ジの一部を再現します。
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もし、フェイスブックとその他の企業が、銀行になりたいので
あれば、新たな銀行免許を取り、他の銀行と同じように、国内と
国際の双方の銀行規制に従うべきだ。 ──トランプ前米大統領
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米国では、このトランプ前大統領のツイートに代表される「取
り締まる側」と「取り締まられる側」の対立が深まっています。
たまたま時期が、フェイスブックの不祥事が相次いだときだった
ことから、フェイスブックCEOは、2019年10月にリブラ
に関する公聴会と称して、何度も米下院金融サービス委員会に呼
び出され、ほとんど吊るし上げに近い状態で、質問を受けている
のです。まさに「取り締まる側」と「取り締まられる側」の激突
の構図そのものです。
2019年10月23日のことです。この日も米下院金融サー
ビス委員会で公聴会が開かれ、ザッカーバーク氏は単独で出席し
ています。そのときの様子について報道しているWIREDのレ
ポートによると、ザッカーバーク氏は、議員1人5分の持ち時間
で、4時間以上、連続して質問を受けています。さすがに、ザッ
カーバーク氏は、トイレ休憩を要請したのですが、それも許され
ないほどの厳しさだったといわれます。このWIREDのレポー
トには次のように書かれています。
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ザッカーバーグは、委員会で証言するためにワシントンDCに
に来た時点で、こうなるだろうとある程度はわかっていた。この
日の証言はフェイスブックのCEOただひとりだった。60人近
い議員が自分を叩こうと待ち構えているのを、ザッカーバーグは
知っていたのだ。それでもフェイスブックの仮想通貨計画が危機
に直面していたので、来ざるをえなかった。
パートナー企業が手を引き、規制当局は禁止すると息巻き、委
員長のウォーターズをはじめとする議員はフェイスブックが計画
の一時停止に踏み切るべきだと考えていた。
「皆さんは、この計画を推進しているのがフェイスブックでさ
えなければとお考えのことでしょう」と、冒頭のあいさつでザッ
カーバーグは言った。そのとき、委員会室の両側に設置されたデ
ィスプレイの画面には、フェイスブックがこれまで起こしてきた
さまざまな問題を資料化したスライドがランダムに映っていた。
「調停、違反、侵害」とタイトルの付いた長い一覧表もそのなか
には見受けられた。 https://bit.ly/3beQipf
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ザッカーバーク氏は、リブラについて「フェイスブックはリブ
ラの理想的なメッセンジャーではない」といい、「もし、この提
案を受け入れてもらえるなら、フェイスブック自身がリブラ協会
を脱退してもよい」とまでいっています。
「理想的なメッセンジャーでない」という意味は、フェイスブ
ックに対して数々の世の批判が最も激しいときの提案であるとい
う意味であると思われます。そして「このプロジェクトは、資金
送金をテキストメッセージの送信と同じくらい簡単に、かつ安価
にすることをビジョンにしており、金融サービスにアクセスでき
ないアンバンクドに恩恵をもたらすものであるので、諦めるつも
りはない」と強調しています。上記のWIREDの記事中にある
ザッカーバーク氏の冒頭のあいさつ「皆さんは、この計画を推進
しているのがフェイスブックでさえなければと、お考えのことで
しょう」はそれをあらわしています。
この件に関し、リブラに詳しく、『リブラの正体/GAFAは
通貨を支配するのか?』の著者の1人であり、みずほ銀行チーフ
マーケット・エコノミスト、唐鎌大輔氏は、次のようにコメント
しています。
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リブラに限ったことではないですが、暗号資産の潜在能力に大
きな期待を抱く向きほど既存の為政者を目の敵にする傾向が強い
と感じます。ビットコインがブームの絶頂を迎えたときも、リブ
ラの可能性が論じられている本書執筆時点でも同様ですが、既存
の通貨当局が不要になるという極端なシナリオが暗号資産の支持
層から嬉々として語られることが少なくありません。
しかし、本書執筆時点で公開されている情報を踏まえる限り、
リブラは既存の金融システムを活用しなければ稼働できません。
そうであれば大前提として、既存権力からの理解や承認が必要で
す。それゆえ、ことさらに対立を煽るような論調には違和感を覚
えるというのが筆者の基本認識です。既存権力と対立する限り理
解も承認もされないので、プロジェクトはそもそも成立しないと
いうのが素直な理解ではないでしょうか。
──リブラ研究会編/日本経済新聞出版社
『リブラの正体/GAFAは通貨を支配するのか?』
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リブラは、発行金額に対して、リブラリザーブという裏付資産
を保有する仕組みになっています。これは、ドルやユーロなどの
主要通貨で構成されるバスケットを前提に銀行預金や短期国債な
どの安全資産で構成されることになっています。そして、この運
営に関しては、フェイスブックではなく、スイス・ジュネーブに
本拠を置くリブラ協会が行うことになっています。
法定通貨に裏付けられるということは、既存勢力が法定通貨向
けに提供する中央銀行の資金決済システムに依存することを意味
しています。このようにリブラは、設計的には、既存勢力に楯突
けない仕組みになっているのです。これが、リブラが他の多くの
暗号資産と根本的に異なる点といえます。リブラは、価格変動が
抑制される「ステープル・コイン」といわれるゆえんです。した
がって、目くじら立てて反対する代物ではないのです。
──[デジタル社会論/042]
≪画像および関連情報≫
●なぜフェイスブックのLibraが嫌われているのか? 懸念さ
れる4つの重大すぎるリスク
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世界最大のソーシャルプラットフォームであるフェイスブ
ックが2019年6月18日、暗号通貨リブラを主導して立
ち上げた。早くも「悪用できる穴が多い」「国家のような存
在になり、当局ににらまれる」など重大な問題点が指摘され
ており、リブラが広く流通するほど、政治的なイシューにな
る。フェイスブックにとって逆説的に怖いのは、リブラが既
存の通貨を超える大成功を収めることではないか――。その
潜在的なリスク要因4つを整理する。
「信用不足から銀行口座やクレジットカードを持てない、
世界17億人の低所得層は、フェイスブック最高経営責任者
(CEO)のザッカーバーグ氏を救世主とみなすだろう」米
経済専門局CNBCの名物コメンテーターの、ジム・クレー
マー氏は、リブラの発表を受けて、ザッカーバーグ氏をこう
持ち上げた。
リブラを使えば、専用のデジタルウォレット「カリブラ」
を介して、銀行口座を持てない人でも基本的な金融サービス
が使えるようになる。世界中の消費者や企業間の取引が円滑
化される可能性がある。1年後、2020年の運用開始を目
指し、当初はポジティブな評価が目立った。米金融大手のサ
ントラストは、「フェイスブックは、リブラによってSNS
だけでなく、世界のeコマースのリーダーになろうとしてい
る。27億人というユーザー規模、ブランド力とバランスシ
ートの面で、同社にかなう相手はいない」と分析。
https://bit.ly/3kL5c9P
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公聴会におけるザッカーバークCEO