2020年09月29日

●「5Gクリーンパス何をもたらすか」(EJ第5338号)

 脱中国を加速するECRAとFIRRMA──色々な米国の法
律が出てきていますが、少し知識を整理します。もともと米国で
は、軍事転用が可能になる品目の輸出については、商務省産業安
全管理局(BIS)が「EAR」(輸出管理規制)というルール
によって管理してきたのですが、これをかつてのCOCOMのよ
うに厳しく管理しようというのが、ECRAです。
 つまり、中国による米国への投資を制限しようとするのがFA
RRMAであり、これとは逆に米国から中国への投資を制限する
のがECRAということになります。
 しかし、これらの法律では、ファーウェイ製の通信機器の使用
を禁止したり、現在取り沙汰されているティックトックや、ウェ
イボーの使用を禁止したりするのは無理があります。これを踏ま
えて、ポンペオ米国務長官が発表したのが、「クリーン・ネット
ワーク構想(5Gクリーンパス)」です。
 クリーンネットワークは、次世代通信規格5Gによる通信が米
国の外交関連施設を通過するさいに、華為技術(ファーウェイ)
や中興通訊(ZTE)など、信頼できないベンダーからの機器・
サービスを一切介さないことを求めるもので、今回次の次の5つ
の項目によって構成されています。
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          @クリーン・キャリア
          Aクリーン・ ストア
          Bクリーン・アップス
          Cクリーン・クラウド
          Dクリーン・ケーブル
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 @の「クリーン・キャリア」とは、中国の通信キャリアを排除
することです。Aの「クリーン・ストア」は、米国のアプリスト
アから、中国のアプリを排除することです。Bの「クリーン・ア
ップス」とは、中国の通信機器で米国の通信アプリを利用できな
くすることです。Cの「クリーン・クラウド」は、中国企業が米
国のクラウドを利用することをできなくすることです。Dの「ク
リーン・ケーブル」とは、中国企業が敷設した海底ケーブルが、
中国共産党の情報収集に使われないようにすることです。
 これに合わせて、米国務省の要請を受けたシンクタンクの戦略
国際問題研究所(CSIS)は、ファーウェイ社製品を使わない
通信会社として、台湾の次の5社を公表しています。現在、米国
高官の相次ぐ台湾入りを巡り、米国と中国はきわめて緊張状態に
ありますが、このアナウンスは、米国は通信技術のパートナーと
して台湾を使うぞという中国への牽制ともとれます。
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      @中華電信  (Chunghwa Telecom)
      A遠伝電信     (Far EasTone)
      B台湾大哥大   (Taiwan Mobile)
      C亜太電信(Asia Pacific Telecom)
      D台湾之星       (T Star)
                  https://bit.ly/32RBbhj ─────────────────────────────
 なお、今回発表されたリストには、フランスのオランジュ、イ
ンドのジオ、オーストラリアのテルストラ、韓国のSKテレコム
およびKT、それに日本のNTTが入っています。いずれもファ
ーウェイ製品を使わないことを宣言している通信企業です。
 中国も嫌われたものです。ここまでくると、米国による中国に
対する宣戦布告そのものであり、トランプ大統領のいうディール
の範囲をとっくに超えているといえます。戦争ものです。
 このクリーンネットワークがこのまま進むとどうなるかについ
て、須田慎一郎氏は、「夕刊フジ」の自身のコラムで、次のよう
に述べています。
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 「通信ネットワークが、米国と中国がそれぞれ主導する陣営が
完全に分離されることになります。相互利用はできません。各国
の事業者は、どちらの陣営を利用するのか、強制的に選択させら
れることになります」(米国務省関係者)
 さらに、この国務省関係者によれば、もうひとつの大きな計画
が隠されているという。
 「それは、米国の持つ技術を中国企業に使わせない、というこ
とにほかなりません。この結果、中国の通信ネットワークの技術
的水準が時代遅れのものになることは確実です。実は、この点が
最も大きなインパクトを持ってくるのです」(前述の米国務省関
係者)この「クリーン・ネットワーク」は、日本国内ではあまり
大きな話題を呼んでいない。
 「重要性に気づいていないからです。しかし、NTTなど一部
の大企業は、米国の方針に沿う形ですでにアクションを起こして
いるのです」(関係者)通信ネットワークの世界は、まもなく大
激動の時代に突入することになるだろう。
           ──須田慎一郎の「金融スキャンダル」
          2020年8月24日発行/「夕刊フジ」
─────────────────────────────
 ここで注意しなければならないことがあります。仮にある日本
企業が、EL(エンティティリスト)に記載された外国企業──
わかりやすくファーウェイに対して、日本の原産技術の製品を輸
出したとします。この場合、その製品の部品や技術において、米
国製が25%以上含まれていたとすると、これを輸出した企業は
米国のDPL(取引禁止顧客リスト)に掲載され、米国企業との
取引や他国からの米国原産技術を含む商品の取引が一切禁止され
ます。米国は、この25%の割合を10%まで強化することも考
えており、そうなると、世界各国の中国向けの機械や、電気、ハ
イテク商品については、ほとんどすべてが輸出禁止品となってし
まうことになります。10%への強化は時間の問題です。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/082]

≪画像および関連情報≫
 ●米国の中国企業製アプリ、通信企業への規制・制裁に関する
  QA風解説
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   ファーウェイについては、米国の政府調達禁止、イラン制
  裁等による起訴、EL掲載といった米国側措置が続いてきま
  したが、今年5月に入って新たに、再輸出規制の一種である
  直接製品規制が拡大適用されたことによって、その半導体確
  保の上で大きな打撃となり、世界の5G関連通信機器の採用
  動向にも影響を与えています。
   ファーウェイと取引が多い日本企業にとっても、直接・間
  接的に影響を与え得るものとなっており、その行方が注視さ
  れるところでしたが、8月17日に至り、その直接製品規制
  の拡大適用措置が更に強化され、日本企業にも直接大きな影
  響を与えるものとなりました。また米国では、これまでの措
  置に加えて新たな注視すべき動きが見られます。6月24日
  にファーウェイを国防権限法1999に基づく「中国軍に所
  有又は管理されている」リストに掲載し、「軍の所有・管理
  下にある」と位置付けました。そのような法に基づく公式の
  位置 付けは初めてのことです。 更に、6月17日にウイグ
  ル人権法が成立し、続いて7月1日に国務省を含む4省共同
  で、ウイグルの人権侵害への不関与に向けた勧告を世界の企
  業に向けて行いましたが、ポンペオ長官は7月15日に行っ
  た演説の中で、ファーウェイについて特に言及し、「人権侵
  害に従事している中国共産党体制への実質的な支援を行って
  いる」とし、「ファーウェイ社と取引をすることは人権侵害
  企業と取引を行うことを意味する」と述べて、世界の企業に
  警告しました。         https://bit.ly/3mJWOrN
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クリーンネットワーク構想.jpg
クリーンネットワーク構想
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 『コロナ』後の世界の変貌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする