2021年01月20日

●「香港デモで使われるデジタル追跡」(第5411号)

 香港では、2019年6月から始まった「逃亡犯条例改正」へ
の反対に端を発し、空前の盛り上がりを見せた香港のデモの参加
者が今になって次々と逮捕されています。確かにデモの盛り上が
りはすさまじく、人口700万人の香港で200万人が参加する
という空前の規模のデモが起こり、香港政府はこの条例の撤回に
追い込まれています。
 しかし、香港の警察は、デモ自体は違法であるとして、デモの
参加者を次々と逮捕しているのです。確かにデモは警察の許可を
得ておらず、違法であることは事実です。それがなぜ、今になっ
て、香港の警察は、デモのリーダーを特定できたのでしょうか。
彼らは、逮捕を恐れて、顔をマスクやサングラスで隠し、身元が
特定されることを防いでいたはずです。
 なぜ、今かといえば、2019年10月19日開催の四中全会
において、中国が「香港特別行政区国家安全維持法」(国安法)
を成立させたからです。この法律は、香港から自由を奪う法律で
あり、1997年に香港が英国から中国に返還されるさい、50
年間、香港には高度な自治を認めるという約束を踏みにじるもの
だからです。この法律によって、香港行政府は、これまでできな
かったことができるようになったのです。
 複数の人権団体によると、香港国安法は、これまで与えられて
いた被告人の保護を損なっているようであるとして、次の指摘を
行なっています。
─────────────────────────────
 新法では、裁判が非公開で行われたり(第41条)、陪審員な
しで行われたり(第46条)する可能性があるという。また裁判
官は、中国に対して直接的な責任を負う香港特別行政区行政長官
が任命できる(第44条)。
 また、容疑者は保釈されないとある(第42条)。容疑者の拘
束期間についても制限がないようで、事件は「しかるべきタイミ
ングで」処理されるべきだとだけ記されている。
 捜査から判決、処罰に至るまでの全てを、中国大陸の当局が引
き継ぐこともできる(第56条)。  https://bbc.in/3inuV7n
─────────────────────────────
 中国の法律の最大の問題点は、基準が曖昧で、わかりにくいこ
とです。中国国内で多くの日本人がスパイ容疑で逮捕され、服役
させられていますが、何が理由で逮捕・起訴されたのか、はっき
りしないことです。すべては中国共産党の恣意的判断で、罪が決
まってしまうようです。
 そこで香港でやれるようになったのが「デジタル追跡」です。
それは、香港当局が通信会社にスマホの通信記録を提出させ、そ
の行動を追跡し、デモ参加者を特定する──その情報を警察に与
えて首謀者を逮捕させているのです。これに関して、NHKスペ
シャル取材班は次のように書いています。
─────────────────────────────
 警察がデジタル追跡によって捜査・逮捕を行っているというこ
とは、若者たちの間ではたびたび語られているものの、当局が公
式に認めているわけではない。しかし、香港のデジタル事情に精
通する、香港中文大学のロクマン・ツイ准教授はこう指摘する。
 「警察は、裁判所の命令なしに、通信会社からデータを提供さ
せていると見ています。企業が集めたデータを使って、市民を逮
捕できるようになっているのです。香港の人々はそのことに強い
懸念を抱いています」。    ──NHKスペシャル取材班編
    『やばいデジタル/現実(リアル)が飲み込まれる日』
                  講談社現代新書2594
─────────────────────────────
 警察の「デジタル追跡」を察知したデモの参加者たちは、「デ
ジタル断ち」をして、それを防ごうとしていますが、あまりうま
くいっていないようです。「デジタル断ち」とは、スマホのGP
Sをオフにし、スマホで通話しないようにし、トランシーバーを
使うなど、ネットワークに痕跡を残さないようにすることをいい
ますが、リーダー格は次々と逮捕されています。
 「シュタージ2・0」という言葉が流行していますが、ご存知
でしょうか。
 ところで、「シュタージ」とは、かつての東ドイツにあった秘
密警察・国家保安省の名前です。シュタージについては、ネット
上に次の解説があります。2014年の記事です。
─────────────────────────────
 ドイツ民主共和国(東ドイツ)政府が国を掌握するための手段
として利用し、独裁政治を支えたシュタージ(正式名は国家保安
省)。この悪名高きシュタージに囚われた国民の数は25万人を
超え、東西ドイツの再統一から25年目を迎えようとする今日で
も、当時のシュタージの恐怖に脅かされている人は少なくない。
 ベルリンに東西を分断する壁が築かれたのは、1961年8月
のこと。1950年から1960年にかけて東ドイツの経済状況
は悪化し、豊かな西側への亡命者が続出したことが壁建設の理由
であった。だが、壁の建設後に状況はさらに悪化。これにより逃
亡の意図を口にしたり、国外への旅行の申請を行ったりした者は
誰でも収監される可能性があった。そして、「逃亡の危険あり」
と判断された者、社会主義統一党を批判する者たちは政治犯とし
て囚われ、公式には存在しなかった政治犯収容所へと送られ恐喝
を受けた。諸処を解明する記録はほとんど残っておらず、収監理
由が未だに特定されない人もいる。  https://bit.ly/3iqPrUn
─────────────────────────────
 シュタージはこの監視体制について、国民1人ひとりについて
膨大なデータベースを構築し、国家にとって不利益な行動を起こ
す人物を特定し、逮捕していったのです。現代のこの監視体制は
IT技術によって、巨大IT企業はもっと精度が高い監視ができ
るようになっています。それを使っている国もあります。これが
「シュタージ2・0」です。皮肉なことに30年たって再びこの
体制ができてしまったのです。──[デジタル社会論/012]

≪画像および関連情報≫
 ●欧米では導入で苦心 接触追跡アプリ、「監視」との声も
  ───────────────────────────
   パリ郊外のテレビ局で音声技師として働くギヨーム・モベ
  ールさん(34)は、6月初旬に追跡アプリ「STOP COVID」
  をダウンロードした。スマートフォン上で個人情報の扱いな
  どに同意する手続きは数分で済んだ。
   過去数日の間に感染者と15分以上、1メートル以内の距
  離で接した場合、自動的に通知が来る。モベールさんは電車
  を避けて自家用車で通勤し、職場も消毒が徹底されている。
  アプリのアラームは、今のところ鳴らない。「これで感染が
  防げるなら便利」。両親にも利用を勧めたという。
   ドイツも16日に追跡アプリを導入。政府担当者は「世界
  最高のアプリだ」と胸を張り、「ダウンロードするのは個人
  には小さな一歩だが、パンデミックとの戦いの大きな一歩で
  ある」と利用を呼びかけた。ドイツが導入したアプリは、他
  人との接触情報を個人のスマホ内にとどめる「分散型」技術
  と呼ばれ、個人情報は守られる。日本と同様、米IT大手の
  アップルとグーグルの技術に頼る。ドイツでは国民の46%
  がアプリに否定的との研究機関調査もあったが、19日まで
  に960万ダウンロードされた。個人情報の扱いを厳しく規
  制する一般データ保護規則(GDPR)を定めるEUは4月
  にコロナ対策でもプライバシー保護を徹底するよう指針を作
  成。欧州では当初、独仏伊など8カ国でアプリ技術を作り、
  データを政府で管理する「集中型」の仕組みを作ろうとした
  のである。           https://bit.ly/3sBPhy9
  ───────────────────────────
香港におけるデモ活動.jpg
香港におけるデモ活動
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする