る米国の法的規制です。ECRAは、重要技術を中国には輸出し
ないようにする法律であり、FIRRMAは、重要技術を中国に
盗まれないようにする法律です。ECRAとFIRRMAは、次
の言葉の省略形です。
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◎米国輸出管理改革法
ECRA/Export Control Reform Act
◎外国投資リスク審査現代化法
FIRRMA/Foreign Investment Risk Review Act ─────────────────────────────
「ECRA/エクラ」から考えます。
ECRAは、既存の輸出規制ではカバーできない「新興・基盤
技術」のうち、米国の安全保障にとって必要な技術を省庁間で特
定し、輸出規制の対象とするものです。それは、次の14分野と
しています。しかし、その細則については、まだ発表されていま
せんが、2020年中には発表されることになっています。
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1.バイオテクノロジー
2.AI・機械学習
3.測位技術
4.マイクロプロセッサー
5.先進コンピューティング
6.データ分析
7.量子情報・量子センシング技術
8.輸送関連技術
9.付加製造技術(3Dプリンタなど)
10.ロボティクス
11.ブレインコンピュータインターフェース
12.極超音速
13.先端材料
14.先進セキュリティ技術
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もとより、米国企業が上記分野に含まれる技術およびその技術
が内蔵されている製品を輸出することが禁じられることはいうま
でもありませんが、これは、米国企業だけではなく、外国企業も
対象になります。もし、外国企業がそのようなことをすれば、米
国との取引ができなくなるので、事実上外国企業にもこの法律は
適用されるといえます。これについて、既出の藤井厳喜氏は、自
著で次のように説明しています。
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ECRAによる輸出規制の対象となるのは、アメリカ企業ばか
りではない。日本企業を含む外国企業も、この規制対象となる。
また、日本企業がチャイナと共同技術開発をしたり、チャイナ国
籍の人間を取締役として雇用していた場合などは、特別に厳格な
審査の対象となる。つまりECRAは単にチャイナをはじめとす
る敵対国に対する輸出規制として機能するばかりでなく、アメリ
カを中心とする友好国の製造業のサプライチェーンからチャイナ
を排除しようとする狙いがある。その点で日本企業は、このEC
RAの実行細則に万全の注意を払わなければならない。
──藤井厳喜著『米中最終決戦/アメリカは中国を
世界から追放する』/徳間書店
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ECRAによって、中国は相当苦しい立場に追い込まれること
になります。TSMC(台湾積体電路製造)という台湾の企業が
あります。半導体製造ファウンドリ(半導体製造専門)としては
世界第1位の企業です。ファーウェイは、ハイシリコンという専
用の半導体メーカーを有しているのですが、ハイシリコンは製造
設備を持っていないので、TSMCに半導体チップの生産を委託
していたのです。しかし、ECRAによって、ファーウェイには
半導体の供給が出来なくなってしまうことになります。
なお、TSMCの工場は、台湾に集中していますが、中国政府
の要請で、南京に先端半導体の工場を建設し、2018年から稼
働しています。しかし、5月15日のことですが、TSMCは、
米国アリゾナ州に最先端の半導体工場を建設する計画を発表して
います。この場合、ECRAによってTSMCの南京の工場では
半導体の生産はできなくなるはずです。
同じことがオランダのASML社もファーウェイと取引があり
ますが、今後それはできなくなると思われます。ASML社は、
米国の半導体製造装置を輸入していますが、もし、ファーウェイ
向けの半導体の生産を続けると、米国とは取引が出来なくなって
しまうのです。
中国では、民間航空機を開発していますが、実はエンジンは米
国製なのです。ECRAによってエンジンの輸出も禁じられたの
で、中国は民間航空機の開発は非常に難しくなったといえます。
このECRA規制が強化された場合、中国はどうなるかについて
藤井厳喜氏は次のように述べています。
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兵器分野においては、チャイナは今後おそらく、ロシアへの兵
器輸出を積極的に推進するだろう。しかしオランダASML社や
台湾TSMC社が高性能半導体をチャイナに売れなくなれば、5
Gのみならず、様々な産業分野でチャイナが最先端の製品を開発
してゆくことは難しくなる。ボディーブローのように効いてくる
対チャイナのECRA規制である。──藤井厳喜著の前掲書より
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かつての米ソ冷戦時代、ソ連を中心とする共産圏に対するハイ
テク技術の輸出規制に「COCOM(ココム)規制」というもの
があったのですが、ECRAは米中対決時代における新COCO
M規制であるということができます。
──[『コロナ』後の世界の変貌/080]
≪画像および関連情報≫
●米国の対ファーウェイ禁輸措置と台湾TSMCの半導体工場
誘致の深層/細川昌彦氏
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米中技術覇権の主戦場である半導体を巡る米中の綱引きが
激化している。中国を半導体の供給網(サプライチェーン)
から分離する米国の戦略は確実に進展している。拙稿「新型
肺炎から垣間見えた、対中・半導体ビジネスの危うさ」で指
摘した「部分的分離」戦略は決定的だ。
5月15日、世界第1位の半導体ファウンドリーである、
台湾の台湾積体電路製造(TSMC)が米国のアリゾナに最
先端の半導体工場を建設する計画を発表した。米国の連邦・
州政府からの支援を受けて総額約120億ドルを投じ、20
21年から建設を始める計画だ。
TSMCを巡って米中が工場誘致に激しい綱引きを演じて
いたのは周知の事実だ。米中がそれぞれ、自国の半導体供給
網(サプライチェーン)にTSMCを取り込もうと争奪戦を
繰り広げた。TSMCの半導体工場は台湾に集中しているが
中国政府の要請で、南京に先端半導体の工場を建設しており
2018年から稼働している。一方、米国に有する工場は世
代が古い工場であった。この報道に関していくつかの誤解を
招きかねない点もある。米国に建設する半導体工場は“最先
端”ということになっている。だが、現時点では微細加工の
線幅5ナノというのは確かに最先端ではあるが、TSMCは
22年に台湾で3ナノの量産を始める予定だ。さらに2ナノ
も開発段階にあり、24年に生産開始を計画している。つま
り、その時点では5ナノも最先端ではなくなっている。まだ
まだ米国と中国の取引、駆け引きは続きそうだ。
https://bit.ly/2FW5Fpi
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TSMC