日尖閣諸島に接近し、その接続水域や日本の領海に頻繁に出入り
しています。かかる事態に対し、国際ジャーナリストの高橋浩祐
氏は、次のようにコメントしています。
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世界各国が新型コロナウイルスの感染対応に追われるなか、中
国は引き続き、その間隙を縫うようにして尖閣諸島周辺への接近
を増やし、存在感を高めている。海外の識者からは「日本はそろ
そろ尖閣諸島をめぐって、中国に対してレッドライン(越えては
ならない一線)を示す必要があるのではないか」との声も上がっ
ている。海上保安庁のデータによると、1〜8月の中国公船によ
る尖閣諸島接近は前年同期比では5・3%増えた。873隻の内
訳は66隻が領海(沿岸から約22キロ)への侵入、807隻が
接続水域(領海の外側約22キロ)内での確認となっている。
https://bit.ly/34ROnCI
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意図的に他国の領海に侵入する──これはとんでもないことで
す。普通の国であったら、こういう事態が起きると、最悪の場合
戦争になります。それなのに、日本のマスメディアは、なぜか、
淡々とその事実をニュースとして流すだけで、中国を批判しませ
ん。それどころか、尖閣諸島に中国の公船が接近することなどは
日常茶飯事になっており、接続水域に侵入する程度ではニュース
にならないとして報道すらしない場合も少なくないのです。一体
どうなっているのでしょうか。
これは、日本と中国の間で、「日中記者交換協定」が結ばれて
いるからなのです。このことは、前にも一度EJで取り上げてい
ますが、今回は少し深掘りしてみることにします。
1964年(昭和39年)当時中国との貿易は、「LT貿易」
の枠組みのなかで行われていたのです。さて、この「LT貿易」
とは何でしょうか。
「LT」とは、覚書に署名した中華人民共和国側代表廖承志ア
ジア・アフリカ連帯委員会主席の「L」と、中日友好協会長と日
本側代表高碕達之助(元通商産業大臣)の「T」の頭文字をとっ
て、「LT貿易」と称したのです。このLT貿易のさい、中国と
「日中記者交換協定」が締結され、次の9つの報道機関が北京に
記者を常駐できるようになったのです。
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読売新聞 西日本新聞
朝日新聞 共同通信
毎日新聞 NHK
※産経新聞 TBS
日本経済新聞 ※ 産経新聞は現在離脱
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1967年(昭和42年)3月、LT貿易は計画の期限を迎え
て、新たに「日中覚書貿易会談コミュニケ」が交わされ、覚書貿
易(MT貿易)へ移行しています。このさいの「MT」の意味は
人の名前ではなく、Memorandum Trade のMTです。
そのさい、記者枠を5人に減らすとともに、双方が遵守される
べき原則として、次の政治3原則が決められています。
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@日本政府は中国を敵視してはならない。
A米国に追随して「二つの中国」をつくる陰謀を弄しない。
B中日両国関係が正常化の方向に発展することを妨げない。
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これが問題なのです。これによって、中国は、日本のメディア
の報道をチェックし、この3原則に反していると中国が判断した
ときは、日本に抗議を行い、記者追放の処置をとったのです。こ
れもあまりにも一方的な協定ですが、相手は社会主義国家である
ことと、国交正常化前ということもあり、仕方がないという考え
方もあります。しかし、問題はこれからです。1972年(昭和
47年)9月に日中国交が正常化し、日本と中国の関係は新しい
関係に移行したことにより、「日中記者交換協定」も新しく改定
されたはずですが、なぜかその内容は公表されていないのです。
文化大革命のときの話です。中国政府は、日本のマスメディア
に対して台湾支局の閉鎖を要求したのです。これに対して、ほと
んどのメディアは、その要請にしたがい、台湾支局を閉鎖し、北
京に支局を開局していますが、産経新聞だけはこれに強硬に反対
し、1967年(平成10年)までの31年間、北京に支局を置
くことはなかったのです。メディアのなかで産経新聞だけがスジ
を通したことになります。
現在も公式には認めていないものの、間違いなく中国との間に
「政治3原則」は生きています。2016年6月に中国海軍の軍
艦が尖閣諸島周辺の接続水域に侵入し、さらに15日には鹿児島
県の口永良部島周辺の領海に侵入したことがあります。日本政府
は中国への抗議を重ねたものの、中国はどこ吹く風で、8月初旬
には、尖閣沖の接続水域に中国海警局の公船と約230隻の中国
漁船が入り込んだことがあります。
普通の国であれば直ちに戦争です。なぜなら、自国に土足で踏
み込んできたからです。主権の著しい侵害です。しかし、日本の
メディアの報道はソフトそのもの。朝日新聞は次のように書いて
います。中国海軍の行動は容認できないとするものの、話し合い
が必要だと書いているのです。敵視していないのです。
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危機をあおるのではなく、目の前の危機をどう管理するかだ。
海上保安庁や自衛隊が警戒を強めることは必要だが、それだけで
不測の事態を回避することは難しい。政治、外交、軍事、経済、
文化など幅広い分野で、重層的な対話の回路を広げていく必要が
ある。 ──朝日新聞 https://bit.ly/2SPaUKO
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──[『コロナ』後の世界の変貌/094]
≪画像および関連情報≫
●なぜ国会は中国を論じないのか
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日本にとって中国という国家の存在がますます重みを増し
てきた。この巨大な隣国をどう考えればよいのか。どう接す
ればよいのか。その国家の本質をどう認識すればよいのか。
いまの日本では、官も民もこぞって論じ、語るべき対象であ
る。日本にとって中華人民共和国という国家がいかに重要か
――よい意味でも悪い意味でも――は、まず新型コロナウイ
ルスの大感染をみれば、まず最も容易に理解できよう。この
恐るべきウイルスが中国で発生し、海を越えて日本に侵入し
てきた事実は誰にも否定できないだろう。日本をこれほど傷
つけたコロナウイルスがなぜ、どのように中国から入ってき
て、日本を麻痺させたのか。
次にわかりやすい中国の重要性は尖閣諸島の日本領海への
中国の武装艦艇の侵入である。つい最近も3日にわたり、中
国の武装艦艇が日本領海に侵入して、操業中の日本漁船を恫
喝し、駆逐した。日本の主権の侵害である。
一方、日本にとって経済面での中国との絆も重要である。
だがその絆にはさまざまなしがらみがつきまとう。日本の産
業界への妨害や威嚇もある。だが中国の巨大市場の魅力も、
サプライチェーンという言葉で象徴される中国の生産拠点と
しての価値も、日本にとって重要である。
https://bit.ly/34TL7GZ
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諸島守る海尖閣を上保安庁巡視艇