とってはじめての予算委員会です。野党から、日本学術会議会員
の任命拒否事件について、質疑が行なわれています。質疑のやり
とりは、次のことの繰り返しであり、長時間にわたって、進展の
ない不毛の議論に終始したのです。
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野党:なぜ、6人を任命拒否したのか。日本学術会議法違反では
ないか。
政府:違反ではない。日本学術会議には年間多大の税金が注ぎ込
まれており、会員は特別公務員になるので、政府としては、会
議側から推薦された人全部を任命する必要はない。その点は、
内閣法制局の許可を得ている。
野党:それなら6人の任命拒否の理由を教えてほしい。政府の政
策に反対したことが拒否の理由か。
政府:人事のことに関しては、答えを差し控えたい。
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この任命拒否事件は、慣れない首相の失策とする向きもありま
すが、そんなことはありません。菅首相は、日本学術会議改革を
本気でやるつもりで、6人の任命を拒否したのです。
日本学術会議の会員の改選は3年ごとに行われます。安倍政権
における最初の改選期は2014年ですが、このとき政府は、何
の介入も行なっていないのです。おそらく安倍首相にとって学術
会議など何の関心もなかったはずです。
しかし、2015年に安倍政権は安保法制を強行しようとしま
す。これに関しては、各方面から反対運動が起こりましたが、そ
れを主導したのは、廣渡清吾なる人物です。日本の法学者であり
東京大学名誉教授です。2015年7月31日、当時一世を風靡
していた若者中心の「シールズ」と「安全保障関連法案に反対す
る学者の会」(以下、「学者の会」)が合同でデモを行ったとき
彼は、約4000人の参加者の先頭に立って歩いています。問題
なのは、廣渡清吾氏が元日本学術会議会長を歴任していることで
す。この廣渡清吾氏について、雑誌『選択』は、次のように紹介
しています。
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廣渡は知る人ぞ知る共産党シンパで、11年に人文系研究者と
して初めての学術会議会長に就いた。前任者が定年を迎えたため
に3ヶ月ほどの残り任期を務めただけだが、廣渡はその後、反安
倍運動や共産党候補の応援などに積極的に関与。その際には「元
学術会議会長」の肩書が注目された。廣渡は、デモの後で開かれ
た集会でこう発言している。
「(安倍首相は)『戦争に巻き込まれることはない』と断言に
つぐ断言を重ねていますが、もし彼が言っていることが彼の本心
であれば、法案を理解していない『バカ』だということになりま
す」 ──『選択』/2020年11月号より
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このとき、安倍前首相は、日本学術会議に対して疑問を抱いた
のでしょう。そして、安倍首相は、菅官房長官(当時)に命じて
対応を指示しています。
日本学術会議は、会員210名(半数改選)で構成されていま
す。2016年には、日本学術会議側が欠員補充のために、3名
の候補者の任命を求めてきたのです。ところが、その3名のうち
の1人が「学者の会」のメンバーだったので、官邸は難色を示し
その補充は見送られています。
そして、2017年の定期改選の時期を迎えます。このときは
官邸から候補者を事前調整したいとの要請があり、当時の会長で
ある大西隆(東大名誉教授)は、これを受け入れたので、トラブ
ルはなかったのです。そのとき、官邸側で対応に当ったのが、杉
田和博官房副長官と国家安全保障局の北村滋局長といわれます。
この2人は、ともに警察官僚出身です。
しかし、2017年には、昨日のEJで指摘したように、学術
会議が、相変わらず、「軍事的安全保障に関する研究の否定の声
明」を行ったのです。これによって、安全保障技術研究推進制度
によるプロジェクトのいくつかが廃止に追い込まれたこともあっ
て、官邸としては、ますます学術会議に対して強い不信感を抱く
ようになるのです。
そして、2020年の定期改選期を迎えます。政権は安倍政権
から菅政権に移行していますが、コロナ禍ということもあって、
官邸側も、直前まで学術会議会長であった山極壽一(京都大学教
授)も、何の事前調整を行なわなかったので、官邸側は6人を候
補者から外したのです。
それでは、任命を拒否された6人の学者とは、どういう人たち
なのでしょうか。6人のうち3人に関して、『選択』は次のよう
に書いています。
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任命拒否された6人のうち加藤陽子(東大教授)は、学生時代
共産党系の民主青年同盟(民青)で熱心に活動していたことは同
級生なら誰でも知っている。また、小沢隆一(東京慈恵会医科大
学教授)と岡田正則(早稲田大学大学院法務研究科教授)は、共
産党系の民主主義科学者協会法律部会の現役幹部だ。(社会部記
者)という。政権が画に描いたような「レッドパージ」を実施し
たのは明白だ。 ──『選択』/2020年11月号より
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「総理、任命を拒否された6人のお名前をご存知でしたか」と
立憲民主党の江田憲司代表代行から質問された菅首相は、次のよ
うに答えています。「加藤陽子先生以外の方は、承知していませ
んでした」。2017年のときのように、事前調整していれば、
こんなことにはならなかったと思います。政府のやり方も乱暴で
問題ですが、任命する以上、総理に任命権を与える方が、自然で
あると私は思います。
──[『コロナ』後の世界の変貌/109]
≪画像および関連情報≫
●「加藤陽子先生以外を知らない」のに悩んだ首相
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日本学術会議が推薦した会員候補6人は、なぜ除外された
のか。一問一答の論戦により、この問題の実態が少しでも明
らかになることを期待したが、菅首相は「人事」を理由にか
たくなに説明を拒み続けた。質問と答弁がかみ合わなくても
お構いなし、という姿に映った。
この日、明らかになったのは除外された6人のうち、東京
大の加藤陽子教授以外は、問題が起きる前に菅氏は「承知し
ていなかった」ということだ。除外理由については「政府の
法案に反対したから、ということはあり得ない」と批判を打
ち消そうとした。
だが、何度質問を受けても「旧帝大など出身大学に偏りが
ある」「閉鎖的で既得権のようになっている」などと抽象的
な言いぶりに終始した。除外された6人の中には、学術会議
の会員がいない私大の研究者も含まれ、首相の発言は説明に
なっていない。「なぜこうした人を外したのか」と問われて
も秘書官から差し出されたメモを下を向いて読み上げる場面
が目立ち、「人事に関すること」を盾に回答を避け続けた。
正面から質問に答えない姿は、官房長官時代の東京高検検事
長人事や、「桜を見る会」の対応を思い起こさせた。首相に
近い官僚からは、「せっかく高支持率でスタートできたのに
こんなことでダメージを受けるとは残念だ」との声も漏れる
ようになった。6人除外への国民の疑問について、菅氏は答
える気などないのではないか。自身が口癖としている「国民
から見て当たり前」とは、ほど遠い姿勢に思える。
https://bit.ly/3em7OYK
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安保法制反対の先頭に立つ廣渡清吾氏