RAを使って、中国をがんじからめにしています。簡単に整理す
ると次のようになります。
FIRRMAは中国による米国への投資を規制するものです。
それとは逆に米国から中国への投資を規制するのがECRAとい
うことになります。米国の安全保障にかかわる技術や製品の輸出
をいっさい禁止するものです。かつて、共産圏への軍事技術や戦
略物資の輸出を禁止したCOCOMになぞらえて、「新COCO
M」と呼ばれています。
実は、日本はCOCOMには苦い経験があるのです。1987
年の「東芝機械COCOM違反事件」です。ECRAがどういう
ものであるか知るために、これがどのような事件であったか、概
略について以下に説明します。
当時静岡県沼津市に本社を置く東芝機械という企業があったの
です。国内の工作機械メーカーの大手であり、総合電気メーカー
東芝の子会社です。東芝グループ全体に占める東芝機械の売り上
げは、せいぜい10%程度ですが、共産圏への輸出額は20%を
占めていたのです。
1982年12月から1984年にかけて、伊藤忠商事とその
ダミー会社の和光交易を通じて、ソビエト連邦技術機械輸入公団
へ「工作機械」8台、その工作機械を制御するための装置とソフ
トウェアを、ノルウェー経由で輸出したのです。この機械は、同
時9軸制御が可能な高性能モデルであり、その輸出については、
対共産圏輸出統制委員会(COCOM)違反として禁止されてい
ることを知ったうえでの輸出であったのです。
今から考えると、日本としては、かなり危ないことをやったも
のですが、当時日本は高度成長期にあり、エコノミックアニマル
といわれ、儲かるものであれば、多少リスクがあっても、何でも
やるというところがあったのです。
東芝機械と伊藤忠商事はもちろん、担当した和光交易の社員も
ソ連から引合のあった「工作機械」は共産圏への輸出が認められ
ていない点を認識した上で、輸出する機械は、「同時2軸制御の
大型立旋盤」の輸出であるとの偽りの輸出許可申請書を作成し、
海外にて組み立て直すとして契約を交わして輸出しています。輸
出を管理する通商産業省もこの許可申請が虚偽であることを見抜
けなかったのです。
しかし、この輸出事件は、和光交易の社員の密告によって米国
の知るところになります。密告に基づく米国の調査により、この
機械は、ソヴィエトの原子力潜水艦のスクリュー音の静粛性向上
に大きく貢献し、多くの米国軍人の命が危険にさらされたと結論
づけ、当時の佐々淳行内閣安全保障室長に連絡してきたのです。
これに対して、米国政府は、東芝機械の他、東芝を始めとする
東芝グループ全社の製品を輸入禁止にするなど、問題に対して厳
しく対応したのです。
この一大不祥事に対して、時の中曾根康弘総理大臣は、田村元
通産大臣を米国に派遣し、キャスパー・ワインバーガー米国防長
官に正式に謝罪したものの、米国の怒りは、なかなか解けなかっ
たといいます。
当時の米国の怒りがどんなにすさまじいものであったかを知る
文章があります。この事件によって、日本がエコノミック・アニ
マルと呼ばれる原因になったのです。当時内閣安全保障室長時代
国際インテリジェンスーオフィサーをしていた人物によるこの事
件の詳しい記述です。このなかに米国の怒りについて次のように
書かれています。
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1987年6月28日、ときのワインバーガー米国防長官が、
この事件について日本の外務、通産、防衛の各大臣・長官と国家
公安委員長のいずれも「PooPoo(いい加減)でやる気なし」とし
て中曽根康弘総理に直接抗議し、善処を要請するとして凄い剣幕
で来日した。アメリカは、東芝機械のココム規制違反で本土がソ
連原潜のSLBM攻撃にじかに曝されたとして反日感情が高まり
東芝機械が「東芝」と報道されたことから上院議会は包括貿易法
案に東芝製品の輸入禁止の修正条項を加えることを可決し、法案
は翌年に成立して94年のココム撤廃まで対日貿易制裁として効
力を持ち続けた。 https://bit.ly/2IeSvF9
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東西冷戦の終結にともない、COCOMは有名事実化し、その
後米国は、軍事転用が可能になる品目の輸出に関しては、商務省
産業安全保障局(BIS)がEAR(輸出管理規制)というルー
ルによって管理していたのです。それを今回、中国を念頭にCO
COMを復活させたというわけです。
こうした米国の中国に対する規制は、トランプ大統領の「中国
憎し」の感情で行われていると考えている人がいますが、それは
違っています。これは、2018年に議会が成立させた国防権限
法と前述のEARによって行われているものであり、トランプ大
統領は、議会の指示に従っているに過ぎないのです。したがって
たとえ大統領がバイデン氏になったとしても何の変化もないので
す。もし大統領が何もしないとしたら、国防権限法に違反してい
るとみなされてしまうからです。
日本にもこうした輸出管理問題に関する機関があります。「C
ISTEC」といいます。1989年に設立された機関ですが、
企業などに貿易規制を指導しており、すでにECARへの対応に
動き出しています。ECARが制限している最先端技術は14分
野ですが、CISTECは、それが増える可能性を指摘していま
す。CISTECは次の言葉の頭文字です。
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◎CISTEC/安全保障貿易情報センター
Center for Information on a Security Trade Control ─────────────────────────────
──[『コロナ』後の世界の変貌/093]
≪画像および関連情報≫
●たとえ政権が変わっても米国の中国敵視、後戻りせず
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2020年6月30日に施行された中国の香港国家安全維
持法が中国をめぐる国際関係に大きな渦を生み出している。
もともと中国に対して競争心をむき出しにしていた米国は言
うまでもないが、これまで中国との関係を慎重に扱っていた
EU諸国も国安法に強い懸念を抱き、対中制裁措置へと動い
ている。7月23日、ポンペオ米国務長官が行った「共産主
義中国と自由世界の未来」と題する歴史的演説も、この流れ
の中にある。
この演説の中で、ポンペオ国務長官は、ニクソン大統領以
来の対中エンゲージメント(関与)政策は失敗であり、自由
世界は中国の圧政に勝利しなければならないと訴えた。にわ
かに風向きが変わった。「自由世界VS共産世界」という冷
戦時代を特徴づけたフレーズがよみがえったかのようだ。ポ
ンペオ長官の演説の表題はそのものずばりだ。ただし、共産
世界の中心はソ連ではなく中国に移っている。国際政治の世
界に何が起こっているのか。
冷戦に先立つ世界大戦では、独、仏、英、露といった欧州
の大国、日本というアジアの大国、そして米国という地域大
国間の勢力争いだった。欧州ではドイツ、アジアにおいては
日本が勃興し、地域の覇権を握ろうとしたのに対し、対抗す
る大国がそれを阻んだというわけだ。
https://bit.ly/2GV4VBV
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ワインバーガー元米国防長官