わかりますが、ビットコインとはどう違うのでしょうか。なぜ、
これほど大騒ぎになるのでしょうか。リブラがビットコインと違
う点が3つあります。
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1.一国に留まらぬグローバルな通貨である
2.価値の安定のための工夫が施されている
3.大手プラットフォーマーが主導している
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これらの特徴についてはいずれ詳しく述べますが、上記「3」
の「プラットフォーマー」──ここではフェイスブックを指して
いる──については、明らかにしておく必要があります。
いわゆるプラットフォーム企業が登場する前は、メーカー全盛
時代だったのです。ハードを製造し、販売する企業は、ハードの
価値をユーザーに提供することが価値創出の源泉だったのです。
ユーザーにハードの価値を提供するとは、すなわちハードの単体
またはハードのシステムを販売することであり、供給者の立場と
いうことになります。
しかし、インターネットが普及すると、商品やサービス・情報
を集めた「場」を提供する企業が出現します。これが供給者とし
ての立場ではなく、ユーザーが自由にサービスを選択して、情報
を発信したり、行動したりする「情報基盤」となって発展したの
です。つまり、プラットフォームとは、商品やサービス・情報を
集めた「場」を提供することで利用客を増やし、市場での優位性
を確立するビジネスモデルのことです。
このプラットフォーム企業について、元ソニー社長の出井信之
氏は、自著で次のように述べています。
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プラットフォーム企業の価値は、参加者の数であり、参加者の
価値観など属性の分析ができるデータをもつことが、その基本に
なっている。また、ユーザーにとって便利な生態系であることが
必要条件である。(中略)ユーザーにとって便利なプラットフォ
ーマーは、ハード単独の商品、差別化を提供する単品価値企業で
はなく、ユーザー主体の生態系としてのプラットフォーム提供者
であることが重要である。この認識をするための「意識改革」が
企業改革の最も本質の部分なのだ。この認識こそ、21世紀の最
大のテーマである。 ──出井伸之著/角川インターネット講座
『進化するプラットフォーム
/グーグル・アップル・アマゾンを超えて』
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2019年6月18日、フェイスブックは正式に「リブラ」を
発表し、このプロジェクトを共同で進めるリブラ協会が活動を開
始します。最初の仕事は、リブラの概要をまとめたホワイトペー
パーの公表です。そのメモは次のようになっています。
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・仮想通貨の名前は「リブラ」。2020年前半のスタート
を予定。
・スマートフォンなどを使い、ほぼ手数料なしで、世界中に
送金が可能になる。
・ネット上や現実の店舗でも手軽に代金の支払いができる。
・ブロックチェーン(分散型台帳)を使って情報改ざんなど
の不正を防止
・預金や国債などの資産で裏打ちする「スティープル・コイ
ン(安定通貨)」を志向
・ドル、ユーロ、円など主要通貨のバスケットと価格を連動
・リブラの担い手は「リブラ協会」。フェイスブックはその
一構成員 ──藤井彰夫/西村博之著
『リブラの野望/破壊者か変革者か』
日経プレミアシリーズ
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フェイスブックがリブラを公表した2019年6月18日とい
う日は、フェイスブックがリブラのような革新的な企画を公表す
る日としては、ベストの日ではなかったといえます。なぜなら、
そのとき、フェイスブックは、2004年の創業以来、最大の危
機に陥っていたからです。その危機とは何でしょうか。
フェイスブックへの批判が高まったのは、2018年3月に発
覚したプラットフォーマー企業では、絶対にあってはならないス
キャンダルです。英ケンブリッジ大学の研究者が、学術目的で、
フェイスブックから得た利用者のデータを英情報分析会社ケンブ
リッジ・アナリティカに不正に横流ししていたことが、明らかに
なったのです。この情報は、ネット上では次のようにもっと詳し
く出ています。
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2014年頃、ケンブリッジ大学に在籍するロシア系アメリカ
人学者、アレクサンダー・コーガン氏が、心理クイズアプリを作
成。約30万ダウンロードされたそのアプリに仕組まれたフェイ
スブックAPIを経由し、ダウンロード。ユーザーとその友人ら
約5000万人分のユーザー情報をコーガン氏が取得。コーガン
氏から、ケンブリッジ・アナリティカ(CA)へと売却され、C
A社がそれを利用して、スティーブ・バノン率いるトランプ陣営
をはじめ、複数の選挙活動をサポートした、というストーリーで
ある。(CA社は「ケンブリッジ」であるが、ケンブリッジ大学
とは無関係である) https://bit.ly/36tf427
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フェイスブックといえば、匿名登録を許さず、実名や写真など
も公開することが原則とされているSNSです。当然、その分セ
キュリティ対策は厳重であろうと信じているユーザーが多いと思
われますが、フェイスブックは個人情報管理に関して、きわめて
甘いところが多いのです。リブラ公表のタイミングはベストタイ
ミングとはいえないのです。 ──[デジタル社会論/020]
≪画像および関連情報≫
●フェイスブックに創業以来の危機、ザッカーバーグは
なぜユーザーの信頼を失ったのか
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英ケンブリッジ・アナリティカによるフェイスブックユー
ザー情報悪用のニュースが、2018年3月17日に報道さ
れて以来、同社の対応は後手に回ってきた。
高まる世論に押し切られる形でマーク・ザッカーバーグ最
高経営責任者(CEO)が複数の米メディアに直接釈明をし
たのは発覚から5日間たってからだ。その後、米英有力高級
紙に謝罪の全面広告を掲載したが、遅きに失した感がある。
米PR企業レビックのリチャード・レビックCEOは「対
応までに5日間もかかったことはショッキングだ。ザッカー
バーグ氏が、フェイスブックが直面するチャレンジに立ち向
かう能力があるか疑問だ」と手厳しい。
フェイスブックへの信頼の揺らぎは各所に表れている。ロ
イター通信が3月26日に発表した米国の成人2237名を
対象にした世論調査では、51%が「フェイスブックは信頼
できない」と回答した。米調査企業サーベイモンキーの調査
では、フェイスブックの好感度が2017年10月の61%
から48%へと急落している。また、同社の株価も急落。3
月26日には一時、発覚前から累計900億ドル(約9兆4
737億円)の時価総額が失われた。加えて、米連邦取引委
員会(FTC)がフェイスブックのユーザーのプライバシー
保護で法令違反がなかったかを捜査中だと発表する一方、米
上院の司法委員会と通商科学運輸委員会がザッカーバーグC
EOの証言を要請した。 https://bit.ly/2L8C3bw
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