を手離す決断をしたのでしょうか。そのことについて書く前に、
そもそもファーウェイの光海底ケーブル事業を担うファーウェイ
・マリーンとは、どういう企業かについて調べてみます。
ファーウェイ・マリーンは、2008年に香港でファーウェイ
と英国の海洋通信会社グローバル・マリン・システムとの合弁会
社として設立されています。株式は、華為投資ホールディングが
51%、グローバル・マリン・システムが49%で事業をスター
トさせています。
ファーウェイ・マリーンの事業は順調でした。それについて、
ジャーナリストの児島博氏は、「ウェッジ・レポート」に、次の
ように紹介しています。その敷設ルートは、添付ファイルをご覧
ください。
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香港に端を発し、ベトナム、マレーシア、ミャンマーといった
国々に接続しながらインド洋を横切り、インド、パキスタン、カ
タール、UAEなどにも支線を延ばし、中東、アフリカと欧州を
結ぶ紅海の底を這うように延びては、スエズ運河を越え、地中海
に達するや、そのケーブルはギリシャ、イタリア、そしてフラン
スに達する。実に2万5000キロ余りの海底ケーブルが「AA
E−1」(アジア・アフリカ・ユーロの略)と呼ばれているもの
だ。運用は2017年から始められた。
実際のケーブル敷設工事の一部を行ったのは世界を代表する敷
設技術を持つ日本のNEC。欧米企業も数多く出資しているこの
プロジェクトには、中国を代表する中国聯合通信(チャイナ・ユ
ニコム)も参加していた。同社は中国移動通信(チャイナ・モバ
イル)、ボーダフォンに継ぐ携帯キャリアでもある。
https://bit.ly/2HvKATz ─────────────────────────────
何しろ欧米企業がシェアの90%以上を占める海底ケーブルの
世界で中国は新参者ですが、海底ケーブルに不可欠である陸揚げ
基地局の技術力については、ファーウェイ・マリーンは欧米を上
回る高い技術力を発揮しています。
そういう意味で前途有望であるファーウェイ・マリーンをファ
ーウェイはなぜ手離す決断をしたのでしょうか。
それは、2019年5月20日に、ファーウェイとその関連会
社68社がEL(エンティティリスト)に掲載されたからです。
このリストに入れられると、事業は著しく困難を極めることにな
ります。ファーウェイ・マリーンはその時点では、ELリスト入
りされていませんが、いずれ入れられる可能性が大です。
2016年6月、ファーウェイは、ファーウェイ・マリーンを
中国・江蘇省に本部を置く江蘇亨通光電(ヘントン社)に売却し
たのです。このヘントン社の会長は、中国共産党員であり、全人
代のメンバーを務めているのです。これは、中国が、海底事業ピ
ジネスを諦めていない証拠といえます。だから、ELに入れられ
る前に手を打ったのです。
ちなみに海底ケーブルのビジネスにおいては、NECが圧倒的
存在感を持っていることを知っておく必要があります。この海底
ケーブルビジネスの世界におけるNECの実績について、NEC
のサイトから転載します。
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NECは、過去40年以上にわたり海底ケーブルシステム事業
を手掛ける海底ケーブルのトップベンダーです。地球6周分のべ
25万キロメートルを超える敷設実績があり、特に日本を含むア
ジア・太平洋地域で強みを有しています。
また、陸上に設置する光伝送端局装置、光海底中継器、光海底
ケーブルなどの製造、海洋調査とルート設計、機器の据付とケー
ブルの敷設工事、訓練から引渡試験まで、全てをシステムインテ
グレータとして提供しています。 https://bit.ly/3kIOfMe
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既に述べているように、ELに入れられても問題が解決しない
と、担当が商務省から財務省の外国資産管理室に移り、そこには
「SDNリスト」が待っているのです。これについて、中国には
苦い経験があります。これに関する「ウェッジ・レポート」の記
事を以下に示します。
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◎バンコ・デルタ・アジアの屈辱
中国には忘れ難い屈辱の経験がある。05年9月、時の米ブッ
シュ政権は「資金洗浄(マネーロンダリング)に関与の疑いが強
い」として、中国の特別行政区マカオの銀行「バンコ・デルタ・
アジア」に対し、金融制裁を課した。これにより同銀行は一切の
ドル取引ができなくなり、同銀行を生命線としていた北朝鮮は干
上がった。なぜなら、同銀行と取引をすれば米国政府の制裁対象
となりドル取引ができなくなるからだった。周到に準備された金
融制裁を前に、北朝鮮は白旗をあげた。裏で北朝鮮に血液、つま
り、資金提供していた中国もこの時は一切、供給を断念せざるを
得なかった。ドル取引が止まれば、中国経済が干上がるのも明ら
かだった。 https://bit.ly/2G6Ybjz
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ところで、覇権国になるには、次の3つの要素が必要です。
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@経済力
A軍事力
B金融力
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米国は3つとも握っていますが、中国は@とAはクリアしたも
のの、B金融力──金融センター機能に圧倒的に欠けています。
中国は通貨「元」の国際化を必死になって進めようとしています
が、うまくいっているとはいえません。そのカギは海底ケーブル
が握っています。 ──[『コロナ』後の世界の変貌/087]
≪画像および関連情報≫
●チリ、光海底ケーブル敷設で中国案退ける日本企業が優位に
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チリ政府はこのほど、初となる南米とアジアを結ぶ光海底
ケーブルの敷設に関して、中国側の提案を退け、日本が提案
したルートを採用した。海底ケーブルの終点は、中国側が提
案する上海市ではなく、オーストラリアのシドニー市に予定
された。日経アジアン・レビュー7月29日付などによると
日本政府はチリから、ニュージーランドを経由し、豪州シド
ニーを結ぶルートを提案した。全長が1万3000キロ。チ
リ政府はコストなどに基づいて「最も推奨されるルートだ」
との見解を示した。今後、日本通信企業がケーブルや他の設
備の受注で優位になるとみられる。
日経アジアン・レビューは、チリ政府の決定は中国通信業
界や中国当局が後押しする通信機器大手の華為技術(ファー
ウェイ)に打撃を与えたとした。ファーウェイは当初、同光
海底ケーブル建設の主要候補だったという。
中国側は終点を上海にする案を出した。昨年4月、チリの
セバスティアン・ピニェラ大統領が訪中の際、ファーウェイ
は、チリでデータセンターを建設すると表明した。これに対
して米トランプ政権は、チリ政府にファーウェイによる安保
上の脅威を警告した。ファーウェイは近年、海外で海底ケー
ブル事業の展開にも力を入れてきた。2008年、同社は英
国のグローバル・マリン・システムズと共同で、香港で合弁
会社、華為海洋網絡を設立した。 https://bit.ly/3cBVsKY
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ファーウェイ・マリーンが2017年に運用をン意思した海底ケーブル