2021年03月01日

●「プラットフォーマーと銀行の将来」(第5437号)

 プラットフォーマーが続々と金融業に進出してきています。今
のところ、決済と小額資金の貸し出し程度ですが、やがて、融資
や資産運用、保険などに進出してくるはずです。なかには、フェ
イスブックのようにデジタル通貨の発行までするようになること
は時間の問題です。こうなると、普通の銀行だけではなく、中央
銀行にまで影響が及ぶことになります。
 このようなプラットフォーマーによる金融進出によって銀行が
どうなるかについて、IMF(国際通貨基金)は、次の3つのシ
ナリオを示しています。
─────────────────────────────
  ◎第1のシナリオ
   デジタル通貨発行企業と銀行が共存するようになる
  ◎第2のシナリオ
   デジタル通貨発行企業と銀行が相互補完関係になる
  ◎第3のシナリオ
   デジタル通貨発行企業が銀行にとって代わる可能性
              ──木内登英著/東洋経済新報社
    『決定版リブラ/世界を震撼させるデジタル通貨革命』
─────────────────────────────
 第1のシナリオは「デジタル通貨発行企業と銀行が共存するよ
うになる」ことです。
 これは、最も可能性のあるシナリオといえます。プラットフォ
ーマーが発行するデジタル通貨を使うには、個人の銀行預金を取
り崩してデジタル通貨を購入する必要があります。そうすると、
デジタル通貨は個人の銀行預金を代替することになり、その分、
銀行預金が減ることになります。
 しかし、そのデジタル通貨の代金のほとんどは、そのデジタル
通貨の発行元である企業、仮にリブラ協会(ディエム協会という
のかもしれないが)のような企業や団体の銀行預金として保有す
ることになります。したがって、銀行の小口銀行預金は減っても
預金の総額としては大きくは変化しないのです。そのため、銀行
預金・貸出機能は顕著には変化しないことになります。このよう
に一応デジタル通貨と銀行は共存できるわけです。
 しかし、ぜんぜん変化がないわけではないのです。まず、個人
の小口預金が企業の大口預金に代替することによって、預金金利
が高くなることが上げられます。それに、銀行は個人顧客との関
係が失われ、顧客の取引履歴データの多くをプラットフォーマー
に吸い上げられることになります。また、デジタル通貨を発行す
る企業の預金は、特定の大手銀行に集中し易くなり、中小銀行の
預金残高は減少し、貸出業務に支障をきたすことになります。
 第2のシナリオは「デジタル通貨発行企業と銀行が相互補完関
係になる」ことです。
 これは、デジタル通貨を発行する企業と銀行がウインウインの
関係になることです。デジタル通貨の発行企業、すなわち、プラ
ットフォーマーは、その提供する数々のサービスを利用するユー
ザーを分析し、銀行に見込顧客を紹介することが可能です。それ
に加えて、顧客の信用力を判断し、それを情報として銀行に販売
することによって、銀行の貸出業務を助けることができます。ま
さに相互補完の関係といえます。
 第3のシナリオは「デジタル通貨発行企業が銀行にとって代わ
る可能性」です。
 このシナリオは、近い将来を前提とするならば、最も可能性の
低いシナリオということになります。なぜなら、資金力では、プ
ラットフォーマーは、銀行に圧倒的な差をつけられているからで
す。プラットフォーマーは、銀行のように、個人の預金を集める
ことで大量の資金を調達することは出来ないからです。
 しかし、時が経つにつれて、デジタル通貨を発行するプラット
フォーマーの資金量が増えてくると、銀行は少しずつ力を失って
いくことが考えられます。これについて、木内英登氏は次のよう
に予測しています。
─────────────────────────────
 個人が持つ銀行預金は、現金と同様に決済目的で保有している
部分と、運用目的で保有している部分とに分かれる。このシナリ
オでは、前者は、デジタル通貨にほぼとって代わられてしまうこ
とになる。そして、決済目的で利用されなくなった銀行預金から
も、個人は、投資信託などより運用利回りが高い商品へと資金を
移していくだろう。
 そして、預金という資金調達手段を失った銀行は、市場での資
金調達を強いられるだろう。ただし、貸出業務もデジタル通貨発
行企業に奪われていくため、銀行のバランスシートは、現在と比
べて大幅に縮小し、銀行のプレゼンスも大きく低下することが避
けられない。デジタル通貨を発行するプラットフォーマーが銀行
にとって代わる状況が定常状態に至れば、預金と貸出を大幅に失
った銀行が取り付け騒ぎ(バンク・ラン)に見舞われるリスクは
次第に低下する。この際には、銀行システムの安定性は以前より
も高まると言えるかもしれない。また個人は銀行預金から投資信
託などリスク性商品へと資産を移すことになるため、「貯蓄から
投資」への流れが加速することが、経済的にはプラスの効果をも
たらす可能性も考えられるところだ。
        ──木内登英著/東洋経済新報社の前掲書より
─────────────────────────────
 しかし、銀行がデジタル通貨を発行するプラットフォーマーに
とって代わられる事態が生ずると、個人の金融資産が大きなリス
クにさらされるマイナス面も出てくるはずです。現行の銀行預金
は、預金保険制度によって一部保証されるなどの措置がとられて
います。さらに、銀行が長年培ってきたどのような企業に貸出を
増加させ、企業の技術力、成長力を支えるかの目利きの判断など
のいわゆる信用創造機能が弱体化し、経済の活力を削いでしまう
ことも大きく懸念されることです。第3のシナリオはあってはな
らないのです。       ──[デジタル社会論/038]

≪画像および関連情報≫
 ●銀行とデジタル・プラットフォーマーのビジネスの類似性
      ──大和総研グループ/金融調査部/内野逸勢氏
  ───────────────────────────
   メディアで最近よく目にするプラットフォーマーのビジネ
  スモデルを改めて定義してみよう。まずプラットフォーマー
  とは“デジタル・プラットフォーマー”という言葉で置き換
  えられる。次にそのビジネスモデルは「つながりに着目した
  ビジネスモデル」と「データに着目したビジネスモデル」の
  2つに分類される。
   前者は、あらゆる場所からオンライン上でアクセスする消
  費者の多種多様なニーズと、様々な財・サービスの供給者と
  の「つながりに着目したビジネスモデル」であると言える。
  組織の内部の特定機能を代替するために外部の機能をつなぐ
  「APIエコノミー」、複数の金融機関の個人口座の情報を
  つなぐ「アリゲーションサービス」などのビジネスが台頭し
  ている。さらにヒト・モノ・カネの多種多様かつ膨大な情報
  をあらゆるニーズに“つなぐ”(仲介)「マッチングエコノ
  ミー」「シェアリングエコノミー」などが当てはまろう。
   「つながりに着目したビジネスモデル」は必然的に契約と
  課金が伴う。契約形態は、サービスと利用者を“つなぐ”効
  率性が劇的に改善することで、購入契約よりもレンタル、サ
  ブスクリプション型のサービス利用契約を選択する消費者が
  多くなる。このため契約・課金は少額化・短期化し、決済は
  銀行口座を経由した決済よりも、利便性の高いモバイル決済
  が主流となる。これにより決済の多様化が進む。当然、顧客
  の取引情報が付随してくる。これが後者の「データに着目し
  たビジネスモデル」ということになろう。
                  https://bit.ly/3dPqhyH
  ───────────────────────────
木内登英氏.jpg
木内登英氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月02日

●「『シニョリッジ』について考える」(第5438号)

 「シニョレッジ」という言葉をご存知でしょうか。
 「シニョレッジ」とは、通貨発行益のことです。フェイスブッ
クが「リブラ」の発行を宣言したとき、一番大きく反応したのは
各国の中央銀行です。それは、デジタル通貨が中央銀行のシニョ
レッジに関係してくるからです。
 リブラのようなデジタル通貨は、銀行預金にとって代わると述
べてきていますが、これに関して、木内登英氏は、リブラによっ
て代替される現金について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 金利が付かないリブラによって代替されやすいのは、民間銀行
が提供する金利が付く銀行預金よりも、まずは中央銀行が発行す
る金利が付かない現金だろう。
 中央銀行は現金という利払い負担が発生しない債務と引き換え
に、民間銀行から国債などを買い取り、利子所得を稼いでいる。
これをシニョレッジ(通貨発行益)という。リブラによって現金
発行が減っていけば、この利子所得も減ってしまい、中央銀行の
業務に大きな支障が生ずる可能性がある。
              ──木内登英著/東洋経済新報社
    『決定版リブラ/世界を震撼させるデジタル通貨革命』
─────────────────────────────
 シニョレッジというのは、鋳造した貨幣の額面と原価の差額の
ことです。古代ローマの時代から使われているラテン語で、日本
では、江戸時代に「出目(でめ)」と呼ばれたのです。貨幣改悪
鋳造によって生じた益金を意味し、出目高といっていたのです。
 ここで大事なことは、「紙幣」を発行する権限を持っているの
は日本銀行、「硬貨」発行の権限は政府になります。そのため、
政府は、硬貨の材料費、鋳造費と硬貨の額面(1円、5円、10
円、50円、100円、500円)との差額は、シニョレッジと
いうことになります。
 しかし、現代では、シニョレッジとは、中央銀行が中央銀行当
座預金と現金を発行することで得られる「利子所得」を指すよう
になっています。日本の場合で考えると、国内の民間銀行は、日
本銀行(以下、日銀)に対して、当座預金を持っています。日銀
当座預金がそれです。
 日銀は、金融緩和など必要に応じて、民間銀行から国債などの
金融資産を買い入れ、その代金を日銀当座預金に振り込みます。
そして、民間銀行は必要な現金をその当座預金から取り崩して使
いますが、そのときはじめて、日銀は現金を市場に対して発行し
たことになるのです。日銀のバランスシートは、簡単にいうと、
次のようになっています。
─────────────────────────────
         ◎日本銀行のバランスシート
          資産:     国債など
          負債:現金/日銀当座預金
─────────────────────────────
 この場合、資産である国債などは金利が付き、日銀は利子所得
が得られます。一方、負債側には、市中に出回っている現金と日
銀当座預金が計上されています。この市中に出回っている流通現
金と日銀当座預金の合計額を「マネタリーベース」といいます。
 この日銀当座預金には、法律で定められている銀行預金の一定
比率分の「所要準備」が含まれていますが、これには金利は付き
ません。しかし、それを上回る分については、日銀は金利を支払
う必要があります。
 したがって、日銀としては、バランスシートの資産側にある国
債などから得られる利子所得と、超過準備に対する利子支払いの
差額がシニョレッジということになります。
 しかし、仮にフェイスブックが発行するリブラが日本中に普及
し、市中から現金を代替するようになると、その分日銀による現
金の発行が減少し、それによってシニョレッジも減少することに
なります。この場合、リブラによって代替された現金は、リブラ
を仕切るリブラ協会にストックされるようになります。
 これについて、木内登英氏は「シニョレッジが中央銀行からリ
ブラ協会に移る」ことを意味するとして、次のように警告を発し
ています。
─────────────────────────────
 これが、中央銀行にとって大きな打撃となるのは、中央銀行の
業務は、このシニョレッジによって支えられているからに他なら
ない。公的部門の中央銀行の業務は財政資金によって賄われてい
ると考える向きも少なくないかもしれないが、それは誤りだ。中
央銀行は通常、政府から資金を得ていないのである。この点は、
実は、中央銀行の政治からの独立を支える要因の一つともなって
いる。シニョレッジが大幅に減少すれば、中央銀行の職員給与も
支払われなくなり、業務は滞ってしまう可能性が生じる。また、
中央銀行の収益が悪化して、局面によっては赤字化や自己資本の
毀損などの問題が生じ、中央銀行の財務の健全性を損ねてしまう
危険性もあるだろう。それを受けて、政府が中央銀行に公的資金
を注入するような事態にまで発展すれば、中央銀行の独立性は大
きく低下してしまいかねない。
      ──木内登英著/東洋経済新報社による前掲書より
─────────────────────────────
 既に述べたように、フェイスブック関連アプリの利用者数は世
界で約27億人、世界の人口73億人の37%、実に3人に1人
はフェイスブックのユーザーなのです。これらのユーザーが一斉
にリブラを使い始めると、市中の現金の多くは、リブラによって
代替されてしまうはずです。
 そうすれば、中央銀行のシニョレッジは、大幅に減少すること
になります。これは確実に中央銀行の利子所得を減らす原因にな
ります。世界の中央銀行が一斉に緊張するのは当然のことです。
もちろん消極的ではあるものの、日銀も動き出しています。
              ──[デジタル社会論/039]

≪画像および関連情報≫
 ●見えてきた中央銀行デジタル通貨の「想像図」
  ───────────────────────────
   日本でも中央銀行デジタル通貨(CBDC)をめぐる検討
  が本格化する。日本政府のいわゆる「骨太の方針」に、「中
  央銀行デジタル通貨を検討する」との記述が加わった。これ
  を受け、日本の中央銀行である日本銀行はデジタル通貨検討
  のチームを結成した。これまで日本銀行はデジタル通貨の発
  行には慎重な姿勢だったが、今後は変わるかもしれない。
   その一方で、民間主導のデジタル通貨の議論も進行中だ。
  デジタル通貨が本格的に登場すれば、現実世界の経済システ
  ムが複数のマネー――異なる銀行の預金口座や異なる企業の
  ポイントなど――に分断されている現状を変えることができ
  る。「サイロ」のように分断されたシステムが並んでいる状
  況から、デジタル通貨で結びついたより円滑な経済へと変わ
  る。もちろん課題は多いが、立場が異なる関係者の間で、問
  題意識が共有されつつある。そして技術的な基盤となるブロ
  ックチェーン技術も実績が積み上がってきた。「中央銀行デ
  ジタル通貨」(CBDC)と一口にいっても、その実態をは
  っきり示した資料は乏しい。しかも論点が多く議論が複雑に
  なりがちである。下の図は、各国の中央銀行をメンバーとす
  る組織であるBIS(国際決済銀行)の資料に登場する「マ
  ネーフラワー」という図だ。4つの軸を1枚に収めた複雑な
  図となっている。このように中央銀行デジタル通貨を位置付
  けるのは大変な作業なのだ。   https://bit.ly/3dUo45a
  ───────────────────────────
マネーフラワー.jpg
マネーフラワー
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月03日

●「リブラは儲かるビジネスになるか」(第5439号)

 ここで、フェイスブックが「リブラ」を発行した場合、発行元
であるフェイスブックには、どのような収入源が得られるのかに
ついて考えてみる必要があります。
 リブラは、次の2つの収益源をフェイスブックにもたらすこと
になります。
─────────────────────────────
       1.裏付資産から得られる金利収入
       2.金融サービスによる手数料収入
─────────────────────────────
 「1」は「裏付資産から得られる金利収入」です。
 リブラの仕組みでは、リブラの発行と引き換えに受け取る代金
を主要法定通貨で構成される銀行預金や短期国債などで保有する
ことになっています。これを「リブラ・リザーブ」といいますが
そこには巨額の運用収益が発生します。
 しかし、これらの金利収入は、リブラ・システムを仕切るリブ
ラ協会のメンバー間で分配されると、ホワイトペーバーに書いて
あります。これは、リブラのシニョレッジ(通貨発行益)という
べきです。リブラのユーザーには何の恩恵もないのです。日本銀
行の場合、シニョレッジは必要な経費を差し引き、国庫に納付さ
れ、社会に還元しています。
 これについて、西村博之日本経済新聞論説委員は、次のように
述べています。
─────────────────────────────
 世界の17億人の銀行口座をもたない人々のうち、1割に当り
1・7億人がリブラを使うようになり、1人当たり10ドル分の
リブラを購入すると仮定する。さらにフェイスブックのユーザー
の約半分に当る12億人が、それぞれ50ドルをリブラと交換す
る。これで約610億ドル(6兆5000億円)もの資金がリブ
ラ・リザーブに流れ込み、これに対して利子が付く。
 仮に金利が1%としても、年間で6位ドル(650億円)を超
えてくる。将来、金利が上昇すれば金利収入はさらに膨らむこと
になる。こうした金利収入は中央銀行の場合、最終的には国庫に
納付され、国民のものになる。銀行に預金した場合も、預金者に
は金利が支払われる。ところがリブラの場合、お金を出してリブ
ラを買った利用者には直接的な形で金利収入が還元されることは
ない。金利収入は、まずリブラ協会の経費、システムの開発・運
営コストに当でられる。そして、残りがリブラ協会メンバーに還
元される。利用者は金利を受け取る代わりに、割安な取引手数料
などを通じて間接的に恩恵を受ける、というのがリブラ協会の立
場である。 ──藤井彰夫/西村博之著/日経プレミアシリーズ
            『リブラの野望/破壊者か変革者か』
─────────────────────────────
 リブラ協会のメンバーは現在21社です。リブラ協会としては
これを100以上の組織まで増やすことが計画されています。な
お、リブラは複数の企業によって運営されるコンソーシアム型の
設計をとっています。
 「2」は「金融サービスによる手数料収入」です。
 技術的な話になりますが、リブラには「MOVE」というプロ
グラミング言語が実装されており、これによって、プログラマブ
ルにお金を制御できます。
 これを使うと、投資やローン、保険など、既存の金融において
広く親しまれているサービスの大半は、リブラ上で再現できるの
です。これらのサービスで発生した取引に対し、手数料を課して
いくことで、フェイスブックはプラットフォーマーとして、手堅
い収益源を確保できるといえます。
 リブラ研究会では、リブラは債権市場について大きな変化をも
たらすとして、次のように述べています。
─────────────────────────────
 たとえば、金融マーケットの例として、債券市場があります。
今日、債券市場は世界全体で見ると、100兆ドル規模を誇る巨
大な金額が動く産業となっています。これまでは、債券や不動産
証券の発行や二次流通など、アセットを流動化させるまでに複雑
な行程が挟まっており、巨額の手数料が中間プレイヤーの元に落
ちていきます。
 しかし、今後リブラ上に多様な金融サービスが誕生し、ブロッ
クチェーンを活用したデジタル化が一般的になっていくと、証券
の発行から販売、二次流通にかかる各種手続きが効率化されるこ
とが見込まれます。そして、今後さまざまなアセットの流動化が
リブラ上で活発に行われるようになった場合、フェイスブックは
ビジネス上、極めて大きな恩恵を受けることになります。
          ──リブラ研究会編/日本経済新聞出版社
     『リブラの正体/GAFAは通貨を支配するのか?』
─────────────────────────────
 裏付資産の管理に関しては、フェイスブックが自由にできない
仕組みが取り入れられています。裏付資産は、世界中に分散させ
た複数のカストディアンに管理を委託する仕組みを取り入れてい
ます。カストディアン(Custodian) というのは、投資家に代わ
って有価証券の管理(カストディ)を行う機関のことです。とく
に、国外の有価証券に投資するさい、現地で有価証券を管理する
金融機関のことをいいます。これによって、リブラ協会が不正を
行うリスクを低減しています。
 このカストディアンには定期的な監査が入ることで、ブロック
チェーン上で発行されているリブラの総発行量と監査法人が出す
監査結果から、リザーブの量とリブラの総発行量に矛盾がないか
監督されることになります。
 フェイスブックの狙いは、リブラの提供を通じて「リブラ経済
圏」を構築することです。リブラの使い勝手を良くし、リブラと
いうグローバル通貨を手段として、世界中の企業や個人を巻き込
み、ネット上に巨大なマーケットプレイスを作るのが狙いです。
              ──[デジタル社会論/040]

≪画像および関連情報≫
 ●国家を超える経済圏となるのか FB仮想通貨「リブラ」
  に各国が強い警戒感
  ───────────────────────────
   米フェイスブックが2020年のサービス開始を予定して
  いる仮想通貨「リブラ」に対して、米国をはじめとする各国
  政府が強い警戒感を示し始めています。これは、リブラがも
  たらす影響がいかに大きいのかということの裏返しですが、
  なぜ各国政府は、民間企業1社が提供するだけの仮想通貨に
  これほどまで警戒しているのでしょうか。
   リブラはビットコインと同様、ブロックチェーンの技術を
  使って開発されますが、ビットコインとの最大の違いは、ド
  ルやユーロなど既存通貨によって価値が担保されている点で
  す。資産の裏付けが明確なので、価値が毀損しにくく、価格
  も安定的に推移する仕組みになっています。しかもフェイス
  ブックは全世界に27億人の利用者を抱えていますから、こ
  こに価格変動が少ない安定的な仮想通貨が出てくると、国家
  を超える経済圏が出現する可能性があります。マイナーな通
  貨だったビットコインとは根本的に違う存在と考えてよいで
  しょう。
   このためリブラに対しては、各国政府が過剰とも言える反
  応を示しています。米国のムニューシン財務長官は7月15
  日、リブラについて「国家安全保障上の問題だ」と強い懸念
  を表明。翌16日には米上院が公聴会を開催しましたが、議
  員からは懸念の声が相次ぎました。フランスで開催された主
  要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議では、リブラの
  規制について早急な対応を取る必要があるとの認識で一致し
  ています。           https://bit.ly/3q4h8Vw
  ───────────────────────────
ディエム/diem.jpg
ディエム/diem
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月04日

●「第3波に突入のビットコイン高騰」(第5440号)

 3月3日のビットコインの価格を調べてみると、次のような驚
くべき数字になっていました。
─────────────────────────────
 ◎1ビットコイン/2021年3月3日/9:00現在
              517万8714円24銭
─────────────────────────────
 517万円といっても驚くなかれ、2月20日頃は600万円
を記録しています。昨今のビットコインの価格に関連して、昨年
3月時点で31位だった米電気自動車(EV)CEOイーロン・
マスク氏が、年末には世界長者番付において、アマゾン・ドット
・コムの創業者ジェフ・ベゾス氏に次ぐ2位に躍進したのです。
 さらに1月8日には、そのトップのベゾス氏を抜いて、世界一
になったのですが、その翌週には再び2位に転落するなど、激し
く首位争いを展開しています。
 これはテスラ株の変動によるものですが、実はビットコインが
テスラ株を動かしているのです。今や有名米企業や金融機関にい
たるまで、ビットコインを資産に組み入れるところが増加してい
ます。ビットコインは現在「第3波」を迎えているのです。
 ビットコインの価格変動にはこれまでに2波があったのです。
 第1波は2013年のキプロス金融危機です。キプロス政府が
発動した資本規制の網をくぐる資金逃避に、ビットコインが使わ
れたからです。
 第2波は、2016年〜2018年であり、主役は中国と日本
です。国内の厳しい規制や管理を嫌い、中国の投資家がビットコ
インを大量に購入したのです。しかし、中国当局がビットコイン
の取引を禁止するに及んで、今度は日本の投資家がビットコイン
を買いはじめたのです。しかし、コインチェック事件など、取引
所からの通貨の大量流出などが相次ぎ、規制も強化されたので、
日本でのブームは沈静化しています。
 そして、現在ビットコインの第3波がはじまっています。この
第3波の特徴について、日本経済新聞社・論説委員長の藤井彰夫
氏が、2021年3月1日付、「核心」において、次のように解
説しています。
─────────────────────────────
 今回の第3波の主役は米国で、米ドルからビットコインへの資
金流入は7割を超す。第3波の特徴は、これまで暗号資産と距離
を置いてきた有名企業や金融機関も参加し始めたことだ。価格の
上がり方も急角度だ。
 テスラやマイクロストラテジー、スクエアなど米企業が購入し
たほか、米銀大手のバンク・オブ・ニューヨーク・メロンがビッ
トコインの資産管理業務への参入を表明。貴金属などと同様に運
用資産の分散先として注目が集まり始めた。カナダでは最近ビッ
トコインに投資する上場投資信託(ETF)も始まった。
 「(ビットコインは)取引に使うには非常に効率が悪い」「価
格変動の大きさに注意すべきだ。投資家が被るであろう潜在的な
損失を心配している」。2月22日、イエレン米財務長官は取引
の過熱に警鐘を鳴らした。ラガルド欧州中央銀行(ECB)総裁
も「非常に投機的な資産でマネーロンダリング(資金洗浄)を助
長している」と規制強化の必要性を訴えている。
      ──2021年3月1日付、日本経済新聞「核心」
        「ビットコインの逆襲」/藤井彰夫論説委員長
─────────────────────────────
 ビットコインの価格の高騰化傾向に対する当局の激しい反応は
フェイスブックのリブラに対する当局の反応に似たところがあり
ます。まさに「国家VS暗号資産」の構図です。
 2019年7月16〜17日のことです。米国の議会で、リブ
ラに関する公聴会が開かれています。また、同時期にフランスに
おいて、G20財務相・中央銀行総裁会議も開かれていますが、
リブラが主要議題に取り上げられ、議論が行なわれ、議長総括と
して、次の声明が出されています。
─────────────────────────────
    リブラに関しては最高水準の規制が必要である
                ──G20議長総括
─────────────────────────────
 これに反応して、当時のトランプ米大統領は、リブラに反対す
る趣旨のツイートを立て続けに3連発しています。
─────────────────────────────
≪第1弾≫
 私は、ビットコインや他の仮想通貨のファンではない。それら
はマネーではないし、その価値の変動は大変大きく、ほとんど何
の根拠もない。規制されない暗号資産は、麻薬取引などの違法行
為を助長させる。
≪第2弾≫
 同様に、フェイスブックのリブラの「仮想通貨」も、根拠も頼
りがいもないものだ。もし、フェイスブックとその他の企業が銀
行になりたいのであれば、新たな銀行免許を取り、他の銀行と同
じように、国内と国際の双方の銀行規制に従うべきだ。
≪第3弾≫
 我々は米国でただ一つの本物の通貨を持っている。それは、こ
れまで以上に強くなっており、頼れる信頼がおけるものだ。世界
中でこれまでで一番支配力のある通貨であり、今後もそうあり続
けるだろう。それは米ドルと呼ばれている。
      ──藤井彰夫/西村博之著/日経プレミアシリーズ
            『リブラの野望/破壊者か変革者か』
─────────────────────────────
 トランプ前大統領のツイートは不規則発言といわれますが、ど
こかの国とトップと違って、これは官僚の書いたものを読んでい
るのではなく、大統領自身の仮想通貨に対する考え方をそのまま
書いており、リブラについてはまさに本質を衝いています。
              ──[デジタル社会論/041]

≪画像および関連情報≫
 ●米株市場でビットコイン保有会社に脚光、テスラの
  投資発表追い風
  ───────────────────────────
   [2月10日/ロイター]米国株式市場では、今年に入っ
  てから暗号資産(仮想通貨)ビットコインに投資している企
  業の株価が大幅にアウトパフォームしており、米電気自動車
  (EV)メーカー大手テスラによるビットコインへの15億
  ドル投資発表を受けてさらに値を上げている。
   テスラは8日、ビットコインに約15億ドル投資したと明
  らかにし、テスラ車両や製品の購入でビットコイン利用を受
  け付ける見通しを示した。これを受けて、ビットコインは急
  騰。9日には4万8000ドル超の過去最高値を付けた。テ
  スラ株は発表を受けて8日に上昇。9日は1.6%下落した
  ものの、年初来の上昇率は20%と、S&P総合500種の
  4%高をアウトパフォームしている。
   ビットコインに投資している企業の株価も上昇。ソフトウ
  エア会社マイクロストラテジーは9日に22%値を上げ、今
  週に入ってからの上昇率が50%を超えたほか、年初来の上
  昇率も200%を超えている。同社はこれまでに約7万10
  79ビットコイン(現在30億ドル超相当)を購入。同社の
  時価総額(118億ドル)に対する比率が25%を超えてい
  る。カナダの金融テクノロジー会社モゴも9日に45%高。
  テスラの発表を受けてからの上昇率は85%となった。同社
  は昨年12月にビットコインに最大150万カナダドルを投
  じると表明していた。      https://bit.ly/2NWIVdl
  ───────────────────────────
トランプ前米大統領.jpg
トランプ前米大統領
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月05日

●「吊し上げられるザッカーバーク氏」(第5441号)

 昨日のEJでのトランプ前米大統領のリブラに対するメッセー
ジの一部を再現します。
─────────────────────────────
 もし、フェイスブックとその他の企業が、銀行になりたいので
あれば、新たな銀行免許を取り、他の銀行と同じように、国内と
国際の双方の銀行規制に従うべきだ。 ──トランプ前米大統領
─────────────────────────────
 米国では、このトランプ前大統領のツイートに代表される「取
り締まる側」と「取り締まられる側」の対立が深まっています。
たまたま時期が、フェイスブックの不祥事が相次いだときだった
ことから、フェイスブックCEOは、2019年10月にリブラ
に関する公聴会と称して、何度も米下院金融サービス委員会に呼
び出され、ほとんど吊るし上げに近い状態で、質問を受けている
のです。まさに「取り締まる側」と「取り締まられる側」の激突
の構図そのものです。
 2019年10月23日のことです。この日も米下院金融サー
ビス委員会で公聴会が開かれ、ザッカーバーク氏は単独で出席し
ています。そのときの様子について報道しているWIREDのレ
ポートによると、ザッカーバーク氏は、議員1人5分の持ち時間
で、4時間以上、連続して質問を受けています。さすがに、ザッ
カーバーク氏は、トイレ休憩を要請したのですが、それも許され
ないほどの厳しさだったといわれます。このWIREDのレポー
トには次のように書かれています。
─────────────────────────────
 ザッカーバーグは、委員会で証言するためにワシントンDCに
に来た時点で、こうなるだろうとある程度はわかっていた。この
日の証言はフェイスブックのCEOただひとりだった。60人近
い議員が自分を叩こうと待ち構えているのを、ザッカーバーグは
知っていたのだ。それでもフェイスブックの仮想通貨計画が危機
に直面していたので、来ざるをえなかった。
 パートナー企業が手を引き、規制当局は禁止すると息巻き、委
員長のウォーターズをはじめとする議員はフェイスブックが計画
の一時停止に踏み切るべきだと考えていた。
 「皆さんは、この計画を推進しているのがフェイスブックでさ
えなければとお考えのことでしょう」と、冒頭のあいさつでザッ
カーバーグは言った。そのとき、委員会室の両側に設置されたデ
ィスプレイの画面には、フェイスブックがこれまで起こしてきた
さまざまな問題を資料化したスライドがランダムに映っていた。
「調停、違反、侵害」とタイトルの付いた長い一覧表もそのなか
には見受けられた。         https://bit.ly/3beQipf
─────────────────────────────
 ザッカーバーク氏は、リブラについて「フェイスブックはリブ
ラの理想的なメッセンジャーではない」といい、「もし、この提
案を受け入れてもらえるなら、フェイスブック自身がリブラ協会
を脱退してもよい」とまでいっています。
 「理想的なメッセンジャーでない」という意味は、フェイスブ
ックに対して数々の世の批判が最も激しいときの提案であるとい
う意味であると思われます。そして「このプロジェクトは、資金
送金をテキストメッセージの送信と同じくらい簡単に、かつ安価
にすることをビジョンにしており、金融サービスにアクセスでき
ないアンバンクドに恩恵をもたらすものであるので、諦めるつも
りはない」と強調しています。上記のWIREDの記事中にある
ザッカーバーク氏の冒頭のあいさつ「皆さんは、この計画を推進
しているのがフェイスブックでさえなければと、お考えのことで
しょう」はそれをあらわしています。
 この件に関し、リブラに詳しく、『リブラの正体/GAFAは
通貨を支配するのか?』の著者の1人であり、みずほ銀行チーフ
マーケット・エコノミスト、唐鎌大輔氏は、次のようにコメント
しています。
─────────────────────────────
 リブラに限ったことではないですが、暗号資産の潜在能力に大
きな期待を抱く向きほど既存の為政者を目の敵にする傾向が強い
と感じます。ビットコインがブームの絶頂を迎えたときも、リブ
ラの可能性が論じられている本書執筆時点でも同様ですが、既存
の通貨当局が不要になるという極端なシナリオが暗号資産の支持
層から嬉々として語られることが少なくありません。
 しかし、本書執筆時点で公開されている情報を踏まえる限り、
リブラは既存の金融システムを活用しなければ稼働できません。
そうであれば大前提として、既存権力からの理解や承認が必要で
す。それゆえ、ことさらに対立を煽るような論調には違和感を覚
えるというのが筆者の基本認識です。既存権力と対立する限り理
解も承認もされないので、プロジェクトはそもそも成立しないと
いうのが素直な理解ではないでしょうか。
          ──リブラ研究会編/日本経済新聞出版社
     『リブラの正体/GAFAは通貨を支配するのか?』
─────────────────────────────
 リブラは、発行金額に対して、リブラリザーブという裏付資産
を保有する仕組みになっています。これは、ドルやユーロなどの
主要通貨で構成されるバスケットを前提に銀行預金や短期国債な
どの安全資産で構成されることになっています。そして、この運
営に関しては、フェイスブックではなく、スイス・ジュネーブに
本拠を置くリブラ協会が行うことになっています。
 法定通貨に裏付けられるということは、既存勢力が法定通貨向
けに提供する中央銀行の資金決済システムに依存することを意味
しています。このようにリブラは、設計的には、既存勢力に楯突
けない仕組みになっているのです。これが、リブラが他の多くの
暗号資産と根本的に異なる点といえます。リブラは、価格変動が
抑制される「ステープル・コイン」といわれるゆえんです。した
がって、目くじら立てて反対する代物ではないのです。
              ──[デジタル社会論/042]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜフェイスブックのLibraが嫌われているのか? 懸念さ
  れる4つの重大すぎるリスク
  ───────────────────────────
   世界最大のソーシャルプラットフォームであるフェイスブ
  ックが2019年6月18日、暗号通貨リブラを主導して立
  ち上げた。早くも「悪用できる穴が多い」「国家のような存
  在になり、当局ににらまれる」など重大な問題点が指摘され
  ており、リブラが広く流通するほど、政治的なイシューにな
  る。フェイスブックにとって逆説的に怖いのは、リブラが既
  存の通貨を超える大成功を収めることではないか――。その
  潜在的なリスク要因4つを整理する。
   「信用不足から銀行口座やクレジットカードを持てない、
  世界17億人の低所得層は、フェイスブック最高経営責任者
  (CEO)のザッカーバーグ氏を救世主とみなすだろう」米
  経済専門局CNBCの名物コメンテーターの、ジム・クレー
  マー氏は、リブラの発表を受けて、ザッカーバーグ氏をこう
  持ち上げた。
   リブラを使えば、専用のデジタルウォレット「カリブラ」
  を介して、銀行口座を持てない人でも基本的な金融サービス
  が使えるようになる。世界中の消費者や企業間の取引が円滑
  化される可能性がある。1年後、2020年の運用開始を目
  指し、当初はポジティブな評価が目立った。米金融大手のサ
  ントラストは、「フェイスブックは、リブラによってSNS
  だけでなく、世界のeコマースのリーダーになろうとしてい
  る。27億人というユーザー規模、ブランド力とバランスシ
  ートの面で、同社にかなう相手はいない」と分析。
                  https://bit.ly/3kL5c9P
  ───────────────────────────
公聴会におけるザッカーバークCEO.jpg
公聴会におけるザッカーバークCEO
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(2) | デジタル社会論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月08日

●「カンボジア/バコンに日本の技術」(第5442号)

 2021年3月6日、日経の夕刊に、EJの今回のテーマに関
連のある次の記事が掲載されています。
─────────────────────────────
   ◎バイデン氏がIT規制派起用/特別補佐官にウー氏
      ──2021年3月6日付、日本経済新聞夕刊
─────────────────────────────
 ここで、ウー氏とは、コロンビア大学のティム・ウー教授のこ
とで、バイデン政権は、ウー教授を国家経済会議(NEC)のテ
クノロジー・競争政策担当の大統領特別補佐官として起用したと
いうのが記事の内容です。米司法省は、2020年10月、グー
グルのインターネット検索サービスについて、独禁法違反で、提
訴しているし、米連邦取引委員会(FTC)は、昨年12月に、
フェイスブックを独禁法違反の容疑で提訴しています。それに加
えて、ティム・ウー教授のテクノロジー・競争政策担当の大統領
特別補佐官の起用です。米国のプラットフォーマーにとっては、
厳しい情勢になりそうですし、フェイスブックのリブラ(ディエ
ム)の発行にも赤ランプが灯ることになります。日本経済新聞は
ウー氏について次のように紹介しています。
─────────────────────────────
 ウー氏はグーグルやフェイスブック、アマゾンといった巨大I
T企業の寡占が進んでいる現状に警鐘を鳴らし、巨大IT企業の
解体や反トラスト法(独占禁止法)の強化を主張。「ネット中立
性」という言葉を生み出したことでも知られる。
        ──2021年3月6日付、日本経済新聞夕刊
─────────────────────────────
 ところで、2020年10月28日のことです。タイの有力英
字紙バンコク・ポスト電子版は「カンボジア中銀デジタル通貨が
正式に稼働開始」という見出しで、ロイター電を引用して次のよ
うに報道しています。
─────────────────────────────
 カンボジアは10月28日、ブロックチェーン(分散型台帳技
術)によって日本企業が設計し、中央銀行が後押しするデジタル
通貨を結合した電子通貨「バコン」(BAKONG)が完全に稼働はじ
めたのだ。
 「バコン」では米ドルとカンボジア・リエルの取引が可能で、
カンボジア国民による個人のスマホ間での支払・送金を可能にす
ることが期待されている。(中略)日本のフィンテック・スター
トアップであるソラミツ「バコン」開発に参加した。中銀は昨年
7月から「バコン」をパイロット稼働していた。現在までに20
の金融機関がこのプロジェクトに参加しており、数十社が今後参
加する見通しだ。──宮沢和正著『ソラミツ/世界初の中銀デジ
  タル通貨「バコン」を実現したスタートアップ』/日経BP
─────────────────────────────
 このニュース、日本人の何人が知っていたでしょうか。私自身
も日本経済新聞はよく見ているつもりですが、この記事は読んで
いません。ネットで調べると、2017年4月21日付の有料会
員限定のフィンテック関係の記事として、次のタイトルの記事が
出ていました。
─────────────────────────────
◎「日本発」の仮想通貨技術、カンボジア中銀が採用
 カンボジアの中央銀行は仮想通貨技術「ブロックチェーン」を
使った新しい決済手段を開発する。日本のフィンテックベンチャ
ーのソラミツ(東京・港)が開発した技術を使う。海外の中銀が
日本企業のブロックチェーン技術を採用するのは初めてとみられ
る。決済システムの整備が遅れている国で、日本発の技術を生か
した新しい決済インフラの開発が始まる。
        ──2017年4月21日付有料会員限定記事
─────────────────────────────
 この記事は、日本のフィンテックベンチャー「ソラミツ」が、
カンボジア中央銀行からブロックチェーンを使う仮想通貨の開発
を受注したことを伝えるニュースです。知っている人は知ってい
るのでしょうが、テレビなどで大きく取り上げられていないニュ
ースであることは確かです。私が知ったのは、今年に入って、上
記のソラミツ代表取締役社長の宮沢和正氏の著書を書店で見つけ
て、はじめて知ったのです。
 著者略歴によると、著者の宮沢和正氏は、ソニーを経て、楽天
にて、電子マネー「Edy」の立ち上げに参画、楽天Edy執行
役員を経て、ソラミツに入社しています。
 楽天の電子マネー「Edy」といえば、電子マネーの進化系で
あり、唯一転々流通のできる電子マネーとして知られています。
私自身は「Edy」を使っていませんが、ビットコインをEJの
テーマに取り上げたとき、一番メインに読んだ本のひとつ、野口
悠紀雄氏の『仮想通貨革命』(ダイヤモンド社)に、次のように
出ていたのです。
─────────────────────────────
 電子マネーは(Edy to Edyなどを例外とすれば) 一回限りの
利用しかできない。しかし、ビットコインは、企業や個人の間を
転々流通する。この点で、現金通貨と同じだ。
              ──野口悠紀雄著『仮想通貨革命
   /ビットコインは始まりにすぎない』/ダイヤモンド社刊
─────────────────────────────
 Edy to Edy(エディトゥエディ)とは、サービス登録したおサ
イフケータイのエディから、他のおサイフケータイへ指定した額
のエディを送ることができるサービスのことです。数ある他の電
子マネーではできない芸当です。エディは現金通貨にきわめて近
いといえます。
 念のため、触れておくと、「Edy」とは、Eはユーロ、Dは
ドル、Yは円を表しています。この「Edy」の開発者がカンボ
ジアの「バコン」の開発の中枢を担ったのです。素晴らしいこと
だと思います。       ──[デジタル社会論/043]

≪画像および関連情報≫
 ●カンボジア「バコン」導入の目的と今後/潮田玲子氏
  ───────────────────────────
   カンボジア国立銀行(中央銀行/以下中銀)は2020年
  10月28日、リテール向けの決済システム及び中銀デジタ
  ジタル通貨(CBDC)である(「バコン」の正式リリース
  を発表した。中銀によるブロックチェーン1を活用したデジ
  タル決済の実用化としては世界初の事例で、利用者の取引内
  容は中銀のレッジャー(台帳)にて記録・管理される。当該
  システムにはカンボジアの18の金融機関が参加している。
  利用者はスマートフォンに、「バコン」のアプリをダウンロ
  ードし、銀行窓口でカンボジアの通貨リエルまたは米ドルの
  現金をバコンに換金後、電話番号やQRコードを通じ、無料
  で個人間・企業間送金や店舗での支払いが可能となる。1日
  の利用額は250ドル程度に制限されているが、銀行で口座
  開設し本人確認の手続きをすればその額は拡大する。カンボ
  ジアでは、1970年から1993年までの内戦による国内
  政治・経済の混乱や、その後の国際的な復興支援で国内に外
  貨が流入した結果、いわゆる「ドル化」2が進行した。金利
  について、決済性預金に関してはリエル建てよりドルの方が
  高く、借入関連ではドルの方が低いこともあり、農村部での
  支払、税金や公共料金の支払、一部の公務員給与支払等、以
  外の国内取引の多くはドル建て決済となっている。同国中銀
  によると、2020年9月末時点の国内預金に占める外貨預
  金の比率は92%、マネーストック(M2)に占める同比率
  は84%にのぼる。       https://bit.ly/2NZhPCx
  ───────────────────────────
コロンビア大学のティム・ウー教授.jpg
コロンビア大学のティム・ウー教授
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月09日

●「カンボジアはどんな状況だったか」(第5443号)

 ソラミツがカンボジア国立銀行の案件に応札できたのは、カン
ボジア国立銀行と名乗る人物からの次のメールです。
─────────────────────────────
 おはようございます、皆さん。私はカンボジア国立銀行のXX
Xです。われわれは中央銀行デジタル通貨を発行したいと考えて
います。あなた方の開発しているブロックチェーン「ハイパーレ
ッジャーいろは」プラットフォームでテストしたいと思います。
あなたがたのサポートを是非とも期待しています。
        ──宮沢和正著『ソラミツ/世界初の中銀デジ
  タル通貨「バコン」を実現したスタートアップ』/日経BP
─────────────────────────────
 「ハイパーレッジャーいろは」とは何でしょうか。
 読みにくいので、かたかなで記述しましたが、正式名称は、次
の通りです。
─────────────────────────────
             Hyperledger IROHA
       主導開発元:ソラミツ株式会社
─────────────────────────────
 「Hyperledger」とは何でしょうか。
 ハイパーレッジャーは、ブロックチェーン技術を仮想通貨に限
定せず、最大限に利用することを目的として、誕生したブロック
チェーン技術の推進コミュニティーのことです。
 プロジェクトの立ち上げにあたって、リナックスOSの普及を
サポートする非営利の共同事業体であるリナックス・ファウンデ
ーションが中心になり、オープンソースの理念から世界中のIT
企業が協力して、ブロックチェーン技術の確立を目指しているの
です。リナックス・ファウンデーションは、2000年に設立さ
れた非営利の技術コンソーシアムのことです。
 このコミュニティーのなかには、複数のプロジェクトが存在し
グローバルレベルで、共同検証が進められていたのですが、20
17年当時、活動が続けられていたブロックチェーンのプラット
フォーム開発プロジェクトは、3つあり、その1つがソラミツ株
式会社というわけです。参考までに、ソラミツ株式会社以外の2
社についても記述しておきます。
─────────────────────────────
    Hyperledger fabric
    主導開発元:米IBM
    Hyperledger Sawtooth Lake
    主導開発元:米インテル・コーポレーション
─────────────────────────────
 米IBMや米インテルと肩を並べるソラミツという企業は只者
ではありません。ソラミツとカンボジア中央銀行との契約が成立
した2017年当時、カンボジア国内での銀行口座開設率はわず
か22%であり、78%の国民は銀行口座を保有していないアン
バンクトであったのです。
 しかし、その一方で、スマホの普及率は150%であり、2台
保有している人が多かったのです。1台はプライベート用で、家
族や知人との通信用であり、もう1台はビジネス用です。贅沢の
ようですが、スマホを持っていないと仕事も探せないし、仕事の
声もかからないので、スマホはカンボジア国民にとって、必須ア
イテムになっていたのです。
 当時カンボジア国内では、スマホを利用して、「ウイング」と
いう送金サービスが流行していたのです。ウイングを営む事業者
は、農村部を含めてカンボジア全土に4000店舗も展開されて
いるのです。どのようにして送金するのかというと、都市部で働
く人が、農村部の自分の家族に送金する方法を解説します。
─────────────────────────────
 @都市部のウイング店舗で現金を預け、パスワードを発行し
  てもらう。
 AそのパスワードをSNSを使って、農村部の自分の家族に
  送信する。
 B家族は近くのウイングの店舗に行き、送付されたパスワー
  を見せる。
 Cウイングの業者は、そのパスワードを確認照合のうえ現金
  を支払う。
─────────────────────────────
 送金手数料としては、1米ドル程度はかかりますが、現金のま
ま輸送するよりもはるかに安全であるし、スピードも速いので゛
幅広く利用されているのです。
 このカンボジアの「ウイング」と似たような送金システムは他
の国でも見られます。ケニアの「エムぺサ」は、仕組みが「ウイ
ング」とそっくりです。この「エムペサ」について、野口悠紀雄
氏は自著で、次のように紹介しています。
─────────────────────────────
 このサービスは、ケニアの携帯電話会社サファリコムに出資し
た英携帯電話大手のボーダフォンが、07年に開始した。エムぺ
サの代理店(取次店)で現金を預けて自分のエムぺサロ座に入金
してもらってから、送金相手にSNSを送る。メッセージを受け
取った人は、取次店でSNSと身分証明書を提示すると、現金を
受け取れる。「エコノミスト」の記事によると、ケニアの成人人
口の3分の2以上に当たる1700万人が、エムぺサを利用して
いる。エムぺサを通じて行なわれる資金移動は、ケニアのGDP
(国内総生産)の約25%に相当する。
             ──野口悠紀雄著/ダイヤモンド社
     『仮想通貨革命/ビットコインは始まりにすぎない』
─────────────────────────────
 カンボジアの国立銀行は、このような「ウイング」の流行に眉
をひそめたのです。何とかしなければならない。カンボジア国立
銀行は、実態を調査し、問題点の抽出を行ったのです。
              ──[デジタル社会論/044]

≪画像および関連情報≫
 ●個人間送金サービスはアプリで対応!銀行口座を使わない
  仕組みを解説
  ───────────────────────────
   個人間送金とは、個人から個人へお金を送ること。金融機
  関を通したお振込みや、郵便局の現金書留なども個人間送金
  となりますが、近年、注目を集めているのは、スマートフォ
  ンなどのアプリを使って、お金をやり取りする個人間送金で
  す。個人間送金は「P2P金融サービス」ともいわれていま
  す。P2Pとは、Peer to Peer の略で ネットワークに接続
  されたコンピュータ端末同士が直接通信する方式のこと。つ
  まり、パソコンやスマートフォンを介して、365日24時
  間、送金を行うことができるサービスです。
   個人間送金は、キャッシュアウト(現金の引き出し)する
  際に手数料がかかりますが、送金時の手数料が発生しないた
  め大きな魅力となっています。銀行からの送金は、利用者が
  手数料を負担しないといけない上に、国外にお金を送金する
  際はさらなる手数料がかかります。そのため、個人間送金と
  呼ばれる送金方法が注目を集めているのです。
   日本ではまだ十分に浸透しているとは言い難いですが、海
  外に目を向けると個人間送金が日常の風景となっている国が
  あります。例えば、アメリカのペイパルの子会社が運営して
  いる「Venmo (ベンモ)」というサービスは、手数料無料で
  ソーシャル機能を含めた使い勝手の良さがウケて、若い世代
  を中心に人気を博しています。割り勘や建て替えをする際に
  「Venmo me 10$」といった具合に、Venmo が動詞として浸
  透するほど日常化しています。   https://bit.ly/2Oy4iS1
  ───────────────────────────
カンボジア国立銀行.jpg
カンボジア国立銀行
posted by 平野 浩 at 08:08| Comment(0) | デジタル社会論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月10日

●「『バコン』はどういうシステムか」(第5444号)

 カンボジア国立銀行の狙いは、ファイナンシャル・インクルー
ジョン(金融包摂)にあります。貧困や難民などに関わらず、誰
もが取り残されることなく金融サービスへアクセスでき、金融サ
ービスの恩恵を受けられるようにすることです。
 そのためにカンボジア国立銀行は、実態調査を実施し、次の問
題点を把握しています。
─────────────────────────────
 1.決済・送金サービス事業者は、銀行口座を通していない
  ので、中央銀行は取扱金額が捉えることが困難である。
 2.もし、決済・送金サービス事業者が経営破綻した場合、
  利用者からの預かり金を十分保全できない状況である。
 3.このままでは、相互運用性がないため、複数の決済・送
  金サービスが乱立し、利用者や店舗の利便性に欠ける。
 4.決済・送金サービス事業者のなかには、資金繰りに影響
  が出て、店舗への代金の振り込みまでに時間がかかる。
─────────────────────────────
 これら4つの問題点に対して、カンボジア国立銀行は、解決策
として、次の2つの案が検討されたのです。
─────────────────────────────
【プランA】決済・送金サービス事業者を既存の銀行間システ
 ムに組み込み、管理する方法。この場合、決済・送金サービ
 ス事業者にとってコンプライアンス・コスト(法規制順守の
 ためにかかるコスト)が重荷となる。
【プランB】中銀がネットワークを整備したうえで、決済・送
 金サービス事業者を含む金融機関をこれに参加させ、相互連
 結して、いわば全国共通の財布を作る方法。この場合、コン
 プライアンス・コストは抑えられる。
        ──宮沢和正著『ソラミツ/世界初の中銀デジ
  タル通貨「バコン」を実現したスタートアップ』/日経BP
─────────────────────────────
 カンボジア国立銀行は、「プランA」と「プランB」を慎重に
検討した結果、「プランB」を選択し、これを実現するためには
ブロックチェーン技術が不可欠であるので、業者の選定を行い、
2016年12月に、ブロックチェーン技術を開発しているソラ
ミツを含む数社に絞って、システムの構築を打診したのです。そ
の結果、ソラミツ株式会社が選定されています。
 カンボジアのデジタル通貨「バコン」とは、どのような通貨な
のでしょうか。
 デジタル通貨システムに、ブロックチェーン技術がどのように
からんでいるかについては、技術的に難解であるので、改めて述
べることにし、全体のイメージを掴んでいただくために、通貨シ
ステムの概要について述べます。
 「バコン」は、現金と同等の価値を有し、転々流通可能なトー
クン型のデジタル通貨です。「トークン」という言葉は、さまざ
まな文脈で使われることがあり、明確な定義がありませんが、仮
想通貨業界では、一般的に既存のブロックチェーン技術を利用し
て発行された仮想通貨のことを指して「トークン」と呼ぶことに
なっています。
 「バコン」のアプリは、世界中のスマホ利用者が利用している
アップストアかグーグルプレイからダウンロードできます。しか
し、「バコン」アプリを実際に利用するためには、カンボジアの
携帯電話番号を入力し、SMS認証を受ける必要があります。S
MS認証というのは、スマホの電話番号を使って、本人確認を行
う認証手段の一つです。
 カンボジアに在住し、カンボジアの携帯電話番号を登録してい
る人であれば、誰でも簡単にオンラインで「バコン」口座を開設
し、決済や送金ができるようになります。
 海外からの旅行者については、カンボジアの携帯ショップでパ
スポートを提示して本人認証を受けたあと、カンボジアのSIM
カードを購入し、電話番号を登録すれば「バコン」が使えるよう
になります。
 「バコン」への入金は、リエルか米ドルの現金を参加している
銀行の窓口か送金事業者の店舗に持って行けば「バコン」と交換
できます。「バコン」を入手すれば、スマホの簡単な操作で、個
人間や企業への送金ができるほか、QRコードをスキャンして、
店舗などでの決済を簡単に行うことができます。
 ところで、カンボジアは、なぜ、この時期にデジタル通貨「バ
コン」導入を急いだのでしょうか。これについて、ソラミツ社長
である宮沢和正氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 金融インフラの整備が遅れている発展途上国では、政府や中央
銀行が積極的に金融包摂に乗り出さなければ、「デジタル人民元
(DCEP)」のような他国のデジタル通貨やフェイスブックの
「リブラ」のような民間デジタル通貸に市場を奪われてしまう恐
れがある。したがって他国のデジタル通貨が世界に普及する前に
自国による金融包摂を実現することが最重要課題であり、そのた
めには迅速に自国のデジタル通貨を普及させ、通貨の独立性を保
つ必要がある。これが金融包摂、金融政策力の維持、自国通貨の
強化の意味である。       ──宮沢和正著の前掲書より
─────────────────────────────
 現在、カンボジアでは自国通貨のリエルと米ドルが流通してい
ます。しかし、このところ、自国通貨のリエルの流通が弱くなっ
ており、国全体の流通額では70%が米ドルです。その交換比率
は次の通りです。
─────────────────────────────
      1米ドル=4000〜4100リエル
─────────────────────────────
 つまり、「リエルの復権」もデジタル通貨導入の動機のひとつ
になっているのです。実際に「バコン」導入後、その発行額は全
体の60%に達しています。 ──[デジタル社会論/045]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜカンボジア中銀はデジタル通貨を発行するのか?
  ───────────────────────────
   カンボジアの中央銀行デジタル通貨「バコン」を開発する
  ソラミツの宮沢和正氏(特別顧問)が2020年1月20日
  都内のイベント「デジタル通貨と規制セミナー」に登壇。2
  020年から導入される予定のブロックチェーンを基盤とし
  た「バコン」を紹介し、「なぜカンボジアが中銀デジタル通
  貨を発行するのか?」について「金融包摂」「自国通貨の強
  化」「国家全体の決済アーキテクチャを簡素化する」という
  3つの理由を指摘した。
   少額のリテール決済から高額の銀行間取引までできるバコ
  ンは、2019年7月から実用化のテスト運用を行っている
  段階だ。カンボジア最大の銀行アクレダを含む9つの銀行な
  どと接続して、実際のお金の価値を使って数千人のユーザー
  が送金や店舗での支払いを行っている。正式なシステムの稼
  働は2020年内を目指す。
   開発を進めるのは日本のブロックチェーン企業ソラミツ。
  特別顧問の宮沢氏は、過去に電子マネー「エディ」(現・楽
  (楽天エディ)立ち上げの中心的や役割を果たした人物であ
  り、今回もプロジェクトリーダーとして構想から仕様書を作
  成し、推進してきた。デジタル通貨「バコン」は、カンボジ
  ア国立銀行が各銀行にバコンを発行し、各銀行が利用者に展
  開する「間接発行」方式を採用。「直接発行」方式と比較し
  て、中央銀行が本人確認や口座管理を行う必要がないため負
  荷が減り、各銀行の役割は、現在と同じものを維持できると
  いう。             https://bit.ly/3v4cZVi
  ───────────────────────────
ソラミツ/宮沢和正社長.jpg
ソラミツ/宮沢和正社長
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月11日

●「カンボジア『バコン』の仕掛け人」(第5445号)

 カンボジア国立銀行とソラミツ株式会社が「バコン」システム
の共同開発契約を調印したのは2017年4月のことです。それ
から8ヶ月でプロトタイプが完成し、さらに1年7ヶ月で本番シ
ステムが稼働しています。そして、コロナ禍によって少し予定は
遅れたものの、2020年10月、「バコン」システムの正式運
用が始まったのです。
 世界初のCBDC(Central Bank Digital Currency) という
ことになります。これは、カンボジアはもちろんのこと、日本に
とっても画期的なことですが、日本ではあまり知られていない状
況にあります。
 しかしソラミツは、2020年10月28日、中銀デジタル通
貨(CBDC)への貢献が認められ、ロンドン・べースの中央銀
行専門誌セントラル・バンキングが主催するアワードで、次の賞
を受賞しています。
─────────────────────────────
   FinTech & RegTech Globsl Awards 2020
       中銀デジタル通貨パートナー賞
─────────────────────────────
 しかし、カンボジア国立銀行は、「バコン」はCBDCと認め
ていないのです。「バコン」は、「新しい通貨」ではなく、「新
しいモバイル決済システム」であると主張しているのです。なぜ
でしょうか。それは、「バコン」が中銀デジタル通貨とした場合
次の問題点があるからです。
─────────────────────────────
 1.新しい通貨の発行には法律の変更が必要になるが、これ
  は、かなりの時間を要する。
 2.紙からデジタルへの変更は、紙幣が使えなくなるという
  勘違いによる混乱が起こる。
        ──宮沢和正著『ソラミツ/世界初の中銀デジ
  タル通貨「バコン」を実現したスタートアップ』/日経BP
─────────────────────────────
 「バコン」をCBDCと認めないのは、「バコン」導入の目的
が別のことにあるからです。このことを主張するのは、カンボジ
ア国立銀行の責任者のチア・セレイ統括局長です。
 チア・セレイ統括局長は、添付ファイルを見ればわかるように
総括責任者としては考えられないほど若い女性です。チア・セレ
イ氏は、中央銀行にあたるカンボジア国立銀行(NBC)のチア
・チャント総裁の娘で、NBCにある各局を束ねる統括局長を務
めています。英国や豪州で教育を受け、流暢な英語を操る国際人
で、才色兼備として人気も高く、NBCの顔として世界的に知ら
れている人物です。
 「バコン」の導入は、チア・セレイ統括局長の強い思いでもあ
ります。チア・セレイ統括局長によると、今回の「バコン」導入
の狙いは、自国通貨「リエル」の復権にあるというのです。主権
国家にとって、自国通貨は国のアイデンティティーであり、国民
のプライドでもあります。ところが、カンボジアでは、自国通貨
の「リエル」よりも、米ドルの方が普及し、定着してしまってい
るのです。これについて、チア・セレイ統括局長は次のように話
しています。
─────────────────────────────
 「350万リエルで何が買えますか」と尋ねると、国民はどれ
くらいの額なのかを把握するのに、少し時間がかかる。それが、
「350万ドル」と言うと、瞬時に理解する。これがいまだに国
民の意識だ。リエルの信頼や安定性、強さの問題が原因ならば、
そこを改善すればいい。これが意識や習慣、国民心理の問題とな
ると、変えるのはとても難しい。政府が強制的にリエルを使えと
言っても、いい影響は出ないだろう。
 脱ドルを迫るより、むしろリエルの日常的な利用促進を国民に
呼びかけていくしかないと考えている。国民が自主的に自国通貨
を採用するようになることが重要だ。 https://bit.ly/3v1XYTX
─────────────────────────────
 公益財団法人・国際通貨研究所の2019年5月のレポートに
よると、2017年時点の銀行預金に占めるドルの割合は94%
であり、銀行貸出に占めるドル建ての割合は98%に達していま
す。カンボジア政府としては、2019年までに貸出ポートフォ
リオの10%以上を何とかリエル建てにしようとしたものの、達
成できていない状況です。かといって、急激な脱ドル化は経済を
混乱させるだけです。
 そこで国外からドル建ての投融資は受け入れるものの、日常の
決済は、自国通貨で行うようにしたいとする願望が、独自デジタ
ル通貨「バコン」の開発の背景にあるといいます。要するに、チ
ア・セレイ統括局長の意図は、「国民が使いたくなる自国通貨を
作る」ことにあったのです。チア・セレイ統括局長は、次のよう
にも語っています。
─────────────────────────────
 国民のライフスタイルが米ドルでつくられてきたのと同時に、
ビジネスも米ドル基盤。なぜ変える必要があるのかと言う人もい
る。ただ、気づいてほしい。金融政策はその国独自のものでない
とならない。経済成長が続く中、中央銀行が国民のためにできる
ことは増えているのに、私たちが刷るお金を使ってくれなければ
それすらもできない。問題が起きた時に責任をもって国民を助け
られるよう、私たちのお金を使ってほしい。米ドルへの執着は長
期的視点で見ると、決して国のためにはならないということを理
解してもらえるよう、啓発活動を続けている。まずは、物価をリ
エルで感覚的に瞬時に理解できるよう、リエルの値段表示を増や
したり、公務員給料をリエル建てにしたりして、意識の改善を図
っていく。時間がかかることは間違いないが、少しずつ国民意識
が変わってきているのを感じている。 https://bit.ly/3v1XYTX
─────────────────────────────
              ──[デジタル社会論/046]

≪画像および関連情報≫
 ●カンボジア、デジタル通貨の運用を開始──ソラミツの技術
  を採用
  ───────────────────────────
   カンボジアの中央銀行は2020年10月28日、日本企
  業の技術を採用したデジタル通貨の運用を開始した。ブロッ
  クチェーンを基盤とする中央銀行デジタル通貨システム「バ
  コン」はカンボジアのリテール決済と銀行間決済を支える。
  カンボジア国立銀行は、フィンテック企業のソラミツ(東京
  ・渋谷区)と共同でバコンを開発。昨年7月からカンボジア
  全土で試験運用を行ってきた。
   カンボジア国内の電話番号を持っていれば、バコンのスマ
  ートフォンアプリを使うことができる。デジタルリエルまた
  は米ドルのウォレットを保有し、QRコード等を通じて個人
  間や企業間の送金や、店舗での支払いが可能だ。
   送金手数料はかからず、安全でスピーディなデジタル通貨
  決済システムの導入は、金融基盤のデジタル化を進めるカン
  ボジアにとって、大きな一歩となった。スマートフォンの普
  及率は高まる一方、多くのカンボジア国民は銀行口座サービ
  スなどの金融サービスにアクセスできない状況にある。東南
  アジアの国々にとっては共通する社会課題で、バコンはカン
  ボジアの金融包摂を強化する施策の一つでもある。ソラミツ
  はブロックチェーン「ハイパーレジャーいろは」の開発に参
  画してきた。カンボジア中央銀行は、同技術がバコンのリテ
  ール決済部分に最も適していると判断し、ソラミツとの共同
  開発を進めてきた。       https://bit.ly/3ru4kJt
  ───────────────────────────
チア・セレイ統括局長.jpg
チア・セレイ統括局長
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月12日

●「バコンはトークン型デジタル通貨」(第5446号)

 カンボジアのデジタル通貨「バコン」について、その開発の経
緯などは述べてきた通りですが、肝心の「バコン」とはどういう
通貨なのか、ビットコインやリブラなどとは、どこが違うのか、
中枢部に使われているブロックチェーン「ハイパーレッジャーい
ろは」とはどういうものかについて、説明していきます。デジタ
ル通貨には、次の2つのタイプがあります。
─────────────────────────────
         @  口座型/支払指示型
         Aトークン型/転々流通型
─────────────────────────────
 「口座型/支払指示型」というのは、電子マネーやQRコード
決済といったタイプがそれに該当します。顧客は、指定のアプリ
をスマホにダウンロードし、そのアプリに貯めた電子マネーを加
盟店がQRコードなどで読み取って決済を行います。決済処理は
スピーディーに行われるので、顧客側、店舗側ともにメリットが
あります。
 資金の清算は、締め切り日において、決済事業者と加盟店の間
で行われます。決済事業者は、決済された電子マネー分の現金を
加盟店の銀行口座に振り込みます。これが口座型です。
 したがって、口座型では、決済された資金をすぐに仕入れなど
の支払いに充当できないのです。この場合、加盟店の売上金が振
り込まれるまで、1ヶ月程度かかる場合もあります。
 「トークン型/転々流通型」というのは、完全に現金と同じ扱
いになります。リテール決済における加盟店での支払いや企業間
の送金においても、現金と同様に、デジタル通貨が最初の所有者
から次の所有者に転々流通するので、後日の資金清算の必要がな
く、受け取ったデジタル資金をそのまま支払いなどに使うことが
できます。
 しかし、転々流通型のデジタル通貨は、従来のデジタル技術で
は実現が困難だったのですが、それを可能にしたのが、他ならぬ
ブロックチェーン技術です。これについて、ソラミツの宮沢和正
氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 紙幣は有機体であり、1万円札を誰かに手渡せば手元から消え
去り、もう一度支払いに使うことはできない。二重使用の禁止と
いう通貨の大原則を紙媒体によって表現したのが紙幣である。ブ
ロックチェーンは、それを電子的に表現したものである。これま
でデジタル情報は複製を防止する手段がなかったため、紙幣のよ
うなトークン型の通貨として利用することはできなかった。ブロ
ックチェーンが可能にしたのは、トークン型の通貨の二重使用を
防ぐことである。この技術によって、デジタル通貨が可能となっ
た。      ──宮沢和正著『ソラミツ/世界初の中銀デジ
  タル通貨「バコン」を実現したスタートアップ』/日経BP
─────────────────────────────
 問題は銀行間の送金です。「バコン」導入前は、一定時間、送
金と着金のデータをストックしておき、、1日に2回、バッチ処
理で差分のみを決済していたのです。これを「時点ネット決済」
といいます。それでは、「バッチ処理」とは何でしょうか。バッ
チ処理の「バッチ」とは、英語の「Batch」 が語源であり、「一
束」とか「一群」という意味になります。つまり、バッチ処理と
は、一定量の(あるいは一定期間の)データをストックし、一括
処理するための処理方法のことです。
 しかし、この方式にはリスクがあります。決済を行う時点で、
どちらかの銀行で金額が巨額になり、資金が不足してしまうリス
クです。一番怖いのは、ある銀行の資金不足が別の銀行の資金不
足に連鎖して、システミック・リスクが起きることです。
 これを防ぐには、まとめて処理するのではなく、取引ごとに資
金を移動させる必要があります。そこで「バコン」導入後は次の
ようになっています。
 「バコン」導入後、銀行Aから銀行Bに送金する場合について
考えます。銀行Aはカンボジア国立銀行(NBC)のリザープロ
座から相当額の「バコン」を送金してもらい、この「バコン」を
銀行Bに送金することで、銀行間決済が完了します。この方式を
「RTGSシステム(即時グロス決済)」といいます。これに対
して時点ネット決済はDTNSシステムといいますが、このシス
テムをRTGSシステムに変更することによって、コストが大幅
に縮小し、リアルタイムの銀行間決済が可能になったのです。こ
れこそトークン型デジタル通貨「バコン」を発行する大きなメリ
ットになっているといえます。RTGSシステムとDTNSシス
テムの意味を整理しておきます。
─────────────────────────────
      ◎DTNSシステム/時点ネット決済
        Designated Time Net Settlement
      ◎RTGSシステム/即時グロス決済
           Real-Time Gross Settlemen
─────────────────────────────
 DTNSシステムとRTGSシステムは、ともに中央銀行にお
ける金融機関間の口座振替の手法です。RTGSのもとでは、D
TNSと異なり、ある金融機関の不払いがどの金融機関への支払
いの失敗であるかが必ず特定され、その他の金融機関の決済を直
ちに停止させることはないのです。このように、DTNSと比較
すると、システミック・リスクの大幅な削減が可能である点で、
RTGSは優れた仕組みであるといえます。
 しかし、「バコン」による中央銀行における金融機関間の口座
振替をRTGSで実施するには、中央銀行であるカンボジア国立
銀行と、傘下の各金融機関において、「バコン」が流通する仕組
みを作る必要があります。これは大変な作業です。そのためには
各銀行に銀行のAPIの整備を行う必要があります。これについ
ては、来週のEJにおいて考えることにします。
              ──[デジタル社会論/047]

≪画像および関連情報≫
 ●世界初の中銀デジタル通貨の商用化と日本における展開
  ───────────────────────────
   カンボジア国立銀行とブロックチェーンを活用した中銀デ
  ジタル通貨を共同開発し2020年4月に正式運用を開始、
  日本発のオープンソース・ブロックチェーンを開発するソラ
  ミツ。本稿では、ソラミツ代表取締役社長宮沢氏にデジタル
  通貨の商用化と日本における展開について解説する。
   我々ソラミツは、2017年4月にカンボジア国立銀行と
  ブロックチェーンを活用した中銀デジタル通貨の共同開発契
  約に調印した。2019年7月に商用システム「バコン」が
  完成。テスト運用を実施後、2020年4月に正式運用を開
  始した。中国やスウェーデンなどが中銀デジタル通貨を検討
  する中でカンボジアは世界初の商用化を達成した。現在12
  の銀行が参加し、国民はスマートフォンでデジタル化した現
  地通貨のリエルや、ドルを送金や店頭での決済に活用してい
  る。少額のリテール決済から高額の銀行間取引まで一貫して
  ブロックチェーン化し、国家全体の決済アーキテクチャーの
  大幅な簡素化・低コスト化を実現した。
   デジタル通貨には、現金に近いトークン型と銀行口座に近
  い口座型の2つの実現方法がある。「バコン」はトークン型
  のデジタル通貨であり現金と同等の価値を持つ。ファイナリ
  ティ(決済の確定)があるため、リテール決済における加盟
  店での支払いや企業間の送金においても、現金決済と同様に
  後日の資金清算や振込指示・着金確認の必要がなく、企業の
  業務が大幅に削減される。    https://bit.ly/3viBUoa
  ───────────────────────────
「バコン」を紹介する提示.jpg
「バコン」を紹介する提示
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月15日

●「銀行APIの整備が成否をにぎる」(第5447号)

 中央銀行によるデジタル通貨(CBDC)を発行するに当って
は、様々な準備が必要になります。何よりも必要なのは、銀行A
PIの整備の義務付けです。ところで「API」とは何を意味し
ているのでしょうか。ウィキペディアで調べると、次のように説
明されています。
─────────────────────────────
 API(Application Programming Interface)とは アプリケ
ーションプログラミングインターフェースのことで、ソフトウェ
アコンポーネント同士が互いに情報をやりとりするのに使用する
インタフェースの仕様のことである。   ──ウィキペディア
                  https://bit.ly/2OmXTK4
─────────────────────────────
 この説明では、素人にはわかりにくいので、さらにかみ砕くと
「APIとはソフトウェアの機能を共有できる仕組み」というべ
きです。これは、われわれがメインバンクを選ぶさいの基準を考
えてみると、理解できます。メインバンクを選ぶとき、ATМや
支店へのアクセスがよい銀行を選びますね。便利だからです。
 しかし、これは現金を扱うさいの利便性の判断基準であり、デ
ジタルの時代になると、銀行を選ぶ基準が違ってきます。これま
でATМで行ってきた残高照会やお金の引き落とし、振り込み、
送金などの処理をすべてアプリを通して行うことになります。
 このさいに、アプリを提供するフィンテック企業と、口座を管
理する銀行とのシステムの間を結ぶのがAPIであり、これはデ
ジタルの世界の銀行のATМです。つまり、APIとはソフトウ
ェア、すなわちアプリの機能を共有できる仕組みということにな
ります。したがって、APIを整備しない銀行は、選ばれない銀
行になってしまうことになります。
 カンボジア国立銀行は、2016年頃から各銀行に対して、A
PIの整備を義務付け、2018年頃には、ほとんどの大手銀行
が整備を完了させています。これに加えて中央銀行であるカンボ
ジア国立銀行がハブ機能を構築し、ほどんどの銀行が銀行API
を利用して、中央銀行の「FAST」というネットワークで接続
されています。バコンはこの銀行APIネットワークとFAST
経由で、銀行間で送金されています。これに関する日本の事情に
ついて、宮沢和正氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 日本も銀行APIの整備を呼びかけているが、中央銀行や全銀
協にそのハブ機能がないため、決済事業者は各銀行とそれぞれ契
約し、それぞれ開発投資をして、N対М(多対多)での接続をし
なければいけない。これは決済事業者ごとの重複投資になる。
 また、決済事業者は銀行利用料を払わなければならない。カン
ボジアの場合は、中央銀行と契約して銀行APIに接続するだけ
ですべての銀行への送金が可能になり、簡単に「バコン」から各
銀行口座への入出金ができるようになる。この仕組みにより、大
幅なコスト削減、契約の手間の削減、重複投資の防止を行うこと
ができた。    ──宮沢和正著『ソラミツ/世界初の中銀デ
 ジタル通貨「バコン」を実現したスタートアップ』/日経BP
─────────────────────────────
 ちなみにカンボジア国立銀行は、「バコン」を直接利用者に発
行していません。直接発行方式ではないからです。もし、そんな
ことをすると、中央銀行が全利用者の口座管理や本人確認業務を
しなければならなくなり、そんなことは、はじめから不可能であ
るからです。
 したがって、中央銀行が現金を発行する場合と同様に、各銀行
は国立銀行からバコンを受け取り、利用者は現金に対応するバコ
ンを各銀行から受け取る間接発行方式をとっています。本人確認
や口座管理は各銀行に任せられているのです。
 つまり、カンボジア国立銀行では、現金、すなわち、リエルや
USドル金を回収しながら、同額のバコンを発行しているので、
市場の通貨流通量には変化は生じないのです。カンボジアは、こ
れを早くから着手し、既に実行に移しています。それは、中国か
らデジタル人民元が怒涛のように国境を越えて入ってくることが
察知できたからです。カンボジアとしては、その前に新たな金融
商品や利便性を武器に、バコンをできるかぎり、カンボジア国内
に根付かせておく必要があったからです。
 それでは、「バコン」システムのカバナンスについては、どう
なっているのでしょうか。これについて、宮沢和正は次のように
説明しています。
─────────────────────────────
 カンボジア国立銀行の「バコン」システムのガバナンスは、通
貨発行者、通貨送金者、実行承認者、監査人、システム管理者、
人事権保有者などの役割に分かれて、ブロックチェーンで管理さ
れている。それぞれの役割は「ハイパーレッジャーいろは」の役
割と権限を詳細に設定できるRBAC機能を利用して、限定的な
機能のみが実行できるようになっている。
 三権分立のような相互牽制の仕組みがブロックチェーンで実現
されているため、不正な操作から完全に防御されている。したが
ってシステム管理者であっても「バコン」の一切のデータの改竄
は不可能であり、内部犯行や操作ミスなどを防ぐことができる。
                ──宮沢和正著の前掲書より
─────────────────────────────
 上記文中の「RBAC機能」というのは、認められたユーザー
のシステムアクセスを制限する新しいコンピュータセキュリティ
の手法のひとつで、ポリシィを柔軟にできるアクセス制御法とい
えます。「RBAC」というのは次の言葉の省略です。
─────────────────────────────
         RBAC
         Role Based Access Control
─────────────────────────────
              ──[デジタル社会論/048]

≪画像および関連情報≫
 ●日本の技術も使われている、カンボジアの中銀デジタル通貨
  『バコン』とは/金融アナリスト久保田博幸氏
  ───────────────────────────
   カンボジアで中央銀行が発行する中央銀行デジタル通貨シ
  ステム「バコン」の運用が10月28日に正式に始まったそ
  うである。「バコン」はカンボジアの通貨リエルや米ドルと
  も連動している。名称は国内の著名な寺院の名前から取った
  そうである。「バコン」は日本企業の技術を採用したそうで
  ある。この開発を進めたのは日本のブロックチェーン企業、
  「ソラミツ」だとか。
   「バコン」の利用者はスマホにアプリを入れると、自分の
  バコン口座から相手の電話番号やQRコードを使って支払い
  ができる。中央銀行デジタル通貨「バコン」は、カンボジア
  国立銀行(中央銀行)が各銀行にバコンを発行し、各銀行が
  利用者に展開する「間接発行」方式を採用している。つまり
  中央銀行に個人が口座を持つかたちの「直接発行」方式では
  ない。中央銀行が本人確認や口座管理を行う必要がないため
  負荷が減る。日銀が想定している中央銀行デジタル通貨もこ
  の方式かと思われる。
   カンボジアでは15歳以上の国民のうち8割近くが銀行口
  座を持っていないが、スマートフォンの普及率は高いことで
  スマートフォンを使った通貨システムの普及が進む可能性を
  意識したものかと思われる。
   中央銀行デジタル通貨システムについては、安全性ととも
  に、いつでもどこでも使える汎用性を有しているのかが大き
  なポイントとなる、さらにマネーローンダリングなど犯罪に
  使われないことも前提となろう。 https://bit.ly/2OPgz51
  ───────────────────────────
カンボジア.jpg
カンボジア
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月16日

●「バコン導入のための準備の周到さ」(第5448号)

 ソラミツの社長、宮沢和正氏は、カンボジアにおけるデジタル
通貨導入を前提とするカンボジア国立銀行の準備の的確さと日本
における遅れについて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 カンボジア国立銀行は、将来の金融システムを見据えて、20
15年ごろから国内約120行の銀行XМLベースの銀行API
(ISО−20022)の導入を義務化し、2017年には、参
照系・更新系を含む銀行APIの導入が完了した。さらに、最新
技術のISО−20022を活用したセンター・ハブ機能を中央
銀行内に設置し、このハブ機能と全銀行をつなぐ金融ネットワー
クを構築し、FASTネットワークと呼んでいた。
 日本の場合、銀行APIの導入の大枠方針が決まっているもの
の、すべての銀行に導入されておらず、銀行口座の入出金を行う
更新系のAPIが未整備である。さらに、センター・ハブ機能が
ないため、フィンテック事業者は、個別に各銀行と契約を結び、
個別に接続するための、多額な開発投資が必要となる。各銀行と
の接続仕様がそれぞれ微妙に異なるため、開発コストがさらに増
える。     ──宮沢和正著『ソラミツ/世界初の中銀デジ
  タル通貨「バコン」を実現したスタートアップ』/日経BP
─────────────────────────────
 ソラミツの社長、宮沢和正氏は、楽天エディー執行役員を務め
た人物です。数ある電子マネーのなかで、楽天エディーは、唯一
転々流通できる一歩進んだ電子マネーといわれています。
 しかし、銀行のAPIの整備が遅れている日本では、エディー
への銀行口座チャージを実現するには、各銀行と個別に折衝して
契約を締結しなければならず、一行接続するたびに数千万円の投
資が必要であったのです。その点、カンボジアでは、FASTと
いうセンター・ハブ機能を使えば、銀行一行ごとに交渉して契約
する必要はないのです。その点、カンボジアの方が日本よりはる
かに進んでいます。
 カンボジアの「バコン」がスタートする前には、「ウイング・
ペイ」とという決済サービスがカンボジア全土で普及していたこ
とは、3月9日のEJでご紹介した通りです。この件について、
宮沢和正氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 カンボジアにおけるモバイル送金事業者大手のウイング社は、
2009年にサービスを開始し、現在では、カンボジア全土に約
8000の両替所のような小規模店舗を展開している。
 これらの店舗で現金を預けて暗証番号を送信し、相手は最寄り
の店舗で現金を受け取ることが可能である。また、「ウイング・
ペイ」という決済サービスを開始し、約3万店の店舗などで支払
いが可能である。しかし、現金化する際に手数料がかかり、出金
金額に応じて0・28米ドルから1・5米ドルと比較的高い点が
難点とされている。また、万が一、ウイングが経営破綻した場合
預けている現金は保証されないのも欠点である。
 カンボジア国立銀行は、2017年4月のソラミツとの共同開
発調印の頃から、ウイングとは決して敵対しない、うまく連携し
て取り込んでいく」と明言していた。その理由は、農村部には、
銀行の支店がないが、ウイングは農村部も含めてカンボジア全土
に店舗網を展開しているからだ。ウイングと連携してこれら店舗
網を活用し、「バコン」を受け取った農村部の人々が現金に交換
するときにウイングの店舗を活用することを最初から考えていた
ためである。          ──宮沢和正著の前掲書より
─────────────────────────────
 つまり、カンボジア政府は、ウイングの店舗を銀行と同じよう
にバコンの交換所として扱ったのです。ウイングを「バコン」の
仲介業者として認定し、既に出来上がっているウイングのネット
ワークを上手に活用し、さらなる店舗拡充を続けさせたのです。
その結果、ウイングの店舗は3万店にまで拡大しています。
 その一方で、新たなQRコード決済を開始しようとする業者の
認可については禁止しています。カンボジア国立銀行は、これに
ついて次の声明を出しています。
─────────────────────────────
 今後、広域で使用可能な新たな決済手段を開始することは禁止
する。学校内や病院内などの限られた地域で使えるプリペイド決
済手段は問題ない。         ──カンボジア国立銀行
                ──宮沢和正著の前掲書より
─────────────────────────────
 宮沢和正氏の本によると、当初はカンボジア最大の銀行である
アクレダ銀行が反対の姿勢であったようです。アクレダ銀行は、
独自のインターネット・バンキング・アプリを先行的に開発し、
多くのユーザーをもっていたからです。つまり、同じようなこと
をアクレダ銀行も考えていたのです。そこに「バコン」の導入で
す。どこの銀行もバコンが使えるようになるので、先行者利益が
なくなってしまう。そのための反対姿勢です。
 しかし、現在では、アクレダ銀行も前向きにバコンを活用する
ようになり、バコンのユーザーへの発行金額も14行の約50%
を占め、他行を引き離しているようです。
 ここで問題になるのは、銀行間の競争領域をどうするかという
問題です。アクレダ銀行は、自行のインターネット・バンキング
や各種金融商品の販売、情報提供などの独自機能をバコンの標準
アプリに付加してカスタマイズしたいという要望を持っているの
です。つまり、各銀行は、独自機能を付加して差別化を図りたい
というわけです。そのためには、バコンシステムの中枢部で機能
するブロックチェーンを担うソラミツの協力が必要になります。
そこで、そういう仕事を担う現地企業とソラミツの合弁会社の設
立を望む声が多く上がってきたのです。これはソラミツ社として
も十分メリットがあり、願ってもないことであったのです。そし
て誕生したのが、合弁会社ソラミツ・クメールです。
              ──[デジタル社会論/049]

≪画像および関連情報≫
 ●駆け足で成長するカンボジア
  ───────────────────────────
   豊かなものがどんどん入って、情報が飛び交うカンボジア
  は日々成長しています。エネルギッシュな熱気が街に溢れて
  いる、そんなカンボジアの今をイラストレーターの平尾香さ
  んがレポート!
   カンボジアってどんな国?私のイメージは、アンコールワ
  ット、地雷、ボランティア。ぐらいでした。それって、ひと
  昔の日本のイメージは?っていう質問に、スシ、フジヤマ、
  ゲイシャと答えられた時に、日本人なら、うーんという顔に
  なっちゃうのと同じ感覚じゃないかなぁと。
   この旅で、私のカンボジアのイメージはかなり広がりまし
  た。20代にバックパックを背負って旅したアジアの国々、
  お隣のタイとベトナムには訪れたことはあったけど、カンボ
  ジアを訪れるのは初めて。雰囲気は近いかな?湿気を含んだ
  ムンムンした熱気の中、屋台があって、カメラを不思議そう
  にみる子供達、トゥクトゥクタクシー、高床式の家、物売り
  タイダイ柄のTシャツ着たヒッピー欧米人。同じような光景
  は、今のカンボジアにもありましたが、時代は進んでおりま
  した。到着した空港からプノンペン市内中心部へ向かうタク
  シーの窓から街の景色が流れて行きます。スコールの雨の中
  車もバイクもトゥクトゥクも、すごい交通量。プノンペンの
  街は、高層マンションや商業ビルが、次々と建設されていま
  す。全部がゴールドなんていう派手なビルは中国資本なんだ
  そう。日本資本のイオンモールは、カンボジアではちょっと
  おしゃれな買い物スポットであり、デートスポット。
                  https://bit.ly/3vs4Hqb
  ───────────────────────────
プノンペン市内のアクレダ銀行.jpg
プノンペン市内のアクレダ銀行
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月17日

●「オンライン本人認証は重要である」(第5450号)

 昨日のEJで触れた合弁会社「ソラミツ・クメール」社につき
ソラミツ社長の宮沢和正氏は次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 中銀デジタル通貨以外の独自機能は競争領域てである。だから
各金融機関が自由に機能を追加することは理にかなっている。こ
の場合、利用者からみた「バコン」の使い勝手には大きな変更が
出ないように配慮しながら「バコン」の標準APIに独自機能を
追加する開発が必要となる。
 これらの開発を、各銀行から一手に引き受ければ、ソラミツに
とっては大きなビジネスチャンスになる。カンボジア国立銀行は
国内にブロックチェーンのエンジニアを増やしていき「バコン」
システムの保守や拡張を国内のエンジニアに任せられるようにし
たい。タイやマレーシアとのクロスボーダー送金や決済において
も、自前のエンジニアで進めていけるようにしたいという目標が
あった。決済・送金だけではなく、証券・保険・不動産のトーク
ン化や小口化を進めて「バコン」で決済できるようにしたい。本
人確認も法律を整備してオンラインで完結するeKYCを導入し
たいといった計画も持ち上がっていた。
 こうした目的を実現するため、カンボジア国立銀行とソラミツ
の利害が一致し、現地企業とソラミツ創業者の武宮が出資して、
合弁会社「ソラミツ・クメール」が誕生した。主に先述の開発を
担っていくエンジニア集団である。
    ──宮沢和正著『ソラミツ/世界初の中銀デジタル通貨
      「バコン」を実現したスタートアップ』/日経BP
─────────────────────────────
 この文中の「eKYC」は、 electronic Know Your Customer
を意味しており、本人確認をオンラインでできるようにするとい
うものです。なぜ、「eKYC」が必要かというと、カンボジア
国立銀行から次のような要望を受けたといいます。カンボジアで
は、多くの家庭の主婦が家計を助けるため、マレーシアにメイド
として働きに出ていますが、次の2つの問題点があるのです。
─────────────────────────────
     @カンボジアへの送金手数料が非常に高い
     A家に送ると、父親が浪費してしまうこと
─────────────────────────────
 上記2つのうち、@については、バコンを使えば、カンボジア
とマレーシアとのクロスボーダー送金手数料を安くできます。
 Aについては、バコンを家に送らず、送金を必要とするカンボ
ジアの学校や病院などに直接送れるようにしたいのです。そうす
れば、お金が別の目的に使われることを防げます。しかし、それ
には、オンラインによる本人確認とそのための法律改正が必要に
なってきます。そもそも「本人確認」は、「当人認証」と、「身
元確認」の2つに分かれるのです。このうち、「当人認証」には
次の3つがあります。
─────────────────────────────
   1. 知識認証 ・・・ パスワードや秘密を聞く
   2,所有物認証 ・・・ カードなど所有物を認証
   3. 生体認証 ・・・ 身体的な特徴を認証する
─────────────────────────────
 1の「知識認証」というのは、パスワードやあらかじめ登録し
てある「秘密」を聞いて認証する方法です。2の「所有物認証」
は、カードなどの本人の所有物で認証します。3の「生体認証」
は、身体的特徴や行動的特徴を認証するものです。
 しかし、これらは、いずれも当人性を確認するだけであり、仮
に全部の認証を行ったとしても、その人の年齢などデモグラフィ
ックな属性はわからないのです。これに対して、「身元確認」は
性別、年齢、居住地域といった属性を認証します。法治国家で使
われる本人確認の方法は、全て「身元確認」です。
 「2要素認証」というものもあります。これは、「知識認証」
と「所有物認証」など当人認証の手法を2つ使うということを意
味していますが、身元確認は含まれていません。これは、例えば
サイトにパスワードを入力してログインした後に携帯電話にショ
ートメッセージで認証番号を送るケースがありますが、これは携
帯電話の所有とパスワードの知識を認証しているので、「2要素
認証」になります。
 しかし、これからのデジタル社会では、オンラインでの本人確
認が不可欠になります。これについて、宮沢和正氏は、次のよう
に述べています。
─────────────────────────────
 日本においてもオンラインで完結する本人確認が法律改正によ
り認められるようになった。いままではオンラインで個人情報を
入力し、免許証のコピーなどの本人確認書類を添付しても本人確
認は完結せず、最終的には葉書などを郵送し、確実に本人が登録
住所に住んでいることを確認する必要が法律に明記されていた。
そのため、オンラインだけでは本人確認が完結せず、葉書などの
郵送の手間とコストがかかっていた。しかし、シンガポールなど
ではオンラインで完結する本人認証が確立しており、eKYCと
呼ばれている。
 日本もソラミツなどが金融庁に働きかけた結果、自分の動画を
送るか、免許証などの写真付きの本人確認書類が画像のコピーで
はなく厚みがあるオリジナルであることなどをオンラインで提示
できれば、葉書などの郵送が不要になった。その結果、大きなコ
スト削減につながっている。ソラミツは、カンボジア国立銀行に
対して、同様の法律改正とeKYCシステムの導入を働きかけて
いる。eKYCが実現すれば、近くに銀行の支店がない農村部の
人々にとってもオンラインで口座開設ができるようになり、カン
ボジアにとって銀行口座開設率の向上と金融包摂が進む重要な施
策になる。           ──宮沢和正著の前掲書より
─────────────────────────────
              ──[デジタル社会論/050]

≪画像および関連情報≫
 ●eKYCとは何か?本人確認や銀行口座連携の手法、関連
  サービスを解説
  ───────────────────────────
   デジタルによる本人確認の仕組みである「eKYC」が注
  目が注目されている。本人確認の手法としては、アナログの
  KYCが一般的であるし、それを電子化させたeKYCの概
  念自体も古くからある。それが、新型コロナウイルス感染症
  の感染拡大防止対策としてリモートワークへの移行と、通信
  キャリアの銀行口座連携サービスにおける大規模な不正利用
  事件が発生したことで、オンラインでの本人確認が話題に上
  ることになった。本記事では TRUSTDOCKとLiquidなど、
  eKYCサービスを提供する企業取材を基に、eKYCの概
  要や市場規模、関連ビジネス、活用事例などを紹介。普及を
  妨げる課題や今後の展望などを考察する。
   eKYCとは、広義では「オンラインなどの非対面で本人
  確認を行う」ことであり、狭義では、「『犯罪収益移転防止
  法』などの法規制で定義されている具体的な手法」と捉えら
  れる場合もある。
   そもそも、eKYCは、複数の単語から成り立っている。
  KYCは 「Know Your Customer (顧客を知る)」の略で、

  顧客確認や本人確認を意味する。e は「electronic」の略で
  あり、2つをくっつけてeKYC(電子的な本人確認)とい
  うわけだ。eKYCを理解するには、まず、アナログの「e
  KYC(本人確認)」について知る必要がある。
                  https://bit.ly/30MZtHt
  ───────────────────────────
「eKYC」とは何か.jpg
「eKYC」とは何か
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月18日

●「デジタル円実現の可能性はあるか」(第5451号)

 カンボジアの「バコン」は2020年10月にスタートしたば
かりであり、スタート以来のバコンの利用状況の情報はまだ入っ
ておりません。
 しかし、2019年7月18日から約半年後2020年1月末
までのバコンのテスト運用のデータはあります。取引件数ベース
でリエルの利用は63%、ドルの利用は37%、取引金額ベース
でリエルの利用が56%、ドルの利用が44%になっています。
 このように、バコンのパイロット運用後、リエルの利用が増加
しているのです。これについて、ソラミツの社長の宮沢和正氏は
その理由について次のように述べています。
─────────────────────────────
 カンボジア全体のリエルの流通比率が22%、ドルが78%、
(世界銀行2017年)だったのに対して、「バコン」ではリエ
ル利用が約66%と大幅に増加した。なぜリエルが増えたのだろ
うか。現段階では入手できる情報が不足しており、定かではない
が、いくつかの理由が考えられる。
 まず、デジタル通貨になったことにより、リエル紙幣のように
嵩張ることがなくなった。1米ドルが約4000リエルであり、
リエル紙幣は財布の中で非常に嵩張る。それが解消されたため、
国民がリエルを保持・利用することに抵抗がなくなった可能性が
高い。また、農村部に住み、近くに銀行の支店がない国民もオン
ラインで「バコン」の口座開設ができ、都市部で働く人からの仕
送りを簡単に受けることができる点もリエル利用が拡大した要因
と思われる。
    ──宮沢和正著『ソラミツ/世界初の中銀デジタル通貨
      「バコン」を実現したスタートアップ』/日経BP
─────────────────────────────
 バコン導入前のカンボジアでは、国全体で米ドルが約70%を
占めていたのです。カンボジア国内の両替比率では「1米ドル=
4000〜4100リエル」です。これでは、リエルを持ち歩く
場合、財布がパンパンになってしまうのです。しかし、バコンの
場合、デジタル通貨なので、財布がパンパンになる心配はないわ
けで、自国通貨リエルの復権につながるというわけです。
 カンボジアのデジタル通貨「バコン」に日本のブロックチェー
ン技術が使われている──このことに日本は、どれほどの関心を
もっているのでしょうか。
 当然、情報は伝わっているはずですが、あまり大きなニュース
になっていないようです。むしろ、フェイスブックのリブラ(デ
ィエム)の方が大きく扱われています。この点について、宮沢氏
の本には、次の記述があります。
─────────────────────────────
 19年9月の「FIN/SUМ2019」で、私は「ハイパー
レジャーいろは」と「バコン」のプレゼンテーションをした。光
栄なことに、ソラミツは「UKアワード」を受賞した。このとき
傍聴していた山本幸三・自民党金融調査会長(衆議院議員)が、
「バコン」プロジェクトに関心を持った。同年11金融調査会デ
ジタル通貨推進プロジェクトチームの第一回が開催され、自民党
国会議員、財務省、金融庁、日本銀行のメンバー40人ほどが参
加した。私は「中央銀行デジタル通貨について」と題して「バコ
ン」の概要を説明した。
 この会合がきっかけとなつて、事態は大きく動く。2020年
1月には山本議員をはじめ自民党のメンバー数名とソラミツの武
宮がカンボジア国立銀行を訪問した。一行は同銀行幹部と会って
「バコン」誕生の経緯やサービス内容の詳細について説明を受け
た。2月にはデジタル通貨推進PT第2回が開催され、「カンボ
ジア中央銀行デジタル通貨の発行実態と日本における提言」と題
して、山本議員がカンボジア出張について報告した。この場で武
宮が「バコン」の発行実態の数値情報、詳細な技術的背景、日本
で実現させる場合の課題や解決案などについて提案をしている。
                ──宮沢和正著の前掲書より
─────────────────────────────
 当然のことですが、これは、日本のデジタル化に関係する重要
な案件であり、研究が進められていて当然です。山本幸三衆院議
員がといえば、元大蔵官僚で、自民党金融調査会長であり、金融
のプロフェッショナルです。
 ところで、問題は、ソラミツのブロックチェーン「ハイパー・
レッジャーいろは」で果たして日本の人口をすべてカバーできる
かどうかです。カンボジアの人口は約1600万人に対して日本
の人口はその10倍近くあります。
 ビットコインは、決済時の処理は非常に遅く、ブロックチェー
ンへの書き込みに10分を要し、1秒間に7件程度の処理能力し
かないのです。これに対し、「ハイパー・レッジャ−いろは」は
書き込みは1、2秒。1秒間に数千件の処理能力があるといわれ
ています。しかし、この速度は、通常のデーターベース・サーバ
ーよりはきわめて遅いのです。
 「ハイパー・レッジャ−いろは」は、ブロックチェーンの種類
としては、「コンソーシアムチェーン」に属しています。ブロッ
クチェーンには、次の3つの種類があります。
─────────────────────────────
        1.  パブリックチェーン
        2. プライベートチェーン
        3.コンソーシアムチェーン
─────────────────────────────
 1の「パブリックチェーン」は、管理者がおらず、不特定多数
が参加できるチェーンで、ビットコインはこのタイプです。2の
「プライベートチェーン」は、管理者のいるブロックチェーンで
金融機関が主として採用しています。3の「コンソーシアムチェ
ーン」は、特定の管理者が複数存在するブロックチェーンであり
バコンシステムは、このタイプに属しています。
              ──[デジタル社会論/051]

≪画像および関連情報≫
 ●カンボジアの国立銀行デジタル通貨を共同開発
  日本発のブロックチェーン企業ソラミツとは?
  ───────────────────────────
  ◎武宮様ご自身の経歴とソラミツ設立の経緯を教えて下さい
   武宮氏(以下、武宮):もともとは米国の大学でコンピュ
  ーターサイエンスを学んでいた時に来日して、日本電気(N
  EC)で修論の研究を行いました。卒業後は日本で国際電気
  通信基礎技術研究所(ATR)の研究技術員として働いてい
  ます。その後、2013年1月に初めてビットコインを利用
  しました。電子メールと同様の感覚でお金を送れることに大
  変驚き、感動したことを覚えています。その時から私は、社
  会の効率を向上する為にお金をデジタルデータに置き換える
  技術を考え続けてきました。そして、ビットコインではあり
  ませんが他の仮想通貨のコミュニティーに参加しはじめたの
  です。そのなかで、NEМの合意形成システムとして、プル
  ーフ・オブ・インポータンスを提案して、NEМの開発に参
  加したりしました。そういった過程を経て、共同創業者であ
  る松田、岡田と出会い、2016年2月にソラミツ設立にい
  たったのです。
  ──ソラミツのミッションはどのようなものですか?
  武宮:ソラミツ株式会社は、ブロックチェーン技術を用いた
  システムを開発することで産業にイノベーションを起こし、
  社会の効率を向上することを目的として設立しました。特に
  金融業界はデジタル技術の可能性を十分に活かしきれておら
  ず、社会ではデジタルマネーはまだ経済活動の基本となって
  いません。           https://bit.ly/3tybVHD
  ───────────────────────────
ハイパー・レッジャーいろは.jpg
ハイパー・レッジャーいろは
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月19日

●「コンソーシアムチェーンとは何か」(第5452号)

 昨日のEJの最後で触れたブロックチェーンの種類を再現し、
もう少し説明を加えます。
─────────────────────────────
        1.  パブリックチェーン
        2. プライベートチェーン
        3.コンソーシアムチェーン
─────────────────────────────
 ビットコインのブロックチェーン「パブリックチェーン」は、
完全な非中央集権的で、ノード参加者に制限がなく厳格な合意形
成承認が求められるパブリックチェーンです。合意形成には、P
ОW(プルーフ・オブ・ワーク)と呼ばれるマイニングという時
間のかかる計算が必要になります。
 しかし、金融機関のようなスケーラビリティやファイナリティ
プライバシー保護といった側面を重視する団体にはパーミッショ
ンド型のブロックチェーンが向いています。これには、2の「プ
ライベートチェーン」と、3の「コンソーシアムチェーン」があ
ります。そのなかでも、コンソーシアムチェーンは合意形成にお
いて、複数の団体を必要とさせることで、ある程度の合意形成の
妥当性を確保することができます。従って、パブリックチェーン
とプライベートチェーンの中央に位置するブロックチェーンであ
るといえます。
 コンソーシアムチェーンに属するソラミツ社の「ハイパーレッ
ジャーいろは」は、シンプルな設計で、開発者に理解しやすく、
開発しやすい構造になっています。通貨やポイントなどのデジタ
ルアセットを簡単に発行・送受信できるライブラリを用意してい
ます。このブロックチェーンに実装されている合意形成アルゴリ
ズムは、ソラミツ社が独自に開発した「スメラギ」と呼ばれるア
ルゴリズムです。コンソーシアム型のブロックチェーン設計とす
ることで、スメラギは2秒以内のファイナリティ(決済完了性)
を目指しています。高速のファイナリティを実現することにより
金融機関の決済や対面型決済などのシステムの実現も可能になり
ます。またスループット(単位時間あたりの処理能力)について
も、1秒間に数千件以上の処理スビートがあります。
 仮に日本のデジタル通貨の実現にソラミツのブロックチェーン
「ハイパーレッジャーいろは」を使う場合、そこに「スケーラ・
ビリティ」が必要になってきます。スケーラ・ビリティとは、拡
張性のことで、CPUなどの基本的なハードウェアの処理能力を
上げることに加えて、合意形成のアルゴリズムやメモリーの使い
方を改善することによって、それを実現できるといわれます。
 現在の「ハイパーレッジャーいろは」の処理能力は、1秒間に
数千件のレベルですが、これを少なくとも1秒間に数万件にレベ
ルアップする必要があります。専門的な話になりますが、スケー
ラ・ビリティの代表的手法としては、次の3つがあります。
─────────────────────────────
      1. オフチェーン・スケーリング
      2.サイドチェーン・スケーリング
      3.       シャーディング
─────────────────────────────
 1の「オフチェーン・スケーリング」は、ブロックチェーンの
外に一部取引を移管する手法のことであり、2の「サイドチェー
ン・スケーリング」は、既存のブロックチェーンから新たに構築
したブロックチェーンに資産を移管し、取引を処理する手法のこ
とです。3の「シャーデング」は、検証対象取引と検証参加者を
複数のグループに分割し、検証作業を分担する手法のことです。
 スケーラ・ビリティに関してソラミツ社は、上記3の「シャー
ディング」に注目しており、社長の宮沢和正氏は、次のように述
べています。
─────────────────────────────
 ソラミツでは「シャーディング」に注目している。例えば、日
本全国をカバーするブロックチェーン‥ネットワークを構築する
場合、都道府県ごとのグループに分割してブロックチェーンを構
築して検証作業を分担しそれぞれのブロックチェーンで、500
万人から1000万人の送金・決済処理を実行する。
 また、47都道府県のブロックチェーンを連結し、クロス・チ
ェーン・トランザクション(異なるチェーン間をまたがる送金・
支払い処理)を実行する。さらに都道府県間のクリアリング処理
を行う二層目のブロックチェーンを構築する。このような二層構
造のブロックチェーン・ネットワークを構築することにより、理
論的には数億人から数十億人の処理を行うことが可能と考えられ
ソラミツではその検証作業を準備中である。
    ──宮沢和正著『ソラミツ/世界初の中銀デジタル通貨
      「バコン」を実現したスタートアップ』/日経BP
─────────────────────────────
 こうしたソラミツ社の活躍により、日本におけるデジタル通貨
の導入は、どうなるのでしょうか。
 実は、法定通貨の電子化を世界で初めて進めたのは、シンガポ
ールなのです。2000年12月に、当時、シンガポールの通貨
発行主体であった「シンガポール通貨理事会」(BCCS)が、
「2008年までに電子法貨にする」という、当時としては、驚
くべき計画を発表しています。
 その目的は、現金のハンドリングコストを下げ、社会全体の決
済の効率化を高め、シンガポールのキャッシュレス化を進めるこ
とにあります。シンガポールでは、これを「電子法貨構想/SE
LT」と呼んでいたのです。
 しかし、このSELTは実現することなく終了しています。お
そらく導入コストの大きさが関係したものと思われます。しかし
1990年頃から日銀では「電子現金プロジェクト」という秘密
のプロジェクトが進行していたのです。はっきりと、中央銀行が
電子マネーを発行する計画であり、当時としては驚くべき計画で
あったといえます。     ──[デジタル社会論/052]

≪画像および関連情報≫
 ●日本銀行、いよいよ動き出した「デジタル通貨」計画の
  ヤバすぎる中身/ジャーナリスト・砂川洋介氏
  ───────────────────────────
   2020年夏、新型コロナで世界の経済情勢はここ数十年
  で経験したことがない状況下におかれている。そんな中、各
  国中央銀行による中銀デジタル通貨(CBDC)に関するニ
  ュースが相次いで伝わっている。
   年始には、日本銀行(日銀)が、他の主要中央銀行や国際
  決済銀行などとともに中銀デジタル通貨(CBDC)の活用
  可能性を評価するための研究グループを設立した。また、2
  月には決済機構局に研究チームを発足させ、7月には「デジ
  タル通貨グループ」を新設している。
   さらに、7月17日に閣議決定された「経済財政運営と改
  革の基本方針(骨太の方針)」に、「中央銀行デジタル通貨
  については、日本銀行において技術的な検証を狙いとした実
  証実験を行うなど、各国と連携しつつ検討を行う」という一
  文が加わった。
   今年に入っての日銀の動きに、政府が乗ったような状況と
  いえよう。7月2日に日銀がHP上で発表した第一弾のレポ
  ート「中銀デジタル通貨が現金同等の機能を持つための技術
  的課題」では、「誰がいつでも何処でも、安全確実に決済に
  利用できる」という現金の特性はCBDCが備えるための技
  術的な課題について整理している。
   本レポートでは「CBDCが「ユニバーサル・アクセス」
  と「強靭性」という2つの特性を備えることが、技術的に可
  能かどうか検討することが重要なテーマとなる」と指摘して
  いる。             https://bit.ly/3vACNsc
  ───────────────────────────
ブロックチェーンの種類.jpg
ブロックチェーンの種類
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(1) | デジタル社会論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月22日

●「日銀電子現金PTが研究したもの」(第5453号)

 中島真志氏の本によると、日本銀行(日銀)では、1990年
頃に「電子現金プロジェクト」という極秘プロジェクトがあり、
中島真志氏も若手の研究員として、このプロジェクトのメンバー
に参加していたそうです。
 そのプロジェクトで検討を進めていくプロセスにおいて、デジ
タル通貨の問題点が3つ浮かび上がってきたのです。いずれもす
べて検討したことですが、簡単に振り返ってみます。
─────────────────────────────
 1.現金の持つ「転々流通性」をどのように確保するかとい
  う問題である。
 2.現金の持っている「匿名性」をどこまで確保するかとい
  う問題である。
 3.基本的にデジタルデータは複製(コピー)が可能だとい
  う問題である。
                 ──中島真志著/新潮社刊
                  『アフタービットコイン
        /仮想通貨とブロックチェーンの次なる覇者』
─────────────────────────────
 「1」は、デジタル通貨に現金の「転々流通性」をいかにして
持たせるかの問題です。
 このような現金の性質のことを「オープン・ループ型」といい
ますが、この場合は、中央銀行の手を離れたところでデジタル通
貨が次々と持ち主を変えて流通することになります。したがって
もし途中で偽造や二重使用が行われても、その発見は、きわめて
困難です。しかし、そうかといって、一つひとつの取引に中央銀
行が絡むのはさらに困難なことです。
 取引件数が膨大になりますし、それに安全性のためのチェック
を行うと、とんでもないコストが生じてしまうことになります。
そのため、転々流通性を断念することによって「スイカ」や「パ
スモ」などの電子マネーが生まれたのです。しかし、そのなかに
あって、楽天の「エディ」は「転々流通性」を持たせようとして
努力したわけです。ソラミツ社の社長である宮沢和正氏は、その
エディの執行役員を務めていたことがあり、それが、「ハイパー
・レッジャーいろは」の開発に生きていると思われます。
 「2」は、現金の持つ「匿名性」をどこまで確保する必要があ
るかという問題です。この問題に関して専門家からは、次の提言
が行われています。
─────────────────────────────
 普段は、匿名性を確保しておき、非常時にのみ、匿名性をなく
すようにする。つまり、偽造などの問題が起きたとき、どこでそ
れが発生したかを把握するため、匿名性をなくすというもの。
           ──中島真志著/新潮社刊の前掲書より
─────────────────────────────
 「3」は、「デジタルデータはコピーができる」ものであると
いうことです。もちろんそれができてしまうと、とんでもないこ
とになりますので、複雑に暗号技術を組み合わせて、コピーでき
ないようにガードするのです。
 しかし、その防御技術を破る不正技術が開発されると、無限に
偽札が作られてしまうことになります。まして、現代は「量子技
術の時代」であり、もし量子コンピュータが進化すると、現代の
ほとんどの暗号技術は解読されてしまうといわれています。現在
世界において、その「量子技術」の分野で、トップを走っている
のは中国なのです。
 デジタル通貨のこれら3つの問題点について、中島真志氏は、
自著で次のように述べています。
─────────────────────────────
 この点から考えると、ブロックチェーンというのは、やはり画
期的な発明であると思わずにはいられません。デジタルデータを
扱いながら、取引をブロックごとに確定させ、前のブロックの要
素を次のブロックに盛り込むことによって、偽造や二重使用を防
ぐことを可能にしており、コピー問題を解決しています。当時、
こうした技術があれば、電子現金プロジェクトは、もっと進展し
ていただろうと思いますし、現在、各国の中央銀行がデジタル通
貨の発行に向けて一斉に動き出しているのは、その画期的なイノ
ベーションの価値に気が付いたからかもしれません。
           ──中島真志著/新潮社刊の前掲書より
─────────────────────────────
 このように考えると、ブロックチェーンがいかに素晴らしい技
術であるかがわかります。さて、日本銀行では、2016年にブ
ロックチェーンを使った基礎実験を行っています。このとき、ブ
ロックチェーンとしては、リナックスの「ハイパーレッジャー・
ファブリック」を使っています。ここで思い出していただきたい
のは、3月9日のEJ第5443号でご紹介した3つのブロック
チェーンのプラットフォームです。ハイパーレッジャー・プロジ
ェクトは、リナックスと同様にオープンソースであり、ソースコ
ードが公開されています。これは、コンペティションの結果、2
016年10月に次の3社が選ばれているのです。
─────────────────────────────
   @Hyperledger IROHA
    主導開発元:ソラミツ株式会社
   AHyperledger fabric
    主導開発元:米IBM
   BHyperledger Sawtooth Lake
    主導開発元:米インテル・コーポレーション
─────────────────────────────
 日銀の実証実験は2016年であり、@のソラミツの「ハイパ
ーレッジャーいろは」の存在も知っていたはずですが、日銀は、
Aの米IBMの「Hyperledger fabric」を使って実証実験を行っ
ています。日銀は、なぜ、ソラミツ社のブロックチェーンを選ば
なかったのでしょうか。   ──[デジタル社会論/053]

≪画像および関連情報≫
 ●【独占】ハイパーレッジャー統括:ブロックチェーンから
  GAFAは生まれない
  ───────────────────────────
   IBMやインテルなどの名だたる企業が参加して開発を進
  めるオープンソースのブロックチェーンプロジェクト、ハイ
  パーレッジャー。個々のプロジェクトは、およそ14を数え
  その技術を活用するために加盟する企業は、270社を超え
  る。そのハイパーレッジャー・プロジェクト全体を統括する
  非営利組織がある。リナックス・ファウンデーションと呼ば
  れる、インターネットの歴史と共に歩んできた財団だ。例え
  ばスマートフォンのアンドロイドOSは、グーグルがリナッ
  クスをベースに開発したものだ。同財団の推進する技術は、
  日常のシーンになくてはならないものになっている。
   ハイパーレッジャーは2019年7月30・31日の2日
  間、都内で年に一度のメンバー・サミットを行った。ハイパ
  ーレッジャーが日本で同イベントを開いたのは、今回が初め
  て。コインデスク・ジャパンは、ハイパーレッジャーを統括
  するエグゼクティブ・ディレクターのブライアン・ベーレン
  ドルフ(Brian Behlendorf)氏に話を聞いた。
  ──ハイパーレッジャーの目標は何ですか?
   各企業の協業のために必要なインフラになることだ。市場
  や業界には、非常に難しい協業の問題がある。例えばサプラ
  イチェーンにおける追跡可能性だ。原料や製品を追跡するた
  めに、誰かが管理する大きなデータベースを置いて「それを
  信じなさい」と言っても、多様な参加者がいる中で信じたい
  と思う企業はいない。分散化されたデータベースで、各社が
  プロセスごとに製品を追跡・相互検証していくことが求めら
  れる。             https://bit.ly/316vZ7v
  ───────────────────────────
中島真志氏.jpg
中島真志氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月23日

●「ソラミツ社はなぜ選定されたのか」(第5454号)

 今から考えると、2016年という年は、中央銀行によるデジ
タル通貨開発(CBDC)熱が一気に高まった年といえるかもし
れないのです。
 そもそもカンボジア国立銀行から、ソラミツ社に対して「スー
パーレッジャーいろは」のテストを行いたいというメールが届い
たのが、2016年12月13日のことです。
 2016年6月にソラミツ社は、リナックスが主催する「ハイ
パーレッジャー」というブロックチェーンの世界標準を目指すプ
ロジェクトに参加する決断をし、スイスのダボス会議で、ソラミ
ツ社のブロックチェーンの技術をプレゼンしています。
 宮沢和正氏は、このプロジェクトについて、次のように述べて
います。
─────────────────────────────
 このプロジェクトは、オープンなプロトコルと標準技術を開発
するためのさまざまな独立した取り組みをまとめたものだ。独自
のコンセンサス(合意形成)アルゴリズムとストレージ・モデル
を持つさまざまなブロックチェーン、アイデンティティのための
サービス、アクセス制御、およびスマートコントラクトなどの技
術が含まれている。
 アクセンチエア、エアバス、アメリカン・エクスプレス、バイ
ドウ(百度)、シスコ、ドイツ銀行、ダイムラー、JPモルガン
SAPなどの18社がプライムメンバーになり、世界の200社
以上の企業が集まって、ブロックチェーン技術の開発と標準化、
普及を図っている。日本からは、富士通、日立、NECがプライ
ムメンバーとして参加している。
    ──宮沢和正著『ソラミツ/世界初の中銀デジタル通貨
      「バコン」を実現したスタートアップ』/日経BP
─────────────────────────────
 このとき、ソラミツ社は設立して半年しか経過しておらず、そ
ういうスタートアップ企業が、名だたる世界のテック企業の前で
プレゼンをしたのです。その審査結果は、2016年10月に発
表され、無名のソラミツ社は、最初のインキュベーションの3社
に選出されたのです。インキュベーションとは、「親鳥が卵を抱
く」「孵化させる」という意味を持つ英語「incubate」の名詞形
です。つまり、育成対象のフレームワークとして、IBM、イン
テルに次いで、ソラミツ社が選出されたのです。
 これは、大ニュースです。しかし、それを知る人はきわめて少
ない。当然ニュースが残っているはずだと思い、ネットをていね
いに探したのですが、発見できなかったのです。そこで、宮沢和
正氏の本から、その部分を引用します。
─────────────────────────────
 2016年10月、ニューヨークでハイパーレジャーの審査結
果の発表が行われた。200社を超える企業が集まり、ハイパー
レジャーの最初の「インキュベーション」(育成)対象フレーム
ワークとして3社が選出された。ハイパーレジャー参加企業の投
票による選考で、IBM、インテルという巨大企業と並んで、無
名のソラミツも世界標準候補として選ばれた。
 この時点では、プロトタイプしかでき上がっていない状況では
あったが、武宮や、当時ソラミツをサポートしていたエンジニア
の五十嵐太清が設計した日本発のブロックチェーン・アーキテク
チャーが世界に認められたのだ。
 ハイパーレジャー・プロジェクトはリナックスと同様、オープ
ンソースである。武宮たちが開発したプロトタイプは日本発の技
術であることを強調したネーミングである「IROHA」(いろ
は)と命名されていたが、この瞬間から「ハイパーレジャーいろ
は」に名称が変更された。オープンソースの性格上、その名称を
含むすべての知的財産権はハイパーレジャー・プロジェクトに無
償譲渡された。
 ソースコードもウェブ上にすべて開示した。世界中のエンジニ
アが無償で利用することができ、多くのエンジニアの英知を集め
ての改良が可能となった。たとえソラミツがなくなったとしても
良い技術であれば世界中の誰かが改良やサポートを続けてくれる
から、ソラミツが最初に開発した「ハイパーレジャーいろは」は
永久に生き続ける。       ──宮沢和正著の前掲書より
─────────────────────────────
 ソラミツがこのインキュベーション3社の1つとして選ばれた
のが2016年10月ですが、カンボジア国立銀行からメールが
きたのが2016年12月13日です。当然ウェブ上に公開され
ているソースコードを分析して、ソラミツ社にオファーを出して
きたことは確かです。
 ところが日本銀行は、2016年にブロックチェーンの基礎実
験をしています。やはり、リナックスが主催する「ハイパーレッ
ジャー」プロジェクトの3社のブロックチェーンを選定している
のですが、日本のソラミツ社が選ばれているのに、IBMの「ハ
イパーレッジャー・ファブリック」を使って実験をしています。
日銀が、なぜソラミツ社の「ハイパーレッジャーいろは」を採用
しなかったのかは不明です。
 日銀の実験結果については、認証局は1つ、検証ノード(取引
先の金融機関)は4〜16というきわめて小規模な設定で行われ
ているのですが、それでもレイテンシ(決済指図が送られてから
取引処理が行われるまでの時間)の拡大が確認されたとしていま
す。これは、検証ノードが増えるにしたがって、遅れが拡大する
ことになるので、ネックになります。ちなみに日銀の取引先金融
機関は500以上あるので、この遅れは大きな問題です。
 その点、カンボジア国立銀行は「ハイパーレッジャーいろは」
の決済処理能力の高さを評価しています。日銀としては、たとえ
日本企業であっても、無名のソラミツのブロックチェーンを選ぶ
気持ちにはなれなかったのでしょう。要するに信用していないの
です。何しろ相手は天下のIBMですから。
              ──[デジタル社会論/054]

≪画像および関連情報≫
 ●日本発祥のブロックチェーン「いろは」が商用版に、地域通
  貨や企業通貨への採用進むか
  ───────────────────────────
   日本企業のソラミツが原型を開発したブロックチェーンの
  「ハイパーレジャー・いろは」が、このほど商用化バージョ
  ンの認定を受け、一般提供が始まった。企業を含めて無償で
  利用できる。スマートフォンとの相性がよく、決済や認証を
  必要とするシステムの構築に不可欠なコマンド群もあらかじ
  め定義。電子決済サービスの開発効率化にも大いに貢献しそ
  うな「いろは」の特徴と、それを主導するソラミツの事業を
  展望する。
   米国時間5月6日、ブロックチェーン基盤の「ハイパーレ
  ジャーいろは、以下「いろは」」は商用バージョン(V1・
  0)としての認定を取得し一般提供が始まった。「いろは」
  は、2016年2月創業の日本企業、ソラミツがその原型を
  開発して無償提供し、その後300名を超えるコミュニティ
  メンバーが参加して開発が進められてきた。オープンソース
  として無償での利用が可能で、開発者向けサイト GitHub を
  通じて誰でもダウンロードできる。
   「ブロックチェーン=仮想通貨(暗号資産)」との誤解は
  電子決済サービスに携わる業界関係者の中では少ないのでは
  ないかと思われるが、仮想通貨は「ブロックチェーンを利用
  したアプリケーション(サービス)の1つ」と位置付けられ
  る。それに対してブロックチェーンである「いろは」は、特
  定のアプリケーションを指す言葉ではなく、さまざまなアプ
  リケーションをその上に載せて動かすための、土台のソフト
  ウェアといえる。        https://bit.ly/38ZpVSU
  ───────────────────────────
ハイパーレッジャーいろは.jpg
ハイパーレッジャーいろは
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月24日

●「『デジタル円』は本当にできるか」(第5455号)

 日本銀行は、2016年からソラミツのブロックチェーン「ハ
イパーレッジャーいろは」の存在を知っていたのに、使わず、同
じハイパーレッジャーのIBMのファブリックを使い、レイテン
シ(通信の遅延時間)があると結論づけています。日銀は、あま
り「デジタル円」には積極的ではないようです。
 しかし、カンボジア国立銀行は2016年末にソラミツ社にメ
ールを送り、2017年4月にカンボジア国立銀行とソラミツ社
は共同開発契約を調印。2017年末にプロトタイプイプが完成
しています。
 2019年7月に「バコン」の本番システムのテスト運用を開
始し、世界中で、誰でもアプリをダウンロード可能になっていま
す。そして、新型コロナが原因で少し計画が遅れたものの、20
20年10月に本番をスタートさせています。世界初のCBDC
の快挙です。
 しかし、ソラミツの宮沢和正氏の本によると、2020年2月
に日銀主催の会合があったのですが、日銀の幹部からソラミツに
対して、次の発言があったそうです。
─────────────────────────────
 カンボジアは金融システムが未整備だから、ブロックチェーン
が開始できた。日本は、一足飛びに新技術に移行しないし、すべ
きではない。
    ──宮沢和正著『ソラミツ/世界初の中銀デジタル通貨
      「バコン」を実現したスタートアップ』/日経BP
─────────────────────────────
 これに対し、宮沢和正氏は、「最初からやらないと決めつける
な」として、次のように猛反論しています。
─────────────────────────────
 そうではありません。カンボジアは先見の明と新しい技術に対
する理解、十分な調査と勇気があったから踏み出せたのです。日
本が古い技術にしがみ付いていると、デジタル人民元やリブラに
勝てず、世界から取り残されます。技術は日進月歩ですので、最
初からやらないと決めつけずに、小規模でブロックチェーンの実
証実験を行うべきであると思います。
                ──宮沢和正著の前掲書より
─────────────────────────────
 直近の日銀の対応として、2021年3月16日、日本経済新
聞社と金融庁主催のフィンテック・カンファレンス「フィンサム
/2021」において、黒田日銀総裁は、日銀のCBDCについ
て、次のように述べています。
─────────────────────────────
 現時点でCBDCを発行する計画はないとの考え方に変わりは
ないが、この春からいよいよ実験を開始する予定です。
                     ──黒田日銀総裁
─────────────────────────────
 日銀の実証実験に関しては、次の3段階が予定されているとい
われます。黒田日銀総裁がいう「この春からの実験」とは、「概
念実証1」を指していると思われます。
─────────────────────────────
【概念実証フェーズ1】
  システム的な実験環境を構築し、決済手段としてのCBDC
 の中核をなす、発行、流通、還収の基本機能に関する検証
【概念実証フェーズ2】
  フェーズ1で構築した実験環境にCBDCの周辺機能を付加
 してその実現可能性などを検証
 【パイロット実験】
  概念実証を経て、さらに必要と判断されれば、民間事業者や
 消費者が実地に参加する形でのパイロット実験を行うこと
                ──宮沢和正著の前掲書より
─────────────────────────────
 2016年はCBDC熱が高まった年といわれますが、それは
中国でもそういえるのです。習近平主席が「ブロックチェーン」
という言葉を使ったのは、2019年10月24日開催の政治局
学習会といわれていますが、遠藤誉氏によると、ブロックチェー
ンという言葉自体は、その前から使われているというのです。
 ブロックチェーンという言葉は、2016年3月16日の全人
代の最終日に、第13次五ヵ年計画(十三五計画と呼称)が決議
されていますが、そのなかに、ブロックチェーンという言葉が使
われているといいます。
─────────────────────────────
 モノのインターネット、クラウドコンピューティング、ビッグ
データ、人工知能(AI)ディープラーニング、ブロックチェー
ン、遺伝子工学などの新技術は、ネット空間を「人と人」から万
物のインターネット・パフォーマンス、デジタル化、スマート化
への駆動し、今や、それらが存在しない空間はないというところ
まで至っている。           ──遠藤誉・白井一成
        ・中国問題グローバル研究所(GRICI)編
 ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』/実業之日本社刊
─────────────────────────────
 2016年以来、「ブロックチェーン産業パーク」というもの
が、中国各地に雨後の筍のように林立し始めています。それ以来
ブロックチェーンに関する政策は大幅に増え、2019年におけ
る全世界のブロックチェーン関連政策は大幅に増加し、その数は
600を超えています。そのうち、267項目は中国であり、全
世界の45%を占めています。(添付ファイル参照)
 ブロックチェーン発展レベルでのトップ5大都市は、北京、深
せん、杭州、上海、広州の順です。さらに、中央人民銀行をはじ
めとした4大国有商業銀行を含む36の銀行がブロックチェーン
を応用した政策を実施しているといわれます。この分野でも中国
の技術の進展はすさまじい勢いがあります。
              ──[デジタル社会論/055]

≪画像および関連情報≫
 ●キャッシュレス大国、中国が推し進めるデジタル人民元とは
  ───────────────────────────
   2019年は様々なプロジェクトが独自ネットワークをロ
  ーンチ、また大企業も続々とブロックチェーンのコンソーシ
  アムを組成(提携の発表)するなど、業界にとっても変化の
  大きな1年となりました。そんな中、15億人を超える巨大
  なユーザーベースを持つフェイスブックが6月に「リブラ」
  を発表したことは、大きな衝撃を与えましたが、その直後、
  中国から中央銀行発行の「デジタル人民元」発行に関しての
  報道が相次ぎ、その勢いはとどまることなく2020年に突
  入しました。
   中国のデジタル人民元(DCEP)は、中国の中央銀行に
  より発行が計画されている、人民元をデジタル化したものを
  指します。”Digital Currency Electronic Payment”
   デジタル人民元の発行が行われるのは、基本的に中央銀行
  から民間銀行に対してのみとなります。また、民間銀行が保
  有する人民元の紙幣の枚数以上の発行はできないため、極度
  なインフレやビットコインのような激しい価格変動は起こら
  ず、基本的には従来の人民元の紙幣同様に利用することがで
  きます。中国は国際ブランドである銀聯や、QRコード決済
  であるアリペイ、ウィーチャットペイなどすでにキャッシュ
  レスの形が浸透しており、キャッシュレス大国として知られ
  ています。デジタル人民元はそれらのように会社に依存する
  形の資金管理や決済とは違い、国が主導する形でのデジタル
  通貨発行ということになります。
                  https://bit.ly/3c9T53A
  ───────────────────────────
各国ブロックチェーン政策数/2019.jpg
各国ブロックチェーン政策数/2019
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月25日

●「『いろは』は具体的には何なのか」(第5456号)

 ここまで、宮沢和正氏の本に基づいて、ソラミツ社の「ハイパ
ーレッジャーいろは」について書いてきましたが、これは、いっ
たい何なのかということが今ひとつはっきりしません。そこで、
宮沢和正氏の本を参考にして、EJ風に解説を試みることにした
いと思います。
 ソラミツ社のウェブサイトを見ると、会社について次の説明が
あります。
─────────────────────────────
 ソラミツは、ブロックチェーン技術の開発と、これを活用した
新たなアプリケーションやサービスの提供を、目的とする会社で
す。私達はデジタル時代におけるユーザー主体の新たなアイデン
ティティ管理を、ブロックチェーン上で実現することを目指して
います。            https://soramitsu.co.jp/ja
─────────────────────────────
 「ハイパーレッジャー」は、オープンソースOSの「リナック
ス」の開発を推進してきたリナックス・ファウンデーションが始
めたものです。そもそもオープンソースとは何かというと、これ
についてウィキペディアに次の解説があります。
─────────────────────────────
 オープンソース (英: open source)とは、ソースコードを商用
非商用の目的を問わず、利用、修正、頒布することを許し、それ
を利用する個人や団体の努力や利益を遮ることがないソフトウェ
ア開発の手法。             ──ウィキペディア
                  https://bit.ly/31bCgyT
─────────────────────────────
 2016年10月に、ソラミツ社の「ハイパーレッジャーいろ
は」は、ハイパーレッジャー参加企業の投票による選考で、イン
キュベーション(育成)対象フレームワークとして、IBM、イ
ンテルという巨大企業と並んで選ばれています。ブロックチェー
ン・プラットフォームの世界標準候補としてです。これは、大変
なことです。
 2017年1月の時点で、ソラミツにはたった4人しか正規社
員はいなかったそうです。現社長の宮沢和正氏は5人目の正規社
員だったのです。しかし、2020年11月現在、事業の拡大に
応じて従業員が増加し、ソラミツグループは日本を含めて5法人
6ヶ国にオフィスがあり、70人規模に達しているそうです。
 「ハイパーレッジャーいろは」は、オープンソースであるので
ソラミツ社は、「いろは」によって、一切の収益を上げることは
できないことになります。それでは、ソラミツ社は、何によって
収益を上げるのかというと、次の3つを上げています。
─────────────────────────────
1.「いろは」を活用してアプリケーションを開発し、その販売
  を行うことと、システム・インテグレーションによる売上。
2.「いろは」をビジネスに活用するための開発・実行・管理ツ
  ール群、設計・開発支援などの技術コンサルティングなど。
3.「いろは」を活用したさまざまなサービスを提供する企業を
  他社と共同で立ち上げることでその収益をシェアすること。
    ──宮沢和正著『ソラミツ/世界初の中銀デジタル通貨
      「バコン」を実現したスタートアップ』/日経BP
─────────────────────────────
 「ハイパーレッジャーいろは」のソースコードは公開されてい
るので、他の企業がそれを使って、上記の3つのことをやること
はできます。しかし、当然のことながら、ソラミツ社が一番「い
ろは」の全体のアーキテクチャーの細部にいたるまで熟知してい
るので、通常ではこれを上回ることは困難です。
 宮沢氏の本には、「ハイパーレッジャーいろは」について、次
の記述があります。
─────────────────────────────
 APIは「C++」のプログラミング言語を使用して記述され
ているので、自分でAPIを追加することは可能であるが、それ
には「ハイパーレジャーいろは」全体のアーキテクチャーを知る
必要があり、容易ではない。
 「ハイパーレジャーいろは」はあえてチューリング完全を選択
せず、信頼できるAPIのみを経由して動作させることで、バッ
クドア(管理者や利用者に気付かれないよう秘密裏に仕込まれた
遠隔操作のための接続窓口)やバグの混入を防いでいる。
                ──宮沢和正著の前掲書より
─────────────────────────────
 きわめて専門的な内容ですが、「チューリング完全」とは何を
意味するのでしょうか。
 「チューリング完全」については、ウェブ上の「ブロックチェ
ーン用語集」に、次の説明があります。
─────────────────────────────
 計算理論で、ある計算のメカニズムがチューリング機械と同じ
計算能力がある場合、その言語をチューリング完全と呼ぶ。簡単
に言えば、あらゆる処理を実行できる計算能力を備えている性質
のこと。ビットコインはチューリング完全性を備えていないが、
イーサリアムでは、チューリング完全なプログラミング言語を実
装している。しかしイーサリアムは、チューリング完全性を備え
ることによって、何らかのバグが生じた時に、処理が永遠に終わ
らない「無限ループの問題」も持っている。
                  https://bit.ly/3lID9sp
─────────────────────────────
 「チューリング」というのは、英国の数学者、暗号研究者、計
算機科学者のアラン・チューリングのことです。ある計算モデル
がチューリングマシンと同等の計算能力を持つマシンということ
を意味しています。
 ここで「チューリングマシン」とは、万能なコンピュータのイ
メージを意味しています。これについては、明日のEJで述べる
ことにします。       ──[デジタル社会論/056]

≪画像および関連情報≫
 ●トヨタ、ブロックチェーンでGAFAに対抗 自動車・都市
  データを「民主化」
  ───────────────────────────
   トヨタ自動車が、ブロックチェーン技術の開発に本腰を入
  れる。2020年3月16日、同技術を活用した4種類の実
  証実験を進めていると発表した。クルマの利用履歴などをブ
  ロックチェーンに記録し、他社のデータと連携させて便利に
  する。いわゆる「データの民主化」(同社)を実現し、個人
  情報を大量に囲い込む米グーグルなど「GAFA」に対抗す
  る。トヨタは2019年4月、グループで構成するブロック
  チェーンの研究開発組織「ブロックチェーン・ラボ」を立ち
  上げた。同年内に行った実証実験で「有用性を確認した」と
  いう。2020年度内に実サービスに近い形での実験を開始
  することに加えて、自社サービスの一部をブロックチェーン
  上で実行する考えだ。加えて、提携先を多く募って新しいサ
  ービスを模索する。
   「分散型台帳」とも呼ばれるブロックチェーンには、特定
  の事業者にデータを集中させない仕組みに加えて、改ざんを
  防ぎやすい特長がある。トヨタは「インターネット誕生以来
  の革命」と位置付けており、自動車業界に多くの利点をもた
  らすとみなす。さらにトヨタは、ブロックチェーンはデータ
  を皆で共有して管理する「民主化」に役立つとみており、個
  人情報などを独占するGAFAへの対抗手段にもなると考え
  ている。「データは特定の企業が所有するものではなく、皆
  で管理していくものだ」(トヨタの担当者)と訴えた。
                  https://bit.ly/3rgIgkC
  ───────────────────────────
アラン・チューリング.jpg
アラン・チューリング/2019
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月26日

●「『いろは』のどこが優れているか」(第5457号)

 「チューリングマシン」とは、数学者のアラン・チューリング
が開発したとされる、あらゆる問題が解ける仮想的な万能マシン
のことですが、それと同等の計算能力を持つ計算モデルのことを
「チューリング完全」というのです。重要なことは、ここでいう
「計算モデル」とはプログラミング言語を指すということです。
 ソラミツの宮沢和正氏は、「ハイパーレッジャーいろは」につ
いて、「あえて『チューリング完全』を選択せず、信頼できるA
PIのみを経由して動作させる」といっていますが、これは何を
意味しているのでしょうか。
 つまり、宮沢氏は、「ハイパーレッジャーいろは」は、チュー
リング完全な言語ではなく、チューリング不完全な言語であると
いうのです。チューリング不完全な言語とは、ある特定の目的に
対して専門化されている言語のことです。
 表計算ソフト「エクセル」を例をとって考えてみます。エクセ
ルは、あらゆる計算に対応できる万能なプログラムです。さらに
VBAというアプリケーションの拡張機能を使うと、計算エンジ
ンと組み合わせて、ほとんどの計算が可能になり、自動化も実現
できるのです。つまり、エクセルは「チューリング完全」といえ
ます。VBAはプログラミング言語です。VBAは次の言葉の省
略です。
─────────────────────────────
      ◎VBA
       Visual Basic for Applications
─────────────────────────────
 自動化に関連して、ブロックチェーンの「スマートコントラク
ト」について知る必要があります。スマートコントラクトはビッ
トコインの次に時価総額が大きい暗号資産(仮想通貨)「イーサ
リアム」に実装されている機能です。
 スマートコントラクトとは、プログラムに基いて自動的に契約
を実行できる技術のことです。スマートコントラクトとは、あら
かじめ契約内容を設定しておき、その条件を満たすと自動で契約
が結ばれます。この技術はブロックチェーンと組み合わさること
で信頼性の高い1対1の取引を実現することが可能になります。
 スマートコントラクトは、このブロックチェーンとスマートコ
ントラクトという別々の技術が一つに掛け合わさることで、化学
反応が起きているというようなイメージです。これについては、
添付ファイルを参照してください。
 契約というものは、次の4つで構成されており、A〜Cを自動
的に実施することができます。
─────────────────────────────
         @契約定義
         Aイベント発生
         B価値の交換、契約執行
         C決済
─────────────────────────────
 スマートコントラクトの提唱者は、米国の経済学者にして暗号
研究者のニック・サボ氏です。サボ氏は、スマートコントラクト
を表すものとして、自動販売機を例として上げています。
 自動販売機は、「利用者がお金を入れる」「飲みたいジュース
のボタンを押す」、すると、自動販売機からジュースが出てくる
──この流れを「利用者と自動販売機が契約した結果」と考える
と、お金の投入とボタンを押す行為は契約行為であり、この行為
が行われたときのみに自動販売機はサービスを提供します。つま
り、スマートコントラクトは、ある行為に紐付いた結果にいたる
までの契約の自動化をするためのものです。
 「イーサリスク」というスマートコントラクトを活用した分散
型保険プラットフォームがあります。イーサリスクでは、保険金
の支払い可否の判定や、支払いの実行を自動で行うことができま
す。保険金の支払いプロセスを自動化しているので、人件費の削
減につながり、ユーザーは割安な手数料でサービスを利用するこ
とができます。しかし、システムづくりには、プログラミングを
する必要があります。
 このように、世界の多くのブロックチェーンには、それぞれ特
殊な言語で記述する必要があります。
─────────────────────────────
  イーサリアム           ・・ Solidity
  ハイパーレッジャー・ファブリック ・・ Go
  リブラ(ディエム)        ・・ Move
─────────────────────────────
 これに対して、「ハイパーレッジャーいろは」について、宮沢
和正氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 効率よくプログラミングするには、これらの言語に精通したエ
ンジニアと十分にテストされ、品質やセキュリティに関して問題
のない多種多様のライブラリーが必要になる。こうした特殊な技
能を持ったエンジニアの採用は困難で、給与水準も非常に高い。
 これに対して「ハイパーレッジャーいろは」は、パイソンやジ
ャバスクリプトなどの、ほとんどのソフトウェア・エンジニアが
知っているブログラミング言語で開発が可能である。
 つまり、ブロックチェーンのプログラミングは、特殊なスキル
を持った少数のエンジニアではなく、一般の多くのエンジニアが
開発・運用・メンテナンスできるようになる。
    ──宮沢和正著『ソラミツ/世界初の中銀デジタル通貨
      「バコン」を実現したスタートアップ』/日経BP
─────────────────────────────
 ここまでの検討で、ソラミツ社のブロックチェーン「ハイパー
レッジャーいろは」の使い勝手は、他のブロックチェーンに比べ
て、相当使いやすく、さまざまなシステム要件に合わせて設計で
きることがわかってきています。
              ──[デジタル社会論/057]

≪画像および関連情報≫
 ●スマートコントラクト言語にチューリング完全性は本当に
  必要か?ーSolidityの課題と代替案
  ───────────────────────────
   誰しもに、お気に入りの靴や、好きな食べ物があるのと同
  じように、誰にでもお気に入りのプログラミング言語がある
  でしょう。私がこの記事を書いているのは、あなたの好きな
  言語を諦めて欲しいからではありません。(どうか、私を信
  じてください、私はそんなことを言おうとは夢にも思いませ
  ん)。その代わりに、私は、私たちが一緒に旅をして、その
  旅が、私たちに考える機会をもたらしてくれることを望みま
  す。本稿では、「チューリング完全性」について議論し、ス
  マートコントラクト開発におけるその有用性を評価するとと
  もに、代替案を検討し、結果として同じ結論に到達できる期
  待を持っています。
   チューリング完全性についてよくご存知でない方に向けて
  とても簡潔な説明をしたいと思います。過去に聞いたことが
  あるが、詳細を忘れてしまった方にとっては、記憶を呼び戻
  す手助けになると思います。
   アラン・チューリングは数学者で「チューリングマシン」
  と呼ばれる仮想マシンを発明しました。この仮想マシンは、
  無限量のメモリにアクセスし、メモリー内でいつ書き込み、
  読み取り、移動すべきかを、決定するプログラムを実行しま
  す。また、どのような条件下で終了し、次に何をすべきかに
  ついてもプログラムが指示します。これらの条件に合ったプ
  ログラムを記述できるプログラミング言語はチューリング完
  全言語と呼ばれています。    https://bit.ly/3w00AlJ
  ───────────────────────────
 ●図の出典/https://bit.ly/3chrw8D
スマートコントラクト.jpg
スマートコントラクト
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月29日

●「会津大学地域通貨『白虎』の開発」(第5458号)

 カンボジア国立銀行のデジタル通貨「バコン」の開発には、福
島県会津若松市が深くかかわっています。ところで、なぜ、会津
若松市なのでしょうか。
 会津若松市というと、私は、会社の仕事で、携帯端末「ライフ
プランナー」の指導に訪れたことがあります。雪の降る寒い日で
営業職員が大勢集まる市の公民館のような場所で、指導したこと
を今でも鮮明に覚えています。
 会津若松市には、会津大学という大学があります。江戸時代の
会津は教育熱心な藩として知られ、日新館という輝かしい伝統の
藩校があったのです。しかし、会津地域には、長く4年制大学が
なかったので、新たに県立の4年制大学を設置することにしたの
です。大学の設置に当たっては、国際化、高度情報化社会が進展
する中で、世界的視野を持ち、将来の情報科学を担い、発展させ
る人材の育成が最も重要であると考え、コンピュータ理工学に特
化した大学とし、1993年4月に開学しています。
 カンボジアのデジタル通貨「バコン」が正式に発足したのは、
2020年10月のことですが、ソラミツ社は2020年7月に
は「ハイパーレッジャーいろは」を使った地域通貨「Byacco/白
虎」を開発し、会津大学内で正式運用を開始しています。会津若
松市の有限会社スチューデント・ライフ・サポート(SLS)社
株式会社AiYUМUとソラミツ社が組んで開発したのです。
 つまり、「白虎」は、会津大学のために開発された日本初のデ
ジタル地域通貨ということになります。そういうこともあって、
現在のソラミツ社の会津支社(会津大学産学イノベーションセン
ター内に設置)には、会津大学卒の学生が多く入社しています。
 ICT専門の4年制大学は、日本にはあまりないはずです。こ
の大学がどのような大学かについて、宮沢和正氏は次のように紹
介しています。
─────────────────────────────
 入学すると、1年生からプログラミングを徹底的に教え込まれ
大量の課題が課せられ、徹夜で作業をする学生もいる。3年生か
らは英語だけの授業が本格的に始まり、卒業論文や修士論文は英
語で書かなければいけない。4年間で卒業できるのは75%程度
だという。
 このような厳しい環境で育った学生はIT業界で評価が高く、
ヤフーやNTT、ドコモなど大手に就職する学生もいて、ここ数
年の就職率は97〜98%である。また、大学ではIT技術だけ
でなく、起業に必要な教育も実施され、自らベンチャー企業を立
ち上げる学生も多い。2017年3月末時点の大学発のベンチャ
ー企業は18社あり、学生数あたりでは全国屈指の数だ。
 先の世界大学ランキングでは、「教育リソース」、「教育満足
度」、「教育成果」、「国際性」の4項目で評価されるが、会津
大は教育満足度が87・4点、国際性が75・8点と高く、全体
の評価を押し上げている。
    ──宮沢和正著『ソラミツ/世界初の中銀デジタル通貨
      「バコン」を実現したスタートアップ』/日経BP
─────────────────────────────
 なにしろ会津大学の学部は理工学部しかないのです。それで4
年制です。そして、世界各国からICTの専門家を集め、たまた
ま冷戦終結と重なったことから、とくにロシアからは一流の研究
者が集まり、現在はカナダやインドなど17ヶ国から42人の研
究者が在籍し、教員の40%は外国人です。そのため、学内では
英語を使う機会が多くなっています。
 上記のスチューデント・ライフ・サポート社は、会津大学の学
生の生活支援と、大学と地域が身近な存在になることを目的とし
て、会津若松商工会議所の活動のなかから生まれています。現在
は、会津大学内食堂、売店、ブックセンター、カフェ、留学生用
寮、会津大学短期大学食堂、売店などを運営しています。株式会
社AiYUМUというのは、会津若松市が進めるICT関連整備
事業の民間運営会社です。
 つまり、地域通貨「白虎」は、大学の学生や食堂などのあらゆ
る支払いに対応できる地域通貨なのです。その特徴は、次の3つ
があります。
─────────────────────────────
          @   トークン型
          A   転々流通型
          Bブロックチェーン
─────────────────────────────
 仮想通貨の世界におけるトークンは、仮想通貨との違いも明瞭
ではなく、人によって定義があいまいです。「トークン型」とい
うのは、商品との引換券や代用貨幣という意味があります。つま
り、トークンとは「何か別の価値を代替するもの」という意味に
なります。たとえば、カジノのチップは、トークンの一例ですし
ギフトカードのように商品を購入できるものもトークンです。
 「転々流通型」は、人から人へ、企業から企業へと譲渡が繰り
返されるものを意味します。スイカとかパスモとかワオンなどの
電子マネーは、転々流通できません。つまり、トークン型と転々
流通型の2つの条件が揃うと、データ自体が現金と同じ価値を持
ち、銀行口座と関係なく使うことができます。つまり、決済され
た金額をそのまま仕入れなどで使うことができるのです。
 「ブロックチェーン」によって、改ざんや二重取引は不可能で
あり、ブロックチェーン同士の接続は容易であるので、複数のデ
ジタル地域通貨をつなぐこともできます。
 「白虎」は、会津大学の食堂と売店、ブックセンターなどで運
用を開始し、段階的に大学外へ広げる計画であるといいます。そ
して、スマートシティー構想を進める会津若松市の官民が普及を
支援すれば、「白虎」が会津市内全域で使えるようになると思わ
れます。「白虎」はカンボジアの「バコン」の技術を活用し、そ
れを日本向けのデジタル地域通貨に最適化したものです。
              ──[デジタル社会論/058]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ会津大学は“日本初”の「デジタル地域通貨」を
  導入したのか
  ───────────────────────────
   会津大学は、2020年7月1日から、ソラミツ、スチュ
  ーデント・ライフ・サポート、AiYUМUと共同で「デジ
  タル地域通貨」の正式運用を開始する。売店やカフェテリア
  などで、法定通貨に連動するデジタル通貨を利用できるよう
  になる予定だ。会津大学が採用したのは、デジタル地域通貨
  「Byacco/白虎」である。
   「白虎」は、リナックスファウンデーションが主催するオ
  ープンソース開発コンソーシアムであるハイパーレッジャー
  から生まれたブロックチェーン基盤「いろは」を基に開発さ
  れた。非改ざん性を持つブロックチェーンを基盤にするため
  通常のキャッシュレス決済手段では困難な「転々流通(IC
  カード同士で一方ICカードに蓄積した額を他方に移転でき
  る仕組み)」を実現しているという。
   「白虎」は、日本初となるブロックチェーンを活用したデ
  ジタル通貨だ。その基盤にはソラミツとカンボジア国立銀行
  が共同開発した中銀デジタル通貨「バコン」の技術がある。
  バコンは2019年7月にパイロット運用を開始し、101
  4の銀行や決済事業者と接続して1万人以上のユーザーの送
  金や店舗での支払いなど本番環境のテスト運用をスタートし
  ている。このように実績がある基盤を用いたため、「白虎」
  は、“日本向けの最適化”が3カ月程度で完了するなど、開
  発コストの低減にも成功したという。
                  https://bit.ly/31rHbvC
  ───────────────────────────
会津大学.jpg
会津大学
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月30日

●「デジタル通貨は3つの種類がある」(第5459号)

 ここまでの検討によって、「デジタル通貨」には、その発行主
体によって、次の3種類があることがわかります。
─────────────────────────────
   @「中銀デジタル通貨」
    ・中央銀行が発行するリテール向けデジタル通貨
     カンボジア「バコン」などCBDC
   A「デジタル民間通貨」
    ・民間の金融機関や企業が発行するデジタル通貨
     「リブラ」など
   B「デジタル地域通貨」
    ・自治体や商工会議所等が発行するデジタル通貨
     「白虎/Byacco」など
    ──宮沢和正著『ソラミツ/世界初の中銀デジタル通貨
      「バコン」を実現したスタートアップ』/日経BP
─────────────────────────────
 「中銀デジタル通貨」に火をつけたのは、間違いなくフェイス
ブックの「リブラ」であると思います。これに一番強く反応した
のは中国です。もともと中国は、7年前のビットコイン騒動のさ
い、ビットコインに資金が流れ続けると、通貨や金融政策を当局
が操作できなくなるという強い危機感を抱いたのです。そこで、
人民元に取って代わる仮想通貨などの台頭を抑えるため、使い勝
手のよいデジタル通貨を自ら発行する計画を立てたのです。
 情報によると、そのリブラは、各国当局に反対され、「ディエ
ム」と名称を変更し、複数通貨のバスケットから、単一通貨に1
対1の価値を持つデジタル通貨に変更する方針であるということ
です。米ドルを裏付けとする「米ドル版リブラ」として、今年中
に登場するといわれています。
 興味があるのは「デジタル地域通貨」です。会津大学の「白虎
/Byacco」があります。これなら、どこの自治体でもやろうと思
えば、実現可能です。宮沢和正氏は、日本の現行法でも可能な次
のようなアイデアを提案しています。スマートコントラクトを使
うと、こんなこともできるのです。
─────────────────────────────
 デジタル通貨の特性として、ブロックチェーンのスマートコン
トラクトを活用し、発行主体が管理可能な範囲で、減価(インフ
レ)や増価(デフレ)などの施策を打つことで、消費促進や人の
動きを変えることが可能となる。
 増価や減価の事例としては、例えば1万円で1万1000円分
のデジタル地域通貨が購入可能で、それが1ヵ月以内に使用しな
いと1万円分の価値に戻ってしまうといった施策だ。これによっ
て消費を喚起することができる。1000円分のプレミアムの増
価、有効期限到来による1000円分の減価は、現行法でも対応
可能と考えられる。デジタル地域通貨はプレミアムをつけたり、
有効期限をつけたり、特定地域に限定したりなどの機能を持たせ
て、中銀デジタル通貨にできない地方創生や地域内での経済効果
をもたらしながら発展していくだろう。
                ──宮沢和正著の前掲書より
─────────────────────────────
 3月25日に閉幕した国際決済銀行(BIS)のイノベーショ
ンサミットにおいて中国の人民銀行デジタル通貨研究所の所長は
2022年の北京冬季五輪までに「デジタル人民元」の発行を宣
言しています。
 このような中国の積極姿勢に対して、これまでの日銀は、CB
DCに関して次のように見解を述べており、その態度はきわめて
消極的です。欧米も同じような見解です。
─────────────────────────────
 日本人は現金が好きであり、ATМはそこら中にある。お札の
偽造はないし、現金でまったく不便はない。キャッシュレスやデ
ジタル通貨は必要ない。           ──日銀の見解
─────────────────────────────
 しかし、その日銀も3月26日に「デジタル通貨/CBDCに
関する官民の連絡協議会」を立ち上げ、同日の初会合で2021
年4月から、2022年3月までの1年間にわたって、CBDC
の実証実験を次の3段階にわたって実施するとしています。
─────────────────────────────
◎第1段階
  コンピューターシステム上の実験環境で電子的にお金をやり
 取りし、不具合が生じないかなどを調べる。発行や流通といっ
 た通貨に必要な基本機能を検証し、こうした取引の記録システ
 ムも実験する方針である。
◎第2段階
  保有額に上限を設けるなどより高度な条件を設定する。オフ
 ラインでの決済や匿名性の確保、セキュリティー対策について
 も検証する。
◎第3段階
  民間事業者や個人が実際の支払いに使えるかを試すパイロッ
 ト実験に進む想定である。
       ──2021年3月27日付、日本経済新聞より
─────────────────────────────
 日米欧の金融当局も、今やデジタル通貨が喫緊の課題であると
いう認識に変わりはありませんが、デジタル通貨化を急ぐことに
よる「銀行離れを招くリスク」を恐れています。
 デジタル通貨があまりにも使い勝手が良すぎると、銀行預金か
らデジタル通貨に資金が一気に流れ、既存の金融システムが揺ら
ぎかねないリスクがあると、米FRBパウエル議長も、ドイツ連
邦銀行ワイトマン総裁も述べています。欧州中央銀行(ECB)
のラガルド総裁は、デジタル通貨には基本的には賛成ですが、実
際の導入は4〜5年後になるといっています。それだけに、中国
のデジタル人民元には強い懸念を示しています。
              ──[デジタル社会論/059]

≪画像および関連情報≫
 ●日米欧を置いてけぼりにする中国の「デジタル人民元」の猛
  スピード/真壁昭夫氏
  ───────────────────────────
   現在、中国人民銀行(中国の中央銀行)が急速に人民元改
  革を進めている。その取り組みは大きく2つある。1つは、
  外貨準備を構成する資産の多様化(ポートフォリオの分散)
  だ。その一環として、人民銀行は米国債に加えて、わが国の
  国債などを購入している。
   もう1つは人民元のデジタル化だ。それによって、共産党
  政権は、資金フローの厳格な管理による通貨価値の安定と、
  人民元の流通範囲の拡大を目指している。近年、世界の中央
  銀行が、法定通貨のデジタル化(CBDC)への取り組みを
  進めているが、中国人民銀行のデジタル通貨開発には、主要
  先進国の中央銀行を上回る規模感とスピード感がある。
   人民元の国際化や今後の国際通貨体制に与える影響などを
  考えると、中国による日本国債取得よりも、人民元デジタル
  化のインパクトが大きい。長期的な目線で考えると、人民元
  のデジタル化が進み、それを用いる国が増えた場合、国際通
  貨体制は変化する可能性がある。
   今すぐではないにせよ、デジタル化された人民元の流通範
  囲が拡大するにつれて、世界の基軸通貨としての米ドル(ド
  ル)の覇権が揺らぐ展開は排除できない。中国人民銀行が人
  民元改革に取り組む背景には、共産党政権が人民元の為替レ
  ートの安定を目指していることがある。中国にとって重要な
  ことは、米国の意向に影響されずに、自国の社会・経済状況
  に合うよう為替政策を運営する国際的な立場を確立すること
  である。            https://bit.ly/3dfGlrl
  ───────────────────────────
デジタル人民元.jpg
デジタル人民元
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月31日

●「中国の経常収支黒字額が減少傾向」(第5460号)

 今回のテーマも今日で60回になります。なるべく1つのテー
マにつき、50回ぐらいにしたいのですが、なかなかうまくいか
ないでいます。しかし、そろそろこのテーマを閉じるところに来
ていると思います。
 ところで中国は、なぜ「デジタル人民元」を発行しようとして
いるのでしょうか。
 今や中国といえば、世界第2位の経済大国であり、軍事大国で
あり、先端技術大国でもあります。向かうところ敵なしで、その
態度は傲岸不遜、米国何するものぞという勢いです。しかし、そ
の実態をていねいに見ていくと、不安要素はたくさんあります。
 中国を取り巻く背景的な事実を探ってみると、中国では、貿易
収支に加えて、サービス、投資収益収支などを含む経常収支が、
米中の貿易摩擦が激化する以前から、減少しているのです。IM
Fは、中国の経常収支は2022年には赤字に転ずると予想して
います。既出の木内登英氏は、この点について、次のように述べ
ています。
─────────────────────────────
 中国の経常黒字額は、リーマン・ショック(グローバル金融危
機)が発生した2008年に4200億ドル程度にまで拡大した
が、その後は、大規模な景気刺激策による輸入増加の影響なども
あって、縮小傾向での推移を続けている。2015年時点で中国
の経常黒字額は世界最大であったが、2016年にはドイツに抜
かれ、また2017年には日本にも抜かれて、現在世界第3位と
なっている。        ──木内登英著/東洋経済新報社
    『決定版リブラ/世界を震撼させるデジタル通貨革命』
─────────────────────────────
 経常黒字が縮小する原因にはいろいろありますが、サービス収
支の悪化は重要な原因の一つです。経常収支は、貿易収支とサー
ビス収支などの合計です。いずれも収支ですから、外貨の受取か
ら支払を差し引いた金額となります。
 2008年には4200億ドルの経常黒字があったのですが、
その巨額な黒字が縮小してきているのです。何が影響しているの
でしょうか。
 サービス支払いの急激な増加には、国外渡航規制の緩和を受け
て、中国人の海外旅行が拡大したことが大きく影響しています。
例えば、中国人が海外旅行で食事代金を払えば輸入、外国人が中
国旅行で食事代金を支払えば、輸出になります。したがって、海
外旅行者が激増すると、輸入が増えることになります。そういう
状況において、中国は米国との貿易摩擦の影響で、輸出が抑制さ
れ、それに輸入拡大の圧力がかかるので、貿易収支が急速に悪化
し、結果として経常収支の悪化傾向が加速することになります。
 このことに関係しますが、中国では、外貨準備額(ドル建て)
に異変が生じています。かつて日本は外貨準備高は世界一でした
が、中国の外貨準備高は2006年には日本を抜いて、世界一に
なり、現在もその地位を維持しています。しかし、米中対立が激
化する頃からその増加ペースは減少しています。もし、中国の経
常収支が赤字になり、その赤字が拡大するようなことになると、
外貨準備高は急速に取り崩されていくことになります。
 この経常収支黒字の縮小と外貨準備高の伸び悩みが中国にどの
ような影響が及ぶかについて、木内登英氏は、次のようにコメン
トにしています。
─────────────────────────────
 米国との貿易摩擦の激化を受け、輸出抑制などを通じて経常収
支の悪化を強いられること自体、中国経済の成長には大きな制約
となるが、それに加えて、外貨準備不足による対外債務返済の支
障という金融面での問題も、将来的には中国経済の大きな制約要
因になる可能性が出てきたのである。これは、米国との経済の覇
権争いにとって非常に不利なことだ。
        ──木内登英著/東洋経済新報社の前掲書より
─────────────────────────────
 これに関連するのが人民元の下落傾向です。米中対立がさらに
深まって、人民元の下落が続いています。一部では、米国による
関税率引き上げの影響を相殺するため、当局が元安を容認してい
るとの見方もありますが、中国人民銀行の関係者からは「1ドル
=7元」を超える元安は阻止するとの発言が出ています。人民元
安が進めば、資本逃避が進み、景気悪化とさらなる元安が起きる
という悪循環を避けたいからです。
 ここで問題になってくるのは人民元の国際化です。本当の意味
で米国に対抗するには、人民元が国際通貨としての地位を確立し
ている必要があります。中国としては、人民元の国際化に努力は
していますが、きわめてうまくいってはいないのです。国際取引
における最新のシェアは、次の通りです。添付ファイルをご覧く
ださい。添付ファイルでは、人民元は「Yuan」と英語表記されて
います。「エン」と似ていますね。
─────────────────────────────
         ドル ・・・ 62・0%
        ユーロ ・・・ 20・1%
          円 ・・・  5・7%
        ポンド ・・・  4・4%
        人民元 ・・・  2・0%
        その他 ・・・  5・8%
                  https://bit.ly/3m0YOMz
─────────────────────────────
 中国の紙幣をよく見ると「元」とは書かれていません。戦前期
において、日本が使っていた「圓」が正式な表記で、「元」はそ
れを簡略化した「簡体」表記なのです。日本もかつて「圓」表記
をしていたのですが、戦後簡略化されて「円」となり、中国では
「元」と簡略化されているわけです。ちなみに中国では「円」の
ことを「Yuan」と発音しているそうです。
              ──[デジタル社会論/060]

≪画像および関連情報≫
 ●人民元国際化、中国の新戦略/日本経済新聞
  ───────────────────────────
   コロナショックで一層激化した米中対立は、香港の自治問
  題をきっかけに、貿易分野から金融分野へとその主戦場を移
  した感がある。
   中国政府を強く刺激したのは、香港の銀行のドル調達を制
  限することが米国政府内で一時検討された、と報道されたこ
  とだ。米政府が事実上支配下に置く、ドル建て中心の国際銀
  行送金の大半を担うSWIFT(国際銀行間通信協会)に介
  入して、香港の銀行の活動を制限することが検討されたので
  はないか。
   SWIFTから対象国の銀行を外すことで、その国と海外
  との間の貿易を遮断することは、米国がテロ指定国への経済
  制裁の実効性を高めるための常とう手段だ。米国が将来、そ
  れを中国にも適用するリスクを、従来以上に中国政府は意識
  したことだろう。
   国際通貨基金(IMF)の2019年の報告書によると、
  中国の輸入に占めるドル建て決済の比率は92・8%と、主
  要国中で最高水準だ。SWIFTを通じたドル建て決済がで
  きなければ、中国の貿易は壊滅的な被害を受ける。米国が近
  い将来そうした措置を講じるとは考えにくいが、中国として
  は生き残りをかけて備えておくことが必要となる。その対抗
  策が人民元の国際化推進である。
               https://s.nikkei.com/3w7Az3Q
  ───────────────────────────
International Monetary Fund, Bloomberg.jpg
International Monetary Fund, Bloomberg
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする