2020年12月18日

●「やはり黒川官房長は暗躍している」(第5394号)

 甘利事件について、『安倍・菅政権VS検察庁/暗闘のクロニ
クル』の著者の村山治氏は、「あっせん利得処罰法違反」に問う
には困難であるとし、当時の法務省の黒川弘務官房長の本件への
関与は薄いというスタンスです。立件が難しい理由として、次の
ように書いています。
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 あっせん利得処罰法違反に問うには、政治家や秘書が権限に基
づく影響力を行使して口利きをした見返りに、報酬を得ていたこ
とを立証する必要があった。議員立法で成立したこの法律は、審
議の過程で、与党議員らが要件を厳しくして適用のハードルを高
くした経緯があった。法務省刑事局は、その事情を熟知しており
構成要件の勘所を特捜部と協議した。特捜部は、甘利本人や元秘
書、URの担当者らから事情聴取し、関連書頬を押収したが、影
響力の行使に関する具体的な証拠を得られなかった。そのため捜
査は難航した。URが建設会社との交渉に応じたのは、道路工事
を請け負ったゼネコンの現場所長が、建設会社を立ち退かせない
と工事が進まない、とURに申し入れたためだったことも捜査で
判明した。             ──村山治著/文藝春秋
       『安倍・菅政権VS検察庁/暗闘のクロニクル』
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 この村山治氏のコメントのなかで注目すべきことは、「あっせ
ん利得処罰法」という法律が議員立法で成立しているという事実
です。そのため、法律を審議する過程で、議員としては、自らが
簡単にはこの法律に適用されないよう、ハードルを高くする傾向
があったのです。それはその通りであるといえます。
 この法律制定のきっかけになったのは、旧建設省発注工事など
をめぐる汚職事件です。この事件で中尾栄一元建設相が建設会社
側から賄賂を受け取ったとして、2000年6月の衆院選で落選
した直後に受託収賄容疑で東京地検特捜部に逮捕されています。
そして、2004年9月に懲役1年10月、追徴金6千万円の実
刑が確定したのです。中尾栄一元建設相は、受託収賄罪で起訴さ
れ、実刑が確定しています。あっせん利得処罰法は、この事件を
契機にして制定されていますが、その狙いは、職務権限のない議
員やその秘書が公共事業で不正を働くことを防止することにある
といわれています。
 甘利事件を簡単にいうと、千葉県の建設会社である薩摩興業が
移転補償金の値上げを都市再生機構(UR)に掛け合ってほしい
と甘利事務所に依頼したことからはじまります。甘利事務所は、
URと交渉し、その結果、薩摩興業への補償金額を1億8千万円
から2億円に、さらにそれを2億2千万円に引き上げています。
これは明らかに政治側からの「口利き」といえます。
 これに基づいて薩摩興業側は、甘利事務所に対し、現金を渡し
ているのですが、そのことを証明する領収書や甘利事務所の秘書
たちがUR側と補償金アップのための交渉をしている様子を録音
したテープなどが物証として存在し、カネを受け取ったことは、
動かぬ証拠として立証されたのです。甘利経済再生相(当時)は
これによって大臣を辞任しています。
 しかし、検察の動きは極めて鈍かったのです。検察は、確かに
現金授受や口利きの事実はあったものの、あっせん利得処罰法違
反の要件である「国会議員としての権限に基づく影響力の行使」
が認められないため、起訴を見送るというのです。村井治氏の本
の論調もこれと基本的には同じです。
 当時、新聞をはじめとするメディアは、「法律の限界」である
とか、「あっせん利得処罰法は立件が難しい」という解説記事を
一斉に書きはじめています。これは、明らかに検察によるリーク
で、この法律の立件の難しさ訴え、不起訴にしたときの不満を押
さえ込もうとするプロパガンダです。
 これに真っ向から反対の主張をするのは、LITERAです。
甘利事件について、検察の主張に次のように反論しています。
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 たしかに、このあっせん利得処罰法は、中尾栄一元建設相の収
賄事件を機に、職務権限のない議員やその秘書が公共事業で不正
を働くことを防止するために制定された法律なのだが、現実には
刑法のあっせん収賄罪よりも適用が難しいと言われ、これまで国
会議員がこの法律で摘発されたことはない。
 しかし、甘利のケースは、要件をすべて満たしており、法律の
専門家も「適用は可能」と口をそろえていた。元東京地検特捜部
検事の郷原信郎氏は「あっせん利得処罰法のど真ん中のストライ
クの事案」とまで言っていた。
 検察が要件を満たしてなかったとする「権限に基づく影響力の
行使」についても、「議会で追及する」といった強い脅しが必要
というのは検察の勝手な後付けの解釈であり、事件発覚当初は、
「甘利氏は有力閣僚であり、国土交通省を通じ、URの予算や人
事について影力を行使することが可能だから、要件は満たしてい
る」(郷原氏)という見方が一般的だった。
 そして何より特捜部じたいが国会議員秘書初のあっせん利得法
違反を立件すると意気込んで捜査を行い、2016年4月の段階
では、東京地検内部でも立件することでコンセンサスがとれてい
たのだ。しかも、仮にあっせん利得法違反での立件が難しいとい
う判断なら、刑法のあっせん収賄罪で摘発するという方法もあっ
たはずだ。             http://exci.to/2WlJIVE
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 問題はなぜそうなったかです。ここで考えられるのが、当時法
務省ナンバー2の黒川弘務官房長の暗躍です。法務省の最高幹部
は、法務大臣、検事総長、東京高検検事長の3人であり、政治家
の捜査に関しては、この3トップにお伺いを立てることになりま
す。しかし、その前に官房長に捜査の詳細を報告することになっ
ています。まして2O16年は参院選がある年であり、この手の
事件は選挙に重大な影響を与えます。やはり、ここは黒川氏の活
躍があったのです。──[『コロナ』後の世界の変貌/138]

≪画像および関連情報≫
 ●甘利大臣、「絵に描いたようなあっせん利得」をどう説明
  するのか/郷原信郎が切る
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   本日(2016年1月21日)発売の週刊文春が、甘利明
  TPP担当大臣や秘書がUR(独立行政法人都市再生機構)
  の道路用地買収に関して「口利き」を行い、業者から多額の
  金品を受領していたことを報じている。この記事には、その
  行為について、あっせん利得処罰法違反や政治資金規正法違
  反が成立する可能性がある旨の私のコメントも掲載されてい
  る。報じられている疑惑の中身は以下のようなものだ。
   甘利大臣の公設第一秘書が、URの道路用地買収をめぐる
  トラブルに関して、UR側に補償金を要求していた業者から
  依頼を受け、UR側との交渉に介入し、URに2億2000
  万円の補償金を支払わせ、2013年8月に、その謝礼とし
  て500万円を受け取った。
   それに加え、甘利大臣自身も、業者と直接会って、URと
  業者との産業廃棄物処理に関するトラブルについて説明を受
  けて補償交渉に関する対応を依頼され、同年11月に大臣室
  2014年2月には神奈川県内の事務所で、現金50万円ず
  つ計100万円を直接受け取った。その後、別の秘書(現・
  政策秘書)が環境省の課長と面談し、URの担当者と面談す
  るなどして、産廃処理をめぐるトラブルに介入。その秘書は
  業者から多額の接待を受け、URの監督官庁である国交省の
  局長への「口利き」の経費などと称して合計6百万円以上を
  受領するなどしていた。     https://bit.ly/38fJpRM
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郷原信郎弁護士.jpg
郷原信郎弁護士
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(1) | 『コロナ』後の世界の変貌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする