2021年03月12日

●「バコンはトークン型デジタル通貨」(第5446号)

 カンボジアのデジタル通貨「バコン」について、その開発の経
緯などは述べてきた通りですが、肝心の「バコン」とはどういう
通貨なのか、ビットコインやリブラなどとは、どこが違うのか、
中枢部に使われているブロックチェーン「ハイパーレッジャーい
ろは」とはどういうものかについて、説明していきます。デジタ
ル通貨には、次の2つのタイプがあります。
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         @  口座型/支払指示型
         Aトークン型/転々流通型
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 「口座型/支払指示型」というのは、電子マネーやQRコード
決済といったタイプがそれに該当します。顧客は、指定のアプリ
をスマホにダウンロードし、そのアプリに貯めた電子マネーを加
盟店がQRコードなどで読み取って決済を行います。決済処理は
スピーディーに行われるので、顧客側、店舗側ともにメリットが
あります。
 資金の清算は、締め切り日において、決済事業者と加盟店の間
で行われます。決済事業者は、決済された電子マネー分の現金を
加盟店の銀行口座に振り込みます。これが口座型です。
 したがって、口座型では、決済された資金をすぐに仕入れなど
の支払いに充当できないのです。この場合、加盟店の売上金が振
り込まれるまで、1ヶ月程度かかる場合もあります。
 「トークン型/転々流通型」というのは、完全に現金と同じ扱
いになります。リテール決済における加盟店での支払いや企業間
の送金においても、現金と同様に、デジタル通貨が最初の所有者
から次の所有者に転々流通するので、後日の資金清算の必要がな
く、受け取ったデジタル資金をそのまま支払いなどに使うことが
できます。
 しかし、転々流通型のデジタル通貨は、従来のデジタル技術で
は実現が困難だったのですが、それを可能にしたのが、他ならぬ
ブロックチェーン技術です。これについて、ソラミツの宮沢和正
氏は次のように述べています。
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 紙幣は有機体であり、1万円札を誰かに手渡せば手元から消え
去り、もう一度支払いに使うことはできない。二重使用の禁止と
いう通貨の大原則を紙媒体によって表現したのが紙幣である。ブ
ロックチェーンは、それを電子的に表現したものである。これま
でデジタル情報は複製を防止する手段がなかったため、紙幣のよ
うなトークン型の通貨として利用することはできなかった。ブロ
ックチェーンが可能にしたのは、トークン型の通貨の二重使用を
防ぐことである。この技術によって、デジタル通貨が可能となっ
た。      ──宮沢和正著『ソラミツ/世界初の中銀デジ
  タル通貨「バコン」を実現したスタートアップ』/日経BP
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 問題は銀行間の送金です。「バコン」導入前は、一定時間、送
金と着金のデータをストックしておき、、1日に2回、バッチ処
理で差分のみを決済していたのです。これを「時点ネット決済」
といいます。それでは、「バッチ処理」とは何でしょうか。バッ
チ処理の「バッチ」とは、英語の「Batch」 が語源であり、「一
束」とか「一群」という意味になります。つまり、バッチ処理と
は、一定量の(あるいは一定期間の)データをストックし、一括
処理するための処理方法のことです。
 しかし、この方式にはリスクがあります。決済を行う時点で、
どちらかの銀行で金額が巨額になり、資金が不足してしまうリス
クです。一番怖いのは、ある銀行の資金不足が別の銀行の資金不
足に連鎖して、システミック・リスクが起きることです。
 これを防ぐには、まとめて処理するのではなく、取引ごとに資
金を移動させる必要があります。そこで「バコン」導入後は次の
ようになっています。
 「バコン」導入後、銀行Aから銀行Bに送金する場合について
考えます。銀行Aはカンボジア国立銀行(NBC)のリザープロ
座から相当額の「バコン」を送金してもらい、この「バコン」を
銀行Bに送金することで、銀行間決済が完了します。この方式を
「RTGSシステム(即時グロス決済)」といいます。これに対
して時点ネット決済はDTNSシステムといいますが、このシス
テムをRTGSシステムに変更することによって、コストが大幅
に縮小し、リアルタイムの銀行間決済が可能になったのです。こ
れこそトークン型デジタル通貨「バコン」を発行する大きなメリ
ットになっているといえます。RTGSシステムとDTNSシス
テムの意味を整理しておきます。
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      ◎DTNSシステム/時点ネット決済
        Designated Time Net Settlement
      ◎RTGSシステム/即時グロス決済
           Real-Time Gross Settlemen
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 DTNSシステムとRTGSシステムは、ともに中央銀行にお
ける金融機関間の口座振替の手法です。RTGSのもとでは、D
TNSと異なり、ある金融機関の不払いがどの金融機関への支払
いの失敗であるかが必ず特定され、その他の金融機関の決済を直
ちに停止させることはないのです。このように、DTNSと比較
すると、システミック・リスクの大幅な削減が可能である点で、
RTGSは優れた仕組みであるといえます。
 しかし、「バコン」による中央銀行における金融機関間の口座
振替をRTGSで実施するには、中央銀行であるカンボジア国立
銀行と、傘下の各金融機関において、「バコン」が流通する仕組
みを作る必要があります。これは大変な作業です。そのためには
各銀行に銀行のAPIの整備を行う必要があります。これについ
ては、来週のEJにおいて考えることにします。
              ──[デジタル社会論/047]

≪画像および関連情報≫
 ●世界初の中銀デジタル通貨の商用化と日本における展開
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   カンボジア国立銀行とブロックチェーンを活用した中銀デ
  ジタル通貨を共同開発し2020年4月に正式運用を開始、
  日本発のオープンソース・ブロックチェーンを開発するソラ
  ミツ。本稿では、ソラミツ代表取締役社長宮沢氏にデジタル
  通貨の商用化と日本における展開について解説する。
   我々ソラミツは、2017年4月にカンボジア国立銀行と
  ブロックチェーンを活用した中銀デジタル通貨の共同開発契
  約に調印した。2019年7月に商用システム「バコン」が
  完成。テスト運用を実施後、2020年4月に正式運用を開
  始した。中国やスウェーデンなどが中銀デジタル通貨を検討
  する中でカンボジアは世界初の商用化を達成した。現在12
  の銀行が参加し、国民はスマートフォンでデジタル化した現
  地通貨のリエルや、ドルを送金や店頭での決済に活用してい
  る。少額のリテール決済から高額の銀行間取引まで一貫して
  ブロックチェーン化し、国家全体の決済アーキテクチャーの
  大幅な簡素化・低コスト化を実現した。
   デジタル通貨には、現金に近いトークン型と銀行口座に近
  い口座型の2つの実現方法がある。「バコン」はトークン型
  のデジタル通貨であり現金と同等の価値を持つ。ファイナリ
  ティ(決済の確定)があるため、リテール決済における加盟
  店での支払いや企業間の送金においても、現金決済と同様に
  後日の資金清算や振込指示・着金確認の必要がなく、企業の
  業務が大幅に削減される。    https://bit.ly/3viBUoa
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「バコン」を紹介する提示.jpg
「バコン」を紹介する提示
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論T | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする