2020年10月26日

●「なぜ中国は一国二制度を奪ったか」(EJ第5357号)

 「香港問題は政治の問題ではなく、経済の問題である」の話を
続けます。米国は、中国の覇権への暴走を止めようとして、中国
の経済の拡張にブレーキを掛けようとしています。トランプ政権
による米中貿易戦争はそのひとつです。
 添付ファイルをご覧ください。これは、「中国の外貨準備と対
外負債の前年度増減をあらわす棒グラフで、産経新聞特別記者の
田村秀男氏の本に出ていたものです。
 「中国はドル本位制」であると田村氏はいっています。豊富な
外貨準備があれば、安心して人民元が刷れます。しかし、このグ
ラフによって中国の外貨準備を見ると、2015年から2017
年までは、外貨準備は激減しています。実は2015年から中国
における資本逃避の勢いは激しくなっているのです。
 ちなみに習近平氏は、2012年11月に総書記、2013年
3月に国家主席に就任しています。そして早速はじめたのが反腐
敗の号令──「大トラもハエも一緒に叩け!」です。党内の腐敗
が中国という国を滅ぼすとの強い危機感を訴え、汚職・腐敗の撲
滅が共産党政権の安定と継続を保証することを訴えたのです。
 実は、このことと、資本逃避は無関係ではないのです。中国が
経済大国になって豊かになるにつれ、中国本土で巨万の富を築い
た富裕層が出てきます。その富裕層の中心にいるのは、他ならぬ
中国共産党の上級幹部とその一族です。あるいは、共産党政権と
密接な関係を保つ人たちもいると思われます。いずれにしてもこ
の国では、共産党政権と親和的でないと、なかなかビジネスで成
功できないでしょう。
 問題は、彼らが自分たちの資産を海外に移そうとしはじめたこ
とです。彼らは、習近平体制になると、一斉に資本逃避をはじめ
たのです。共産党幹部やその一族や、その取り巻きらのやったこ
とについて、田村秀男氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 彼らは香港にペーパーカンパニーをつくり、本土で不正に蓄財
した資産をどんどん香港に移していきました。そして、カリブ海
のケイマン諸島など、「タックス・ヘイブン(租税回避地)」と
呼ばれる税金の安い地域にもペーパーカンパニーをつくり、巨額
のお力ネを本土から香港、香港から海外へと、移していったので
す。不正に貯めたおカネを国内に置いていては、いつ自分が党か
ら処罰されて財産を没収されるかわかりません。こうして香港は
中国本土の富裕層の資産の逃げ道になっていったわけです。
 それでも中国の経済成長が順調だった時期には、一度海外に流
れたおカネも再び香港経由で本土に還流していました。不動産市
場をはじめとして、中国本土に有望な投資先がたくさんあったか
らです。
 しかし、中国本土への過剰投資や不動産市場の低迷により、中
国経済の成長がかつてのような勢いを失うと状況が一変。国内に
流人するおカネの動きは鈍くなり、国外に流出するおカネの動き
が激しくなっていきました。中国経済を発展に導いた香港が、今
度は中国経済を崩壊に導く不安要素になっていったというわけで
す。            ──田村秀男著/ワニブックス刊
 『景気回復こそが国の守り脱中国、消費税減税で/日本再興』
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 習近平主席の反腐敗の号令は、共産党幹部らの中国本土からの
資本逃避潰しに関係があります。習近平本人もやっていることが
考えられますが、かつての中国共産党の大幹部たちを反腐敗の名
の下に、次々と逮捕して行くことによって、資本流出を防ごうと
したのです。
 もう一度添付ファイルのグラフをご覧ください。一見すると、
2017年以降は、外貨準備が回復しているように見えますが、
その代り対外負債が増えています。つまり、資本逃避で減った分
の外貨を外国からの借金でカバーしているからです。中国の外貨
準備は約3兆ドルを維持しているのです。その根拠は10月23
日のEJ第5356号の添付ファイルを参照してください。
 ここで留意すべきことは、中国本土で不正に稼いだ資産を一度
必ず香港に移そうとしていることです。反腐敗キャンペーンもあ
るし、本土に置いておくと、いつ当局に発見され、没収されたり
逮捕されるかわからないので、とりあえず資産を香港を移し、香
港を経由して、海外に移そうと考えているのです。つまり、香港
が資産の海外逃避の経由地になっているのです。
 習近平主席としても、香港の一国二制度をいま潰すのは、国際
的な非難を浴びるし、貿易戦争中の米国を一層怒らせることにな
り、得策ではないことはわかっています。まして香港は、国際金
融センターとしての機能をもっており、中国の経済拡大にとって
香港は重要な金融基地でもあるからです。しかし、香港が資本逃
避の経由地になっている以上、香港を一刻も早く中国共産党の監
視・統制下に置き、ドルの流失を防がなければ、中国の未来はな
いと考えたものと思われます。
 米国のトランプ政権は、中国との貿易戦争との関連で2019
年11月に「香港人権・民主主義法」を制定しています。米国は
香港に対してさまざまな優遇措置を与えていますが、香港が中国
政府から十分独立していることを前提としています。そのため、
この法律では、香港が優遇措置に適合するかどうかについて、国
務長官が、毎年香港について調査し、議会に報告するよう義務付
けています。
 しかし、この法律では、もし香港で人権侵害が起きた場合、こ
の法律に基づいて、それを行った個人に対して、制裁や渡航制限
をかけることができるという何となくすっきりしない内容になっ
ており、このことが同法の一般に知られている内容です。
 しかし、この法律の条文をよく見ると、「1992年香港政策
法修正事項」という項目があるのです。香港政策法とは何でしょ
うか。その修正事項とは何を意味しているのでしょうか。これに
ついては、明日のEJで検討します。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/101]

≪画像および関連情報≫
 ●習政権がしょぼい景気対策しか打てないワケ
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   米紙ウォールストリート・ジャーナル7月13日付(電子
  版)が、「中国が世界経済回復を牽引できない理由」と題す
  る解説記事を載せていた。2008年9月のリーマン・ショ
  ック時には、原材料などへの中国の需要急増が世界全体の成
  長を押し上げたのとは対照的に、中国は現在、景気刺激のた
  めの支出を抑制している。このため、リーマン危機のような
  役割を中国が果たすのは不可能とする中国市場依存度の高い
  ドイツ工業団体代表の発言を引用している。中国市場にます
  ますのめりこんでいる日本の経団連の楽観論とは大違いだ。
   同記事は習近平政権がなぜしょぼい景気対策しか打てない
  のか、について触れていない。評論家の石平さんから「田村
  理論」だと評されている拙理論なら答えは簡単だ。
   中国の通貨金融制度は実質的に「米ドル本位制」であり、
  ドルの流入具合が悪ければ、財政・金融面での拡大策がとれ
  ないという欠陥がある。西側世界では米金融専門家を含め中
  国経済を市場経済と同列で論じるのが一般的だが、戦前から
  の中国共産党政策の歴史を綿密にたどってゆけば、いまなお
  財政・金融政策の基本は極めて特異なドル本位であることが
  わかる。            https://bit.ly/2Hsw1jH
  ───────────────────────────
 ●グラフ出典/──田村秀男著/ワニブックス刊『景気回復こ
  そが国の守り脱中国、消費税減税で/日本再興』


中国の外貨準備と対外債務の前年比増減.jpg
中国の外貨準備と対外債務の前年比増減
posted by 平野 浩 at 05:50| Comment(0) | 『コロナ』後の世界の変貌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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