2020年11月18日

●「政策ではなく現象を理解する理論」(第5373号)

 新型コロナウイルスの第3波の感染は間違いないようです。気
になったのは、陽性率の異常な高さです。16日現在、大都市の
陽性率は次のようになっています。
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       北海道 ・・・・・ 9・19%
       東 京 ・・・・・ 5・07%
       大 阪 ・・・・・ 8・09%
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 新型コロナウイルスの感染者はPCR検査を受けなければ判明
しないのです。したがって、陽性率が高くなるということは、市
中感染が想定以上に広がっていることを意味します。たとえば、
北海道の場合、すすきのなどの繁華街に限定して、一斉にPCR
検査をすべきである──このことは岡田晴恵白鴎大学教授が、最
初から一貫していってきていることですが、国は一向にやろうと
はしません。感染者が増えることを恐れているのでしょうか。
 さて、11月14日に公表した国際通貨基金(IMF)の報告
書は次のように伝えています。
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 2020年の世界全体の政府債務が世界の国内総生産(GDP
約90兆ドル)にほぼ匹敵する規模になると予測した。GDP比
で過去最大の98・7%となる。主要国は新型コロナウイルス対
策として計12兆ドルの財政出動に踏み切ったが、膨らんだ債務
をどう正常な水準に戻していくかが、コロナ後に問われることに
なる。   ──日本経済新聞 https://s.nikkei.com/32ICMpp
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 こういうときこそ、MMTを「ブードゥー経済学」などといわ
ず、まともに検証し、その概念というか、考え方に基づいて財源
を確保し、政策を行うべきです。とくに米民主党には、MMTを
信奉する議員が多いので、その可能性は高いといえます。
 しかし、米国の中央銀行に当るFRB関係者は、一貫してMM
Tには反対の姿勢です。
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★ジェローム・パウエル現FRB議長
 自国通貨で借りられる国にとっては、赤字は問題にならないと
いう考え方は全く間違っている。
★ジャネット・イエレン前FRB議長
 MMTを支持しない。この提唱者は、何がインフレを引き起こ
すのか混乱している。MMTはハイパーインフルを招くものであ
り、非常に誤った理論である。
★アラン・グリーン・スパン元FRB議長
 (MMTが実施されれば)外国為替市場を閉鎖しなければなら
ない。どうやって為替交換をすればいいのか。
           ──森永康平著『MMTが日本を救う』
                        宝島社新書
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 このこと関連して、バイデン政権では、ジャネット・イエレン
前FRB議長が財務長官になるという噂もあり、そうなったら、
MMTなどまったく問題にされないでしょう。
 しかし、日本の場合は、デフレが20年以上続いており、イン
フレになる恐れはまったくないのです。したがって、「日本こそ
MMTに基づいて財政出動すべし」という意見があります。これ
について、4月4日に開催された第198回国会参議院決算委員
会において、麻生財務相は次のように発言しています。
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 私どもは少なくとも、世界200ヶ国近くの国相手に、グロー
バルな市場で、金融とかマーケットが見えておりますので、市場
からの受け入れてもらえるようなものでやらないと、極端な議論
に陥るということになりますと、これは財政規律を緩めるという
ことでこれは極めて危険なことになり得ると、そういった実験に
もっとも適しているからといって、この日本という国をその実験
場にするという考え方は、私どもは持っているわけではありませ
ん。                    ──麻生財務相
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 この麻生発言に対して、MMTの名付親といわれるオーストラ
リアのニューカッスル大学ビル・ミッチェル教授は、「まったく
無意味であり、ナンセンスである」と批判しています。
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 日本をMMTの実験場にする気はない」という日本の財務大臣
の発言はナンセンスです。なぜなら、MMTは政策ではなく、概
念であるからです。国が借金するさいの制約は、赤字額ではなく
インフレにあるため、長い間物価が低迷している日本では、もっ
と財政出動すべきです。      ──ビル・ミッチェル教授
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 長く日本の財務大臣をやりながら、この人はMMTをまるで理
解していません。ビットコインについてもそうでしたし、財務大
臣なのですから、まだ続けるのであれば、もっと勉強をしていた
だきたいものです。MMTは「現象を理解する理論」であって、
政策ではないのです。
 藤井聡京都大学大学院教授は、この件について次のようにいっ
ています。
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 MMTの理論としての正しさは、日本において、もっとも「綺
麗」な形で証明されています。にも関わらず「実験場にしない」
なんて、ワケのワカラン事を言ってる。こりゃもう、『喜劇』、
コメディと言うほかないです。        ──藤井聡教授
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 日本では、インテリとおぼしき人まで、「日本は借金が多いの
で、これ以上の財政出動は難しい」という人が多いですが、これ
は財務省のプロパガンダに完全に洗脳された人のことです。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/117]

≪画像および関連情報≫
 ●「MMTの正しさを日本が証明」提唱者のケルトン教授が語
  る日本経済の処方箋
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   財政赤字を積極評価する「現代貨幣理論(MMT)」の提
  唱者の一人、ステファニー・ケルトン教授(ニューヨーク州
  立大)が来日、講演や経済学者らと討論会などを精力的にこ
  なした。「日本はMMTが数十年、主張してきたことが正し
  いことを証明した」というケルトン教授に単独インタビュー
  し、MMTから見た日本経済やこれからの成長の処方を聞い
  た。(聞き手/ダイヤモンド編集部 竹田幸平、西井泰之)
  ――どういう面で日本はMMTの主張の正しさを証明したの
  でしょうか。
   一つ重要なのは、例えばエコノミストの間では、政府の債
  務残高対GDP(国内総生産)比率について長年、90%と
  いう水準が、公的債務の持続不可能になるティッピングポイ
  ント(事態が急変しかねない閾値)といわれていました。
   いつしかそれが100%だ200%だと変わり、この数字
  が悪化すれば金利上昇や国債市場のショックが起こるといわ
  れてきました。しかし、200%近くになっても日本では実
  際には何も起こっていません。一部の人々は中央銀行が国債
  を買い続けるとインフレやハイパーインフレが起こりかねな
  いと反論します。ですが、日本銀行が現在、バランスシート
  の40%を占める日本国債を保有していても、インフレは起
  きていないのです。       https://bit.ly/32OP93g
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ジャネット・イエレン前FRB議長
ジャネット・イエレン前FRB議長
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 『コロナ』後の世界の変貌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする