万ドルで、写真
SNSであるインスタグラムを買収しています。その急拡大ぶり
に脅威を感じたフェイスブックのCEOであるザッカーバーク氏
がフェイスブック陣営に囲い込んだのです。
 インスタグラムは、基本的に写真によって人と人がつながれる
システムを有しています。これによって、フェイスブックは、ス
ケールフリー性を急拡大させる原因となったということがいえま
す。これについては、来週続いて考えていくことにします。
             ──[デジタル社会論U/011]

≪画像および関連情報≫
 ●フェイスブックがインスタグラム買収に大金を投じた理由
  ──両社の狙いと写真共有にもたらす影響
  ───────────────────────────
   世界最大の写真共有サイト(そしてソーシャルネットワー
  ク)であるフェイスブックは、米国時間2012年4月9日
  インスタグラムを買収すると発表した。インスタグラムは、
  非常に高い人気を誇るスマートフォン向けモバイル写真共有
  アプリを提供している企業だ。この買収を早速評価して、フ
  ェイスブックにとって、非常に強力な戦術的かつ戦略的な動
  きであるとする分析もある。
   この件でフェイスブックが勝ち取った重要なものは、モバ
  イルとのかかわりだ。インスタグラムのユーザー数は2年足
  らずの間に3000万人に達している。フェイスブックは、
  数年前からモバイルアプリを提供しているが、インスタグラ
  ムほどはユーザーの愛着を勝ち得ていない。フェイスブック
  は、モバイルアプリの中で最高の相手(少なくともユーザー
  開拓という点においては)を買収することによって、将来の
  競争相手を排除するだけでなく、モバイル分野での存在感を
  強化できる。
   インスタグラムは、小さな企業かもしれないが、買収の日
  まではフェイスブックに対する脅威となっていた。フェイス
  ブックは、1日あたり約2億5000万枚の写真が、アップ
  ロードされる世界最大の写真共有サイトになったが、そのソ
  ーシャルネットワークのユーザーベースに頼って安心してい
  たのでは、現在の地位を強化し続けることはできない。
                  https://bit.ly/2QJv0cb
  ───────────────────────────
世界検索エンジンシェア/2019.jpg
世界検索エンジンシェア/2019
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(3) | デジタル社会論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月10日

●「インスタ創業者はなぜ辞めたのか」(第5484号)

 2012年のことです。フェイスブックは、写真共有アプリの
インスタグラムを買収しました。そのとき、フェイスブックが、
インスタグラムに支払った金額は10億ドル(1130億円)と
いう巨額な金額だったのです。
 この金額は、当時月間アクティブユーザー数が、3000万人
程度であったインスタグラムに対する買収価格としてはベラボー
な金額だったのです。ちなみに、買収当時のインスタグラム社の
スタッフはたったの13人だったといわれています。インスタグ
ラムの共同経営者は、次の2人です。
─────────────────────────────
        ◎最高経営責任者(CEO)
           ケヴィン・シストロム氏
        ◎最高技術責任者(CTO)
            マイク・クリーガー氏
─────────────────────────────
 しかし、これらインスタグラムの創業者は、既にフェイスブッ
クから去っています。これは、フェイスブックに原因があります
が、それはさておき、インスタグラムの特性について述べること
にします。
 フェイスブック、ツイッター、インスタグラムにLINEを加
えて、4大SNSといわれています。このうち、フェイスブック
とツイッターは、当初は文章の入力によって、人と人をつないだ
のです。当時はスマホではなく、PCがメインだったからです。
私はツイッターを2010年1月からはじめていますが、当時は
スマホは登場したばかりであまり普及しておらず、PCでツイッ
ターをはじめたものです。
 少し歴史を振り返ってみると、2008年にスマホがはじめて
登場し、それが普及しはじめた2010年にインスタグラムが発
足しています。その頃から、少しずつスマホのカメラの性能が高
度化するにしたがって、SNSでは文章よりも写真を送る人が多
くなっていったのです。このようにして、2012年にはインス
タグラムのユーザーは3000万人に到達していたのです。そし
て、インスタグラムはフェイスブックに買収されるのです。
 インスタグラムは、写真によって人とつながれるSNSです。
ツイッターやフェイスブックのように、その人や、アカウントを
フォローするのではなく、写真に付けられた「ハッシュタグ」と
いうキーワードをフォローすることによって、多くの人とつなが
ることができます。これについて、尾原和啓/島田太郎両氏は、
次のように解説しています。
─────────────────────────────
 例えば、サーフィンが趣味なら「サーフィン」というハッシュ
タグをフォローすれば、世界中のサーフィンの写真を見られるの
です。さらに細かく、朝の静かな時間帯のサーフィンばかりを集
めた「モーニングサーフィン」や、世界中の大きな波を見られる
「ビッグウェーブ」といったハッシュタグもあります。
 自分の趣味を通して世界中の人とつながることができます。こ
のようなつながりを「インタレストベース」のネットワークと呼
びます。(中略)
 フェイスブックが、リアルな人間関係をベースとしたスケール
フリーネットワークであるのに対し、インスタグラムは、興味や
趣味、関心によって、まったく知らない人とつながるスケールフ
リーネットワークを構築しています。
  ──島田太郎/尾原和啓著『スケールフリーネットワーク/
        ものづくり日本だからできるDX』/日経BP
─────────────────────────────
 このように、インスタグラムはフェイスブックの発展・拡大に
大きく貢献したのですが、インスタグラムの共同経営者であるケ
ヴィン・シストロム氏とマイク・クリーガー氏の2人は2018
年9月24日に、フェイスブックを去っています。
 なぜ、一番よいときにフェイスブックを去ったのでしょうか。
ケヴィン・シストロム共同経営者兼CEOによるフェイスブック
辞任の挨拶は、次の通りです。
─────────────────────────────
 マイクと私は、インスタグラムで8年を過ごし、フェイスブッ
クのチームと6年を過ごした。我々は13人から世界中のオフィ
スに1000人以上が働くまでに成長した。我々が作ったプロダ
クトは10億人を超える人々に使われ、愛されている。我々は次
の人生への準備が整った。
 我々はしばらく休養し、好奇心とクリエイティビティを、もう
一度、取り戻そうと思う。新しいものを作るために立ち止まり、
我々をインスパイアしてくれるもの、そしてそれを世界が必要と
しているかどうかを突き詰める。そんなことを我々は計画してい
る。我々はリーダーから10億人の中の2人のユーザーとなるが
インスタグラムとフェイスブックの未来に依然、興奮している。
イノベーティブで非凡な会社の取り組みに期待している。
       ──共同創業者兼CEO、ケヴィン・シストロム
                  https://bit.ly/3xVAZeH
─────────────────────────────
 円満退社といわれていますが、そんなことはないと考えます。
その証拠は、挨拶にマーク・ザッカーバーグの名前がないことで
す。会社の創業者に対する感謝の言葉は、形式的なものかもしれ
ませんが、重要なものです。それがないということは、事態が円
満退社ではないことをあらわしています。
 本当の原因は外部からはわかりませんが、2人はザッカーバー
クCEOの金儲け主義や拡大路線に嫌気がさし、フェイスブック
を去ったものと考えます。何よりも決定的なのは、フェイクブッ
クがインスタグラムの個人情報まで商売に使おうとしたことが決
定的です。それは、フェイスブックとインスタグラムのアドレス
帳の統合の要請です。2人はこれに反発して、フェイスブックを
去ったのです。      ──[デジタル社会論U/012]

≪画像および関連情報≫
 ●インスタグラム共同創業者2人が電撃辞任
  ───────────────────────────
   激震走る・・・。
   フェイスブックに6年前に10億ドルで身売りしたインス
  タグラム(インスタグラム)も、今や評価額1000億ドル
  (12兆円超)。こんなに大きくなってうれしい反面、共同
  創業者2人は売らなきゃよかったと悔しくて眠れない夜もあ
  るんだろうなあと思っていたら、2人揃って辞任の電撃ニュ
  ースが入り、椅子から転げ落ちそうになりました。
   辞め方がとにかく尋常ではなく、講演スケジュールがびっ
  しりなのにもかかわらず、いきなり、ニューヨークタイムズ
  の独占スクープで報じられ、何時間もフェイスブックからは
  なんの発表もないまま時が流れてゆき、憶測が憶測を呼ぶ異
  様な雰囲気となりました。
   当の本人であるケヴィン・シストロムCEOもマイク・ク
  リーガーCTOも辞める理由は明らかにしていませんが、イ
  ンストグラム公式ブログにシストロムCEOが発表した辞任
  の挨拶にはマーク・ザッカーバーグのマの字もなく、「確執
  の噂は本当だったのか・・」との見方が強まっています。イ
  ンスタグラムは、今年6月にユーザー10億人の大台に乗り
  今後5年で20億人という成長曲線まっしぐら。ユーザー滞
  留時間ではフェイスブックとほぼ互角に迫っています。
                  https://bit.ly/3uwlJmq
  ───────────────────────────
インスタグラムの共同創業者.jpg
インスタグラムの共同創業者
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月11日

●「インダストリー4・0とその目的」(第5485号)

 昨日のEJで、せっかく2012年にフェイスブックの傘下に
入ったインスタグラムの2人のトップ、ケヴィン・シストロム氏
とマイク・クリーガー氏が、2018年9月にフェイスブックを
去っていることについて書きましたが、フェイスブックの個人情
報の取り扱いについて意見が合わなかったといわれています。
 私がSNSをはじめたのは早いですが、ある理由から、フェイ
スブックとLINEは利用せず、ブログと情報の発信は、ツイッ
ター、相互連絡はSMSを利用することにしています。
 トッププラットフォーマーといわれるGAFAの信頼度を調査
したデータがあります。調査企業トルーナによれば、多くの消費
者から「最も信用の置けない企業」とみなされているのは、フェ
イスブックです。それにしても40%とは驚きです。2018年
のデータです。
─────────────────────────────
      フェイスブック ・・・・・ 40%
        ツイッター ・・・・・  8%
         アマゾン ・・・・・  8%
         ウーバー ・・・・・  7%
         グーグル ・・・・・  6%
          リフト ・・・・・  6%
         スナップ ・・・・・  4%
         アップル ・・・・・  4%
      マイクロソフト ・・・・・  2%
     ネットフリックス ・・・・・  1%
          テスラ ・・・・・  1%
                  https://bit.ly/3f4BhY0
─────────────────────────────
 所有する情報の扱いという点でGAFAにはそれぞれ問題があ
りますが、いずれもインターネットのスケールフリー性を高めて
それを活用し、企業の巨大化に成功した企業です。
 ドイツは、インターネットの登場から現在までの歴史を俯瞰的
に分析し、「われわれはインターネットで敗北した」と認め、イ
ンターネットで起きたことを産業の世界で起こすことを目標とし
て「インダストリー4・0」というものを現在推進しています。
ところで、「インダストリー4・0」とは何でしょうか。
 「インダストリー4・0」とは、現在ドイツの政府や産業界が
主導して推進している製造業の国家戦略プロジェクトのことで、
第4次産業革命といわれています。製造業におけるコンピュータ
活用に重点が置かれており、AIやIоTといったICT技術を
フルに活用し、製造業を改革することを目指しています。
 このようにいうと、工場にはCAD(コンピュータ支援設計)
や製造ロボットなど、既に十分ICT技術が取り入れられている
ではないか、それとどこが違うのかという疑問を持つ人がいるか
もしれません。
 これまで行われてきたことは、コンピュータ導入による部分的
な効率化ですが、インダストリー4・0では、製造プロセスなど
においてデジタル技術がフルに活用され、従来の製造プロセスの
仕組みそのものを再構成し、新しい製造プロセスを生み出すこと
をいうのです。具体的にいうと、別々のシステムで構成されてい
た各プロセスをプラットフォームで連携させることで、製品設計
から設備設計、製造に至るまで、シームレスに行なうことが可能
になるのです。
 それでは、モノインターネットといわれるIоTとはどう違う
のかというと、インダストリー4・0でも、モノとモノとがイン
ターネットで接続されますが、業務プロセス同士も連携し、情報
の交換が可能になります。インダストリー4・0では、このよう
な複合的な連携により、生産の効率化を目指すのです。
 これについて、尾原和啓/島田太郎両氏は、インダストリー4
・0について、次のように解説しています。
─────────────────────────────
 インダストリー3・0の時代、つまり従来の製造業の世界は、
ピラミッド型の階層構造になっていました。工場内にはワークセ
ンター、作業ステーション、制御装置、そしてフィールド機器と
いった階層があり、情報のやり取りは階層間で行われます。これ
の何が問題かというと、階層を飛び越えてデータを直接見ること
ができない点です。すべての機器が上の階層の端末にぶら下がる
樹形図型のネットワークでした。
 これがインダストリー4・0の世界になると、生産システムの
あらゆるコンポーネントが階層の垣根を超えてつながるようにな
ります。必要なときに必要な機械やセンサーの情報を自由に取れ
るようになるのです。また、一つの工場内だけでなく、他社の生
産設備とも、インターネットを介してつながれるようになるので
す。──島田太郎/尾原和啓著『スケールフリーネットワーク/
        ものづくり日本だからできるDX』/日経BP
─────────────────────────────
 日本の製造業の場合、構造的問題があります。製造業は、最終
製品を作る大企業と、その下請けの中堅中小企業から成り立って
います。この場合、大企業には、スマートファクトリーのような
技術や高度なノウハウを持っていますが、それらの技術が下請け
の中小企業に還元されているとはいえない状況です。
 この場合、製造プロセス自体を効率化して高度化し、さらにレ
ベルアップするには、中小企業が実施している下請けの作業と大
企業のそれを一体化する必要があります。それに加えて、インダ
ストリー4・0が求めている付加価値の高い製品を大量生産する
には、熟練労働者が保有している技術やノウハウを数値化しなけ
ればなりません。昔はそのようなことは不可能でしたが、現在で
は、AIでそれを実現することが可能なのです。
 そして、このインダストリー4・0でもスケールフリーネット
ワークがそこに深く介在することになるのです。
             ──[デジタル社会論U/013]

≪画像および関連情報≫
 ●世界の“なぜ”を読み解くスケールフリーネットワーク
  ───────────────────────────
   私たちを取り巻く社会にはさまざまな“ネットワーク”が
  存在する。インターネットはもちろん、人間関係や企業の提
  携関係、俳優の相関図、航空機の路線、電力線などが挙げら
  れる。さらに、生物の本質もネットワークだといえる。脳は
  軸索によって接続された神経細胞のネットワークであり、神
  経細胞自体も、生化学反応でつながった分子のネットワーク
  だ。SARSのような感染症、噂や流行も人間関係のネット
  ワークに沿って広がる。複雑に込み入った食物連鎖や生態系
  は種のネットワークといえるだろう。
   こうした複雑なシステムは多種多様でばらばらに見えるが
  実は重要な特性を共有している。それは多数のサイトとつな
  がった比較的少数の「ノード」に支配されていることだ。
   「ハブ」と呼ばれる一部のノードは膨大な数のリンクを持
  つ一方で、ほとんどはごくわずかなノードとしかつながって
  いない。ハブの中には,数百,数千,中には数百万ものリン
  クを持つものもある。こうした点でスケール(縮尺)が存在
  しない(フリー)ように見える。
   スケールフリーネットワークは重要な性質をいくつか持っ
  ている。その1つとして,偶発的な障害に対しては非常に強
  いことが挙げられる。高速道路網のようなランダムネットワ
  ークはノードがいくつか破壊されると、システムは通信不能
  な孤島に寸断されてしまうが、スケールフリーネットワーク
  ではいくつかの経路が残り続ける。https://bit.ly/3uHKWdm
  ───────────────────────────
 ●図の出典/島田太郎/尾原和啓著の前掲書より
インダストリー3・0/インダストリー4・o.jpg
インダストリー3・0/インダストリー4・o
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月12日

●「ネットワークをどのように作る(第5486号)

 ドイツの国家プロジェクト「インダストリー4・0」は、要す
るに工場のあらゆる装置をインターネットに接続できるようにし
て、製造業をスケールフリーネットワーク化することです。
 ドイツのこのような動きに対して、日本は国家ではなく、民間
でしか対応していないのです。菅政権になって、やっとデジタル
庁の設立をしようとするレベルです。これまで日本政府は、何を
してきたのでしょうか。
 尾原和啓/島田太郎両氏の本では、スケールフリーネットワー
クの作り方について書かれています。これについては、示唆に富
むことが多いのでご紹介することにします。スケールフリーネッ
トワークを作る方法は、次の3つがあります。
─────────────────────────────
       1.     「お金を燃やす」
       2.「デジュールスタンダード」
       3. 「アセット・オープン化」
  ──島田太郎/尾原和啓著『スケールフリーネットワーク/
        ものづくり日本だからできるDX』/日経BP
─────────────────────────────
 第1は「お金を燃やす」方法です。
 「お金を燃やす」とは、ひたすら製品を無料で提供することを
いいます。これは、GAFAなどのプラットフォーマーの無料サ
ービスのことを指しています。グーグルは、最初検索エンジンを
無料で配布し、一定のこシェアを獲得したうえで、広告などでマ
ネタイズを行っています。
 これには当然お金がかかりますが、米国のシリコンバレーでは
有望なスタートアップには資金援助を惜しまない個人投資家やベ
ンチャーキャピタルが多く存在しているのです。尾原和啓/島田
太郎両氏は、そういう意味で、この方法を「アメリカ方式」と呼
んでいます。
 第2は、「デジュールスタンダード」です。
 これは、デファクトスタンダード(事実上の標準)を積み重ね
て、それをIEC(国際電気標準会議)やISO(国際標準化機
構)といった標準化団体に登録し、その規格を世界に広めていく
方法のことをいいます。現在、ドイツがやっている「インダスト
リー4・0」も、この方式で世界標準を狙っているのです。した
がって、この方法を「ヨーロッパ方式」と呼んでいます。
 第3は、「アセット・オープン化」です。
 「アセット」というのは、「経済資源」もしくは「価値がある
もの」という意味ですが、ICTの分野では、企業などの情報シ
ステムを構成する機器や資材、ソフトウェア、ライセンス(使用
権)、サービス契約などをまとめて「ITアセット」と呼ぶこと
があります。
 「アセット・オープン化」について、尾原和啓/島田太郎両氏
の本では、次のように解説しています。
─────────────────────────────
 製品やサービスをオープン化し、自社製品だけでなく、他社の
製品やサービスも自由に接続できるようにします。そのメリット
を享受するのはユーザーです。これまで連携が取れなかった機器
やサービスが連携できるようになれば、ユーザーは喜んでさまざ
まな機器やサービスをつなぐでしょう。
 そうなると、ユーザーのニーズに応じて対応機器がどんどん投
入されていくはずです。こうして自然と、スケールフリーネット
ワークが出来上がり、成長を続けていきます。そして結果的に、
公開した仕様はデファクトスタンダードになるのです。
           ──島田太郎/尾原和啓著の前掲書より
─────────────────────────────
 さらに尾原和啓/島田太郎両氏の本では、「アセット・オープ
ン化」の例として、1980年代の「IBM互換機」の話が出て
きますが、これについては、私自身がその当時、システム系の仕
事にかかわっていて、実際に体験していることでもあり、EJス
タイルで説明することにします。
 1980年代におけるコンピュータの巨人はIBMです。IB
Mは、CPUが8ビットCPUのときは動かず、インテルによる
16ビットCPUの発売に合わせて、自社PCの発売に打って出
たのです。1982年3月のインテルによる「80286」の発
売がそうです。IBMからいわゆる「IBM PC/AT」とし
て、発売されたPCにはCPUに80286が採用され、マイク
ロソフト開発のMS−DOSが「PC−DOS」という名前で搭
載されていましたが、IBMはその内部仕様を公開するオープン
アーキテクチャ戦略を採用したのです。これは、当時としては驚
天動地の戦略だったのです。
 仕様が公開されているので、誰でもIBM PC/AT(以下
PC/AT)と同じ仕様のPCを開発することができるし、PC
ATに対応したソフトウェアの開発やその周辺機器メーカーが激
増したのです。このようにしてPC/ATは、あっという間に業
界標準、デファクトスタンダードを獲得したのです。その後、も
はやPCといえばPC/ATということになり、IBMのアセッ
トオープン化戦略は大成功を収めたのです。
 ここで重要なことがあります。それは、PC/AT自体は必ず
しも優れた魅力的なPCであったわけではないということです。
1984年には、アッププル社のPC、マッキントッシュが発売
されていますが、こちらの方がPC/ATよりもはるかに魅力的
なPCであったといっても過言ではありません。
 しかし、オープンとクローズドの差は歴然だったのです。マッ
キントッシュとデファクトスタンダードを獲得したPC/ATの
シェアは歴然としていたのです。PC/ATは、使えるソフトウ
ェアは多数あり、OSもMS−DOSがウインドウズになり、ま
すますPCとしての使い勝手は向上し、ユーザーのネットワーク
は拡大したのです。これは、まさにアセットオープン化戦略の勝
利といえます。      ──[デジタル社会論U/014]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ、IBM/PCなのか
  ───────────────────────────
   IBMは1981年にIBM/PCをもってパソコン市場
  に新規参入し、劇的な成功を収めた。そうしたIBMの成功
  を説明する主要な見解の一つに、「IBM/PCは技術的に
  は平凡なマシンであったが、IBMのブランド力によって成
  功した」というものがある。IBM/PCは、その当時の技
  術水準から見て極めて平凡なマシンであったにも関わらず、
  IBMが大型コンピュータ(メインフレーム)市場として、
  それまでに築き上げてきたブランド力によってPC市場でも
  成功した、というのである。
   例えばイノベーションに関するドミナント・デザイン論で
  有名なアッターバックは、その代表的著作『イノベーション
  ダイナミックス』の中で、「(IBM/PCの発売当時に)
  ほとんどの専門家は、IBM/PCは、技術的には飛躍的前
  進がまったくない (no breakthrough technological break
  -through) と評価していたにも関わらず、IBM/PCは瞬
  く間に業務用市場の30%を押さえてしまった。・・技術的
  にみれば必ずしも十分ではなかったにもかかわらず、IBM
  製品は(ドミナントデザインの地位を獲得し)パソコン産業
  を普遍的なものとして確立させた。」(アッターバック『イ
  ノベーションダイナミックス』有斐閣、引用文中の括弧内は
  引用者による補足)とか、「(機械式タイプライターにおけ
  るアンダーウッド5型機と同じようにIBM/PCは、ブレ
  ークスルーとなる技術を市場に対してほとんど何ももたらさ
  なかった。           https://bit.ly/3hdNgoA
  ───────────────────────────
IBM PC/AT.jpg
IBM PC/AT
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月13日

●「GAFA相互に事業領域を侵食中」(第5487号)

 GAFAの一角を占める米アップルが、2021年1〜3月期
決算で、売上高が前年同期比1・5倍の895億8400万ドル
(約9兆7000億円)、純利益も2・1倍の236億3000
万ドル(約2兆5700億円)に膨らみ、1〜3月期として過去
最高を記録しています。この傾向は、マイクロソフトを加えたG
AFAMも同様で、いずれも好業績を達成しています。
 好業績の理由は、なんとコロナ禍。コロナの感染拡大によって
デジタル技術の導入が加速しているからです。リモートワークの
定着で、自宅用PCの買い換えが増加し、関連器具の売り上げが
増加しているというのです。
 これと対照的だったのは、コロナ前の2019年1〜3月期の
決算です。このときの決算について、日本経済新聞は次のように
報道しています。
─────────────────────────────
【シリコンバレ=中西豊紀】グーグルやアップルなど、「GAF
A」と呼ばれる米IT(情報技術)大手4社の2019年1〜3
月期決算が出そろった。広告やスマートフォン(スマホ)などそ
れぞれの中核事業で稼ぐ力が弱まり、4社ともに売上高の伸び率
が鈍化している。各社は互いの得意分野に踏み込まざるを得なく
なっている。    ──2019年5月3日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 GAFAのこういう状況を変えたのは2020年から感染が拡
大したコロナです。しかし、これはコロナが収まると、元の状態
に戻ってしまうことになります。元の状態とは、どういう状況の
ことでしょうか。
 それは、「GAFA」がそれぞれ互いの事業を侵食し合う状況
のことです。それが一目でわかる表があります。
─────────────────────────────
          FB グーグル アマゾン アップル
 データよる広告  *◎   *◎    ○
  ネット小売り   ○    ○   *◎    ○
     スマホ        ○        *◎
    クラウド        ○    ◎
 AIスピーカー   △    ◎    ◎    ○
    動画配信   ○    ○    ○    △
   自動運転車        ◎         △
   AI半導体   ○    ○    ○    ○
   <記号解説>
          ◎市場で圧倒的な地位 *◎コア事業
    ○一定のユーザー獲得 △ 開発中か今後本格参入
               https://s.nikkei.com/3bijviS
─────────────────────────────
 この表を見ると、グーグルがいかに多くの分野に力を伸ばして
いるかがわかります。しかし、GAFAは、これまでは、それぞ
れ絶妙のバランスで事業領域の住み分けしてきたものの、今後の
成長の鈍化を補う戦略として、互いの中核事業に触手を伸ばす構
図が強まっています。
 フェイスブックやグーグル、アップルはいずれもアマゾンの主
力のネット小売りへ進出しつつあります。その一方で、グーグル
とフェイスブックの牙城だった広告分野は、アマゾンがシェアを
伸ばし、侵食しています。
 スマホでは、アップルが高価格帯で苦戦を強いられているなか
グーグルが自社開発のスマホ「ピクセル」で攻勢を強めていると
いう状況です。動画の配信については、GAFAすべてが参入し
激戦になっています。
 人工知能(AI)スピーカーについても、参入検討まで含めれ
ば、4社が市場を取り合う構図になっています。一方で、グーグ
ルが先行する自動運転では、アップルが水面下で開発を進めてい
るといわれます。
 GAFAのなかの対立で最もはげしさを増しているのが、個人
情報をめぐるアップルとフェイスブックです。これについて、日
本経済新聞は、次のように報道しています。
─────────────────────────────
【シリコンバレー=白石武志】プライバシーを巡って、米フェイ
スブックと米アップルの対立が先鋭化している。自社製品上での
個人情報の収集を制限するアップルに対し、広告収入の減少につ
ながるフェイスブックは、中小企業の利益を損なうと批判を強め
る。両社が互いの急所を攻める異例の展開となっている。「我々
はあらゆる場所で、中小企業のためにアップルに立ち向かってい
る」。フェイスブックは、2020年12月16日付の米主要紙
にアップルを名指しで批判する意見広告を掲載した。消費者の関
心に沿ったターゲティング広告を制限するアップルの動きを「中
小企業が消費者に効果的に接触するのを制限するものだ」と指摘
し、新型コロナウイルスの影響でオンライン販売に活路を求める
企業に負担を強いる行為だと批判した。アップルはプライバシー
を「基本的人権」と位置づける。https://s.nikkei.com/2QcEbBC
─────────────────────────────
 これらの関係は、添付ファイル「米IT大手は相互に事業領域
を侵食している」として図としてまとめられています。
 4月26日、アップルは、アイフォーンなどの新OSの配信を
はじめています。新OSは「iOS14・5」です。このOSで
は、プライバシー保護の観点から、アプリを立ち上げるごとに、
デジタル広告市場に個人データを提供するか否かを消費者が事前
に選べるようになっています。これは、ネット広告市場をけん引
している「ターゲッティング(追跡型)広告」に大きな打撃を与
えることになります。これに承認する人は、30〜40%といわ
れています。
 アップルのこの措置は、世界的な個人情報保護の流れを受けた
もので、このアップルの政策にはグーグルも賛成しています。
             ──[デジタル社会論U/015]

≪画像および関連情報≫
 ●アップルとフェイスブック、初代iPadアプリから関係が
  険悪だったと判明
  ───────────────────────────
   現在アップルとエピック・ゲームズとの訴訟が再開され、
  それに伴い様々な機密資料が証拠として法廷に提出されてい
  ます。その中にあったアップル幹部らのメールから、アップ
  ルとフェイスブックが初代アイパッド用アプリをめぐって揉
  めていたことが明らかとなりました。
   2020年8月、フェイスブックは、アップストアポリシ
  ーによりiOS版「フェイスブック・ゲーミング」アプリ内
  からゲーム削除を余儀なくされたとして、アップルを批判し
  ていました。そうした両社の対立は、はるか昔にまで遡るよ
  うです。
   米CNBCは、2011年にスティーブ・ジョブズを含む
  3人の元アップル幹部らが交わした電子メールを裁判資料か
  ら発見したとのこと。それに基づき、10年以上前のアイパ
  ッド用フェイスブックアプリ配信が遅れた理由の1つとして
  アップルとフェイスブックの間に同じような対立があった可
  能性が高いと報じています。
   初代アイパッドは、2010年に発売されましたが、アイ
  パッド用フェイスブックアプリのリリースは、翌2011年
  10月のことです。この間、フェイスブックのエンジニアは
  「アップルとの関係がぎくしゃくしていた」ことを理由に、
  アプリのリリースが遅れたことをブログで公表してから退社
  していたとのことです。     https://engt.co/3f9HphB
  ───────────────────────────
米IT大手は相互に事業領域を侵食している.jpg
米IT大手は相互に事業領域を侵食している
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月14日

●「アマゾンドットコムの基本的戦略」(第5488号)

 新型コロナウイルスの感染者拡大が止まらず続いています。心
配なのは、東京、大阪だけでなく、感染拡大が地方に広がってい
ることです。2021年5月12日現在、直近一週間における人
口10万人当たりの感染者は次のようになっています。
─────────────────────────────
     ◎人口10万人当たりの感染者数
        東京都 ・・・・ 41・3人
        大阪府 ・・・・ 67・7人
        福岡県 ・・・・ 56・6人
       久留米市 ・・・・ 65・8人
       5月12日、羽鳥慎一モーニングショウ/データ
─────────────────────────────
 これを見ると、久留米市は、数値が大阪府に近づいており、福
岡県も感染者が拡大しています。そういうなかにあって、東京都
は、かなり感染を抑えているように感じます。
 ところで、5月11日、「デジタル改革関連法」が参院内閣委
員会で可決され、本原稿執筆時の12日に成立する見通しになっ
ています。しかし、この法案は、菅政権発足後、たった5か月で
まとめられた法案であり、しかも計63本の法案が束ねられ、多
くの影の部分もあるにもかかわらず、野党が十分に追及できない
状態のまま成立することになります。
 「デジタル改革関連法」は、デジタル庁設置法案のほか、デジ
タル社会の理念を定めた「デジタル社会形成基本法案」、個人情
報保護法や行政手続きの押印廃止に必要な法律の改正案を盛り込
んだ「デジタル社会形成整備法案」、マイナンバーと預貯金口座
をひもづければ、公的な給付金の受け取りをスムーズにし、災害
や相続時の口座照会もできる法案から成っています。
 デジタル庁については、もっと情報が集まってから、改めて述
べることにして、本題に戻ることにします。
 GAFAの4大プラットフォーマーのなかの2つの「A」、1
つはアップル、2つはアマゾンです。これらの2社は、グーグル
とフェイスブックとは、少し違うスタンスを持っています。アッ
プルは、もともとPCメーカーであると同時にソフトウェアメー
カーです。しかし、インターネットを使うことが前提であるスマ
ホ、アイフォーンを開発しているので、GAFAの有力な一角を
占めています。
 アマゾンは、そのメインはEC、エレクトロニック・コマース
すなわち、電子商取引がメインの企業です。アマゾンは、当初は
「インターネット書店」として世の中に認識されましたが、はじ
めから、本だけを売るのではなく、あらゆる商品を扱う世界一の
EC事業を目指し、実際にそうなっています。書籍は、著者、書
名、出版社などのデータが明確であり、商品を間違える心配がほ
とんどないので、最初の商品になったのです。
 アマゾンが「インターネット書店」として開業したのは、19
95年7月のことです。そのとき、アマゾンの創業者のジェフ・
ペゾス氏があるレストランで、知人にナプキンの紙にペンで描い
て説明したというアマゾンの事業計画があります。図については
添付ファイルをご覧ください。
 ジェフ・ペゾス氏は、顧客によい体験をしてもらうことが大切
と説きます。たとえば、他の書店を何軒まわっても、絶対に見つ
からなかった本がアマゾンで簡単に見つかり、買えたとします。
しかも、即日手に入ったとします。これは顧客にとってよい体験
です。「アマゾンは何でもあるんだな」という体験です。
 こういう体験が積み重なると、トラフィック、すなわち、サイ
トには、多くのお客が集まってきます。多くのお客が集まると、
さらに本が売れるようになり、アマゾンとしては、さらにセレク
ション(品揃え)が豊富になり、さらに一段と本が売れるように
なります。
 このような良いサイクルが続くと、アマゾンは売上高を伸ばし
て成長し、低価格でサービスを提供することになります。物流は
規模の経済が働くので、低コストで商品が提供できるようになり
ます。そして、それが顧客体験の向上につながり、トラフィック
が増えるという循環になっていくのです。
 尾原和啓/島田太郎両氏は、このジェフ・ベソス氏の理論は、
グーグルやフェイスブックにも同じことがいえるとして、次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 顧客体験の向上を起点として、商品の拡充とコスト低減という
2つのサイクルがうまく循環しています。この2重構造がアマゾ
ンの独占性を生み出しているのです。
 この構造は、グーグルやフェイスブックにも同じことが言えま
す。グーグルを使えば探しているものが見つけやすいから、ユー
ザーはグーグルを使う。すると情報提供側はより見つけてもらい
やすいよう、グーグルの仕様に合わせて情報をアップするように
なり、さらにグーグルで情報が見つけやすくなる。こうして、構
造的にスケールフリーネットワークがより展開しやすくなってい
るのです。
  ──島田太郎/尾原和啓著『スケールフリーネットワーク/
        ものづくり日本だからできるDX』/日経BP
─────────────────────────────
 GAFAに代表されるインターネット企業が革新を起こした分
野は、小売業と広告業の分野だけです。これら2つの分野の合計
は、米国のGDP約19兆ドルのわずか7%に過ぎないのです。
そういう意味において、まだ、革新を起こせる分野は93%も手
つかずに残されています。
 そういう意味において、日本にも十分なチャンスが残されてい
るといえます。そのためには、日本社会を徹底的にデジタル社会
に改変する必要があります。日本はコロナ禍から脱却できていま
せんが、そのデジタル化のスタート年は今年からはじまると考え
ています。        ──[デジタル社会論U/016]

≪画像および関連情報≫
 ●<ストーリー戦略>アマゾン、スターバックス/楠木建氏
  ───────────────────────────
   先ほど戦略の本質は「違いをつくって、つなげる」ことだ
  と述べた。このうち、どちらが戦略の真髄かというと、それ
  は違いをつなげていく「シンセシス(綜合)」にある。違い
  の一つひとつは静止画にすぎない。「こうするとこうなる。
  そうなれば、これが可能になっていく」という時間展開を含
  んだ因果論理でつなげていくことで、はじめて動画のような
  戦略ストーリーを語ることができる。
   そのことはビジネスモデルと比較することでより明確にな
  る。図の左側にあるのがアマゾンのビジネスモデルで、右側
  が創業者であるジェフ・ベゾス氏が事業を構想しているとき
  に、レストランの紙ナプキンに描いたとされる戦略のストー
  リーである。ビジネスモデルは、自社、顧客、サプライヤー
  などの空間的な配置形態を示しているにすぎない。
   それに対して戦略ストーリーでは、「アマゾンならではの
  ユニークな購買体験を提供すればトラフィックが増大する。
  多くの人が訪れるサイトになれば、出版社などの売り手を引
  きつけ、セレクションが充実する。すると顧客の経験をさら
  に充実させ、トラフィックが上がっていく・・・」という時
  間展開を含んだ好循環の因果論理が一目瞭然になっている。
                  https://bit.ly/3uKpx3A
  ───────────────────────────
アマゾンの事業戦略.jpg
アマゾンの事業戦略
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月17日

●「大前研一氏ディエムについて語る」(第5489号)

 2021年5月14日のことです。当日付の朝日新聞朝刊は、
次のタイトルの記事を報道しています。
─────────────────────────────
 ◎FB主導の仮想通貨 また縮小
 米フェイスブック(FB)が主導して立ち上げを目指していた
暗号資産(仮想通貨)「ディエム」の発行・管理団体(本拠・ス
イス)は12日、スイス金融当局への許可申請を取り下げ、主要
拠点を米国に移すと発表した。スイスを拠点にグローバルなデジ
タル通貨の立ち上げを目指してきたが、米国の既存銀行と提携す
る形に切り替える。当初の構想からは大きく後退した形である。
           ──2021年5月14日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 「ディエム」とは、フェイスブックの仮想通貨「リブラ」を改
称した名前です。なぜ、名称を改称したのでしょうか。
 「リブラ」では、日本円も含む複数主要通貨(中国・人民元は
含まず)によるバスケットに連動する仮想通貨を管理団体である
リブラ協会が発行するという野心的な計画だったのですが、主要
国の政府や中央銀行が、米ドルにとって代わりうるとの懸念や、
マネーロンダリングに利用される恐れがあるなどして猛反発、計
画を変更せざるを得ない状況に追い込まれたのです。
 そこでフェイスブックは、通貨の名称を「ディエム」に変更し
ディエムの管理団体であるディエム協会が、シルバーゲート銀行
と提携し、同銀行がドルに連動する「ディエム・ドル」を発行す
ることになったのです。シルバーゲート銀行とは、仮想通貨関連
会社へのサービスで現在業績を伸ばしている、カルフォルニア州
に本拠を置く銀行です。いずれにせよ、当初の計画から考えると
大幅な計画変更であり、後退であるといえます。
 この「ディエム」、かつてのリブラ構想については、多くの識
者──とくに世界の金融関係の学者や評論家が警戒し、疑問を呈
するなか、経営コンサルタントの大前研一氏は大賛成してしてい
ます。どのような点が賛成なのかについて、参考になると思うの
で、大前研一氏の意見をご紹介しておきます。
─────────────────────────────
 現在の通貨制度には大きな問題がある。まず基軸通貨であるは
ずの米ドルが、ドナルド・トランプ前大統領の時代に、彼の身勝
手な発言や思いつきのツイートに反応して乱高下してしまってい
た。それから、世界の国際決済システムの中核を担っているSW
IFT(国際銀行間通信協会)がアメリカの強い影響下にあるた
め、アメリカが制裁対象にした国や地域の銀行や企業はSWIF
Tが使えなくなり、米ドル建ての送金や決済ができなくなる。実
際、イランの制裁にこれを用いたために、フランスの石油会社ト
タルは同国での石油掘削事業から撤退してしまった。
 つまり、現在の通貨制度だと、アメリカの大統領の一存で世界
中が振り回されてしまうのだ。そうならないためには米ドル以外
の基軸通貨、それからSWIFTではない国際決済システムが必
要であって、デイエムはまさにその役目を果たすのが目的なので
ある。しかも、デイエムは、ビットコインのような発行・運営団
体が不在で価値の裏づけもない仮想通貨とは異なる。デイエム協
会が発行・運営し、米ドル、ユーロ、日本円、英ポンドなどの主
要通貨や短期国債などで裏づけることによって、価値が大きく変
動しにくい設計になっているのである。(中略)
 フェイスブックCEOのザッカーバーグ氏も、本気なら、フェ
イスブックを辞めて、自分の財産をここに半分くらいつぎ込むべ
きだろう。そうすれば「信用」が生まれる。
              ──大前研一著/プレジデント社
                   『大前研一DX革命』
─────────────────────────────
 大前研一氏といえば、2001年に上梓した『大前研一新・資
本論/見えない経済大陸へ挑む』(東洋経済新報社)のなかで、
21世紀は、リアルの経済の他に、サイバー、グローバル、マル
チプルが加わった4つの経済空間が生まれると予測しています。
ビットコインやフェイスブックのリブラ(ディエム)のような仮
想通貨は、サイバー空間の経済へ導くテクノロジーといえます。
 そして、おそらく2021年中には、ディエムに加えて、中国
のデジタル人民元のような中央銀行による仮想通貨(CBDC)
も出現し、サイバーの経済空間が一層よく見えるようになると思
われます。これは先端テクノロジーを使いこなすディスラプター
(破壊的イノペーター)であり、対応を怠ると、業界もろとも消
滅させられるほどの破壊力を秘めています。
 しかし、日本では、2021年になっても、20世紀のリアル
な経済しか見えていない経営者や政治家が、過半数を占めていま
す。これでは、日本経済がいつまでもデフレの底に沈んで、低迷
から脱却できないのも無理はないのです。大前研一氏にいわせる
と「DX」の本質は次のようになります。
─────────────────────────────
 DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、単にITや
デジタルテクノロジーを取り入れるといった単純なことではなく
デジタルテクノロジーを用いて、21世紀型企業に変革を図るこ
とである。                 ──大前研一氏
─────────────────────────────
 実はGAFAのうち、もっとも破壊力の大きい企業は、アマゾ
ンであると私は考えています。アマゾンは、最初から「あらゆる
商品の品揃え」を行い、それらをECでなるべく安い価格で販売
し、自ら届けることを目標としており、そのため、物流には最も
力を入れています。DXを語るうえで、アマゾンという稀有な企
業のことをもっと詳しく知る必要があります。
 アマゾンを単なるEC企業と考えると、とんでもない間違いを
犯すことになります。そういうわけで、EJでは、しばらくアマ
ゾンについて調べてみることにします。
             ──[デジタル社会論U/017]

≪画像および関連情報≫
 ●英ディエムの弁護士立ち上がる、フェイスブックのリブラ
  改名に障害
  ───────────────────────────
   最近ディエムに改名したフェイスブックのステーブルコイ
  ン、リブラのブランド再生計画の試みは、同名の英国フィン
  テック企業が法的措置を取る準備をしており、再び壁にぶつ
  かったようだ。計画の運営組織であるリブラ協会は最近、新
  たなスタートを切るためにラテン語で「日」という意味の、
  ディエム協会に改名したと話した。
   しかし、シフティッドの報告によれば、フェイスブックや
  関係機関は、小規模の買い手や売り手がインターネット上で
  所持品を交換できるロンドン拠点のディエムプラットフォー
  ムとの厄介な法的論争に陥るかもしれない。メディアはディ
  エムの創設者でCEO(最高経営責任者)のジェリ・クピ氏
  の発言を引用した。
   「12月1日にフェイスブックのリブラ協会がディエムに
  改名することを知り、驚愕した。(中略)小規模新興企業と
  て、リブラのアルトコインから生じる顧客の混乱が私たちの
  成長に大いに影響を与えるのではないかと懸念している」法
  的論争の合図となりそうだ。またメディアは、クリス・アデ
  ルスバッハ氏というディエムの投資家が、法律専門家はフィ
  ンテックチームに「ディエムの銘柄を守る」ように助言した
  と話したと伝えている。     https://bit.ly/33HOCAh
  ───────────────────────────
大前研一氏.jpg
大前研一氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(2) | デジタル社会論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月18日

●「アマゾンと楽天どのように違うか」(第5490号)

 アマゾンがEC事業として最初に取り扱った商品は「書籍」で
すが、書籍は誰が売ろうと品質に差がないし、梱包や発送が困難
ではないからです。このことはよく知られていることですが、日
本におけるネットでの書籍販売については、アマゾンにとって大
きなネックがあったのです。
 それは日本には「再販売価格維持制度」というシステムがある
からです。再販価格維持制度とは、メーカーが卸売業に販売した
ものを再度小売業で販売する際の価格を再販売価格といい、この
再販売価格の維持を卸・小売業に求めた制度です。つまり、「定
価で売れ」ということです。現状は、書籍や雑誌や音楽CDにつ
いては、定価で売ることになっています。
 その頃アマゾンは、米国では、書籍を大量に仕入れて、20%
引きで売るという安売り商法で急成長していたのですが、日本で
はその手が使えなかったのです。しかし、この制度のおかげで、
米国であれば値引きしていた定価の20%がそのまま収益になり
その資金で、小田原に巨大な物流センターをつくることができた
のです。現在、アマゾンは、日本国内に21か所の物流倉庫を有
する巨大物流業者でもあります。それはアマゾンのポリシーであ
る「地球上で最も豊富な品揃え」を実現するために不可欠なもの
であるといえます。
 アマゾンの物流について、大前研一氏は、日本の出版業界が席
巻されてしまうほどの凄さと評して、次のように述べています。
─────────────────────────────
 アマゾンの物流は、東販・日販よりもはるかに上だ。そのため
地方の小さな書店には、東販・日販よりもアマゾンに頼んだほう
が早く確実に本が届く。今では地方に行くと、東販・日販が自ら
書店に対し、「それはアマゾンに注文してください」といってい
るという話を耳にするくらいだ。このように、アマゾンに日本の
出版業界はすっかり席巻されてしまったが、今後は他の業界でも
同様のことが起こるのは間違いない。私は、次に危ないのは医薬
品業界ではないかと思っている。
              ──大前研一著/プレジデント社
                   『大前研一DX革命』
─────────────────────────────
 アマゾンがいかに凄い企業かについて知るには、同じEC企業
である楽天と比較するとわかりやすいと思います。アマゾンと楽
天は、ともに1997年の創業ですが、当時日本では、PCの普
及もいまひとつで、インターネットも珍しく、ましてネットでは
人はモノを買わない時代に楽天は創業しています。
 楽天は、インターネットで人々がモノを買わない時代に、イン
ターネット・ショッピングモールとして「楽天市場」を立ち上げ
2000年に上場しています。
 アマゾンも同じEC企業ですが、楽天とは、ビジネスモデルが
ぜんぜん異なるのです。
─────────────────────────────
 ◎楽天
  楽天市場は、インターネット上に構築された文字通り、「市
 場」である。それは仮想商店街であり、ネット上に軒先、すな
 わち、スペースを貸すことによって、出展企業から料金を得て
 いる。つまり、楽天の顧客は出店企業である。
 ◎アマゾン
  アマゾンは、あくまでも自社で仕入れた商品の販売である。
 他業者が出品のマーケットブレイスもあるが、あくまで自分で
 在庫を持ち、流通を管理している。つまり、アマゾンの顧客は
 あくまでアマゾンでモノを買う消費者である。
               ──成毛眞著/ダイヤモンド社
           『amazon/世界の戦略がわかる』
─────────────────────────────
 ここで、アマゾンの「マーケットプレイス」について説明する
必要があります。「マーケットプレイス」とは、アマゾン以外の
外部業者が出品できるサービスのことです。つまり、アマゾンの
サイトに出ている商品は、すべてアマゾンの商品ではなく、他の
出店者の商品も入っているのです。もちろん、出店に際しては、
アマゾンの出店基準をパスした商品であり、お客としては、売っ
ている商品がアマゾンなのか、他の業者なのかに関係なく、全部
同じフォーマットで商品を買えるのです。もちろん、購入した商
品は、アマゾンによって梱包されて届けられ、支払いもアマゾン
を経由して行われます。
 このマーケットプレイスで扱う商品は、アマゾン直販の品数の
30倍以上であり、2016年の時点で約3億5000万品目に
上がります。現在はもっと増えているはずです。アマゾンのこの
「マーケットプレイス」は、アマゾンのポリシーである「地球上
で最も豊富な品揃え」を実現するための政策です。
 これに対して楽天は、あくまで出店者への場所貸しであり、商
品の梱包や配送はすべて出店業者で行われ、もちろん料金も各自
出店業者に支払われるのです。この楽天のビジネスモデルについ
て、成毛真氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 楽天のビジネスモデルとは「場所貸しなので、自身で物流網を
持つ必要がなく、時間もお金もかけずに、出店業者を手軽に増や
すことができる」仕組みだ。在庫も持つ必要がないので、リスク
も少ない。出店業者にとっては、楽天への他の出店者が多ければ
多いほどお客が集まる。そして、楽天にとっては、品揃えが充実
するという好循環が生まれる。初期に、楽天がアマゾンに比べて
事業を急拡大できた背景がわかるだろう。
         ──成毛眞著/ダイヤモンド社の前掲書より
─────────────────────────────
 つまり、楽天はネットの地主のようなビジネスです。スペース
を開放し、手数料という名の地代を徴収するだけです。
             ──[デジタル社会論U/018]

≪画像および関連情報≫
 ●楽天、ビジネスモデルに亀裂 競争激化で無料化決断
  ───────────────────────────
   楽天が通販サイト「楽天市場」で予定する送料無料の統一
  基準の導入をめぐり、2020年2月10日に公正取引委員
  会から立ち入り検査を受けたことは、三木谷浩史会長兼社長
  が築いてきたビジネスモデルに走った亀裂の深刻さを示して
  いる。三木谷氏が送料無料化の実現にこだわる背景には、ラ
  イバルの米アマゾン・コムとの競争の激しさがある。しかし
  一方的な無料化決定に対する出店者の不満は大きい。楽天は
  携帯電話事業などでも課題を抱えており、対応を誤れば経営
  の不安につながりかねない。
   楽天は10日、公取委の立ち入り検査について「厳粛かつ
  真摯(しんし)に受け止め、全面的に協力していく」とする
  コメントを発表した。ただ、「法令上の問題はないものと考
  えている」とも改めて主張。三木谷氏も1月末の出店者向け
  のイベントで「政府、公取委と対峙(たいじ)してでも実施
  する」と述べている。
   楽天は昨年末、楽天市場での商品の送料を一律無料にする
  制度を今年3月18日に導入すると出店者側に通知した。現
  在、送料は出店者ごとに設定され、利用者からは「支払総額
  が分かりにくい」といった声があがっていたためだ。出店者
  の中には、商品価格を安く表示して検索されやすくする一方
  で、送料を割高に設定する事業者もいた。
                  https://bit.ly/3buDRWb
  ───────────────────────────
「楽天」三木谷浩史会長兼社長.jpg
「楽天」三木谷浩史会長兼社長
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月19日

●「アマゾンが顧客を増加させる仕組」(第5491号)

 アマゾンと楽天の違いについて、楽天は「楽天市場」のスペー
スを賃料をとって貸すだけと述べましたが、実はアマゾンの「マ
ーケットプレイス」も楽天と同様なのです。ユーザーは、スペー
スを借りて商品を展示し、売れたらアマゾンからメールがくるの
で、自ら梱包して発送するのです。楽天と同じです。
 しかし、アマゾンの場合、マーケットプレイスにはFBA(フ
ルフィルメント・バイ・アマゾン)というサービスが用意され、
多くの出店者が利用しています。出店者がこのFBAを使うと、
どんな企業でも、アマゾンのインフラが活用できるのです。商品
の保管から注文処理、出荷、決済、配送、返品対応まで、すべて
をアマゾンがまとめて代行してくれます。FBAについて、成毛
眞氏は次のように説明しています。
─────────────────────────────
 人手が限られる個人商店や、中小企業にとってこのサービスは
非常に助かるだろう。アマゾンの配送機能やカスタマーサービス
機能を使って、世界中の何百万という顧客との接点を持つことが
可能になるのだ。FBAの倉庫は年中無休で稼働している。休日
でも即日発送できるので「すぐに欲しい」顧客の要望をくみ取り
機会ロスも防げるわけだ。
 また、利用料金も手軽だ。まず月額の固定費がない。発生する
のは、商品の面積や日数に応じた在庫保管手数料や、商品の金額
と重量に基づく配送代行手数料のみだ。それ以上の費用負担はな
く、これも中小企業にとっては大きな魅力だ。
               ──成毛眞著/ダイヤモンド社
           『amazon/世界の戦略がわかる』
─────────────────────────────
 FBAには、もっと驚くべきことがあります。楽天市場や他の
マーケットで売れた商品の出荷をアマゾンが代行することもFB
Aではできるのです。アマゾンが、2009年からはじめたサー
ビスで、「マルチチャネル」といいます。
 それもアマゾンが単に配送業務だけを引き受けるのではなく、
事前に契約で商品をアマゾンが預かり、アマゾンの倉庫から出荷
するのです。ネットでものを売る業者にとって、これはきわめて
便利なサービスといえます。複数のネット市場に商品を出店する
ネット通販業者でも、面倒な在庫管理や発送などの面倒な業務を
すべてアマゾンに託すことができるからです。このサービスを利
用する通販業者がアマゾンに出品しないはずがなく、結局アマゾ
ンの出品数が増加することになります。
 これらのサービスは、アマゾンが多くの倉庫を持つ物流会社で
あるからできることであって、アマゾンは最初からそれを狙って
倉庫の確保に努力していたことになります。
 マーケットプレイスの利用者には、さらに特典があります。そ
れは、アマゾン内に商品広告が出せることです。これは「スポン
サープロダクト」と呼ばれるクリック課金型の広告です。アマゾ
ンの顧客が何を検索したかのキーワードに連動して、画面の下部
に表示されます。クリック単価は2円からということで、ヤフー
の10円、楽天市場の50円と比べて、安く設定されています。
従業員の少ない企業にとっては、FBAと組み合わせることによ
って、商品の宣伝から出荷まで、すべてをアマゾンのみで完結で
きることになります。このサービスは、きわめて画期的なことで
あるといえます。
 なぜ、アマゾンは、最初から倉庫と在庫を持つにいたったのか
というと、ポリシーである「地球上で最も豊富な品揃え」を実現
するためです。「インターネット書店」の例で考えると、ネット
空間は無限であるので、売れ筋の書籍だけでなく、学術書など一
部の人しか購入しない書籍まですべて取り揃えることができると
はいうものの、これらの書籍はすべて仕入れて、在庫として持つ
必要があります。注文が入ったときに、少しでも早く注文者に届
ける必要があるからです。
 成毛真氏の本には、マーケットプレイスとFBAが生まれた背
景について、次の説明があります。
─────────────────────────────
 マーケットプレイスとこのFBAが生まれた背景には、古本の
「せどり」という習慣がある。せどりとは、古本の目利きが、価
値ある本を古本屋から安く見つけてきて高く売ることだが、まだ
アマゾンが本を中心に扱っているときに、この個人のせどりに、
オンライン販売の場を提供したことから始まる。
 その後、アマゾンは倉庫の空きスぺースを提供し、発送の代行
までもするようになった。そして、アマゾンが書籍以外に対象領
域を広げていくにしたがって、古本だけではなく、家電や飲料や
雑貨など、あらゆる商品にもこのサービスを提供した。リサイク
ル品だけでなく、新品もである。こうして個人から、企業もマー
ケットプレイスへ参入していったのだ。
 FBAは、こうして自然発生的に生まれたものだといえる。し
かし、驚くべきは、その圧倒的なスピードだ。そこに需要さえあ
れば、それは購買需要であれ、サービス需要であれ、企業からの
需要であれ、敏感に感じ取り、まさに光速で実現していくのだ。
         ──成毛眞著/ダイヤモンド社の前掲書より
─────────────────────────────
 アマゾンと楽天の違いにおいて注目すべき点があります。それ
は、楽天にとっての顧客は、あくまで楽天市場への出店企業であ
るのに対して、アマゾンの場合は、商品を購入する顧客であるこ
とです。
 この違いは大きいのです。楽天の場合は、出店企業の売上高な
どの情報に基づいて、融資などのビジネスに活用していますが、
アマゾンの場合は、顧客の購買行動のすべてのデータが取得でき
るからです。しかもアマゾンの場合、マーケットプレイスとFB
Aから入手できる顧客のデータは膨大なものであり、多くのビジ
ネスに活用できることになります。
             ──[デジタル社会論U/019]

≪画像および関連情報≫
 ●「アマゾンは楽天市場に勝ち続ける」/元本部長が断言
  した理由
  ───────────────────────────
   アマゾンと楽天市場の最も大きな相違点は、アマゾンが自
  社で直販も行っているのに対し、楽天市場で商品を販売して
  いるのは、ほとんど全て出店している販売事業者であること
  だ。アマゾンは直販商品を販売するためにフルフィルメント
  センター(Eコマースにおける在庫、梱包、発送などを行う
  拠点、倉庫)をはじめとする独自の物流網を構築している。
  しかし、楽天市場では、基本的に配送は、販売事業者任せと
  なっていたため、配送サービスの充実化にはかなりの遅れを
  とっており、配送品質は不安定である。
   アマゾンにも販売事業者が出店するマーケットプレイスが
  あり、アマゾン全体の58%が、販売事業者に対し、在庫配
  送代行サービスであるFBA(フルフィルメント・バイ・ア
  マゾン)を提供し、配送の品質をアマゾンの高い「基準」に
  保つ施策が採られている。
   楽天市場もただ手をこまねいていたわけではない。最近で
  はドラッグストアチェーンを買収し、子会社化して直販事業
  にも進出した。また、販売事業者の商品を預かって出荷を代
  行する物流センターを千葉県市川市や兵庫県川西市、千葉県
  流山市、大阪府枚方(ひらかた)市などに設けて「楽天スー
  パーロジスティクス」と名付けた総合物流サービスの提供を
  始めている。          https://bit.ly/2RYUClo
  ───────────────────────────
アマゾン.jpg
アマゾン
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月20日

●「アマゾンダッシュボタンとは何か」(第5492号)

 話を整理します。アマゾンはEC(エレクトロニック・コマー
ス/電子商取引)業者として発足し、ポリシーとして「地球上で
最も豊富な品揃え」を掲げています。つまり、「アマゾンに行け
ば何でも手に入る」を目指しているのです。品揃えがどこよりも
豊富で、しかも、安く、どこよりも早く、顧客に商品を届けるこ
とを実現しようとしています。
 問題は、「地球上で最も豊富な品揃え」を実現するためにアマ
ゾンが何をやったかですが、次の2つのことをやっています。
─────────────────────────────
  1.マーケットブレイスという仕組みを構築したこと
  2.外部業者が活用したくなるFBAを用意したこと
─────────────────────────────
 「1」のマーケットプレイスとは、オンラインの場を提供する
ことです。場所貸しであり、楽天と同じです。しかし、ほとんど
の出品業者は、「2」のFBAを利用するので、アマゾンの顧客
は、売っているのがアマゾンなのか、他の業者なのかを気にする
ことなく、商品を購入できるのです。なぜなら、FBAを利用す
ると、注文処理、出荷、決済、配送、返品対応まですべてアマゾ
ンが代行してくれるので、出品業者としては手間が省けるし、顧
客としては「アマゾンで買った」ということになります。
 確かに、マーケットプレイスとFBAを、組み合わせることに
よって、「地球上で最も豊富な品揃え」は実現します。注文処理
出荷、決済、配送などのサービスを売り物にして、他業者の商品
も多く取り込むことによって、豊富な品揃えの実現を可能にして
いるからです。
 しかし、アマゾンの商品は他の通販業者より安いのです。これ
はどのようにして実現しているのでしょうか。価格ドットコムで
何か商品を検索してみると、ほとんどの商品でアマゾンが上位を
占めています。スーパーなどよりもアマゾンは安いのです。どう
してこんなに安くできるのでしょうか。
 それは、多くの商品がアマゾンを通して売られることによって
売れ筋情報をアマゾンが握ることになるからです。これに関して
成毛真氏は、次のように解説しています。
─────────────────────────────
 たとえば、ある出店企業がマーケットプレイスを利用して、ア
マゾンが自ら取り扱っていない商品を売り、それがヒットしたと
しよう。当然、支払いを管理しているアマゾンには販売履歴が筒
抜けなので、アマゾンは売れ筋商品と判断する。アマゾンはその
商品を仕入れ、直販で取り扱いを始めるだろう。こうやって、ア
マゾンはどこよりも低価格で商品を提供できる。しかも、システ
ムで機械的に判断できるから、アマゾンの仕入れ担当者はほぼ自
動で手配を始めるだろう。
 こうなってしまうと、中小企業は採算度外視の価格設定にせざ
るをえない。利益を確保するために、アマゾンから撤退したいと
思っても、売上は落ち込む。「まさかアマゾンのような大企業が
そこまでやるか」と考える方もいるかもしれないが、アマゾンは
米国で、こうした徹底した値下げ攻勢で結果的にライバルを潰し
てきた歴史がある。      ──成毛眞著/ダイヤモンド社
           『amazon/世界の戦略がわかる』
─────────────────────────────
 アマゾンは、商品を売るために、さまざまな奇抜なアイデアを
実施しています。「アマゾンダッシュボタン」というものをご存
知ですか。
 添付ファイルに写真を付けていますが、「アマゾンダッシュボ
タン」とは、商品名が印刷された小箱にボタンが付いている端末
のことです。「システマ」と印刷されているので、歯周病予防の
ハミガキ、デンタルリンスなどの商品専用の「アマゾンダッシュ
ボタン」です。商品の選択は、ブルーツゥースを通じてスマホで
設定することができます。
 何ができるのかというと、ボタンを押すだけで、指定した商品
がアマゾンから届く仕組みです。間違って複数回ボタンを押して
も商品が届くまでは、重複注文がないようになっています。ハミ
ガキだけでなく、洗剤やトイレットペーパーなどの生活必需品ご
とにアマゾンダッシュボタンが用意されています。
 なぜ、このようものが必要なのでしょうか。
 これは「低関与商品」の囲い込みに関係があります。「低関与
商品」とは、消費者の思考が購買にあまり関与しない商品のこと
をいいます。洗剤やトイレットペーパーといった生活消費財、ス
ナック菓子や飲料水、ジュースといった食品など、性能や品質に
大差がないものがこれに該当します。
 例えば、いつも「お〜いお茶」を買っていた人が、たまたま自
販機にいつもの「お〜いお茶」がなかった場合、他の自販機を探
してまで「お〜いお茶」を求めることはなく、他のお茶のボトル
で我慢するはずです。製品にあまり大きな差がないからです。こ
ういう商品を「低関与商品」というのです。
 問題は、代替商品として何を選ぶかです。このとき商品を決め
るのは、CMであるといいます。そこでメーカーとしては、低関
与商品には莫大な広告費を投じるのです。そこで、消費者が気に
入って使っている商品は、以後も同じものを購入してもらうツー
ルが、アマゾンダッシュボタンというわけです。
 つまり、アマゾンダッシュボタンを購入させることによって、
メーカーの乗り換えリスクを抑制しようというものです。ボタン
は500円ですが、注文すると500円引きになるので、実質無
料です。アマゾンは、この低関与商品には強いこだわりを持って
います。最近は乗用車ですら、あまりブランドにこだわらず、単
なる移動手段と考える人が多くなっており、商品の低関与化が進
んでいます。
 ちなみに、アマゾンダッシュボタンは2018年に運用を終了
し、バーチャルボタンに変更になっています。
             ──[デジタル社会論U/020]

≪画像および関連情報≫
 ●アマゾン、「ダッシュ」ボタンの販売を終了へ
  ───────────────────────────
   アマゾンは、全世界で「ダッシュ」ボタンの販売を終了す
  ることを決めたと米国時間2019年2月28日に明らかに
  した。人々が使用を続ける限り、同社は既存のダッシュボタ
  ン経由での新規注文をサポートし続ける予定だ。
   それでは、ダッシュボタンはなぜ廃止されるのだろうか。
  アマゾンによると、このデバイスは、コネクテッドホームの
  概念を今日のものに近づけるのに貢献したため、自らの成功
  の犠牲になってしまったという。
   当初からダッシュプログラムの拡大に尽力したアマゾンの
  バイスプレジデントのダニエル・ラウシュ氏によると、ダッ
  シュボタンが最初に発売された2015年の時点では、コネ
  クテッドホームガジェットの選択肢は今よりもはるかに少な
  かったという。アマゾンの従業員は、ペーパータオルやプリ
  ンタのインクなどの食料雑貨類、わざわざ外出して購入する
  ことを面倒くさく感じるほかのあらゆる商品について、「購
  入の手間を不要にする」方法を考え出そうとしていた、とラ
  ウシュ氏は述べた。従業員らは従来の家電製品にちょっとし
  たインターネット接続機能を一瞬で追加(例えば、洗濯洗剤
  用のダッシュボタンを洗濯機に設置)できる即席の方策とし
  て、ダッシュボタンを採用した。この4年間で、アマゾンは
  何十種類もの商品のダッシュボタンを開発し、何百万個もの
  ダッシュボタンを出荷した。   https://bit.ly/3hzVIyD
  ───────────────────────────
アマゾンダッシュボタン.jpg
アマゾンダッシュボタン
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月21日

●「CCCがマイナスになるアマゾン」(第5493号)

 アマゾンの上場は1997年ですが、上場以来、株主に配当を
一度も支払っていないのです。なぜ、配当を払わないのかという
と、配当に回すほど利益を出していないからです。しかし、株価
はなぜか高いのです。
 ここに2010年〜2017年までのアマゾンの経営データが
あります。このデータを分析すると、アマゾンという企業の特徴
を知ることができます。
─────────────────────────────
 ◎アマゾンのキャッシュフロー     単位:100万ドル
          純利益   営業CF  フリーCF
  2010年  1152   3495   2516
  2011年   631   3903   2092
  2012年   −39   4180    395
  2013年   274   5475   2031
  2014年  −241   6842   1949
  2015年   596  12039   7450
  2016年  2371  17272  10535
  2017年  3033  18434   8376
               ──成毛眞著/ダイヤモンド社
           『amazon/世界の戦略がわかる』
─────────────────────────────
 純利益とは、企業がすべての経費・税金などの支払いを済ませ
たあとに残る利益のことです。この純利益から株主に配当が支払
われます。アマゾンの場合、2017年度は約30億ドルですが
これはトヨタ自動車の8分の1程度でしかないのです。しかも、
2014年度にいたっては、2億4000万ドルの赤字です。と
ても配当どころではないのですが、株価は上昇しています。
 営業キャッシュフローというのは、単純にいえば、売上高から
仕入れを引いた値のことです。この数値を見ると、本業が生み出
す現金がどのくらいあるかわかります。この数値を見ると、アマ
ゾンは右肩上がりに成長しており、本業がきちんと現金を生み出
していることがわかります。
 フリーキャッシュフローとは、営業キャッシュフローから、事
業拡大に必要な設備投資などの投資を引いた数値のことです。こ
の数値は、借金の返済、社債の償還、株主への配当など、支払わ
なければならないものを引いたあとの金額であり、企業が自由に
使えるお金のことです。そのため、フリーキャッシュフローとい
うのです。
 営業キャッシュフローとフリーキャッシュフローの数値を比較
すると、営業キャッシュフローは順調に伸びているのに、フリー
キャッシュフローは、2010年から2014年までは激減して
います。この時期にアマゾンは、本業で稼いだ営業キャッシュフ
ローのほとんどを投資に回していたのです。その金額は日本円で
数千億円規模であり、小売業としては、想像を絶する巨額の投資
になります。
 アマゾンは、どうしてこれだけの投資ができるのでしょうか。
ひたすら、未来の投資に賭けています。アマゾンの創業者、ジェ
フ・ベソス氏は、キャッシュフロー経営を重視し、それがアマゾ
ンを支えているのです。その点を探ってみることにします。
 CCC──キャッシュ・コンバージョン・サイクルという数値
があります。CCCの定義は次の通りです。
─────────────────────────────
 企業が商品や原材料を仕入れ、仕入代金を購入先に支払って、
その後その商品や原材料を加工してできた製品を販売して、その
販売代金を回収するまでにかかる日数を示す経理的な指標がキャ
ッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)です。
                  https://bit.ly/3yq469Z
─────────────────────────────
 要するに、CCCとは、仕入れた商品を売って、何日間で現金
化されるかを示したものです。CCCは、「○○日」というかた
ちで示されます。小売店でいうと、ウォルマート・ストアズの場
合、CCCは12日です。つまり、商品を仕入れて、代金を回収
するまで、約12日かかるという意味です。
 この間の運転資金は、普通は銀行からの借り入れで用意するこ
とになります。しかし、ウォルマートのように、売上高が大きく
なると、1日に必要な運転資金も巨額になります。ウォルマート
の売上高は、日本円で年間60兆円であり、その12日分は2兆
円になります。ウォルマートは、この2兆円を自己資金か借入金
で捻出しなければならなくなります。
 規模の小さいラーメン店のような現金商売の飲食店などは、C
CCはマイナスになります。なぜなら、売り上げは現金で入り、
材料費や人件費などの支払いは後になるからです。仮にCCCが
10日であるとすると、10日の間、販売代金を自由に使えるこ
とになります。
 成毛真氏は、自著で、日本の出版社とネットメディアをCCC
で比較し、次のように論じています。
─────────────────────────────
 日本の出版社のCCCは、一般的にプラス180日だ。日本の
出版社では、卸を通して、だいたい出版から6カ月後に入金され
るのが慣例だ。しかし、ネットメディアはCCCがマイナス、も
しくはプラスでもかなり短い。まず、会員サイトの場合、会員費
は前払いなので、その分マイナスになる。また、事前に、広告を
取ってくるとこれもマイナスだ。あるいは、ウェブ広告がクリッ
クされたらその瞬間(遅くても平均15日後くらい)に入金され
る。広告自体も、クライアントが作ってくれるから、こちらの費
用はゼロである。 ──成毛眞著/ダイヤモンド社の前掲書より
─────────────────────────────
 実は、アマゾンのCCCは、マイナスなのです。モノが売れる
前から入金されているからです。
             ──[デジタル社会論U/021]

≪画像および関連情報≫
 ●お金を生む力。アマゾンとZARAは「CCC」がすごい
  ───────────────────────────
   ユニクロがしまむらに負けている経営指標がある──。そ
  れは企業がキャッシュ(お金)を生み出す力を示す「キャッ
  シュ・コンバージョン・サイクル(CCC)」である。
   企業経営では、実際の現金の出入りをより重視する「キャ
  ッシュフロー経営」が叫ばれて久しい。そうした中、いま注
  目が集まっているのがCCCである。その注目のCCCにつ
  いて、身近なアパレル業界の例を中心に、財務戦略アドバイ
  ザーでインテグリティ代表取締役の田中慎一氏が解説する。
   日本の資本市場では、2000年くらいから「キャッシュ
  フロー経営」が注目されて、投資家は企業に出入りするキャ
  ッシュ(現金)をより重視するようになっています。その背
  景には、日本の資本市場では、1990年代の後半から、日
  本の会計制度をグローバル化させようとする「会計ビッグバ
  ン」という動きがありました。銀行と事業会社の株の持ち合
  い解消や金融のグローバル化の流れも相まって、外国人株主
  が日本の市場にもかなり入ってきていました。
  そういう大きな流れの中で最近にわかに注目を浴びてきたの
  が「キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)」と
  いう指標です。今もそうですが、日本にはそれぞれの業界に
  商習慣があります。売上代金の回収や仕入れ代金の支払いな
  ど「月末締め・翌月末払い」というような慣習がなんとなく
  あります。その中で、なかなかコントロールが利かなかった
  商習慣の世界を、CCCという指標で見て、企業のキャッシ
  ュフロー経営の「実力」を測るというのがCCCです。
                  https://bit.ly/3hx45v4
  ───────────────────────────
アマゾン/2.jpg
アマゾン/2
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月24日

●「アマゾンCCCはマイナス30日」(第5494号)

 キャッシュ・コンバージョン・サイクル──CCCの話の続き
です。企業にとって、CCCがマイナスで推移するということは
製品を作る前から資金が入ってくる状態を意味しており、その資
金を有効活用できるメリットがあります。
 米国の多国籍コンピュータテクノロジー企業「デル」のCCC
はマイナス40日です。その秘密は、受注生産方式というビジネ
スモデルにあります。受注生産なので、在庫を多く持つ必要がな
いのです。とくに半導体などは陳腐化が激しく、棚卸資産を持た
ない方が合理的です。
 デルの創業は1984年です。当初はごく小さなスタートアッ
プに過ぎなかったのですが、その頃から創業者のマイケル・デル
氏は、会社の成長スピードを加速するために、CCCをマイナス
にすることに強くこだわっていたのです。それを実現したのが受
注生産方式だったのです。例えば、デルの場合、PCの仕様を顧
客の要望に合わせて設計し、その段階で料金を受け取り、それか
ら何日かかけて製品を作り上げるのです。
 CCCがマイナスであれば、売上高が成長している限り、事業
を行っているだけでキャッシュが創出されます。このため、新市
場への進出のさいに必要となる投資について、資金調達で頭を悩
ませる必要がないのです。CCCがマイナスであることは、企業
の成長を速めるという点で極めて有効です。
 アマゾンの場合、CCCは次のようになっています。これによ
ると、物流倉庫にある商品が販売される約30日も前にすでに現
金になっていることをあらわしています。
─────────────────────────────
       アマゾンのCCC=−28・5日
─────────────────────────────
 どうしてアマゾンのCCCがこれほど大きいマイナスになるの
かというと、「マーケットプレイス」がその役割を担っていると
考えられます。マーケットプレイスとは、アマゾン以外の業者で
もアマゾンに出品できる仕組みのことであり、これについては、
既に述べた通りです。マーケットプレイスを利用する業者のほと
んどは、FBAを利用するので、商品の支払金額はアマゾンが一
括して受け入れ、アマゾンに入ってきます。アマゾンは、その商
品の購買金額から手数料を差し引いて、数週間後に出品業者に支
払いますが、そこには数週間のタイムラグが生じます。このいわ
ば、預り金によって、アマゾンのCCCがマイナスになっている
のです。この預り金はアマゾンが無利子で運用できる資金という
ことになります。
 この預り金がどのくらいの金額になるかについて、成毛眞氏の
本には、あるコンサルタントの分析結果が紹介されています。
─────────────────────────────
 2013年時点での試算だが、ある米在住流通コンサルタント
の仮説では、預かり金でアマゾンが無利子で自由に運用できる額
は19億ドルに達すると指摘している。これは、支払いまでの期
間を2週間と仮定して計算をした場合の数字だ。マーケットプレ
イスの流通総額を550億ドルと試算し、総額の約9割を2週間
後に業者に支払ったとして計算すると、550億ドル×O・9÷
1年(365日)×14日=19億ドル。アマゾンはマーケット
プレイスを運営することで、日本円にして、常時2000億円程
度の自由に扱えるキャッシュを手にしていることになる。これは
あくまでも2013年時点の推論だ。マーケットプレイスが当時
より拡大を続けている現在では、この金額はさらに増えているだ
ろう。            ──成毛眞著/ダイヤモンド社
           『amazon/世界の戦略がわかる』
─────────────────────────────
 アマゾンは、日本円にして「常時2000億円程度の無利子で
自由に扱えるキャッシュを手にしている」ということになります
が、これは大変なことです。これだけの資金があるからこそ、ア
マゾンは、次々と新しいことに投資できるのです。
 もうひとつ、アマゾンは、品質にほとんど差のない書籍や日用
品の仕入れには、「カスケード」という独特のシステムを使って
行っています。ある商品を1千個仕入れる場合を考えます。
 その商品を扱う複数の卸業者に同時に見積もりをとりますが、
そのとき、もっとも安い価格を提示した業者から必要分をすべて
買い入れます。もし、それが1千個に満たないときは、次に安い
価格を示した業者から買い入れ、それを1千個になるまで続ける
のです。これがシステムで、全自動で行われるのですが、このシ
ステムを「カスケード」といいます。
 最も安い価格を示したAという業者から200個、次に安い価
格を示したBという業者から300個、さらに安い価格を提示し
た業者から150個というように仕入れていくので、結局最安値
で仕入れることになります。これが「カスケード」というアマゾ
ン独特の仕入れシステムです。
 この「カスケード」という言葉は、アマゾン川にみられる高低
差の少ない、小さく連なった滝からきているそうです。アマゾン
があちこちの業者から、安い見積もり順に、必要個数に達するま
仕入れを続けるさまがアマゾン川の滝に似ていることから、そう
呼ばれるのです。
 マーケットプレイス+FBAというシステムは、アマゾン独特
のものではありません。アップルの「アップストア」やグーグル
の「グーグルプレイ」によるアプリの販売も、これときわめてよ
く似た仕組みです。ウォルマートも遅ればせながら、マーケット
プレイスをはじめています。しかし、楽天をはじめ、日本の企業
でやっているところはないのです。
 アマゾンは、ECという小売り事業を極限まで極め、多大の利
益を出しながら、株主に一度も配当を支払わないで、ひたすら投
資を続けていますが、一体何を目ざしているのでしょうか。それ
を明日からのEJで、少しずつ探っていたきいと思います。
             ──[デジタル社会論U/022]

≪画像および関連情報≫
 ●アマゾン/世界の最先端がわかる/その10
  ───────────────────────────
   もう一度キーワードである「キャッシュ・コンバージョン
  ・サイクル」(CCC)を説明します。「90円で仕入れた
  ボールペンを100円で売る文房具屋」で例えてみます。
   今日仕入れたボールペンの代金をその場で卸業者に支払い
  それが売れたのが1か月後だったとします。その1か月の手
  元の現金はマイナスですね。その現金の状況を把握するのが
  「キャッシュフロー経営」ですね。しかし、さらにその現金
  がいつまで回収されるのが、この「CCC」なのです。この
  文房具屋はCCCは「プラス30日」です。
   小売業としては一般的なレベルのかもしれませんね。また
  日本の出版社のCCCは、一般的にプラス180日なんだそ
  うです。つまり、日本の出版社は、だいたい出版から6か月
  後に入金されるのが慣例なのです。「出版不況」といわれて
  久しいですが、180日間出版社は借入金どで「食いつなが
  なければ」ならないのです。CCCということが、いかに重
  要かわかりますね。
   CCCは通常プラスになると思いがちですが、ラーメン屋
  の例が出ていました。ラーメン屋は日銭が入りますね。それ
  に比べて材料や人件費は後払いなのです。CCCがマイナス
  ということになります。ラーメン屋が新規参入されやすいと
  いうのは、先にお金が入り、開店時の資金が少ないからなの
  ですね。            https://bit.ly/3bKXNEy
  ───────────────────────────
アマゾン川のカスケード.jpg
アマゾン川のカスケード
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月25日

●「アマゾン・プライムの狙いは何か」(第5495号)

 アマゾンの「CCCマイナス」に貢献しているものとして、ア
マゾンプライム会員制についてふれる必要があると思います。
 ビジネスメディアのインプレスは、アマゾンプライム会員につ
いて次の記事を配信しています。
─────────────────────────────
 アマゾンの創業者でCEO(最高経営責任者)のジェフ・ペゾ
ス氏が株主向けに宛てた年次書簡で、「アマゾンプライム」の会
員数が、グローバルで2億人を超えたことを明らかにした。20
19年12月期の決算発表で、12月末時点のプライム会員数が
1億5000万人を突破したと公表しており、約1年で5000
万人以上増加している。       https://bit.ly/2TdyeW8
─────────────────────────────
 アマゾンの「プライム会員」とは何でしょうか。
 アマゾンは誰でも利用できますが、年会費を支払ってプライム
会員になると、配送に関する特別サービスをはじめ、動画や音楽
を無料で楽しめるなど、過剰なサービスが受けられる特典があり
複数回アマゾンを使う人であれば、会員になったほうがトクであ
ることは確かです。ただ会費は値上がりする可能性があります。
 ジェフ・ペソス氏は、2001年にコストコの創業者のジム・
シネガル氏に会って、会員制サービスについて教えを受けたとい
われています。コストコは、会員制の倉庫型卸売・小売チェーン
であり、日本でも店舗を拡大しています。
 このアマゾンプライムの年会費は、国によって異なり、これを
みると、アマゾンが日本市場をいかに重視しているかわかるとし
て、成毛眞氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 アマゾンの日本市場への期待は、プライム会員の年会費に如実
に表れている。米国が119ドル(約1万2000円)、イギリ
スが79ポンド(約1万4000円)。ドイツがちょっと下がっ
て49ユーロ(約6500円)で、日本はさらに低い3900円
(現在は4900円)だ。世界的に見ると、破格の値段設定だ。
『週刊東洋経済』で、アマゾンの世界のプライム事業を統括する
役員は、「『プライム会員にならないことはありえない』という
状況を目指している」と語っている。この発言からも、日本では
まだまだプライム会員を増やせると判断していることがわかる。
 2017年からは、年契約だけでなく、1ヵ月単位(料金は月
400円め現在は500円)で契約できるプランを開始したこと
にも、日本での利用者増への期待が透けて見える。手軽に入会で
きるような仕組みを作ることで「とりあえず入会してみる」層を
増やす狙いだ。        ──成毛眞著/ダイヤモンド社
           『amazon/世界の戦略がわかる』
─────────────────────────────
 年会費が1万円を超える米国と英国──一定以上の所得がない
人にとっては少し高い会費ですが、退会する人は少ないといわれ
ます。それは、やめることによるデメリットが、あまりにも大き
過ぎるからです。退会すると、送料が有料になったり、見ている
連続ドラマが観られなくなったり、音楽も聴けなくなってしまう
からです。そもそもサービス自体が過剰であり、会員のメリット
が年会費を十分上回っているからです。
 それに対して日本の年会費は4900円、どうしてこんなに安
いのでしょうか。それは、アマゾンにとって、日本市場の今後の
可能性が大きいからです。
 日本の総人口が約1億2600万人に対し、英国は6700万
人、ドイツは8300万人です。日本の人口は両国より5〜8割
多いにも関わらず、英国やドイツの方が、アマゾンの売り上げが
日本より多いのです。つまり、人口などから考えて、伸びしろが
多いと判断しているからこそ、「囲い込み」のために会費を抑え
ていると推測できるのです。人口と地域別売り上げから判断して
伸びしろが少ないであろう英国の年会費が、ドイツや日本よりも
はるかに高いことからもそれは明らかです。
 ちなみに、アマゾンのプライム会員の特典は、2017年当時
は次の10種類です。
─────────────────────────────
   1.当日配送(お急ぎ便)
   2.お届け日時指定
   3.プライムナウ(2時間で届く/一部エリア)
   4.映画・TV・アニメが見放題
   5.キンドル数百冊無料(電子書籍)
   6.キンドルファイアなどタブレット端末の割引
   7.アマゾンパントリー
   8.アマゾンファミリー
   9.プライムフォト(写真を容量無制限で保存)
  10.先行タイムセール
         ──成毛眞著/ダイヤモンド社の前掲書より
─────────────────────────────
 アマゾンプライム会員の会員費は、アマゾンの売上高にどの程
度を占めるでしょうか。2017年の売上高を例にとると、次の
ようになっています。プライム会員費は5・5%です。会員費は
先払いであるので、CCCマイナスに貢献大です。
─────────────────────────────
      本業の小売り ・・・・ 60・9%
      マーケットプレイス ・ 17・9%
      AWS ・・・・・・・  9・8%
      会員費 ・・・・・・・  5・5%
      店舗売上 ・・・・・・  3・3%
      その他 ・・・・・・・  2・6%
─────────────────────────────
 これを見ると、マーケットプレイスは17・9%であり、大き
な割合を占めています。明日は、「AWS」について考えます。
             ──[デジタル社会論U/023]

≪画像および関連情報≫
 ●会員すら知らない「アマゾンプライム」の多すぎるメリット
  ───────────────────────────
   たとえばアマゾンプライムというサブスクリプション(定
  額サービス)モデルが定着しているのも、アマゾンの特筆す
  べき強みだ。
   定額収入による売上げ及び利益への貢献、ロイヤルカスタ
  マーの囲込みを目論み、現在多くの企業がサブスクを導入、
  模索しているが、アマゾンプライムの日本でのサービス開始
  は、今から13年も前の2007年である。
   アマゾンのサブスクモデルは、2007年以降、年間39
  00円で提供され、徹底的に顧客メリットを追求し、サービ
  ス内容ではますます付加価値が拡大、顧客のお得感が醸成さ
  れている。昨年、4900円に値上げされても、サービス内
  容への高い顧客満足度から解約への影響は少なかった。
   アマゾンの「利益よりも投資を優先させ、スケールメリッ
  トを最大化させる」という戦略の上で成り立つサブスクモデ
  ルは、誰でも真似できるわけではないが、顧客のメリット、
  そしてアマゾンのライフタイムバリュー(LTV顧客生涯価
  値)まで見据えた戦略をまとめてみたい。
   アマゾンにとってのメリットは月々の会費が固定的な収益
  になることだけではない。プライム会員は当然ながら一般顧
  客よりも購入のリピート率が高く、一回当たりのバスケット
  価格(一度の購入金額、購入数)も高額であることがわかっ
  ている。プライム会員の存在が売上を構成する「顧客数×ア
  クティブ顧客×頻度×購入額」の増大に大きく寄与している
  のだ。             https://bit.ly/3wsJZ9r
  ───────────────────────────
アマゾン・プライム.jpg
アマゾン・プライム
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月26日

●「大規模接種センター出現の大混乱」(第5496号)

 ワクチンの接種で大混乱が起きつつあります。この問題もデジ
タル社会と関係があるので、今日のEJではこの問題について考
えることにします。政府として、約3600万人の高齢者の接種
終了を7月末と決めたことにより、都道府県レベルで、それぞれ
大規模接種センターを設立する動きが加速しています。東京都で
は東京ドームも大規模接種センターとして使われるそうです。
 2021年5月24日付の朝日新聞は、この動きに関して次の
ように報道しています。
─────────────────────────────
 ◎1回目受けた高齢者まだ数%/「混乱あっても前に」
 次々と会場設置の方針を表明する各府県。背景にあるのは「焦
り」だ。高齢者への接種開始は4月12日。しかし内閣府や昨年
1月の住民基本台帳の人口をもとに朝日新聞が算出したところ、
接種を1回受けた高齢者は全国で2・6%(5月16日時点)に
とどまる。      ──2021年5月24日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 しかし、自治体での通常の予約に加えて、大規模接種センター
での接種をはじめると、当初の自治体での登録と、大規模接種セ
ンターへの予約の二重登録者が多く出ることは避けられなくなり
ます。その理由は、自治体で接種の予約はとれたものの、接種が
8月や9月以降になった人も多いと思います。しかし、大規模接
種センターならもっと早く打てるとなると、既に予約が完了して
いても、それらの人が大規模接種センターでの予約に殺到するこ
とは火を見るよりも明らかです。
 この場合、大規模接種センターで予約がとれた場合、先にとれ
ている自治体の予約を取り消す必要がありますが、すべての人が
それをやるとは限らないし、いずれにしても自治体の接種計画に
大きな狂いが生ずることになります。
 どうして大規模接種センターに殺到するかというと、高齢者に
とっては、ワクチンが打てるかどうかが命の問題に関わってくる
からです。なぜなら、今コロナに罹患すると、入院もできず、治
療も受けられず、自宅待機(これは自宅放棄である)になってし
まう可能性が高いからです。これは政府に責任があります。
 それでは、自治体の予約はなぜ取りにくいのでしょうか。
 そもそも接種券には、予約をいつから受け付けるかが書かれて
いないのです。私はそれを知るために、事前に指定のURLにア
クセスして、受付日と時間を知ったのです。受付サイトには次の
メッセージが出ていました。
─────────────────────────────
   5月10日/午前8時30分から(24時間受付)
─────────────────────────────
 私の場合、10日の受付開始時間ジャストにネットにアクセス
したところ簡単に接続できました。最初に医療機関を指定して予
約するか、接種日を指定して予約するかの選択がありましたが、
迷わず後者を選択し、第1回接種日と第2回接種日の両方の予約
に成功し、5月21日に既に1回目の接種を完了しています。2
回目の接種日は6月11日です。
 ちなみに、PCでもスマホでも予約登録できますが、スマホの
方が、画面も小さいし、かえって難しいと思います。LINEで
の簡単なメッセージ交換ができる程度の高齢者のレベルでは、と
ても予約登録は困難です。これからのデジタル社会に備えて、ス
マホからではなく、ICTはPCからマスターすべきです。
 懸念することはまだあります。本日、5月26日時点でも、ま
だ接種券が届いていない高齢者が多くいるのです。これについて
5月24日付の日本経済新聞は次のように報道しています。
─────────────────────────────
 大都市圏では滞りが目立つ。「まだ接種券も届いていない。7
月には2回目を打ちたいけれど、大丈夫かしら」。東京都練馬区
の女性(69)は不安を口にする。同区は予約殺到の混乱を避け
るため接種券の送付を75歳以上から開始し、65〜74歳は5
月25日に発送する。荒川区は26日の発送だ。券が届いても予
約を受け付けるサイトや電話につながらないケースを相次いだ。
 菅義偉首相は4月23日、高齢者接種の7月末終了を打ち出し
多くの自治体が計画の急な変更を迫られている。
         ──2021年5月24日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 問題は、政府の場当たり的な接種計画の変更にあります。世界
的に見ても接種率の低い日本の現状に焦ったのか、菅首相は当初
8月末日であった高齢者への接種完了を7月末日に1か月引き上
げたのです。そこで登場したのが、東京と大阪の大規模接種セン
ターであり、それに加えて各自治体独自の接種センターの登場で
す。これらの接種センターでの予約には接種券が必要です。
 そもそもほとんどの自治体では、混乱を避けるために年齢を制
限して、計画的に接種券を送付していたのです。ところが政府に
よって接種完了期日が前倒しされ、大規模接種センターでの接種
が可能になっています。しかし、多くの高齢者は、早く接種を受
けるために大規模接種センターを予約したくても、接種券がない
という状態になったのです。これは、自治体が悪いのではなく、
政府の計画変更に原因があります。
 もっと深刻な問題があります。現在でも予約がとれない高齢者
は大勢います。政府が高齢者の接種完了を7月末にしたのは、一
般人の接種を8月からはじめたいからです。おそらくその時点に
おいても、高齢者の接種はまだ終わっていないはずです。
 高齢者に限定されていても接種予約がとれない高齢者について
は、一般人の予約が始まると、競争が激しくなり、さらに予約が
とりにくくなります。もし、政府が何も手を打たないと、それら
の高齢者は、「接種を希望しない人」として処理されてしまうこ
とになります。接種会場が増えること自体はよいことですが、政
府は、接種したくても接種できない高齢者が出ないよう配慮すべ
きです。         ──[デジタル社会論U/024]

≪画像および関連情報≫
 ●「正しく入力したのに…」/大規模接種の予約、続く混乱
  ───────────────────────────
   政府が東京と大阪に設置する新型コロナウイルスワクチン
  の「自衛隊大規模接種センター」のインターネット予約をめ
  ぐり、「システムに正しく入力しても、予約ができない」と
  いった住民からの問い合わせが、都内の自治体に相次いでい
  る。防衛省はシステムに不備があったとし、5月21日中に
  改修する方針を示した。続く混乱に、自治体からは、「国は
  しっかりとしたシステムを作ってほしい」と批判の声が、上
  がっている。
   「予約システムに接種券の番号を正しく入力しているが、
  予約ができない。区の番号がおかしいのではないか」。東京
  都板橋区では、大規模接種センターの予約受け付けが始まっ
  た17日以降、区民からの苦情や問い合わせが数十件寄せら
  れた。区の担当者によると、防衛省側に照会したところ「シ
  ステム上の問題」と説明されたといい「区としてはどうしよ
  うもない」と、頭をかかえる。区民からの問い合わせには、
  「板橋区が送った番号は間違いないのでご安心ください。シ
  ステムのことは、国に聞いてもらえますか」と説明している
  という。大規模接種センター東京会場の接種対象は、東京、
  千葉、神奈川、埼玉の1都3県の在住者。予約の集中を避け
  るため、17日から東京23区の65歳以上の高齢者から先
  行してインターネット予約が始まっている。
                  https://bit.ly/3feB05T
  ───────────────────────────
大規模接種センター/東京.jpg
大規模接種センター/東京
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月27日

●「AWS/その知られざるビジネス」(第5497号)

 アマゾンといえば、当初は「インターネット書店」、現在では
「EC(電子商取引)の王者」という印象ですが、ICT業界で
は、アマゾンを「世界最大の企業向けのクラウドサービス提供会
社」と認識しています。
 クラウドサービス──これをアマゾンでは「AWS/アマゾン
・ウェブ・サービス」と呼んでいます。AWSは、クラウド・コ
ンピューティング・サービスの世界に革命を起こしたといっても
過言ではないほどの大変化をもたらしているのです。
 いわゆるクラウドコンピューティングサービスが登場するまで
は、サーバーを利用する必要があれば、企業は自社の建物の中な
どにサーバー機器を設置して利用するのが一般的だったのです。
こういう運用形態のことを「オンプレミス/on-premises」と 呼
んでいます。これには非常にコストがかかるのです。
 成毛眞氏は、AWSはアマゾンにケタ違いの儲けを生み出して
いるビジネスであるとして、AWSについて、次のように説明し
ています。
─────────────────────────────
 AWSは、巨大なサーバーを用意し、その中のシステム(高度
なデータ解析やAIを活用したサービスなど)をオンラインで、
あらゆる企業に提供する形にした。AWSのクラウドサーバーを
共有すれば、企業はわざわざ自社内にサーバーを置く必要がなく
なる。それぞれの企業が、独自にシステムを開発し運用するより
もはるかに安いコストで、高性能なシステムが使えるようになる
のだ。また、クラウドサービスは、大きくすればするほど、コス
トが削減できる。たとえば日本企業であれば、深夜にはコンピュ
ーターはほとんど使わない。しかし、時差があるニューヨークに
ある企業は、日本で使っていない深夜帯に同じサーバーを利用す
ることができる。こうしてコンピューターの減価償却費や電力コ
スト、メンテナンスの人件費などが抑えられる。これを地球上の
無数の企業に展開すれば、さらに安くなるというわけだ。
               ──成毛眞著/ダイヤモンド社
           『amazon/世界の戦略がわかる』
─────────────────────────────
 アマゾンは、その業態からいえば、いわゆる本家のICT企業
ではないのに、なぜ、クラウド・コンピューティング・サービス
の世界に君臨できているのでしょうか。
 ちなみに、クラウドコンピューティングとは、インターネット
を介してサーバー・ストレージ・データベース・ソフトウェアと
いったコンピューターを使った様々なサービスを利用することを
指します。クラウドコンピューティングでは、手元に1台のPC
とインターネットに接続できる環境さえあれば、サーバーや大容
量のストレージ、高速なデータベースなどを必要な分だけ利用で
きるわけです。
 それでは、どうしてAWSは、大手のICT企業をさしおいて
幅広く使われているのでしょうか。
 それは、AWSが「クラウドのデパート」といわれるように、
企業がすぐ使える数多くのサービスを揃えているからです。しか
もそれらを驚くべき安い価格で提供していることです。競合相手
であるヒューレット・パッカードは、2015年に撤退している
し、IBMは、比較的利益の大きいサービスに絞っています。
 「デファクトスタンダード」という言葉があります。ISO、
DIN、JISなどの標準化機関などが定めた規格ではなく、市
場における競争や、広く採用された「結果として事実上標準化し
た基準」を意味していることばです。
 これまでも大型コンピュータではIBM、PC用のOSではマ
イクロソフト、半導体ではインテルが、それぞれの分野で覇者に
なっています。それと同様に、クラウド・コンピューティングの
世界では、AWSがIBMやヒューレッドパッカードを制して覇
者になろうとしているのです。
 成毛眞氏の本には、そのことを裏付ける象徴的な話が出ている
ので、ご紹介します。
─────────────────────────────
 AWSの大きな転機となった顧客がいる。米中央情報局(CI
A)である。2013年に6億ドルで4年間の契約を結んだ。米
航空宇宙局(NASA)なども顧客であったが、CIAの受注先
が変わったのは衝撃だった。政府機関の仕事は、IBMのような
昔からの大企業が独占的に受注してきたからだ。
 IBMは政府に再度検討するよう求めたが、米連邦裁判所が、
「AWSのオファーの方が技術的に優れており、競合の結果は、
接戦とは言いがたいほどかけ離れていた」とIBMの要求を退け
たから、これはある意味宣伝効果がすごい。AWSの信用に政府
それも機密情報を取り扱うCIAがお墨つきを与えたことで、多
くの公的機関や企業が、AWSの導入に向け、より前向きに動き
出すことになった。日本でも日立製作所やキャノン、キリンビー
ル、ファーストリテイリング、三菱UFJ銀行、スマートニュー
スなど業種を問わず、大企業から新興企業まで続々とAWSを導
入し始めている。       ──成毛眞著/ダイヤモンド社
           『amazon/世界の戦略がわかる』
─────────────────────────────
 ネットフリックスという企業があります。米国に本社を置く、
世界的な定額制動画配信サービス及びオンラインDVDレンタル
運営会社です。2017年12月の時点で190ヵ国以上で配信
事業を展開し、2020年の売上は250億ドル、世界の契約者
数は2020年末時点で2億370万人であり、アマゾンと完全
に競争領域が重なっています。しかし、そのネットフリックスも
AWSを使っているのです。
 クラウドの利用とは対極にあると思われていた銀行もAWSを
利用しています。三菱UFJ銀行は、1000のシステムがあり
ますが、順次AWSに切り替えており、将来的には半分をクラウ
ド化しようとしています。 ──[デジタル社会論U/025]

≪画像および関連情報≫
 ●アマゾンのドル箱となったAWSがこれほど破壊的
  である理由
  ───────────────────────────
   アマゾンをEコマースの会社だと思っているなら、認識を
  改めた方がいいかもしれない。Eコマースは、インフラを構
  築し、クラウドサービスとして販売することを正当化する口
  実のようなものだ。一番おいしい収益を上げているのは「ア
  マゾン・ウェブ・サービス」なのだ。
   アマゾンの第3四半期の業績がそれを物語っている。実際
  にアマゾンの業績報告を見てみれば分かる。アマゾンの総売
  上高のうち、AWSは8%だが、営業利益で見ると同事業は
  52%を占めているのだ。これは、AWSがアマゾンの北米
  のEコマース事業と同じ額の利益を上げていることを意味す
  る。これがどういうことか、分かるだろうか。アマゾンは、
  北米で5億2800万ドルの営業利益を上げるのに、150
  億ドルの売上高を必要とした。しかしAWSは、20億80
  00万ドルの売上高から、5億2100万ドルの営業利益を
  上げたのだ。
   どうやら、筆者が2008年に記した予言は正しかったよ
  うだ。当時筆者は、次のように書いている。
   アマゾンは、同社の「EC2」サービス用の永続的なスト
  レージサービスを発表した。注目すべきは、Eコマース事業
  者である同社が、いかに素早く競争の先頭に躍り出たかだ。
  実際、アマゾンの本当の事業は今後クラウドサービスになる
  と予想される。         https://bit.ly/3oJOJVu
  ───────────────────────────
AWS.jpg
AWS
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月28日

●「AWSのシェアは約4割を占める」(第5498号)

 AWSがいかにアマゾンを支えているかについて考えてみるこ
とにします。2017年のデータですが、アマゾン全体の営業利
益が41億ドルであるのに対して、アマゾンの一事業部門に過ぎ
ないAWSの営業利益は43億ドルなのです。これにより、AW
Sが、いかにアマゾンの通販事業の赤字を補っているかがよくわ
かります。
 アマゾン全体の売上高のなかでAWSが占める割合は近年伸び
ており、2020年度は454億ドルであり、アマゾンの売上高
全体の11・8%を示しています。
─────────────────────────────
            AWS 全体売上のAWSの割合
  2014年   46億ドル        5・2%
  2015年   79億ドル        7・4%
  2016年  122億ドル        9・0%
  2017年  175億ドル        9・8%
  2018年  257億ドル       11・0%
  2019年  350億ドル       12・5%
  2020年  454億ドル       11・8%
                  https://bit.ly/3vo9QiC
─────────────────────────────
 成毛眞氏は、売上高でみるとAWSは約10%に過ぎないが、
営業利益率でみると、AWSの凄さがわかるとして、次のように
述べています。
─────────────────────────────
 AWSの営業利益率もすごい。営業利益率とは、売上高全体に
占める営業利益の割合である。営業利益の金額そのものは、企業
の規模により大きな差があるため、他社と比較するときには、営
業利益率を見た方が便利である。
 AWSの2017年の営業利益率は約25%。日本の上場企業
の営業利益率の平均は、およそ7%で、20%あれば高水準と言
われる。それを考えると、いかにAWSの利益貢献が大きいかが
わかるだろう。その上、アマゾンのクラウドサービスは低価格で
ある。必ずしも利益率の高いビジネスは目指していない。これで
競合他社の新規参入を抑えてきたことを考えると、驚異的な数字
といえよう。アマゾンのキャッシュフロー経営では、もちろん、
AWSの莫大といえる利益も、小売り部門への投資に惜しげもな
く、つぎこんでいる。     ──成毛眞著/ダイヤモンド社
           『amazon/世界の戦略がわかる』
─────────────────────────────
 ICT業界において、クラウドサービス事業といえば、IBM
の「IBMクラウド」、マイクロソフトの「アジュール」、グー
グルの「クラウド・プラットフォーム」が有名ですが、AWSに
はとても対抗できないほどの差があります。
 2016年のデータですが、売上高で比較すると、マイクロソ
フトの「アジュール」が24億ドル、グーグルの「クラウド・プ
ラットフォーム」が9億ドルであるのに対して、AWSは122
億ドルであり、圧倒的な差なのです。
 クラウド・コンピューティングの市場シェアを比較したデータ
があります。2017年と2018年を比較したものですが、現
在、猛烈なシェア争いが行われていますが、AWSは47・8%
と、圧倒的なシェアを誇っています。
─────────────────────────────
            2018年   2017年
    アマゾン    47・8%   49・4%
    マイクロソフト 15・5%   12・7%
    アリババ     7・7%    5・3%
    グーグル     4・0%    3・3%
    IBM      1・8%    1・9%
    その他     23・2%   27・4%
      計    100・0%  100・0%
                  https://bit.ly/3flAsvf
─────────────────────────────
 現在、世界のデータでクラウドに移されているのは、たったの
5%といわれます。ということは、クラウド・コンピューティン
グ事業の前には、95%の手つかずの市場が広がっていることに
なります。アマゾンは、どのようにして、このビジネスに注力し
拡大させたのでしょうか。
 このAWSの事業を手掛けたのは、アマゾンの創業者ジェフ・
ペゾス氏が最も信頼を寄せる参謀といわれる、アンディー・ジャ
シー氏という人物です。AWSのCEOであり、責任者です。こ
のジャーシー氏は、2013年のウォール・ストリート・ジャー
ナルで次のように述べています。
─────────────────────────────
 2000年代初めに小売りビジネスを迅速に展開するため、イ
ンフラ(システムの基盤)を構築しようと決めた。こうしたサー
ビスを構築する中で、他の企業にもこのサービスが役に立つと思
うのではないかと考えた。     ──アンディ・ジャシー氏
         ──成毛眞著/ダイヤモンド社の前掲書より
─────────────────────────────
 2021年2月2日、ジェフ・ベゾスCEOは、2021年第
3四半期にCEOを退任し、取締役会長に就任すると発表してい
ます。そのとき、後任のCEOにはこのアンディ・ジャシー氏を
就任させるということをアマゾンの全社員向けのメールで伝えて
います。それほどアンディ・ジャシー氏は、ジェフ・ペゾス氏に
とって、信頼を寄せている存在なのです。
 ジャシー氏がアマゾに入ったのは1997年、アマゾンが上場
した年です。ジャシー氏は、それから20年あまりで、AWSを
ゼロから立ち上げ、2016年からはAWSのCEOに就任して
います。このジャシー氏が今後のアマゾンのCEOとして活躍す
ることになります。    ──[デジタル社会論U/026]

≪画像および関連情報≫
 ●AWSの今後の将来性は?現状の需要と今後の動向を解説!
  ───────────────────────────
   AWSは、IaaSの中でも、特に利用されているもので
  す。市場の中ではリーダー的な存在であり、世界中で最も利
  用されているクラウドサービスです。
   現在のパブリッククラウドサービスの中で、最も求められ
  ているのがAWSです。AWSがこのような立ち位置に君臨
  しているのには理由があります。その例を挙げるとすれば以
  下のとおりです。
   @パブリッククラウドの中でも低価格
   A初心者でもわかりやすい操作性
   B提供サービス数が豊富
    それぞれの理由について簡単に説明をします。
   AWSは、パブリッククラウドサービスの中でも低価格で
  あることが特徴です。パブリッククラウドサービスはどこも
  料金を抑える傾向にありますが、AWSはその中でも低価格
  なポジションです。継続的に値下げもしていますので、金銭
  面で利用ハードルの低いクラウドサービスなのです。
   クラウドを利用する理由として、ランニングコストを抑え
  たいというのは往々にしてあるものです。それを実現できる
  環境という点で、需要が高まっています。
   AWSは全体的に直感的に利用できるUIが採用されてい
  ます。そのため、あまりクラウドに詳しくない人でも操作し
  やすくなっています。このことがサービスとしての利便性を
  高め、利用者を増やす要因となっています。
                  https://bit.ly/2RCRxI5
  ───────────────────────────
アンディー・ジャシー氏.png
アンディー・ジャシー氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(1) | デジタル社会論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月31日

●「アマゾンMGM買収での利害得失」(第5499号)

 アマゾンのCEO、ジェフ・ペゾス氏の退任日が、7月5日に
決定しました。5月27日付、日本経済新聞/夕刊はこのニュー
スを次のように伝えています。
─────────────────────────────
◎アマゾンCEO/ペゾス氏退任7月5日
 【シリコンバレー=白石武志】米アマゾン・ドットコムは26
日、創業者であるジェフ・ベソス最高経営責任者(CEO)の退
任日を、同社の設立記念日にあたる7月5日にすると明らかにし
た。2月に、次期CEOに指名されたクラウド部門トップのアン
ディ・ジャシー氏が同日付でCEOに昇格する。
      ──2021年5月27日付、日本経済新聞/夕刊
─────────────────────────────
 その次の日のことです。2021年5月28日、アマゾンが米
老舗映画会社メトロ・ゴールデン・メイヤー(MGM)を買収し
たという発表があったのです。その買収額は、債務を含む84億
5000万ドル(約9200億円)という巨額です。
 MGMは、「12人の怒れる男」「ロッキー」「ロボコップ」
「クリード」「羊たちの沈黙」など、4000本以上の映画作品
(カタログ)を所有しているほか、「ハウス・オブ・グッチ」「ノ
ータイム・トゥ・ダイ」「リスペクト」「アダムス・ファミリー
2」、ポール・トーマス・アンダーソン監督のタイトル未定作品
などの作品を予定しています。MGMのカタログには、ファーゴ
など、17000本以上のテレビ番組も含まれます。
 なぜ、アマゾンは、MGMを買収したのかというと、この買収
によって、MGMの映画やドラマなどの配信コンテンツを拡充し
アマゾンの有料会員サービス「プライム」の基盤を固めるのが目
的であることは明らかです。
 ネット動画配信サービスの市場は、コロナ禍による巣ごもりの
影響があって、米国だけでも2020年に34%に伸びており、
210億ドルを上回る規模に拡大しています。しかし、消費者が
動画配信サービスに支払う限度額は、月に50ドル程度といわれ
ているので、そこには限られたパイを奪い合う激しい競争が起き
ているのです。そのカギを担うのは、会員数です。
 その動画配信の主力4社の会員数の概要を比較すると、次のよ
うになります。主力4社は次の通り。アマゾンはMGMの会員を
含んだ数字であり、ワーナーメディアは、この5月、ディスカバ
リーと経営統合しています。
─────────────────────────────
    ◎会員数比較
     A ・・・・ 2億0000万人
     B ・・・・ 2億0764万人
     C ・・・・ 1億0360万人
     D ・・・・   5900万人
             アマゾン+MGM ・・・・ A
             ネットフリックス ・・・・ B
           ウォルト・ディズニー ・・・・ C
     ワーナーメディア+ディスカバリー ・・・・ D
         ──2021年5月28日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 2020年という年は、コロナ禍がはじまった年であり、緊急
事態宣言が発出され、ステイホームが増加し、映像ソフト業界は
大きな影響を受けたのです。日本映像ソフト協会(JVA)は、
2020年5月11日に「映像ソフト市場規模及びユーザー動向
調査」の結果を発表しています。
 この調査の結果によると、市場全体としては、6874億円、
前年比121・9%と前年を大きく上回ったのです。しかし、そ
の内容を見ると、そこに大きな変化がみられます。それは、レン
タル市場が大きく減少し、定額見放題(SVOD)が大幅増加し
ているのです。
────────────────────────────
    セル市場 ・・・ 1860億円(前年比 94%)
  レンタル市場 ・・・ 1041億円(前年比 83%)
 定額見放題市場 ・・・ 3973億円(前年比165%)
                  https://bit.ly/3i36LR9
─────────────────────────────
 その躍進している定額見放題市場を調べてみると、次のように
なっています。
─────────────────────────────
   ◎定額見放題
    アマゾン・プライム ・・・ 58・8%
     ネットフリックス ・・・ 21・8%
         フールー ・・・ 13・9%
   ◎デジタルレンタル
    アマゾン・プライム ・・・ 49・9%
     ネットフリックス ・・・ 10・8%
         フールー ・・・ 10・1%
   ◎セル(購入)
    アマゾン・プライム ・・・ 51・4%
     ネットフリックス ・・・ 13・4%
         フールー ・・・  7・9%
                  https://bit.ly/3i36LR9
─────────────────────────────
 ここに見るように、どの分野においても、アマゾン・プライム
が圧倒的です。これは日本の傾向ですが、世界でも同様の傾向が
みられるものと考えられます。2021年は、アマゾンは、MG
Mを買収し、MGMの持つ質の高い膨大なコンテンツを入手して
いるので、その地位は盤石なものとなりつつあります。ジェフ・
ペゾスCEOは「MGMのスタジオが持つ知的財産を21世紀ら
しく再考・発展させる」と抱負を述べています。
             ──[デジタル社会論U/027]

≪画像および関連情報≫
 ●MGM買収のアマゾン、プライムのコンテンツ費用は
  年間1兆2000億円
  ───────────────────────────
   アマゾンは5月26日、映画スタジオのMGMを84億5
  000万ドル(約9200億円)で買収することに合意した
  と発表した。ストリーミング業界で、ネットフリックスや、
  ディズニー、ワーナーメディアやディスカバリーらと競合す
  るアマゾンは、ハリウッドの映画業界に最大の進出を果たし
  た。今回の買収により、アマゾンは、MGMが保有するハリ
  ウッド映画の膨大なカタログにアクセス可能になり、そこに
  は「風と共に去りぬ」や「オズの魔法使い」「雨に唄えば」
  「ロッキー」「羊たちの沈黙」「ピンクパンサー」などが含
  まれている。
   MGMはまた、ジェームズ・ボンドの「007シリーズ」
  の映画化権を、イオン・プロダクションズと共有している。
  しかし、イオン社は、今後も007シリーズの俳優のキャス
  ティング権など、様々なクリエイティブ・コントロールを維
  持し続けるとされている。
   テレビ業界でMGMは、人気ドラマ「ハンドメイズ・テイ
  ル/侍女の物語」や「FAR/ファーゴ」などを制作したス
  タジオと、プレミアムケーブルチャンネルのエピックスを運
  営している。今回の買収は、規制当局の承認を経て完了する
  とされている。         https://bit.ly/2SDtpVI
  ───────────────────────────
MGM.jpg
MGM
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする