2020年10月27日

●「リーマンショックが中国を膨張化」(EJ第5358号)

「香港政策法」という法律があります。英国による中国への香
港返還に合わせて1992年に成立した米国の法律です。この法
律では、中国が香港の高度な自治(1国2制度)を維持すること
を条件として、香港に対する貿易や金融の特別措置を対中国政策
とは切り離して適用することになります。
 この金融の特別措置のなかに、「香港ドルと米ドルの自由な交
換」が規定されています。これが認められているため、香港は国
際金融センターとしての役割が果たせているのです。
 しかし、トランプ政権下の2019年11月に米議会で、「香
港人権・民主主義法」が成立しています。この法律によると、香
港における1国2制度の実施状況を国務長官が毎年調査し、議会
に年次報告書を作成し、報告することが義務づけられています。
 この法律の条項のなかに、「1992年香港政策法修正条項」
というのがあります。これによって、米国は香港の1国2制度の
達成状況によっては、「米国はいつでも香港ドルと米ドルの自由
な交換を停止することができる」ようになったのです。
 この条項は、とんでもない起爆装置になります。メガトン級破
壊兵器の起爆装置といってもいいでしょう。なぜなら、香港ドル
が米ドルとのリンクを失えば、香港は国際金融センターではなく
なってしまうからです。もちろんこれは実施に移せば、米国はも
ちろんのこと、香港に拠点を置く日本や欧州などの企業や銀行に
とって大打撃となり、簡単には実施に移せませんが、中国の出方
によっては、米政権が起爆装置のスイッチを押す可能性は十分あ
ります。もし、選挙に勝利してトランプ政権が続けば、このボタ
ンが押される可能性は十分あります。
 ところで、「中国はなぜここまで経済を拡張できたか」という
ことを考えてみる必要があります。ネットで調べると、それに応
えるレポートがたくさん出てきます。しかし、いずれもピリッと
しません。これについて、田村秀男氏は、次のように明解に説明
しています。
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 アメリカには、リーマン・ショック後の金融政策で結果的に中
国を太らせてしまったという“苦い教訓”があります。2008
年9月のリーマン・ショックの後、アメリカのFRBは、米国史
上前例のない勢いでドルを大量に刷り、3兆ドル近いおカネをど
んどんマーケットに流していきました。そのうちのどのくらいの
おカネが当時中国に流れ込んだのかというと、まさに3兆ドルで
す。結局のところアメリカがリーマン・ショック後に大量に刷っ
たドルをほぼそのまま中国が外貨として手に入れていたことにな
ります。どうやって手に入れたかといえば、これまで見てきた通
り、対米貿易黒字によってです。
              ──田村秀男著/ワニブックス刊
 『景気回復こそが国の守り脱中国、消費税減税で/日本再興』
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 田村秀男氏のいう上記の話は実は本当です。リーマンショック
の2008年から2018年の10年間の米国の対中貿易赤字の
合計は次のようにぴったり同じなのです。
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   ◎2008年から2018年の10年間
   米国の対中貿易赤字合計 ・・・ 2・85兆ドル
   10年間の自民元発行量 ・・・ 2・85兆ドル
        ──田村秀男著/ワニブックス刊の前掲書より
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 上記の2・85兆ドルに加えて、この10年間には海外からの
対中直接投資累計が2・2兆ドルあったのです。その結果、中国
からの対外直接投資は1・3兆ドルになり、中国の外貨準備額は
1・24兆ドル増額しています。リーマンショックのように、世
界中の経済が落ち込むときこそ、中国にとっては、まさに躍進の
絶好のチャンスなのです。
 そうであるとすると、今回のコロナ禍も中国にとって、絶好の
チャンスということになります。今回もまさにFRBのパウエル
議長は、7月29日に次のように宣言しています。
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 【ワシントン=河浪武史】米連邦準備理事会(FRB)は7月
29日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、ゼロ金利政策と
量的緩和政策をともに維持すると決めた。記者会見したパウエル
議長は「新型コロナウイルスの再拡大で、個人消費や雇用回復が
減速している」と強い懸念を表明。次回以降の会合で追加策を検
討する考えも示唆した。
 29日の会合では、短期金利の指標であるフェデラルファンド
(FF)金利の誘導目標を0〜0・25%のまま据え置いた。3
月に発動した量的緩和政策も、米国債を月800億ドル、住宅ロ
ーン担保証券(MBS)は同400億ドルを買い入れる現状の購
入ペースを維持すると決めた。 https://s.nikkei.com/3jvycjE ─────────────────────────────
 米中貿易戦争によって、中国の金融は息も絶え絶えという状況
だったのです。しかし、FRB議長は、今回のコロナ禍で、ニー
ヨーク株価の急落を見て、ゼロ金利で、無制限にドル資金を発行
する量的緩和政策に打って出たのです。中国にとっては、絶好の
チャンス到来ということになります。
 これは中国にとってチャンスです。そのためには、コロナを一
挙に終らせる必要があります。お金に色はありませんから、投資
家は成長すると思われるところに投資してきます。そのためには
絶対にコロナを早く終わらせる必要があるのです。
 そもそもコロナの発生地は中国です。したがって、コロナの情
報は中国が一番握っています。それに中国は社会主義国ですから
たとえ実態はそうでなくてもコロナを完全に終らせるように見せ
ることはできます。そして、中国は実際にそうしています。しか
し、今回はリーマンショックのときのようにうまくいっていない
のです。     ──[『コロナ』後の世界の変貌/102]

≪画像および関連情報≫
 ●コロナだけでない中国「成長率目標なし」の内幕
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   「通年の経済成長の具体的な目標は出さない。世界での新
  型コロナウイルスの流行と経済・貿易情勢の不確定性が大き
  いからだ」
   5月22日、中国の国会にあたる全国人民代表大会(全人
  代)が北京の人民大会堂で開幕した。もともと3月5日に予
  定されていたが、新型コロナ対策のため2カ月以上ずれ込ん
  だ。会議冒頭に「政府活動報告」を行った李克強首相が、全
  世界が注目するポイントに言及したのは演説の開始から20
  分ほどたったころだった。
   李首相は「状況を総合的に分析して、新型コロナ流行の前
  に考えた目標を調整した。今年は雇用の安定を優先し、貧困
  からの脱却など『小康社会』の全面的な建設を実現するよう
  努力する」とも述べた。「小康社会」とは2020年までに
  建設すると中国共産党が公約する「ややゆとりある社会」の
  ことだ。
   昨年は「前年同期比6・0〜6・5%増」という目標に対
  して、同6・1%の着地だった。昨年暮れには、2020年
  の経済運営をめぐって財政出動を拡大してでも6%成長は保
  つべきだという「保六」派エコノミストと、構造改革優先派
  が激しく論争した。その結果、今年の目標は6%をやや下回
  る水準になるのではないかと見る向きが多かった。
                  https://bit.ly/37IwucO
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香港デモ/香港ドル消滅の危機.jpg
香港デモ/香港ドル消滅の危機
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 『コロナ』後の世界の変貌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする