2020年11月12日

●「家計と企業の現預金はGDPの倍」(第5369号)

 コロナ禍がなかなか収まらず、「日本は大不況になる」といわ
れています。もともと日本は昨年末からずっと不況です。原因は
2019年10月の「8%〜10%」の消費増税で、個人消費が
落ち込み、不況になっていますが、それにコロナ禍が加わって、
ダブルパンチの状態になっているのです。
 これに対して財務省は喜んでいると思います。なぜかというと
個人消費が減って大不況になった原因をすべてコロナのせいにで
きるからです。消費税の税率を上げれば個人消費が減少するのは
当たり前ですが、コロナのせいにすれば、消費増税の非難を避け
られると考えているのです。これは、経済に疎い国民を騙してい
ることになります。
 財務省は、これまで長年かけて、日本の財政の状態を次のよう
に説明してきており、日本国民の多くは、それを信じています。
いわゆる「財政破綻論」です。
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 日本は国債を大量に発行してきたため、世界一の借金大国に
 なっている。財政を黒字化しないと、財政は破綻する。
                     ──財政破綻論
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 これを財務官僚がいうことはほとんどなく、他の者にいわせま
す。政治家、経済学者、テレビのコメンテーター、コンサルタン
ト、大企業経営者がテレビなどで語るのです。しかも、このよう
に第3者の口から語られると、「そうなんだな」と納得してしま
う国民が多いです。
 これらの人のほとんどは、財務省が何らかのかたちで支援する
財務省の別動部隊です。そのため、財務省は莫大な予算を持って
おり、そのお金で財務省は、メディアを中心に財務省支配を強め
ているのです。
 ところで日本は本当に借金大国なのでしょうか。
 確かに日本は、GDPの2倍を超える、約1000兆円の国債
発行残高を抱えており、主要先進国のなかで最も高い水準にある
ことは確かです。だから、借金大国といわれるのですが、それは
本当に日本にとって大変なリスクなのでしょうか。考えてみるこ
とにします。
 日本の国債発行残高については、日本のことを海外に知っても
らう「ニッポン・ドット・コム」のウェブサイトには、次のよう
に表示されています。
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 国債発行残高897兆円、国民1人あたり713万円の借金!
     19年度予算、当初ベースで初めて100兆円を突破
                  https://bit.ly/35jDKdh
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 さらに、財務省のウェブサイトには、なぜか、再生できない動
画とともに、次のように書いてあります。
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 公債残高は、累増の一途をたどり、令和2年度末の普通国債残
高は932兆円に上ると見込まれている。また債務残高の対GD
P比をみると、90年代後半に財政健全化を進めた先進国と比較
して、日本は急速に悪化しており、最悪の水準になっています。
                  https://bit.ly/2JRaJNL
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 まさに日本を最悪の借金大国と思わせる書き方です。その借金
の額をごていねいに国民の数で割って、「国民1人あたり713
万円の借金!」と紹介しています。これは、大ウソです。
 EJでは、何度もこのことを書いています。これは「国民」の
借金ではなく、「政府」の借金です。財務省は、さすがにそれを
巧妙に誤魔化していますが、「国の借金」と「政府の借金」では
その意味するところが違います。しかし、この点については、繰
り返しになるので、省略します。
 添付ファイルをご覧ください。このグラフは、田村秀男氏の著
書に出ていたものです。このグラフは、次の3つのものの推移を
あらわしています。
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   @家計、企業(金融機関をのぞく)の現預金保有高
   A  一般政府の純債務(総債務残高−金融資産)
   B対外金融純債権(対外金融債権−対外金融負債)
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 このグラフで重要なのは、家計や企業の金融資産のうち、「現
預金」に限定していることです。この「現預金」の額が、政府が
金融市場において、国債の追加発行を支えているからです。
 まず、いえることは、現預金合計額が、一貫して政府債務を上
回っていることです。2019年度の現預金は、グラフから読み
取ると、次のようになります。
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 ◎2019年度の現預金
  家計1000兆円+企業280兆円=1280兆円
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 この1280兆円は、2019年のGDP約550兆円の2倍
以上になります。これほどお金に恵まれた国はありません。米国
でも民間の現預金はGDPの70%程度しかありません。日本は
GDPの倍以上です。増税などする必要は一切なく、減税をすべ
きです。それをコロナに乗じて増税を検討しているのです。
 折れ線グラフは、対外金融純債権です。これは、国内で使われ
なかったお金が海外で使われていることを示しています。米国は
GDPの92%に相当する20兆ドルもの対外債務をかかえてい
ますが、その多くを支えているのは日本のお金なのです。
 日本の対外純債権は、実に29年連続で世界一です。それでも
日本のどこが借金大国なのですか。財務省はこの問いに、きちん
と答えるべきであります。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/113]

≪画像および関連情報≫
 ●日本にとって「世界最大の対外純資産国」であることが、む
  しろ憂鬱な理由/唐鎌大輔氏
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   新型コロナウイルスの感染拡大に振り回される相場状況が
  続いているが、為替市場、とりわけドル/円相場の膠着感は
  相変わらずである。金利という観点からは、すでに日米金利
  差の限界的な縮小余地はほとんどない。伝統的にそうだった
  ように、米金利を理由としてドル/円相場の現状や展望を語
  るのは、もう難しい時代に入っているということなのかもし
  れない(米FRBがマイナス金利を採用するような事態にな
  れば、また話は変わってくるのだろうが)。
   こうした「金利差なき世界」(それは中長期的には「物価
  差なき世界」でもある)においては、消去法的に需給に焦点
  を当てた分析が相対的に重要になるという基本認識を持つこ
  とが重要なのだと思われる。
   この点において、5月26日に財務省から公表されている
  『本邦対外資産負債残高の状況(2019年末時点)』は重
  要な資料である。これによれば、日本の企業や政府、個人が
  海外に持つ資産から負債を引いた対外純資産残高は、前年比
  +23兆円となる364兆5250億円と2年連続で増加し
  ており、日本は29年連続で世界最大の対外債権国の座を維
  持している(以下、特に断らない限り前年比で議論する)。
  なお、対外純資産の水準としては5年ぶりに過去最高を更新
  している。           https://bit.ly/2UgSPpO
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家計・企業の現預金、政府純債務及び対外金融純債務の推移(兆円)
家計・企業の現預金、政府純債務及び対外金融純債務の推移(兆円)
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 『コロナ』後の世界の変貌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする