2020年10月20日

●「台湾に着々と手を打つ米軍事戦略」(EJ第5353号)

 台湾と韓国──ともにかつて日本が支配下においていた国です
が、現在の状況は真逆です。日本と韓国との関係については、元
徴用工訴訟をめぐり、泥沼の関係に陥り、これまでで最悪の状態
になっています。
 年内に開かれる予定の日中韓3ヶ国首脳会談は、今回は韓国の
担当であり、ソウルで開催されます。しかし、日本としては、徴
用工訴訟をめぐる状況が好転しない限り、参加できないことを菅
総理の意思として、韓国側に伝えています。これは、相当厳しい
措置であるといえます。
 しかし、台湾に関しては、日台断交にもかかわり、日台関係に
懸念を抱いていた岸信介元首相の娘で、安倍前首相の母であり、
安倍晋太郎氏の妻である安倍洋子氏がしっかりと関わり、現在で
は、安倍前首相の実弟である岸信夫防衛相が、日華議員懇談会の
幹事長として、しっかりと支えてきています。
 大きく報道されていないので、知らない人も多いと思いますが
現在の台湾の蔡英文総統は、2019年10月6日に、選挙前の
民進党主席の身分で来日し、キャピトル東急で安倍首相(当時)
と極秘会談、7日には安倍前首相の実弟・岸信夫(自民党衆院議
員/当時)が付き添い、山口県に行き、歓待を受けたことが伝え
られています。中国との関係で、総統に就任してからでは来日が
困難になるからです。日本と台湾の関係がわかると思います。
 日本と台湾と良好な関係が、単に首脳同士の関係だけでない証
拠に、2011年3月の東日本大震災のさい、人口約2400万
人の台湾から250億円という、各国のなかで最多の義援金が日
本に贈られたことでもわかります。
 しかし、震災発生当時の民主党政権は、そういうことをよくわ
かっていないのです。これについて、渡邊哲也氏は、次のように
書いています。
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 たとえば、東京で行われた1周年追悼式典で、当時の菅直人政
権は、台湾代表を外交団の来賓席ではなく、一般民間団体の席に
座らせている。また、震災発生から2カ月後の2011年5月、
日本政府は各国の支援に感謝の意を伝えるため、世界6ヶ国の新
聞に感謝広告を掲載したが、台湾の新聞には出さなかった。世界
一の支援をしてくれた台湾に対して、非常に無礼な対応を行った
わけだ。そこで、一民間人である木坂麻衣子(現在の私の妻)が
ソーシャルファンディングで資金を集め、民間で台湾の新聞に感
謝広告を出そうとツイッターで呼びかけたところ、日本じゅうか
ら、あっという間に多額の資金が集まり、日本人の有志というか
たちで台湾の主要新聞に広告を出すことができた。
 この当時は、まだソーシャルファンディングのためのプラット
フォームがなく、実績もないため、銀行口座の開設をするだけで
一苦労であり、通帳のコピーをすべて公開することで透明性をも
たせるかたちをとった。そして、余ったお金はすべて日本赤十字
社に寄付することで被災地にも貢献できた。
                 ──渡邊哲也著/徳間書店
            『「新型コロナ恐慌後の世界」』より
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 一方、米国は、トランプ政権になってから、軍事戦略を大転換
しています。そのため、台湾は米国にとっても重要な位置づけに
なるため、台湾との関係を強化させています。とくに2018年
は、台湾と関係する法案などが続々と成立しています。
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  2018年 2月:台湾旅行法成立
        5月:米下院で台湾の支持を再確認
        6月:米国在台湾協会新庁舎完成
        8月:国防権限法成立
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 米国在台湾協会とは何でしょうか。
 これは、事実上の米国大使館といわれるものですが、米国は総
工費5000万ドル(約278億円)を投じて、台北市東部に建
設し、2019年から本格的に業務を開始しています。職員は約
500人、警備のためと称して、米軍兵士も配置されています。
米国はこの施設を南シナ海問題における最大の司令塔として、機
能させようとしています。
 2020年1月10日、米国陸軍のライアン・マッカーシー長
官は台湾よりも南に2つの軍事基地をつくると発表しています。
この日は、台湾の総統選挙当日です。そのときのロイターは次の
記事を発信しています。
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 [ワシントン/10日/ロイター]─米陸軍のライアン・マッ
カーシー長官は10日、太平洋地域で中国に対し情報、電子、サ
イバー、ミサイル作戦を展開する2つの特別部隊を配備する計画
を明らかにした。部隊の展開は今後2年にわたる見通しだとし、
「中国が米国の戦略的脅威として台頭する」ため、米陸軍は太平
洋地域でプレゼンスを改めて拡大するとした。新たな部隊の配備
は中国とロシアがすでに備える能力の無効化に寄与する見通し。
                  https://bit.ly/34a03lj
─────────────────────────────
 元来アジアにおける米軍の最大拠点は、フィリピンのスービッ
ク海軍基地とクラーク空軍基地だったのですが、現在、使えなく
なっています。クラーク空軍基地は、1991年のピナツボ火山
の噴火で使用困難となり、これを機に、フィリピン政府の要請も
あって、米軍は2つの基地をフィリピンに返還しています。
 その後、オバマ米大統領とフィリピンのアキノ3世大統領の間
で、フィリピンに米軍基地を建設することで合意したものの、そ
の後、ドゥテルテ政権になったとたん、ストップし、ペンディグ
の状態になっています。その間に南シナ海では、中国軍の脅威が
再び拡大しつつあります。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/097]

≪画像および関連情報≫
 ●要警戒!アメリカの「新海軍戦略構想」
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  (1)トランプ政権として、国防とくに海軍戦略について、
  第二次大戦以後、与野党を問わず一貫して採用してきたグロ
  ーバルな「前方展開戦略」を初めて改め、米本土防衛重視と
  本国沿岸に軍事資源をより集中させた「有事柔軟対応」への
  転換に取り組み始めたことを意味する。
   これまでは「前方展開戦略」を支えてきたのが、空母打撃
  群CSG展開と、日本など同盟諸国および友好諸国基地への
  兵力その他の軍事資源投入だった。とくに中東、台湾海峡、
  朝鮮半島有事の際には、それぞれの地域において米軍プレゼ
  ンスを維持することが、最大の抑止力になると考えられてき
  た。しかし、エスパー長官の頭の中にあるのは、戦力資材の
  常時海外配置ではなく、「可能な時に、有事の必要に応じて
  当該エリアに投入」というフレキシブルで機動性に富んだ対
  応だという。
   問題は、前線から米軍が一歩後退することによって生じる
  「空白」と「抑止力」の減退だ。とくに南シナ海においては
  最近、「セオドア・ルーズベルト」ほか数隻の米空母がコロ
  ナウイルス感染危機に見舞われた間隙を縫って、中国軍の空
  母打撃群が活発な軍事演習を行うなど、その存在を誇示しつ
  つある。今後、計画通りの戦略見直しが実施されれば、中国
  の太平洋における軍事プレゼンスが逆に増強され、結果的に
  米中超大国間の軍事バランスに動揺をきたすことにもなりか
  ねない。            https://bit.ly/3j7XkNr
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米国在台湾教会.jpg
米国在台湾教会
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 『コロナ』後の世界の変貌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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