2020年10月08日

●「TSMCと半導体製造業界の現状」(EJ第5345号)



 そもそもなぜこの時期に、中芯国際集成電路製造(SMIC)
という中国の半導体メーカーが、注目を浴びることになったので
しょうか。それは、中国政府としては、まさか、SMICまでが
米国の輸出規制の対象になるとは考えていなかったからです。
 「中国、半導体生産に暗雲」という記事は、本来米国の輸出規
制で、華為技術(ファーウェイ)が技術力の高い台湾積体電路製
造(TSMC)に対して、半導体の製造を委託できなくなった5
月の時点で出されるべきであったといえます。
 習近平政権としては、TSMCがダメなら、国内のSMICを
何とか建て直して、半導体の生産を続けるしかないと考えていた
からです。ところが、そのSMICまでが米国の輸出規制の対象
になってしまったので、中国の半導体生産は、この先お手上げの
状態になったというわけです。
 ところで、台湾の台湾積体電路製造(TSMC)とは、どうい
う企業なのでしょうか。このことを理解するには、半導体の設計
製造の現状について、少し技術的な話をすることをお許しいただ
きたいと思います。
 「インテル入ってる」というCMを知らない人はいないと思い
ます。インテルといえば、米国の半導体設計製造の巨人であり、
これについてもあまねく知られています。その最強のインテルが
現在においては、半導体製造の技術力において、台湾のTSMC
に勝てなくなっていることをご存知でしょうか。
 添付ファイルをご覧ください。昨日のEJで、半導体製造メー
カーには、工場を持たない設計専門メーカーの「ファブレス」と
半導体製造工場を持つ「ファウンドリ」の2つがあると述べまし
たが、添付ファイルの図は、半導体業界の現状を表しています。
 これを見ると、インテルは、半導体の設計と製造を一社で行っ
ている垂直統合モデルの企業であり、特異の存在です。一社です
べてをやる垂直統合モデルは、ある製品計画を実行するさい、他
社の都合に左右されないメリットがあります。その一方で、特定
のアーキテクチャ(x86系)のプロセッサ製品群の設計・製造
販売で企業を運営せざるを得ない危うさもあります。
 インテルは、これまであらゆる競争を勝ち抜いて、アップルを
のぞくPCのプロセッサ(CPU)のアーキテクチャを「x86
系」として支配してきており、これについては、AMD社(アド
バンス・マイクロ・デバイセス)も、「x86系」のアーキテク
チャを採用しています。そのため、アップルをのぞくウインドウ
ズ系のPCでは、CPUは、インテル社でもAMD社のプロセッ
サも使えるのです。しかし、PCの場合、性能を上げる必要があ
るので、どうしても消費電力が高くなります。
 これに対して、PCではなく、スマホをはじめ、身の回りのあ
らゆるデジタル機器に使われていて、対応能力の高さと低消費電
力という特徴から、ますますシェアを拡大しつつあるCPUがあ
ります。それがARM仕様のCPUです。組み込みシステムのC
PUともいわれます。
 これらのCPUの最大の特色は、省電力です。例えば冷蔵庫の
ように1日中、1年中動作する組み込み機器になると、消費電力
が高ければ電気代が跳ね上がってしまいます。そのため、組み込
みシステムでは低消費電力であることが重視されるのです。みな
みに、スマホも省電力の設計になっています。
 つまり、ARMはそういうCPUのアーキテクチャを保有して
いるのです。それは、英国のARM社によって策定されたアーキ
テクチャで、CPUメーカー各社がARM社からライセンスを受
けてCPUを設計し、製造しています。
 添付ファイルの図を見ると、設計の部分で、AMDと他の設計
メーカーの表示が違います。AMDは、「86系」のアーキテク
チャであるのに対して、他の設計メーカーは、ファーウェイを含
めて、ARMの下に位置しています。これらのメーカーは、AR
Mファミリーであることを意味しています。
 AMDを含めた設計専門のファブレスのメーカーが、すべて製
造を委託するのは、台湾の台湾積体電路製造(TSMC)です。
TSMCは製造に特化するメーカーですが、その技術力がきわめ
て高いのです。この半導体業界に見られる設計と製造の分離につ
いて、ITジャーナリストの星暁雄氏は、次のように例えて、説
明しています。
─────────────────────────────
 例え話で説明してみよう。インテルのように設計から製造まで
1社で行うモデルは、新聞が、取材執筆から版を起こし輪転機で
印刷するまでをすべて1社で行うモデルと似ている。一方、設計
と製造で分業するモデルは出版社と印刷会社の関係と似ている。
 出版社は、本や雑誌の印刷を印刷会社に委託している。アップ
ル・シリコンは新興の出版社の1社で、TSMCは大手印刷会社
のような立ち位置だ。印刷会社には「町工場」のような小さな会
社もあるが、ただし半導体はそこが違う。規模の経済が強く働く
ため、寡占化が進んでいる。世界最高水準の半導体を製造できる
企業は米インテル、台湾TSMC、そして韓国サムスン電子に限
られる。              https://bit.ly/2GuHFtR
─────────────────────────────
 アップルがインテル系のプロセッサに変更したのは、2006
年のことです。それから14年後の2020年6月22日、開発
者向けのオンラインイベントWWDCの基調講演で、アイフォー
ン、アイパッドに加えて、マックの心臓部を2年かけてアップル
・シリコンに切り替えることを発表したのです。このとき、アッ
プルは、口にはしていませんが、インテルと別れる宣言をしたこ
とになります。
 これは、台湾のTSMCの高度な製造技術があって、はじめて
可能になることです。当然の世界のトップを走るファーウェイも
TSMCに製造を委託していたのですが、それが米国の禁輸措置
によって出来なくなっています。これは中国政府にとって、大打
撃です。     ──[『コロナ』後の世界の変貌/089]

≪画像および関連情報≫
 ●アップルが描く「インテルなき未来」と、見えてきたいくつ
  もの課題
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   アップルが間もなく「Mac」シリーズにインテルのチッ
  プを使うのをやめるのだという。このニュースを耳にするの
  は何度目だろう。これまでにも多年草のように定期的に現れ
  ては消えていった話題ではあるが、今回はいくつか注目すべ
  き点があるようだ。
   だが、まずはアップルが実際に「脱インテル」を実行する
  のが、いかに難しいかという話から始めよう。アップルがこ
  の問題に真剣に取り組んでいるのは本当だろう。4月2日に
  明るみになったニュースの出元は『ブルームバーグ・ビジネ
  スウィーク』のマーク・ガーマンだ。ガーマンは、“聖域”
  であるカリフォルニア州クパチーノの外にいる人間のなかで
  は、アップルの動向にもっとも詳しいと言われている。
   アップルは数年前から、独自のプロセッサの開発だけでな
  く、「MacOS」とモバイルデヴァイス用の「iOS」の
  アプリ統合に向けた準備を進めている。インテル製チップの
  切り替えのための準備は整いつつあるのだ。それでも、イン
  テルとの別離においては面倒な問題がいくつもある。それに
  どう対処していくかが、アップルの未来を決めるだろう。
   インテルは、2006年から、Macの製品ラインにプロ
  セッサーを供給してきた。両社は10年以上にわたる実りの
  ある関係を築いており、マックブックやアイマックは、アイ
  フォーンほどではないにしても、アップルに大きな利益をも
  たらしている。         https://bit.ly/3l7oSUv
  ───────────────────────────

プロセッサなどを中心とする半導体業界の構造.jpg
プロセッサなどを中心とする半導体業界の構造




posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 『コロナ』後の世界の変貌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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