2020年09月07日

●「TSMCの誘致と情報窃盗を捜査」(EJ第5324号)

 4日のEJで示したトランプ政権4人の高官による中国向け演
説のリストに演説場所を加えて再現します。
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◎トランプ政権4人の高官による中国向け演説
 第1回:2020年6月24日/アリゾナ州フェニックス
     ロバート・オブライエン大統領安保問題担当補佐官
 第2回:2020年7月 7日/ハドソン研究所
     クリストファー・レイFBI長官
 第3回:2020年7月16日/フォード大統領博物館
     ウイリアム・バー司法長官
 第4回:2020年7月23日/ニクソン大統領記念図書館
     ポンペオ国務長官
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 これらの中国向けの演説の高官のメンバーを見ると、トランプ
政権が中国に対してどのように考えているかがわかってきます。
島田洋一福井県立大学教授のレポートを参考にして、以下に解説
をすることにします。
 連続演説を担当した4人の高官のなかに、司法長官とFBI長
官という法執行部門のトップが入っているのは注目すべきことで
す。司法長官は検察の総元締めであり、FBI長官は公安警察の
トップです。FBI(連邦捜査局)は、行政組織上は司法省の下
部組織であり、FBI長官は、司法長官の指揮監督を受ける立場
にあります。
 そうであるならば、司法長官が演説すれば、FBI長官の演説
は本来は必要ないはずですが、あえてFBI長官を加えたのは、
これらの司法カードを対中国締め付けの切り札にするという意思
を内外に知らせるためであると考えられます。中国共産党のスパ
イや協力者、制裁破りの企業の摘発を強化するぞというトランプ
政権の警告です。
 連続講演のトップは、ロバート・オブライエン大統領安保問題
担当補佐官です。場所は、アリゾナ州フェニックスです。実は演
説する場所にも重要な意味があります。オブライエン補佐官は、
演説の冒頭で、台湾のTSMC(台湾積体電路製造)を取り上げ
その新工場がアリゾナに出来ることを歓迎すると伝えています。
TSMCは、5月15日にアリゾナに大型工場新設計画を発表し
ています。TSMCは米商務省のガイドラインに従い、2020
年9月以降、ファーウェイ向けの新規半導体は出荷しないことを
明らかにしています。これについて、島田洋一教授は次のように
述べています。
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 トランプ政権は、台湾随一の戦略企業を露骨に中国から引きは
がし、同時に、露骨にアメリカに引き寄せた。それを象徴する場
所がアリゾナであったが、そこで、大統領の最側近たる安保補佐
官が、中共批判連続演説をスタートさせたわけである。オブライ
エンも、ポンペオ同様、「いわゆる『習近平思想』の学習を強要
し、・・・イデオロギーをコントロールしようという習近平の野
望は自国民の範囲に留まらない」と、独裁者を名指しで指弾して
いる。           『月刊Haneda』 /10月秋桜号
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 さらにオブライエン補佐官は、中国共産党による国際機関の乗
っ取りにも注意を喚起し、次のように述べています。
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 中国はいまや、15ある国連の専門機関のうち4つで、トップ
のポストを取っている。これは安保理の残りの常任理事国、米英
仏ロ4ヶ国が得ている数の合計よりも多い。中国はこれらの事務
局長を使って、中国政府の主張をオウム返しに発信させ、また中
国の通信機器を国際機関の諸施設に据え付けさせている。
    ──ロバート・オブライエン大統領安保問題担当補佐官
              『月刊Haneda』 /10月秋桜号
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 この国際機関の人事敗北は、これまでの民主党政権の責任であ
るという意味合いもあるといえます。
 連続演説の二番手は、クリストファー・レイFBI長官です。
演説した場所は、ワシントンの保守系シンクタンク、ハドソン研
究所です。ペンス副大統領の演説もここで行なわれています。
 演説の冒頭でレイ長官は、中国はアメリカ人の個人データを盗
んでいると警告を発し、次のように述べています。
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 2017年に中国軍が(米大手信用情報会社の)エクィファッ
クスにハッキングを仕掛け、米国民1億5千万人の個人情報を盗
み取った。アメリカの全人口の約半分を意味し、大人のほとんど
はデータを取られたことになる。現在FBIは、10時間に1件
の割合で中国がらみの防諜事案の捜査を始める状態にある。全米
で、捜査中の5千件の事案のうち、ほぼ半数が中国に関連してい
る。さらに、捜査中の中国関連事案のうち、1千件以上がテクノ
ロジーの窃盗に関連しており、過去10年間に中国による経済ス
パイ事件は13倍に増えている。
            ──クリストファー・レイFBI長官
              『月刊Haneda』 /10月秋桜号
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 FBIには、各方面から膨大な量の捜査の依頼があります。し
かし、人員には限りがあるので、優先順位を決めざるを得なくな
ります。どの捜査を優先するかは、FBI長官に権限があります
が、国家安全保障に関しては、トランプ大統領の意思が司法長官
を通じてFBIに伝えられており、現在では「中国案件」を最優
先に取り上げることになっているといわれます。
 つまり、現在FBIは異例の中国シフトをひいており、中国ス
パイの摘発に乗り出しています。7月22日、この流れでヒュー
ストンの中国大使館が閉鎖されることになったのです。
         ──[『コロナ』後の世界の変貌/068]

≪画像および関連情報≫
 ●米テキサスの中国総領事館閉鎖「知財窃取の一大拠点」
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   【ワシントン=永沢毅】米南部テキサス州ヒューストンに
  ある中国総領事館が、7月24日夕、閉鎖された。米国は報
  復措置をとらないよう要求したが、中国は対抗措置に動く方
  針。米中の応酬に歯止めがかかる兆しはない。
   米メディアによると、米国が求めた期限である、現地時間
  24日午後4時ごろまでに中国の館員は撤収したもようだ。
  館員がトラックで荷物を運び出す姿が目撃されたという。そ
  の後まもなく米政府当局者とみられる複数の人物が5階建て
  の建物に入った。
   米政府高官によると、総領事館は米国の知的財産を窃取す
  る一大拠点だった。米研究機関にいる中国人のスパイにどん
  な情報を盗むべきかを具体的に指示。米国の捜査の手から免
  れたり妨害したりする方法を手ほどきし、情報収集活動を支
  援していたという。
   香港の民主派活動家を批判する活動や、中国の反体制派を
  本国に強制送還するチームの滞在拠点にもなっていた。米政
  府高官は「これは氷山の一角だ」と指摘。「受忍できる限度
  をはるかに超えた。このまま放置すれば、より攻撃的になり
  かねなかった」と批判した。中国の蔡偉ヒューストン総領事
  は、24日、米の閉鎖命令は「国際法と国際関係の基本的な
  ルールに違反しており、関係を破壊しようとするものだ」と
  抗議する書簡を発表した。 https://s.nikkei.com/2F0e6Qi
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オブライエン補佐官/レイFBI長官.jpg
オブライエン補佐官/レイFBI長官

posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 『コロナ』後の世界の変貌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする