2021年02月04日

●「リブラ発表に隠されたFBの思惑」(第5422号)

 「リブラ」が公表された2019年6月18日、その開発プロ
ジェクトのリーダー、デビット・マーカス氏は、テレビに出演し
キー局のキャスターと対峙したのです。
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キャスター:ここまでフェイスブックへの不信が高まっている時
 期に、なぜ不可解な企て(リブラのこと)をするのか。
マーカス氏:リブラは分権化された仕組みをもち、リブラ協会の
 メンバーによって運営される。フェイスブックはそのメンバー
 の一つに過ぎない。フェイスブックは自身の影響力と支配力を
 制限するために多くの労力を費やしている。
      ──藤井彰夫/西村博之著/日経プレミアシリーズ
            『リブラの野望/破壊者か変革者か』
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 個人データ流出事件の影響で、実際この時期のフェイスブック
の経営は、最悪の状況にあったのです。株価は2018年7月を
ピークに一本調子で下げ、2018年末には4割も低い水準まで
落ち込んでいたのです。そのため、機関投資家からは、ザッカー
バークCEOに対し、兼務する会長職の辞任を求める声まで、上
がっていたといわれます。
 フェイスブック経営陣としては、この嫌な雰囲気を何とか変え
たいという強い気持ちがあったことは確かです。そしてもうひと
つ、近くFTC(連邦取引委員会)から、個人情報の管理に問題
があったとして、相当額の制裁金が課せられることになっていた
のです。これによってフェイスブックの株価がさらに下がる恐れ
があります。
 そのため、フェイスブックは、その秘蔵っ子である「リブラ」
の発表を早めにぶつけて、そのショックを少しでも和らげたいと
いう気持ちがあったことは事実です。実際に7月24日、FTC
は、フェイスブックに50億ドル(約5400億円)の制裁金を
課してきたのです。プライバシー問題に関するFTCの制裁金と
しては、過去最大額の金額です。
 しかし、そうしたもろもろのフェイスブックの思惑は大きく外
れたようです。その顛末について、藤井彰夫/西村博之著の前掲
書は、次のように書いています。
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 データ流出で傷ついたフェイスブックの過去のイメージと決別
し、未来へと脱皮するきっかけとしたい。そんな思いを映したリ
ブラ構想は、同社の期待と裏腹に、むしろ世間の警戒感を高める
こととなった。公共財の色彩が強い通貨の発行に、フェイスブッ
クが関わることに対し、批判が噴出したのだ。フェイスブックの
「信用」問題は、のっけからリブラの足を引っ張った。
 先陣を切ったのは米議会だ。「個人のプライバシーや国家安全
保障への懸念があるリブラは、開発を一時停止すべきだ」。7月
上旬、米下院金融サービス委員会のウォーターズ委員長(民主)
がそう述べると、当局関係者も呼応した。
 パウエル連邦準備理事会(FRB)議長は、「リブラはプライ
バシー問題、資金洗浄、消費者保護などで、深刻な懸念を引き起
こしている」と述べ、「審査が、1年以内に完了するとは思わな
い」と踏み込んだ。ムニューシン米財務長官も安全保障の観点か
ら、「深刻な懸念をもっでいる」と述べ、フェイスブックがテロ
資金などへの対策を講じる必要があると強調した。鳴り物入りの
発表から1ヶ月足らずのうちに、リブラは四面楚歌に近い状況に
置かれていた。    ──藤井彰夫/西村博之著の前掲書より
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 こうした騒ぎを受けて動揺したのは、創業メンバーであるリブ
ラ協会のメンバーです。リブラ協会については、後から詳しく述
べますが、当初は、フェイスブックの子会社「カリブラ」を含む
28の企業が参加を表明していたのです。
 「現時点ではリブラへの参画を見送る」という声明を発し、リ
ブラ協会から最初に離脱したのは、電子決済大手の米ペイパル・
ホールディングスです。2019年10月4日のことです。ペイ
パル・ホールディングスの離脱を受けて、ピザ、マスターカード
イーベイ、ブッキング・ホールディングス、ストライブ、メルカ
ドバゴの7社が次々と離脱し、リブラ協会には21の企業や団体
が残ったことになります。
 フェイスブックのザッカーバークCEOは、2019年10月
23日、米下院金融委員会の公聴会に呼び出しを受けています。
そのとき、ザッカーバークCEOは、リブラの開始時期にこだわ
らず、議会の求める課題の解決に努力し、米当局の承認が得られ
るまでは、リブラを発行しないことを約束しています。しかし、
形勢逆転を狙った次のような変化球も投げています。
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 米国がこの分野をリードしなければ、他国がするだろう。他国
の政府や企業は、米国と同じ規制制度や透明性に対するコミット
メントを持たずに実行するかもしれない。
 実際問題として中国は、素早く動いて、似たアイデアを数ヶ月
中に始動させようとしでいる。大部分がドルに裏打ちされたリブ
ラは、米国の金融覇権と民主的な価値を世界に広げる。米国が技
術革新しなければ金融覇権は保証されない。
           ──ザッカーバークCEOの米議会発言
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 ザッカーバークCEOは、リブラを与野党が結束しやすい「中
国への対抗」という構図を持ち出し、ドル覇権や民主主義の担い
手としてのリブラの役割を印象づけようとしたのです。このマー
ク・ザッカーバークという人物は、なかなかしたたかです。
 GAFAに対する規制は、これからますます厳しくなると予想
されます。そうなると、それに伴うコスト増加で、従来のネット
ビジネスのスタイルでは儲からなくなり、金融業に新たな活路を
見出すようになっている可能性もあります。
              ──[デジタル社会論/023]

≪画像および関連情報≫
 ●リブラは「失敗している」金融システムを修復できる
  :ザッカーバーグ氏
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   マーク・ザッカーバーグ氏は、リブラは銀行口座を持たな
  い世界17億人の人々に金融サービスを提供することができ
  ると議会で証言するつもりだ。そして、リブラが実現しなけ
  れば、中国の新しいデジタル通貨がそれを実現するとも。
   フェイスブックCEOのザッカーバーグ氏は23日に予定
  されている下院金融サービス委員会での証言に先立ち、証言
  文の書面を公開。リブラは人々がより簡単に送金できるよう
  になるグローバル・ペイメント・サービスとして構想されて
  いると述べた。
   「現行のシステムはそれらに失敗している」とザッカーバ
  ーグ氏は述べた。「金融業界は停滞しており、我々が求める
  イノベーションをサポートするデジタル金融アーキテクチャ
  ーも存在しない。私はこの問題は解決でき、リブラはその手
  助けになると信じている」
   特に、同氏はフェイスブックの役割──および同社が直面
  している批判──を強調した。「私は、これは構築すべきこ
  とだと信じている。だが、現時点で我々は理想的なメッセン
  ジャーではないことを理解している。我々はここ数年、数多
  くの問題に直面している。人々はこのアイデアをフェイスブ
  ックではない誰かに出して欲しいと思っているに違いない」
  ザッカーバーグ氏は、リブラのローンチが許可されなければ
  アメリカは世界において「金融でのリーダーシップ」を失う
  かもしれないと警告し、「中国は数カ月以内に同様のアイデ
  アを発表するために迅速に行動している」と述べた。
                  https://bit.ly/3reklmh
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デビッド・マーカス氏.jpg
デビッド・マーカス氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論T | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする