2020年09月23日

●「中国政府が警戒する岸信夫防衛相」(EJ第5334号)

 9月16日に菅義偉政権が誕生しました。今日で1週間が経っ
ていますが、これについて少し書くことにします。閣僚人事につ
いて多くのマスコミが触れていないことがあります。それは、防
衛相の人事についてです。安倍首相の実弟である岸信夫氏が防衛
相に就任しましたが、ネット上に中国に詳しいジャーナリスト、
近藤大介氏の興味深いレポートがあります。中国に関係すること
なので、今回はこれを参考にして述べることにします。
 岸信夫氏は、安倍晋三前首相の実弟ですが、幼少時に母方の実
家に養子として迎えられ、母方の祖父である岸信介の姓を名乗っ
ています。先月、A級戦犯14人が合祀された靖国神社を参拝し
ていますが、これは兄の晋三氏の代りの参拝ということをいう人
もいます。
 岸信夫防衛相の人事について、テレビ朝日のコメンテーターで
ある後藤健次氏は、次のようにコメントしています。
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 安倍氏は、辞任を控えて防衛政策関連の談話を発表するなど意
欲を見せており、菅首相としては、岸氏を防衛相に起用すること
によって、「敵地攻撃能力」など安倍氏が完遂できなかった政策
を最後まで成し遂げるというメッセージを安倍氏に伝えようとし
たのではないか。              ──後藤健次氏
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 一方、これは、安倍前首相から米国に対するメッセージという
見方もあります。この人事は、菅首相と安倍氏が予め示し合わせ
た人事ではないかという見方です。そういえば、閣僚人事におい
て、河野防衛相が変わることは、早い時期からアナウンスされて
いたのです。最初から変わることが決まっていたようです。20
17年8月に外相、2年で防衛相に横滑りし、さらに1年で行革
担当相に就任とは、あまりにも慌ただしいです。
 恵泉女学園大学の李泳采(イ・ヨンチェ)教授は、この人事は
米国へのメッセージとして解釈し、次のように述べています。
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 米国は短期間に終わる可能性がある菅義偉体制にまだ信頼を持
てずにいるが、岸氏を防衛相に据えたことは、安倍氏の下の日本
の安全保障路線、強力な日米同盟を継承していくというメッセー
ジとみることができる。       https://bit.ly/2H2i0cc
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 なぜ、岸信夫氏の防衛相就任が、強力な日米同盟を継承してい
くという米国へのメッセージになるのでしょうか。これを理解す
るには、岸信夫氏という人物について、もっと詳しく知る必要が
あります。これについては、中国最大の国際紙『環球時報』が、
9月17日付で、岸防衛相に関する長文の記事を発表しているの
で、その肝心な部分を次に示すことにします。
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 岸信夫は、2つの点において注目に値する。第1に、岸信夫は
日本の政界において著名な「親台派」である。現在まで岸信夫は
日本の国会議員の親台団体である「日華議員懇談会」の幹事長を
務めている。第2に、岸信夫は何度も靖国神社を参拝している。
2013年10月19日、岸信夫は靖国神社を参拝したが、これ
は兄(安倍首相)の代理で参拝したと見られている。安倍晋三本
人も、2013年12月26日に参拝している。
       ──2020年9月17日付、『環球時報』より
                  https://bit.ly/33EPo0r ─────────────────────────────
 中国政府は、台湾の政治家、李登輝元総統、陳水扁元総統、蔡
英文現総統の3人を「民族の3逆賊」と呼んで警戒していますが
岸信夫防衛相は、少なくともその「民族の3逆賊」の2人と親友
なのです。李登輝氏とは長年にわたって親交があり、8月9日に
は森喜朗元首相とともに、李元総統の弔問のため、台北を訪れて
います。そのさい、蔡英文総統にも面会しているのです。なお、
蔡総統に関しては、総統就任直前の2015年10月に日本に招
待し、自分と安倍首相の故郷である山口県下関市まで、わざわざ
案内しているのです。
 この李元総統の弔問に、米国がまたしても高官を派遣し、中国
を揺さぶっています。9月16日の台北共同の記事です。
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【ワシントン、台北共同】米国務省は16日、19日に行われる
台湾の李登輝元総統の告別式に参列するために、クラック国務次
官を派遣すると発表した。次官は長官、副長官に次ぐポスト。中
国側は米高官の訪台に反発しており、台湾を巡る情勢が一層緊迫
化する恐れがある。
 トランプ政権は8月にもアザー厚生長官を訪台させたばかり。
中国が軍事・外交両面で台湾への圧力を強める中、相次ぐ高官派
遣によって、台湾を支援する姿勢を強調する狙いがあるとみられ
る。台湾外交部は、クラック氏が蔡英文総統との会談も行うと発
表。1979年の米国との断交以降で最高位の訪台とし「心から
の歓迎」を表明した。        https://bit.ly/3mtAbI7
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 しかし、中国政府は、岸防衛相を警戒しつつも、菅新政権を歓
迎しています。それは、二階幹事長が留任しているからです。
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 菅義偉新首相が誕生しそうだということよりも、その際に二階
俊博幹事長が留任するだろうことが大きい。極論すれば、日本の
次の首相が誰になろうと、二階幹事長さえ留任してくれればよい
のだ。二階幹事長は、日本政界の親中派筆頭で、わが王毅国務委
員兼外交部長(外相)も、二階幹事長と会った時だけは、まるで
旧友と再会した時のように両手を差し出し、相好を崩すほどだ。
習近平国家主席にも面会してもらっている。
                  https://bit.ly/35JVoaX ─────────────────────────────
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/078]

≪画像および関連情報≫
 ●菅新総裁誕生/中国の反応は?
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  ◆千々岩森生中国総局長の報告です。
   中国政府が最も警戒しているのは、トランプ政権が菅新総
  理に、中国と手を切れと圧力をかけてきた時に、菅新総理が
  今の日中関係を維持してくれるのか、それができるのか、こ
  こに最大の焦点が絞られています。早速、中国外務省は菅新
  総裁の誕生を受けて、「引き続き、日中関係の改善を進めた
  い」というメッセージを出しました。これは、中国の本音と
  言えます。
   実は、安倍総理の辞任会見の直後から、中国側の関係者か
  ら私のようなところにまで、「次の日本総理大臣は誰になる
  か」、「日本の外交路線は変わるのか」といった“探り”と
  言ったら言葉が悪いですが、そうした連絡が何度も入ってき
  ました。中国側が、日本の動向に敏感になっているというこ
  とを肌で感じます。
   菅さんは、中国に対して基本的にタフで、それを中国側も
  わかっています。しかし、“実務型”で、ウィンウィンの関
  係を目指していける相手ではないかということで、基本的に
  いま、中国政府は、菅新政権の誕生を歓迎しているというこ
  とです。            https://bit.ly/2HavPpd
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岸信夫防衛相.jpg
 
岸信夫防衛相
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(1) | 『コロナ』後の世界の変貌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする