中国は、日本についても同様の工作をやってきています。その工
作の日本での浸透度はどうなのでしょうか。
2020年7月23日のことですが、米国の有力なシンクタン
クの一つであるCSIS(戦略国際問題研究所)から次のレポー
トが発刊されたのです。
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デヴィン・スチュワート著
『日本における中国の影響』/China's Influence in Japan
──CSIS
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結論からいうと、中国による日本への工作は、あまり成功して
いるとはいえないというのです。このレポートに関して、情報戦
略アナリストの山岡鉄秀氏は、次のように述べています。
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このレポートが話題になったのは、日本における親中派を名指
しで挙げたからだ。特に、自民党の二階幹事長と官邸の今井尚哉
首相補佐官が「二階・今井派」と呼ばれる親中派グループを形成
し、安倍政権の対中政策の軟化に影響力を行使したと、はっきり
書いてあったのは衝撃的だった。(中略)
その二階幹事長が対中援助であるODAの擁護者であること、
二階派に属する秋元司議員が、精華紫光集団を大株主に持つ「5
00ドット・コム」というオンラインカジノの会社から370万
円の賄賂をもらって逮捕されたことにも触れている。この部分が
集中的に紹介されると、いかにも日本における中国の浸透工作が
相当深いレベルにまで達しているという印象を受ける。しかし、
このレポートの副題が、
「Everywhere Yet Nowhere in Particular」(そこら中にある
ようでいて、特定の場所はない)とあるように、全体としては日
本に対する中国の浸透工作は成功していないというのが、結論と
なっているのである。
──山岡鉄秀の突撃レポート「右から右へ進路を取れ!」
『月刊Haneda』 /10月秋桜号
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つまり、微妙な言い回しですが、日本では、オーストラリアで
見られるような中国化は起きていないと、デヴィン・スチュワー
ト氏は述べているのです。「東洋経済」のサイトでは、このレポ
ートについて、日本固有の事由と他国でも模倣できる事由がある
として、次のことを上げています。
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≪日本固有の事由/閉ざされた民主主義≫
1.中国との長い紛争の歴史で培われた警戒
2.日本の経済・文化的な孤立
3.国民の政治的無関心と実質的な単独政党制
4.厳しく統制されたメディア
≪他国も模倣できる事由≫
1.権力の行政府・官邸への集中
2.日本自身による対外PR攻勢
3.戦略分野への投資規制や外国人の政治献金の禁止といっ
た法整備 https://bit.ly/33kO8PL
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デヴィン・スチュワート氏は、2000年から2002年まで
経済産業省所管の経済産業研究所の副所長特別補佐を務め、デイ
リー読売の記者もしていた日本通ですが、日本を「閉ざされた民
主主義」と極め付けていることは違和感があります。
もうひとつ、日本が中国に関して警戒心を持つようになったの
は、天安門事件、尖閣問題を含む対日強硬策以来のことで、日中
国交正常化以降は、長期間にわたって友好な関係が続いていたの
です。それは世論調査の数字にもあらわれています。
日中国交正常化以降、1980年代は、「中国に親しみを感じ
る」は70%前後で推移しており、きわめて良好であったといえ
ます。しかし、1989年6月の天安門事件が起きると、「中国
に親しみを感じる」は大幅に減少し、52%まで大きく下落して
いるのです。
尖閣問題での中国の攻撃的姿勢が目立ち、中国の反日愛国主義
の高まりで、2010年の調査では「中国に親しみを感じる」は
20%まで下落し、「親しみを感じない」は78%にまで上昇し
現在に至っています。そういう意味で現在日本は、中国に対して
強い警戒心を抱くようになったのは確かです。それは警戒心から
恐れへと変化してきています。
しかし、日本で中国の工作が、浸透しつつあるものもあるので
す。そのひとつに「孔子学院」があります。米国では、これをス
パイと認定し、各国で閉鎖が相次いでいますが、日本では逆に増
加が続いているのです。
2005年に立命館大学で第1号がスタートしましたが、20
19年に山梨学院大学で15校目になっています。とくに早稲田
大学では、世界初の研究活動中心の孔子学院を北京大学との提携
で開設し、共同研究も行なっています。その結果、早稲田大学に
学ぶ全留学生の半分以上が中国人になっています。
仲はけっして悪くないのですが、つねに警戒していることにつ
いて、山岡鉄秀氏は次のように述べています。
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日本人は民族的均一性が高く、民主主義国家といえども比較的
閉ざされた社会であり、かつ、並外れて英語が下手なことが幸い
している。また、歴史的に隣国である中国との付き合いが長く、
「教師」であるとともに脅威でもあり続けたので、常に一定の警
戒感がある。 ──山岡鉄秀氏
『月刊Haneda』 /10月秋桜号
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──[『コロナ』後の世界の変貌/075]
≪画像および関連情報≫
●京都新聞社説:日米安保と中国「脅威」の実態を見極めよ
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これに対抗して、米国は軍艦船を南シナ海や台湾海峡に航
行させ、インド太平洋地域で潜水艦の動向を公表するなど、
中国へのけん制を一段と強めた。
日本周辺では、沖縄県・尖閣諸島周辺で中国海警局の船が
日本領海に侵入するなど、「平時とはいえない」(日本政府
関係者)状態が再び続いている。
日本は、米軍の打撃力に頼ることを前提に、日本施政下の
武力攻撃への対処を定めた安保条約第5条が尖閣にも適用さ
れることを繰り返し確認してきた。宮古島などへのミサイル
部隊配置や共同訓練など、中国を念頭にした自衛隊と米軍と
の一体化も加速させている。
すでに集団的自衛権行使を解禁して地理的な制約なしに米
軍の後方支援を可能にし、宇宙作戦隊創設などで宇宙やサイ
バーにも協力分野を広げた。その対象は憲法解釈の変更など
「国のかたち」に関わる部分にまで深く入り込んでいる。中
国の存在が強大になるほど、米国との一体化はますます強ま
る。このままでは、米国への依存しか外交上の選択肢がなく
なることにならないだろうか。安倍晋三首相は、トランプ政
権との良好な関係を「最大の対中抑止力」と考えているよう
だ。だが、トランプ氏は安保条約を「不公平」と批判、米軍
駐留経費などの負担増を求めている。
https://bit.ly/2ZuOKS0
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二階幹事長と習近平国家主席