2020年10月01日

●「ティックトックはどこがリスクか」(EJ第5340号)

 8月6日のことです。トランプ大統領は、現在、世界中で流行
している動画投稿アプリ「ティックトック(TikTok)」を安全保
障上の脅威であるとして、この動画アプリを運営する「バイトダ
ンス」との取引を45日後から禁止するという内容の大統領令に
署名したのです。合わせて、中国の会員制SNS「微信(ウィチ
ャット)」を運営する中国のIT大手である騰訊(テンセント)
との取引も禁止するとしたのです。
 「ティックトック」を巡っては、トランプ大統領がバイトダン
スに対して、同社の経営権とアルゴリズムとデータをすべてを米
国に引き渡さない限り、米国内で1億人が利用する同アプリの禁
止も辞さないと表明しています。
 9月23日現在、米ウォルマートとオラクルが共同してバイト
ダンスと協議をしており、45日後の事業停止は中断されていま
すが、根本的なところでモメているようです。
 問題は、米ウォルマートとオラクルがバイトダンスと提携して
米国内に作る新会社「ティックトックグローバル」の経営権をど
ちらが握るかですが、肝心なところで、双方の言い分が食い違っ
ているのです。
 23日時点でわかっていることは、新会社の出資比率が次のよ
うになっていることです。
─────────────────────────────
        オラクル ・・・・ 12・5%
      ウォルマート ・・・・  7・5%
      バイトダンス ・・・・ 80・0%
─────────────────────────────
 数字だけを見ると、新会社の支配権は、完全にバイトダンスが
握っています。しかし、オラクル側としては、バイトダンス本体
に米投資会社が40%出資しており、60%の過半数は米側が握
るといっていますが、この言い分は少しおかしいです。トランプ
大領の命令にもかかわらず、バイトダンスとオラクルらは、玉虫
色決着を模索しているようです。
 一番問題になっているのは、ティックトックアプリの「ソース
コード」をどちらが握るかですが、バイトダンス側は、「提携案
には、いかなるアルゴリズムや技術に関する移転にも触れていな
い」としています。このような状況では、とてもまとまるはずの
ない提携話といえます。
 そもそもトランプ大統領が、なぜティックトックは危険である
と思ったのでしょうか。それは、彼自身がティックトックによっ
てある被害を受けたからです。その前に、そもそもティックトッ
クとは何かについて知る必要があります。
 ティックトックとは、簡単にいうと、15秒から1分ほどの短
い動画を作成して投稿できる「短尺動画プラットフォーム」のこ
とです。既にユーチューブがありますし、それほど目新しいもの
ではないのですが、何が問題なのか考えます。
 このアプリのユーザーは13歳未満の子供が多く、AIが組み
込まれているので、アクセスする動画からユーザーの好みや性格
を分析し、そのユーザーに合った動画を供する機能などがあるの
ですが、こういったことを含めたユーザーの個人情報を収集する
機能に問題が多いとされています。そのため2016年頃から問
題になっており、FTC(連邦取引委員会)が乗り出して、バイ
トバンスと協議していたのです。
 トランプ大統領が直接被害を受けたのは、6月20日の夜のこ
とです。その日、トランプ陣営は、オクラホマ州タルサで11月
の大統領選に向けた選挙集会を開いたのですが、これが大失敗に
終ったのです。日本経済新聞の関連記事を示します。
─────────────────────────────
【ワシントン=永沢毅】トランプ米大統領が20日に南部オクラ
ホマ州で開いた選挙集会で大量の空席が発生したのは、ショート
動画アプリ「TikTok」の利用者らが欠席を前提に大量の申し込み
を呼びかけたのが、一因との見方が出ている。SNS(交流サイ
ト)の威力を示す例として注目を集めている。
 同州タルサ消防局によると、1万9000人を収容できる会場
に実際に入った参加者は3分の1以下の6200人にとどまった
という。トランプ陣営の幹部は21日のFOXニュースのインタ
ビューで、トランプ氏の支持者が集会に反対するグループとの衝
突を恐れて来場しなかったと説明した。(中略)
 51歳の中西部アイオワ州在住の女性は、11日深夜に「ステ
ージ上で彼を独りぼっちにさせよう」と訴える動画を「TikTok」
に投稿した。翌朝までには200万回以上も視聴されたという。
多くのユーザーは「妨害行為」が探知されないよう1〜2日で投
稿を削除した。延べ数10万人分の入場が登録された可能性があ
るという。          https://s.nikkei.com/3mQ3QLC
─────────────────────────────
 ティックトックは、ツイッターやインスタグラムと同様に、S
NSの一種です。一応ツイッターは文字、インスタグラムは写真
ティックトックは動画がメインになっています。なぜ、一応かと
いうと、ツイッターやインスタグラムでも、動画をアップロード
できるからです。それなのに、ティックトックはなぜ流行したの
でしょうか。
 確かにツイッターやインスタグラムで動画を投稿できますが、
いささかハードルが高いのです。しかし、ティックトックは、動
画用のテンプレートが用意されています。このテンプレートのお
かげで、ユーザーは音楽やネタを用意するなどの労力をかける必
要がなく、誰でも気軽に動画を投稿することができます。ティッ
クトックに10代のユーザーが多いのは、このテンプレートのお
かげであると思われます。現在のスマホは、短い動画であれば簡
単に撮れるので、それが流行に拍車をかけたものと思われます。
 なお、本稿の執筆時点(24日)時点では、米国のティックト
ック問題は解決していません。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/084]

≪画像および関連情報≫
 ●TikTokはホントに危険?8つのリスクとその対処法を解説
  ───────────────────────────
   ティックトックに投稿した動画の背景に映っている景色か
  ら、投稿者の家や撮影場所を特定され、個人情報が流出する
  恐れがあります。
   最近は画像解析などの技術が進んでいるため、写真のほん
  の少しの映り込みや何枚かの写真を照合することで、撮影場
  所や投稿者本人の特定が可能になります。動画は写真以上に
  情報量が多いため、かなり気をつけて撮影しなければ、画像
  投稿以上に個人情報が狙われる危険性が高いといえます。
   また、アカウント名から個人を特定されることもあるため
  個人に関する情報をアカウント名に使わないことはもちろん
  近隣の有名な場所や建物の名前など、個人情報が掴めそうな
  単語は使わないことが鉄則です。
   ティックトックは音楽に合わせて歌って踊るなどといった
  楽しさを共有することが本来の目的であり、出会いを目的と
  したものではありません。しかし、動画の投稿者に対しコメ
  ント欄から出会いを持ち掛けるなどといったマナー違反を犯
  す人もいます。
   動画のように公開する情報が多いツールでは、出会い系の
  ツールとして利用しようとしている人もいることを覚えてお
  いてください。また、動画を投稿しているのは10代が中心
  かもしれませんが、それを見ているユーザーは、スマホユー
  ザー全体に広がっていると認識した方が良いでしょう。
                   https://nr.tn/2FYKnI2
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アンドロイドOS

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2020年10月02日

●「ネットを支えている海底ケーブル」(EJ第5341号)

 現在の世の中で、インターネットを一切使わない人はどのくら
いいるでしょうか。少なくともスマホを使っている人はインター
ネットを常時使っていることになります。なぜなら、スマホでは
必要なときに自動的にインターネットに接続されるからです。ち
なみにスマホの普及率は2017年現在で60・9%、ガラケー
などを含めると、84・0%になります。普及率が60%を超え
るということは、少なくとも外を出歩く人は、必ず持っていると
いえます。
 そういう現代人に、「インターネットとはどういうネットワー
クですか」と聞くと、正確に答える人は少ないのです。合わせて
「インターネットは有線ですか、無線ですか」と聞くと、ほとん
どの人は、自信なさそうですが、「無線」と答えます。四六時中
インターネットを使っているのに、インターネットの実体を知ら
ないのです。インターネットの定義を以下に示します。
─────────────────────────────
 インターネットとは世界中のISP(インターネットサービス
プロバイダ)が相互接続している有線のネット―クである。
─────────────────────────────
 そう、インターネットは「有線のネットワーク」なのです。当
然、海は「海底ケーブル」を使います。現在、この海底ケーブル
をめぐっても火花が散るような米中対立が起きています。
 かつての英国は、第2次世界大戦が終わると、軍事覇権や製造
業の優位性をほとんど失ってしまいましたが、ロンドンの金融街
シティに関しては、旧植民地のタックスヘイブン利権を独占し、
自国通貨のポンドを維持し、繁栄を謳歌してきています。なぜ、
そんなことができたのでしょうか。
 それは、情報や通信の面において、英国がかつての大英帝国の
遺産を継承してきたからです。そういう金融面でのシティの優位
性を支えたのが実は海底ケーブルなのです。
 つまり、ロンドンのシティは、アフリカ大陸、ヨーロッパ大陸
北米大陸、南米大陸の4つの大陸から直接海底ケーブルラインが
集中している、安全で、確実なデータ通信に必要な固定回線のタ
ーミナルなのです。この回線を押さえておくと、4大陸の金融デ
ータをすべて押さえることができるのです。
 ここで、パナマ文書などでも有名な「タックスヘイブン」につ
いて知る必要があります。タックスヘイブンとは、一般的に「租
税回避地」と呼ばれています。
─────────────────────────────
 タックスヘイブンとは、国際金融取引を円滑に行うことを目的
に、法人税などが一部あるいは完全に免除される国や地域。租税
回避地とも呼ばれる。こうした地域に設立された多くの企業は、
現地に本社事務所がある例はまれで、ほとんどは連絡用の私書箱
があるぐらい。管理も専門の代行業者に任せる書類上の会社(ペ
ーパーカンパニー)が目立つ。企業情報は基本的に非開示で、誰
が代表者なのかわからないこともよくある。
                  https://bit.ly/3i8hu9G ─────────────────────────────
 英国は、旧植民地のタックスヘイブン利権を押さえることで、
第2次世界大戦後もシティを中心に繁栄を続けることができたの
です。何しろ、シティは海底ケーブルを押さえているので、いわ
ゆる裏金や秘密資金の流れも把握できます。これは、貴重な諜報
情報であり、情報秘密兵器といえます。
 国際政治学者の藤井厳喜氏は、シティとタックスヘイブンの現
状について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 シティと英国旧植民地のタックスヘイブンは、よく言われるよ
うに「ハブ&スポーク」の関係で結ばれていた。しかもその海底
ケーブル・ネットワークを、NATOの枠組みを利用し、アメリ
カ海軍に防衛させてきたのである。シティでは、1日に10兆ド
ルの資金が移動すると言われているが、その資金の流れを手に取
るように把握していたのが英国金融界の中枢と諜報部であった。
(中略)
 ところが世界的なタックスヘイブン取り締まりが強化され、英
国の旧植民地タックスヘイブンは、ほぼ白旗を挙げて降参してし
まった。最後に残っているのは、英国王室属領の3島だが、その
将来も、その終焉も確実に見えてきた。2021年末までには、
3島ともタックスヘイブン特権を放棄しなければならないところ
まできている。          ──藤井厳喜著/徳間書店
    『米中最終決戦/アメリカは中国を世界から追放する』
─────────────────────────────
 一般的に国際通信というと、衛星通信で行なわれると考える人
が多いですが、現在は海底ケーブルで行なわれているのです。現
在、世界では378本の海底ケーブルが使われており、長さで見
ると、約120万キロのケーブルが世界中の海底に引かれている
のです。したがって、大陸間でデータをやり取りするさいは、ほ
とんどが衛星通信などではなく、光海底ケーブルによって行なわ
れているのです。もちろん世界中のインターネット通信は、海底
ケーブルが支えており、海底ケーブルを制するもの通信の覇権を
握るといっても過言ではないのです。
 光海底ケーブル通信システムは、深海8000メートルの水圧
に耐え、1万キロ以上の伝送が可能です。通信容量が非常に大き
く、遅延も少ないため、現在では、衛星通信に代わり国際通信の
99%を光海底ケーブルが担っています。これらの海底機器は、
深海で25年もの長期間にわたり、正常に稼働し続けることが絶
対条件になります。
 2015年1月のダボス会議の席上、中国の李克強首相は、会
場を埋め尽くした世界の要人の前で、中国の関連事業が、海底光
ファイバー敷設事業に参加することを明らかにしています。一帯
一路戦略の一環としてです。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/085]

≪画像および関連情報≫
 ●海底ケーブル事業にも広がった米中覇権競争
  ───────────────────────────
   韓国がインターネットを通じてやりとりする音声・データ
  の約98%は海の下に設置された光ケーブルを通じて大陸の
  間を移動する。1990年代から活発に成長した海底光ケー
  ブル産業は、5世代移動通信(5G)の普及などで、最近需
  要が急増した。リサーチ会社の「マーケット・アンド・マー
  ケット」によると、今年の市場規模は約130億ドル(約1
  兆4000億円)。日本・米国・フランス会社が先頭に立っ
  ている中で韓国・中国も頭角を現わしている。
   このような海底光ケーブル市場に米中葛藤の影響が広がっ
  ている。29日、日本経済新聞(日経)はチリ政府が一番目
  の海底光ケーブルプロジェクトを進めて事業の受注に出た日
  本と中国の中で日本が提案したルートを選択したと報じた。
  本来中国通信会社「ファーウェイ(華為技術)」が最も有力
  な事業者に選ばれたことがあり、「ファーウェイ打倒」を叫
  ぶ米国の影響が働いた結果だという見方がある。
   東京から始まってオーストラリアとニュージーランドを経
  由してチリに達する約1万3000キロメートルの光ケーブ
  ルを埋設する今回の作業は約600億円規模となっている。
  まだ事業者は決まっていないが、日本ルートが選択されたた
  め、今後日本企業が事業を受注する可能性が大きいと日経は
  伝えた。中国は上海からチリに直接入るルートを提案した。
  チリ政府は、コストや実用性から日本のルートが「最も薦め
  られるルート」と決定の理由を明らかにした。
                  https://bit.ly/332sOQd
  ───────────────────────────

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 光海底ケーブル
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2020年10月05日

●「華為技術が狙う海底ケーブル覇権」(EJ第5342号)

 近年の海底ケーブル市場には、次の3つの変化が起きていると
いわれます。
─────────────────────────────
        1.    投資主体の変化
        2.   敷設ルートの変化
        3.トラフィック流通の変化
─────────────────────────────
 第1の変化は「投資主体の変化」です。
 これまで海底ケーブルといえば、通信事業者が敷設・運営する
ものだったはずです。しかし、近年は、通信容量の需要家として
台頭してきたクラウド事業者や、コンテンツ・プロバイダーが、
自営ネットワークとして所有するようになってきています。
 第2の変化は「敷設ルートの変化」です。
 海底ケーブルは、自然災害による障害に対するレジリエンシー
(回復力)の向上に加えて、アジア、中東、アフリカといった新
興市場への対応の必要性の高まりを受けて、今までにない敷設ル
ートが開拓されつつあります。
 第3の変化は「トラフィック流通の変化」です。
 クラウド事業者は、世界中にデーターセンターを構築しつつあ
りますが、そのデーターセンターに合わせて海底ケーブルを敷設
する動きがあります。そして、世界に点在するデーターセンター
同士をつなぐ役割を果たそうというです。
 2015年1月21日午後のことです。ダボス会議で中国の李
克強首相は、講演のなかで次の宣言をしています。
─────────────────────────────
 一帯一路戦略の一環として、中国政府は、同国の通信関連企業
の海外進出を後押しする。        ──李克強中国首相
─────────────────────────────
 李克強首相の演説は、中国は通信分野において世界覇権を目指
すということを世界に宣言したに等しいといえます。中国が世界
覇権を目指すとしている通信分野とは次の3つです。
─────────────────────────────
 1.  携帯電話のネットワーク ・・  中国移動体通信
 2.通信衛星分野のネットワーク ・・ 中国衛星通信集団
 3.光海底ケーブルネットワーク ・・   華為海洋網絡
─────────────────────────────
 この光海底ケーブルネットワークを担っているのが「華為海洋
網絡(ファーウェイ・マリーン)」です。ファーウェイ・マリー
ンによる海底ケーブル網は、香港から東南アジア、インド、中東
を経由して、イタリアやフランスにまで、およんでいます。
 現在、世界の基軸通貨ドルは、米国が保有しているクローズド
な金融決済ネットワーク「SWIFT」が支えていますが、これ
は光ファイバー海底ケーブルによる専用の固定回線を通じて行わ
れています。「SWIFT」とは、過去40年間、国と国をつな
いできた送金システムのことです。
 ファーウェイ・マリーンが狙っているのも、現在敷設しつつあ
る海底ケーブル網による世界的な人民元決済ネットワークの構築
なのです。つまり、ファーウェイは、単にスマホの世界覇権を狙
っているだけでなく、金融決済システムの覇権をも握ろうとして
いるのです。国際政治学者、藤井厳喜氏は、これに関連して次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 チャイナはアメリカから世界の覇権を略奪しようとしている。
そのためには、ハイテク分野における産業覇権を確立しなければ
ならない。その目的達成のために打ち出したのが「中国製造20
25」である。それのみならず、通信分野における覇権もアメリ
カから剥奪しようとして開始したのが、この世界的な通信ネット
ワークにおけるチャイナ企業の積極攻勢である。その中でもファ
ーウェイの海底ケーブル網敷設は、将来における人民元決済ネッ
トワークの基礎確立を狙ったものであり、特に重要である。
 将来的にはチャイナは、人民元を、ドルにとって代わる世界の
基軸通貨とする野望をもっている。これを物理的な決済ネットワ
ークとして支えるのが現在、ファーウェイが建設中の海底ケーブ
ル網なのである。         ──藤井厳喜著/徳間書店
    『米中最終決戦/アメリカは中国を世界から追放する』
─────────────────────────────
 ファーウェイ・マリーンは、既に90本の海底ケーブルを敷設
しています。本数だけから見れば、全本数378本の4分の1を
占めていますが、問題は長さです。世界約120万キロのうち、
ファーウェイ・マリーンは5万キロ程度ですから、世界で見ると
まだ大したことはないといえます。海底ケーブルでは、NECと
米サブコム、仏アルカテルの3社が海底ケーブルの90%を担っ
ているからです。
 恐いのは海底ケープルを使ったスパイ行為です。これについて
ネットでは次のことが指摘されています。
─────────────────────────────
 スパイ工作に使える可能性がある海底ケーブルをどんどん自社
で各地に敷設すればそれだけインフラを押さえることができる。
情報収集に使えなかったとしても、例えば、海底ケーブルを「遮
断してしまう」という力を手にすることができる。また彼らの通
信ケーブルをつなぐことができる通信機器を中国製に限定するこ
とだってできるだろう。そうなれば、地上にも自分たちのケーブ
ル網を広げることができる。「陸路と海路」という意味のある一
帯一路で、中国の「通信網」によるインフラ支配が拡大すること
を意味するのである。        https://bit.ly/3i3Xm8o
─────────────────────────────
 ところが、2019年6月、ファーウェイは大きな先手を打っ
たのです。ファーウェイは、ファーウェイ・マリンを手離すと発
表したのです。その真の意図は何でしょうか。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/086]

≪画像および関連情報≫
 ●海底・宇宙にも中国の野望/ハイテク対立
  米に根強い警戒感
  ───────────────────────────
   貿易交渉をめぐり1月、「第1段階」の合意に正式署名し
  た米国と中国だが、産業政策やハイテク分野などで対立は続
  いている。台頭する中国への米国の警戒感は強く、米中の攻
  防は日本の競争力にも影響を及ぼす。
   太平洋や大西洋の海中深くに張り巡らされた高速大容量の
  光ケーブル。ビッグデータが大陸をまたいで行き交うデジタ
  ル社会を陰で支える“大動脈”の役割を担う。
   「需要がうなぎ上りに増え、供給がとても追いつかない」
  NECが北九州市に構える海底ケーブル工場はフル操業の状
  況が続き、担当者はうれしい悲鳴を上げる。グーグルなど、
  「GAFA」と呼ばれる米IT大手が、世界各地の拠点をつ
  なぐ自前のケーブル網構築を加速。NECにも、さばききれ
  ないほどの注文が舞い込んでいる。
   NECは海底ケーブルの分野で米欧の競合2社と世界シェ
  アを分け合ってきた。だが近年はこの業界秩序を突き崩すよ
  うに、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)が台
  頭。大手3社を脅かすようになった。ファーウェイは陸上の
  光ファイバー網では既に「巨人的存在」(NEC担当者)だ
  が、その触手を海洋にも拡張。中国の巨大経済圏構想「一帯
  一路」の要衝であるパキスタン・グワダル港とアフリカのジ
  ブチをつなぐ案件などを次々と獲得してきた。
                  https://bit.ly/306oM7l
  ───────────────────────────

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ファーウェイ・マリーン 
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2020年10月06日

●「ファーウェイ華為海洋を売却する」(EJ第5343号)

華為技術(ファーウェイ)は、なぜ、ファーウェイ・マリーン
を手離す決断をしたのでしょうか。そのことについて書く前に、
そもそもファーウェイの光海底ケーブル事業を担うファーウェイ
・マリーンとは、どういう企業かについて調べてみます。
 ファーウェイ・マリーンは、2008年に香港でファーウェイ
と英国の海洋通信会社グローバル・マリン・システムとの合弁会
社として設立されています。株式は、華為投資ホールディングが
51%、グローバル・マリン・システムが49%で事業をスター
トさせています。
 ファーウェイ・マリーンの事業は順調でした。それについて、
ジャーナリストの児島博氏は、「ウェッジ・レポート」に、次の
ように紹介しています。その敷設ルートは、添付ファイルをご覧
ください。
─────────────────────────────
 香港に端を発し、ベトナム、マレーシア、ミャンマーといった
国々に接続しながらインド洋を横切り、インド、パキスタン、カ
タール、UAEなどにも支線を延ばし、中東、アフリカと欧州を
結ぶ紅海の底を這うように延びては、スエズ運河を越え、地中海
に達するや、そのケーブルはギリシャ、イタリア、そしてフラン
スに達する。実に2万5000キロ余りの海底ケーブルが「AA
E−1」(アジア・アフリカ・ユーロの略)と呼ばれているもの
だ。運用は2017年から始められた。
 実際のケーブル敷設工事の一部を行ったのは世界を代表する敷
設技術を持つ日本のNEC。欧米企業も数多く出資しているこの
プロジェクトには、中国を代表する中国聯合通信(チャイナ・ユ
ニコム)も参加していた。同社は中国移動通信(チャイナ・モバ
イル)、ボーダフォンに継ぐ携帯キャリアでもある。
                  https://bit.ly/2HvKATz ─────────────────────────────
 何しろ欧米企業がシェアの90%以上を占める海底ケーブルの
世界で中国は新参者ですが、海底ケーブルに不可欠である陸揚げ
基地局の技術力については、ファーウェイ・マリーンは欧米を上
回る高い技術力を発揮しています。
 そういう意味で前途有望であるファーウェイ・マリーンをファ
ーウェイはなぜ手離す決断をしたのでしょうか。
 それは、2019年5月20日に、ファーウェイとその関連会
社68社がEL(エンティティリスト)に掲載されたからです。
このリストに入れられると、事業は著しく困難を極めることにな
ります。ファーウェイ・マリーンはその時点では、ELリスト入
りされていませんが、いずれ入れられる可能性が大です。
 2016年6月、ファーウェイは、ファーウェイ・マリーンを
中国・江蘇省に本部を置く江蘇亨通光電(ヘントン社)に売却し
たのです。このヘントン社の会長は、中国共産党員であり、全人
代のメンバーを務めているのです。これは、中国が、海底事業ピ
ジネスを諦めていない証拠といえます。だから、ELに入れられ
る前に手を打ったのです。
 ちなみに海底ケーブルのビジネスにおいては、NECが圧倒的
存在感を持っていることを知っておく必要があります。この海底
ケーブルビジネスの世界におけるNECの実績について、NEC
のサイトから転載します。
─────────────────────────────
 NECは、過去40年以上にわたり海底ケーブルシステム事業
を手掛ける海底ケーブルのトップベンダーです。地球6周分のべ
25万キロメートルを超える敷設実績があり、特に日本を含むア
ジア・太平洋地域で強みを有しています。
 また、陸上に設置する光伝送端局装置、光海底中継器、光海底
ケーブルなどの製造、海洋調査とルート設計、機器の据付とケー
ブルの敷設工事、訓練から引渡試験まで、全てをシステムインテ
グレータとして提供しています。   https://bit.ly/3kIOfMe
─────────────────────────────
 既に述べているように、ELに入れられても問題が解決しない
と、担当が商務省から財務省の外国資産管理室に移り、そこには
「SDNリスト」が待っているのです。これについて、中国には
苦い経験があります。これに関する「ウェッジ・レポート」の記
事を以下に示します。
─────────────────────────────
◎バンコ・デルタ・アジアの屈辱
 中国には忘れ難い屈辱の経験がある。05年9月、時の米ブッ
シュ政権は「資金洗浄(マネーロンダリング)に関与の疑いが強
い」として、中国の特別行政区マカオの銀行「バンコ・デルタ・
アジア」に対し、金融制裁を課した。これにより同銀行は一切の
ドル取引ができなくなり、同銀行を生命線としていた北朝鮮は干
上がった。なぜなら、同銀行と取引をすれば米国政府の制裁対象
となりドル取引ができなくなるからだった。周到に準備された金
融制裁を前に、北朝鮮は白旗をあげた。裏で北朝鮮に血液、つま
り、資金提供していた中国もこの時は一切、供給を断念せざるを
得なかった。ドル取引が止まれば、中国経済が干上がるのも明ら
かだった。             https://bit.ly/2G6Ybjz
─────────────────────────────
 ところで、覇権国になるには、次の3つの要素が必要です。
─────────────────────────────
            @経済力
            A軍事力
            B金融力
─────────────────────────────
 米国は3つとも握っていますが、中国は@とAはクリアしたも
のの、B金融力──金融センター機能に圧倒的に欠けています。
中国は通貨「元」の国際化を必死になって進めようとしています
が、うまくいっているとはいえません。そのカギは海底ケーブル
が握っています。 ──[『コロナ』後の世界の変貌/087]

≪画像および関連情報≫
 ●チリ、光海底ケーブル敷設で中国案退ける日本企業が優位に
  ───────────────────────────
   チリ政府はこのほど、初となる南米とアジアを結ぶ光海底
  ケーブルの敷設に関して、中国側の提案を退け、日本が提案
  したルートを採用した。海底ケーブルの終点は、中国側が提
  案する上海市ではなく、オーストラリアのシドニー市に予定
  された。日経アジアン・レビュー7月29日付などによると
  日本政府はチリから、ニュージーランドを経由し、豪州シド
  ニーを結ぶルートを提案した。全長が1万3000キロ。チ
  リ政府はコストなどに基づいて「最も推奨されるルートだ」
  との見解を示した。今後、日本通信企業がケーブルや他の設
  備の受注で優位になるとみられる。
   日経アジアン・レビューは、チリ政府の決定は中国通信業
  界や中国当局が後押しする通信機器大手の華為技術(ファー
  ウェイ)に打撃を与えたとした。ファーウェイは当初、同光
  海底ケーブル建設の主要候補だったという。
   中国側は終点を上海にする案を出した。昨年4月、チリの
  セバスティアン・ピニェラ大統領が訪中の際、ファーウェイ
  は、チリでデータセンターを建設すると表明した。これに対
  して米トランプ政権は、チリ政府にファーウェイによる安保
  上の脅威を警告した。ファーウェイは近年、海外で海底ケー
  ブル事業の展開にも力を入れてきた。2008年、同社は英
  国のグローバル・マリン・システムズと共同で、香港で合弁
  会社、華為海洋網絡を設立した。 https://bit.ly/3cBVsKY
  ───────────────────────────

ファーウェイ・マリーンが2017年に運用をン意思した海底ケーブル.jpg
ファーウェイ・マリーンが2017年に運用をン意思した海底ケーブル
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2020年10月07日

●「中国の半導体生産がピンチに陥る」(EJ第5344号)

 9月28日のことです。日本経済新聞の一面に、フィナンシャ
ル・タイムズの報道として、次の記事が掲載されたのです。
─────────────────────────────
 ◎米、SMIC向け輸出規制/FT報道
  中国半導体大手 事前許可制に
 【ワシントン=鳳山太成】米商務省が中国半導体受託生産の中
芯国際集成電路製造(SMIC)に米国企業などが特定製品を輸
出する場合に、事前に同省の許可を得るように求めていることが
26日わかった。英フィナンシャル・タイムズ(FT)など、複
数の欧米メディアが報じた。
      ──2020年9月28日付、日本経済新聞第1面
─────────────────────────────
 この記事に合わせて、同じ日の日本経済新聞の第3面には、次
のタイトルで詳細な解説記事を載せています。まさに大ニュース
の扱いです。
─────────────────────────────
 ◎中国、半導体生産に暗雲
  米、対SMIC輸出許可制に/ハイテク産業影響も
      ──2020年9月28日付、日本経済新聞第3面
─────────────────────────────
 これら2つの記事は、半導体の製造事情に詳しい人以外は理解
するのが困難であると思われます。このことが中国にとっていか
に大ダメージになるかについて解説します。
 EJでは何度も書いているように、華為技術(ファーウェイ)
の傘下には、海思半導体(ハイシリコン)という半導体製造メー
カーがあって、ファーウェイは、そこから最先端の半導体の提供
を受けています。半導体の製造メーカーには、次の2つのタイプ
があるのです。
─────────────────────────────
           @ ファブレス
           Aファウンドリ
─────────────────────────────
 @の「ファブレス」とは、文字通りファブ(工場)を持たない
半導体メーカーで、半導体を設計するのが専門です。これに対し
Aの「ファウンドリ」とは、実際に半導体デバイス(半導体チッ
プ)を生産する工場を持つメーカーのことです。ハイシリコンは
ファブレスであり、SMICはファウンドリです。
 半導体を作るには、半導体製造装置が不可欠です。その分野で
は、米国が圧倒的に強いのです。売上高で比較した2019年度
のベスト10を以下に示します。
─────────────────────────────
  1位:アプライド・マテリアルズ        米国
  2位:ASML              オランダ
  3位:東京エレクトロン            日本
  4位:ラムリサーチ              米国
  5位:ケーエルエー・テンコール        米国
  6位:アドバンテスト             日本
  7位:大日本スクリーン製造          日本
  8位:テラダイン               米国
  9位:日立テクノロジーズ           日本
 10位:ASMインターナショナル      オランダ
       ──VLSIリサーチ https://bit.ly/3mXdFYt ─────────────────────────────
 この分野では、オランダ2社を除くと、米国と日本が4社ずつ
を占めています。日本はこの分野では強いのです。ベスト10に
4社が入り、11位〜13位、15位も日本です。11位はニコ
ン、12位はKokusai Electric、 13位はダイフク、 14位に
中国のASM Pacific Technology 社が入って、 15位はキャノン
です。これによると、15位中実に8社が日本のメーカーです。
 最近日本はもはや先進国とはいえないとか、かつての栄光は今
はないとかいう評論家がいますが、日本はこういうあまり表に出
ない分野で優れた技術力を発揮しているのです。
 中国は、米国と仲が悪くなると、日本に接近してきますが、米
国とのビジネスが完全にダメになっても、日本が協力すれば、あ
る程度代替できるからです。逆に米国と日本がこういう技術分野
で組むと、習近平指導部が掲げるハイテク産業振興策「中国製造
2025」などは実現が困難になります。
 このようなあまり表に出ない世界が真似ができない日本の技術
の存在を知らしめたのが、韓国へのホワイト国外しです。フッ化
ポリイミド、レジスト、フッ化水素の3品目の輸出について、韓
国をホワイト国から外したのです。これらは、半導体を製造する
ときに不可欠な物質で、これら3品目の日本の世界シェアは、フ
ッ化ポリイミドとレジストが約9割、フッ化水素が約7割です。
他に代替が効かないのです。韓国は自国製に取り組むといいます
が、短期間でそれを実現するには不可能です。
 シャープ、パナソニック、東芝など、無数の日本メーカーが凋
落したので、日本の製造業がダメになったと勘違いしている日本
人が多いですが、日本はとっくの昔に中身で勝負するメーカーに
変身しているのです。この分野で、米国と日本は圧倒的に強いの
です。米国のELの基準では、米国の原産技術や米国製部品が、
25%以上使われている製品は「米国製」としていますが、世界
のあらゆる製品において、日本製の部品が使われていない製品は
ないといっていいほど、日本の製品は強いのです。
 米国は、中国の出方によっては、この基準を10%まで強化す
るといっています。もしそういうことになると、世界各国の中国
向け機械や、電気、ハイテク製品については、ほとんどすべてが
輸出禁止になるはずです。そうなったら、ファーウェイの生産は
完全に止まることになります。中国は、SMICを頼りにしてお
り、それに賭けていたのです。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/088]

≪画像および関連情報≫
 ●米、中国の半導体大手SMIC向け輸出を一部制限との報道
  ───────────────────────────
   米商務省は、技術が軍事活動に利用される懸念から、中国
  最大手の半導体ファウンドリー中芯国際集成電路製造(SM
  IC)に特定の製品を輸出する前に許可を得なければならな
  いとする書簡を米国内の企業に送付したと報じられている。
  中国のハイテク企業に対する米国の慎重な姿勢があらためて
  明確に示された。
   ニューヨーク・タイムズの9月26日付の記事によると、
  米商務省は書簡の中で、SMICへの輸出には「中華人民共
  和国の軍事的な最終用途に転用されるという容認できないリ
  スクが伴う可能性がある」としている。
   米国は、2019年、中国の通信大手、華為技術(ファー
  ウェイ)に製品を販売する米国企業に制限を課した。ファー
  ウェイの中国政府との関係が懸念され、同社製品が他の国や
  企業に対するスパイ行為に利用される恐れがあるとされた。
   また、中国企業の字節跳動(バイトダンス)傘下の動画ア
  プリ「ティックトック」は現在、アプリが収集するユーザー
  データが中国共産党政府に共有される恐れがあるとして、米
  国内で禁止される可能性に直面している。ファーウェイもバ
  イトダンスも、そうした懸念は根拠がないと主張している。
  SMICは中国で最も技術的に高度な半導体メーカーだが、
  業界をリードするチップメーカー各社と比べると遅れており
  最先端の用途に対応するチップを製造することはできないと
  NYTは報じている。      https://bit.ly/30fJv8Y
  ───────────────────────────

SMIC.jpg
SMIC
 
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2020年10月08日

●「TSMCと半導体製造業界の現状」(EJ第5345号)



 そもそもなぜこの時期に、中芯国際集成電路製造(SMIC)
という中国の半導体メーカーが、注目を浴びることになったので
しょうか。それは、中国政府としては、まさか、SMICまでが
米国の輸出規制の対象になるとは考えていなかったからです。
 「中国、半導体生産に暗雲」という記事は、本来米国の輸出規
制で、華為技術(ファーウェイ)が技術力の高い台湾積体電路製
造(TSMC)に対して、半導体の製造を委託できなくなった5
月の時点で出されるべきであったといえます。
 習近平政権としては、TSMCがダメなら、国内のSMICを
何とか建て直して、半導体の生産を続けるしかないと考えていた
からです。ところが、そのSMICまでが米国の輸出規制の対象
になってしまったので、中国の半導体生産は、この先お手上げの
状態になったというわけです。
 ところで、台湾の台湾積体電路製造(TSMC)とは、どうい
う企業なのでしょうか。このことを理解するには、半導体の設計
製造の現状について、少し技術的な話をすることをお許しいただ
きたいと思います。
 「インテル入ってる」というCMを知らない人はいないと思い
ます。インテルといえば、米国の半導体設計製造の巨人であり、
これについてもあまねく知られています。その最強のインテルが
現在においては、半導体製造の技術力において、台湾のTSMC
に勝てなくなっていることをご存知でしょうか。
 添付ファイルをご覧ください。昨日のEJで、半導体製造メー
カーには、工場を持たない設計専門メーカーの「ファブレス」と
半導体製造工場を持つ「ファウンドリ」の2つがあると述べまし
たが、添付ファイルの図は、半導体業界の現状を表しています。
 これを見ると、インテルは、半導体の設計と製造を一社で行っ
ている垂直統合モデルの企業であり、特異の存在です。一社です
べてをやる垂直統合モデルは、ある製品計画を実行するさい、他
社の都合に左右されないメリットがあります。その一方で、特定
のアーキテクチャ(x86系)のプロセッサ製品群の設計・製造
販売で企業を運営せざるを得ない危うさもあります。
 インテルは、これまであらゆる競争を勝ち抜いて、アップルを
のぞくPCのプロセッサ(CPU)のアーキテクチャを「x86
系」として支配してきており、これについては、AMD社(アド
バンス・マイクロ・デバイセス)も、「x86系」のアーキテク
チャを採用しています。そのため、アップルをのぞくウインドウ
ズ系のPCでは、CPUは、インテル社でもAMD社のプロセッ
サも使えるのです。しかし、PCの場合、性能を上げる必要があ
るので、どうしても消費電力が高くなります。
 これに対して、PCではなく、スマホをはじめ、身の回りのあ
らゆるデジタル機器に使われていて、対応能力の高さと低消費電
力という特徴から、ますますシェアを拡大しつつあるCPUがあ
ります。それがARM仕様のCPUです。組み込みシステムのC
PUともいわれます。
 これらのCPUの最大の特色は、省電力です。例えば冷蔵庫の
ように1日中、1年中動作する組み込み機器になると、消費電力
が高ければ電気代が跳ね上がってしまいます。そのため、組み込
みシステムでは低消費電力であることが重視されるのです。みな
みに、スマホも省電力の設計になっています。
 つまり、ARMはそういうCPUのアーキテクチャを保有して
いるのです。それは、英国のARM社によって策定されたアーキ
テクチャで、CPUメーカー各社がARM社からライセンスを受
けてCPUを設計し、製造しています。
 添付ファイルの図を見ると、設計の部分で、AMDと他の設計
メーカーの表示が違います。AMDは、「86系」のアーキテク
チャであるのに対して、他の設計メーカーは、ファーウェイを含
めて、ARMの下に位置しています。これらのメーカーは、AR
Mファミリーであることを意味しています。
 AMDを含めた設計専門のファブレスのメーカーが、すべて製
造を委託するのは、台湾の台湾積体電路製造(TSMC)です。
TSMCは製造に特化するメーカーですが、その技術力がきわめ
て高いのです。この半導体業界に見られる設計と製造の分離につ
いて、ITジャーナリストの星暁雄氏は、次のように例えて、説
明しています。
─────────────────────────────
 例え話で説明してみよう。インテルのように設計から製造まで
1社で行うモデルは、新聞が、取材執筆から版を起こし輪転機で
印刷するまでをすべて1社で行うモデルと似ている。一方、設計
と製造で分業するモデルは出版社と印刷会社の関係と似ている。
 出版社は、本や雑誌の印刷を印刷会社に委託している。アップ
ル・シリコンは新興の出版社の1社で、TSMCは大手印刷会社
のような立ち位置だ。印刷会社には「町工場」のような小さな会
社もあるが、ただし半導体はそこが違う。規模の経済が強く働く
ため、寡占化が進んでいる。世界最高水準の半導体を製造できる
企業は米インテル、台湾TSMC、そして韓国サムスン電子に限
られる。              https://bit.ly/2GuHFtR
─────────────────────────────
 アップルがインテル系のプロセッサに変更したのは、2006
年のことです。それから14年後の2020年6月22日、開発
者向けのオンラインイベントWWDCの基調講演で、アイフォー
ン、アイパッドに加えて、マックの心臓部を2年かけてアップル
・シリコンに切り替えることを発表したのです。このとき、アッ
プルは、口にはしていませんが、インテルと別れる宣言をしたこ
とになります。
 これは、台湾のTSMCの高度な製造技術があって、はじめて
可能になることです。当然の世界のトップを走るファーウェイも
TSMCに製造を委託していたのですが、それが米国の禁輸措置
によって出来なくなっています。これは中国政府にとって、大打
撃です。     ──[『コロナ』後の世界の変貌/089]

≪画像および関連情報≫
 ●アップルが描く「インテルなき未来」と、見えてきたいくつ
  もの課題
  ───────────────────────────
   アップルが間もなく「Mac」シリーズにインテルのチッ
  プを使うのをやめるのだという。このニュースを耳にするの
  は何度目だろう。これまでにも多年草のように定期的に現れ
  ては消えていった話題ではあるが、今回はいくつか注目すべ
  き点があるようだ。
   だが、まずはアップルが実際に「脱インテル」を実行する
  のが、いかに難しいかという話から始めよう。アップルがこ
  の問題に真剣に取り組んでいるのは本当だろう。4月2日に
  明るみになったニュースの出元は『ブルームバーグ・ビジネ
  スウィーク』のマーク・ガーマンだ。ガーマンは、“聖域”
  であるカリフォルニア州クパチーノの外にいる人間のなかで
  は、アップルの動向にもっとも詳しいと言われている。
   アップルは数年前から、独自のプロセッサの開発だけでな
  く、「MacOS」とモバイルデヴァイス用の「iOS」の
  アプリ統合に向けた準備を進めている。インテル製チップの
  切り替えのための準備は整いつつあるのだ。それでも、イン
  テルとの別離においては面倒な問題がいくつもある。それに
  どう対処していくかが、アップルの未来を決めるだろう。
   インテルは、2006年から、Macの製品ラインにプロ
  セッサーを供給してきた。両社は10年以上にわたる実りの
  ある関係を築いており、マックブックやアイマックは、アイ
  フォーンほどではないにしても、アップルに大きな利益をも
  たらしている。         https://bit.ly/3l7oSUv
  ───────────────────────────

プロセッサなどを中心とする半導体業界の構造.jpg
プロセッサなどを中心とする半導体業界の構造




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2020年10月09日

●/「CPUが今大きく変わりつつある」(EJ第5346号)

 藤井聡太氏が二冠を勝ち取った直後、ある記者から「将棋以外
のことで興味をもっていることはありますか」と聞かれ、藤井二
冠は「PCの組み立て」と答えています。実は、PCの組み立て
も、将棋に関係があるのです。それに組み立てているPCは単な
るPCではないのです。スペックについて記者が突っ込むと、藤
井氏は次のように答えています。
─────────────────────────────
 将棋ソフトですと、CPUのマルチスレッド性能がとても重要
であり、そのコア数が多ければその分、性能が上がります。「ラ
イゼン・スレッドリッパー3990X」です。将棋専用で使って
おり、ソフトは2つ持っています。     ──藤井聡太二冠
─────────────────────────────
 「ライゼン・スレッドリッパー3990X」というCPUは、
インテル社の競争相手である米国のAMD(アドバンス・マイク
ロ・デバイセス)の製品で、正確には次の名称です。マニア向き
製品であり、価格は約50万円です。
─────────────────────────────
  AMD
  Ryzen Threadripper 3990X 2.9GHz 64コア/128スレッド
─────────────────────────────
 将棋の指し手について、一般的なPCの場合、CPUが1秒間
に約200万手読むのに対し、このCPUでは30倍の6000
万手読めるのです。したがって、多くの局面を検討できるので、
プロの棋士には、これから必需品になる可能性があります。
 「64コア/128スレッド」について簡単に説明しておくこ
とにします。PCが出現して以来、かなり長い間にわたり、PC
のCPUは1個だったのです。しかし、CPUが2個付いている
PCが登場してから「コア」という言葉が登場します。「デュア
ル・コア」というようにです。この場合、「コア」というのは、
CPUが2個付いているCPUということになりますが、ややこ
しいので、2つのコアを有するCPUというように呼びます。
 藤井氏が購入したという「ライゼン・スレッドリッパー399
0X」は、64個のコアを有するCPUということになります。
コアの数によって次のよう名前がついています。こういう複数の
コアを持つことを「マルチコア」といいます。コアが64個も付
いているのは「デカ・コア」です。
─────────────────────────────
      コア2 ・・・・・ デュアル・コア
      コア4 ・・・・・ クアッド・コア
      コア6 ・・・・・  ヘキサ・コア
      コア8 ・・・・・  オクタ・コア
   コア10以上 ・・・・・   デカ・コア
─────────────────────────────
 それでは「スレッド」というのは何でしょうか。
 CPUに搭載されているコア1個当り同時にこなせる仕事の数
のことを「スレッド」といいます。CPUのメーカーは、CPU
1個で、その速度(クロック速度)を向上させることで、処理速
度を上げようとしたのですが、この方法では、大量の電気と熱の
発生に対応しなければならなかったのです。大量の電気を使って
速度を上げれは、大量の熱が発生します。
 その解決策の1つとして、クロック速度はほどほどにしておい
て、その分コア数を増やすことによって、同時に処理できる仕事
の数(スレッド)を増やし、結果として処理速度を上げようとし
たのです。この方法であれば、省電力で、速度を上げることこと
が可能になります。
 将棋の棋士のように、有効な指し手を見つけるためにあらゆる
可能性を探る職業では、64コア/128スレッドを有するコン
ピュータは大変役に立つというわけです。
 ここまでの話はPCのCPUの話ですが、スマホやタブレット
のCPUは別の世界です。ここは英国のARMが支配力を強めて
いることは昨日のEJで述べた通りです。このARMファミリー
のなかにアップルシリコンが入っています。アイフォーンやアイ
パットのCPUの設計のためです。CPUの製造は、台湾のTS
MCに委託していることは、既に述べています。
 しかし、アップルは、2006年からインテルと組み、それに
よって大きな利益を上げてきているのですが、6月22日にイン
テルと組んでいたアップルが、2年かけてインテルと別れると宣
言したのです。これは何を意味するのでしょうか。アップルには
新たな構想があるようです。本当は、ファーウェイもその路線を
狙ったのですが、米国による制裁対象にされ、頓挫せざるを得な
くなっています。
 これについて知るには「SoC/ソック」について知る必要が
あります。「SoC」の定義を次に示しておきます。
─────────────────────────────
 SoC(A system on a chip)は、シリコン半導体チップの上
に多くの半導体素子(トランジスタ)を集積して中央処理ユニッ
ト(CPU)、グラフィックス処理ユニット(GPU)、メモリ
ーなど複数の機能群を載せ、「システム」として製品化した半導
体部品を指す言葉。プロセッサ(処理装置)という言い方では収
まらない複数の機能を集積した部品がSoCである。
                  https://bit.ly/36Bqulv ─────────────────────────────
 添付ファイルとして、SoCの図解を付けています。スマホは
PCと比べると、小型でバッテリーも制約があるので、このよう
な小さなユニットにまとめる必要があるのです。
 このユニットのなかには、「GPU」とか「DSP」とか「N
PU」というものがセットされています。これらは、何を意味し
ているのでしょうか。これらについての説明は、来週のEJで述
べることにします。これらは米中関係にも関係があります。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/090]

≪画像および関連情報≫
 ●通信産業の根深い「米中依存」、分断後の技術開発の行方
  ───────────────────────────
   現在、あらゆるテクノロジーを使った機器は、多数の国か
  ら生まれた知見の集約で生まれている。その最たるものは、
  スマートフォンだ。ハードウェアもソフトウェアも、そして
  前提となるネットワークまで、ひとつとして一国のエンジニ
  アだけでは成り立たない。アメリカと中国はそれらにおいて
  中核をなす存在であり、きわめて強く相互依存している。
   ファーウェイが米商務省産業安全保障局のエンティティリ
  ストに掲載され、実質的にファーウェイへの輸出が「禁止」
  されたことを受け、米中の依存関係がすぐに露出した。ソフ
  トウェアでは、米グーグルがファーウェイ製スマホに使われ
  ているOSアンドロイドのアップデートサービスを今後停止
  するという。ハードウェアにおいても、ファーウェイへパソ
  コンやデータサーバーのためのCPUを供給するインテルや
  OSを供給するマイクロソフトなどもサービス停止と報道さ
  れている。
   また、ファーウェイは自社製スマホ用半導体「キリン」シ
  リーズに英アーム社のプロセッサー技術を使っているが、ア
  ーム社は、ファーウェイへのライセンス供与を停止するとい
  う。ファーウェイはOSとプロセッサーという、中核の「部
  品」に大きな影響を受けたことになる。
                  https://bit.ly/34ylg7q
  ───────────────────────────

SoC.jpg
SoC.j
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2020年10月12日

●「SoCをめぐる世界レベルの競争」(EJ第5347号)

2020年3月の武漢市の出来事です。3月18日付の日本経
済新聞に次の記事が掲載されています。
─────────────────────────────
 世界で猛威を振るう新型コロナウイルスの発生源となった中国
湖北省武漢市で、中国政府が封鎖措置の例外としている施設があ
る。国策半導体メーカーである紫光集団傘下の長江存儲科技(Y
MTC)の工場だ。市外から技術者が送り込まれ、製品の生産・
出荷を続ける。海外への技術依存から脱して最先端半導体を国産
化しようとする国家戦略が優先されている。
         ──2020年3月18日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 中国政府は、コロナ禍で1月23日から武漢市を封鎖していま
す。封鎖が解除されたのは3月25日のことですから、この記事
が掲載された時点では封鎖が解かれていないのです。しかし、こ
の半導体工場は特別扱いであり、YMTC工場への材料の搬入や
労働者の投入、完成品の省外への出荷などは、一定の条件の下で
認められていたのです。それほど中国の習近平政権にとって半導
体生産は、国家計画を進めるために不可欠なものなのです。
 この工場では、IoTに不可欠なフラッシュメモリーの国産化
を進めていますが、この分野は、米国、韓国、日本でほぼ独占し
ているので、中国政府は、2014年に半導体産業育成のために
1387億元(約2・1兆円)規模の巨大ファンドを設立し、こ
のYMTCに240億ドルを投入し、国産化を進めようとしてい
るのです。
 このYMTC製のフラッシュメモリー、正確にいうと、初の国
産による64層3次元NAND型フラッシュメモリーの最大の買
い手は、あのファーウェイです。しかし、それでもYMTCの技
術は、競合他社に1世代は遅れています。
 この半導体分野の世界の先頭ランナーは、ウァーウェイです。
しかし、それは半導体設計の分野であり、製造の分野では大きく
大きく遅れています。製造は、台湾のTCMCに頼らざるを得な
いのですが、ファーウェイが中国のトップランナーであることは
確かです。中国の半導体の自給率を足元の20%から、2025
年には70%まで高める──これが、中国のハイテク産業推進策
「中国製造2025」ですが、米国の禁輸策で足元を足元をすく
われつつあります。
 現在、半導体の競争の中心になっているのは、主としてスマホ
やタブレットに使われている「SoC」です。これについて少し
述べることにします。
 「SoC」とは何でしょうか。
 「SoC」は、「System on a chip」の略で、一つの基盤に次
のものをユニットとしてまとめたものです。先週2日のEJの添
付ファイルを参照してください。
─────────────────────────────
            @CPU
            AGPU
            BDSP
            CNPU
─────────────────────────────
 @は「CPU」(Central Processing Unit)です。
 スマホ向けのCPUは、ほぼ100%英ARM社製です。その
役割は、OSのなどの動作を担い、データの管理とユニットの管
理を行います。最近では、CPUは複数のコア(CPU)を持つ
ものが普通になっています。
 Aは「GPU」(Graphics Processing Unit)です。
 GPUの主な役割は、グラフィック関連のデータを扱います。
とくにゲームなどの3Dグラフィックス描写の計算処理は、CP
Uとは、比較にならない速度を発揮します。
 CPUとどこが違うかというと、GPUは複雑な計算は出来な
いが、簡単な繰り返し計算などは超高速で行います。スマホ向け
のGPUに関しては、米クアルコムの「アドレノ」、英ARMの
「マリ」など、多数あります。
 Bは「DSP」(Digital Signal Processor)です。
 DSPは一言でいうと、CPUより専門性を高めて効率化した
CPUがDSPです。米クアルコムの「ヘキサゴン680」とい
うDSPがあります。汎用的に使われるCPUに対しDSPでは
汎用性を犠牲にし画像や映像データ、各種センサーに通信処理な
ど本来CPUが行う仕事の一部のみ高効率に肩代わりすることが
できます。
 Cは「NPU」(Neural Network Unit)です。
 AI(人工知能)の処理、ニューラルネットワークに特化した
ユニットがNPUです。ファーウェイのスマートフォンに搭載さ
れているSoCの「Kirin (麒麟)シリーズ」では、ハイエンド
向けの900番台にNPUが搭載されています。AIによるシー
ン認識や画像処理などカメラ機能を中心に活用されています。
 SoCの主なメーカーと、それぞれのSoCブランド名を上げ
ておきます。
─────────────────────────────
                 SoCブランド名
    クアルコム(米国) ・・ スナップドラゴン
  メディアテック(台湾) ・・ ヘリオ
   ハイシリコン(中国) ・・ キリン
     サムスン(韓国) ・・ エクシノス
     アップル(米国) ・・ Aシリーズ
     シャオミ(中国) ・・ サージ
─────────────────────────────
 今やPCの時代ではなく、スマホやタブレットの時代です。5
G、6G。これらの技術を巡る競争が、米国と中国を中心に激し
く行われています。そこには、日本の影もないのです。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/091]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ5G対応のiPhoneはまだ登場しないのか?
  カギを握るモデムチップの存在
  ───────────────────────────
   主要なスマートフォンメーカーが次々と5G対応スマート
  フォンを投入する中、唯一5G対応が進んでいないアップル
  の「iPhone」。その理由はモデムチップと、それを開発する
  メーカーとの関係が大きく影響しているのだが、5G対応の
  iPhoneが登場するのはいつになるのだろうか。
   国内でも5Gの商用サービスが始まったことから、スマー
  トフォンメーカー各社の5Gスマートフォンが次々と発売さ
  れている。5Gの商用サービスは海外で先行して展開してい
  ることから、主要な海外メーカー大手は既に幾つかの5Gス
  マートフォンを投入。国内でも既にサムスン電子が「ギャラ
  クシーS20」、ファーウェイが「ファーウェイメイト30
  プロ5G」を提供している他、日本に進出して日が浅いオッ
  ポやシャオミが、KDDI(au)やソフトバンクの5Gス
  マートフォンラインアップに顔をそろえるなど、5Gを機と
  して国内での足掛かりを強化しようとしている様子がうかが
  える。そして海外メーカーだけでなく、国内のメーカーも日
  本での商用サービス開始に照準を合わせて5Gスマートフォ
  ンの開発を進めてきたことから、各社が次々と5Gスマート
  フォンを投入してきているようだ。実際、シャープは、NT
  Tドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社が商用サービスを
  開始するのに合わせて、5G対応スマートフォン「アクオス
  R5G」をいち早く発売しているし、ソニーモバイルコミュ
  ニケーションズの「エクスペリア1−U」も、KDDIから
  5月22日に発売された。    https://bit.ly/3nAeaYx
  ──────────────────────────

CPUとSoC.jpg
CPUとSoC.





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2020年10月13日

●「『中国製造2025』実現絶望的」(EJ第5348号)

 ICTの話はひとまずおいて、話を元の米中制裁まで戻すこと
にします。米国はなぜファーウェイを排除しようとしているので
しょうか。それは、間違いなく達成できることなのでしょうか。
 ファーウェイは、携帯電話の基地局で、30%を超えるシェア
を有しています。2019年度の「通信基地局の売上高シェア」
は次の通りとなっています。
─────────────────────────────
       ファーウェイ ・・ 34・4%
        エリクソン ・・ 24・1%
          ノキア ・・ 19・2%
          ZTE ・・ 10・2%
       サムスン電子 ・・  8・9%
          その他 ・・  3・2%
                     ──英オムディア
        ──2010年10月11日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 ファーウェイは、現在のところ通信基地局のシェアで、フィン
ランドのノキア、スウェーデンのエリクソンと首位を争っており
現状は34・4%と、2位のエリクソンを10%以上離してトッ
プです。4位のZTEも中国であり、この分野での中国のシェア
は44・6%と圧倒的です。しかも、5G関連の必須特許のシェ
アは、ファーウェイは11%で、首位の米クアルコムに次いで第
2位を占めています。
 しかし、2019年春からの米政府による取引禁止などの制裁
によって、ファーウェイの基地局ビジネスは、拡大させることが
苦しくなっています。なぜなら、米国の制裁によって、世界の多
くの通信会社が5Gにおいては、ファーウェイの機器を採用しな
くなったからです。これについて、上記の日本経済新聞は、次の
ように書いています。
─────────────────────────────
 ファーウェイを多く使ってきたノルウェーの携帯電話会社テレ
ノールは、5Gコアネットワークでエリクソンを選定した。これ
までファーウェイを容認してきた英国も7月に完全排除の方針を
打ち出しており、フランスも事実上制限する。エリクソンの幹部
は「通信会社は入札からファーウェイを排除する。自然と他社の
シェアが増えていく」と話す。
 「脱ファーウェイ」は、日本でも進む。ソフトバンクは新規に
建設する基地局に関してはファーウェイを採用しない。楽天はN
ECや提供する米アルティオスターなどを中心に基地局を採用す
る方針だ。これまで世界市場で競争力に乏しいとされてきたNE
CもNTTと提携し、日本を中心に基地局の拡販を進める。
        ──2010年10月11日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 現在、米商務省は、ファーウェイとその関連会社68社をEL
(エンティティリスト)に入れています。これにより、米国企業
の技術や製品の輸出が事実上禁止されます。正確にいうと、そう
いう技術や製品の輸出のさい、BIS(アメリカ合衆国産業安全
保障局)の許可が必要になるのですが、実際上は「不許可前提」
の運用がなされることは確実です。
 この場合、米国以外の他国の製品や部品であっても、その製品
中に米国原産技術が25%以上含まれるものは、米国産として扱
われ、規制の対象になります。さらに米国政府は、状況によって
は、そのパーセンテージを25%から10%に強化することもで
きるとしています。
 これに関連して、日本経済新聞では、専門の調査会社フォーマ
ルハウト・テクノ・ソリューソンズ(東京・江東区)の協力を得
て、ファーウェイの最新5G基地局のベースバンドと呼ばれる基
幹装置を分解して調べた結果を記事にしています。
─────────────────────────────
 基地局の推定価格1320ドル(約13万9000円)のうち
中国企業が設計した部品の比率は約48%、このうち4分の1は
ファーウェイが台湾の台湾積体電路製造(TSMC)に製造委託
する中央処理装置と呼ばれる半導体だ。暗号処理などを手掛ける
基幹部品だが、米国の技術を使い、TSMCが生産している。
 中国設計のうち6割についても、TSMCが製造に関与した可
能性がある。米国の規制強化でこうした部品が使えなくなる恐れ
があり、「純中国製」と呼べる比率は1割を下回る計算になる。
 調査で目立ったのが米国製品への依存で、使用比率は27・2
%に上った。最新のスマホでは米国部品比率を1%にまで減らし
ているが、基地局は「脱米国」が遅れている。
        ──2020年10月11日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 実は基地局の技術には、米国の原産技術がギッシリなのです。
ソフト制御で内部の通信方式を最新に切り換える役割である半導
体「FPGA」は、米国のラティスセミコンダクタ、ザイリンク
ス製であるし、電源を制御する半導体も、米テキサス・インスツ
ルメンツ(TI)製、記憶装置も米サイプレスセミコンダクタ製
その他、米ブロードコムの通信スイッチ部品、米アナログ・デバ
イセズの増幅部品など、数々の珠玉のような電子部品は多くは、
すべて米国製であり、中国といえども、そう簡単に独自部品が作
れるとは思えないのです。
 ちなみに、米国製品以外で多いのは、韓国のサムソン電子であ
り、メモリーなどは韓国製品です。しかし、日本もTDKやセイ
コーエプソンの部品は入っているものの、存在感を示すには、ほ
ど遠い状況です。
 この状況で米国の制裁がさらに強化されると、「韓国製造20
25」の達成は苦しくなります。習近平政権は、牙をあらわすの
が早過ぎたのです。この傾向は、たとえバイデン政権になっても
米国の中国に対する姿勢は変わることはないのです。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/092]

≪画像および関連情報≫
 ●米、中国5社との取り引き禁じる法律 13日施行/
  日本企業の対応は
  ───────────────────────────
   アメリカ政府は、ファーウェイなど中国の5社のハイテク
  製品を使用する企業との取り引きを禁じる法律を8月13日
  施行します。
   日本企業を含めて実質的にアメリカ政府と中国企業のどち
  らを選ぶか迫る内容で米中の対立の影響が一段と広がること
  になります。アメリカの政府機関と取り引きがある日本企業
  はおよそ870社にのぼり、取り引き金額は年間1500億
  円を超えています。
   各社は今後、新たな契約を結ぶ際などに対象の製品を使っ
  ていないという証明を求められる見通しで、米中の対立の影
  響が一段と広がることになります。アメリカ政府は、このほ
  かにも動画共有アプリ「TikTok」の運営企業など中国
  のIT企業2社との取り引きを禁じる方針で情報通信やハイ
  テク分野での覇権争いが激しさを増しています。
   法律の施行で日本の大手企業では、中国企業5社の製品か
  らほかの会社の製品に切り替える動きがありますが、取り引
  き禁止の影響がどこまで及ぶのかは不透明だとして企業の間
  からは今後のアメリカ政府の対応を見極めたいという声も出
  ています。このうちグループの会社がアメリカ政府と取り引
  きしているNTTは、中国企業5社の製品を海外で使ってい
  る事例があり、ほかの企業の製品に順次切り替えているとい
  うことです。ソフトバンクも通信規格が「4G」の通信設備
  の一部でファーウェイなどの製品を使っているため切り替え
  を進めています。        https://bit.ly/3iPZ6Tf
  ──────────────────────────

中国の「フル5G」ネットワーク構築.jpg
 
"中国の「フル5G」ネットワーク構築
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2020年10月14日

●「東芝機械COCOM違反事件概要」(EJ第5349号)

 米国による中国への締め付けは強烈です。FIRRMAとEC
RAを使って、中国をがんじからめにしています。簡単に整理す
ると次のようになります。
 FIRRMAは中国による米国への投資を規制するものです。
それとは逆に米国から中国への投資を規制するのがECRAとい
うことになります。米国の安全保障にかかわる技術や製品の輸出
をいっさい禁止するものです。かつて、共産圏への軍事技術や戦
略物資の輸出を禁止したCOCOMになぞらえて、「新COCO
M」と呼ばれています。
 実は、日本はCOCOMには苦い経験があるのです。1987
年の「東芝機械COCOM違反事件」です。ECRAがどういう
ものであるか知るために、これがどのような事件であったか、概
略について以下に説明します。
 当時静岡県沼津市に本社を置く東芝機械という企業があったの
です。国内の工作機械メーカーの大手であり、総合電気メーカー
東芝の子会社です。東芝グループ全体に占める東芝機械の売り上
げは、せいぜい10%程度ですが、共産圏への輸出額は20%を
占めていたのです。
 1982年12月から1984年にかけて、伊藤忠商事とその
ダミー会社の和光交易を通じて、ソビエト連邦技術機械輸入公団
へ「工作機械」8台、その工作機械を制御するための装置とソフ
トウェアを、ノルウェー経由で輸出したのです。この機械は、同
時9軸制御が可能な高性能モデルであり、その輸出については、
対共産圏輸出統制委員会(COCOM)違反として禁止されてい
ることを知ったうえでの輸出であったのです。
 今から考えると、日本としては、かなり危ないことをやったも
のですが、当時日本は高度成長期にあり、エコノミックアニマル
といわれ、儲かるものであれば、多少リスクがあっても、何でも
やるというところがあったのです。
 東芝機械と伊藤忠商事はもちろん、担当した和光交易の社員も
ソ連から引合のあった「工作機械」は共産圏への輸出が認められ
ていない点を認識した上で、輸出する機械は、「同時2軸制御の
大型立旋盤」の輸出であるとの偽りの輸出許可申請書を作成し、
海外にて組み立て直すとして契約を交わして輸出しています。輸
出を管理する通商産業省もこの許可申請が虚偽であることを見抜
けなかったのです。
 しかし、この輸出事件は、和光交易の社員の密告によって米国
の知るところになります。密告に基づく米国の調査により、この
機械は、ソヴィエトの原子力潜水艦のスクリュー音の静粛性向上
に大きく貢献し、多くの米国軍人の命が危険にさらされたと結論
づけ、当時の佐々淳行内閣安全保障室長に連絡してきたのです。
 これに対して、米国政府は、東芝機械の他、東芝を始めとする
東芝グループ全社の製品を輸入禁止にするなど、問題に対して厳
しく対応したのです。
 この一大不祥事に対して、時の中曾根康弘総理大臣は、田村元
通産大臣を米国に派遣し、キャスパー・ワインバーガー米国防長
官に正式に謝罪したものの、米国の怒りは、なかなか解けなかっ
たといいます。
 当時の米国の怒りがどんなにすさまじいものであったかを知る
文章があります。この事件によって、日本がエコノミック・アニ
マルと呼ばれる原因になったのです。当時内閣安全保障室長時代
国際インテリジェンスーオフィサーをしていた人物によるこの事
件の詳しい記述です。このなかに米国の怒りについて次のように
書かれています。
─────────────────────────────
 1987年6月28日、ときのワインバーガー米国防長官が、
この事件について日本の外務、通産、防衛の各大臣・長官と国家
公安委員長のいずれも「PooPoo(いい加減)でやる気なし」とし
て中曽根康弘総理に直接抗議し、善処を要請するとして凄い剣幕
で来日した。アメリカは、東芝機械のココム規制違反で本土がソ
連原潜のSLBM攻撃にじかに曝されたとして反日感情が高まり
東芝機械が「東芝」と報道されたことから上院議会は包括貿易法
案に東芝製品の輸入禁止の修正条項を加えることを可決し、法案
は翌年に成立して94年のココム撤廃まで対日貿易制裁として効
力を持ち続けた。          https://bit.ly/2IeSvF9
─────────────────────────────
 東西冷戦の終結にともない、COCOMは有名事実化し、その
後米国は、軍事転用が可能になる品目の輸出に関しては、商務省
産業安全保障局(BIS)がEAR(輸出管理規制)というルー
ルによって管理していたのです。それを今回、中国を念頭にCO
COMを復活させたというわけです。
 こうした米国の中国に対する規制は、トランプ大統領の「中国
憎し」の感情で行われていると考えている人がいますが、それは
違っています。これは、2018年に議会が成立させた国防権限
法と前述のEARによって行われているものであり、トランプ大
統領は、議会の指示に従っているに過ぎないのです。したがって
たとえ大統領がバイデン氏になったとしても何の変化もないので
す。もし大統領が何もしないとしたら、国防権限法に違反してい
るとみなされてしまうからです。
 日本にもこうした輸出管理問題に関する機関があります。「C
ISTEC」といいます。1989年に設立された機関ですが、
企業などに貿易規制を指導しており、すでにECARへの対応に
動き出しています。ECARが制限している最先端技術は14分
野ですが、CISTECは、それが増える可能性を指摘していま
す。CISTECは次の言葉の頭文字です。
─────────────────────────────
 ◎CISTEC/安全保障貿易情報センター
  Center for Information on a Security Trade Control ─────────────────────────────
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/093]

≪画像および関連情報≫
 ●たとえ政権が変わっても米国の中国敵視、後戻りせず
  ───────────────────────────
   2020年6月30日に施行された中国の香港国家安全維
  持法が中国をめぐる国際関係に大きな渦を生み出している。
  もともと中国に対して競争心をむき出しにしていた米国は言
  うまでもないが、これまで中国との関係を慎重に扱っていた
  EU諸国も国安法に強い懸念を抱き、対中制裁措置へと動い
  ている。7月23日、ポンペオ米国務長官が行った「共産主
  義中国と自由世界の未来」と題する歴史的演説も、この流れ
  の中にある。
   この演説の中で、ポンペオ国務長官は、ニクソン大統領以
  来の対中エンゲージメント(関与)政策は失敗であり、自由
  世界は中国の圧政に勝利しなければならないと訴えた。にわ
  かに風向きが変わった。「自由世界VS共産世界」という冷
  戦時代を特徴づけたフレーズがよみがえったかのようだ。ポ
  ンペオ長官の演説の表題はそのものずばりだ。ただし、共産
  世界の中心はソ連ではなく中国に移っている。国際政治の世
  界に何が起こっているのか。
   冷戦に先立つ世界大戦では、独、仏、英、露といった欧州
  の大国、日本というアジアの大国、そして米国という地域大
  国間の勢力争いだった。欧州ではドイツ、アジアにおいては
  日本が勃興し、地域の覇権を握ろうとしたのに対し、対抗す
  る大国がそれを阻んだというわけだ。
                  https://bit.ly/2GV4VBV
  ──────────────────────────


ワインバーガー元米国防長官.jpg
ワインバーガー元米国防長官

      
 
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2020年10月15日

●「不可解極まる中国との政治3原則」(EJ第5350号)

 コロナ禍で世界中がその対策に追われるなか、中国の公船が連
日尖閣諸島に接近し、その接続水域や日本の領海に頻繁に出入り
しています。かかる事態に対し、国際ジャーナリストの高橋浩祐
氏は、次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 世界各国が新型コロナウイルスの感染対応に追われるなか、中
国は引き続き、その間隙を縫うようにして尖閣諸島周辺への接近
を増やし、存在感を高めている。海外の識者からは「日本はそろ
そろ尖閣諸島をめぐって、中国に対してレッドライン(越えては
ならない一線)を示す必要があるのではないか」との声も上がっ
ている。海上保安庁のデータによると、1〜8月の中国公船によ
る尖閣諸島接近は前年同期比では5・3%増えた。873隻の内
訳は66隻が領海(沿岸から約22キロ)への侵入、807隻が
接続水域(領海の外側約22キロ)内での確認となっている。
                  https://bit.ly/34ROnCI
─────────────────────────────
 意図的に他国の領海に侵入する──これはとんでもないことで
す。普通の国であったら、こういう事態が起きると、最悪の場合
戦争になります。それなのに、日本のマスメディアは、なぜか、
淡々とその事実をニュースとして流すだけで、中国を批判しませ
ん。それどころか、尖閣諸島に中国の公船が接近することなどは
日常茶飯事になっており、接続水域に侵入する程度ではニュース
にならないとして報道すらしない場合も少なくないのです。一体
どうなっているのでしょうか。
 これは、日本と中国の間で、「日中記者交換協定」が結ばれて
いるからなのです。このことは、前にも一度EJで取り上げてい
ますが、今回は少し深掘りしてみることにします。
 1964年(昭和39年)当時中国との貿易は、「LT貿易」
の枠組みのなかで行われていたのです。さて、この「LT貿易」
とは何でしょうか。
 「LT」とは、覚書に署名した中華人民共和国側代表廖承志ア
ジア・アフリカ連帯委員会主席の「L」と、中日友好協会長と日
本側代表高碕達之助(元通商産業大臣)の「T」の頭文字をとっ
て、「LT貿易」と称したのです。このLT貿易のさい、中国と
「日中記者交換協定」が締結され、次の9つの報道機関が北京に
記者を常駐できるようになったのです。
─────────────────────────────
       読売新聞     西日本新聞
       朝日新聞      共同通信
       毎日新聞       NHK
      ※産経新聞       TBS
     日本経済新聞       ※ 産経新聞は現在離脱
─────────────────────────────
 1967年(昭和42年)3月、LT貿易は計画の期限を迎え
て、新たに「日中覚書貿易会談コミュニケ」が交わされ、覚書貿
易(MT貿易)へ移行しています。このさいの「MT」の意味は
人の名前ではなく、Memorandum Trade のMTです。
 そのさい、記者枠を5人に減らすとともに、双方が遵守される
べき原則として、次の政治3原則が決められています。
─────────────────────────────
 @日本政府は中国を敵視してはならない。
 A米国に追随して「二つの中国」をつくる陰謀を弄しない。
 B中日両国関係が正常化の方向に発展することを妨げない。
─────────────────────────────
 これが問題なのです。これによって、中国は、日本のメディア
の報道をチェックし、この3原則に反していると中国が判断した
ときは、日本に抗議を行い、記者追放の処置をとったのです。こ
れもあまりにも一方的な協定ですが、相手は社会主義国家である
ことと、国交正常化前ということもあり、仕方がないという考え
方もあります。しかし、問題はこれからです。1972年(昭和
47年)9月に日中国交が正常化し、日本と中国の関係は新しい
関係に移行したことにより、「日中記者交換協定」も新しく改定
されたはずですが、なぜかその内容は公表されていないのです。
 文化大革命のときの話です。中国政府は、日本のマスメディア
に対して台湾支局の閉鎖を要求したのです。これに対して、ほと
んどのメディアは、その要請にしたがい、台湾支局を閉鎖し、北
京に支局を開局していますが、産経新聞だけはこれに強硬に反対
し、1967年(平成10年)までの31年間、北京に支局を置
くことはなかったのです。メディアのなかで産経新聞だけがスジ
を通したことになります。
 現在も公式には認めていないものの、間違いなく中国との間に
「政治3原則」は生きています。2016年6月に中国海軍の軍
艦が尖閣諸島周辺の接続水域に侵入し、さらに15日には鹿児島
県の口永良部島周辺の領海に侵入したことがあります。日本政府
は中国への抗議を重ねたものの、中国はどこ吹く風で、8月初旬
には、尖閣沖の接続水域に中国海警局の公船と約230隻の中国
漁船が入り込んだことがあります。
 普通の国であれば直ちに戦争です。なぜなら、自国に土足で踏
み込んできたからです。主権の著しい侵害です。しかし、日本の
メディアの報道はソフトそのもの。朝日新聞は次のように書いて
います。中国海軍の行動は容認できないとするものの、話し合い
が必要だと書いているのです。敵視していないのです。
─────────────────────────────
 危機をあおるのではなく、目の前の危機をどう管理するかだ。
海上保安庁や自衛隊が警戒を強めることは必要だが、それだけで
不測の事態を回避することは難しい。政治、外交、軍事、経済、
文化など幅広い分野で、重層的な対話の回路を広げていく必要が
ある。        ──朝日新聞 https://bit.ly/2SPaUKO
─────────────────────────────
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/094]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ国会は中国を論じないのか
  ───────────────────────────
   日本にとって中国という国家の存在がますます重みを増し
  てきた。この巨大な隣国をどう考えればよいのか。どう接す
  ればよいのか。その国家の本質をどう認識すればよいのか。
  いまの日本では、官も民もこぞって論じ、語るべき対象であ
  る。日本にとって中華人民共和国という国家がいかに重要か
  ――よい意味でも悪い意味でも――は、まず新型コロナウイ
  ルスの大感染をみれば、まず最も容易に理解できよう。この
  恐るべきウイルスが中国で発生し、海を越えて日本に侵入し
  てきた事実は誰にも否定できないだろう。日本をこれほど傷
  つけたコロナウイルスがなぜ、どのように中国から入ってき
  て、日本を麻痺させたのか。
   次にわかりやすい中国の重要性は尖閣諸島の日本領海への
  中国の武装艦艇の侵入である。つい最近も3日にわたり、中
  国の武装艦艇が日本領海に侵入して、操業中の日本漁船を恫
  喝し、駆逐した。日本の主権の侵害である。
   一方、日本にとって経済面での中国との絆も重要である。
  だがその絆にはさまざまなしがらみがつきまとう。日本の産
  業界への妨害や威嚇もある。だが中国の巨大市場の魅力も、
  サプライチェーンという言葉で象徴される中国の生産拠点と
  しての価値も、日本にとって重要である。
                   https://bit.ly/34TL7GZ
  ───────────────────────────

尖閣諸島を守る海上保安庁巡視艇.jpg

 
諸島守る海尖閣を上保安庁巡視艇
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2020年10月16日

●「台湾に世界の注目が集まっている」(EJ第5351号)

 今、台湾という国に世界の注目が集まっています。米中の対立
によってこの国の重要性が際立ってきています。台湾について少
し考えてみることにします。
 「アルバニア決議」というのをご存知でしょうか。
 この決議は、現在の中国、中華人民共和国が、国連において、
安保理常任理事国の座を獲得した第2758号国連決議のことで
す。1971年10月25日のことです。なぜ、アルバニア決議
というのかというと、共同提案国23ヶ国のうち、とくに友好国
のアルバニア共和国の名前をとったからです。両国は、ともに共
産主義国家でありながら、ソ連修正主義には反旗を翻し、お互い
に助け合ってきたからです。
 これによって、中華民国(台湾)は、安保理常任理事国の地位
を失い、本会議は決議に「蒋介石の代表を国連から追放する」と
いう一文を掲げたのです。これに抗議して、中華民国は国連を脱
退しています。
 このとき、日本と米国は、中華民国(台湾)を国連から追放す
ることに反対し、とくに日本は、中華民国の議席追放反対と、二
重代表制を求める決議を提出していますが、否決されています。
これについて、当時の佐藤栄作首相と福田赳夫外相は、次のよう
に述べています。
─────────────────────────────
◎佐藤栄作首相
 政府は、国連の決定を尊重し、中華人民共和国の国連参加を歓
迎するものであります。政府のとった処置は国連で否決されまし
たが、結果的に見て、わが国の長期的な国益に沿うものであるこ
とを確信するものであります。
◎福田赳夫首相
 この決議案には敗れました。しかし、敗れたりといえども、私
は、わが日本国は国際社会において信義を守り通した。また、筋
を通し抜いた、このことにつきましては、国民各位にぜひ誇りを
持っていただきたいのだということを申し上げまして、お答えと
いたします。           ──渡邊哲也著/徳間書店
            『「新型コロナ恐慌後の世界」』より
─────────────────────────────
 1971年、米国のキッシンジャー国務長官が中国を訪問し、
翌年の72年にニクソン米大統領が中国を電撃訪問しています。
いわゆるニクソンショックです。日本もこれに連動して、田中角
栄首相が訪中し、1972年に国交を回復しています。米国も、
相次いで1979年に国交を回復しています。
 しかし、国交回復のさい、中国の強い要請により、米国と日本
は台湾との国交を断絶せざるを得なくなったのです。中国の要請
とは、「台湾は中国の一部であり、中国はひとつであることを認
めよ」というものです。
 多くの人は、日本は中国のいう「ひとつの中国」を認めている
と思っています。しかし、本当にそうでしょうか。国交回復時の
日本政府と中国政府の共同声明は次のようになっています。
─────────────────────────────
 中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分
の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人
民共和国の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第8項に基
づく立場を堅持する。        https://bit.ly/3177o2R
─────────────────────────────
 この表現によると、中国が「台湾は中国の一部である」と主張
していることに対して、日本政府は理解を示し、尊重するといっ
ているだけです。日本は台湾が中国の一部であると認めたわけで
はないのです。
 米国の場合はどうでしょうか。
 米国の場合は、アジアの軍事バランスのことを考えて、台湾と
「米華相互防衛条約」を結んでいたのです。そのため、米国は、
1979年の米中国交回復と同時に、台湾関係法を施行していま
す。これは、事実上の軍事同盟といえます。
 台湾は、1895年に日清戦争の結果として下関条約が締結さ
れると、台湾島と澎湖諸島については、清から日本に割譲され、
第2次世界大戦終了までは日本が統治していたのです。そういう
こともあって、日本は、台湾との断交後も経済と政治の協力体制
を続けてきているのです。
 国交がなく、政府間外交はできないので、政党間外交を行い、
現在までそうしてきています。とくに自民党の青年局は、台湾の
窓口機関になっているのです。これは、当時の海部俊樹青年局長
・小渕恵三青年部長が、台湾の蒋経国(後の中華民国総統)との
間において、「両国間の窓口を自由民主党青年局および中国青年
反共救国団(現在の中国青年救国団)とする」と合意したことに
遡るのです。
 歴代の自民党青年局長といえば、17代の麻生太郎副総理・財
務相、31代の安倍晋三前首相をはじめとして、32代の岸田文
雄元外相、35代の下村博文元文科相、41代の萩生田光一文科
相というように有名政治家が続き、44代に小泉進次郎環境相が
就任しています。そして、菅政権では、安倍前首相の実弟の岸信
夫防衛相が日華議員懇談会の幹事長を務めています。これについ
ては、9月23日のEJ第5334号で述べています。
 10月26日から11月5日まで、沖縄周辺の海域で、日米統
合演習「Keen Sord(鋭利な刀)」 が行われることになっていま
す。その規模は尋常ではないのです。自衛隊約3万7000人、
艦艇約20隻・航空機170機に米軍は約9000人、海軍・海
兵隊・空軍、カナダ軍ハリファクス級フリゲートの総勢約4万6
000人が参加する参加する大演習です。問題は、なぜこの時期
に、この場所で行われるのでしょうか。
 一説によると、米大統領選を含むこの時期が台湾が最も危険で
あるからです。中国による「台湾強襲」も考えられるからです。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/095]

≪画像および関連情報≫
 ●台湾はいつまで現状を保てるか─習近平ですら描けない統一
  への道筋
  ───────────────────────────
   「われわれには、あらゆる形式の『台湾独立』(台独)の
  企てをくじく確固たる意思と、十分な自信と能力がある。い
  かなる者、いかなる組織、いかなる政党がいかなる時、いか
  なる形式で、中国のいかなる領土を切り離すことも決して許
  さない」くぐもった声の習近平総書記がこう台湾政策を締め

  くくると、人民大会堂のホールは大きな拍手に包まれた。台
  湾独立への厳しい警告だ。
   10月24日まで開かれた中国共産党第19回党大会。台
  湾では、習氏がここで「台湾統一のスケジュールを打ち出す
  のでは」との観測がしきりだった。だがふたを開ければ「平
  和統一、一国二制度の方針」をはじめ「一つの中国」をめぐ
  る「92年合意の承認」「両岸関係の平和的発展」「平和統
  一のプロセスを推進」など、江沢民、胡錦涛の前指導者が敷
  いたレールをなぞるだけで、統一の時間表は設定しなかった
  のである。
   台湾総統府は「両岸の安定維持というわれわれの立場は明
  確だ」と、現況維持と安定を求める抑制の効いたコメントを
  発表したが、「ほっとした」のが本音だろう。習氏は建国百
  年を迎える今世紀半ば(2049年)にアメリカと肩を並べ
  る「世界トップレベルの総合力と国際的影響力を持つ強国」
  にする野心的目標を設定した。  https://bit.ly/2H3wo3Z
  ───────────────────────────

日中国交回復.jpg
 
日中国交回復
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2020年10月19日

●「25年までに必ず起きる台湾有事」(EJ第5352号)

 今週のEJは、10月16日のEJ(第5351号)の最後の
部分から始めます。そうです。沖縄周辺の海域で、日米共同統合
演習「Keen Sord(鋭利な刀)」 実施の話からです。
 なぜ、この時期に、沖縄周辺で日本と米国、そしてカナダも艦
艇一隻を派遣し、日米共同統合演習を行うのでしょうか。それは
中国が「台湾強襲Xデー」をこの時期に設定する可能性が高いか
らです。そのXデーは、10月26日から11月5日までの11
日間に設定されています。
 10月13日のことです。CNNは、次のような気になる記事
を発信しています。
─────────────────────────────
 香港(CNN)中国の習近平(シーチンピン)国家主席は13
日、南部・広東省の軍基地を訪れ、「戦争への備えに全身全霊を
注ぐ」よう部隊に求めた。国営新華社通信が伝えた。習氏は今回
潮州市に駐屯する人民解放軍海軍陸戦隊(海兵隊)を視察。兵士
らに「高度な警戒態勢を維持」するよう指示し、「絶対的な忠誠
と純粋さ、頼もしさ」を求めた。
 習氏が広東省を訪問したのは、14日に行われた深セン経済特
区設立40周年の記念式典で演説するためだった。深セン経済特
区は1980年代に外資誘致を目的に設立され、中国を世界2位
の経済大国に押し上げるうえで重要な役割を果たした。
 ただ、米中間では、台湾問題や新型コロナウイルスをめぐる見
解の相違が激しい対立を招き、過去数十年で最も緊張が高まった
状態が続いている。米議会スタッフによると、ホワイトハウスは
12日、連邦議会に対し、高機動ロケット砲システム(HIMA
RS)など3種類の先端兵器を台湾に売却する計画を通知した。
これに対し、中国外務省の趙立堅報道官は「台湾への武器売却計
画の即時中止」を米国に要求。台湾との軍事的なつながりを全て
断つよう求めた。          https://bit.ly/31fjnMa
─────────────────────────────
 尋常なことではありません。習近平国家主席が、戦争のさい、
真っ先に行動を起こす人民解放軍海軍陸戦隊(海兵隊)に対し、
「戦争に備えよ」と指示したのですから。新型コロナウイルスで
世界が苦しみ、混乱しているなか、中国はあえて戦争に言及して
みせたのです。海軍陸戦隊というのは、上陸作戦に投入される部
隊で、台湾や尖閣諸島への作戦を念頭に置いた部隊とみられてい
ます。これに対し、米海軍は14日、ミサイル駆逐艦「バリー」
を台湾海峡に派遣し中国を牽制したのです。
 まさか、この時期に戦争とは考えられないという人もいるかも
しれませんが、『文藝春秋』/2020年8月号に、朝日新聞編
集委員の峯村健司氏による10ページの次のレポートが掲載され
ています。台湾併合の戦争はあってもおかしくないのです。
─────────────────────────────
 ◎習近平の「台湾併合」極秘シナリオ/日本は確実に巻き込
  まれる         朝日新聞論説委員・峯村健司氏
─────────────────────────────
 峯村健司氏は、このレポートにおいて、台湾周辺を巡る軍事的
緊張の高まりについて、次のように分析しています。
─────────────────────────────
 2020年4月、空母「遼寧」を含む6隻の中国艦艇が台湾東
部と南部で軍事演習を実施した。これに対抗するように、米軍も
台湾周辺での活動を強めている。6月中旬には、台湾東部のフィ
リピン海に空母「ロナルド・レーガン」を展開させたほか、「セ
オドア・ルーズベルト」と「ニミッツ」も合同演習を実施。この
地域で空母が同時に3隻展開されるのは、朝鮮半島情勢が緊迫し
た17年11月以来のことだ。
 日本も無縁ではない。6月18日には国籍不明の潜水艦が奄美
大島沖の接続水域内を潜ったまま西進。防衛大臣の河野太郎(当
時)は会見で「中国のものだと推定している」と明かした。自衛
隊の探知能力に関わるため、潜水艦の国籍を公表するのは異例の
こと。最近の中国海軍の動きについて、自衛隊関係者は「前例が
ないほど活発になっている」と警戒する。台湾を巡るアジア情勢
は、すでに臨戦態勢に入ったと言ってよい。
             ──朝日新聞論説委員・峯村健司氏
              『文藝春秋』/2020年8月号
─────────────────────────────
 こういう情勢であるので、台湾有事はいずれ必ず起きますが、
日米プラスカナダが、米大統領選をはさむ10月26日から11
月5日までの11日間に中国が台湾併合のための戦闘を起こす可
能性は少なくなったといえます。なぜなら、中国は孫子の兵法の
国であり、負け戦は絶対にやらないからです。中台の安全保障が
専門の米シンクタンク「プロジェクト2049研究所」のイアン
・イーストン氏は、2020年中に中国の計画が実行される可能
性があるかどうかについて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 新型コロナによって国際情勢の先行きが不透明になり、計画は
遅れるかもしれません。それでも、2025年までに軍事侵攻し
た場合、成功確率は50%はあるとみています。
              『文藝春秋』/2020年8月号
─────────────────────────────
 かつて、マッカーサー元帥は、「台湾は空母20隻分の価値が
ある」といっていたのです。つまり、中国が台湾を手に入れると
東シナ海、南シナ海に空母20隻を手に入れたのと同じになると
いう意味です。これだけのメリットのある台湾併合を中国が諦め
るはずがありません。そう遠くない時期に中国は台湾に対して攻
撃を仕掛けるはずです。そのとき、日本は深刻な状況に陥るはず
です。台湾には、米軍基地がないので、在日米軍が日本から発進
することになるからです。そうすれば、日本は中国のミサイルに
よる攻撃を受ける恐れが十分にあります。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/096]

≪画像および関連情報≫
 ●「戦後日本を生きた世代は何を残すべきか」
  ───────────────────────────
   しばしば「戦後世代」という言葉を聞く。いったい何歳ぐ
  らいの人のことか。本書『戦後日本を生きた世代は何を残す
  べきか』(河出書房新社)は評論家の佐高信さんと、寺島実
  郎さんの対談だ。佐高さんは1945年生まれ、寺島さんは
  47年生まれ。ともに70代のシニア。「戦後の第一世代」
  だが、相変わらず意気軒高のようだ。「われらの持つべき視
  界と覚悟」という副題が付いている。
   佐高さんは慶應義塾大学卒。高校教員、経済誌編集長を経
  て評論家として独立、辛口の毒舌で知られる。多数の著書が
  ある。寺島さんは早稲田大学政経学部大学院修了。三井物産
  戦略研究所会長や日本総研理事長などを経て多摩大学学長。
  1994年には「新経済主義宣言─政治改革論議を超えて」
  (『中央公論』1994年2月号)で第15回石橋湛山賞を
  受賞している。テレビのコメンテーターとしてお見かけする
  ことも多い。
   二人は2歳しか年齢が違わないので、おおむね同世代と言
  える。寺島さんにとって、佐高さんは「兄貴のような存在」
  だという。おそらくはともに脱脂粉乳の給食で育ち、「三丁
  目の夕日」のような昭和30年代を経て地方から上京。19
  60年代後半の学生運動の高揚を、身近で見聞したことだろ
  う。その後、寺島さんは、大手商社員として「ジャパン・ア
  ズ・ナンバーワン」へと突き進む日本経済の躍進を自ら牽引
  し、佐高さんはその姿を、どちらかと言えば裏側からシニカ
  ルに見る立場だった。      https://bit.ly/3j6ZnRZ
  ───────────────────────────

台湾海峡を航行する米駆逐艦「バリー」.jpg
台湾海峡を航行する米駆逐艦「バリー」
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2020年10月20日

●「台湾に着々と手を打つ米軍事戦略」(EJ第5353号)

 台湾と韓国──ともにかつて日本が支配下においていた国です
が、現在の状況は真逆です。日本と韓国との関係については、元
徴用工訴訟をめぐり、泥沼の関係に陥り、これまでで最悪の状態
になっています。
 年内に開かれる予定の日中韓3ヶ国首脳会談は、今回は韓国の
担当であり、ソウルで開催されます。しかし、日本としては、徴
用工訴訟をめぐる状況が好転しない限り、参加できないことを菅
総理の意思として、韓国側に伝えています。これは、相当厳しい
措置であるといえます。
 しかし、台湾に関しては、日台断交にもかかわり、日台関係に
懸念を抱いていた岸信介元首相の娘で、安倍前首相の母であり、
安倍晋太郎氏の妻である安倍洋子氏がしっかりと関わり、現在で
は、安倍前首相の実弟である岸信夫防衛相が、日華議員懇談会の
幹事長として、しっかりと支えてきています。
 大きく報道されていないので、知らない人も多いと思いますが
現在の台湾の蔡英文総統は、2019年10月6日に、選挙前の
民進党主席の身分で来日し、キャピトル東急で安倍首相(当時)
と極秘会談、7日には安倍前首相の実弟・岸信夫(自民党衆院議
員/当時)が付き添い、山口県に行き、歓待を受けたことが伝え
られています。中国との関係で、総統に就任してからでは来日が
困難になるからです。日本と台湾の関係がわかると思います。
 日本と台湾と良好な関係が、単に首脳同士の関係だけでない証
拠に、2011年3月の東日本大震災のさい、人口約2400万
人の台湾から250億円という、各国のなかで最多の義援金が日
本に贈られたことでもわかります。
 しかし、震災発生当時の民主党政権は、そういうことをよくわ
かっていないのです。これについて、渡邊哲也氏は、次のように
書いています。
─────────────────────────────
 たとえば、東京で行われた1周年追悼式典で、当時の菅直人政
権は、台湾代表を外交団の来賓席ではなく、一般民間団体の席に
座らせている。また、震災発生から2カ月後の2011年5月、
日本政府は各国の支援に感謝の意を伝えるため、世界6ヶ国の新
聞に感謝広告を掲載したが、台湾の新聞には出さなかった。世界
一の支援をしてくれた台湾に対して、非常に無礼な対応を行った
わけだ。そこで、一民間人である木坂麻衣子(現在の私の妻)が
ソーシャルファンディングで資金を集め、民間で台湾の新聞に感
謝広告を出そうとツイッターで呼びかけたところ、日本じゅうか
ら、あっという間に多額の資金が集まり、日本人の有志というか
たちで台湾の主要新聞に広告を出すことができた。
 この当時は、まだソーシャルファンディングのためのプラット
フォームがなく、実績もないため、銀行口座の開設をするだけで
一苦労であり、通帳のコピーをすべて公開することで透明性をも
たせるかたちをとった。そして、余ったお金はすべて日本赤十字
社に寄付することで被災地にも貢献できた。
                 ──渡邊哲也著/徳間書店
            『「新型コロナ恐慌後の世界」』より
─────────────────────────────
 一方、米国は、トランプ政権になってから、軍事戦略を大転換
しています。そのため、台湾は米国にとっても重要な位置づけに
なるため、台湾との関係を強化させています。とくに2018年
は、台湾と関係する法案などが続々と成立しています。
─────────────────────────────
  2018年 2月:台湾旅行法成立
        5月:米下院で台湾の支持を再確認
        6月:米国在台湾協会新庁舎完成
        8月:国防権限法成立
─────────────────────────────
 米国在台湾協会とは何でしょうか。
 これは、事実上の米国大使館といわれるものですが、米国は総
工費5000万ドル(約278億円)を投じて、台北市東部に建
設し、2019年から本格的に業務を開始しています。職員は約
500人、警備のためと称して、米軍兵士も配置されています。
米国はこの施設を南シナ海問題における最大の司令塔として、機
能させようとしています。
 2020年1月10日、米国陸軍のライアン・マッカーシー長
官は台湾よりも南に2つの軍事基地をつくると発表しています。
この日は、台湾の総統選挙当日です。そのときのロイターは次の
記事を発信しています。
─────────────────────────────
 [ワシントン/10日/ロイター]─米陸軍のライアン・マッ
カーシー長官は10日、太平洋地域で中国に対し情報、電子、サ
イバー、ミサイル作戦を展開する2つの特別部隊を配備する計画
を明らかにした。部隊の展開は今後2年にわたる見通しだとし、
「中国が米国の戦略的脅威として台頭する」ため、米陸軍は太平
洋地域でプレゼンスを改めて拡大するとした。新たな部隊の配備
は中国とロシアがすでに備える能力の無効化に寄与する見通し。
                  https://bit.ly/34a03lj
─────────────────────────────
 元来アジアにおける米軍の最大拠点は、フィリピンのスービッ
ク海軍基地とクラーク空軍基地だったのですが、現在、使えなく
なっています。クラーク空軍基地は、1991年のピナツボ火山
の噴火で使用困難となり、これを機に、フィリピン政府の要請も
あって、米軍は2つの基地をフィリピンに返還しています。
 その後、オバマ米大統領とフィリピンのアキノ3世大統領の間
で、フィリピンに米軍基地を建設することで合意したものの、そ
の後、ドゥテルテ政権になったとたん、ストップし、ペンディグ
の状態になっています。その間に南シナ海では、中国軍の脅威が
再び拡大しつつあります。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/097]

≪画像および関連情報≫
 ●要警戒!アメリカの「新海軍戦略構想」
  ───────────────────────────
  (1)トランプ政権として、国防とくに海軍戦略について、
  第二次大戦以後、与野党を問わず一貫して採用してきたグロ
  ーバルな「前方展開戦略」を初めて改め、米本土防衛重視と
  本国沿岸に軍事資源をより集中させた「有事柔軟対応」への
  転換に取り組み始めたことを意味する。
   これまでは「前方展開戦略」を支えてきたのが、空母打撃
  群CSG展開と、日本など同盟諸国および友好諸国基地への
  兵力その他の軍事資源投入だった。とくに中東、台湾海峡、
  朝鮮半島有事の際には、それぞれの地域において米軍プレゼ
  ンスを維持することが、最大の抑止力になると考えられてき
  た。しかし、エスパー長官の頭の中にあるのは、戦力資材の
  常時海外配置ではなく、「可能な時に、有事の必要に応じて
  当該エリアに投入」というフレキシブルで機動性に富んだ対
  応だという。
   問題は、前線から米軍が一歩後退することによって生じる
  「空白」と「抑止力」の減退だ。とくに南シナ海においては
  最近、「セオドア・ルーズベルト」ほか数隻の米空母がコロ
  ナウイルス感染危機に見舞われた間隙を縫って、中国軍の空
  母打撃群が活発な軍事演習を行うなど、その存在を誇示しつ
  つある。今後、計画通りの戦略見直しが実施されれば、中国
  の太平洋における軍事プレゼンスが逆に増強され、結果的に
  米中超大国間の軍事バランスに動揺をきたすことにもなりか
  ねない。            https://bit.ly/3j7XkNr
  ───────────────────────────

米国在台湾教会.jpg
米国在台湾教会
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2020年10月21日

●「スービック米軍事基地の復活が鍵」(EJ第5354号)

 米国とフィリピンの関係がギクシャクしています。2014年
4月、当時のオバマ大統領とフィリピンのベニグノ・アキノ3世
大統領(当時)の間で、フィリピンに米国施設を建設することで
合意しています。さらに両国は、防衛協力強化協定(EDCA)
を締結し、スービック基地の復活を狙ったのです。
 しかし、ドゥテルテ政権になると、大統領はその合意に反対を
示し、ペンディングになってしまったのです。ドゥテルテ大統領
は、きわめて親日ですが、かなり反米です。米国とはどういうわ
けか、相性が合わないようです。
 ドゥテルテ政権は、中国から34億ドル(約3800億円)と
いう巨額の援助を受けています。その代りというか、EUからの
2億5000万ユーロ(約300億円)の無償援助を断っていま
すが、これは中国の顔を立てたかたちです。しかし、中国には心
を許していないしたたかさがこの大統領にはあります。
 そのフィリピンにとって最大の援助国は日本です。そして、日
本はフィリピンにとって最大の輸出相手国であり、中国に次ぐ2
番目の輸入相手国でもあります。防衛面でもその協力関係は強化
されており、ODAの一環として、海上自衛隊の練習機の貸与や
新造大型巡視船などがフィリピンに供与されています。
 2020年8月29日、ドゥテルテ大統領は、安倍首相の辞任
を受け、次の声明を出しています。マニラ発のレポートです。
─────────────────────────────
【マニラ=遠藤淳】フィリピンのドゥテルテ大統領は29日、安
倍晋三首相の辞任表明を受けて声明を出し、「彼の任期中にフィ
リピンと日本の2国間関係は戦略的なパートナーシップへと大き
く発展した」と述べた。日本の支援によるインフラ整備が進むな
ど、2国間関係が緊密になったことを評価した。
 ドゥテルテ氏は「ともに取り組み、なし遂げたことは、2国間
のより緊密な友好、協力関係の礎となった」と指摘。2017年
1月に安倍首相と昭恵夫人を南部ミンダナオ島ダバオ市の自宅に
招いたことに触れ、「彼は私とフィリピン人にとって、兄弟より
近い真の友人だ」と話した。安倍首相は17年、フィリピンに対
し、1兆円規模の経済支援を行う意向を表明。日本の支援の下、
フィリピンで初めてとなる地下鉄の整備が首都マニラで始まった
ほか、マニラと周辺都市を結ぶ南北通勤鉄道の建設が動き出すな
どしており、2国間の経済協力が進んでいる。
                  https://bit.ly/3o5up0i
─────────────────────────────
 2019年5月27日に、トランプ米大統領が国賓来日したと
き、これに連動するかたちで、米国議会の上院軍事委員会の一行
も来日していたのです。そして、5月末に来日したドゥテルテ大
統領と軍事的話し合いを持っています。その交渉の内容は長く途
絶えていた南シナ海での大規模合同演習の再開についての話だっ
たといわれます。
 しかし、その返事は、2020年2月11日、ドゥテルテ大統
領は、米国との合同演習を可能にする訪問軍地位協定(VFA)
を破棄すると通告してきたのです。ドゥテルテ大統領は、米国に
は、まだ頑ななのです。フィリピンの大統領は「1期6年で再選
なし」です。しかし、2022年6月の大統領退任まで待つわけ
にはいかない事情もあります。
 とくに重要なのは、かつてのスービック海軍基地を復活させる
ことです。現在でもスービック湾には、日本や米国の艦船の寄港
地にもなっており、2018年9月には、海上自衛隊護衛艦「か
が」が初の海外寄港として、スービック湾に入港し、ドゥテルテ
大統領は、「かが」に乗艦・視察しています。そのとき、大統領
は「日本との防衛協力を一層強化していきたい」と発言している
のです。これは、米国も中国も嫌だが、日本となら連携したいと
いっているのです。
 実際に2020年1月9日、茂木敏充外相がフィリピンを訪問
し、ロクシン外相と会談しています。マニラ発の日本経済新聞の
記事を示します。
─────────────────────────────
【マニラ=加藤晶也】茂木敏充外相は9日、訪問先のフィリピン
でロクシン外相と会談した。同国が中国と領有権を争う南シナ海
問題を巡り、法の支配の重要性を確認した。フィリピンによる日
本の防衛装備品購入でも意見交換し、両国の安全保障協力の推進
を申し合わせた。
 茂木氏は会談後の共同記者発表で「海上法執行や安全保障など
で幅広い分野で協力を深める」と述べた。ロクシン氏は「地域の
平和、安定、法の支配の維持のためにあらゆる場を通じて様々な
協力をする」と強調した。
 会談では北朝鮮の完全な非核化や北朝鮮による日本人拉致問題
の解決に向けた連携も確かめた。緊迫する中東情勢を巡っても議
論した。茂木氏はドゥテルテ政権が重視するインフラ開発を後押
しする考えを伝えた。両外相はマニラの主要な橋の耐震性を向上
させる事業への約44億円の追加の円借款に関する署名を交わし
た。この後、ドゥテルテ大統領とも会談し、南シナ海での航行の
自由と法の支配が重要だとの認識で一致した。
               https://s.nikkei.com/2Hgoi86
─────────────────────────────
 2019年2月のことだが、スービック湾にある造船所を運営
してきた韓国の中堅造船会社の現地法人が、現地の裁判所に会社
更生法の適用を申請したのです。フィリピンと韓国それぞれの金
融機関からの同社の負債総額は約13億ドル(約1430億円)
──フィリピン史上最大の経営破綻です。これに真っ先に動いた
のが中国企業。もし、ここを中国企業に取られると、大変なこと
になります。この件は何とかしのいだようですが、フィリピンに
は、今後日本がいろいろな面で、深く関わっていくことになるこ
とは確かなことです。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/098]

≪画像および関連情報≫
 ●ドゥテルテ大統領、コロナ禍で就任以来5回目のSONA
  (施策方針演説)(フィリピン)
  ───────────────────────────
   2016年にロドリゴ・ドゥテルテ氏が大統領に就任して
  から4年が経過した。憲法規定上、フィリピンの大統領任期
  は1期6年で再選は認められていないため、2022年5月
  の任期満了まで残り2年を切っている。ドゥテルテ政権は大
  規模なインフラ整備を推進する「ビルド・ビルド・ビルド」
  プログラムをはじめとする「主要社会経済政策10項目」を
  掲げ、歴代の政権には見られなかったスピード感と強固な姿
  勢で様々な政策を実行している。また、日本から見ると少し
  強権的・独善的に映るかもしれないが、麻薬・犯罪・汚職の
  撲滅といった目に見える形での改革も相まって、フィリピン
  国民からの高支持率を維持してきた。歴代政権は任期後半に
  入ると支持率が下がり、レイムダック(死に体)と揶揄され
  てきたが、ドゥテルテ政権はこの状態を維持したまま任期満
  了を迎えるであろうとの見方が強い。経済については閣僚に
  一任するスタンスをとり、自身は専ら治安改善・貧困対策に
  注力している印象のドゥテルテ大統領だが、任期後半の総仕
  上げに向けたこの重要なタイミングで思わぬ難敵が現れた。
  新型コロナウイルスである。フィリピンにおいては依然とし
  て感染拡大の勢いは止まることを知らず、特に足元では急速
  に状況が悪化しており、8月10日には1日当たりの感染者
  増加数は6958人と過去最多を記録し、累計感染者数は同
  日現在で136638人に上っている。
                  https://bit.ly/35aFPHm
  ───────────────────────────

フィリピン・ドゥテルテ大統領.jpg
 
フィリピン・ドゥテルテ大統領
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2020年10月22日

●「中国経済体制はドル本位制である」(EJ第5355号)

 いよいよ米国の大統領選まであと2週間です。戦後、再選に失
敗した大統領はたったの2人、カーターとブッシュ父しかおらず
現職が圧倒的に有利なはずです。しかし、支持率ではバイデン氏
が大きくリードしており、トランプ氏は米国流ドブ板選挙で、猛
然と追い上げてはいるものの、トランプ陣営はかなり苦戦を強い
られています。
 しかし、コロナ対策はともかく、経済政策ではトランプ政権の
政策は間違っておらず、この面での支持は高いのです。調査会社
ギャラップによると、「自分と家族の経済状況が4年前よりよく
なっているか」との問いに、56%が「イエス」と答えているの
です。この数字は、オバマ政権での45%よりも10%以上、上
回っています。
 さらに加えて、ジャーナリストの堀田佳男氏のレポートによる
と、激戦州のひとつであるペンシルベニア州では、4年前から共
和党の新規有権者登録数は19万8000人も増えています。こ
れに比べて民主党は2万9000人しか増えていないのです。ペ
ンシルベニア州のトランプ集会に参加したある支持者は、地元の
テレビ局に次のように話しています。
─────────────────────────────
 私は、トランプ氏が神によって、地上に送り込まれたと思って
います。冗談ではありません。──2020年10月19日発行
                   「日刊ゲンダイ」より
─────────────────────────────
 やっていることは一見むちゃくちゃに見えても、トランプ大統
領のやっている経済政策、対中国政策は正しく、中国は、それに
よって相当追い詰められ、ダメージを受けています。バイデン政
権になっても、対中国政策などの基本は変わることはないものの
バイデン政権では、トランプ大統領のように、ドラスティックに
はできず、中国はそこを狙っているものと思われます。
 2020年10月20日付の日本経済新聞に中国関連の次の記
事が掲載されています。
─────────────────────────────
 ◎中国成長率、「コロナ前」迫る/7〜9月4・9%
  財政出動は見込み薄
  【北京=川手伊織】中国経済が新型コロナウイルスまん延前
 の水準に回復しつつある。2020年7〜9月の前年同期と比
 べた実質経済成長率は4・9%に拡大し、19年通年(6・1
 %)に近づく。世界に先駆けて経済の正常化が進み、輸入も増
 加に転じた。ただ経済危機直後ほどの巨額の財政出動は見込み
 薄で、世界経済のけん引力には限界がある。
               https://s.nikkei.com/2IFcn4w ─────────────────────────────
 コロナ・ショックで世界中が苦しんでいるなか、コロナの発生
元である中国は、そのための十分な情報開示を怠り、コロナの拡
散によるパンデミックを起こさせ、世界中を大混乱に陥れた張本
人でありながら、いわば焼け太りで、早くも経済を急回復させつ
つあります。
 しかし、中国に、リーマンショックのときの勢いはないと上記
記事は書いています。リーマンショックのときは、世界中で需要
が蒸発するなかにおいて、中国は4兆元(当時の為替レートで約
52兆円)の大規模経済対策で景気を浮上させ、あっという間に
V字回復を成し遂げています。
 しかし、今回は、経済の実力を示す潜在成長率が低下し、大型
の財政出動は見込まれず、当時10%をゆうに超えていた経済成
長率は、7〜9月の実質経済成長率で約5%と、世界経済をけん
引する力はリーマンのときほど強くないということができます。
 現在、米中貿易戦争は、2020年1月15日、第一段階の経
済貿易協定に署名したことによる、いわば「休戦」の状態にあり
ます。この第一段階の貿易協定では、今後2年間で中国側が米国
産品の輸入を2000億ドル積み増すことになっています。これ
は、中国側が大きく譲歩する内容です。これが実行されると、中
国の対米輸出が横ばいの場合、対米貿易黒字が2000億ドル減
少することになります。
 実は、中国の経済には大きな泣き所があります。トランプ大統
領の仕掛けた、いわゆる米中貿易戦争は、その中国経済の泣き所
を衝いた巧妙な中国潰しなのです。中国の場合、他の先進国のよ
うに、大規模な量的緩和ができない事情にあります。中国のこの
重要な事実について考えていきます。
 かつてお金については「金本位制」がとられていました。金本
位制では、国家が保有する金の量によって、通貨の発行量が決ま
ります。もし国家の金の保有量の限度を超えて、通貨を発行する
と、通貨の信用が下落し、悪性のインフレになって、金融が崩壊
してしまいます。
 産経新聞特別記者の田村秀男氏は、中国の経済体制を「ドル依
存の経済体制」と呼び、次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国の通貨制度は「ドル本位制」とでも呼ぶべきもので、ただ
の紙切れにすぎない人民元札の価値がドル(を中心とする外貨)
によって裏付けられています。(中略)保有しているドルの量を
超えて、ドルの裏付けのない人民元を乱発すれば、中国経済は確
実に悪性のインフレに見舞われます。     ──田村秀男著
 『景気回復こそが国の守り脱中国、消費税減税で/日本再興』
                      ワニブックス刊
─────────────────────────────
 日米欧の中央銀行の場合、民間金融機関から国債などの証券を
買い上げて、資金供給しますが、中国の中央銀行である中国人民
銀行は、ドルを市中銀行から買い上げて通貨である人民元を発行
します。したがって、ドルの流入量が減ると、人民元発行が大き
な制約を受けることになります。米国は中国のこの弱点を衝いて
いるのです。   ──[『コロナ』後の世界の変貌/099]

≪画像および関連情報≫
 ●【田村秀男のお金は知っている】
  中国の通貨金融制度は実質的に「米ドル本位制」
  ───────────────────────────
   米紙ウォールストリート・ジャーナル13日付(電子版)
  が、「中国が世界経済回復を牽引できない理由」と題する解
  説記事を載せていた。2008年9月のリーマン・ショック
  時には、原材料などへの中国の需要急増が世界全体の成長を
  押し上げたのとは対照的に、中国は現在、景気刺激のための
  支出を抑制している。このため、リーマン危機のような役割
  を中国が果たすのは不可能とする中国市場依存度の高いドイ
  ツ工業団体代表の発言を引用している。中国市場にますます
  のめりこんでいる日本の経団連の楽観論とは大違いだ。
   同記事は習近平政権がなぜしょぼい景気対策しか打てない
  のか、について触れていない。評論家の石平さんから「田村
  理論」だと評されている拙理論なら答えは簡単だ。中国の通
  貨金融制度は実質的に「米ドル本位制」であり、ドルの流入
  具合が悪ければ財政・金融面での拡大策がとれないという欠
  陥がある。西側世界では米金融専門家を含め中国経済を市場
  経済と同列で論じるのが一般的だが、戦前からの中国共産党
  政策の歴史を綿密にたどってゆけば、いまなお財政・金融政
  策の基本は極めて特異なドル本位であることがわかる。
                  https://bit.ly/3j81dSw
  ───────────────────────────

中国の実質経済成長率(前年同期比).jpg
中国の実質経済成長率(前年同期比)

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2020年10月23日

●「香港問題は政治ではなく経済問題」(EJ第5356号)

 「中国の通貨制度はドル本位制である」──産経新聞特別記者
の田村秀男氏の、いわゆる「田村理論」といわれるものです。こ
んな歴史の教訓があります。1946年から1950年の「国共
内戦」──蒋介石率いる国民党対毛沢東率いる中国共産党の内戦
です。このとき毛沢東率いる中国共産党は、お金の規律をしっか
りと守ったのに対し、国民党は制限なくお金を刷って、悪性イン
フレを起こし、戦争に敗れています。
 「ドル本位制」であれば、中国はドルが大量に流入してくる仕
組みを作る必要があります。それがあるのです。中国の主なドル
の流入源は、貿易などの国際収支の黒字のほか、外国による対中
投資、それに外国からの借金です。借金してドルを補充するので
す。とにかくドルの流入を増加させることに加えて、ドルが流出
しないよう対外送金を厳しく規制するのです。
 中国の対外貿易黒字は、2019年度は全体で年間4300億
ドル、そのうち対米は約3000億ドルであり、大半は対米貿易
黒字(米国からは対中貿易赤字)です。中国は、この対米貿易黒
字のお蔭で大量の人民元を発行でき、中国経済をここまで成長さ
せてきたのです。
 添付ファイルのグラフを見てください。このグラフは2009
年以降の米国の貿易赤字累積額と中国の人民元発行量増加額(兆
ドル)の関係を示しています。棒グラフが米国の対中貿易赤字で
あり、折れ線グラフは人民元発行量増加額を示しています。中国
の経済成長は、人民元の発行量で決まりますが、それは保有する
ドルの量で決まります。そうであるとしたら、中国の経済成長は
ドルしだいということになります。
 トランプ米大統領は、そこを衝いてきたのです。「この膨大な
貿易赤字を解消せよ」と。これは「これ以上ドルは渡さないぞ」
という宣言です。これを解決しようとすると、中国に流入するド
ルの量が減少し、その分人民元が発行できなくなります。トラン
プ政権は、中国の泣き所を衝いているのです。
 これについて、産経新聞特別記者の田村秀男氏は、自著で次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 これまで中国は対米貿易黒字でドル(外貨)さえ稼いでいれば
それを元手に人民元を発行して経済を成長させることができまし
た。成長著しい中国市場には海外からの投資でさらにおカネが集
まります。儲かる£国市場に進出したい外国企業に対し、共
産党政権は、マーケットへの参入条件として特許や技術、ノウハ
ウを半強制的に提供させるなど、やりたい放題好き勝手にやって
きました。
 それにNO≠突きつけたのがトランプ政権です。トランプ
政権の村中強硬策の基本路線は、これ以上アメリカの貿易赤字で
中国にドルを稼がせない(貿易収支の是正)、先進国の技術や特
許を盗ませない(知的財産権の保護)というスタンスで一貫して
います。          ──田村秀男著/ワニブックス刊
 『景気回復こそが国の守り脱中国、消費税減税で/日本再興』
─────────────────────────────
 多くの人は香港問題を「政治問題」と捉えています。一国二制
度を守ろうとする香港の若者の運動をつ、中国共産党政権が力づ
くで押さえ込もうとしているように見えます。
 しかし、田村秀男氏によると、これは「経済問題」であるとい
うのです。香港では、「カレンシーボード」という一種の固定相
場制が採用されています。少し専門的ですが、カレンシーボード
は、次のような制度です。
─────────────────────────────
 カレンシーボード(中国語名称、貨幣局)制度は、厳格な為替
管理または為替介入といった非市場的・人為的手法によって相場
を固定させるのではなく、金・銀本位制同様、いわば市場的な方
法に基づく固定相場制である。理論的には、通貨の発行にあたっ
て、100%同額の外貨準備を保有し、(通常、基軸通貨の米ド
ル)、固定相場で基軸通貨との交換を完全に保証する仕組みで、
現金・預金間の金利裁定と為替裁定を通じ、預金通貨も含めて固
定相場が維持される。        https://bit.ly/31sacbk
─────────────────────────────
 カレンシーボードは固定相場制なのですが、香港金融管理局が
香港ドルの対米ドルレートを固定し、3つの銀行が手持ちの米ド
ル資産に見合う香港ドルを発行しているのです。3つの銀行とは
次の通りです。
─────────────────────────────
      1.    英国系の香港上海銀行
      2.スタンダードチャータード銀行
      3.          中国銀行
─────────────────────────────
 つまり、香港では、香港ドルをいつでも米ドルに自由に交換で
きるようになっているのです。これにより、香港は、中国と世界
を結ぶ国際金融センターとして発展し、多くの外資系企業が進出
したのです。海外から中国本土への直接投資や、その逆の中国本
土から海外への直接投資もその半分以上も香港経由で行われてい
るのです。中国自体もその経済成長に不可欠なドルを調達してき
たのです。
 しかし、習近平政権になってからは、その強引な政治手法から
海外への資本逃避が急増するようになったのです。これによると
貴重なドルが海外へ流出し、中国の外貨準備がどんどん減少する
ようになったのです。その中心が中国本土で富を築いた富裕層が
自分たちの資産を海外へ移すようになったのです。中国本土での
富裕層とは、習近平を含む共産党の幹部とその一族が中心です。
 不正に稼いだお金を中国本土に置くとリスクがあるので、ひと
まず、香港に逃がし、それから、海外へ逃避させたので、中国の
外貨準備は目に見えて減少していったのです。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/100]

≪画像および関連情報≫
 ●中国“自爆”覚悟の香港支配。 米は切り札「香港人権民主
  法」習氏の喉元に刃を突きつけ
  ───────────────────────────
   北京で開かれている共産党主導による全国人民代表大会/
  全人代では、習近平政権が香港に対して国家安全法適用を決
  める構えだ。トランプ米政権は香港の高度な自治を認めてい
  る「一国二制度」を骨抜きにすると反発し、対中制裁を辞さ
  ない姿勢だ。
   トランプ政権は2018年に米中貿易戦争を仕掛けて以来
  中国にハイテクと並んでドルを渡さない決意を日々刻々強め
  ている。実のところ、中国からの資本逃避も、中国本土への
  外国資本による投資も香港経由である。実質的にはドル本位
  の通貨・金融制度の中国にとって国際金融センターの香港は
  死活問題だ。
   だからこそ毛沢東以来、歴代の共産党指導者は「自由な香
  港」を容認してきた。ところが習氏はその香港を全面支配し
  ようと焦る。これに対し、ワシントンには切り札がある。米
  議会が昨秋、成立させた「香港人権民主法」である。トラン
  プ氏はこの法により、いつでも習氏の喉元に刃を突きつける
  ことができるのだ。
   同法は、香港が中国政府から十分に独立した立場にあり、
  優遇措置適用に値するかを国務長官が毎年評価するよう義務
  付けている。米国は、香港で人権侵害を行った個人に対する
  制裁や渡航制限を課すことができる、というのが一般的に報
  じられている概要だ。      https://bit.ly/2HjqJHA
  ───────────────────────────
米国の対中貿易赤字累積額と人民元発行量増加額.jpg
米国の対中貿易赤字累積額と人民元発行量増加額
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2020年10月26日

●「なぜ中国は一国二制度を奪ったか」(EJ第5357号)

 「香港問題は政治の問題ではなく、経済の問題である」の話を
続けます。米国は、中国の覇権への暴走を止めようとして、中国
の経済の拡張にブレーキを掛けようとしています。トランプ政権
による米中貿易戦争はそのひとつです。
 添付ファイルをご覧ください。これは、「中国の外貨準備と対
外負債の前年度増減をあらわす棒グラフで、産経新聞特別記者の
田村秀男氏の本に出ていたものです。
 「中国はドル本位制」であると田村氏はいっています。豊富な
外貨準備があれば、安心して人民元が刷れます。しかし、このグ
ラフによって中国の外貨準備を見ると、2015年から2017
年までは、外貨準備は激減しています。実は2015年から中国
における資本逃避の勢いは激しくなっているのです。
 ちなみに習近平氏は、2012年11月に総書記、2013年
3月に国家主席に就任しています。そして早速はじめたのが反腐
敗の号令──「大トラもハエも一緒に叩け!」です。党内の腐敗
が中国という国を滅ぼすとの強い危機感を訴え、汚職・腐敗の撲
滅が共産党政権の安定と継続を保証することを訴えたのです。
 実は、このことと、資本逃避は無関係ではないのです。中国が
経済大国になって豊かになるにつれ、中国本土で巨万の富を築い
た富裕層が出てきます。その富裕層の中心にいるのは、他ならぬ
中国共産党の上級幹部とその一族です。あるいは、共産党政権と
密接な関係を保つ人たちもいると思われます。いずれにしてもこ
の国では、共産党政権と親和的でないと、なかなかビジネスで成
功できないでしょう。
 問題は、彼らが自分たちの資産を海外に移そうとしはじめたこ
とです。彼らは、習近平体制になると、一斉に資本逃避をはじめ
たのです。共産党幹部やその一族や、その取り巻きらのやったこ
とについて、田村秀男氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 彼らは香港にペーパーカンパニーをつくり、本土で不正に蓄財
した資産をどんどん香港に移していきました。そして、カリブ海
のケイマン諸島など、「タックス・ヘイブン(租税回避地)」と
呼ばれる税金の安い地域にもペーパーカンパニーをつくり、巨額
のお力ネを本土から香港、香港から海外へと、移していったので
す。不正に貯めたおカネを国内に置いていては、いつ自分が党か
ら処罰されて財産を没収されるかわかりません。こうして香港は
中国本土の富裕層の資産の逃げ道になっていったわけです。
 それでも中国の経済成長が順調だった時期には、一度海外に流
れたおカネも再び香港経由で本土に還流していました。不動産市
場をはじめとして、中国本土に有望な投資先がたくさんあったか
らです。
 しかし、中国本土への過剰投資や不動産市場の低迷により、中
国経済の成長がかつてのような勢いを失うと状況が一変。国内に
流人するおカネの動きは鈍くなり、国外に流出するおカネの動き
が激しくなっていきました。中国経済を発展に導いた香港が、今
度は中国経済を崩壊に導く不安要素になっていったというわけで
す。            ──田村秀男著/ワニブックス刊
 『景気回復こそが国の守り脱中国、消費税減税で/日本再興』
─────────────────────────────
 習近平主席の反腐敗の号令は、共産党幹部らの中国本土からの
資本逃避潰しに関係があります。習近平本人もやっていることが
考えられますが、かつての中国共産党の大幹部たちを反腐敗の名
の下に、次々と逮捕して行くことによって、資本流出を防ごうと
したのです。
 もう一度添付ファイルのグラフをご覧ください。一見すると、
2017年以降は、外貨準備が回復しているように見えますが、
その代り対外負債が増えています。つまり、資本逃避で減った分
の外貨を外国からの借金でカバーしているからです。中国の外貨
準備は約3兆ドルを維持しているのです。その根拠は10月23
日のEJ第5356号の添付ファイルを参照してください。
 ここで留意すべきことは、中国本土で不正に稼いだ資産を一度
必ず香港に移そうとしていることです。反腐敗キャンペーンもあ
るし、本土に置いておくと、いつ当局に発見され、没収されたり
逮捕されるかわからないので、とりあえず資産を香港を移し、香
港を経由して、海外に移そうと考えているのです。つまり、香港
が資産の海外逃避の経由地になっているのです。
 習近平主席としても、香港の一国二制度をいま潰すのは、国際
的な非難を浴びるし、貿易戦争中の米国を一層怒らせることにな
り、得策ではないことはわかっています。まして香港は、国際金
融センターとしての機能をもっており、中国の経済拡大にとって
香港は重要な金融基地でもあるからです。しかし、香港が資本逃
避の経由地になっている以上、香港を一刻も早く中国共産党の監
視・統制下に置き、ドルの流失を防がなければ、中国の未来はな
いと考えたものと思われます。
 米国のトランプ政権は、中国との貿易戦争との関連で2019
年11月に「香港人権・民主主義法」を制定しています。米国は
香港に対してさまざまな優遇措置を与えていますが、香港が中国
政府から十分独立していることを前提としています。そのため、
この法律では、香港が優遇措置に適合するかどうかについて、国
務長官が、毎年香港について調査し、議会に報告するよう義務付
けています。
 しかし、この法律では、もし香港で人権侵害が起きた場合、こ
の法律に基づいて、それを行った個人に対して、制裁や渡航制限
をかけることができるという何となくすっきりしない内容になっ
ており、このことが同法の一般に知られている内容です。
 しかし、この法律の条文をよく見ると、「1992年香港政策
法修正事項」という項目があるのです。香港政策法とは何でしょ
うか。その修正事項とは何を意味しているのでしょうか。これに
ついては、明日のEJで検討します。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/101]

≪画像および関連情報≫
 ●習政権がしょぼい景気対策しか打てないワケ
  ───────────────────────────
   米紙ウォールストリート・ジャーナル7月13日付(電子
  版)が、「中国が世界経済回復を牽引できない理由」と題す
  る解説記事を載せていた。2008年9月のリーマン・ショ
  ック時には、原材料などへの中国の需要急増が世界全体の成
  長を押し上げたのとは対照的に、中国は現在、景気刺激のた
  めの支出を抑制している。このため、リーマン危機のような
  役割を中国が果たすのは不可能とする中国市場依存度の高い
  ドイツ工業団体代表の発言を引用している。中国市場にます
  ますのめりこんでいる日本の経団連の楽観論とは大違いだ。
   同記事は習近平政権がなぜしょぼい景気対策しか打てない
  のか、について触れていない。評論家の石平さんから「田村
  理論」だと評されている拙理論なら答えは簡単だ。
   中国の通貨金融制度は実質的に「米ドル本位制」であり、
  ドルの流入具合が悪ければ、財政・金融面での拡大策がとれ
  ないという欠陥がある。西側世界では米金融専門家を含め中
  国経済を市場経済と同列で論じるのが一般的だが、戦前から
  の中国共産党政策の歴史を綿密にたどってゆけば、いまなお
  財政・金融政策の基本は極めて特異なドル本位であることが
  わかる。            https://bit.ly/2Hsw1jH
  ───────────────────────────
 ●グラフ出典/──田村秀男著/ワニブックス刊『景気回復こ
  そが国の守り脱中国、消費税減税で/日本再興』


中国の外貨準備と対外債務の前年比増減.jpg
中国の外貨準備と対外債務の前年比増減
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2020年10月27日

●「リーマンショックが中国を膨張化」(EJ第5358号)

「香港政策法」という法律があります。英国による中国への香
港返還に合わせて1992年に成立した米国の法律です。この法
律では、中国が香港の高度な自治(1国2制度)を維持すること
を条件として、香港に対する貿易や金融の特別措置を対中国政策
とは切り離して適用することになります。
 この金融の特別措置のなかに、「香港ドルと米ドルの自由な交
換」が規定されています。これが認められているため、香港は国
際金融センターとしての役割が果たせているのです。
 しかし、トランプ政権下の2019年11月に米議会で、「香
港人権・民主主義法」が成立しています。この法律によると、香
港における1国2制度の実施状況を国務長官が毎年調査し、議会
に年次報告書を作成し、報告することが義務づけられています。
 この法律の条項のなかに、「1992年香港政策法修正条項」
というのがあります。これによって、米国は香港の1国2制度の
達成状況によっては、「米国はいつでも香港ドルと米ドルの自由
な交換を停止することができる」ようになったのです。
 この条項は、とんでもない起爆装置になります。メガトン級破
壊兵器の起爆装置といってもいいでしょう。なぜなら、香港ドル
が米ドルとのリンクを失えば、香港は国際金融センターではなく
なってしまうからです。もちろんこれは実施に移せば、米国はも
ちろんのこと、香港に拠点を置く日本や欧州などの企業や銀行に
とって大打撃となり、簡単には実施に移せませんが、中国の出方
によっては、米政権が起爆装置のスイッチを押す可能性は十分あ
ります。もし、選挙に勝利してトランプ政権が続けば、このボタ
ンが押される可能性は十分あります。
 ところで、「中国はなぜここまで経済を拡張できたか」という
ことを考えてみる必要があります。ネットで調べると、それに応
えるレポートがたくさん出てきます。しかし、いずれもピリッと
しません。これについて、田村秀男氏は、次のように明解に説明
しています。
─────────────────────────────
 アメリカには、リーマン・ショック後の金融政策で結果的に中
国を太らせてしまったという“苦い教訓”があります。2008
年9月のリーマン・ショックの後、アメリカのFRBは、米国史
上前例のない勢いでドルを大量に刷り、3兆ドル近いおカネをど
んどんマーケットに流していきました。そのうちのどのくらいの
おカネが当時中国に流れ込んだのかというと、まさに3兆ドルで
す。結局のところアメリカがリーマン・ショック後に大量に刷っ
たドルをほぼそのまま中国が外貨として手に入れていたことにな
ります。どうやって手に入れたかといえば、これまで見てきた通
り、対米貿易黒字によってです。
              ──田村秀男著/ワニブックス刊
 『景気回復こそが国の守り脱中国、消費税減税で/日本再興』
─────────────────────────────
 田村秀男氏のいう上記の話は実は本当です。リーマンショック
の2008年から2018年の10年間の米国の対中貿易赤字の
合計は次のようにぴったり同じなのです。
─────────────────────────────
   ◎2008年から2018年の10年間
   米国の対中貿易赤字合計 ・・・ 2・85兆ドル
   10年間の自民元発行量 ・・・ 2・85兆ドル
        ──田村秀男著/ワニブックス刊の前掲書より
─────────────────────────────
 上記の2・85兆ドルに加えて、この10年間には海外からの
対中直接投資累計が2・2兆ドルあったのです。その結果、中国
からの対外直接投資は1・3兆ドルになり、中国の外貨準備額は
1・24兆ドル増額しています。リーマンショックのように、世
界中の経済が落ち込むときこそ、中国にとっては、まさに躍進の
絶好のチャンスなのです。
 そうであるとすると、今回のコロナ禍も中国にとって、絶好の
チャンスということになります。今回もまさにFRBのパウエル
議長は、7月29日に次のように宣言しています。
─────────────────────────────
 【ワシントン=河浪武史】米連邦準備理事会(FRB)は7月
29日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、ゼロ金利政策と
量的緩和政策をともに維持すると決めた。記者会見したパウエル
議長は「新型コロナウイルスの再拡大で、個人消費や雇用回復が
減速している」と強い懸念を表明。次回以降の会合で追加策を検
討する考えも示唆した。
 29日の会合では、短期金利の指標であるフェデラルファンド
(FF)金利の誘導目標を0〜0・25%のまま据え置いた。3
月に発動した量的緩和政策も、米国債を月800億ドル、住宅ロ
ーン担保証券(MBS)は同400億ドルを買い入れる現状の購
入ペースを維持すると決めた。 https://s.nikkei.com/3jvycjE ─────────────────────────────
 米中貿易戦争によって、中国の金融は息も絶え絶えという状況
だったのです。しかし、FRB議長は、今回のコロナ禍で、ニー
ヨーク株価の急落を見て、ゼロ金利で、無制限にドル資金を発行
する量的緩和政策に打って出たのです。中国にとっては、絶好の
チャンス到来ということになります。
 これは中国にとってチャンスです。そのためには、コロナを一
挙に終らせる必要があります。お金に色はありませんから、投資
家は成長すると思われるところに投資してきます。そのためには
絶対にコロナを早く終わらせる必要があるのです。
 そもそもコロナの発生地は中国です。したがって、コロナの情
報は中国が一番握っています。それに中国は社会主義国ですから
たとえ実態はそうでなくてもコロナを完全に終らせるように見せ
ることはできます。そして、中国は実際にそうしています。しか
し、今回はリーマンショックのときのようにうまくいっていない
のです。     ──[『コロナ』後の世界の変貌/102]

≪画像および関連情報≫
 ●コロナだけでない中国「成長率目標なし」の内幕
  ───────────────────────────
   「通年の経済成長の具体的な目標は出さない。世界での新
  型コロナウイルスの流行と経済・貿易情勢の不確定性が大き
  いからだ」
   5月22日、中国の国会にあたる全国人民代表大会(全人
  代)が北京の人民大会堂で開幕した。もともと3月5日に予
  定されていたが、新型コロナ対策のため2カ月以上ずれ込ん
  だ。会議冒頭に「政府活動報告」を行った李克強首相が、全
  世界が注目するポイントに言及したのは演説の開始から20
  分ほどたったころだった。
   李首相は「状況を総合的に分析して、新型コロナ流行の前
  に考えた目標を調整した。今年は雇用の安定を優先し、貧困
  からの脱却など『小康社会』の全面的な建設を実現するよう
  努力する」とも述べた。「小康社会」とは2020年までに
  建設すると中国共産党が公約する「ややゆとりある社会」の
  ことだ。
   昨年は「前年同期比6・0〜6・5%増」という目標に対
  して、同6・1%の着地だった。昨年暮れには、2020年
  の経済運営をめぐって財政出動を拡大してでも6%成長は保
  つべきだという「保六」派エコノミストと、構造改革優先派
  が激しく論争した。その結果、今年の目標は6%をやや下回
  る水準になるのではないかと見る向きが多かった。
                  https://bit.ly/37IwucO
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香港デモ/香港ドル消滅の危機.jpg
香港デモ/香港ドル消滅の危機
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2020年10月28日

●「十分あり得る中国による台湾侵攻」(EJ第5359号)

 世界の自由主義国陣営は、昨今の中国の覇権的行動に対処する
には、「何とか中国の経済を止める」ことに焦点を絞りつつあり
ます。ここまで経済面を中心に書いてきましたが、今日は、この
問題はひとまず置いて、最近の中国に関する気になる情報につい
て、考えてみることにします。
 10月13日のことです。習近平主席は、広東省海軍陸戦隊の
部隊を視察し、次のように「戦争に備えよ」と指示しています。
海軍陸戦隊とは、米軍でいうと海兵隊にあたります。上陸作戦に
投入される部隊で、台湾や沖縄県・尖閣諸島への作戦を念頭に編
成された部隊といわれています。
─────────────────────────────
 全身全霊で戦争に備え、高いレベルの警戒態勢を維持しなけれ
ばならない。                ──習近平主席
─────────────────────────────
 まるで戦争を煽っているような習近平主席の激しい言葉には、
理由があります。1日前の10月12日、米海軍と海上自衛隊が
南シナ海で、日米共同訓練を実施しているからです。この訓練に
は、海上自衛隊はヘリコプター搭載護衛艦「かが」、護衛艦「い
かづち」、米海軍からは、イージス駆逐艦「ジョン・S・マケイ
ン」と補給艦「ティビカヌー」が参加しています。そして、習近
平主席の発言の次の日の14日、米駆逐艦「バリー」が、台湾海
峡を通過しています。まるで戦争前夜のようです。
 10月23日のことです。北京の人民大会堂で開かれた中国軍
の朝鮮戦争参戦70周年の記念大会での演説で、習主席は、突然
声を荒げて米国を罵倒し、ここでも人民を煽っています。
─────────────────────────────
 米国の脅迫、封鎖、圧迫は通用しない。勝手に行う覇権行動も
通用しない。朝鮮戦争でわれわれは、米軍の不敗神話を打ち破っ
たのである。米軍の運命はどん詰まりの死路である!
                      ──習近平主席
─────────────────────────────
 米国を名指ししての激しい言葉です。なぜ、ここまでいうので
しょうか。外事警察関係者は、中国共産党内の次の事情を明かし
ています。
─────────────────────────────
 習氏は必死だ。共産党内で「習降ろし(=クーデター)」が始
まっている。新型コロナウイルス対策は失敗、米国とは、全面対
決。世界が中国を敵視し始めた。すべて習氏の大失政だ。習氏は
終わりだ。それだけに怖い。追い詰められた習氏が暴走する危険
がある。    ──2020年10月26日発行「夕刊フジ」
─────────────────────────────
 さらに中国を刺激させる情報があります。ヨーロッパ最強とさ
れる英国海軍の最新鋭空母「クイーン・エリザベス」打撃群が南
シナ海で、「航行の自由」作戦を行う計画があるからです。これ
について、時事ドットコムは次のような伝えています。
─────────────────────────────
 【ロンドン時事】2020年7月14日付の英紙タイムズは軍
高官らの話として、最新鋭空母「クイーン・エリザベス」を中心
とする空母打撃群が来年初めに極東に派遣され、周辺海域に当面
の間とどまる計画が進められていると報じた。海洋でのプレゼン
スを強化する中国に対抗する狙いで、日本や米国との合同演習も
想定しているという。
 2017年就役のクイーン・エリザベスは全長約280メート
ル、排水量約6万5000トンと英海軍最大級の艦船。操艦要員
は700人で、航空要員を加えると乗員は1600人に達する。
極東派遣が初の本格航海となり、展開時には最新鋭ステルス戦闘
機F35B2個飛行隊を搭載し、45型駆逐艦なども随伴。飛行
隊は英空軍と米海兵隊の所属機で構成する可能性が高いという。
 軍高官はクイーン・エリザベスの極東派遣に当たり、F35を
保有する日本と米国に空軍戦力として打撃群への参加を要請する
案を策定。オーストラリアやカナダなど他の同盟国からも、潜水
艦提供などの支援を見込んでいる。  https://bit.ly/2TsSO1D
─────────────────────────────
 米情報当局関係者からの情報によると、英国は、この空母「ク
イーン・エリザベス」を台湾に寄港させる案を検討しているとい
われます。「台湾を守る」という決意を宣言するためです。EU
諸国も「中国は新型コロナウイルスの発生源で、全世界の経済を
最悪にした敵性国家」とみています。水面下で、もし中国が「台
湾に侵攻すれば国交断絶」と警戒しています。
 懸念されることは、米大統領選が早期に決着がつかず、政治空
白が生まれた場合、中国はその間隙を縫って、台湾を侵攻する危
険があることです。中国当局は人民に対し、密かに「台湾に親戚
友人、ビジネス関係を持つ者は申し出るように」という命令まで
出しています。このような台湾侵攻が起きると、尖閣諸島も同時
に侵攻される危険性があります。既に中国は、尖閣諸島を本気で
獲りにきており、事態はきわめて深刻です。
 尖閣諸島の問題は日本にとって難問ですが、今年の1月10日
に、米陸軍長官ライアン・マッカーシー氏は、「尖閣諸島の米軍
基地化」に言及しています。
─────────────────────────────
 米陸軍長官ライアン・マッカーシーは、1月10日、軍事関連
の情報をまとめたジェーン年鑑で有名な出版社HISマーキット
の記者アシュリー・ロックのインタビューの中で、2021年に
新たな基地を尖閣に作ることを検討していると答えた。新たに設
置される軍は、マルチドメインタスクフォース(MDTF)と呼
ばれるマルチドメイン作戦を支える軍隊で、その一部の兵士と武
器を尖閣諸島に置くことを検討していることを明らかにした。
                  https://bit.ly/37HXaKz
─────────────────────────────
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/103]

≪画像および関連情報≫
 ●中国共産党の極端さ軽視できず、米国の衰退確信か
  ──中台「一触即発」
  ───────────────────────────
   中国共産党は台湾への侵攻も辞さない姿勢を70年余り続
  けている。アナリストや当局者、投資家の間では、今後数年
  以内に中国が台湾に攻め入り、米国との戦争につながる可能
  性があるとの不安が広がりつつある。
   「大きな危機が近づいていると懸念を強めている」と米プ
  ロジェクト2049研究所のシニアディレクター、イアン・
  イーストン氏は言う。「全面的な侵略の試みとその後の超大
  国の戦争という結果を想定し得る。今後5ー10年は危険な
  時期になるだろう。こうした一触即発の状況は基本的に不安
  定だ」と指摘。同氏には中国による侵略の脅威と台湾の防衛
  力、米国のアジア戦略についての著書がある。
   ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の推計によ
  れば、中国の軍事費は台湾の約25倍。核兵器は言うまでも
  なく、ミサイルや戦闘機、戦艦、兵士の数など通常戦力でも
  中国が明らかに有利だ。ただ台湾は何十年にもわたり中国の
  侵攻に備えており、中国が行動に移せば極めて大きなリスク
  に向き合う公算が大きいというのが現実だ。米国防総省や情
  報機関に助言してきたマイケル・ベックリー氏は2017年
  の論文で、「中国人民解放軍は台湾軍への対応で手一杯にな
  る」と分析。米国がその戦闘に加われば、中国の台湾侵攻は
  失敗すると予想した。      https://bit.ly/31Eg1T1
  ───────────────────────────

英新鋭空母/クイーン・エリザベス.jpg
英新鋭空母/クイーン・エリザベス
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2020年10月29日

●「中国の経済は真に急回復したのか」(EJ第5360号)

 コロナ後の中国経済に話を戻します。中国国家統計局は、経済
成長率について次のように述べています。
─────────────────────────────
 新型コロナ感染拡大の影響で、2020年第一四半期(Q1)
マイナス6・8%(前年同期比、以下同じ)と大きく落ち込んだ
中国経済成長率は、Q2に市場の事前予想(2・5%前後)を上
回る3・2%を記録し、主要国の中で一足先にマイナス成長から
脱却した。中国国家統計局(NBS)によると、7月も工業生産
額が前年同月比4・8%増、生産供給面が引き続き回復し、市場
の需給状況が緩やかに改善、経済は全体として安定的に回復して
いるという。
 中国メディアは「世界が中国経済の回復力に注目し、また世界
の人々を勇気づけている」と報じ、下期はさらに回復し、20年
の通年成長率は1〜3%になるとの予測も出てきた(恒生銀行8
月調査リポート、中国地元経済誌)。 https://bit.ly/31LV7RN ─────────────────────────────
 この経済の急回復には疑問があります。6月中旬時点で生産水
準が80%以上回復した企業が全体の70%弱に過ぎないといい
ながら、工業生産や工業企業利潤などの回復があまりにも大き過
ぎるからです。しかし、EJはその詳細の記述は省略し、元財務
官僚の金森俊樹氏の次のレポートに譲ることにします。金森氏は
中国の経済報告のウソも指摘する論文も書いており、一緒に読む
ことができます。
─────────────────────────────
 ◎中国経済、新型コロナ不況脱却は真実か?──成長軌道復帰
  論の考察/金森俊樹著      https://bit.ly/31LV7RN
─────────────────────────────
 米中貿易戦争が始まって、中国としては、対米貿易黒字(米国
から見ると、対中貿易赤字)を大幅に減らすことを米国から求め
られています。それは必然的に外貨資産ドルの減少につながるの
です。そこにコロナ禍です。事実上のドル本位制の中国では、ド
ル資産が減ると、コロナ対策のために多量の人民元を刷れなくな
り、一層外貨が逃避する恐れがあります。しかも中国はコロナの
発生源であり、経済回復に遅れると、海外からの投資を呼び込め
なくなり、それがさらにドル資産が減少する原因となる恐れがあ
ります。そのため、どんな手段をとっても、経済の急回復を世界
に対して演じて見せる必要があるのです。
 添付ファイルをご覧ください。これも産経新聞特別記者、田村
秀男氏の著書に出ていたものです。上のグラフ「A」は、「人民
元資金発行と人民銀行の外貨資産(%)」をあらわしています。
折れ線グラフは、人民元資金発行前年比増減(左目盛り)であり
塗りつぶしてあるグラフは、外貨資産(右目盛り)です。
 外貨資産は、リーマンショック後の2008年以降、一貫して
減少しており、人民元の発行もそれにリンクして減少してきてい
ることが読み取れます。これについて、著者の田村秀男氏は、次
のように解説しています。
─────────────────────────────
 リーマンショックの際には、ふんだんにある外貨(ドル)を裏
付けにして人民元を大量発行する大々的な金融緩和策を実施する
ことができたわけです。(中略)中国経済は勢いづいて、2ケタ
の高度成長軌道に乗り、リーマン・ショック後の世界経済を牽引
しました。
 ところが、2014年頃からは、人民元発行高に対する外貨資
産比率が100%台を割り、最近では70%前後で推移していま
す。中国国内から香港経由による国外への資本逃避が急増してい
るため、以前のように外貨資産を増やせないのです。さらに現在
は、コロナ・ショックの影響により、主力外貨収入源である輸出
が急減しています。習近平政権にしても、財政・金融の拡大をし
たいのは山々でしょう。しかし、ドルの裏付けなしで人民元を大
量発行すれば、最悪の場合、悪性インフレに陥ってしまいます。
そうなると、共産党政権の存続そのものが危うくなるのです。
              ──田村秀男著/ワニブックス刊
 『景気回復こそが国の守り脱中国、消費税減税で/日本再興』
─────────────────────────────
 添付ファイルのグラフの「B」をご覧ください。棒グラフと折
れ線グラフが付いていますが、棒グラフは実質経済成長率(右目
盛り)です。6%台の成長が続いており、コロナでマイナス約7
%までダウンしましたが、6月には一挙に3・2%にプラスに転
じています。このプラス変化が疑わしいことは、前半のところで
述べいます。このような急激なプラス変化が短期間で起きること
は考えられないからです。
 折れ線グラフは2種類あり、実線はセメント生産(左目盛り)
をあらわしています。中国の場合、GDPの約半分が固定資産投
資になっています。建物など、いわゆるウワモノへの投資です。
そのためには、セメントが不可欠ですが、セメントの生産は低迷
を続けており、2018年にはマイナスに転じ、少しブリ返して
はいるものの、GDPを大きく押し上げるほど、セメントは生産
されていません。
 折れ線グラフの実線は、自動車生産(左目盛り)をあらわして
います。自動車生産は、2018年からマイナスに落ち込んでお
り、2ケタの減少です。田村秀男氏は、これについて次のように
述べています。
─────────────────────────────
 このような状況のなか、6・1%という経済成長が果して可能
でしょうか。ありえません。セメント生産と自動車生産の動向を
踏まえれば、当時の中国経済は、実質マイナス成長に陥っていた
可能性がある、というのが私の見立てです。 ──田村秀男著/
                ワニブックス刊の前掲書より
─────────────────────────────
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/104]

≪画像および関連情報≫
 ●中国「経済統計」の水増し、矛盾の実態とは?
  ───────────────────────────
   2018年1月、内蒙古、天津が相次いで、経済統計に水
  増しがあったことを明らかにした。内蒙古は16年の財政収
  入の26・3%と総工業生産の40%にあたる各々530億
  元、2900億元、天津はその濱海新区の16年公表GDP
  1兆元強の30%以上が水増しだったとした。さらに、中央
  政府が発表した17年経済実績や全人代での説明ぶりにも疑
  問が出されている。
   中国では以前から、中央政府が発表する全国GDPと各地
  方政府が発表する地方GDP合計に大きな乖離があり、「数
  据打架(ダージア)」、つまり「数字が喧嘩する」現象と呼
  ばれてきた。地域をまたがる経済活動が重複計上されるとい
  う技術的要因があるが、それだけではなく、地方政府による
  「注水」と呼ばれる水増しが指摘されてきた。
                  https://bit.ly/31OqMCg
  ───────────────────────────

中国関連グラフ/A/B.jpg
中国関連グラフ/A/B
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2020年10月30日

●「トランプかバイデンか米大統領選」(EJ第5361号)

 11月3日の大統領選まで、今日を含めてあと5日です。トラ
ンプ大統領か、バイデン候補か、どちらが選ばれるかによって、
とくに中国への政策が変化するのはほぼ確実であり、日本にとっ
ても大きな影響があります。今回は、米大統領選を中心に述べる
ことにします。
 世論調査から判断する限り、バイデン候補の圧勝のようにみえ
ます。しかし、「トランプ対バイデン」という対立の構図ではな
く、次の対立になっています。
─────────────────────────────
         トランプVSトランプ嫌い
         トランプVS武漢ウイルス
─────────────────────────────
 つまり、バイデン候補の存在が希薄なのです。バイデン候補へ
の支持は、消極的選択であるということができます。誰もバイデ
ン候補を積極的には支持していませんが、トランプよりもマシと
考えているのです。
 バイデン候補には、致命的な噂があります。それは彼が「認知
症ではないか」の疑いです。集会で、自分の妻と娘の名前を間違
えたり、ある集会では次のようにいってしまったのです。
─────────────────────────────
   新型コロナでアメリカでは1億2千万人が死んでいる
─────────────────────────────
 これは、もちろん「12万人」の間違いです。それにしてもヒ
ド過ぎます。おまけに、あるテレビ番組に出演して、次のように
宣言してしまったとも伝えられています。トランプ氏がいったの
ではなく、バイデン氏がいったのです。
─────────────────────────────
        I'm Going to Beat Joe Biden..
        私はジョー・バイデンをブッ倒す!
─────────────────────────────
 ジャーナリストの堤堯氏によると、バイデン氏が大統領になる
と、2つの懸念が生ずるというのです。
─────────────────────────────
          1.対中国政策の変化
          2.日本に対する姿勢
─────────────────────────────
 「1」について、堤堯氏は次のように述べています。バイデン
氏は、かなりの金満政治家であると指摘しています。
─────────────────────────────
 (オバマ政権の副大統領のとき)バイデンは息子を連れて訪中
し、帰国後ほどなく、中国の投資会社から息子の投資ファンドに
15億ドルが振り込まれた。討論会でトランプにそのことを追及
されて、バイデンは否定したけど、財務省の資料には息子が金銭
を受領していたことが示されている。
 例のウクライナ疑惑だって、ありゃトランプの疑惑じゃなくて
バイデンの疑惑だよ。だってウクライナへの支援金10億ドルを
エサに、息子をウクライナのガス会社ブリスマ・ホールディング
スの役員に押し込んで、60万ドルの年収を得させているんだか
らね。いずれも外交をツールにした収賄だよ。これについて問わ
れた息子はテレビで「若気のいたりだった」と半ば認めている。
(中略)歴代民主党政権は、クリントン政権も、オバマ政権も中
国には甘かった。クリントン財団には中国から何百万ドルもの寄
付金が振り込まれている。 ──『月刊Haneda』/12月号より
─────────────────────────────
 「2」については、オバマ政権のときに次の有名な話を思い出
していただきたいのです。2013年、副大統領だったバイデン
氏は、日中韓の3ヶ国を歴訪し、帰国すると、安倍首相に次のよ
うに電話したのです。
─────────────────────────────
 「安倍首相は靖国に参拝しないと思うよ」と、朴槿恵大統領に
は、伝えておいた。     ──バイデン米副大統領(当時)
─────────────────────────────
 おそらく安倍首相は、この電話にカチンときたはずです。自分
のカウンターパートは、オバマ大統領であって、バイデン副大統
領ではない。出過ぎた真似をしやがると思ったのでしょう。その
数日後、安倍首相はSPを伴って靖国神社を参拝したのです。メ
ンツを潰されたバイデン副大統領は、国務省の副報道官を通じて
次の声明を出したのです。
─────────────────────────────
 日本は大切な同盟国であり、友好国である。しかし、日本の指
導者が、近隣諸国との関係を悪化させる行動を取ったことに、米
国は失望(disappointed)している。      ──米国務省
─────────────────────────────
 もちろん、トランプ氏にもいろいろな問題はあります。しかし
日本にとっては共和党の大統領の方がよいのです。オバマ政権の
ときは、先方の都合でなかなか訪米できず、やっと会えたと思っ
たら、食事抜きのビジネスライクな軽い会談だったのです。つま
り、日本の安倍政権は軽く扱われたのです。
 選挙の情勢はトランプ氏にとって不利であることは確かですが
トランプ氏には「隠れトランプ」という次の存在があります。
 第1は、共和党支持者であり、「小さな政府」や「アメリカ・
ファースト」を支持するグループ。第2は、宗教右派(白人福音
派)であり、米国人口の30〜40%を占めています。第3は、
白人至上主義者であり、黒人や有色人種に米国を乗っ取られるの
が我慢ならない人たちです。そして第4は、「ディープ・ステー
ト(影の政府)」に立ち向かうという「Qアノン」を中心とする
グループです。
 前回の大統領選もこの「隠れトランプ」によって事前の予想を
完全に覆しています。今回はどうなるのでしょうか。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/105]

≪画像および関連情報≫
 ●トランプ大統領“大逆転のシナリオ”実は「隠れトランプ」
  は4年前より増えている!
  ───────────────────────────
   いよいよ迫った11月3日に行われるアメリカ大統領選。
  民主党候補のバイデン元副大統領の優勢が伝えられるが、そ
  れでも現地では「最後はトランプが勝つだろう」という声が
  絶えないという。4年前に大逆転勝利を演出した、投票日ま
  で姿を現さない「隠れトランプ」支持者がいるからだ。この
  アメリカの現状を解き明かした著書『隠れトランプのアメリ
  カ』(扶桑社)を10月20日に刊行した横江公美氏(東洋
  大学教授)が緊急寄稿した。
   これまでのアメリカ大統領選挙であれば、民主党のジョー
  ・バイデン元副大統領が世論調査で約10ポイントも先行し
  ている現状をみて、バイデン勝利を疑う人はいなかっただろ
  う。しかし、いまアメリカ人は誰もが、口に出すか出さない
  かは別として、「それでもトランプが勝つかもしれない」と
  思っている。トランプ大統領を支える共和党員は、最終盤ま
  で劣勢と言われながら巻き返した2016年の再現を狙って
  「隠れトランプ」支持者の存在を信じている。そして、一方
  の民主党員たちは「隠れトランプ」にひっくり返された前回
  の選挙がトラウマとなっているのだ。今回の大統領選挙にお
  いてメディアの世論調査で新たに登場した質問がある。「隣
  人は、どの候補を支持していると思いますか?」この問いは
  まさに「隠れトランプ」支持者を探そうとする質問だ。アメ
  リカのメディアも「隠れトランプ」をあぶり出すことに躍起
  になっている。         https://bit.ly/2G4Efhx
  ─────────────────────────


「トランプVSバイデン」.jpg
「トランプVSバイデン」
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