に言及する前に、日本学術会議が設立された経緯について知る必
要があります。そうすることで、今回の菅政権による日本学術会
議会員の任命拒否事件の真相が見えてくると思うからです。今回
の任命拒否事件は菅政権の判断で行われたものではなく、安倍政
権時代からの懸案事項であったと思われます。
日本学術会議が創立されたのは1949年のことです。当時の
日本はGHQの占領下にあったのです。当時GHQは、約20万
人の公職追放を行っています。追放されたのは、政治家や軍人だ
けでなく、学界を含む様々な業界のトップが追放されたのです。
このときGHQは、日本を二度と米国に抵抗できない国にするべ
く、要人を追放したのです。
このようにして、右派が多く追放されたので、残っている人は
左派が多くなります。したがって、その時点で設立された日本学
術会議のメンバーは左派が多かったことになります。
創立の翌年、1950年に「戦争を目的とする科学の研究には
絶対に従わない」という決意の声明を発しています。この声明は
1967年に繰り返され、それからなぜか50年後の2017年
に、この声明は3度宣言されているのです。
問題は、この2017年の3度目の声明です。この声明に対し
て、当時の安倍政権がかなりカチンときたことは確かです。とい
うのは、2015年に創設された「安全保障技術研究推進制度」
と関係があります。この制度は次のようなものです。
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将来的に武器など防衛装備品に使える基礎研究の育成を目的に
15年度に防衛装備庁所管の制度として創設された。対象は大学
や民間の研究機関、企業。防衛省が提示したテーマに沿って採択
された研究に最長3年間で計9千万円が支給される。予算は初年
度が3億円で、今年度は6億円。防衛省は来年度予算の概算要求
に110億円を計上した。 ──2016年12月11日付
朝日新聞朝刊
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1950年と2020年とでは、世の中は完全に変わっており
軍事用と民生用の差が明確でなくなってきています。そこで、安
全保障技術研究推進制度で研究すべき技術とは、防衛用にも民生
用にも使える軍民両用技術「デュアルユース」を狙っているので
す。その研究資金も潤沢に得られる可能性があります。
防衛省は、2017年にこの安全保障技術研究推進制度をオー
ルジャパンでやろうと大学に協力を求めたのですが、日本学術会
議はこれを拒否し、それによって、東大、東工大、関西大が辞退
してしまっています。
おそらくこれによって、政府(安倍政権)は、内閣法制局の意
見も踏まえて、2018年の内部文書をまとめたものと考えられ
ます。菅首相は、これを任命拒否の根拠としています。この20
18年の内部文書の内容と根拠法は次の通りです。
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◎憲法第15条
公務員を選定し、及びこれを罷免するときは、国民固有の権
利である。
◎憲法第65条
行政権は内閣に属する。
◎憲法第72条
首相は行政各部を指揮監督する。
これら憲法の3つの条文を根拠として、政府は日本学術会
議の推薦通りに、任命すべき義務があるとまではいえない。
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しかし、この2018年の内部文書と矛盾するのは、中曽根政
権当時の1983年11月24日の参議院文教委員会における丹
羽兵助総理府総務長官の次の答弁です。
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日本学術会議は、形だけの推薦制であって、学会のほうから推
薦をしていただいた者は拒否はしない。そのとおりの形だけの任
命をしていく。 ──丹羽兵助総理府総務長官
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これに関して、10月8日の参議院内閣委員会で日本共産党の
田村智子議員は政府を追及しています。その該当部分のやりとり
を以下に示します。
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田村議員:「形式的任命だから推薦されたものは拒否しない」。
これが政府の答弁です。今回の任命拒否は、83年当時の答弁
を覆す行為ではありませんか?
大塚官房長:今ご紹介いただきました昭和58年当時の答弁も、
平成30年の文書も、いずれも憲法15条を前提としているこ
と。これは(法律の)改正当時からも前提になっていたことで
ございます。「形式的な発令行為」という発言がなされてるこ
とは十分承知ですが、必ず推薦の通りに任命しなくてはならな
いとは、言及はされてないところであります。
田村議員:違います。83年の会議録は「推薦に基づき総理大臣
が任命する。それは形式的任命、形式的発令行為であり、推薦
された全員を任命する。拒否はしない」。一貫した政府答弁で
す。国会会議録は、国会と国民に示された条文解釈そのもので
す。法制局に聞きます。逆に「推薦された者を任命拒否するこ
とはあり得る」という日本学術会議法の法解釈を示す文書はあ
るんですか?
木村第1部長:はい、お答え致します。今、委員がご指摘されま
したような「義務的な任命であるのかどうか」という点につい
て、明瞭に記載したものというのは、私が知る限り見当たりま
せん。 ──2020年10月8日/参院内閣委員会
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──[『コロナ』後の世界の変貌/107]
≪画像および関連情報≫
●日本学術会議の任命拒否「あり得る」と法解釈する文書は
「見当たりません」。内閣法制局が国会答弁
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10月16日に行われた菅義偉首相と日本学術会議の梶田
隆章会長の会談。梶田氏は新会員任命拒否問題で、理由の説
明と除外された6人の任命を求める要望書を手渡したが、初
顔合わせということもあって、踏み込んだやりとりはなかっ
た。だが、譲歩するつもりはない政府と、学術会議の溝は深
い。「学問の自由」の侵害との指摘もある問題を巡る混乱は
収束の兆しが見えず、与党内には長期化への懸念も広がり始
めた。(生島章弘、梅野光春、望月衣塑子)
「要望書は手渡したが、踏み込んだお願いはしなかった」
梶田氏は首相との会談後、官邸で記者団に語った。梶田氏に
よると、会長就任のあいさつという位置付けで任命拒否の理
由の説明を求めず、首相も言及しなかった。梶田氏は今後の
対応について、記者団に「しっかり検討するが、具体的な日
程は未定」と話すにとどめた。
梶田氏の姿勢からは、政府との決定的な対立は避けたい思
いが見え隠れする。15日夜、会員らに届いた梶田会長名の
メールは任命拒否問題に「責任を持って対応する」と言及。
同時に「会議の役割や活動について社会に伝えていくことが
必要だ」とつづられていた。政権を刺激して学術会議への批
判を強める事態を招くより、組織への理解を深めてもらう方
が建設的との考え方がにじむ。 https://bit.ly/3mDoq0Y"日本学術会議
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