2020年11月26日

●「コロナ禍で自殺者が増加している」(第5378号)

 日本では、このところコロナの感染者が拡大しつつありますが
その一方で、自殺者も急増しています。警察庁によると、今年の
10月の自殺者は前年同月比で約4割増加しています。次のニッ
ポン・ドット・コムのレポートをご覧ください。
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 新型コロナウイルスの影響で何もかも異例づくめの年だった。
環境の変化に対するとまどい、将来への不安を感じている人も多
いのだろうか。7月以降、自殺者が増加している。警察庁のまと
めで、2020年10月の自殺者数は速報値で2153人となっ
た。前年同月比で39・9%(614人)の増加。自殺者数は、
2010年から19年まで10年連続で減少。20年に入ってか
らも、1〜6月までは前年同月比マイナスで推移していたが、7
月以降は4ヶ月連続で増加している。1〜10月の累計の自殺者
数は1万7219人で前年同期より160人多い。男女別でみる
と、男性は前年比21・3%増の1302人、女性が82・6%
増の851人で女性の増え方が目立っている。都道府県別では東
京の255人が最も多かった。    https://bit.ly/2IT6gu6
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 日本国内で新型コロナウイルスで亡くなった人は、2020年
11月22日現在、2001人です。しかし、自殺者数は10月
だけで2153人と、コロナの死者を上回っています。この事実
を知った海外メディアは、驚きとともにその事実を報道している
のです。とくに日本では女性の自殺者数が多いことに注目して、
海外メディアは、次のように伝えています。
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 主に育児を担ってきた女性は、パンデミックによる失業や不安
の矢面に立たされている。また、彼女たちはよりDV被害の危険
性に晒されており、相談所によれば世界各国と同じく日本でも状
況は悪化している。全体から見ると子どもの自殺はもっと少ない
が、こちらも上昇している。
            ──ハーバー・ビジネス・オンライン
                  https://bit.ly/35SMrLW
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 なぜ、日本では、女性の自殺が多いのでしょうか。一般論でい
うと、自殺は男性が70%を占め、女性が急増するのは珍しいの
です。10月の東京都医師会の定例記者会見では、平川博之副会
長が8月の国内自殺者数について、とくに若年層と女性が急増し
たと報告しています。
 このときの報告によると、「女性の経済的基盤の弱さ」が指摘
されています。「労働力調査」の20年7〜9月期平均と前年同
期を比較すると、非正規職員数は125万人減ですが、内訳は女
性が79万人と多いのです。その背景には、観光、宿泊、飲食業
などの「非正規女性職員」が多い業種の相次ぐ休業や減収が考え
られます。
 この会見においては、女性の自殺急増の要因として、コロナの
自粛生活での孤立に加えて、リモートワークや休校措置などで、
女性が家族のケアも抱え込んでいる点も指摘されます。確かに、
これらの「ステイホーム戦略」は、この国の「男女で非対称な家
族のケア負担」を先鋭化させたことは確かです。コロナ禍でない
ときでさえ、女性は平均的に男性の5倍の時間を家事、育児、介
護などに費やしている傾向がありますが、コロナの自粛生活で、
女性への負荷が一段と高まったことが指摘されます。
 例えば、子どもや夫の昼食の支度、休校中の学校から課された
子どもの自宅学習の手伝いなど、昼間の時間もすべてケアワーク
に費やすことを要請されることによって睡眠時間が減少し、心身
の不調を訴える女性が増加したとも指摘されています。
 テレビでは、それこそ四六時中、コロナの感染拡大のニュース
ばかりが報道されています。しかし、実際の日本でのコロナの死
者は、約2000人台に抑えられています。しかし、感染防止に
伴う経済活動への自粛や制限は、想像以上に深刻であり、多くの
自殺者を生んでいます。この点について、国際政治学者の三浦瑠
璃氏は、次のように述べています。
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 自殺者数はすぐ目の前には示されないので、感染による死者に
くらべて無視されやすい。しかも日本では、コロナが死因でない
人も感染していればコロナによる死者数に算入され、水増しされ
ています。さらに失業しない人のほうが多いため、自分も失業す
るかも、という恐怖感が足りず、共感されにくい。
 それでもいまのところ、社会全体にとっては経済のダメージに
よる死のほうが明らかに深刻な問題です。そして、メディアが感
染に対する恐怖を煽り続けるかぎり、冷え込んだ消費は戻らない
し、そうした報道が止んでも、行われた恐怖キャンペーンは人々
の頭に長く残ります。        https://bit.ly/2UQVuH1
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 今回のコロナ禍がとくに女性の雇用を直撃し、多くの失業者を
出したことについて、経済評論家の永濱利廣氏は、その理由につ
いて、次のように述べています。それは、リーマンショックのと
きと、真逆の状況を呈しているのです。
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 リーマンショックの際は、大企業の製造業や建設業などがダメ
ージを受けて男性の失業者が増え、“男性不況”といわれました
が、新型コロナショックでは、男性よりも女性の雇用が悪化しま
した。一つは、景気が悪化すると非正規社員から整理されますが
そこでは女性の割合が高かったから。もう一つは、感染対策で人
の移動や接触を伴うビジネス、つまり宿泊や飲食業、観光業など
が壊滅的なダメージを受けましたが、そういう業種は女性の雇用
が多かったから。中小企業のサービス産業がダメージを受けたた
め、女性の雇用を直撃したのです。  https://bit.ly/36XlqGw
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         ──[『コロナ』後の世界の変貌/122]

≪画像および関連情報≫
 ●コロナ禍と自殺 あらゆる手段で安全網を/熊本日日新聞
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   警察庁によると、9月の全国の自殺者数(月別速報値)は
  前年同月より143人多い1805人となり、7月から3カ
  月連続で前年を上回った。特筆したいのは、男性の増加が5
  人だったのに対し、女性は実に138人だった点だ。
   7、8月を見ても、女性の自殺の増加傾向が著しい。背景
  にはむろん、新型コロナウイルスの感染拡大で雇用や暮らし
  が受けた深刻なダメージがある。その痛みが社会のより弱い
  部分を突いていることも、容易に想像がつく。
   政府は9月、内閣府に「コロナ下の女性への影響と課題に
  関する研究会」を設置。来月から自殺や解雇・雇い止め、ド
  メスティックバイオレンス(DV)被害などの実態調査に乗
  り出すという。
   ただ、現状では困窮者に具体的に届く支援メニューの策定
  こそ急ぐべき局面ではないか。財政支出を含むあらゆる手段
  を講じて、社会の安全網の確立を求めたい。ことしの自殺者
  数は6月まで前年同月を下回ったが、7月に1818人(前
  年同月比25人増)、8月1854人(251人増)と増え
  始めた。男女別では女性が6月から増加に転じ、7、8月は
  両月とも651人で、直近の5年間で最多。9月も639人
  と看過できない水準に達している。研究会資料によると、政
  府が緊急事態を宣言した4月、全国の就業者数は大幅に減少
  したが、うち男性は37万人減、女性が70万人減だった。
  4〜7月の失業者数は、男性が6月から減少に転じたのに対
  し、女性は4月以降の増加傾向に歯止めがかかっていない。
                  https://bit.ly/398TfY6
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国債政治学者/三浦瑠璃氏
国債政治学者/三浦瑠璃氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(1) | 『コロナ』後の世界の変貌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする