2020年09月15日

●「政治に巧みに入り込む女性工作員」(EJ第5330号)

 中国は、世界各国に在住する中国人華僑を利用して、その国を
コントロールしやすい社会に変える「僑務工作」の実験場として
オーストラリアを選んだのです。
 「僑務工作」というのは、華僑の組織を利用し、中国系の人材
を当選させ、あるいは、息のかかった中国系の人材を政府高官に
送り込む仕掛けのことです。なぜ、オーストラリアが実験場に選
ばれたのかというと、オーストラリアには中国の移民がたくさん
いたからです。
 どうしてオーストラリアに中国人の移民が多いかについては、
国家基本問題研究所(理事長:櫻井よしこ氏)主任研究員、湯浅
博氏が次のように説明しています。
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 実は、オーストラリアのボブ・ホーク首相(当時)は1989
年の天安門事件で、人民解放軍が学生たちを殺戮する残忍な映像
に衝撃を受け、国内に滞在する中国人の希望者に永住権を与える
決断をした。これにより、4万2000人が永住権を獲得し、の
ちに彼らの近親者1万人が新たな中国系移民になった。
 しかし、留学生とはいえ、実際には語学研修との建前で働きに
来た就労者が多く、民主化とは無縁の人々だった。そこに日をつ
けた北京は、彼らを母国に責献する債務工作のターゲットになる
と判断した。「僑務」のほとんどの活動は、共産党中央委員会の
下にある統一戦線工作部(中央統戦部)により実行され、共産党
が得意とする大衆動員の戦術を駆使する。
         ──国家基本問題研究所主任研究員湯浅博氏
              『月刊Haneda』 /10月秋桜号
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 ボブ・ホーク連邦首相は、1983年3月の第1次から、第4
次の1991年12月までの長期間、連邦首相を務めたビクトリ
ア州出身のオーストラリア労働党の大物議員です。
 僑務工作の中国からの工作員は、あらゆる手段を駆使して、政
治家の選挙事務所に潜り込むのです。昨日のEJでご紹介したア
ンドリューズ首相のケースで考えてみることにします。アンドリ
ューズ首相のケースでは、2人の若い中国人女性が深く関わって
います。
 その1人、ナンシー・ヤン氏という中国人女性──2003年
に留学生として来豪し、2006年にメルボルン・チャイニーズ
・ユース・ユナイテッド・アソシエーション(MCYUA)とい
う団体を設立し、2016年まで会長を務めています。この団体
は、中国共産党統一戦線工作部とつながっています。
 このナンシー・ヤン氏は、中国領事館でビザ発給の仕事をしな
がら、あらゆる手段を使って、2013年から、アンドリューズ
首相の事務所のスタッフに潜り込むのです。
 もう1人の中国人女性は、ジーン・ドン氏といい、2015年
に、ACBRIという企業を設立しています。ジーン・ドン氏は
アデレーデ大学で商業を学んだあと、大手会計事務所のPWCに
21歳で就職しています。そして、2011年、24歳のときに
ミス・チャイニーズ・コスモスという中華系女性が美を競うコン
テストで優勝しています。大変な美人なのです。これによって、
ジーン・ドン氏は、オーストラリア大物政治家とコネクションを
重ねて、アドリューズ首相と結びつきます。ここから、彼女は複
数のコンサルタント会社を設立するのですが、そのひとつがAC
BRIというコンサルタント会社です。
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   ◎ACBRI
    Australia-China Belt and Road Initiative
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 2020年5月、アンドリューズ首相の事務所が、この一帯一
路を推進するコンサルタント会社と契約し、3万6850ドルが
アドバイス料として支払われています。驚くべきことに、ジーン
・ドン氏のアドバイザーには、アンドリュー・ボブ元貿易相(外
相)が名を連ねています。
 このアンドリュー・ボブ元貿易相は、現在、中国企業「嵐橋集
団」に就職していますが、この「嵐橋集団」は、中国に有利な豪
中自由貿易協定を推し進め、ダーウィン港を99年間リースする
契約を勝ち取った企業なのです。
 もちろん、ジーン・ドン氏は、中国共産党の尖兵であり、バッ
クの力でここまで食い込んでいるのです。これについて、情報戦
略アナリストの山岡鉄秀氏は、ジーン・ドン氏について、次のよ
うに述べています。
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 いかに美人とはいえ、なぜ、ひとりのうら若き女性がここまで
の力を発揮しうるのか。その答えは自明の理だ。彼女は、サイレ
ント・インベージョンの美しき尖兵なのだろう。かくしてチャイ
ナマネーと中華系女性に絡めとられてしまったビクトリア州は、
サイレント・インページョンと戦う豪州の脇腹に突き付けられた
鋭い刃物となつている。
 このように、豪州の2大政党のひとつである労働党は完全に腐
敗し、サイレント・インページョンに深く侵されている。保守政
党である自由党も無傷ではない。中共の浸透工作は、オーストラ
リア市民となった現地の中華系人員を使って、地方から着実に食
い込んでくるのだ。             ──山岡鉄秀著
      「目に見えぬ侵略」で豪、州議会大物が家宅捜査」
              『月刊Haneda』 /10月秋桜号
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 このように考えると、どこかの政党が進めようとする道州制に
は大きなリスクがあります。中国共産党が国家を上げて、州を取
りに来た場合、連邦政府はそれを防ぐのは困難であるからです。
中国としては、オーストラリアや日本を米国から引き剥がそうと
しているのです。日本は大丈夫でしょうか。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/074]

≪画像および関連情報≫
 ●「新型コロナの真相調査を!」叫ぶオーストラリアに中国が
  ちらつかせる“制裁”
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   新型コロナウイルスの感染拡大をめぐり、中国とオースト
  ラリアの間に険悪なムードが漂う。新型コロナウイルスの起
  源を調べるための独立調査機関の設立を呼び掛けるオースト
  ラリアに対し、中国は経済的圧力をちらつかせて封じ込めを
  図っているためだ。ただ国際社会では中国の責任を問う声が
  日増しに強まり、包囲網の拡大に中国は危機感を募らせてい
  る。オーストラリアの公共放送ABCによると、ダットン豪
  内相は4月17日のテレビ番組でこう主張した。
   「米国は『新型コロナウイルスに特定の経路あるいは起源
  があることを示す証拠を持っている』と言っている」「何が
  起きたかを正確に理解して再発を防止するためにも、中国に
  はこうした(新型コロナウイルスに関する)疑問に答え、情
  報を提供する義務があると思う」
   さらにペイン外相も19日のABCの番組で「(中国の透
  明性への懸念が)非常に高まっている」と指摘したうえ、発
  生源▽どう対処したか▽世界保健機関(WHO)とどのよう
  なやり取りをしたか――などのすべてをテーブルに乗せて検
  証する必要があると訴えた。これに対し、中国が激しく反発
  した。外務省の耿爽副報道局長は20日の定例記者会見で、
  「ペイン外相の発言は事実に基づくものではない」と反発。
  駐豪大使館報道官は21日にウェブサイト上で「オーストラ
  リアの一部政治家は最近、中国を攻撃する米国側の主張をオ
  ウム返しのように述べている」と皮肉った。
                  https://bit.ly/33mJHE7
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ボブ・ホーク元オーストラリア連邦首相.jpg
ボブ・ホーク元オーストラリア連邦首相
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(1) | 『コロナ』後の世界の変貌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする