2021年03月22日

●「日銀電子現金PTが研究したもの」(第5453号)

 中島真志氏の本によると、日本銀行(日銀)では、1990年
頃に「電子現金プロジェクト」という極秘プロジェクトがあり、
中島真志氏も若手の研究員として、このプロジェクトのメンバー
に参加していたそうです。
 そのプロジェクトで検討を進めていくプロセスにおいて、デジ
タル通貨の問題点が3つ浮かび上がってきたのです。いずれもす
べて検討したことですが、簡単に振り返ってみます。
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 1.現金の持つ「転々流通性」をどのように確保するかとい
  う問題である。
 2.現金の持っている「匿名性」をどこまで確保するかとい
  う問題である。
 3.基本的にデジタルデータは複製(コピー)が可能だとい
  う問題である。
                 ──中島真志著/新潮社刊
                  『アフタービットコイン
        /仮想通貨とブロックチェーンの次なる覇者』
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 「1」は、デジタル通貨に現金の「転々流通性」をいかにして
持たせるかの問題です。
 このような現金の性質のことを「オープン・ループ型」といい
ますが、この場合は、中央銀行の手を離れたところでデジタル通
貨が次々と持ち主を変えて流通することになります。したがって
もし途中で偽造や二重使用が行われても、その発見は、きわめて
困難です。しかし、そうかといって、一つひとつの取引に中央銀
行が絡むのはさらに困難なことです。
 取引件数が膨大になりますし、それに安全性のためのチェック
を行うと、とんでもないコストが生じてしまうことになります。
そのため、転々流通性を断念することによって「スイカ」や「パ
スモ」などの電子マネーが生まれたのです。しかし、そのなかに
あって、楽天の「エディ」は「転々流通性」を持たせようとして
努力したわけです。ソラミツ社の社長である宮沢和正氏は、その
エディの執行役員を務めていたことがあり、それが、「ハイパー
・レッジャーいろは」の開発に生きていると思われます。
 「2」は、現金の持つ「匿名性」をどこまで確保する必要があ
るかという問題です。この問題に関して専門家からは、次の提言
が行われています。
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 普段は、匿名性を確保しておき、非常時にのみ、匿名性をなく
すようにする。つまり、偽造などの問題が起きたとき、どこでそ
れが発生したかを把握するため、匿名性をなくすというもの。
           ──中島真志著/新潮社刊の前掲書より
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 「3」は、「デジタルデータはコピーができる」ものであると
いうことです。もちろんそれができてしまうと、とんでもないこ
とになりますので、複雑に暗号技術を組み合わせて、コピーでき
ないようにガードするのです。
 しかし、その防御技術を破る不正技術が開発されると、無限に
偽札が作られてしまうことになります。まして、現代は「量子技
術の時代」であり、もし量子コンピュータが進化すると、現代の
ほとんどの暗号技術は解読されてしまうといわれています。現在
世界において、その「量子技術」の分野で、トップを走っている
のは中国なのです。
 デジタル通貨のこれら3つの問題点について、中島真志氏は、
自著で次のように述べています。
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 この点から考えると、ブロックチェーンというのは、やはり画
期的な発明であると思わずにはいられません。デジタルデータを
扱いながら、取引をブロックごとに確定させ、前のブロックの要
素を次のブロックに盛り込むことによって、偽造や二重使用を防
ぐことを可能にしており、コピー問題を解決しています。当時、
こうした技術があれば、電子現金プロジェクトは、もっと進展し
ていただろうと思いますし、現在、各国の中央銀行がデジタル通
貨の発行に向けて一斉に動き出しているのは、その画期的なイノ
ベーションの価値に気が付いたからかもしれません。
           ──中島真志著/新潮社刊の前掲書より
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 このように考えると、ブロックチェーンがいかに素晴らしい技
術であるかがわかります。さて、日本銀行では、2016年にブ
ロックチェーンを使った基礎実験を行っています。このとき、ブ
ロックチェーンとしては、リナックスの「ハイパーレッジャー・
ファブリック」を使っています。ここで思い出していただきたい
のは、3月9日のEJ第5443号でご紹介した3つのブロック
チェーンのプラットフォームです。ハイパーレッジャー・プロジ
ェクトは、リナックスと同様にオープンソースであり、ソースコ
ードが公開されています。これは、コンペティションの結果、2
016年10月に次の3社が選ばれているのです。
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   @Hyperledger IROHA
    主導開発元:ソラミツ株式会社
   AHyperledger fabric
    主導開発元:米IBM
   BHyperledger Sawtooth Lake
    主導開発元:米インテル・コーポレーション
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 日銀の実証実験は2016年であり、@のソラミツの「ハイパ
ーレッジャーいろは」の存在も知っていたはずですが、日銀は、
Aの米IBMの「Hyperledger fabric」を使って実証実験を行っ
ています。日銀は、なぜ、ソラミツ社のブロックチェーンを選ば
なかったのでしょうか。   ──[デジタル社会論/053]

≪画像および関連情報≫
 ●【独占】ハイパーレッジャー統括:ブロックチェーンから
  GAFAは生まれない
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   IBMやインテルなどの名だたる企業が参加して開発を進
  めるオープンソースのブロックチェーンプロジェクト、ハイ
  パーレッジャー。個々のプロジェクトは、およそ14を数え
  その技術を活用するために加盟する企業は、270社を超え
  る。そのハイパーレッジャー・プロジェクト全体を統括する
  非営利組織がある。リナックス・ファウンデーションと呼ば
  れる、インターネットの歴史と共に歩んできた財団だ。例え
  ばスマートフォンのアンドロイドOSは、グーグルがリナッ
  クスをベースに開発したものだ。同財団の推進する技術は、
  日常のシーンになくてはならないものになっている。
   ハイパーレッジャーは2019年7月30・31日の2日
  間、都内で年に一度のメンバー・サミットを行った。ハイパ
  ーレッジャーが日本で同イベントを開いたのは、今回が初め
  て。コインデスク・ジャパンは、ハイパーレッジャーを統括
  するエグゼクティブ・ディレクターのブライアン・ベーレン
  ドルフ(Brian Behlendorf)氏に話を聞いた。
  ──ハイパーレッジャーの目標は何ですか?
   各企業の協業のために必要なインフラになることだ。市場
  や業界には、非常に難しい協業の問題がある。例えばサプラ
  イチェーンにおける追跡可能性だ。原料や製品を追跡するた
  めに、誰かが管理する大きなデータベースを置いて「それを
  信じなさい」と言っても、多様な参加者がいる中で信じたい
  と思う企業はいない。分散化されたデータベースで、各社が
  プロセスごとに製品を追跡・相互検証していくことが求めら
  れる。             https://bit.ly/316vZ7v
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中島真志氏.jpg
中島真志氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論T | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする