2021年01月29日

●「『お金のインターネット』を作る」(第5418号)

 中央銀行によるデジタル通貨(CBDC)の開発が各国で加速
している原因をたどると、2019年6月18日に突如発表され
たフェイスブックによる「リブラ」にあります。ところで、「リ
ブラ」は、2020年12月1日から「ディエム」に名称が変更
されています。「ディエム」とは、ラテン語で「日(デイ)」と
いう意味になります。なぜ、名称が変更になったのでしょうか。
 いずれにせよ、中国は「デジタル人民元」を2022年の冬季
五輪(中国開催)までにスタートさせると公表しているので、通
貨のデジタル化が世界で一段と加速することは確かです。そこで
そもそも「リブラ」とは何なのか、フェイスブックは何を目的と
して「リブラ」を開発したのか、なぜ名称を「リブラ」から「デ
ィエム」に変更したのか、その背景などについて、しばらく考え
ることにします。名称は変更されていますが、あえて旧称「リブ
ラ」の名称で書くことにします。
 「リブラ」に関する本は、ほとんど購入しましたが、しばらく
は、日本経済新聞の藤井彰夫氏と西村博之氏による次の書籍を参
考に書くことにします。
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      藤井彰夫/日本経済新聞上級論説委員
    西村博之/  日本経済新聞編集委員共著
      『リブラの野望/破壊者か変革者か』
             日経プレミアシリーズ
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 世界銀行によると、銀行口座を持っていない人々は、新興国を
中心に世界に17億人いるそうですが、このうち10億人は、携
帯電話を持っているといわれます。リブラは、こういう人たちが
インターネットを通じて金融インフラにアクセスできるようにす
るシステムです。具体的には、リブラはモノの購入の決済やネッ
トを通して低コストで送金するシステムであるといえます。いわ
ば「お金のインターネット」を作ろうというわけです。
 インターネットでは、メールをやり取りしたり、コミュニケー
ションを交わしたり、あるデータを添付ファイルにして送ったり
いろいろなことができます。しかし、データを送る場合を考える
と、XというデータがAからBに送付される場合、Aの手元にあ
るXのコピーを送っていることになります。
 電子書籍を販売することを考えてみます。本の完成原稿は版元
にあって、その本の購入申込者に対しては、そのコピーを送るだ
けですから、完成原稿はつねに版元に残ります。データを送ると
きはそれでいいですが、お金を送るときは、それでは困るわけで
す。しかも、セキュリティがしっかりしていないと、送る途中で
お金を盗まれることだってあります。
 ビットコインができたとき、世界初のウェブブラウザ「ネット
スケープ・ナビゲータ−」の開発者、マーク・アンドリーセン氏
は、その開発者に対して次の賛辞を贈っています。
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 ビットコインは、初めてひとりのインターネット・ユーザーが
別のインターネット・ユーザーに固有のデジタル・プロパティを
譲渡することを可能にしたという点だ。その譲渡は、安全かつセ
キュアーであることが、システム上保証されており、全てのユー
ザーが「所有権がAさんからBさんに移ったのだ」ということを
たちどころに認知でき、誰もこの委譲の正統性に疑問を挟むこと
は出来ない仕組みになっている。このブレイクスルーの持つ意味
は深遠だ。           ──マーク・アンドリーセン
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 AさんからBさんに1万円を送金するとします。この場合、A
さんの銀行口座の残高から1万円が減って、Bさんの銀行口座の
残高が1万円増えないといけないわけです。これをセキュア―の
環境で、誰の目にも明らかに1万円の移転が行なわれたことを実
現させるには、高度な技術が必要になります。アンドリーセン氏
はそのことをいっているのです。
 電子マネーといわれているものがあります。JRの「Suica」
セブン&ホールディングスの「nanaco」、イオンの「WAON」など
いろいろあります。これらの電子マネーは、基本的には、事前に
チャージしおく必要があり、使えば電子マネーの発行会社にその
分が回収される仕組みです。したがって、現金のように転々流通
させることはできません。このように、通貨として認められるた
めには、「転々流通する」ことが必要なのです。しかし、ビット
コインはそれを実現しているのです。驚くべきことです。
 リブラが正式に発表されたのは、2019年6月18日のこと
です。実は、その前の週に主要メディアのジャーナリストがある
場所に集められたのです。場所は、旧サンフランシスコ造幣局の
建物です。この建物は、サンフランシスコ市街地の中心部にあり
ますが、シリコンバレーのフェイスブック本社から50キロも離
れているのです。
 すでにリブラが何であるか知っているわれわれには、なぜ、わ
ざわざ造幣局のビルに記者を集めたかはわかりますが、集められ
た記者たちにとっては、一体何の話が行なわれるのか、さっぱり
見当がつかなかったのです。
 しかし、その場所には、マーク・ザッカーバーグCEOの姿は
なく、説明に当ったのは、リブラの開発プロジェクトのリーダー
であるデビッド・マーカス氏です。マーカス氏は、米決済大手の
ペイパルの社長をしていた2014年、ザッカーバーク氏に引き
抜かれ、電撃的にフェイスブックに転じた人物です。
 移籍後は、対話アプリ「メッセンジャー」の開発などを担当し
た後、2018年春から、リブラ立ち上げの特別チームを率いて
きたのです。「お金のインターネット」を作りたい──これは、
ペイパルの社長をしていたときからのマーカス氏のアイデアであ
り、それがフェイスブックに移籍して5年後に、まさに花開こう
としていたのです。そして、リブラは、6月18日に正式に発表
されたのです。       ──[デジタル社会論/019]

≪画像および関連情報≫
 ●デジタル通貨、「ドル防衛」へFRBも独自研究
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  【ダボス(スイス東部)=河浪武史】日欧中央銀行がデジタ
  ル通貨の発行を視野に共同研究に乗り出す。中国も「デジタ
  ル人民元」で基軸通貨ドルに揺さぶりをかける。フェイスブ
  ックの「リブラ」は、官民の枠を超えてデジタル通貨の覇権
  争いに火をつけた。サイバー攻撃を懸念して「現状維持が最
  善」としていた米連邦準備理事会(FRB)も外堀を埋めら
  れ、独自研究に乗り出す。
   「中央銀行デジタル通貨(CBDC)の知見を共有するた
  めグループを設立した」。日欧やカナダなど6中銀は、20
  20年1月21日、国際決済銀行(BIS)とともにデジタ
  ル通貨研究に乗り出すと表明した。
   欧州中央銀行(ECB)は既に「デジタルユーロ」の研究
  に着手しており、ラガルド新総裁は「取り組みを加速する」
  と表明してきた。英中銀や日銀を巻き込んで動き始めたのは
  フェイスブックのデジタル通貨「リブラ」計画を封じ込め、
  さらには世界の準備通貨としてのドル覇権も切り崩す2つの
  狙いがある。リブラは世界のあらゆる中銀に危機意識を持た
  せた。リブラがまず目指すのは、国境をまたいだ送金ビジネ
  スだ。中銀システムは刷新が遅れており、外国送金に時間が
  かかるだけでなく、手数料などの利用者のコストも平均7%
  と重い。リブラ責任者のデビッド・マーカス氏は「ネットを
  使えばコストも時間も削減できる」と説く。
               https://s.nikkei.com/3adCOsq
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サンフランシスコ旧造幣局.jpg
サンフランシスコ旧造幣局
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする