2020年10月23日

●「香港問題は政治ではなく経済問題」(EJ第5356号)

 「中国の通貨制度はドル本位制である」──産経新聞特別記者
の田村秀男氏の、いわゆる「田村理論」といわれるものです。こ
んな歴史の教訓があります。1946年から1950年の「国共
内戦」──蒋介石率いる国民党対毛沢東率いる中国共産党の内戦
です。このとき毛沢東率いる中国共産党は、お金の規律をしっか
りと守ったのに対し、国民党は制限なくお金を刷って、悪性イン
フレを起こし、戦争に敗れています。
 「ドル本位制」であれば、中国はドルが大量に流入してくる仕
組みを作る必要があります。それがあるのです。中国の主なドル
の流入源は、貿易などの国際収支の黒字のほか、外国による対中
投資、それに外国からの借金です。借金してドルを補充するので
す。とにかくドルの流入を増加させることに加えて、ドルが流出
しないよう対外送金を厳しく規制するのです。
 中国の対外貿易黒字は、2019年度は全体で年間4300億
ドル、そのうち対米は約3000億ドルであり、大半は対米貿易
黒字(米国からは対中貿易赤字)です。中国は、この対米貿易黒
字のお蔭で大量の人民元を発行でき、中国経済をここまで成長さ
せてきたのです。
 添付ファイルのグラフを見てください。このグラフは2009
年以降の米国の貿易赤字累積額と中国の人民元発行量増加額(兆
ドル)の関係を示しています。棒グラフが米国の対中貿易赤字で
あり、折れ線グラフは人民元発行量増加額を示しています。中国
の経済成長は、人民元の発行量で決まりますが、それは保有する
ドルの量で決まります。そうであるとしたら、中国の経済成長は
ドルしだいということになります。
 トランプ米大統領は、そこを衝いてきたのです。「この膨大な
貿易赤字を解消せよ」と。これは「これ以上ドルは渡さないぞ」
という宣言です。これを解決しようとすると、中国に流入するド
ルの量が減少し、その分人民元が発行できなくなります。トラン
プ政権は、中国の泣き所を衝いているのです。
 これについて、産経新聞特別記者の田村秀男氏は、自著で次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 これまで中国は対米貿易黒字でドル(外貨)さえ稼いでいれば
それを元手に人民元を発行して経済を成長させることができまし
た。成長著しい中国市場には海外からの投資でさらにおカネが集
まります。儲かる£国市場に進出したい外国企業に対し、共
産党政権は、マーケットへの参入条件として特許や技術、ノウハ
ウを半強制的に提供させるなど、やりたい放題好き勝手にやって
きました。
 それにNO≠突きつけたのがトランプ政権です。トランプ
政権の村中強硬策の基本路線は、これ以上アメリカの貿易赤字で
中国にドルを稼がせない(貿易収支の是正)、先進国の技術や特
許を盗ませない(知的財産権の保護)というスタンスで一貫して
います。          ──田村秀男著/ワニブックス刊
 『景気回復こそが国の守り脱中国、消費税減税で/日本再興』
─────────────────────────────
 多くの人は香港問題を「政治問題」と捉えています。一国二制
度を守ろうとする香港の若者の運動をつ、中国共産党政権が力づ
くで押さえ込もうとしているように見えます。
 しかし、田村秀男氏によると、これは「経済問題」であるとい
うのです。香港では、「カレンシーボード」という一種の固定相
場制が採用されています。少し専門的ですが、カレンシーボード
は、次のような制度です。
─────────────────────────────
 カレンシーボード(中国語名称、貨幣局)制度は、厳格な為替
管理または為替介入といった非市場的・人為的手法によって相場
を固定させるのではなく、金・銀本位制同様、いわば市場的な方
法に基づく固定相場制である。理論的には、通貨の発行にあたっ
て、100%同額の外貨準備を保有し、(通常、基軸通貨の米ド
ル)、固定相場で基軸通貨との交換を完全に保証する仕組みで、
現金・預金間の金利裁定と為替裁定を通じ、預金通貨も含めて固
定相場が維持される。        https://bit.ly/31sacbk
─────────────────────────────
 カレンシーボードは固定相場制なのですが、香港金融管理局が
香港ドルの対米ドルレートを固定し、3つの銀行が手持ちの米ド
ル資産に見合う香港ドルを発行しているのです。3つの銀行とは
次の通りです。
─────────────────────────────
      1.    英国系の香港上海銀行
      2.スタンダードチャータード銀行
      3.          中国銀行
─────────────────────────────
 つまり、香港では、香港ドルをいつでも米ドルに自由に交換で
きるようになっているのです。これにより、香港は、中国と世界
を結ぶ国際金融センターとして発展し、多くの外資系企業が進出
したのです。海外から中国本土への直接投資や、その逆の中国本
土から海外への直接投資もその半分以上も香港経由で行われてい
るのです。中国自体もその経済成長に不可欠なドルを調達してき
たのです。
 しかし、習近平政権になってからは、その強引な政治手法から
海外への資本逃避が急増するようになったのです。これによると
貴重なドルが海外へ流出し、中国の外貨準備がどんどん減少する
ようになったのです。その中心が中国本土で富を築いた富裕層が
自分たちの資産を海外へ移すようになったのです。中国本土での
富裕層とは、習近平を含む共産党の幹部とその一族が中心です。
 不正に稼いだお金を中国本土に置くとリスクがあるので、ひと
まず、香港に逃がし、それから、海外へ逃避させたので、中国の
外貨準備は目に見えて減少していったのです。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/100]

≪画像および関連情報≫
 ●中国“自爆”覚悟の香港支配。 米は切り札「香港人権民主
  法」習氏の喉元に刃を突きつけ
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   北京で開かれている共産党主導による全国人民代表大会/
  全人代では、習近平政権が香港に対して国家安全法適用を決
  める構えだ。トランプ米政権は香港の高度な自治を認めてい
  る「一国二制度」を骨抜きにすると反発し、対中制裁を辞さ
  ない姿勢だ。
   トランプ政権は2018年に米中貿易戦争を仕掛けて以来
  中国にハイテクと並んでドルを渡さない決意を日々刻々強め
  ている。実のところ、中国からの資本逃避も、中国本土への
  外国資本による投資も香港経由である。実質的にはドル本位
  の通貨・金融制度の中国にとって国際金融センターの香港は
  死活問題だ。
   だからこそ毛沢東以来、歴代の共産党指導者は「自由な香
  港」を容認してきた。ところが習氏はその香港を全面支配し
  ようと焦る。これに対し、ワシントンには切り札がある。米
  議会が昨秋、成立させた「香港人権民主法」である。トラン
  プ氏はこの法により、いつでも習氏の喉元に刃を突きつける
  ことができるのだ。
   同法は、香港が中国政府から十分に独立した立場にあり、
  優遇措置適用に値するかを国務長官が毎年評価するよう義務
  付けている。米国は、香港で人権侵害を行った個人に対する
  制裁や渡航制限を課すことができる、というのが一般的に報
  じられている概要だ。      https://bit.ly/2HjqJHA
  ───────────────────────────
米国の対中貿易赤字累積額と人民元発行量増加額.jpg
米国の対中貿易赤字累積額と人民元発行量増加額
posted by 平野 浩 at 07:01| Comment(0) | 『コロナ』後の世界の変貌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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